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20040131

神奈川県立こども医療センター 生後5日目の新生児を脳死判定
脳波があるのに家族への説明に便利と、中枢神経抑制剤影響下

 神奈川県立こども医療センターは、小児脳死判定基準が「修正齢12週未満児や中枢神経抑制剤の影響下にある患者を脳死判定対象にしてはいけない、脳波計の感度は2μV/mm以上」と規定しているにもかかわらず、これに反する脳死判定を行った。周産期センター開設11年間で第1例目の脳死判定という。同センター新生児未熟児科の柴崎 淳氏らは「両親への説明の場で、脳死診断基準は有用であった」としている。

 以下は柴崎 淳(神奈川県立こども医療センター 新生児未熟児科):脳死と考えられた新生児例、こども医療センター医学誌、33(2)、101−105、2004より。

 患者は在胎41週の男児。新生児仮死のため他院から同院NICUに生後2時間で搬入された。脳低温療法などを実施したが効果なく、日齢5、7に脳死に準じた診察を行った。この患者には、入院時より morphine hydrochloride による鎮静、筋緊張亢進と痙攣に phenobarbital 160mg筋注が行われ、鎮静・筋弛緩剤の中止は日齢4である。脳内に高濃度の薬物蓄積が予想されるにもかかわらず、その翌日に脳死判定を実施した。無呼吸テストは日齢12に1回のみ実施。

 家族への説明は日齢0、1、3、4、10、15、18の計7回、医療ソーシャルワーカーと看護師の同席のもと各1時間行った。日齢15に両親より「挿管チューブを抜去してほしい」との希望があり、日齢18親戚一同に見守られファミリールームで気管内挿管チューブを抜去し永眠した。

 

 10回の脳波測定のうち日齢5、7、11、16に散発的だが低電位のデルタ律動(発作時脳波)を認めた。脳血流ドプラで「日齢4に拡張期の逆流が見られ、日齢5には典型的な脳死のパターン」としているが、脳波があったことから、低血流で重態であること以外は説明できないであろう。低血流は、中枢神経抑制剤が脳および体内から排出されないことも意味する。

 脳波計感度は、標準の50μV/5mmで実施しており50μV/20mm以上に上げていない。この点は柴崎氏も認識しており、平坦脳波と診断することはできず「ほぼ平坦な低電位」と表現している。低電位のデルタ律動(発作時脳波)について、柴崎氏は「その扱いに関し、診断基準に記載がない。・・・脳波所見の扱いが課題として残った」ことも認識している。

 しかし、こども医療センター医学誌p104で柴崎氏らは、重症度を評価するための脳死診断だったことを述べ「この点から考えると、両親への説明の場で、脳死診断基準は有用であった」としている。断定的な表現を避けつつも、両親には脳死、救命断念を「理解」されるような説明を行ったのであろう。脳死判定基準の対象外の患者(除外例)であることや、判断の難しい脳波があることを正確に伝えたのであろうか。

 1990年の第3回脳死・脳蘇生研究会で大阪府立病院救急診療科の桂田 菊嗣氏は「我々は、重篤な脳障害の種々の状態をあらわすとき、用語にいま少し慎重になると同時に、現症を客観的に把握して、そのままの言葉で表現するほうがいいのではないか」と発言している。

 

注:この事件の発生日時は不明、「平成16年1月 小児科 clinical conference 」とこども医療センター医学誌に記載があることから、2003年末のことと推定される。

 


20040130

第37回日本臨床腎移植学会
酸素化血液を循環中に「心停止後」摘出:富山・中日本で
心停止後もPCPSで循環維持、温阻血時間0分で腎冷却
5万単位のヘパリンを投与(通常の数倍〜10倍):新潟大
エンゼルメイクでドナー家族を安心させた:榛原総合病院
移植未登録患者の6割は、移植の意志ないor高年齢:山梨

1月28、29、30日の3日間、ホテル松島大観荘において第37回日本臨床腎移植学会が開催された。以下は「移植」第39巻5号より。凡例=抄録の筆頭執筆者名(所属施設):タイトル、掲載ページ

 

高橋 絹代(富山県腎臓バンク):経皮的心肺補助循環(PCPS)大動脈内バルーンパンピング(IABP)施行の急性心筋梗塞患者からの腎提供例、566−567

 60代男性は心臓カテーテル検査の途中に心停止、呼吸停止を来たし気管内挿管、IABP、PCPS、ステント留置を施行するが、臨床的脳死状態となる。家族から臓器提供の申し出があり、心停止後に右腎臓と角膜が提供された。初めて体験するPCPS回路を使用した灌流の下、PCPS回路やIABPの利用方法など検討を要する問題も示唆された。

 

浅居 朋子(日本臓器移植ネットワーク中日本支部):PCPS回路から死体内灌流を行って摘出された腎をあっせんした3例、567

当Web注:これは第8回静岡県腎移植研究会で発表した症例と見られるが、症例1の48歳は温阻血時間が0分だった。人工心肺装着下で温阻血時間0分とみられる臓器摘出は、弘前大が14歳男児を全身冷却で心停止させた先例がある。症例2の60歳男性(上記の富山症例か)と症例3の67歳男性には、IABPも装着していたことを報告している。

 

大庭 康司郎(長崎大学):透析離脱まで89日を要した献腎移植の1例、567

 ドナーは71歳女性、クモ膜下出血、心停止直前に連絡があり摘出チーム到着時はすでに心肺停止状態で、灌流液、カテーテルもなかったが摘出準備の間、心マッサージを行った。心マッサージ7分、WIT25分。尿細管障害の遷延で89日目に尿量が1000mlをこえて透析を離脱した。

 

斎藤 和英(新潟大学):無尿の死戦期を経過し心停止前カニュレーションを行わなかったドナーからの提供にもかかわらずimmediate functionが得られた献腎移植の1例、568

 ドナーは50歳男性、誤嚥による窒息、心肺停止から蘇生後脳症となり、家族へのオプション提示により腎角膜提供の申し出があった。臨床的脳死が確認できない状況下で死戦期となり、無尿10時間の後の提供となった。カニュレーションは行わず、心停止後直ちにヘパリン5万単位投与、心臓マッサージ下に手術室に搬送、開腹下に大動静脈カニュレーション、温阻血時間14分で灌流開始し両腎を摘出した。レシピエントは第1病日800mlの利尿があり、第3、6病日の2回のみで透析を離脱した。カニュレーションができない状況下でも、十分量のヘパリン投与下に迅速に体内灌流を行いうれば移植腎の即時機能も可能である。

 

以上の4報告に関する当Web注

 心肺停止後も「PCPSによる酸素化された血液の供給」「IABPによる心拍動の補助」「心臓マッサージ」などを行うならば3徴候死の実体がない。臓器摘出時にこれらのドナーは蘇生される過程にあり意識のあった可能性がある。九州大学臨床・腫瘍外科の場合、脳死体、心停止体へのヘパリン靜注は5,000単位(臨床と研究80巻6号p175−176)としている。

 

鈴木 良雄(榛原総合病院院内移植コーディネーター):臓器提供症例におけるエンゼルメイクの有用性、580

 59歳男性は交通外傷、腎臓、眼球、骨が提供された。エンゼルメイク後の第一声は「きれい。男前になった」と感嘆の声が聞かれた。
 44歳男性は脳出血、腎臓、眼球が提供された。妻子が参加しエンゼルメイクが実施された。看護師には紅すぎると感じた口唇色も「これ。これがお父さんの色」と満足された。
 家族は、承諾後も提供後の容姿の変化に少なからず不安を抱いている。2症例を通して臓器提供後に実施されたエンゼルメイクは、家族の提供に対する不安を払拭し、さらに提供を肯定的に捉える効果があると思われる。

 

古谷 泰久(山梨大学泌尿器科):透析患者の腎移植に対する意識調査、581

 透析患者718名のうち、移植について考えたことがあるは352名、移植を希望しているは171名、臓器移植ネットワーク登録者は70名。
 未登録の理由は、移植の意志がない32.5%、年齢的なもの28.2%、ネットワークの存在を知らない13.4%、無駄だから登録しない11.1%、登録していたがやめた5.8%、家族の反対0.9%、その他8.1%。

 

 このほか「ドナーアクションプログラムの取り組み」「院内コーディネーター体制」や「ドナー情報の分析」などを市立砥波病院、静岡県腎臓バンク、県立広島病院、新潟県腎臓バンク、藤田保健衛生大、聖隷浜松病院、筑波メディカルセンター病院が発表している(p578〜p581)。

 


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