第48回日本移植学会総会
吉開:懐疑的なメディアに、誤解を恐れてロごもると足下を掬われる
横田:脳死診断の補助検査として脳循環停止の位置付けを議論する必要
瓜生原:意思表示キャンペーン、関心が高まった時に意思表示手段を提供
朝居:脳死臓器提供に至らない要因、14件中6件が脳死判定条件を満たさず
西山:小児のOP提示、臨床心理士がドナー候補者家族の気持ち表出に効果的
2012年9月20日から22日までの3日間、第48回日本移植学会総会が愛知県産業労働センター(名古屋市)で開催された。以下は「移植」47巻総会臨時号より、注目される発表の要旨(タイトルに続くp・・・は掲載
ページ)。
*吉開 俊一(国家公務員共済組合連合会新小倉病院脳神経外科):臓器提供の啓発活動に見る心停止下腎臓提供発展への課題、p147
過去の臓器提供の広報活動は脳死下臓器提供にかなりの重点を置いて来たため、殆どの国民は臓器提供を脳死や小児心臓移植と等価と誤解し、多くの医師等は心停止下臓器組織提供のルールすら知らない。心停止下提供は、法制度とシステムの力で進める脳死下提供とは異なり、提供医療施設の深い理解の下に手作りで進められる。即ち提供手順の自由度が広い事が逆に不確定な要素を芋み、提供側の医師等は不安を持つ。筆者は、脳神経外科医師の立場での多くの臓器提供啓発活動の中で、啓発には統計を示す事と誤解を解く事が最も効果的と理解した。即ち、単に「臓器提供諾否の意思をカードに署名しよう」のみならず、臓器別待機者数・提供数などの統計と共に、国民に対しては「提供は強制されず急かされない、遺体は連れ去られずバラバラにならない」を強調し、医師らに対しては「職業上のカード確認とオプション提示、結果的に提供できずとも責任は不問、提供には診療報酬がある」を強調する事が肝要である。懐疑的なメディアに対しては、誤解を恐れてロごもると足下を掬われる。最終的には啓発効果は各担当者の説明能力に依存している。
*横田 裕行(日本医科大学大学院医学研究科救急医学分野)、有賀 徹(昭和大学医学部救急医学)、木下 順広(熊本大学生命科学研究部侵襲制御医学)、坂本 哲也(帝京大学医学部救急医学)、荒木 尚(足利赤十字病院救命救急センター)、芦刈 淳太郎(日本臓器移植ネットワーク):法的脳死判定の結果と分析、p169
臓器移植専門委員会及び検証会議にて検証が行われた102例と日本臓器移植ネットワークの資料を対象とした。
麻酔薬、筋弛緩薬、鎮静・鎮痛薬など脳死判定に影響を与えうる薬物は23種類で、最終投与時間から脳死とされうる時間は5〜491時間であった。脳死とされうる状態の前後において脳循環が8例で測定されたが、全て脳循環は確認されなかった。内4例は脳死判定に影響を与え得る薬物の体内動態が不明であるために脳循環(脳血流)の停止を確認している。脳死とされうる状態と診断されてから、摘出手術が終了し臓器提供者が手術室を退出するまでの経過時間は、改正臓器移植法施行後はその前と比較して平均16時間長くなった。法的脳死判定マニュアルと異なった記載や検証会議で指摘された項目は、体温測定法や無呼吸テストで多かった。なお、いずれも脳死判定に関しては妥当であると判断された。
[考察]過去の法的脳死判定症例の蓄積から、標準的バイタルサインや血液ガス所見を示す際には、脳死下臓器提供施設が後日受ける事後検証の手続きは簡略化すべきである。また、脳死診断の補助検査として脳循環(脳血流)停止の位置付けを議論する必要があると考えられた。
当Web注:他ならぬ横田、荒木自身が、脳血流停止と診断した後に自発呼吸があり脳死を否定した8歳女児例を経験している。詳細は日本臨床救急医学会雑誌13巻2号p154(2010年)。「法的脳死判定マニュアルと異なった記載や検証会議で指摘された項目は、体温測定法や無呼吸テストで多かった」のであれば、事後検証手続きは簡略化すべきでないことになるのではないか。
*瓜生原 葉子、高原 史郎(大阪大学大学院医学系研究科先端移植基盤医療学):意思表示に対するマスメディア・キャンペーンの有効性に関する考察、p247
個々人が臓器提供に賛成と考え、意思表示を行うためには、十分な知識と臓器提供へのコミットメントが必要であり、それを受動的に高めるのがマスメディア・キャンペーンである。そこで、知識、マスメディア・キャンペーンの有効性について文献レビューを行い、先行研究の限界を把握して今後必要とされる研究を明らかとすること、今後の広報戦略に資することを目的とした。PubMedをデータベースとして用い、1970年から2010年までを対象期間とし、言語を英語に限定して先行研究を抽出した。
知識については、臓器提供に関する理解不足や誤解が臓器提供への不信感や恐れを促し、拒否感へとつながっていることが明らかとなった。また、臓器提供に関する正しい知識を提供することで、考え方がポジティブに変化することが示唆された。マスメディア・キャンペーンについては、キャンペーンの認知度の高さが意思表示という行動に直接影響しないことが明らかとなった。
行動変容を起こすためには、キャンペーンの対象者を絞り、長期間実施し、能動的な行動を促すしかけと組み合わせること、関心が高まった時に意思表示手段を提供するなど、手法に工夫を施す必要性が示唆された。
*朝居 朋子(日本臓器移植ネットワーク中日本支部):脳死下臓器提供に至らない要因の分析、p271
2011年に東海北陸ブロックで受信したドナー適応のあった情報58件のうち、5類型施設からの情報は50件、それらを脳死診断やコーディネーターとの面談の有無、家族の意思決定等で分析した。
50件のうち、脳死を経たケースは24件であった。そのうち、23件でコーディネーターが家族に面談し、臓器提供の承諾は21件で得られた(脳死下臓器提供7件、心停止後臓器提供14件)
。法的脳死判定を施行し、脳死下で臓器提供に至ったケースは6件であった。心停止後提供の承諾を得た14件において、脳死下提供にならなかった理由は、呼吸循環動態不安定で法的脳死判定の条件を満たさず6件、家族が脳死下提供を受け人れられず5件、脳死下提供について家族の総意が得られず2件、家族が脳死下提供における情報公開を拒否1件であった。
脳死下提供の可能性があっても、さまざまな理由で脳死下提供に至らないことが明らかになった。脳死下提供に対する家族の心情に配慮しながら、コーディネーターは対応することが必要である。
*西山 幸枝、西村 知子、鈴木 恵美子、加藤 櫻子(藤田保健衛生大学病院移植医療支援室):小児のOP提示を経験して、p285
改正臓器移植法施行から、小児の提供は当院では1例もない。しか、OP提示は小児にも積極的に行ってきた。実際には提供にいたらなかったが、OP提示から家族の返答を聞くまでの経緯と対応をまとめた。
患者は13歳男性、交通事故による外傷性くも膜下出血。3病日目、瞳孔散大し外減圧術施行。4病日目、血圧低下となり主治医より院CoにOP提示をする旨絡があった。虐待の有無確認の為、院内虐待防止ネットワークと連携、児童相談所への問い合わせ結果も含め虐待は無と判断した。5病日目、両親にOP提示を行ったが、ほとんど無口で声を出す言葉は「はい」と伏し目がちに言うのみであった。その後再度OP提示した際は「提供にはどれくらいの時間がかかるのか。傷はどうなるのか」などの発言もあり提供を考えるような印象であった。グリーフケアとして臨床心理士が介入、その中で「もしかしたら、少しでも良くなることがあるのではないか。半年位の間にいい薬ができるかもしれない」など母親が迷いながらも気持ちの表出が出来ていることが確認できた。最終的に7病日目で拒否の返事をいただいた。
早期から最期まで臨床心理士が関わることは患者の気持ちの表出に効果的であった。
当Web注:この総会で発表された、広島大学病院の「当院における臓器移植法改正後の脳死肝移植登録の状況と脳死肝移植の経験」は肝臓移植回避例に掲載した。
補助人工心臓で1227日生存、心臓移植後232日で死亡
静脈がねじれ、他院でイレウス管挿入に1時間かかり呼吸停止
初の内臓逆位症例 国立循環器病センター内部で経験不足指摘
日本臓器移植ネットワークは、9月21日に更新した移植に関するデータページhttp://www.jotnw.or.jp/datafile/offer_brain.htmlにおいて、法的
「脳死」臓器提供にもとづき心臓移植、肺移植を受けた患者の死亡が、それぞれ1名増加し、法的「脳死」臓器移植患者の死亡は、心臓6名、肺29名、肝臓31名、膵腎同時6名、腎臓13名、小腸4名の累計89名に達したことを表示した。
これまでの臓器別の法的「脳死」移植レシピエントの死亡情報は、臓器移植死ページに掲載。
中谷 武嗣(国立循環器病センター移植部):心移植8ヵ月後死亡症例の検討、循環器病研究の進歩、34(1),87-99,2013によると、死亡したのは61歳男性、完全内臓逆位症例への心移植では日本国内初の症例だった。
心臓移植前は、補助人工心臓装着下でも慢性腎機能障害の状態、心移植前の最終CCrが30.7mL/min、クレアチニン値は1.4〜2mg/dl。2011年7月ドナー発生、補助人工心臓装着期間は1227日、ステイタス1での待機期間は861日。
ドナー施設から2時間で心臓は搬送されたが、心筋虚血時間は4時間7分、手術時間は20時間27分と時間を要した。肺動脈接合部に平均20mmHgの圧較差を生じたため欠損部分を人工血管で再建した。内臓逆位、右胸心のため下大静脈の再建部にもねじれを伴う圧較差が生じ、再建に時間を要した。再建後も上大静脈・下大静脈の圧が25mmHgと高値の状態、体外循環から離脱できず、閉胸も困難で、PCPS・IABPを装着してICU入室した。
(p89で、ドナーハーベストを行った心臓外科の藤田 知之医師は「移植後の問題は、経験の問題かもしれません。(中略)内腔のつぶれない人工血管で十分距離を稼げばよかったかも」と意見を述べている)
術後 1日目:開胸血腫除去術と胸腔内洗浄
術後 2日目:下大静脈再建と上大静脈−右心房バイパス術後に血行動態は安定し、PCPSから離脱、閉胸してICU帰室。
術後 6日目:IABP抜去
術後 13日目:強心剤中止
術後 17日目:右胸腔内血腫による肺の拡張障害で人工呼吸器からの離脱困難、気管切開術
術後 23日目:右胸腔内血腫除去術
術後 30日目:人工呼吸管理のままICUから移植病棟へ転出
術後 61日目:右胸腔内血腫除去術
(時期記載無):人工呼吸器から離脱
術後121日目:免疫抑制剤タクロムリス中止(補助人工心臓装着例のため、創傷遅延効果のあるエベロムリスは最初から使えなかった。後に拒絶反応の診断でタクロムリス再開)
術後124日目:酸素投与中止
術後204日目:腰をひねった際に第4腰椎を圧迫骨折(人工呼吸器からの離脱に難渋、全身廃用により座位も困難な状態、骨粗しょう症にアレンドロン酸ナトリウム内服)
術後216日目:整形外科専門医にコンサルトし、コルセット装着と骨粗しょう症治療薬のテリパラチドの投与開始
術後225日目:最後の排便(3月4日)
術後226日目:(テリパラチドの副作用の可能性がある)嘔吐のため免疫抑制剤の内服困難
術後228日目:腹部CTで腸閉塞の診断(テリパラチドの副作用の可能性がある)、絶食・補液管理
術後229日目:肝・腎不全を合併しDIC(播種性血管内血液凝固)の診断基準を満たす。近医に搬送してイレウス管を挿入、内臓逆位のイレウス管挿入に1時間ほどを要し挿入時に呼吸停止、直ちに挿管・人工呼吸管理、同日夜から血圧が低下し敗血性ショック。
(p91で、心臓血管外科の藤田 知之医師が「なぜ当センターでイレウス管が入れられなかったのか、ここが痛恨の極みだと私は思います。大学病院などの大きな病院ではなく、十分なバックアップ体制が取れているとは思えず、当時、当センターに定期的に来られていた消化器の先生の医局にお願いすべきだったのではないかと、強く思います」と発言。移植部の瀬口 理医師は「最初、救命救急センターに相談しましたが対応不可で、その時点でDICになっており、早く処置をしたいという判断で、近くの病院にしました。イレウス管の挿入は当センターでとお願いしたのですが、技術的に難しい症例なので、依頼先もある程度状況が整ったところで行いたいということで、搬送して行いました」と応えた)
術後232日目:永眠
B病院救命救急センター「明日までに臓器移植の結論を」
看護師、脳死判定基準を満たした患者は生きていると認識
両親「臓器を取り出して死ぬなんて、あまりにも娘が可哀そう」
2012年9月20日発行の月刊ナーシング10月号(32巻11号)p146〜p150に、「どう考えればいい?クリティカルな場面の看護倫理(第7回) 事例から考えるクリティカルな場面における看護倫理D 脳死臓器移植」が掲載された。
執筆は苑田 裕樹氏(日本赤十字九州国際看護大学助手)、監修は渕本 雅昭氏(東邦大学医療センター大森病院救命救急センター主任看護師)と神田 直樹氏(札幌医科大学付属病院集中治療室副看護師長)。事例紹介(以下の枠内)は、患者Aさん30歳代女性、家族は夫、両親。
事例の経過と意思決定の様子
くも膜下出血でB病院救命救急センターに救急搬送される。すぐに減圧手術を施行するが経過は悪化し、結果、臨床的脳死と判定された。翌日、医師および移植コーディネーターより家族(夫、患者の両親)へ、「治療に最善を尽くしたが救命は困難であり、死は避けられない」ことが告げられる。同時に、本人の臓器移植の意思が確認されたため、家族の最終的な意思確認と説明が行われた。
家族は「もう手術はできないということですか・・・・・・あんなに元気だったのに・・・・・・」と突然の宣告に泣き崩れた。夫は、まさか自分の妻がこのような悲劇に見舞われるとは想像もしていなかったため、医師から説明された臓器移植について、すぐに受け入れることはできなかった。しかし、翌日までに臓器移植に関する結論を出さなけれぱならず、本人の臓器移植の意思があることを尊重して、家族間での話し合いが行なわれた。
患者は生前より、「(臓器移植が人助けになるのであれば、してもいしかな」と夫と話しており、臓器提供意思カードにも明記してあった。そうはいうものの、夫は「これ以上、傷をつけることを私が決めていいのかわからない・・・本当に臓器移植を望んでいるのだるうか・・・と何度も何度も自分に問いかけながら悩んでいたが、やはり妻の意思を尊重したいと考えた。
しかし、妻の両親は臓器提供について「何も聞いていない。臓器を取り出して死ぬなんて、あまりにも娘がかわいそうだ」と猛烈に反対した。移植コーディネーターや担当看護師も頻繁にかかわり、最終的に患者本人の意思を尊重し、脳死臓器移植をすることを選択する結果となった。その後、法的脳死判定がなされ、脳死臓器移植が行われた。 |
p148では、脳死患者家族の心理的対処プロセスモデルを掲載し、表2で家族の混乱期には「素直な感情表出を促す。無理に脳死の現実を押しつけず、さらに近い将来に死が訪れようとも、いまここにいる限り、大切にケアされていることがわかるようなかかわり声かけが重要となる」。また「大切な最後にあたり、家族は臓器提供意思表示カードや生前の記憶などによって本人の臓器提供意思の確認をし、かぎられた時間のなかで慎重な話し合いがもたれ、臓器提供についての総意をまとめることになる」
p149では、看護師の家族援助について“終末期における臓器提供を含む選択肢の提示とその決断を待つなかで、家族が避けられない死をいかに受け止められるよう支えるか、また、臓器提供の有無にかかわらず終末期ケアのあり方、看取りのあり方について現場の看護師はとまどっていると聞く。「本来ならば終末期ケアを行ないたい時期に、ドナー管理や検査があり、思うようにケアができなかった」「家族と患者ができるだけともに過ごす時間がとれなかった」など、脳死臓器移植を行なう患者・家族ケアは、現段階では「前例がない」「何が正しいのかわからない」という暗中模索のケアとなっている様子が伺われる”
p150の監修者から(渕本雅昭)では、「Aさんは、救命のため治療を受けていますが、脳死状態であり死は避けられない状況です。(中略)現在、臓器提供は本人の同意がなくても家族の同意のみで可能になりました。私たちは、かぎられた時間のなかで、家族の心に寄り添いつつ、家族の意思決定を支援していく役割が求められていると考えます」と記載している。
当Web注
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看護師の「脳死の現実を押しつけず、さらに近い将来に死が訪れようとも・・・」「大切な最後にあたり」「家族が避けられない死をいかに受け止められるよう支えるか」「脳死状態であり死は避けられない状況」などは、いずれも脳死判定基準を満たした患者は生きていることを前提とした表現であり、両親の「臓器を取り出して死ぬ」という認識と一連の認識によるものであろう。患者家族とともに医療者も混乱のなかにいるため、ケアも暗中模索になっているのではないか。
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脳死判定基準を満たした患者の心停止までの期間は歴史的に延長しつづけており、長期生存例だけでなく社会復帰例まである。そもそも、生命徴候が不安定な患者は法的脳死判定の対象とはされない。B病院救命救急センターが「翌日までに臓器移植に関する結論を出さなけれぱ」と患者家族に対応したこと、看護師が「かぎられた時間しかない」という認識だったことは、患者家族に「無理に脳死の現実を押しつけた」、時間を区切り切迫感を与えることで臓器提供に誘導した可能性がある。
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関西医大事件では、腎臓の提供を要請された夫が、クモ膜下出血の妻に腎臓を移植するためと勘違いして承諾したという。臓器提供に関わる行為、ドナー候補者に関する事柄は、「脳死臓器移植をする」「脳死臓器移植が行われた」と臓器移植を受ける側と認識されかねない表現するのではなく、「臓器を提供をする」「臓器摘出が行なわれた」と表現しなければ、再び同様の混乱を起こしかねない。
「ドナー候補者家族への説明文書、説明の仕方を、より適切な表現にします」
「メディカルコンサルタントは、法令に位置付けられているものではない」
野田総理大臣 阿部議員の「臓器移植医療に関する再質問」に答弁
人為的心停止と臓器提供目的で死なせることの違法な許容 本質は変わらず
野田 佳彦内閣総理大臣は2012年9月14日、阿部 知子衆議院議員が提出した「臓器移植医療に関する再質問」に対して答弁書を送付した。
これは阿部議員が8月10日に質問主意書を提出し、野田総理大臣は8月21日に答弁書を送付したが、その内容に阿部議員が再質問主意書を9月5日に提出したことに応えたもの。
8月21日の答弁書は、ドナー管理の内容・開始時期について「脳死臓器提供を行う場合、法的脳死判定が行われる前の患者に対して、移植のために臓器を保存することのみを目的とした処置を行うことは不適切だが、一般の患者に対しても治療等を目的として行われる処置であり、かつ、臓器移植を医学的に適正に実施する上で必要と認められるものについては、結果的に移植のために臓器を保存することに資する処置であっても、不適切であるとは考えておらず、臓器移植法が想定している処置である」「心停止下での臓器提供を行う場合にあっては、移植のために臓器を保存することのみを目的とした処置であっても、臓器移植を医学的に適正に実施する上で必要と認められる処置であり、かつ、身体に対する侵襲性が極めて軽微なものについては、患者に対して救命治療を尽くしたにもかかわらず脳死状態と診断された後に、当該処置を家族の承諾に基づいて行うことは、不適切であるとは考えておらず、臓器移植法が想定している処置である」と答弁した。
法的脳死判定・臓器摘出例において、法的脳死判定前から移植のために臓器を保存することを目的とした処置を行なった医師については、「『脳死下での臓器提供事例に係る検証会議』が適切に行われたことについて検証しているため、ドナー管理の内容の再調査、詳細の検証や医療関係者の処分等の必要はない」と答弁した。
日本臓器移植ネットワークのドナー候補者家族に対する説明文書「ご家族の皆様方にご確認いただきたいこと」http://www.jotnw.or.jp/studying/pdf/setsumei.pdfが、「6.心臓が停止した死後の腎臓提供について」において、抗血液凝固剤ヘパリンの投与が、ドナー候補者に不利益となることは記載していないについて、この説明文書は1995年4月1日から使用され、2012年7月31日までの間に1619件の脳死下または心停止下での臓器提供事例の説明の際に使用されたと答弁。また「日本臓器移植ネットワークによれば、ヘパリンの投与により、ショック、出血、発熱等の副作用が起こった事例はない。心停止下での臓器の提供を行う場合に、患者に対して救命治療を尽くしたにもかかわらず脳死状態と診断された後に、ヘパリンの投与を家族の承諾に基づいて行うことは、不適切であるとは考えていない」と答弁した。
8月10日の質問主意書が「ヘパリン投与は、ドナー候補者を傷害し、苦痛を与え、心停止を引き起こしかねない。説明文書は、ヘパリンが外傷患者、脳血管障害の患者に原則禁忌の薬剤であることを説明していない。ドナー候補者の救命目的ではなく、移植用臓器獲得目的での薬物投与は、傷害行為になり違法性は阻却されない。死亡宣告前に行うべきではない。『血液循環下でヘパリンを投与することが移植用臓器を獲得する目的では不可欠』、しかし『血液循環下の薬物投与は傷害であり、死亡宣告を行なった根拠となる心停止を覆しかねない蘇生や苦痛を感じさせる行為になる』のならば、これらの移植用臓器獲得目的の薬物投与は『心臓が停止した死後の臓器提供』の枠組みで行ってはならない。法的脳死判定手続き下でしか許されない行為」と指摘したのに対して、答弁書は「心停止下での臓器提供の意思はあるが、脳死下での臓器提供は望まない者もいること等から、お尋ねのように心停止後の臓器提供を廃止し、法的脳死判定の手続による臓器提供に一本化することは考えていない」とした。
再質問主意書に対する答弁書は、「『臓器移植法が想定している処置』とは、臓器の移植に関する法律は、患者に対して十分な救命治療が行われることを当然の前提として、移植医療の適正な実施に資することを目的としていることに照らして、不適切な処置ではないという趣旨」と説明した。
再質問主意書が「『心停止の死亡宣告前でも、脳死状態と診断された後に違法性は阻却される』のならば、心停止の死亡宣告前でも、法的脳死判定手続きによらず、脳死状態と診断された段階で死亡宣告を行ったことになる。法的脳死判定手続きを形骸化する答弁」と指摘したことに対して、答弁書は「臓器移植を医学的に適正に実施する上で必要と認められる処置であり、かつ、身体に対する侵襲性が極めて軽微なものについて、患者に対して救命治療を尽くしたにもかかわらず脳死状態と診断された後に、当該処置を家族の承諾に基づいて行うことは、不適切であるとは考えていない。『法的脳死判定手続きを形骸化する』との御指摘は当たらない」とした。
再質問主意書の「身体に対する侵襲性が強度なものは許容されないと判断しているのか。侵襲性の強弱は何によって判断するのか」との問いに対し、答弁書は「心停止前に、移植のために臓器を保存することのみを目的とした身体に対する侵襲性が強い処置を行うことは、許容されないと考えている。処置の身体に対する侵襲性の強弱については、処置の内容や個々の患者の症状に応じて医学的に判断されるべきものであり、一律の基準を示すことは困難である」とした。
脳死判定前からドナー管理を行なっているメディカルコンサルタントについて「法令に位置付けられているものではない」と答弁した。
再質問主意書が、ヘパリン投与から46分後の死亡確認例、同30分後に心停止例を示して、再度調査の必要性を指摘したのに対して、答弁書は「日本臓器ネットワークによれば、ヘパリンの投与により副作用が起こった事例はない。また、ヘパリンは、通常心臓が停止する直前に投与されるものと承知していることから、御指摘の事例について再度調査を行う必要はないと考えている」とした。
再質問主意書の「原則禁忌の薬剤(ヘパリン)を投与することについて、なぜ『身体に対する侵襲性が極めて軽微』であるのか、根拠を示されたい」と問いかけたのに対して、答弁書は「ネットワークによれば、副作用が起こった事例はないとのことである」と副作用がないことにのみ依拠して答弁した。
最後に再質問主意書が「通常の医療においても、薬剤の副作用についての説明が行われるのは当然である。ドナーが死亡を前提とした臓器提供が検討される場面において、原則禁忌の薬剤投与が検討される場合に、その副作用、侵襲性の大きさを説明しない文書を用いることは、ドナー候補者家族に対して不誠実と考えるが、政府の見解を問う」と指摘したことに対して、答弁書は「臓器提供が検討される場面では、ドナー候補者の家族に対して、適切な説明がなされることが必要であると考えている。このため、説明の際に使用する文書の記載や説明の仕方については、より適切な表現とするよう、ネットワークと検討していきたい」と答え、不適切な説明文書であることを認めた。
当Web注
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2006年10月に開催された第28回群馬移植研究会学術講演会において、群馬大学医学部付属病院の脳外科医9名は「コーディネーターのコーディネートが不完全で安心して任せられない、死体腎移植では法律の規定がなく主治医の判断が非難にさらされる可能性がある、その判断の中で特に腎臓保護の目的で出血性疾患にヘパリンを使用する事、・・・脳外科医としてはリスクばかりが増えてしまうので出来れば関わりたくない」と発表した。
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ヘパリンの副作用について、政府は1998年の山本 孝史衆議院議員の「死体腎移植の術前措置に関する質問主意書」に対する答弁書において、「ヘパリン投与による副作用は、ショック、出血、血小板減少、発熱、皮膚発疹、掻痒感等」と答弁しながら、「腎臓の摘出に際し術前措置として行われたヘパリンの注入によって副作用が起こった事例はない」とした。
前記の群馬大学の脳外科医のように、出血性疾患に抗血液凝固剤ヘパリンを投与すると再出血を引き起こし、最悪の場合は死亡させる可能性のあることは医療関係者の常識だ。厚労省・日本臓器移植ネットワークは、既に1619件のドナー候補者家族にヘパリンのリスクを説明しない文書を提示して臓器を獲得したことから、不適切な説明を行なった責任を追求されたくないがために「術前措置として行われたヘパリンの注入によって副作用が起こった事例はない」と繰り返していると見込まれる。
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再質問主意書に対する答弁が、「ヘパリンは、通常心臓が停止する直前に投与されるものと承知していることから、御指摘の事例について再度調査を行う必要はないと考えている」としていることは、「副作用が起こった事例がない」と強弁する他の事情を窺わせる。臓器摘出目的でヘパリンが投与されるタイミングは、臓器摘出準備が整った段階だ。臓器ドナーの心停止が、ヘパリン投与からほどなく発生しなければ、臓器摘出チームは数時間あるいは数日間の待機を強いられるため、ヘパリン投与による人為的心停止は臓器摘出チームの歓迎する現象になる。また、心停止に引き続いて臓器摘出が行なわれるため、ショック、出血、血小板減少、発熱、皮膚発疹、掻痒感などの副作用は観察・記録されることもない。
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出血性疾患あるいは外傷患者に、血を固まらせないための薬剤ヘパリンを投与することは、そのことのみで心停止を引き起こす可能性がある。心停止ドナー候補患者に対してヘパリンを投与することは、移植用臓器を獲得する目的で生前から第三者目的の違法性を阻却されない処置を行なうことと同時に、人為的に心停止を引き起こす可能性のある行為を行なうことになる。終末期医療のなかで人工呼吸器を停止して、心停止を引き起こすこととは重大性が異なり、臓器を提供する目的で死なせることまでも予定していることを意味する。
9月14日の答弁書は「説明の際に使用する文書の記載や説明の仕方については、より適切な表現とするよう、ネットワークと検討していきたい」と回答したが、厚労省・日本臓器移植ネットワークの考える「適切な表現」になったところで、「人為的心停止の許容」と「臓器提供目的で死なせることの許容」は、臓器移植法の想定している処置には該当しない。患者家族が承諾できる範囲も超えていることに対して、違法に承諾を迫る状況は変わらないと見込まれる。
8月10日提出の質問本文(HTML)はhttp://www.shugiin.go.jp/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a180367.htm、同文の質問本文(PDF)はhttp://www.shugiin.go.jp/itdb_shitsumon_pdf_s.nsf/html/shitsumon/pdfS/a180367.pdf/$File/a180367.pdf。
8月21日送付の答弁本文(HTML)はhttp://www.shugiin.go.jp/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/b180367.htm、同文の答弁本文はhttp://www.shugiin.go.jp/itdb_shitsumon_pdf_t.nsf/html/shitsumon/pdfT/b180367.pdf/$File/b180367.pdfで公開されている。
9月5日提出の再質問本文(HTML)はhttp://www.shugiin.go.jp/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a180416.htm、同文の質問本文(PDF)はhttp://www.shugiin.go.jp/itdb_shitsumon_pdf_s.nsf/html/shitsumon/pdfS/a180416.pdf/$File/a180416.pdf。
9月14日送付の答弁書本文(HTML)はhttp://www.shugiin.go.jp/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/b180416.htm、同文の答弁本文(PDF)はhttp://www.shugiin.go.jp/itdb_shitsumon_pdf_t.nsf/html/shitsumon/pdfT/b180416.pdf/$File/b180416.pdfで公開されている。
以下は左側に質問を掲載し、右側に対応した答弁を掲載する。
平成二十四年八月十日提出
質問第三六七号臓器移植医療に関する質問主意書
提出者 阿部知子 |
平成二十四年八月二十一日受領
答弁第三六七号 内閣衆質一八〇第三六七号
平成二十四年八月二十一日
内閣総理大臣 野田佳彦
衆議院議長 横路孝弘殿
衆議院議員阿部知子君提出臓器移植医療に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。
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臓器移植医療に関する質問主意書 |
衆議院議員阿部知子君提出臓器移植医療に関する質問に対する答弁書 |
T 脳死臓器提供におけるドナー管理について
脳死判定を受けて臓器を提供することは、ドナー候補者に対して救命治療が尽くされることを前提としている。また、臓器移植法は、法的脳死判定による死亡宣告がなされた後に、臓器摘出目的の処置を開始することを合法化している。ところが、実際の脳不全患者に対する治療を行っているはずの救急医、そしてドナー候補者の「評価」を行うメディカルコンサルタントによる論文には、救命治療が尽くされたか否かが不明の状況で、なおかつ明らかに法的脳死の宣告前から、臓器摘出目的の処置を開始したことが報告されている。
以下、引用する。
資料1
田中秀治(杏林大学医学部救急医学):「脳死の病態とドナー管理の実際」(『ICUとCCU』25(3)、p155−160、2001年)
この論文は、法的脳死判定7例目について記載している。
(要旨)
* 2000年4月23日患者が臨床的脳死に至り、翌日に患者家族から臓器提供の意思表示をいただいた。その時点では昇圧のため、アドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミン、ドブタミンを四剤併用し、収縮期血圧は60mmHg台であった。
* 患者の臓器提供の意思をかなえるべく、患者家族に昇圧剤の変更や輸液の増量、血漿製剤の使用の了解を戴き、ドナーの循環動態の改善に努めた。まず、昇圧剤に微量ADH(0.4IU/hrから開始)を併用し、輸液量を増加したところ、徐々に血圧が上昇し、結局ADHは0.9IU/hr量を維持投与した。循環動態の改善と心拍出量改善の結果、尿量の増加を認め、ドーパミン、ドブタミン、ノルアドレナリンの減量中止、が可能となった。また一過性の輸液の増量は結果的には水分バランスの改善を得ることが可能となった。本症例は安定した血圧と尿流出を得、心移植に適当なカテコールアミン濃度に減量されて、法的脳死判定を遂行することができた。
* P160に「本来ドナー管理は、法的脳死が確定してから行われる管理を示す言葉ではあるが、実際の臨床の現場では、むしろ法的脳死が確定するまでの間の管理こそ、本当の意味でのドナー管理がなされるべきであることを実感した」と記載し、法的脳死の死亡宣告前からドナー管理を行ったことを明記するだけでなく、他の医師にも推奨している。
資料2
福嶌教偉(大阪大学重症臓器不全治療学):「わが国における脳死臓器提供におけるドナー評価・管理 メディカルコンサルタントについて」(『移植』46〈4・5〉、p251−255、2011年)
(要旨)
* (p250)2002年11月以降は,メディカルコンサルタント(MC)が導入され,第一回目脳死判定以降に提供病院に派遣さ
れ,ドナーの評価を行い,第二回目脳死判定以降からドナー管理を行うようになっている。
* (p252)2002年当初はMCの数も少なかったが、2011年1月末には心臓移植施設から各2名(計18名)、肺移植施設
から各3名(計25名)、その他の臓器移植の移植医おのおの数名がJOTからMCの委託を受けている。
* (p252)提供可能な臓器数を増加させるとともに,移植後機能を良好にするための管理を行う。基本的には,呼吸循環管理を行い,循環動態を安定させることが重要である。本来は第二回目の脳死判定以後の管理となるが,ADHの投与,中枢ラインの確保(可能な限り頸静脈から),人工呼吸器の条件の改善,体位変換(時にファーラー位),気管支鏡などによる肺リハ,感染症の管理(抗生剤の投与など)は,提供施設の了解があれば,ドナー家族の脳死判定・臓器提供の承諾の取れた以後,可能である。
ドナー臓器の機能を温存するための管理は,第二回目の脳死判定が行われ,かつ家族の臓器提供への同意が得られてから開始する。心臓の場合には,脳死完成時およびそれに引き続くショックのために心筋が障害されているので,循環動態をうまく維持してやれば,必ずしも早急に摘出術を開始する必要はない。むしろstunningが改善されてから摘出した方がよい。
* (p254)臓器提供率を増加させた結果、ドナー1人当たりの提供臓器数、移植患者数は米国に比して高かった。MC導入以前の1〜10例目の平均はおのおの3.8臓器、3.7人であったのに対し、71〜80例目はおのおの6.8臓器、5.7人であった。
* (p255)現在、心臓・肺移植施設の協力を得て、緊急の連絡にもかかわらず、MCが提供病院に赴き、ドナー評価・管理を行なっているが、今後脳死臓器提供数がさらに増加するととても対応できない可能性もある。実際、同日に3〜4件のドナー情報があることもでてきており、MCが到着するまでに、ある程度のドナー評価・管理ができるようにすることも重要である。
福嶌は「本来は第二回目の脳死判定以後の管理となるが,ADHの投与,中枢ラインの確保(可能な限り頸静脈から),人工呼吸器の条件の改善,体位変換(時にファーラー位),気管支鏡などによる肺リハ,感染症の管理(抗生剤の投与など)」と、法的脳死の宣告前からのドナー管理の実施を明記している。
しかしこうした行為は、厳格な法令遵守の下に実施されるべき法的脳死判定・臓器提供の手続きに疑念と不信を生じさせる問題と考える。
右を踏まえ以下質問する。
1 脳死、三徴候死ともに、死亡宣告の前から臓器摘出目的のドナー管理を行うことは、臓器移植法の基本理念を揺るがす重大な違反と考えるが、認識はどうか。 |
Tの1について
脳死下での臓器提供を行う場合にあっては、臓器の移植に関する法律(平成九年法律第百四号。以下「臓器移植法」という。)に基づく脳死の判定(以下「法的脳死判定」という。)が行われる前の患者に対して、移植のために臓器を保存することのみを目的とした処置を行うことは不適切であると考えているが、患者の全身状態を維持するために必要な呼吸や血圧等の管理に係る処置のように、一般の患者に対しても治療等を目的として行われる処置であり、かつ、臓器移植を医学的に適正に実施する上で必要と認められるものについては、結果的に移植のために臓器を保存することに資する処置であっても、不適切であるとは考えておらず、臓器移植法が想定している処置であると考えている。
また、心停止下での臓器提供を行う場合にあっては、移植のために臓器を保存することのみを目的とした処置であっても、臓器移植を医学的に適正に実施する上で必要と認められる処置であり、かつ、身体に対する侵襲性が極めて軽微なものについては、患者に対して救命治療を尽くしたにもかかわらず脳死状態と診断された後に、当該処置を家族の承諾に基づいて行うことは、不適切であるとは考えておらず、臓器移植法が想定している処置であると考えている。 |
2 検証会議報告書では、メディカルコンサルタントによる違法なドナー管理が習慣化されていることについて、まったく記載がない。
検証が行われた症例で、メディカルコンサルタントが自ら行った、あるいはメディカルコンサルタントが指示した死亡宣告前のドナー管理の内容を再調査すべきと考えるが、どうか。
3 違法行為の再発防止のために、ドナー管理の詳細も検証し公表すべきと考えるが、どうか。
4 違法なドナー管理を行った医療関係者(救急医、メディカルコンサルタント、その指示を受け実行した者)は、再び同様の行為を行
わないよう、何らかの処分及び再教育が必要と考えるがどうか。 |
Tの2から4までについて
厚生労働大臣が開催する「脳死下での臓器提供事例に係る検証会議」では、法的脳死判定が行われる前の入院直後の治療や集中治療での呼吸管理等の全身管理に係る治療等の患者に対する救命治療の内容等を含め、臓器移植が、臓器移植法、臓器の移植に関する法律施行規則(平成九年厚生省令第七十八号)及び「「臓器の移植に関する法律」の運用に関する指針(ガイドライン)」(平成九年十月八日付け健医発第一三二九号厚生省保健医療局長通知別紙)に基づき、適切に行われたことについて検証している。このため、お尋ねのドナー管理の内容の再調査、詳細の検証や医療関係者の処分等の必要はないと考えている。 |
U 日本臓器移植ネットワークの「ドナー候補者家族に対する説明文書」について
死体からの移植用臓器提供に際して、日本臓器移植ネットワークは、臓器提供を検討するドナー候補者家族に正確な説明を行って承諾を得ることが求められる。しかし、同ネットワークのドナー候補者家族に対する説明文書「ご家族の皆様方にご確認いただきたいこと」(以下説明文書という)は、「6.心臓が停止した死後の腎臓提供について」において、抗血液凝固剤ヘパリンの投与が、血液凝固を阻止する目的であることは説明しているが、ドナー候補者に不利益となることは一切記載していない。以下、当該箇所を引用する。
6.心臓が停止した死後の腎臓提供について
(1) 術前処置(カテーテルの挿入とヘパリンの注入)について
@ カテーテルの挿入
心臓が停止した死後、腎臓に血液が流れない状態が続くと腎臓の機能は急激に悪化し、ご提供いただいても、移植ができなくなる場合があります。そこで、脳死状態と診断された後、心臓が停止する前に大腿動脈および静脈(足のつけねの動脈と静脈)にカテーテルを留置しておき、心臓が停止した死後すぐに、このカテーテルから薬液を注入し、腎臓を内部から冷やすことにより、その機能を保護することが可能となります。ご家族の承諾がいただければ、この処置をさせていただきます。なお、この処置は、心臓が停止する時期が近いと思われる時点で、主治医、摘出を行う医師、コーディネーター間で判断し、ご家族にお伝えした後に行います。処置に要する時間は通常1時間半程度です。
A ヘパリンの注入
心臓が停止し、血液の流れが止まってしまうと腎臓の中で血液が固まってしまい、移植ができなくなる場合があります。そのため、脳死状態と診断された後、心臓が停止する直前にヘパリンという薬剤を注入して血液が固まることを防ぎます。(引用終わり)
ドナー候補者には、外傷患者や脳血管障害の患者がいる。そのような患者に、受傷後間もない時期に抗血液凝固剤ヘパリンを投与したら、再出血させて致死的状態に陥らせる可能性が高いので、外傷患者や脳血管障害の患者へのヘパリン投与は、数週間行わない方針の施設が多く、原則禁忌の薬剤である。
薬物全般に共通することだが、抗血液凝固剤ヘパリンも血液循環のある状態で投与しないと効果がない。「心停止後の臓器提供」と称する行為においては、抗血液凝固剤ヘパリンの投与は、ドナー候補者の心臓が拍動している状態=死亡宣告前に行うか、または心停止による死亡宣告後に投与する場合でも、ヘパリンを全身にいきわたらせるために心臓マッサージを行い、2万単位あるいは5万単位と大量に投与されている。心停止後にヘパリンを投与するケースでは、ドナーに一般の脳死判定もできないケースがあり、そのようなドナーは心停止後のヘパリン投与と同時に行われる心臓マッサージで、痛み・恐怖を感じ得る生体状態に戻る恐れがある。
仮に心停止があっても、数分以内であれば自然に心臓の拍動が再開し後遺症なく社会復帰した人もおり、心臓マッサージにより蘇生する可能性がある。仮に蘇生しなくとも、血液循環のある状態で投与された薬物の作用で、ドナー候補者に意識や痛みを感じさせる可能性も考えられる。
一方で、移植用の臓器を獲得する目的では、この説明文書が書いているように「心臓が停止し、血液の流れが止まってしまうと腎臓の中で血液が固まってしまい、移植ができなくなる場合があ」る。
以上を踏まえ、以下質問する。
1 説明文書は、ドナー候補者家族に対して、抗血液凝固剤ヘパリンの副作用に言及していないが、この文書は、いつから使用され、何人のドナー候補者家族に提示されたのか。 |
Uの1について
社団法人日本臓器移植ネットワークによれば、「臓器提供についてご家族の皆様方にご確認いただきたいこと」(以下「説明文書」という。)は、同法人の前身である社団法人日本腎臓移植ネットワーク発足時の平成七年四月一日から使用されている。説明文書を提示したドナー候補者の家族の数は承知していないが、説明文書は、同日から平成二十四年七月三十一日までの間に行われた千六百十九件の脳死下又は心停止下での臓器提供事例の説明の際に使用された。 |
2 ヘパリン投与は、ドナー候補者を傷害し、苦痛を与え、心停止を引き起こしかねない行為である。しかし、説明文書は、抗血液凝固剤ヘパリンが外傷患者、脳血管障害の患者に原則禁忌の薬剤であることを説明していない。これまで行われたすべての心停止後の死後の臓器提供例において、ご家族から提供の承諾を得るにあたり、医師から口頭で説明が行われたとは考えにくいが、ドナー候補者の救命目的ではなく、移植用臓器獲得目的での薬物投与は、傷害行為になり違法性は阻却されない。死亡宣告前に行うべきではないと考えるがどうか。
3 「血液循環下でヘパリンを投与することが移植用臓器を獲得する目的では不可欠」、しかし「血液循環下の薬物投与は傷害であり、死亡宣告を行なった根拠となる心停止を覆しかねない蘇生や苦痛を感じさせる行為になる」のならば、これらの移植用臓器獲得目的の薬物投与は「心臓が停止した死後の臓器提供」の枠組みで行ってはならないことになる。法的脳死判定手続き下でしか許されない行為と考えるが、見解を示されたい。 |
Uの2及び3について
Tの1についてで述べたとおり、心停止下での臓器提供を行う場合にあっては、移植のために臓器を保存することのみを目的とした処置であっても、臓器移植を医学的に適正に実施する上で必要と認められる処置であり、かつ、身体に対する侵襲性が極めて軽微なものについては、患者に対して救命治療を尽くしたにもかかわらず脳死状態と診断された後に、当該処置を家族の承諾に基づいて行うことは、不適切であるとは考えていない。
御指摘のヘパリンの投与については、心停止により血液が途絶すると腎臓の細胞の壊死が急速に進行して移植後の生着率に大きく影響することから、患者の心停止後できるだけ速やかに灌流液を流すため、医療現場で一般的に行われている処置と承知している。また、社団法人日本臓器移植ネットワークによれば、平成七年四月一日から平成二十四年八月十六日までの間に、移植のための腎臓の摘出に際し、術前処置として行われたヘパリンの投与により、ショック、出血、発熱等の副作用が起こった事例はないとのことであり、心停止下での臓器の提供を行う場合に、患者に対して救命治療を尽くしたにもかかわらず脳死状態と診断された後に、ヘパリンの投与を家族の承諾に基づいて行うことは、不適切であるとは考えていない。 |
4 心停止後と称する臓器提供では、「一般の脳死判定」として、法的脳死判定手続きを簡略化した脳死判定方法で、臓器摘出目的の行為がスタートしている施設がみられる。ドナーに一般の脳死判定もできないケースもある。このような簡易化した脳死判定、または明らかに脳死判定もできない患者を臓器ドナーとすることは、生体解剖になる恐れが大きい。そのようなドナーは心停止後のヘパリン投与と同時に行われる心臓マッサージで、痛み・恐怖を感じ得る生体状態に戻る恐れが指摘されている。
温阻血時間(人体から摘出する臓器が冷却するまでの時間)が0分など、三徴候死を確認しないで臓器摘出をしている施設もある。「一般的脳死判定」そして「心臓が停止した死後の臓器提供、心停止後の臓器提供」は速やかに廃止し、法的脳死判定手続きに一本化すべきではないか。政府の見解を示されたい。
右質問する。 |
Uの4について
政府としては、臓器提供を行う場合にあっては、臓器提供者の意思が尊重されなければならないと考えている。心停止下での臓器提供の意思はあるが、脳死下での臓器提供は望まない者もいること等から、お尋ねのように心停止後の臓器提供を廃止し、法的脳死判定の手続による臓器提供に一本化することは考えていない。 |
平成二十四年九月五日提出
質問第四一六号臓器移植医療に関する再質問主意書
提出者 阿部知子 |
平成二十四年九月十四日受領
答弁第四一六号 内閣衆質一八〇第四一六号
平成二十四年九月十四日
内閣総理大臣 野田佳彦
衆議院議長 横路孝弘殿
衆議院議員阿部知子君提出臓器移植医療に関する再質問に対し、別紙答弁書を送付する。 |
臓器移植医療に関する再質問主意書
前回答弁書(内閣衆質一八〇第三六七号。以下、答弁書という)を踏まえ、以下質問する。 |
衆議院議員阿部知子君提出臓器移植医療に関する再質問に対する答弁書 |
一 ドナー管理の開始時期について
(一) 答弁書は、「脳死下での臓器提供を行う場合にあっては(中略)臓器移植法が想定している処置」とは、臓器の移植に係るいかなる法令に基づいて想定しているのか。名称と該当条文を示されたい。
(三) 答弁書は「心停止下での臓器提供を行う場合(中略)臓器移植法が想定している処置」としていることは、臓器の移植に係るいかなる法令に基づいて想定しているのか。名称と該当条文を示されたい。 |
一の(一)及び(三)について
先の答弁書(平成二十四年八月二十一日内閣衆質一八〇第三六七号。以下「前回答弁書」という。)Tの1についてで「臓器移植法が想定している処置」と述べたのは、臓器の移植に関する法律(平成九年法律第百四号。以下「臓器移植法」という。)は、患者に対して十分な救命治療が行われることを当然の前提として、移植医療の適正な実施に資することを目的としていることに照らして、不適切な処置ではないという趣旨である。 |
二) 答弁書は「移植のために臓器を保存することのみを目的とした処置を行うことは不適切であると考えているが、一般の患者に対しても治療等を目的として行われる処置(中略)は臓器移植法が想定している処置」としているが、旧臓器移植法の審議過程で日本移植学会理事長がドナー管理の開始は脳死判定後と明言している。
一九九七年四月八日衆議院厚生委員会議事録より以下に引用する。
児玉健次委員(日本共産党)
野本教授には、移植学会がお出しになった「臓器提供マニュアル(案)」でございますが、そこの十二ページのところに「臓器提供に望ましいドナーの状態とその維持」と「脳死が診断され、臓器提供の可能性を考える時」、この「可能性を考える時」というのが読んでいてどうしても理解できません。そして、それに続いて「脳死判定が終了した時点で完全に切り替え」るとあります。それでは、不完全な、先行的な切りかえは事前になされるのかという疑念を持ちます。この点について、お考えをお伺いしたいと思います。」
日本移植学会理事長野本参考人
「可能性を考えて、何か動くような可能性があるのではないかという御指摘ですけれども、これは、そういうことを一度でもやらせま
したら、もうそれで、日本で移植が医療として定着する可能性は壊滅します。当然、そこで、あくまで救急医の先生方が最後の最後まで治療、救命に働いた後から始まることだ。だから、そこの点までは救急医の先生方の責務ということですので、そこから後、初めて移植医の責務が始まると私は考えておりますので、前もって何かを起こすというようなことは、もしだれかがしようとしても私はさせるつもりはありませんし、それから救急医の先生方がまずそれをさせることはあり得ませんので、そこはまずないと考えていいと思います。
それから、もう一つの視点の「完全に」云々という言葉ですが、これはお許しください。先ほども言いましたように、我々の社会の中で、特に臨床の患者さんと接触をしている人たちは、患者さんの主観的な言葉といつも接触しておるものですから、言葉に非常に意味無用、何というのですかね、強調語とか修飾語を使い過ぎるくせがあります。この場合の「完全に」というのも、例えば、一生懸命にという程度の言葉で、非常にまともなワードではないと考えていただいたらいいと思います。
それで、先ほど言いましたように、三月二十二日のは、私は、大綱としてはよろしい、移植学会案として。しかし、書いておる内容は、一般市民の方々が読まれたら、随分、あちこちで戸惑う表現が多い。それを早急に直すように指摘しておるのですが、習慣になっておるものですから、そういう意味で使ったのではないということで、私の方がやっつけられたりもしながら、今、直させております。「完全に」という言葉は、むしろそういう、無用の言葉だとお考えください。」
(引用終わり)
上記の応答にあるとおり、ドナー管理の開始時期は、臓器提供者に対する救命が尽くされたか否かが懸念されるからこそ、日本移植学会理事長は明確に開始時期を脳死判定終了後と発言せざるを得なかったのである。旧臓器移植法の附帯決議も、臓器提供者に救命を尽くすべきことを強調した。臓器移植に対する国民の信頼確保の点からも、ドナー管理は法的脳死判定による死亡宣告後とすることが必要と考えるが、政府の見解を示されたい。 |
一の(二)について
お尋ねの「ドナー管理」が何を指すのか必ずしも明らかではないが、前回答弁書Tの1についてで述べたとおり、脳死下での臓器提供を行う場合にあっては、臓器移植法に基づく脳死の判定が行われる前の患者に対して、移植のために臓器を保存することのみを目的とした処置を行うことは不適切であると考えている。 |
四) 従来より、医療行為は患者本人に対する治療目的があることにより違法性は阻却されてきたが、脳死そして心停止下の臓器提供の場合は、臓器提供者本人にとっての治療目的はない。このため、臓器提供者が死亡宣告された後に、臓器摘出目的の行為の開始が許容されてきた。ところが、答弁書は、心停止下での臓器提供を行う場合は、心停止による死亡宣告前から「脳死状態と診断された後に」臓器摘出目的の行為を許容している。答弁書のごとく「心停止の死亡宣告前でも、脳死状態と診断された後に違法性は阻却される」のならば、心停止の死亡宣告前でも、法的脳死判定手続きによらず、脳死状態と診断された段階で死亡宣告を行ったことになるのではないか。法的脳死判定手続きを形骸化する答弁ではないか。 |
一の(四)について
前回答弁書Tの1については、心停止下での臓器提供を行う場合にあっては、臓器移植を医学的に適正に実施する上で必要と認められる処置であり、かつ、身体に対する侵襲性が極めて軽微なものについて、患者に対して救命治療を尽くしたにもかかわらず脳死状態と診断された後に、当該処置を家族の承諾に基づいて行うことは、不適切であるとは考えていないことを述べたものであり、「心停止の死亡宣告前でも、法的脳死判定手続きによらず、脳死状態と診断された段階で死亡宣告を行ったことにな」り、「法的脳死判定手続きを形骸化する」との御指摘は当たらないと考えている。 |
五) 答弁書は「心停止下での臓器提供を行う場合、(中略)身体に対する侵襲性が極めて軽微なものについては(中略)臓器移植法が想定している処置」としている。では身体に対する侵襲性が強度なものは許容されないと判断しているのか。また、侵襲性の強弱は何によって判断するのか、その基準を示されたい。 |
一の(五)について
一般論としては、心停止下での臓器提供を行う場合にあっては、心停止前に、移植のために臓器を保存することのみを目的とした身体に対する侵襲性が強い処置を行うことは、許容されないと考えている。また、処置の身体に対する侵襲性の強弱については、処置の内容や個々の患者の症状に応じて医学的に判断されるべきものであり、一律の基準を示すことは困難である。 |
二 違法なドナー管理に関連して
ドナー管理に関する質問に対し、答弁書は「厚生労働大臣が開催する『脳死下での臓器提供事例に係る検証会議』では、(中略)適切に行われたことについて検証している。このため、お尋ねのドナー管理の内容の再調査、詳細の検証や医療関係者の処分等の必要はないと考えている」としている。
メディカルコンサルタントは、臓器の移植に係るいかなる法令に基づいているのか。名称と該当条文を示されたい。また、行うことが可能な行為の名称と、行為ごとに実行が許容される時期は、どの法令にどのように記載されているのか、それぞれ列記されたい。 |
二について
お尋ねの「メディカルコンサルタント」は、提供予定の臓器の評価を行う医師である社団法人日本臓器移植ネットワーク(以下「ネット
ワーク」という。)のメディカルコンサルタントを指すと考えるが、当該メディカルコンサルタントについては、法令に位置付けられてい
るものではない。 |
三 日本臓器移植ネットワークの「ドナー候補者家族に対する説明文書」におけるヘパリン投与の説明に関して
答弁書は「不適切であるとは考えていない。(中略)日本臓器移植ネットワークによれば、(中略)移植のための腎臓の摘出に際し、術前処置として行われたヘパリンの投与により、ショック、出血、発熱等の副作用が起こった事例はないとのことであり、心停止下での臓器の提供を行う場合に、患者に対して救命治療を尽くしたにもかかわらず脳死状態と診断された後に、ヘパリンの投与を家族の承諾に基づいて行うことは、不適切であるとは考えていない」と回答した。
(一) 『今日の移植』二五巻二号p一五五〜p一六〇(二〇一二年)掲載の「立川綜合病院における臓器提供の現況」によると、一三時四〇分にヘパリンを投与された脳出血患者が一四時二六分に死亡確認されたと報告されている。また『臨床と研究』八二巻八号p一四一七(二〇〇五年)掲載の「迅速組織診断の結果、移植を決断した死戦期無尿状態献腎移植の二例」によると、小脳出血患者にヘパリンが投与されて三〇分後に心停止となっている。
ヘパリン投与による再出血、ショックなどの可能性があると考える。再度調査し、ヘパリン投与時刻と心停止時刻、ヘパリン投与後のドナーの容態変化を確認すべきと考えるがどうか。 |
三の(一)について
ネットワークによれば、平成七年四月一日から平成二十四年九月六日までの間に、心停止下での臓器提供を行った場合を含め、移植のための腎臓の摘出に際し、術前処置として行われたヘパリンの投与により、ショック、出血、発熱等の副作用が起こった事例はないとのことであり、また、ヘパリンについては、通常心臓が停止する直前に投与されるものと承知していることから、御指摘の事例について再度調査を行う必要はないと考えている。 |
(二) ヘパリンの原則禁忌(患者には投与しないことを原則とするが、特に必要とする場合には慎重投与)とする患者は、出血してい
る患者、出血する可能性のある患者、重篤な肝障害・腎障害のある患者、中枢神経系の手術または外傷後日の浅い患者、などが列記されている。献腎ドナーの約六割が外傷や脳血管障害であり、原則禁忌に該当する患者が多い。
原則禁忌の薬剤を投与することについて、なぜ「身体に対する侵襲性が極めて軽微」であるのか、根拠を示されたい。 |
三の(二)について
三の(一)についてで述べたとおり、ネットワークによれば、平成七年四月一日から平成二十四年九月六日までの間に、移植のための腎臓の摘出に際し、術前処置として行われたヘパリンの投与により、ショック、出血、発熱等の副作用が起こった事例はないとのことである。 |
(三) 通常の医療においても、薬剤の副作用についての説明が行われるのは当然である。ドナーが死亡を前提とした臓器提供が検討される場面において、原則禁忌の薬剤投与が検討される場合に、その副作用、侵襲性の大きさを説明しない文書を用いることは、ドナー候補者家族に対して不誠実と考えるが、政府の見解を問う。
右質問する。 |
三の(三)について
臓器提供が検討される場面では、ドナー候補者の家族に対して、適切な説明がなされることが必要であると考えている。このため、説明の際に使用する文書の記載や説明の仕方については、より適切な表現とするよう、ネットワークと検討していきたい。 |
法的「脳死」臓器移植患者の死亡は累計87名
肺、肝臓、小腸の移植患者、各1名が死亡
日本臓器移植ネットワークは、9月4日に更新した移植に関するデータページhttp://www.jotnw.or.jp/datafile/offer_brain.htmlにおいて、法的
「脳死」臓器提供にもとづき肺移植、肝臓移植、小腸移植を受けた患者の死亡が、それぞれ1名増加し、法的「脳死」臓器移植患者の死亡は、心臓5名、肺28名、肝臓31名、膵腎同時6名、腎臓13名、小腸4名の累計87名に達したことを表示した。
これまでの臓器別の法的「脳死」移植レシピエントの死亡情報は、臓器移植死ページに掲載。
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