立岩氏:集中治療における終末期医療を考える順序
藤原氏:臓器移植コーディネーターが担う家族支援?
ドナーソースとしての集中治療?ほか
第36回日本集中治療医学会学術集会
第36回日本集中治療医学会学術集会が、2009年2月26日から28日まで大阪国際会議場で開催される。以下は同集会のプログラム・抄録集から注目される発表の要旨(タイトルに続くp・・・は掲載貢)。
2月26日 合同シンポジウム1 「集中治療における終末期医療:新たな提案」
*立岩 真也(立命館大学大学院先端総合学術研究科):良い死?唯の生、p100
拙著で考え述べた中から、いくつかを取り出しお話することになろう。例えば一つ、「無駄な延命」「機械による延命」「スパゲッティ症候群」といった言葉のこと。集中治療室という語も病院が否定的に語られる時に、その象徴として持ち出される。もっともである。たしかに居づらい病院の中でも集中治療室は居づらい。しかし、それにただ「自然な死」や「畳の上での大往生」を対置するというのも、ずいぶんと乱暴ではないか。あらかじめ否定的なあるいは肯定的な価値の与えられた言葉がいくつもあるのだが、その何がよく何がよくないのか。一つ、「事前指示」について。自分のことをよく知っているから自分が決めるのはよいとして、自分の知らない状態を決めることはどうか。そしてもう一つ、またそれを言うかと言われるのではあろうが、それでも挙げる。たしかに居づらい病院に、それでも仕方なく人は行くしかないのだが、行けなかったり、辿り着いてもすぐ追い払われる。やはり順序としてはこのことが先に考えられるべきではないか。
*藤原 亮子(日本臓器移植ネットワーク・兵庫県臓器移植コーディネーター):臓器移植コーディネーターが担う家族支援の現状、p100
演者は、兵庫県コーディネータとして兵庫医大に常駐し全県を担当している。過去3年半の間に22件の臓器提供(脳死下臓器提供3件・心停止後の腎臓提供19件)を支援し、20件において家族支援を、移植手術終了報告に始まり、1ヵ月・3ヵ月・6ヵ月・1年目に、電話・メール・家庭訪問等で行ってきた。他の終末期患者家族に比べて、臓器提供家族には支援体制が整備され恵まれている。しかし、「臓器提供のあっせん」担当のコーディネーターが関わってよいのか疑問もある。今後、臓器移植だけでなく広く終末期患者の家族支援が専門家によって行われることが望まれる。
*藤原 亮子(兵庫医科大学病院):臓器移植コーディネーターが担う家族支援の現状、ICUとCCU、33(11)、821−824、2009
兵庫県では、2005年4月から2009年1月までに脳死での臓器提供4件、心臓停止後の腎臓提供20件の計24件の臓器提供があった。これら24件の臓器提供家族に対する支援状況は、臓器提供後の支援を希望としなかった家族が4件、移植手術の終了報告のみで支援を終了した家族が6件、半年間支援を継続した家族が2件、1年間もしくは1年以上継続して支援をした家族が12件であった。
早期で支援を終了家族(支援を希望しなかった家族を含む)の想いは、『移植手術が無事に終わった報告のみで満足した』、『臓器提供は特別な事とは思わないので支援は必要ない』といった前向きな想いがあった。また、臓器提供の現場にいた私達ドナーコーディネーターからの連絡を受けることで『連絡を受ける度に故人の死を思い出すので希望ない』といった想いもあった。これらの、早期に支援を終了した家族の現在の想いや不安などを知る事はできない。
長期にわたり支援を行った家族の想いは、『誰かの体の中で生きているので,自分達が救われる』、『移植が無事に終わり、助かった人がいるのが本当に嬉しい』、『残された子供達が前向きに考える事ができた』などであった。ほとんどの家族が、支援開始直後は臓器提供を前向きに捉えており、臓器提供を後悔している家族はなかった。しかし、長期的に支援を行うことで、家族の中には不安や悩みが生じる家族もあった2症例を紹介する。
症例@は心臓停止後の腎臓提供で、本人の書面での意思表示(臓器提供意思表示カード等)はなく、家族の総意で臓器提供を決めた家族である。提供直後は『誰かの体をかりて生きている』『他の誰かが助かって本当に良かった』など前向きな発言がみられた。しかし、支援を開始して1年が過ぎた頃より、『本人の本意が分からないので、提供して良かったのか時々悩む』という不安な想いを抱く様になった。
症例Aは臓器提供意思表示カードがあり、脳死下での臓器提供した家族である。臓器提供直後は、『本人の最後の意思を尊重できて良かった」と臓器提供を前向きに捉え、また脳死に対し十分理解していると感じた。しかし、支援1年近く経過したころ家族の一人から『臓器提供しなければ、まだ脳死でも生きてたかも知れないと考えてしまう』といった発言がみられた。
当Web注:藤原氏は「他の終末期患者家族に比べて、臓器提供家族には支援体制が整備され恵まれている」と称するが、臓器移植コーディネーターの行動は、臓器獲得の動機にもとづく行為である。臓器移植コーディネーターは、すでに終末期の前倒し(下記1)、家族との摩擦(下記2)、ドナー候補者家族への虚偽の説明(下記3)、「心停止後」と称する
人為的心停止後の臓器摘出(下記4)などの問題を発生させてきた。
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日本臓器移植ネットワークの朝居 朋子氏らは「今日の移植」19巻6号において、米国の臓器移植コーディネーターが、臓器移植コーディネーターとは名乗らずに“終末期における家族支援の専門家”という立場で家族にアプローチすることを報告している。そして脳不全の発症後6時間で脳死宣告するなど、安易な脳死宣告・終末期には疑問を呈していない。
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福井大学医学部附属病院の高山裕喜枝氏らは、臓器ドナーの母親にインタビューして、臓器移植コーディネーター、臓器提供施設との摩擦のあることを日本救急看護学会雑誌9巻3号や「脳死・脳蘇生」第19巻第2号に報告している。
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2002年3月の脳内出血の8歳児からの臓器摘出において、日本臓器移植ネットワークのドナー家族への説明文書は、臓器摘出にあたり不可欠な術前処置=抗血液凝固剤ヘパリンの投与は、外傷患者や脳出血患者に行うと致死的可能性があることについて記載していなかった(血栓の予防目的だけ記載していた)。→過去の臓器・組織提供のほぼすべてが、無効な家族承諾のもとに行われたのではないか。
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1993年8月、柳田 洋二郎氏からの「心停止後」と称する臓器摘出において、移植コーディネーターは
動脈閉塞によるショック死をさせることを隠して、父親のノンフィクション作家の柳田 邦男氏に虚偽の説明を行なったとみられる。1997年5月、愛知県の実加ちゃん(当時2歳)からの臓器摘出においては、
柳田ケースよりも一層、ドナー家族が理解できない状態で脱血死させ
る、あるいは挿入留置したカテーテルを洗浄する際の無理な操作で容態を悪化させ臓器を摘出したとみられる。
*大田 大樹(福岡大学病院 救命救急センター):救急・集中治療患者における終末期医療の在り方、p101
68歳男性、急性呼吸不全に対し、人工呼吸管理に加えてPCPSも併用した。その後も呼吸不全の改善は全くみられす、第21病日に呼吸不全の離脱は困難と判断した。日本救急医学会の救急医療における終末期医療に関する提言に則って家族と協議した結果、延命治療の中止を決定し、第22病日家族立会いのもとPCPSを中止し、間もなく患者の死亡が確認された。
2月27日 一般演題
*大村 在幸(神奈川県立こども医療センター総合診療科):小児重症患者の終末期医療に関する小児科医の意識、p248
2008年8月に行われた当センター夏季セミナーに参加した小児科医と小児科志望の初期研修医を対象にアンケートを行った。75枚配布58枚回収(回収率77%)。
*中根 正樹(山形大学医学部器官機能統御学講座麻酔科学分野):治療不可能な終末期病態の患者に対する非侵襲的陽圧換気の適応、p251
各診療科からの気管挿管人工呼吸のコンサルトに対して、症例に応じて、非侵襲的陽圧換気を選択することで無意味な気管挿管人工呼吸を回避できないか試みている。症例は、間質性肺炎の終末期、癌の肺転移に伴う呼吸困難、肝不全の終末期、血液悪性疾患治療中の重症肺炎などであるが、いずれも原疾患が慢性的経過をたどっており現在の病状を家族が十分に理解していることが必要条件である。非侵襲的人工呼吸による延命効果には全く期待せず、具体的な治療のゴールは純粋に呼吸困難感の緩和である。
2月28日 ワークショップ10「ドナーソースとしての集中治療」、p205
人口当たりのドナー数が全国で一番多い和歌山県からは、和歌山県立医科大学集中治療部の篠崎 真紀氏らが「救急集中治療医からのオプション提示の重要性」を発表する。神奈川県の聖マリアンナ医科大学救急医学の小野 元氏らが「リスクマネジメントを中心とした臓器提供体制のシステム構築 いかにドナーを見過ごさないかの提言」を発表する。
一般演題
*武山 佳洋(市立函館病院救命救急センター):委員会活動を中心とした臓器提供のための体制整備、262
08年8月からは、救命救急センター入院患者のドナーカード所持情報を院内コーディネーターが定期的に把握するようシステムを改定した。
*橋本 慎介(松波総合病院集中治療部):非臓器提供施設の当院でドナーカードの提出を受けて、p262
50代女性、クモ膜下出血の診断で脳動脈瘤内塞栓術を施行されたが次第に両瞳孔が散大し翌日には自発呼吸の消失、脳幹反射の消失を認めた。第2病日に施行した脳波、聴性脳幹反応で臨床的脳死状態を確認したところ、家族から本人の臓器提供意思表示カードが提出された。当時はガイドラインの臓器提供施設の基準から外れていたため法的脳死判定は行うことはできずに第5病日に心停止となった。
当Web注:脳動脈瘤内塞栓術を行うために麻酔薬などを投与としたとみられる。翌日の臨床的脳死状態の確認は「中枢神経抑制剤の影響下にある患者の脳死判定はしない」とする脳死判定の前提条件を無視した行為である可能性が高い。