医療を志す学生でさえ正確な「脳死」認識は入学時4割
講義を受けた2年後に6割弱 北海道大学医短・医学部
第37回日本医学教育学会大会が7月29、30日の2日間、東京大学本郷キャンパスにおいて開催。北海道大学医学部保健学科(検査技術科学専攻)の中村 仁志夫氏らは、3年間にわたるアンケート調査から、医療者を志す学生でさえも「脳死」では自発呼吸はなく心臓は動いているという医学的常識が約4〜5割にしか認識されていないことを報告した。
医学教育、第36巻(補冊)、p37掲載の「脳死と臓器移植に関する学生の認識(1)脳死と心臓死との違いについて」によると、中村氏らは北海道大学医療短大部(医短)および北海道大学医学部保健学科(保健)の新入生(1学年180名)に、脳死と心臓死との概念の差異について講義を行い、まったく予備知識がない段階での認識と授業後かなりの時間をおいてからの認識にどの程度の差が生じるのかを検討するため、3年間にわたり同グループの学生に複数回のアンケートを行なった(アンケート回収率は毎回80%以上)。
「脳死」の状態にある人は自分で呼吸をしますか?の設問に、2002年入学生(医短)は入学時の正解率が59.8%だったものが3年後81.9%。2003年入学生(医短)は入学時の60.2%が2年後86.2%といずれも上昇していた。2004年入学生(保健)は入学時61.7%だったものが、半年後では68.1%とあまり変わらなかった。
「脳死」の状態にある人の心臓は動いていると思いますか?の設問では、いずれの年も正解率は70%を超えていたが、学年が進むにつれて上昇したグループはなく、むしろ低下する傾向さえみられた。
両項目とも正解の人の割合は、入学時はいずれの年も40%台で、半年後も50%に満たず、1年後に50%を超え、2年後にようやく60%に近づくという状況であった。
5日間、脳死様症状を呈した35歳男性が完全社会復帰
全ての事柄を記憶、意識障害でもなかった 埼玉医科大
第16回日本末梢神経学会学術集会が7月22、23日の2日間、ホテルイン金沢(金沢市)にて開催。埼玉医科大学総合医療センター・神経内科の吉田 典史氏らは、ギランバレー症候群の35歳男性が5日間の脳死様状態を呈した後に完全社会復帰したことを報告した。
この35歳男性は、2004年10月14日より両下肢のしびれが出現し、徐々に両側手指にもしびれが出現する様になった。
16日、起床時より後頸部痛・腰背部痛を自覚し,両上肢の脱力が出現した。昼頃より構音障害・嚥下障害が出現し、夜間には唾液が飲み込めない程症状が増悪したため救急外来を受診、
17日、神経内科に入院した。
18日、主に脱髄を示唆する所見を認め、脱髄型Guillain-Barre症候群(GBS)と確診した。神経症候がさらに進行性のため、第4病日より免疫グロブリン静注療法(IVIg)を施行した。
第7病日、両側の瞳孔散大、対光反射の消失、両上肢の完全麻痺。第10病日では、毛様体脊髄反射も消失、四肢完全麻痺を認め脳死様状態を呈した。同時期に施行した脳波では、びまん性に8〜9Hzのslow
α waveを認め、光刺激による反応は良好であった。また聴性脳幹反応では第1〜5波に異常所見はなかった。
第11病日から第2クール目のIVIgを施行した。
第14病日をピークに神経症候はすこしずつ改善した。
第56病日には人工呼吸器から離脱し、経口摂取や自力での車イス移動まで可能となった。
第90病日にはリハビリ専門病院へ転院した。
第150病日には歩行可能となり、第180病日には完全社会復帰した。
脳死様状態を呈した5日間に関して後に患者に確認したところ、全ての事柄を記憶しており、意識障害ではなかったことを確認した。
出典:吉田典史(埼玉医科大学総合医療センター 神経内科)ほか:脳死様状態を呈した後,順調に回復したGuillain-Barre症候群の1例、末梢神経、16巻2号、p102〜p105(2005年)
当Web注:法的脳死判定では脳波が測定されるため、上記の患者を脳死と間違うことはない。しかし「心停止後」と称する臓器摘出における脳死判定は、移植コーディネーターも混乱するほど施設により異なる。また諸外国の脳死判定のなかには脳波測定が行われなかったり、脳死判定対象とはしない患者(除外例)の規定が簡易すぎるために、脳死様症状を示した後に完全社会復帰する症例もあることについて判定医の認識がない場合は、脳死判定され人工呼吸器を取り外されたり、臓器摘出死をさせられる恐れがある。
Bickerstaff型脳幹脳炎とGuillain-Barre症候群の合併例では、岩手医科大や大分県立病院も脳死様状態からの回復を報告している。
透析で15年生存、移植翌日に死亡 山梨大
透析患者のほうが移植よりQOL高い 北里大
半数以上は移植に無関心 三豊総合病院
72歳男性、透析4年で離脱 長久保クリニック
稲毛駅前クリニック、擬(偽)透析を72回実施
第50回日本透析医学会学術集会・総会
第50回日本透析医学会学術集会・総会が横浜会場(パシフィコ横浜)は6月24〜26日、新潟会場(朱鷺メッセ)は7月9、10日に開催された。以下は日本透析医学会雑誌・38巻総会特別号より注目される発表の要旨(タイトルに続くp・・は掲載頁)。
透析で15年1ヵ月生存、移植の翌日に死亡
*坐光寺 秀典(山梨大学医学部泌尿器科):長期透析後の献腎移植症例の検討、p883
43歳女性、透析歴15年1ヵ月。術前合併症として両膝関節症があった(歩行不能、原因不明)。手術翌日、移植後初回透析のためのベッド移行直後に呼吸不全、心不全出現し、心肺蘇生できず死亡。事後検討で肺梗塞と判断した。
北里大学、温阻血時間3分ドナー、透析患者のほうがQOL高い
*平山 貴博(北里大学泌尿器科):両側多発性嚢胞腎摘除後に、献腎移植を行った一例、p721
症例は13歳女児、2004年12月15日、29歳男性からの献腎移植施行、温阻血時間は3分。
当Web注:温阻血時間が3分ときわめて短いことから、ドナーの心臓拍動時から臓器冷却用カテーテルおよび脱血用カテーテルを挿入していたとみられる。
*池田 成正(北里大学泌尿器科):SF36を用いた腎移植患者と透析患者のQOLの比較検討、p742
外来通院移植患者と血液透析患者に自己申告記入方式用紙に記入してもらい、QOLを比較した。身体的健康での身体機能、日常役割機能、体の痛み、全体的健康感のいずれにも有意差が認められなかった。しかし、精神的健康においては、活力、心の健康には有意差が認められなかったものの、社会生活機能、日常役割機能(精神)に有意差をみとめた。今回は移植患者
と血液透析患者との対象が不十分だったため、精神的健康でのQOLの高値は得られたが、血液透析患者のQOL結果の方が上回った結果となった。今後は移植患者の移植前からのQOLを経時観察することが重要と思われる。
当Web注:QOL調査は、移植患者の生存率が透析患者よりも高い状態でないと比較する価値は少ない(移植術による死亡患者と生存患者のQOL比較が不可能なため)。この抄録では消息判明率(生死不明率)は示されていない。
透析患者の半数以上は移植に関心ない
*矢野 恵子(三豊総合病院腎センター):非移植施設である当院における腎移植に関する知識の標準化への取り組み、p972
当院維持透析患者に腎移植に対する意識調査を実施、半数以上が移植に関心がなく、腎移植を希望されていない。高齢者になるほど希望されない傾向が見られ、現状の血液透析に満足されている患者が多く見られた。
72歳男性が4年間の透析療法を離脱
*長久保 一朗(長久保クリニック泌尿器科):約4年間の血液透析後に離脱し前立腺全摘術を施行した1例、p797
患者は72歳男性、薬剤過敏性急性間質性腎炎。1998年10月維持透析となるも次第にBUN、クレアチニン値の改善を認め、透析導入4年に2週間に1回の透析となる。2003年2月に血液透析を離脱。現在も透析離脱のまま外来通院中である。
当Web注:おおむね1年間以上の透析後に離脱した症例は臓器移植を推進する医学的根拠は少ない#透析離脱例
稲毛駅前クリニック、擬(偽)透析を54名の患者に72回実施
*透析末期医療のグリーフ・ワーク(GW)におけるCHDF-like life line(CF3L)の有用性、p1027
透析の終了を家族に告げると失意の情を表出し、多くは見捨てられたと感じる。この状態でも数時間のCHDF-like life
line(CF3L)なら可能なことが多い。私たちは血液透析施行不能例にCF3Lをやむなく施行したので報告する。
対象症例は2002年8月から2004年末までに当院で維持透析中に死亡した54例で、全例に何度も家族と面談を行い悲嘆の仕事(グリーフ・ワーク)に努め蘇生術を施行しないDNRの了解を得た。このうち血液透析不能と判断したが、さらなる血液浄化を家族が求め、あるいは意識が清明で医道上必要と判断した21例に4時間前後のCF3Lを施行した。十分ではないが、グリーフ・ワークを計72回のCF3Lにより可能となった。今後、適応・血液浄化量の検討とコミュニケーション・スキルの向上に努めたい。
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