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2004年6月25日 「脳死」男性 孫の声でベッド上に起き上がり腕を差し出した
手術室で臓器摘出直前 「脳死」小児が自発呼吸を始めた
マーガレット・ロック著「Twice Dead」の日本語訳発売
2004年6月24日 岡山の透析患者 移植登録者は1割もない、検討中も8%
川崎医科大 臓器提供カード持たない患者を摘出目的で管理
入院107分後・家族面接前に移植コーディネーターに連絡
主治医、移植Coが摘出参加、死亡宣告5分後に心臓マッサージ
出口氏「臓器提供の不快感は日本人の専売特許ではない」
第15回日本サイコネフロロジー研究会
2004年6月23日 延命医療の不開始・中止のルール提示目指せ 町野座長ら
厚労省が終末期医療ガイドライン研究班の年内設置を決定
人工呼吸器中止を強要、脳死を法制化する以上の悪影響
2004年6月19日 「移植しか助かる方法がない」はずの重症患者の1割は治療可能
国立循環器病センター 心臓移植登録78例うち心機能改善8例
2004年6月19日B 脳死判定対象の除外年齢 小児全体を判定対象外とすべき
13歳の臨床的脳死例が418日間生存 長野赤十字病院
2004年6月10日 1995年4月〜2003年12月末までに
心停止下献腎移植1279例、小児ドナー25名
8割は3徴候死宣告が不可能な人工呼吸器をつけたまま
温阻血30分以内95%は、3徴候死以前からの腎冷却か
2004年6月 7日 法的「脳死」移植レシピエントの死亡は累計13人
多剤耐性菌に気付くの遅れ 抗生物質変更前に肺炎
2004年6月 5日 昏睡状態とされていた時期に、患者は周りのことを知っていた
「脳低温療法で何人も経験している」 日本大学の林 成之氏

20040625

「脳死」男性 孫の声でベッド上に起き上がり腕を差し出した
手術室で臓器摘出直前 「脳死」小児が自発呼吸を始めた
マーガレット・ロック著「Twice Dead」の日本語訳発売

 マーガレット・ロック著「Twice Dead」の日本語訳「脳死と臓器移植の医療人類学」が、みすず書房から発行された。A5判、400ページ、5250円。医療人類学の手法で、日本と北米の風習や死生観を比較考察しつつ、脳死・臓器移植を重層的に論じている。

 1989年にカナダ出版協会の新聞に載っていた話として紹介しているのは、脳死宣告された患者がベッド上に起き上がったこと(p67)。オタワのある病院で、キュブルスキという79歳の男性が心臓の緊急手術を受け、その10週間後に脳死を宣告された。生命維持装置を外そうとした時。彼の2歳の孫が、病室の入り口から大きな声で彼を呼んだ。するとキュブルスキはベッドの上で起き上がり、孫に両腕を差し出した。この事件の1ヵ月後、キュブルスキは生きていただけではなく、非常に元気になっていた(巻末の参考文献はMontreal Gazette.1989.Two-Year-Old's Voice Woke Grandfather from Coma.January 22)。

 脳死判定された小児が、ドナーとして手術室に送られた後に自発呼吸をはじめたケースもある(p196〜p197)。マーガレット・ロックが面接した医師5名のうち1名が、研修医時代の経験として以下のように語った。

 「私たちには、移植用の臓器を確保しなければならないというプレッシャーがあったと思います。私たちは無呼吸テストを30秒間行いましたが、自発呼吸はみられませんでした。それで、私たちはその患者をドナーとして手術室に送りました。ところが、手術室で人工呼吸器が外されたとき、彼は呼吸しはじめたのです。私たちは、ICUに戻されてきた彼のケアに努めました。結局彼は、2ヵ月後に死亡したのですが、私たちは悪夢を見ているような気がしました。弁解の余地のないこの事件が起きたのは、脳死に関するはっきりしたガイドラインのなかった70年代初めのことです。私はいつも研修医たちにこの話をし、けっして性急に判定を下してはならないと注意しています。」

 

 現代の脳死判定についてマーガレット・ロックは、いくつかの大学病院ICUを取材した結果からp200で「致命的な誤りが起こることは考えられない。脳死の判定基準は非常に慎重に考えられており、厳密に守られているのである。診断には複数の専門家が立会い、家族の存在も歯止めになるので、性急な判定が下されることはない。しかしICUの設備が不十分で、スタッフが十分な経験や技術を有していない場合には、間違いが起きる可能性が出てくる。また、臓器ブローカーや移植医が、不当なプレッシャーをかける場合もある。非常にうまくいっている合衆国でも、まわりをうろついている移植を追い払わなければならないことがあると述べている医師もいる」とした。

 マーガレット・ロック氏は上記のように、現代の脳死判定への信頼を書いたが、その観察力は極めて疑わしい。本書のp12〜に登場する地下鉄に轢かれ臓器提供した29歳男性には、9月15日0時42分に筋弛緩剤サクシニルコリン100mg、麻酔剤リドカイン100mg、プロパフォル200mgが投与されたが18時に脳死判定、16日6時30分に再度の判定が行われた。マーガレット・ロック氏は「筋弛緩剤・麻酔剤の影響下であり、脳死判定してはいけない患者ではないか?」との疑問は提示していない。

 神戸大医学部附属病院の副院長の鶴田 早苗氏は、「脳死判定前から(脳不全患者の救命に反する)移植目的のドナー管理が常識、家族は舞台裏は知らない」と指摘している。マーガレット氏のいう「家族の存在」は歯止めにならない。

 日本人の腎臓移植医にも取材しており、その移植医は「腎臓の摘出を行う時はいつも麻酔を用います。そうすると、摘出するあいだ臓器を最高の状態にたもつことができるからです。問題は、日本の麻酔科医が臓器提供には手を貸してくれないことです」と述べた。1997年の臓器移植法の制定にともない、日本麻酔科学会は「脳死体からの臓器移植に関する指針」http://www.anesth.or.jp/dbps_data/_material_/localhost/safety/pdf/guideline_transplant.pdfを定め、麻酔科医に対して臓器摘出に対する協力を要請している。従って、上記の腎臓摘出時の投与は「心停止後の死後の臓器提供」についてのこととみられる。マーガレット・ロック氏は、血液循環がなければ麻酔も効かない!というごく基本的なことに気付いていない。

 本書は、p5で「日本では・・・臓器移植のほとんどは腎臓の移植である。腎臓については『死体』から摘出したものも用いられる。・・・この『死体』の心臓は完全に停止している。毎年150−250件の腎臓移植は、心拍が停止した死体から摘出された腎臓を用いて行われていた。(これは公に公表された数字であるが、この中には脳死体の腎臓を用いたケースも何例か含まれているはずである。)」と、日本の臓器摘出事情の調査も不十分だ。


 正確な記録下とみられる、心静止後の自然蘇生例も報告している(p47〜p49)。外科医のリチャード・セルツァーは、自身がICU入室の23日目に心停止した。蘇生措置が施されたが、4分半経っても心電図はフラットなまま、脈も血圧もなく死亡宣告され、カルテに死亡時刻が記入された。そして10分後には硬直が認められたが、不意に体が震動して吸気が始まった。心電図に波形が戻り、規則的な呼吸がはじまった(巻末の参考文献はSelzer, Richard A.1993.Raising the Dead: A Doctor's Encounter with His Own Mortality . New York:Viking.)。

 


20040624

岡山の透析患者 移植登録者は1割もない、検討中も8%
川崎医科大 臓器提供カード持たない患者を摘出目的で管理
入院107分後・家族面接前に移植コーディネーターに連絡
主治医、移植Coが摘出参加、死亡宣告5分後に心臓マッサージ
出口氏「臓器提供の不快感は日本人の専売特許ではない」
第15回日本サイコネフロロジー研究会
 

 第15回日本サイコネフロロジー研究会が6月24日、岡山コンベンションセンター(岡山市)にて開催された。

 シンポジウム1「医療者間連携――透析と移植」において、総合病院岡山赤十字病院MSWの竹本 与志人氏は2002年に岡山県下の透析患者とその家族に郵送調査した結果を発表。透析患者(回答1,091名・回答率64.0%)で腎移植登録者は1割にも満たなかった。未登録の理由は「現在、検討中」8.2%、「登録する気持ちがない」30.0%、「腎移植に不安がある」28.2%、「今の状態に満足している」16.8%だった。腎移植未登録者が登録者に比較して、透析後に体の調子が良くなったと回答していることがわかった。

 

 シンポジウム2「ドナー家族――希望と葛藤」において川崎医科大学の鈴木 幸一郎(救急医学)、丸橋 民子(附属病院高度救命救急センター・看護師)、安田 和弘(岡山県臓器バンク・移植コーディネーター)の3名は2例の「心停止」下腎提供の経験を報告した。

 「救急医にとって最大の悩みは、救命を最優先にして治療してきた者が、ある時点を境に、移植のための臓器摘出に向けた診療に気持ちを切り替えることができるのかどうかというものであった」という。

症例2 56歳男性の入院後経過

09:25 ドクターヘリにて搬入
11:12 救急医より移植Coに連絡
14:30 家族面接「全臓器を提供したい」

06:20 患者状態急変、摘出チーム召集、機材・薬剤準備
06:27 家族看取り
06:33 心停止、死亡宣告
06:36 ヘパリン1万単位投与
06:38 心臓マッサージ
06:40 カニュレーション開始(救急医、看護師、Coで対応)
06:48 摘出チーム到着
06:54 体内灌流開始
07:30 手術室へ移動
07:53 腎臓摘出術開始
09:10 腎臓摘出終了
09:43 眼球摘出終了

 当Web注:症例1・重症クモ膜下出血の68歳男性の経過図によると、第2病日に再破裂し収縮期血圧が150mmHg程度から90mmHg程度に急降下、その後160mmHg程度に急上昇した。経過の最後は血圧が160mmHg程度から急降下して0となっている。臓器提供カードは持っていない。

 症例2・右急性硬膜下血腫の56歳男性の入院後経過概略は右記。入院の1時間47分後に救急医が移植コーディネーターに連絡、死亡宣告5分後に心臓マッサージ 、主治医、移植Coがカニュレーションなどを行った。
 

 

 このほか島根大学法文学部社会システム学科教授の出口 顯氏が「ドナー側のためらい、レシピアント側のとまどい――臓器移植と比較文化論」と題して特別講演。

 「スウェーデンの心理学者Margareta Sannerが調査した高校生1,447人のうち、72%が臓器提供になんらかの不快感を抱いていた。死体を切り刻むことに対する不快感(39%)、自分の臓器が他人の体の中で生き続けることに対する不快感(32%)、死者に対する侮辱ではないかという恐れ(19%)、死者が実は死んでいないのではないかという恐れ(17%)、復活に否定的な影響を与えるのではないかという恐れ(11%)と続く。遺体に傷をつけるのをいやがるのは日本人の専売特許ではないのだ」と述べた。

出典:臨床透析21巻6号p739〜p764

 


20040623

延命医療の不開始・中止のルール提示目指せ 町野座長ら
厚労省が終末期医療ガイドライン研究班の年内設置を決定
人工呼吸器中止を強要、脳死を法制化する以上の悪影響

 厚生労働省の終末期医療に関する調査等検討会(座長:町野 朔 上智大学法学研究科教授)は23日、延命治療の不開始および中止の具体的手順を示すガイドラインを専門医学会が作るべきだとする報告書をまとめた。

 これを受け、厚労省は「終末期医療における望ましい医療のあり方に関するガイドライン」を作成する研究班を、年内にも設置することを決めた。作成には数年かかる見通し。日本医事新報7月10日付(p73)によると、研究班は関連する学会(日本緩和医療学会、日本療養病床協会、日本老年医学会)や医療機関、医師会などの代表で構成する。ガイドラインは、痛みを伴なうガン末期患者、治る見込みのない持続的植物状態患者、長期療養生活を送った高齢者の末期、を想定している。

 終末期医療に関する調査等検討会報告書−今後の終末期医療の在り方についてによると、昨年、一般国民、医師、看護職員、介護施設職員の計13,794人を対象に意識調査(回収率50.7%)をした結果、(P16〜P17)自分が治る見込みのない持続的植物状態の患者になった場合、単なる延命医療について、「やめたほうがよい」、または「やめるべきである」と回答した者が多く(一般国民80%、医師85%、看護職員87%、介護施設職員介84%)、その多くは、単なる延命医療を中止するとき、「人工呼吸器等生命の維持のために特別に用いられる治療は中止して良いが、それ以外の治療(床ずれや喀痰吸引等)は続ける」と回答した(一般国民53%、医師62%、看護職員71%、介護施設職員65%)が、「一切の治療を中止してよい」とするものも少なくなかった(一般国民28%、医師22%、看護職員14%、介護施設職員18%)。

 

 「治る見込みのない持続的植物状態」とされる患者のなかにも、医師の診断とは異なり自然に回復した患者治療可能な患者が多数存在している。また看護師による回復の報告が多く、家族の観察によると、約4割の患者は周囲に対する理解・認知がある

 「持続的植物状態患者の終末期医療の不開始・中止に関するガイドライン」を、上記の「人工呼吸器等は中止して良い」という多数派(53%〜71%)の意見を根拠として作成すれば、最重症の脳不全・「脳死」患者だけでなく軽症患者の治療打ち切りも可能となる。広範な疾患・重症度の患者を対象に蘇生限界点を一方的に定め、法律で「脳死は人の死、脳死判定は拒否できない」と定める以上の効果を医療現場で発揮する恐れが大きい。

 


20040619

「移植しか助かる方法がない」はずの重症患者の1割は治療可能
国立循環器病センター 心臓移植登録78例うち心機能改善8例

 進歩する心臓研究XXIV1号は、【わが国の心臓移植の現況と問題点】を特集した。

 国立循環器病センター研究所 循環動態機能部の駒村 和雄氏らはp14〜p22の「内科医の立場からみたわが国の心臓移植 術前管理を中心に」で、「当院心臓移植適応検討会を通じて、累計で78例が日本臓器移植ネットワークに登録された」という。

 p18に表7.国立循環器病センターにおける移植もしくは登録取り消し症例 を掲載している。登録取り消し例(心機能改善)は計8例。内訳は下記。

  • LVAS(補助人工心臓)施行後:3
  • 左室部分切除後:1
  • カテコラミン投与後:1
  • 成長ホルモン投与後:2
  • 辞退:1

注:この論文の主旨は、術前管理および待機中の死亡、渡航移植などから臓器移植の推進を求める内容。

 


20040619B

 脳死判定対象の除外年齢 小児全体を判定対象外とすべき
13歳の臨床的脳死例が418日間生存 長野赤十字病院

 6月19日、第44回新潟脳神経外科懇話会が朱鷺メッセを会場に開催。長野赤十字病院の斉藤 隆史氏らは“臨床的脳死判定後418日間生存した13才小児例”を報告して「脳死判定における除外年齢は医学的観点から6歳未満とされているが、脳死期間418日を記録した13歳小児例を経験し、除外年齢の引き上げが必要と思われる」と述べた。 以下は新潟医学会雑誌第119巻第2号p133〜p134より。

 この13歳女児は浴槽内で溺水状態で発見され救急搬送された。来院後に心拍再開。神経学的には深昏睡、両側瞳孔散大、対光反射、睫毛反射、OCR消失、四肢は逃避反応なし、背部に2度の熱傷を認めた。CTにて両側基底核部、後頭部に低酸素脳症による低吸収域を認め、胸部レントゲンにて急性呼吸促(窮) 迫症候群(ARDS) 所見を認めた。

 低体温療法を開始し、第3病日よりバルビタール療法も併用した。第8病日で平坦脳波となり、バルビタール療法中止、復温を開始した。第10と第11病日に臨床的脳死判定を行い、深昏睡、瞳孔固定、対光反射、毛様脊髄反射、睫毛反射、前庭反射、眼球頭反射、咽頭反射、咳反射はいずれも認めず、脳波は平坦であった。ARDSのため無呼吸テストは 行なわなかった。以上より臨床的脳死と診断した。

【脳死後経過】高カロリー輸液を145日間、通常の輸液を284日間行なった。血圧低下に対しカテコラミンの持続投与を173日間、尿崩症に対しピトレシンの持続投与を370日間行なった。ARDSとDIC(播種性血管内凝固症候群)に対する治療を行い、全経過429日にて腎機能障害で死亡された。

【結論】1984年、竹内基準が作成された当時とは異なり、近年小児では脳死期間の延長が期待される。6歳未満となっている除外年齢の引き上げが必要と思われる。

 

当Web注:臨床的脳死例では聖マリア病院で2〜22カ月歳児が908日間生存、奈良県立医科大学が脳血流なしと判定した0歳児が約820日間生存(後日、脳波が出現)、公立高畠病院は11歳児が2ヵ月後に脳波出現・9ヵ月後自発呼吸出現し生存中の症例を報告。脳死判定例では兵庫医科大学より11ヵ月児が312日間生存(身長も74cmから82cmに成長)、久留米大学救急センターは14歳児の100日間生存を報告している。小児のなかでも高年齢児の長期生存の報告は少ない。

 長野赤十字病院は第8病日まで中枢神経抑制剤バルビタールを投与し、その2日後に脳死判定をした。中枢神経抑制剤の投与終了から3日後に、脳組織内の薬物濃度が血中濃度の53倍もあったことが高知医科大学法医学教室より報告されている。中枢神経抑制剤の影響下にある患者を脳死判定の対象から除外すべきことについては、長野赤十字病院の判断も問われる。

 


20040610

1995年4月〜2003年12月末までに
心停止下献腎移植1279例、小児ドナー25名
8割は3徴候死宣告が不可能な人工呼吸器をつけたまま
温阻血30分以内95%は、3徴候死以前からの腎冷却か

 日本移植学会雑誌「移植」39巻3号はp359〜p374に「社団法人 日本臓器移植ネットワークからの報告」を掲載、同ネットワーク発足以降(1995年4月〜2003年12月末)の臓器提供統計などを報告した(http://www.jotnw.or.jp/datafile/news.htmlに同内容のPDFファイルあり)。

  • 小児移植の現状(腎臓移植)
    • 心臓停止後腎臓提供の小児ドナー件数=25件(95年2、96年6、97年7、98年4、99年1、00年2、01年1、02年1、03年1)
    • 小児ドナーの年齢=最年少者1歳、最年長者15歳、0〜5歳8名、6〜10歳9名、11〜15歳8名
    • 小児ドナーの死因=脳血管障害7件、頭部外傷7件、脳腫瘍5件、窒息4件(溺水2件、誤嚥2件)、呼吸器疾患2件
    • レシピエントの年齢(n=49)
      小児から小児へ=26名:0〜5歳2名、6〜10歳10名、11〜15歳14名
      小児から成人へ=23名:16〜20歳1名、21〜30歳4名、31〜40歳4名、41〜50歳8名、51〜60歳5名、61〜70歳1名
    • レシピエントの透析離脱率、生存率、移植腎生着率
      小児から小児へ=透析離脱88.5%、1年生存 92.3%、1年生着80.8%、7年生存92.3%、7年生着71.9%
      小児から成人へ=透析離脱82.6%、1年生存100.0%、1年生着69.6%、7年生存84.0%、7年生着63.2%

     

    以下は全年齢の心停止下献腎移植n=1279(1995年〜2003年)について

     

  • 温阻血時間30分以内は1214例、31分以上65例

当Web注:

  1. 日本腎臓移植ネットワーク News Letter No.2 1997年5月号は、1995年度156例の温阻血時間は30分以上が5.1%(8例)と報告しており、過去9年間同様の傾向だったことになる。
  2. 移植腎生着率は、31分以上群が1年後で約20%、7年後で15%前後低い。

 

  • レスピレーターオフあり280例、オフなし999例

当Web注:

  1. 1980年代とは異なり、近年の死体腎ドナーはすべて人工呼吸器を装着している。
  2. レスピレーターオフありが22%ということは、残る78%は人工呼吸器装着下に臓器を摘出したことを示す。呼吸停止という3徴候死ではない状態で臓器摘出した症例まで、「心停止下献腎」と報告している。
  3. レスピレーターオフありの生着率が高く、その差は約半年後に最大となるが、5年程度後にはほぼ同じになる。

 

  • カニュレーションあり876例、なし403例

当Web注:

  1. 移植用臓器摘出目的のカニュレーション(腎臓冷却液注入用の管挿入)や抗血栓剤ヘパリン投与などの、第3者目的で違法性が阻却されない行為は、ドナーの生前同意が不可欠であることが1997年の関西医大事件判決で確定している(カニュレーションは腎臓冷却液注入と同時に静脈を切断する手技の場合は、致死的行為となり「軽微な侵襲」ではない)。小児の場合は生前同意が無効であり、カニュレーション・ヘパリン投与などはできない。
  2. 移植腎生着率はカニュレーションありが高くが、7年後で約10%の差。

 

  • カニュレーションの有無/レスピレーター停止の有無
    1. カニュレーションあり/レスピレーターオフあり=227例
    2. カニュレーションあり/レスピレーターオフなし=649例
    3. カニュレーションなし/レスピレーターオフあり= 53例
    4. カニュレーションなし/レスピレーターオフなし=350例

当Web注:

  1. 人工呼吸器を外してから心停止までに平均で30数分かかる(ごく一部の患者は人工呼吸を受けながら、心停止が先行するかもしれないが)。そして死の3徴候の不可逆性の確認に形式的でも数分間かかる。その後、冷却灌流用のカテーテル挿入・灌流開始まで10〜20分間を要する。
     このため、3徴候死後に臓器摘出術を開始すると、血液循環の停止から腎臓の冷却開始までの時間を示す温阻血時間は50分以上になる(レスピレーターオフから心停止まで35分+3徴候死の形式的確認5分+カテーテル挿入から灌流開始10分=50分、手術室への搬送時間を加えると合計60分程度になる。

     レスピレーターオフから心停止まで温阻血時間に算入すべきか、また温阻血時間の範囲も論文の書かれた年代や施設により異なり、日本臓器移植ネットワークが各施設にどのような用語定義で報告を求めたかも不明だ。しかし心停止にいたる死戦期の低血圧状態では腎臓に血液が十分供給されないこと、また心マッサージ中の時間も温阻血時間に含めて報告する施設が多いことから、ここではレスピレーターオフから心停止までの時間も温阻血時間に含めて試算した)。

     レスピレーターオフなし999例のドナーに3徴候死の宣告は不可能だが、仮に死亡宣告まで5分程度の時間をかけたとすると下記の最短所要時間が予想される。

    • カニュレーションあり/レスピレーターオフなし=5分(649例)
    • カニュレーションなし/レスピレーターオフなし=15分(350例)
    • カニュレーションあり/レスピレーターオフあり=40分(227例)
    • カニュレーションなし/レスピレーターオフあり=50分(53例)

     温阻血時間が40分以上になるはずの「カニュレーションあり/レスピレーターオフあり」と「カニュレーションなし/レスピレーターオフあり」は合計280例だが、報告では温阻血時間31分以上は65例にすぎない。 このように温阻血時間30分以内が95%を占める理由は、ドナーの3徴候死以前に静脈を切断して冷却灌流液を腎臓に注入、または人工心肺で腎臓を冷却還流、または全身冷却などを行っているから。また呼吸停止の確認とは無関係に腎臓冷却を行っているからであろう。このような行為を法的脳死判定手続きなしに行う正当性について、報告は言及していない。
      

  2. 移植腎の7年生着率が最も高いのは1のカニュレーションあり/レスピレーターオフあり、以下2、4、3の順番に生着率が低くなる。

 


20040607

法的「脳死」移植レシピエントの死亡は累計13人
多剤耐性菌に気付くの遅れ 抗生物質変更前に肺炎

 河北新報および時事通信によると、法的脳死判定30例目ドナーからの両肺移植手術を今年5月20日に東北大病院(仙台市青葉区)で受けた50代の男性(山形県在住)が、肺水腫のため6月7日に死亡した。この男性レシピエントの原疾患は気管支拡張症。移植手術後に血圧などは安定していたが、数日後に肺静脈血栓症や肺炎などの合併症を発症。3度の再手術を受けたものの、敗血症に感染し肺水腫のため死亡した。

 「胸部外科」60巻11号(2007年10月号)p976〜p981には、東北大学医学部付属病院において肺移植後17日目に死亡した患者の事情が掲載されている。それによるとドナー痰培養で緑膿菌, MRSA, Aspergillus, Candidaが検出された。ドナーに対して広範囲スペクトラムの抗生物質・第4世代セファム系抗生物質CZOP(cefozopran)が9日間投与されていたにもかかわらず炎症反応がみられたため、レシピエントに対しては耐性菌や真菌を念頭において抗生物質・抗真菌薬(imipenem/cliastain, teicoplanin, clindamycin, micafungin)を投与した。しかし、移植2日目には肺炎が顕在化し急速に進行した。ドナー喀痰から検出された緑膿菌がカルパペネム耐性であることが判明した時点で抗生物質を変更したが、膿胸、肺静脈血栓症を合併し、移植後17日目に敗血症で死亡した。

 死亡していたことが対外的に判明したのは、6月10日になってから。法的脳死判定手続下の移植でレシピエントの死亡が判明したのは13例目(腎臓移植レシピエントの死亡は例外扱いで、死亡日も報道されていないため正確に13例目であるか否かは不明)。

 日本臓器移植ネットワークによると、脳死肺移植は17例行われ、死亡は今回が5人目。東北大病院では6例の移植が行われ死亡は3人目。

法的「脳死」移植レシピエントの死亡年月日、レシピエントの年齢(主に移植時)←提供者(年月)、臓器(移植施設名)は以下のとおり。 

  1. 2000年11月20日 47歳女性←bP0ドナー(20001105)  肝臓(京都大)
  2. 2001年 5月25日 10代女性←bP4ドナー(20010319)  肝臓(京都大)
  3. 2001年 9月11日  7歳女児←bP2ドナー(20010121)  小腸(京都大)
  4. 2001年12月11日 20代女性←bP8ドナー(20011103)  肝臓(北大)
  5. 2002年 2月 3日 43歳男性←bP1ドナー(20010108)  右肺(東北大)
  6. 2002年 3月20日 46歳女性←bP6ドナー(20010726)  右肺(大阪大)
  7. 2002年 6月10日 38歳女性←a@5ドナー(20000329)  右肺(東北大)
  8. 2002年 9月10日 20代男性←bQ1ドナー(20020830)  肝臓(京都大)
  9. 2002年12月 5日 20代女性←bQ2ドナー(20021110)  両肺(岡山大)
  10. 2004年 6月 7日 50代男性←bR0ドナー(20040520)   両肺(東北大)
  11. 死亡年月日不明   50代男性←a@5ドナー(20000329)  腎臓(千葉大)
  12. 死亡年月日不明   30代男性←bP4ドナー(20010319)  腎臓(大阪医科大)
  13. 死亡年月日不明   50代男性←bP6ドナー(20010726)  腎臓(奈良県立医科大)

 


20040605

昏睡状態とされていた時期に、患者は周りのことを知っていた
「脳低温療法で何人も経験している」 日本大学の林 成之氏

 日本脳死・脳蘇生学会機関誌「脳死・脳蘇生」16巻1号、p22〜31の「重症脳損傷患者の意識障害と植物症に対する新しい治療戦略」において、日本大学医学部(救急医学)の林 成之氏は、深昏睡とみなされている時でも、周囲の状況を認識している患者が多いことを報告した。

 遷延性意識障害患者の反応の評価が困難なことを述べ、続いてp23において「もっと困ることは、脳低温療法で、従来の管理法では助けることがほとんどできないと思われていた重症患者を、回復させてみると、患者は外からの刺激にまったく反応しない昏睡状態の時期に、その時周りのことを知っていたと言う患者を何人も経験するようになった事である。はたしてこれを意識障害と言っていいのだろうか?」と書いている。

 

当Web注:脳死判定の前提条件にも、判定においても「深昏睡であること」の確認が求められる。脳死患者は「不可逆的昏睡状態の患者」とも称されている。

 


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