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20011231

 「臓器摘出で、お父さん痛くないの」という質問が胸にこたえた
経験豊富なコーディネーターも冷や汗 第19例目の説明で

 東京都臓器移植コーディネーターの櫻井 悦夫氏は、日本腎臓移植ネットワーク設立当初より、いままでに臓器提供を検討する約100家族にあまりに対応してきたベテラン。しかし、第19例目の法的脳死下臓器提供(2002年1月2日・日本医大病院)を行う家族から、「(臓器を切り取る時に)お父さん痛くないの」と質問され、その説明に「冷や汗をいっぱいかいた」という。

 これは、40歳代ドナーの妻YMさん(44歳)との対談で語ったもの(今日の移植 17巻3号 2004年 p459−468 そのとき−臓器提供の体験を通して−)。対談では提供時期は明示されていないが、レシピエントの性別・年齢および年末を挟んだ提供から19例目とみられる。

 YMさんは、くも膜下出血で倒れた夫のレントゲン写真を見せられて、担当医師は「申し訳ないけど、ご主人の場合は最悪の状態で・・・」と説明。2度目のレントゲン写真を見ながら医師と話をしていたときに、夫がドナーカードを持っていたことを思い出した。それを話したら、険しい顔つきだったA先生(女医)の顔つきが急に柔らかくなった。「相手の先生は本当に顔が変わったんです」という変化に、YMさんはカードを持っていることを告げたことに「言わないほうがよかったのかな、どうなんだろう」という複雑な気持ちがあった。

 コーディネーターに連絡するまでに、臓器提供に否定的なB先生、積極的な若い医師と、現場には多様な考えの医師がいた。YMさんが、ドナーカードを「A先生にお見せしたら、『はい』と言ってにこっと笑って、カードを受け取りました。なにかさまざまなやりとりのなかで心中いろいろな動きが・・・あるんですよね、その瞬間瞬間に」という。

 ドナー候補者の次女は、櫻井コーディネーターに「お父さん痛くないの」と聞いた。櫻井氏は
p462「あのとき下の娘さんはまだ小学4年生でしたから、わかってもらえるように『さて』と思案しました。あれには私もいい勉強をさせていただきました。もう本当に冷や汗いっぱいかきました」
p466「ただ、娘さんからの『お父さん痛くないの』という一言が胸にこたえました。コーディネーターとして私は、すごく勉強させてもらえたわけです。逆に感謝したいぐらいです。あの一言はコーディネーターとして本当に目が醒めたというか、自覚が強まったという感じでした」
p468「娘さんたちには勉強させられました。ありがたかったです」
と繰り返す。しかし、対談ではどのような表現で説明したのかは紹介されていない。

 妻YMさん自身は、臓器提供前も後の現在もドナーカードにはサインしていないが、子供2人のカードには(家族としての)サインをしてあり、意思を尊重する旨を発言している。今回の臓器提供に関しては「『本人がやりたいと言っているんですから』とはっきり言いました。私は主人の意思はもう絶対通したいと決意していました」という。

 


20011211

北大の肝臓移植患者、敗血症で死亡、術前からMRSAに感染
移植医療は手術後のケア体制を整備せずに、スタートしたのか

 2001年11月3日の18例目法的「脳死」判定、17例目臓器摘出により、北海道大付属病院で肝臓移植手術を受けた20代女性が11日午前5時58分、敗血症性ショックのため死亡した。
 死亡したレシピエントは、移植手術直後は一時、一般病棟に移り、家族と会話ができるまで回復していた。しかし手術前から肝臓の状態が悪かったことに加えて、22時間に及んだ移植手術時に20リットルもの大量出血、低血圧で移植した肝臓も悪化したため免疫力が低下。腹腔内出血などのため移植後5回行った開腹手術のうち、11月27日の3回目の手術時からMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)が全身に広がり、12月4日に腹腔内洗浄と検査のため開腹手術を受けた後、危篤状態となった。
 北海道大学第一外科の藤堂 省教授は「患者は以前から、首から静脈注射をしており、もともとMRSAに感染していたため、免疫力が落ちていた開腹手術の際に感染症が広がった」と説明した。免疫抑制剤を投与する移植医療にもかかわらず、MRSAへの感染を知りながら移植を強行した責任も問われそうだ。臓器移植法施行後、死亡したレシピエントは4人目で、全員が生体移植を受けた後の脳死臓器移植と見られる。このうち3人が肝移植。敗血症による死亡が4人のうち3人と、感染症との闘いに敗れている。

 日本心臓病学会は1991年に“心臓移植に関する提言”(日本医事新報 bR515)のなかで「一流大学病院でMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)による術後死が問題となっている。移植患者は免疫抑制剤を使用されるため、感染死が死因の過半を占めているが、現在の手術室・ICUの無菌体制、衛生環境には不備がある。その改善・充実に費用をかけることは、現在の病院財政では不可能」と指摘していた。心臓移植に最も経験のあるシャムエイ教授も「切って縫うだけで治るのなら、移植患者は誰も死んでいないはずだ。移植成功のカギは手術後のケアにある」と警告している。過去の死亡は3例とも京大病院だったが、患者家族とのトラブル発生も伝えられている。

 日本臓器移植ネットワークは17例目ドナーの病名を公表せず、年齢も「30歳以下」としか発表しなかったが今回、ドナー年齢は20歳代と情報提供した。

 


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