透析で22ヶ月間生存、移植23日後に死亡
85歳ドナーの生体腎移植も失敗
近畿大学医学部堺病院
透析療法で22ヶ月間生存していた63歳女性が、8月6日に夫(64歳)を生体ドナーとした腎臓移植を受け、23日後に死亡した。
死亡した63歳女性は、急性心筋梗塞に対して冠動脈バイパス手術を施行された既往があった。高度の心不全(駆出率33%)があり、維持透析中も血圧変動が大きく溢水状態だった。移植術中に外腸骨静脈を損傷し
て出血し、移植腎に血流障害があった。
心不全合併患者への腎臓移植は、輸液により移植後の心機能低下が予想されるが、移植直後の管理として持続血液ろ過透析を併用するなどは行わなかった。患者は、移植直後より、うっけつ性心不全が増悪して胸水著明となり、メチシリン耐性表皮ブドウ球菌肺炎(MRSA)を併発、急性呼吸促迫症候群(ARDS)にて死亡した。
第20回腎移植免疫研究会で、この症例を発表した近畿大学医学部堺病院泌尿器科の西岡 伯氏は、「駆出率33%というのは腎移植の適応ではありませんが、この方は週に4回ずっと透析をやっておられて、ご家族も『このままだと心臓病で命を失ってしまう、腎移植をすれば命が長らえるかもしれない』と、腎移植を強く希望されました。非常にチャレンジケースとして行ったというのが実情です」と報告した。
この症例も含めて、近畿大学および関連施設からは60歳以上の腎レシピエント6症例が提示され、63歳男性に移植された85歳の母親の腎臓が機能しなかったことも報告された。
藤田保健衛生大学泌尿器科の星長 清隆氏が「誠に申し上げにくいのですが、先生方はこの成績で、これからもチャレンジケースのような高齢ドナーの腎移植をお続けになるのでしょうか」と質問したところ、近畿大学医学部堺病院泌尿器科の秋山 隆弘氏は「このようなケースをつづけることは、今後はおそらくありません
。チャレンジケースを経験したという認識をしていただければと思っています」と答えた。西山氏も「この2例とも、腎移植を行っても非常に厳しいということを本人とご家族には何度も申し上げました。それにもかかわらず、非常に強い腎移植の意思があって、その熱意に負けた、というふうにご理解いただきたいと思います」と弁解した。
兵庫医科大学泌尿器科の野島 道生氏は、駆出率が50%台になれば腎移植も可能であるという評価ができますし、治療をしても30%台であれば、移植はやめるべきであるという判定になる。移植前に時間をかけてそういった治療を行う必要があると感じています」と語った。
出典=森 康範(市立貝塚病院泌尿器科)ほか:高齢者腎移植レシピエントの症例検討、今日の移植、22(3)、341−344、2009
法的脳死59例目 脳死判定対象外患者を脳死判定 無呼吸テスト29分間
検証会議 検視にふれず、血圧低下するも「血圧の低下はなく」と虚偽報告
2007年8月17日、東京医科大学八王子医療センターに入院中の男性が法的に59例目の脳死と判定され、18日に心臓、右肺、腎臓、膵臓が摘出された。
第59例目の脳死下での臓器提供事例に係る検証結果に関する報告書http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001ekhy-att/2r9852000001eklh.pdfによると、ドナーの受傷は2007年8月12日、ロードレース用の自転車で走行中に転倒していたところを発見された。来院時は呼びかけに発語あったが、頭部CTを施行直後に意識レベル低下、自発呼吸停止となった。搬入時に本人所持品から臓器提供意思表示カードを確認した。外傷性くも膜下出血および脳挫傷、手術の適応なしと診断、受傷日から脳低温療法、脳圧管理を開始。35℃前後の脳低温療法を約12時間施行したが、JCS
300、自発呼吸消失、両側瞳孔散大、両側の対光反射消失の状態が続き、脳低温療法は8月13日に終了。8月14日に頭蓋内圧が54mmHgに上昇し、尿崩症も認めた。8月16日に臨床的脳死診断、8月17日に法的脳死判定が行なわれた。
自転車の転倒が、ドナー候補者の不注意か故意か、第三者の関与の有無が臓器提供の可否に関わってくるが、検証会議はドナーの検視について、参考資料2に記載したのみで報告書本文ではふれていない。
報告書は、「気管内挿管の際にミダゾラム2mg、臭化ベクロニウム8mg、ブプレノルフィン塩酸塩
1アンプルが投与されたが、臨床的脳死診断までに約94時間を経過しており、脳死判定に影響はないと考えられる」としている。
しかし、脳死判定に影響する薬物の投与直後から脳低温療法を開始しており、肝臓・腎臓の機能が低下して薬物は分解されず、体内から排出されない可能性がある。8月14日に頭蓋内圧が54mmHgに上昇しており、血流低下で脳に薬物が滞留した可能性もある。守屋氏は、臨床的脳死状態で塩酸エフェドリンを投与された患者が約72時間後に心停止し、解剖して各組織における薬物濃度を測定したところ、心臓血における濃度よりも53倍
(3.35μg)の塩酸エフェドリンが大脳に検出されたことを報告している。
法的脳死判定、第1回無呼吸テスト開始時に血圧:123/82mmHgだったが、無呼吸テスト終了時に100/53mmHgに低下した。無呼吸テストは、脳死判定に必要とされる動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)が60mmHgまで達するのに27分間かかり、29分間の長時間のテストとなった。第2回無呼吸テスト開始時に血圧:97/63mmHgだったが、終了時82/34mmHgに低下した。2回目は、無呼吸テストは15分間行なった。
報告書は「2回とも必要とされるPaCO2のレベルを得てテストを終了している。第1回目の法的脳死判定時の無呼吸テストにおいて、24分後までのPaCO2、PaO2、血圧等の記載が見られない。これに関しては当該施設関係者により無呼吸テスト24分間のPaCO2が60mmHg以下であったことが確認されており、この間、PaO2や血圧の低下はなく、不整脈なども認められなかったことから、無呼吸テストをPaCO2が60mmHg以上となるまで継続したことは妥当である」としている。血圧が下がっているのに「この間、(中略)血圧の低下はなく」と、虚偽の記載をした。法的脳死判定マニュアルは、脳死判定開始時の収縮期血圧は90mmHg以上であることを規定しており、2回目の無呼吸テスト終了時に82/34mmHgまで低下したことの影響を検討していない。
レシピエントの選択においては、右肺のみ23候補者になってレシピエントが決定した。左肺を移植用に斡旋した是非について、この報告書には記載されていない。肝臓も9人の候補者のうち6人がドナーの医学的理由により辞退したが、ドナーの肝臓の状態についての記載がない。右腎臓については、「第1候補者は生体腎移植済みであることが判明した」。移植待機患者情報の更新が不適切なことを、報告書は指摘していない。
南魚沼市立ゆきぐに大和病院 宮永院長が妄言
「脳死判定可能な認知症患者は、どのように扱われるべきか
遷延性意識障害患者とともに検討されるべき大きな課題」
南魚沼市立ゆきぐに大和病院の宮永 和夫院長は、「認知症の進行した時期を見ると脳死基準に当てはまる。脳死と判定し、他に臓器移植を試みるべきなのだろうか」等の文章を、医学書院発行の「訪問看護と介護」12巻9号掲載「ターミナルケアの判断は誰が、いつ行なうのか 認知症の人への支援をめぐって(p728〜p737)」のなかで発表した。
宮永氏は“認知症患者のターミナルとは”の段落では、以下の枠内を書いた。
そもそもターミナル(終末期)の意味や定義は、認知症に適応できるのだろうか。通常の疾患のターミナルとは、「死があまり遠くない将来に確実に迫ってくる時期」を意味する。これは四肢拘縮や嚥下障害などの高度のADL障害、あるいは心臓、肝臓、腎臓などの高度の内部障害の場合が当てはまる。
しかし、認知症は軽度、中等度、重度と区分する。これはADLの自立と介護の程度で見ているが、脳機能の中の判断力や理解力などが認知障害の程度と関連するのであり、四肢の拘縮や内部障害が伴わないことが多い。つまり認知症の程度を認知機能の障害の程度で見る限り、他の疾患と類似する点はなく、比較することは無意味である。
では認知症のターミナルとは、どのような状態をさしていうのだろうか。
結論からいうと認知症のターミナルの定義は見あたらず、それは今後検討すべき大きなテーマであるといえる。ただし漠然とではあるが、やはり認知機能の重度障害、いわゆる記憶、感情、欲動面のすべてを含む高度障害ないし荒廃状態とイメージされる。参考までに、表2に各種評価スケールの最重度の状態を示した。
表2 認知症のターミナルの概要
評価
スケール |
ステージ |
状態 |
CDR |
CDR5 |
@応答なく、理解力もない、A周囲を認識することもない、B食事は全介助あるいは経管栄養で嚥下障害があることもある、C寝たきりで座ることができない、D拘縮が見られる |
FAST |
非常に高度の
認知機能低下 |
@最大限約6語に限定された言語機能低下、A理解しうる語彙はただ一つの単語、B歩行能力の喪失、C着座能力の喪失、D笑う能力の喪失、E昏迷および昏睡 |
NM
スケール |
0点 |
@家事・身辺整理不能、A無関心、交流全くなし、B呼びかけに無反応、C記銘・記憶不能、D見当識全くなし |
認知症は、記憶障害が中心症状である疾患(アルツハイマー病や血管性認知症など)と、病識や判断能力が最初に低下し、記憶障害は比較的後期まで保たれる前頭葉症状中心の疾患(前頭側頭型認知症やアルコール性認知症など)に区分される。一般に、アルツハイマー病の頻度が高いため、記憶を中心に認知症の程度を評価することに慣れてしまうと、記憶障害が目立たない前頭側頭型認知症などの疾患は、ターミナルの時期を逸してしまうかもしれない。やはり、記憶、感情、欲動の3面の障害を総合的に評価して、ターミナルとすべきであろう。そのためにはADLでなく、CDRやFASTなどが活用されるべきかもしれない。どのレベルからターミナルとするか、今後、各分野からの意見の集約が必要であると思う。 |
“延命措置はとるべきか、医療と位置づけるべき範囲とは”の段落では、認知症患者・家族に対する「病状悪化時の治療方針」説明書を示した。また、「延命措置として、人工呼吸器の装着は明確に治療であると定義できる。しかし、水分と栄養の補給は、治療か否かがあいまいである」として、経管栄養や点滴は医師の裁量範囲とした(人工呼吸器の装着は「論外」との主旨か?)。そして「家族の判断はすべて正しい」のかと太字で書き、オーストラリア・ビクトリア州のメディカルトリートメント法などを示し、「是非、日本にも表4のような法律が制定され、医師の裁量権が拡大し、家族とほぼ同等の権利を主張できるようになることを望みたい」とした。
“死およびその後”の段落では、以下の枠内が書いてある。
(前略)現在の医療現場では、医師は忙しいという口実の元に死を考えずに終末期医療を行い、本人や家族と共に死の前段階をどうするか議論する機会を持たない。その代わりに、早急に対応しないとこの緊急事態は乗り越えられないとの判断をくだして、将来を考えないその場しのぎで延命医療(気管切開や胃ろう設置)を行っている状況だ。
●脳死は死か
一時期、脳死の診断基準について議論があった。日本の場合、脳死の判定基準により脳死判定されるが、認知症の進行した時期を見ると脳死基準に当てはまる。その状況になった場合、どのように対処されるのだろうか。脳死と判定し、他に臓器移植を試みるべきなのだろうか。このようなことは、実際には起きていない。では、脳死と判定し、それ以降の医療的処置を中止すべきなのだろうか。このことも実際には起きていないと思われる。
では、脳死判定可能な認知症患者はその後、どのように扱われるべきなのだろうか。これは遷延性意識障害患者とともに近々検討されるべき大きな課題である。(後略) |
当Web注
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宮永氏が紹介している3種類の評価スケールの最重度の状態において、いずれにも「脳死判定基準を満たす」はない。認知症が原因となり、認知症の病状が悪化しただけで脳死判定基準を満たした患者の報告はないのではないか?
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宮永氏は“延命措置はとるべきか、医療と位置づけるべき範囲とは”の段落で示唆しているように、認知症患者への治療目的の人工呼吸器装着は否定的とみられる。人工呼吸器を装着しない患者は、脳死判定基準を満たさない。
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宮永氏が“脳死は死か”の小段落で遷延性意識障害患者について言及していることからも、宮永氏は「認知機能の重度障害は、終末期医療の対象とすべき。外見上から記憶・感情・欲動が大幅に障害されている患者は、すべて脳死になっている」という誤った判断をしている可能性が高い。
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東京女子医大の横山 正義氏のように人工呼吸器さえも装着していないのに脳死判定し、意識障害が改善されたのに「脳死診断は正しかった」と公言する医師も散見される。
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認知症患者が、脳血管障害などを発症して人工呼吸器を装着した場合、脳死判定基準を満たす状態になることはありうる。あるいは認知症患者の病状が悪化して心臓の拍動や呼吸
が停止した時に、心肺停止への対応が遅れて人工呼吸器を装着した場合も、脳死判定基準を満たす状態になることがありうる。宮永氏自身「将来を考えないその場しのぎで延命医療(気管切開や胃ろう設置)を行っている状況だ」と書いている。
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この宮永氏の文章は「認知症患者に対する、将来を考えないその場しのぎで人工呼吸器を装着した(心肺停止への対応の遅れも?)経験」と「意識障害者全般に対する優生思想」を混交した、書き分けるべきことを書き分けなかった文章と思われる。
法的「脳死」臓器移植レシピエントの死亡は累計33人
福岡大学病院の肺移植患者は推定予後2年として移植
原病を再発、リンパ腫が全身転移、移植8ヵ月後に死亡
日本臓器移植ネットワークは8月10日更新のホームページ内脳死
臓器移植Data Fileにおいて、肺移植を受けた患者がさらに2名死亡していることを表示した。法的脳死判定手続下の臓器移植でレシピエントの死亡が判明したのは33例目。
下記枠内の資料(要旨)のうち、宗像報告は脳死肺移植患者の死亡について記載している。2006年10月28日の移植
から8ヶ月後の死亡であることから、今回の肺移植死亡患者のうちの1人とみられる。
末梢血幹細胞移植により閉塞性細気管支炎を発症した患者に肺移植を行い、原病を再発した死亡例は世界初となる模様だ。
2007年6月発行の福岡大学医学紀要34巻2号に掲載の白石論文は、この脳死肺移植患者
の病歴・移植適応の理由について報告している。問題となる原疾患の治癒の確率は高いと見込んで移植に踏み切ったことが記載されている。同号掲載の白石氏の2番目の論文は、脳死肺移植から1ヵ月後に行われた福岡大学病院における1例目の生体肺移植を報告しているが、この移植患者も造血幹細胞移植により閉塞性細気管支炎を発症した患者だった。また「本例は報告されている幼児への生体一葉肺移植の最低年齢に相当」と実験的要素が大きい。
*宗像 光輝(福岡大学医学部外科学講座呼吸器外科部門):造血幹細胞移植後の閉塞性細気管支炎(BO)に対する肺移植:日本呼吸器外科学会雑誌、22
(3)、519、2008
血液疾患に対する治療で末梢血幹細胞移植が行われ、移植片対宿主反応として肺障害が発生することがある。典型的には閉塞性細気管支炎を発症し呼吸不全による死亡率は50%前後と考えられ、呼吸不全死回避のため肺移植が実施されることもあり、20数例の報告がある。肺移植実施には原疾患治癒の程度が問題となる。これまで同症に肺移植実施後の原病再発の報告はなかった。我々は、この病態に肺移植を2件実施した。このうち脳死肺移植を実施した症例で原病再発を経験した。
「症例」32歳男性、非Hodgkinリンパ腫に対し造血幹細胞移植を行った1年後に閉塞性細気管支炎を発症
。急激に閉塞性呼吸障害が進行、脳死肺移植登録後9ヵ月で臓器提供を受け左片肺移植を実施。
「術後経過」移植後2ヵ月でHJ-2まで向上し退院。術後5ヵ月頃より原因不明の微熱、頻脈が発生、CTで心嚢内に腫瘤の発生を認め、生検で非Hodgkinリンパ腫の再発が確認された。免疫抑制剤の減量・抗がん剤使用で対処したが、全身に転移して移植後8ヵ月で死亡した。
「考察」本症に肺移植を適応する場合、原疾患の治癒の治癒の程度をどのように判断するかが最も重要な点である。血液悪性疾患に対する造血幹細胞移植治療自体が実験的な範疇にある場合も多く、充分な判断材料を得られない場合がある。症例を積み重ね、再発の可能性が看過できない症例を見極めて肺移植対象から除外する努力が必要である
。
*白石 武史(福岡大学医学部外科学教室呼吸器・乳腺内分泌・小児外科部門肺移植チーム):福岡大学における第一例目の脳死肺移植、福岡大学医学紀要、34(2)、131−138、2007 http://www.adm.fukuoka-u.ac.jp/fu844/home2/Ronso/Igakubu/v34-2/v34-2-14.pdf
(前略)2006年10月28日未明に福島県で発生した脳死臓器提供者の肺が福岡大学病院より登録した一人の待機患者と適合することが明らかとなり、同日中に福岡大学第一例目の脳死左肺移植手術が実施された。本報告は福岡大学病院における臓器移植関連各科の総力を挙げて取り組み、成功裏に終わったこの脳死肺移植症例の治療経緯である。
症例
肺移植適応の理由に関する病歴
移植時32歳の男性。28歳時に原因不明の汎血球減少症および脾腫を来たし、脾原発悪性リンパ腫を疑われ脾摘出術を施行。悪性リンパ腫(T
cell type)と診断された。29歳時にリンバ腫の骨髄浸潤が確認されTHP-COP療法(プレドニン・エンドキサン・オンコビン・ピノルビン)を開始された。その後、DOP療法(オンコビン・ペプロマイシン・デカドロン)、CHASE療法(エトポシド・シタラビン・シクロフォスファミド・デキサメタソン)を施行されたが病勢のコントロールに至らず、30歳時にHLA適合の実姉から造血幹細胞移植を受けた。移植後の急性期には消化管・皮膚にGVHD(Graft
versus Host
Disease)を来たしたものの造血幹細胞移植後27日目の骨髄穿刺では正常造血の回復が認められ染色体検査では98%がXXシグナルを示しドナー幹細胞の生着が確認された。その後患者は完全寛解状態に入り外来通院を続けていたが、31歳時(造血幹細胞移植後11ヵ月目)に急激な呼吸困難感・頚部および縦隔気腫を来たし救急搬送された。肺に対するGVHDとしての閉塞性細気管支炎の発症と考えステロイドバルス療法が施行され、症状はやや改善したものの呼吸困難は持続し呼吸機能検査上、FVC=353L(74%)、FEV1.0=1.31L(31%)の高度閉塞性呼吸障害を示した。その後閉塞性細気管支炎の進行抑制の為にタタロリムスによる免疫抑制療法が加わったにもかかわらず呼吸機能の低下は制御できず、閉塞性細気管支炎発症の
1ヵ月後にはFEV1.0=1.07L(26%)に至り在宅酸素療法が開始された。呼吸不全の進行の状況を図−1に示す(当Webdでは図は省略)。
肺移植適応評価
本症例は福岡大学肺移植検討会(福岡大学外科・呼吸器科・血液糖尿病科)で肺移植の適応ありと判定され、この後に中央肺移植検討会にデータを送付し公的な審査を受けた後、2006年1月23日に正式に脳死肺移植待機患者として認められた。患者はこの後、福岡大学病院において血液内科・呼吸器科・外科による注意深い外来観察を受けなから脳死臓器提供を待った。
移植実施決定まで
2006年10月28日(待機期間278日目)、午前02時21分、JOTNW
より福岡大学肺移植チーム宛に脳死肺提供の第一報があった。福島県いわき市の30歳男性からの提供であり、医学的理由で右肺は移植に耐えられないか左肺のみであれば移植可能である。また適合条件を満たした待機患者か他の肺移植実施施設にも在り福岡大学の候補者はその時点で第3候補であるという内容であった。肺移植チームは急ぎ病院へ集合し、あらかじめ定められたマニュアルに沿い準備を開始した。午前02時33分に受けた第2報では他の施設の待機患者が2名とも医学的理由で移植を断念したため福岡大学の適合患者が第1候補に上がったということであった。JOTNW
への最終的な意思確認の発信は午前03時40分に行った。
(中略)今回我々が経験した移植は臓器移植法に基づくわが国48件目の脳死臓器提供によるものであり、脳死肺移植としては29例目となる。また第2次認定を受けた4施設中唯一の実施例であり、もちろん九州で初の脳死肺移植である。本症例はGVHDによる閉塞性細気管支炎を原因とする呼吸不全であり、肺移植適応疾患としては比較的稀なグループに属す。この疾患群に肺移植を適応する場合、現疾患の治癒(寛解)の程度が最も重要な要素の一つであるが、本症例の病理像はLow-grade
non-Hodgkin Lymphomaであり、同種幹細胞移植か生着した場合GVL(Graft versus
Leukemia)反応による完全寛解が得られる確率が極めて高いと考えられている。閉塞性細気管支炎は進行性かつ免疫抑制療法が加わったにもかかわらず制御が困難であり、発症よりまもなく呼吸不全症状は重篤(Hugh-Jones4度)な状況に陥った。呼吸不全の進行が予後を規定する可能性が非常に高く推定予後は2年に満たないものと考え、我々は関連の呼吸器内科・血液内科と協議の結果、Lung
Transplantation International
Guidelineに沿ってこの症例を肺移植適応と考えた。更にこれを学外肺移植適応判定委員会のひとつである近畿肺移植検討会(大阪大学・京都大学・近畿中央病院を主体とした関西地方の肺移植適応判定委員会)に提出し第3者判定として同様の意見を得た後に中央肺移植検討会(肺移植の適応を最終的に判定する中央委員会)に提出した。中央判定委員会でも肺移植の適応と判定され、この結果2006年1月23日に本症例は左右いずれかあるいは両肺の肺移植適応患者としてJOTWに登録された.。患者はこの後、福岡大学病院において血液内科・呼吸器科・外科により注意深い外来観察を受けなから脳死臓器提供を待った。
待機期間278日目。日本の臓器移植システムでは移植を受けた患者の平均待機日数が809日、待機中死亡率が36.6%である現実を考えると、今回のケースは極めて幸運に恵まれたものであるといえよう。移植実施に際しては2005年以来周到に準備した肺移植システムが関連各科の積極的な協力を得られて極めて順調に稼動した。肺移植にかかわらず脳死臓器移植は広く病院を挙げた協力か不可欠であり、逆に高度先進医療機関としての実力と内部の協調性が試される課題でもある。我々は今回の移植の成功により名実共に肺(脳死)移植医療への参入を果たした訳であり、今後も九州における肺移植基幹施設として努力を続ける必要がある.
*白石 武史(福岡大学医学部外科学教室呼吸器・乳腺内分泌・小児外科部門肺移植チーム):福岡大学における第一例目の生体肺移植 4歳幼児に対する生体一肺葉移植、福岡大学医学紀要、34(2)、139−147、2007 http://www.adm.fukuoka-u.ac.jp/fu844/home2/Ronso/Igakubu/v34-2/v34-2-15.pdf
2006年11月28日、4歳11ヵ月の男児に母親をドナーとする生体左下葉肺移植を実施した。患児は1歳3ヵ月時に若年性骨髄単球性白血病の診断を受け、1歳11ヵ月時にHLA2座不一致の母親より同種末梢血幹細胞移植を実施された。移植後100日目に移植片対宿主病による閉塞性細気管支炎を発症、4歳10ヵ月時に二酸化炭素ナルコーシスに陥り人工呼吸管理となった。人工呼吸管理となった3週目、母親をドナーとする生体左下葉移植術を実施した。レシピエントは体重13kg・身長98cmで、ドナーの体重58kg・身長159cmであり左肺下葉肺グラフトとレシピエント胸郭に著しいサイズミスマッチが想定された。術後10日目に人工呼吸器から離脱し、順調な回復をみせ53日目に独歩退院した。本例は報告されている幼児への生体一葉肺移植の最低年齢に相当し、肺グラフトのサイズミスマッチング許容レベルに関する貴重な症例と考えられた。
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臓器別の法的「脳死」移植レシピエントの死亡年月日、レシピエントの年齢(主に移植時)←提供者(年月)、臓器(移植施設名)は以下のとおり。
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2005年 3月 7日 50代男性←bP2ドナー(20010121) 心臓(国立循環器病センター)
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2005年 3月21日 40代男性←bR2ドナー(20041120) 心臓(大阪大)
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2002年 2月 3日 43歳男性←bP1ドナー(20010108) 右肺(東北大)
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2002年 3月20日 46歳女性←bP6ドナー(20010726) 右肺(大阪大)
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2002年 6月10日 38歳女性←a@5ドナー(20000329) 右肺(東北大)
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2002年12月 5日 20代女性←bQ2ドナー(20021110) 両肺(岡山大)
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2004年 6月 7日 50代男性←bR0ドナー(20040520) 両肺(東北大)
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2005年 3月10日 50代男性←bR6ドナー(20050310) 両肺(京都大)
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2006年 5月初旬 40代男性←bP9ドナー(20040102) 右肺(岡山大)
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2006年 5月27日 40代女性←bS6ドナー(20060526) 両肺(岡山大)
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死亡年月日不明 レシピエント不明←ドナー不明 肺(施設名不明)
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2006年10月24日 30代女性←bS3ドナー(20060321) 両肺(京都大)
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2007年 7月? 32歳男性←bS9ドナー(20061027) 左肺(福岡大)
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死亡年月日不明 レシピエント不明←ドナー不明 肺(施設名不明)
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2000年11月20日 47歳女性←bP0ドナー(20001105) 肝臓(京都大)
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2001年 5月25日 10代女性←bP4ドナー(20010319) 肝臓(京都大)
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2001年12月11日 20代女性←bP8ドナー(20011103) 肝臓(北大)
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2002年 9月10日 20代男性←bQ1ドナー(20020830) 肝臓(京都大)
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2005年12月26日 50代女性←bS1ドナー(20051126) 肝臓(北海道大)
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死亡年月日不明 20代男性←bQ9ドナー(20040205) 肝臓(大阪大)
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死亡年月日不明 60代男性←bR6ドナー(20050310) 肝臓(京都大)
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死亡年月日不明 40代男性←bQ2ドナー(20021111) 肝臓(北大)
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死亡年月日不明 レシピエント不明←ドナー不明 肝臓(施設名不明)
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死亡年月日不明 レシピエント不明←ドナー不明 肝臓(施設名不明)
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2004年 6月頃 50代女性←bP5ドナー(20010701) 腎臓(東京女子医科大学腎臓総合医療センター)
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死亡年月日不明 50代男性←a@5ドナー(20000329) 腎臓(千葉大)
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死亡年月日不明 30代男性←bP4ドナー(20010319) 腎臓(大阪医科大)
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死亡年月日不明 50代男性←bP6ドナー(20010726) 腎臓(奈良県立医科大)
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死亡年月日不明 50代男性←a@2ドナー(19990512) 腎臓(東京大学医科学研究所附属病院)
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死亡年月日不明 女性←bQ6ドナー(20031007) 腎臓(名古屋市立大)
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死亡年月日不明 50代男性←bR6ドナー(20050310) 腎臓(国立病院機構千葉東病院)
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死亡年月日不明 レシピエント不明←ドナー不明 腎臓(施設名不明)
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2001年9月11日 7歳女児←bP2ドナー(20010121) 小腸(京都大)
千里救命救急センター 統合失調症、中枢神経抑制剤投与後
脳死判定対象外の30歳代女性患者を脳死判定、臓器摘出
2007年8月10日、大阪府済生会千里病院千里救命救急センターで30歳代女性が58例目の法的脳死判定にもとづき、57例目の臓器提供を行なったが、生前の臓器提供意思表示の有効性が懸念される統合失調症患者であり、さらに脳死判定対象外とされるべき中枢神経抑制剤影響下の患者だった。
大阪府済生会千里病院千里救命救急センターの14名の医師ら(執筆者名は夏川知輝, 重川周, 細見早苗, 伊藤賀敏, 長谷川泰三, 澤野宏隆, 小林誠人,
松原千登勢, 一柳裕司, 明石浩嗣, 大津谷耕一, 鮫島志郎, 林靖之,
甲斐達朗)が済生会千里病院医学雑誌18巻1号p44〜p48(2008年)に発表した「脳死下臓器提供の経験」によると、臓器提供者の30歳代女性の既往歴は気管支喘息(中学生時発症)と統合失調症(30歳代に発症)。
第1病日、10時頃から喘息発作が出現、12時頃に突然呼吸困難を訴えて努力様呼吸、12時1分、一緒にいた友人により救急要請。12時6分に救急車到着時に心肺停止状態、バイスタンダーによる心肺蘇生処置は施行されていなかった。12時15分ドクターカー到着、12時52分に千里救命救急センターに搬入。
ICU入室後、脳幹反射の再評価で反射がみられ脳低温療法を導入、その過程でミダゾラムと臭化ベクロニウムの持続点滴を行なった(2剤とも、脳死判定に影響する中枢神経抑制剤)。
第4病日、血圧の低下あり、ドパミンの持続点滴開始、ミダゾラムと臭化ベクロニウムは中止し、脳低温療法も終了した。
第5病日、脳幹反射は消失しており、脳波検査にて平坦脳波を認め、脳死を疑った。
第6病日、母親から初めて臓器提供の申し出があった。
第7病日、血圧が安定していたためドパミンを中止、脳波検査の結果から脳死を示唆する状況であることを主治医から母親に伝えた。母親から改めて臓器提供の申し出があった。この時点では患者がドナーカードを持っているかどうか不明であったため、家族、主治医、コーディネーターで話す機会を持つことを提案した。
第8病日 母親、主治医、コーディネーターとの面談を行なった。このとき、コーディネーターから「ドナーカードがない状態では脳死臓器提供は不可能である」「ドナーカードがあるかどうか探すことが必要である」「ドナーカードがない場合でも心停止後の腎移植は可能である」との話があった。
第9病日、母親よりドナーカードが見つかったことが伝えられ、持参された。
第10病日、14時30分:臨床的脳死判定を施行、21時50分〜翌1時5分:第1回法的脳死判定を施行。
第11病日、7時12分〜10時9分:第2回法的脳死判定を施行、11時:警察による検死。
第12病日、3時30分:臓器摘出のため手術室へ入室した。小腸腸管壁漿膜側に突出した腫瘍が発見され、迅速病理診断結果が出るまでの間、開胸・開腹した状態で臓器摘出は中断された。異所膵と診断され摘出術が再開された。
膵臓は1型糖尿病の30歳代女性に移植されたが、動静脈血栓症を起こし、臓器は生着せず摘出した。
当Web注
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岡山県臓器バンクは、臓器提供意思表示カードがなく、家族が「カードが必要なら、いまから書こうか」と言い出したケース今日の移植16巻2号p173〜p174に報告している。
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精神科患者からの「心停止後」と称するヤミ「脳死」臓器摘出は、藤田保健衛生大が第32回日本救急医学会
で発表した。
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治療目的で投与された脳死判定に影響する薬物が脳に溜まり、その後に脳血流が低下すると薬物が脳に残存し続ける現象が複数の法医学者から報告されている。守屋氏(高知医科大学法医学)は日本医事新報4042号p37〜p42において、臨床的脳死状態で塩酸エフェドリンを投与された患者が、約72時間後に心停止した後、解剖して各組織における薬物濃度を測定したところ、心臓血における濃度よりも53倍
(3.35μg)の塩酸エフェドリンが大脳(後頭葉)に検出されたことを報告した。
小文字病院 3名の脳内出血患者にヘパリン投与 膵臓摘出
第6回日本組織移植学会が2007年8月4日、千里阪急ホテル(大阪府豊中市)で開催された。医療法人財団池友会 小文字病院脳神経外科・院内移植コーディネーターの吉開 俊一氏、そして同病院ICU看護部・院内移植コーディネーターの山本 小奈実氏、飼野 千恵美氏は「3例の心停止下膵島提供症例を経験して」を発表した。
同学会のホームページ内http://www.jstt.org/jstt2007/session4.htm#019によると、小文字病院では2006年秋から、献腎に加え膵島提供のオプション提示も行なっている。その結果、
症例1=2006年11月2日くも膜下出血の57歳女性
症例2=2006年12月26日脳幹出血の58歳男性(元来アルコール性肝障害・肝硬変・血小板減少あり)
症例3=2007年2月16日視床出血の58歳女性
以上の3例より、心停止下膵臓摘出・膵島提供を経験した。
吉開氏らは「各膵島提供症例の死亡前管理は献腎の際の調節に依存した。即ち当施設では旧厚生省の腎臓提供施設マニュアルに掲載されている全身あるいは腎臓データの細部調節にはこだわらず、ヘパリンによる抗凝固処置のみ行い、その他の病態は自然のままの経過にて心停止を迎え腎臓摘出に向かっている。・・・」と報告した。
当Web注:ヘパリンは血液を固まらせないための薬剤であり、移植用臓器を確保するためには必須の薬剤だが、脳内出血の患者や外傷患者に投与すると、再び出血させて最悪の場合は死亡させることがあるため、原則的に投与してはならない薬剤とされている。
医療行為の法的性格からみると、患者の治療目的ではない処置・薬剤の投与のすべては、侵襲性の程度を問わず(致死的か否かを問わず)、第三者目的の傷害行為となり、違法性は阻却されない。唯一、法的脳死判定により死亡宣告が行なわれた後の脳死臓器ドナーに対する処置のみ、合法化されている。
2006年10月に開催された第28回群馬移植研究会学術講演会で、群馬大学病院の脳外科医9名は連名で「コーディネーターのコーディネートが不完全で安心して任せられない、死体腎移植では法律の規定がなく主治医の判断が非難にさらされる可能性がある、その判断の中で特に腎臓保護の目的で出血性疾患にヘパリンを使用する事、・・・脳外科医としてはリスクばかりが増えてしまうので出来れば関わりたくない」など本音を述べた。
日本臓器移植ネットワークのドナー候補者家族に対する説明文書「ご家族の皆様方にご確認いただきたいこと」http://www.jotnw.or.jp/studying/pdf/setsumei.pdf は以下のとおり、ヘパリンの投与が血液凝固を阻止する目的であることは説明しているが、ドナーに不利益となることは一切記載していない。
6.心臓が停止した死後の腎臓提供について
(1)術前処置(カテーテルの挿入とヘパリンの注入)について
(中略)
Aヘパリンの注入
心臓が停止し、血液の流れが止まってしまうと腎臓の中で血液が固まってしまい、移植ができなくなる場合があります。そのため、脳死状態と診断された後、心臓が停止する直前にヘパリンという薬剤を注入して血液が回まることを防ぎます。 |
小文字病院における脳内出血患者からの、心停止ドナーと称する臓器摘出は、適正な手続で実施されたのであろうか?
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