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医師・医療スタッフの脳死・移植に対する態度
Medical doctors do not want to have donor cards for organ transplantation.
移植学会理事長も持っていないドナーカード、臓器移植がさかんな米国も医師のドナーカード所持は少ない。
*古川 哲雄(千葉西総合病院神経内科):医師はドナーカードを持ちたがらない、神経内科、59(6)、662、2003
数年前、移植学会理事長のN教授が脳死臓器移植促進の講演をされたあとの懇親会で、「先生はドナーカードをお持ちですか」と尋ねた。「いえ、持っていません。私はもう年ですから」「60歳くらいではまだ使える臓器はいくらでもあるのに、じゃ、お子さんはどうですか?」「こどもは本人の自由意志にまかせてありますから」こういう返事であった。
筆者は今までに臓器を提供するというドナーカードを持っている医師に会ったことがない。移植ネットワークに関係している人もあいまいな返事であった。米国UCLAの小児神経学のAlan Shewmon教授に会った時、ドナーカードを持っている医師をご存じか尋ねてみたが、アメリカでもドナーカードを持っているmedical
doctorは知らないとの返事であった。彼は脳死臓器移植に反対である。筆者は今までに何度も発表した理由でもちろんドナーカードは持っていない。
脳死からの臓器摘出がどのようなものかよく知っている人はドナーカードを持たないで、なにも知らない素人に持つようにすすめているのが現状である。小児からの臓器移植が検討されているが、検討している専門家たちや家族はドナーカードを持っているのであろうか?
自分では持ちたくないものを他人には持たせたい。これほど大きな欺瞞があろうか?
当サイト注:厚労省疾病対策部会臓器移植委員会の議事録によると、日本移植学会の野本理事長が法学雑誌に登場し、その時は臓器提供意思表示カードを持っていたが、記載不備のカードだったとのこと。
移植医が家族には臓器提供意思表示カードを持たないように言った実例はこちら。
カナダ・オンタリオ州の医師、43.3%が臓器提供意思ありと登録
*Alvin Ho-ting Li, BHSc(Department of Epidemiology and
Biostatistics, Western University):Physician Registration for Deceased Organ
Donation,JAMA,312(3),291-293,2014
2013年5月17日時点で、カナダ・オンタリオ州で診療を行っている医師のうち、研究に同意し年齢、性、収入や居住地域のマッチングと解析が可能であった1万5233人のうち、6596人(43.3%)が臓器提供の意思ありと登録していた。マッチングされた市民群1万7975人の臓器提供登録状況は29.5%、一般市民群259万6755人では23.9%だった。
医師は「移植のために臓器/組織提供」に100%賛成、「自身が死亡した時臓器提供は」28%が「いいえ」「分からない」
*西山 幸枝(藤田保健衛生大学病院移植医療支援室):当院HAS調査から、脳死・脳蘇生、27(1),38,2014
藤田保健衛生大学病院の臓器提供関連10部署にHAS調査を実施、142枚配布し回収率は69%(98枚)であった。
医師は「移植のために臓器/組織提供をどう思うか」に100%賛成、「自身が死亡した時臓器提供はどうか」では28%が「いいえ」「分からない」であった。
看護職員は80%賛成に対し57%が「いいえ」「分からない」であった。
子供の臓器提供賛成率は子供がいる人は19%、子供がいない場合5%であった。
「臓器提供は家族の悲しみを癒すか」には27%の人が癒すと答えた。
*花木 奈央(名古屋第二赤十字病院救急部):脳死下臓器提供に関する職種間格差と院内勉強会の効果、日本臨床救急医学会雑誌、16(1)、1−6、2013
脳死下臓器提供施設であり、臓器提供・臓器移植の経験を有する当院において、職員の脳死下臓器提供に関する意識と院内勉強会の効果を調べるために、全職員を対象にした意識調査を行った。調査はドナーアクションプログラムの職員意識調査を用い、1回目の1ヵ月後に勉強会(参加は病院職員全体の10%未満)を開催し、さらに約1ヵ月後に再度同じ意識調査を行った。回収率は1回目79.4%、2回目81%であった。
脳死を人の死とすることに賛成する割合(医師、看護師、事務・その他)は、それぞれ
1回目(68.9%、33.5%、33.4%)、
2回目(66.7%、33.5%、33.7%)。
脳死下臓器提供に賛成する割合(医師、看護師、事務・その他)は、それぞれ
1回目(83%、 77%、 67%)
2回目(70.8%、75.1%、67.1%)
自分の臓器提供意思がある割合(医師、看護師、事務・その他)は、それぞれ
1回目(46%、 45%、 36%)
2回目(39.6%、42.9%、32.6%)
家族(成人)の臓器提供に賛成する割合は(医師、看護師、事務・その他)は、それぞれ
1回目(67%、 65%、 54%)
2回目(60.4%、60.8%、52.1%)
子どもがいない場合は、いると想定して回答することとして、家族(小児)の臓器提供に賛成する割合(医師、看護師、事務・その他)は、それぞれ
1回目(13%、 11%、 14%)
2回目(14.6%、10.5%、11.8%)
*花木 奈央(名古屋第二赤十字病院救急部):脳死下臓器提供に関する医師の意識調査、日本救急医学会雑誌、21(8)、399、2010
当院は脳死下臓器提供指定施設であり、2008年度に3例の臓器提供を経験している。2010年3月下旬に初期研究医を含む231名に、無記名選択方式のアンケートを配布、157名から回答を得た(うち白紙1名)。臓器提供に関して何らかの意思表示をしている者は37%(2008年内閣府世論調査では8.8%)。自分自身について臓器提供の意思がある者は42%(世論調査43.5%)。家族に関しては、成人家族の臓器提供に関して同意をする者は35%、小児家族の臓器提供については同意する者は18%であった。
今回の調査では、脳死下臓器提供に関する意思表示は内閣府の実施した世論調査に比して高率であったが、臓器提供の意思は世論調査とほぼ同率であった。
#csh
移植関連病棟の看護師:臓器提供意思表示カード6割は持っていない、拒否表示可能なこと16%は知らない
*太田 尚伸、鍵市 友香、山田 浩美、成田 祐子(札幌市病院局市立札幌病院):一般病棟看護師の臓器移植に関する意識調査 救命救急センター・移植外科病棟との比較から、第41回日本看護学会論文集(看護総合)、104−107、2010
A病院は臓器提供・移植施設である。臓器提供は救命救急センターで行なわれ、腎臓移植外科病棟で腎移植が行なわれている。2009年10月〜11月、A病院に勤務する実務経験1年以上の看護師で、救命救急センターと腎臓移植外科病棟(以下、移植関連病棟とする)73名、その他の入院病棟(以下、一般病棟とする)に勤務する看護師75名に質問紙調査を行なった。
有効回答は移植関連病棟63名(看護師実務経験年数10年以上が57.1%)、一般病棟61名(看護師実務経験年数10年以上が32.8%)。
(注:18の設問のうち、以下では12問を掲載) |
|
移植関連病棟
n=63
(%) |
一般病棟
n=61
(%) |
有意差
n=124*p<0.05
**p<0.01 |
臓器提供意思表示カードの所持の有無 |
持っている
持っていない |
22(34.9)
40(63.5) |
14(23.0)
47(77.0) |
|
知識1 臓器の移植に関する法律の存在 |
知っている
知らない |
62(98.4)
1( 1.6) |
57(93.4)
4( 6.6) |
|
知識2 A病院は臓器提供・移植施設である |
知っている
知らない |
63(100)
0(0.0) |
55(90.2)
6( 9.8) |
|
知識3 臓器提供意思表示カードに提供を拒否する表示が可能 |
知っている
知らない |
53(84.1)
10(15.9) |
46(75.4)
15(24.6) |
|
知識8 A病院には院内移植コーディネーターがいる |
知っている
知らない |
63(100)
0( 0.0) |
32(52.5)
29(47.5) |
** |
認識2 臓器移植に賛成か反対か |
反対
どちらでもない
賛成 |
4( 6.4)
23(36.5)
36(57.1) |
1( 1.6)
14(23.0)
46(75.4) |
|
認識3 脳死は人の死ではない |
思わない
どちらでもない
思う |
9(14.3)
26(41.3)
28(44.4) |
23(37.8)
19(31.1)
19(31.1) |
* |
認識4 臓器移植に携わりたい |
思わない
どちらでもない
思う |
10(15.9)
25(39.7)
28(44.4) |
25(41.0)
25(41.0)
11(18.0) |
** |
認識5 臓器移植に関するセミナーや学習会に参加したい |
思わない
どちらでもない
思う |
9(14.3)
11(17.5)
43(68.2) |
17(27.9)
15(24.6)
29(47.5) |
** |
認識6 自分自身が脳死になったら臓器提供したい |
思わない
どちらでもない
思う |
19(30.1)
10(15.9)
34(53.9) |
15(24.6)
8(13.1)
38(62.3) |
|
認識7 自分の家族が脳死になったら臓器提供したい |
思わない
どちらでもない
思う |
28(44.4)
22(34.9)
13(20.7) |
32(52.5)
12(19.7)
17(27.9) |
|
認識9 臓器移植に関する情報は充分に得られている |
思わない
どちらでもない
思う |
41(65.0)
9(14.3)
13(20.7) |
44(72.1)
5( 8.2)
11(18.0) |
|
認識10 脳死は人の死である |
思わない
どちらでもない
思う |
8(12.7)
27(42.9)
27(42.9) |
21(34.4)
16(26.2)
22(36.1) |
* |
考察において太田氏らは「注目したいこととして、臓器移植の是非、自分や家族がドナーになることへの考え方については所属病棟間での差はなかったことが挙げられる。臓器移植の是非について移植関連病棟の看護師は、移植後の臓器が必ずしも良好に機能しない事例や自己管理ができず移植臓器が廃絶に至った事例を経験している。また、死亡宣告後は速やかに臓器を摘出する必要があるために、患者と家族が過ごす時間に制約が生じてしまう現状を経験していることで、必ずしも肯定的な思いになるとは限らないことが背景にあると考える。(中略)「脳死は人の死である」の質問で所属病棟間の有意差は出たが、回答としてどちらでもないという意見も多く見られた。(中略)これらのことより臓器移植に感ずる経験の有無だけが考え方を左右するのではないと考える」としている。
当サイト注
1、認識3「脳死は人の死ではない」と認識10「脳死は人の死である」は、「脳死判定基準を満たしたら人の死」を否定する設問と肯定する設問になっている。
従って、認識3で「脳死は人の死ではない」に「思う」と回答した移植関連病棟の28名は、認識10「脳死は人の死である」には「思わない」と回答しそうだが、実際には認識10で「思わない」の回答は8名に激減した。
また、認識3で「脳死は人の死ではない」に「思わない」と回答した移植関連病棟の9名は、認識10「脳死は人の死である」には「思う」と回答しそうだが、実際には認識10で「思う」の回答は27名に激増した。
移植関連病棟(救命救急センターと腎臓移植外科病棟)に勤務する看護師は、質問紙をよく読まずに拙速に回答を記入する状況があったと見込まれるが、このことについて太田氏らは分析していない。
2、市立札幌病院救命救急センターの院内移植コーディネーター、佐藤 真澄氏は、日本救急看護学会雑誌7巻1号p66(2005年)で、心停止後腎臓提供において、脳死は人の死であることが前提の移植医療、移植のための臓器管理が行なわれ、戸惑いやジレンマを感じている看護師がいたことを報告している。
3、臓器提供意思表示カードの所持=臓器を提供する意思の記入ではない。一般的には所持しているだけで、未記入の人が大多数。
*佐藤 凛(聞き手・市野川 容孝):家族として脳死と臓器移植を経験して、岩波ブックレットbV82 いのちの選択 いま考えたい脳死・臓器移植、第2章p49〜p59、2010
以下は、佐藤 凛さん(仮名)が、家族からの法的脳死臓器摘出前、そしてドナーファミリーの会合で移植医と会って感じたこと。
移植医とは最初、ICUのなかですれ違って挨拶した程度でしたが、その時に思ったのは、この人はきっと心臓や肺が必要なだけで、相手を治療すべき患者としては見ていないな、ということでした。そうではなくて、こういう理由で、こういう状態になった患者から手術して臓器を持っていくんだということを理解してほしくて、手術する前に一言、言わせてほしいと強くお願いしました。
移植医に何をしゃべったかは覚えていません。ともかく、ちゃんと手術をしてほしいということを伝えたかったのですが、向こうは、会ってはいけない人に会ってしまったというような、下を向いて、申し訳ない顔をする。なぜなのかわかりません。もし、それが罪悪感のようなものだとしたら、移植もやめればいいのにと思います。
臓器提供に同意した家族の会に行ったときに、どういう文脈だっかは忘れましたが、ある移植医が「自分の妻には移植はさせない」といったんです。「それを世の人に言ってください!」と思いました。もし医者が、提供する側でも、移植される側でも、当事者の立場だったら、どう考えるのか、知りたかったから。
自分の妻だったら、当事者だったら移植させないと思っているのに、職業として移植を推進することは認められている。それは矛盾しているのに、提供に同意した私と同じように、医者も罰せられないのは、やはり制度になっているからだと思います。そういう仕組みは、一度つくられてしまうと、間違っていても、変えるのはなかなか難しいのかもしれません。
(中略)脳死判定だけでなく、私は翌日の摘出手術も全部、見たかった。それが可能だということを教えてくれなかったことは、今でも腹が立ちます。 |
*日本小児腎臓病学会あり方委員会:小児移植医療に関するアンケートの集計結果、日本小児腎臓病学会雑誌、22(2)、245−250、2009
2008年3月28日付で学会員すべてを対象に質問紙を郵送にて送付した。その結果をFAXにて244名(回収率24.0%)の回答が得られた。回答方法がFAXであったため匿名性が保てないことを危惧して回答できなかった会員が少なからず存在した可能性がある。
-
臓器提供意思表示カードをお持ちですか?=はい90名(36.8%)、いいえ150名(61.4%)、不明4名(1.6%)
-
臓器提供意思表示カードに自分の意思を記入していらっしゃいますか?=はい82名(所持者に対して91、1%)、いいえ92名、不明70名
-
家族が臓器提供意思表示カードに脳死後の臓器提供の承認を記載されている場合、脳死判定とその後の臓器提供を承諾されますか?=はい195名(79.9%)、いいえ7名(2.8%)、どちらともいえない36名(14.7%)、不明6(2.4%)
-
移植医療に賛成ですか?=はい195名(79.9%)、いいえ2名(0.8%)、どちらともいえない20名(8.1%)、特定の臓器に限り賛成21名(8.6%)、不明6(2.4%)
*山川 智之:腎移植患者紹介施設としての関わり、日本透析医学会雑誌、38(6)、1269−1270、2005
- 調査対象:仁真会白鷺病院および関連クリニックの職員345名(回答326名・94.5%)、透析患者742名(回答416名・56.1%)
- 調査時期:2003年11月
職員の回答
- ドナーカード所持率20.9%
- 脳死臓器提供の意思がある120名(36.8%)、この120名のドナーカード所持率42.5%
- 心臓死時に臓器提供の意思がある49名(15.0%)、この49名のドナーカード所持率20.4%
- 透析が必要な末期腎不全患者になったと仮定して、献腎移植登録をしない189名
その理由は
- 移植療法に不安(88名、46.6%)
- 移植の費用に不安(42名、22.2%)
- 移植の順番がこない(33名、17.5%)
- 末期腎不全になった場合、生体腎移植を希望するか
- 申し出があれば受けたい44名(13.5%)
- 条件次第で受けたい120名(36.8%)
- 申し出があっても受けたくない66名(20.2%)
透析患者の回答
-
移植療法を希望する87名(20.9%)、希望せず240名(57.7%)。60歳未満(147名)に限ると移植希望者60名(40.8%)、非希望者51名(34.7%)。
-
献腎移植登録中27名(6.4%)、登録を検討47名(12.0%)、過去に登録していた50名(12.0%)。60歳未満に限るとそれぞれ22名(15.0%)、32名(21.8%)、25名(17.0%)
- 献腎移植登録をしない60歳未満患者130名
その理由は
- 移植療法に不安(40名、38.8%)
- 移植の費用に不安(35名、34.0%)
- 移植の順番がこない(34名、33.0%)
- 生体腎移植を希望するか
- 申し出があれば受けたい46名(11.1%)
- 条件次第で受けたい56名(13.5%)
- 申し出があっても受けたくない189名(45.4%)
- 60歳未満に限るとそれぞれ33名(22.4%)、32名(21.8%)、49名(33.3%)
-
生体腎移植を希望する患者に、誰がドナーであれば移植を受けるか、の問いに、兄弟、配偶者、非血縁者がドナーの場合受けるとの回答が、受けないとの回答を上回る一方、親、子供がドナーの場合は受けないとの回答が多かった。
- 生体腎移植を受けたくないとした60歳未満患者(79名)
その理由は
- 提供者への負担(37名、46.8%)
- 移植療法への不安(28名、35.4%)
- 透析を信頼(19名、24.1%)
*土方 仁美:医学生に対する移植コーディネーター(Co)の講義を通したアンケート調査、移植、39(総会臨時号)、357、2004
- 調査対象:秋田大学医学部救急・集中治療医学のベッドサイド実習中の医学部5年生、「救急医療における臓器提供の現状」講義終了後
- 回答総数144名
- 意思表示カードを知っているものは98%、所有率38.9%、カードに意志を記載していたのは17%。
*苅山 育香(国立循環器病センター):臓器提供意思表示カードの保有状況に関する考察、移植、39(総会臨時号)、357、2004
- 調査方法:質問紙法
- 調査対象:当センターに勤務する職員(医師・看護師・コメディカル・事務職・研究所職員等)1,157名
- 回答総数850名(回収率73%)
- ドナーカード保有者450名(53%)、職種別の保有率はどの職種においても約半数(50%)
当サイト注:この抄録は、臓器を提供する者、提供を拒否する者、保有はしているが意志を無記入の者の各比率は示していない。
- 保有していない理由としては「臓器提供に少し迷っている」「家族の同意が得られない」「カードの書き方やシステムがわかりづらい」など
国立循環器病センター、レジデントのドナーカード保有率2割5分、看護師は4割
5、太田 和夫:臓器法施行5年を迎えて、今日の移植、16(3)、215−234、2003
国立循環器病センターの北村 惣一郎氏の発言
「まず医学部卒業生の全員が、脳死というものを理解してカードを持たないといけないと感じます。ところが実際は私の施設に勉強に来るレジデントと看護師のカード保有率をみますと、医師が2割5分、看護師が4割です。しかもそれは循環器病を勉強している医者たちですよ」
子の臓器提供する人は1割いない、脳死や臓器提供の実際わからない6割
*藤堂 省(北海道大学・消化器外科):日本の移植医療はいま・・・「北海道ドナーアクションプログラム」を通して、看護技術、49(10)、72−73、2003
- 調査対象:北海道内の主要臓器提供施設10病院、1,200名以上の医療関係者
- 8割が移植医療の重要性を理解し、4割が脳死がヒトの死であることを認めている。
- 自分が脳死になった場合に臓器提供を応諾するであろう人は全体の3割。
- 自分の子どもが脳死になった場合に臓器提供するであろうと考える人は1割に満たない。
- 生前に家族が「脳死」下での臓器提供の意志を表明していた場合に臓器提供を応諾する人は6割以上。
- 「脳死や臓器提供の実際についてわからない」と答えた人が全体の6割。
(藤堂氏は「医療関係者でさえこのような結果ならば、医療に遠い一般市民の理解や協力を得ることが不可能に近いことは想像に難くない」とした)
上記と同じ調査とみられる詳細が、嶋村 剛:北海道の臓器移植推進のために、低温医学、29(3)、第30回日本低温医学会総会プログラム・抄録集(p69以降、貢なし)、2003に掲載されている。
- 回答者1204名のうち、医師20%、看護師60%、その他20%
- 脳死の説明ができるものは35%、実際に関与したものは20%。臓器提供の説明ができるものは22%、実際に関与したものは17%。
- 意思表示カード所持には地域差が大きかったが、所持率は0.3%〜4.6%。
静岡県立こども病院、職員のドナーカード所有は3割
*原 との子(静岡県立こども病院院内移植コーディネーター):静岡県立こども病院における臓器移植に関する意識調査、今日の移植、16(2)、195、2003
-
調査対象:全職員393名に調査票を配布し、344名から回答を得た
- 移植のための臓器提供について貴方はどう思いますか?
=賛成237名(70%):反対15名(4%)、年齢が上がるほど賛成者は減少していた。
- 臓器提供意思表示カードを持っていますか?
=はい110名(32%):いいえ234名(68%)、賛成者の割合と比較しカード所有者は少なかった。
- 15歳未満でも腎臓・角膜は、心臓死後提供できることを知っていますか?
=はい165名(48.0%)、いいえ170名(49.4%)
医師に肯定的、看護師は否定的見解が多い
*占部 武(広島県立病院臓器提供対応委員会):臓器移植に関する県立広島病院職員意識調査結果報告、広島県立病院医誌、35(1)、151−153、2003
県立広島病院全職員にアンケート方式で調査を行い、857人より解答を得た。
- 賛成 568人(医師79.2%、看護師64.5%)
- 反対 42人
- わからない247人
- 理解している 387人
- 少し理解している 434人
- ほとんど理解していない 36人
- はい 269人(31.4%、医師66.6%、看護師20.9%)
- いいえ 227人
- わからない360人
- 知っている 123人
- だいたい知っている 484人
- 知らない 250人
- 記入して所持している
138人(16.1%、医師27.4%、看護師15.5%)
- 所持しているが記入していない
155人(18.1%、医師11.8%、看護師21.3%)
- 過去に所持していたが今は所持していない 109人
- 見たことはあるが所持していない
396人
- 見たことがない
58人
*守田 憲二:「脳死」よりも残虐な「心停止」後の臓器・組織提供http://fps01.plala.or.jp/~brainx/morita2.htm#移植医だから持たないドナーカード 医療関係者のほうが医療不信
私が移植医と話す機会があった時に、先方から自発的に「私はドナーカードは持っていません。救命治療の経過に不安があるから、家族にもドナーカードは持たせないようにしています」と話されたのには言葉もないほど呆れました・・・・・・
顔面移植の提供者は1人もいない(英国)
*2002年11月24付の英紙オブザーバーhttp://observer.guardian.co.uk/uk_news/story/0,6903,846447,00.html
Royal Free Hospitalのピーター・バトラー形成外科医らのグループが、「ガンや事故あるいはヤケドによって、顔が大きく損傷した患者の治療として、死体ドナーからのfull-face
transplants=顔面移植が技術的に可能になり、社会的および政府の承認が得られれば18ヵ月後に手術ができる。倫理上の考慮されるべきことが非常に大きく、十分な公開討論がなされなければならない」と、11月27日に英国で開かれる形成外科学会に発表することを報じた。
顔面移植手術は、顕微手術装置と拒絶反応を抑制する薬剤の進歩で、可能になったという。皮膚、骨、唇、耳、鼻、あごの移植手術には10時間以上かかり、移植後に動きや感覚をコントロールする神経、血管、筋肉を付ける。神経再生がうまくいかないと、移植された顔面は役に立たない。バトラー医師らが、医師や看護婦を含む120人に「死亡時に顔を提供するか」と調査したところ、ドナーになってもいいと答えた人は1人もいなかった、とのこと。
研修医9名のうちドナーカードを所持していたのは1名だけ
3名は「今後も持たない」と明言 日大附属板橋病院内科
*岡田 一義(日本大学医学部附属板橋病院):初期卒後教育における生命倫理教育のあり方、日大医学雑誌、61(10)、376−384、2002
- ドナーカードを所持 1名(11.1%)
所持していない 8名(88.9%)
今後も持たない 3名(33.3%)
今後所持するかもしれない 5名(55.6%)
今後所持する 0名( 0.0%)
- 今後も持たないと回答した理由は「臓器提供の意思はない」
- 今後、所持するかもしれないと回答した理由は
「結婚してから考える。自分はいいと思うが、家族の側だといやだと思う。一時期持っていたが、捨ててしまった。真剣に議論できない。先のことはまだわからない。法律が整備されて死後も自分の意思が全面的に尊重されれば持つかもしれない」
勉強会そしてアンケートを実施した岡田氏らは「今後も持たないと明言している研修医が33.3%もいることは驚きであった。これらの研修医は、臓器提供しないという欄があるのは知らず、ドナー・カードの啓蒙も大学病院では重要な問題である」と考察した。
移植理解するが脳死判定が不安、ドナーカード携帯も低率
*山田 大志郎(福島医大医学部・第三内科):当科における膵・膵島移植の広報活動について、福島医学雑誌、52(3)、295−296、2002
ドナーに関する広報活動の一環として、当科へ通院中の患者に対し、移植医療への意識調査を目的とするアンケートを実施した。移植医療そのものへの反対意見は少なかった。
脳死については、特に脳死判定への不安があると答えた割合が多かっ
た。ドナーカードの認知率は極めて高率であるが、携帯率は非常に低かった。この傾向は医療従事者でも変わらなかった。今後はドナーカードの携帯率を上昇させる広報が必要と考えられる。アンケートを通した広報というものも場合によっては有効と考えられる。
*田村 幸子(金沢医科大学附属病院):医療従事者の移植に対する意識の影響要因 大学病院の医師・看護婦のアンケート調査から、今日の移植、14(3)、363−375、2001
- 調査方法:質問紙による配票調査
- 調査期間:2000年10月27日〜11月15日
- 調査対象:大学病院に勤務する医師300名、看護婦600名
- 回収率(有効回答数):医師が47.7%(143部回収、有効回答143部)、看護婦83.2%(517部回収、有効回答517部)
- 脳死を人の死と思うか
医師 =はい83.2%、いいえ10.5%
看護婦=はい43.4%、いいえ47.4%
- 自分は臓器移植をうけるか
医師 =はい69.2%、いいえ25.2%
看護婦=はい53.4%、いいえ35.6%
- 自分は臓器提供をするか
医師 =脳死で提供67.8%、心停止で提供15.4%、いいえ14.0%
看護婦=脳死で提供45.3%、心停止で提供24.6%、いいえ26.3%
- 意思表示カードは持っているか
医師 =持っている37.1%、持っていない62.9%
看護婦=持っている25.3%、持っていない72.7%
このアンケート調査は、移植に対する意識に影響する要因を以下のように分析している。
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医師の場合、肯定的に働く要因は、「担当は外科」「移植の知識がある」「健康である」の状況要因および、「移植に宗教は影響する」「脳死は人の死である」「尊厳死は望む」あるいは「望まない」「死について少し考えている」の意識要因であった。
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看護婦の場合、肯定的に働く要因は、「20〜30歳代」「移植の臨床経験がある」「移植の知識がある」「健康である」の状況要因と、「脳死が人の死かわからない」「尊厳死について決めていない」あるいは「望まない」の意識要因であった。
*田村 京子(昭和大学教養部):「脳死・臓器移植問題に関する病院関係者へのアンケート調査」−昭和大学病院における質問紙調査結果報告−、昭和大学教養部紀要、31、21−41、2000
- 「脳死を人の死と思いますか」
全体=はい44.8%、いいえ20.5%、わからない34.7%
医師=はい72.0%、いいえ10.5%、わからない17.1%
看護=はい37.5%、いいえ23.8%、わからない38.7%
- あなたは意思表示カード(記入済み)をもっていますか?
全体=もっている16.8%、もっていない83.2%
医師=もっている14.5%、もっていない85.5%
看護=もっている19.6%、もっていない80.4%
- 「もっている」と答えた方
脳死からの臓器提供の意志が「ある」に記入している=77.7%
心臓死からの臓器提供の意志が「ある」に記入している=8.8%
脳死からの臓器提供の意志は「ない」に記入している= 9.5%
脳死および心臓死からの臓器提供の意志が「ある」に記入している=4.0%
- 医療関係者の「脳死・臓器移植」に関する知識
心臓移植後5年以上の生存率(世界の平均)はどのくらいですか=不正解23.8%、正解3.6%、わからない68.1%(正解は61〜70%)
- 日本においてこれまで脳死からの臓器移植が進まない最たる要因にはなにがあると思いますか?(脳死からの臓器移植を大いにすすめるべき、またはどちらかといえばすすめるべきであると回答した方への質問)
一般の人々の間に移植医療の正確な知識がまだ普及していない=25%、脳死問題が未解決である=24%、和田心臓移植事件の影響が残っている=1.6%
*腎移植に携わるコ・メディカル研究会「腎移植についての意識アンケートhttp://www.kid-t-comed.com/sato_PP1.files/slide0029.htm(インターネット上からは削除されている可能性がある)
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調査方法:郵送による質問紙法
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調査期間:1999年8月〜9月
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調査対象:愛知県における腎不全医療に携わるコ・メディカル132施設(うち移植施設11)
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回答総数:1030名(85施設=64.4%・愛知県下で腎不全医療に携わるコ・メディカルスタッフはおよそ2000名強)
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回答者の職種:看護士39%、準看護士33%、臨床工学技師17%、その他11%
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対照アンケート:1999年10月の名城大学祭参加者565名(学生は473名83.7%)
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ドナーカードを持っているコ・メディカルは1030名のうち27%、移植施設のコ・メディカルは4割近い所持率で学生の約2倍だったが、非移植施設のコ・メディカルは学生よりも数%高い程度だった。
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腎移植を必要と考えるコ・メディカルは80%を超え、臓器移植を必要と考える学生数より数%上回った。
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移植が必要な理由は「患者のQOLを考えて」と回答したコ・メディカルが最多の30%を超えたのに対して、学生は約2%と大差がついた。
「移植が最良の治療手段」としたコ・メディカルは20%を下回るのに対して、学生は40%を超えた。
「合併症の予防と治療」としたコメディカルが20%を超えたが、学生は約10%だった。
「移植希望者の増加」としたコ・メディカルは約1割なのに対して、学生は4分の1を超えた。
「海外移植の問題生ずる」としたコ・メディカルが2%程度しかないのに対して、学生は「合併症の予防と治療」の回答よりも多い(当サイト注:質問がコ・メディカルには腎移植について、学生には臓器移植を質問していること。また腎臓移植は不成功でも透析に戻る選択肢のあることが、回答にも影響したと考えられる)。
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移植に反対の理由は、学生は「情報不足でわからない」が5割を超え、さらに「移植手術に不安」「他人の臓器をもらってまで」の回答で大部分を占めた。
コ・メディカルは「情報不足でわからない」は筆頭だが約2割、「移植手術に不安」「合併症が透析の方が少ない」「QOLは透析の方が高い」「他人の臓器をもらってまで」などに回答が分散し、「医療不信」と回答したコ・メディカルも1割弱存在する。
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腎移植について学びたくないと強い忌避感を持つコ・メディカルも、非移植施設がほとんどだが8%いた。
臓器提供施設でも意思表示率4%、内部でも医師のレベル、モラルに不信感
*太田 凡(京都第二赤十字病院・救命救急センター)、
「脳死-臓器移植」に対する当院でのアンケート調査の結果報告、京都第二赤十字病院医学雑誌、20、74−91、1999
- 調査方法:質問紙法
- 調査期間:1998年10月
- 調査対象:京都第二赤十字病院に就労する医療従事者、看護学生
- 総回収数:856名、総回収率91%
- 文書で臓器提供の意思表示を行っている者4%(34人)、うち72%(24人)が臓器提供意思あり。
- (文書での意思表示を問わず全体で)
臓器提供の意思あり24%
臓器提供意思なし 14%
決めていない 60%
- 臓器提供の意思なしと回答した者の2割以上が医療不信を理由に挙げた。
- 職種別では、未就労の看護学生が最も臓器提供に積極的(文書記載問わず)35%が提供意思あり。
逆に臓器提供意思なし比率は、看護婦は15%、薬剤師+技師16%、事務+その他16%、医師17%。
- 年齢別では、高齢層ほど臓器提供に消極的な傾向(50歳以上で27%が提供意思なし)だった。
- 「臓器提供には今後も本人の意思を文書で確認すべき」との回答は,各職種、各年齢層で65%以上を占め、健康保険証等に意思表示登録を行う制度に対しては意見が分かれた。「反対」と回答した者(22名)の80%が「意思表示登録は強制されて行うべきでない」と回答した。
アンケート用紙に記入された意見のうち深刻な内容
- 20代技師 ・・・・・・学生時代に見学した剖検(病理解剖)。あんなに雑に扱われるなら・・・・・・やっぱりちょっと抵抗があります。
- 30代薬剤師 医師自身がまだ登録していない人が多いのは、Dr.自身、脳死判定を疑問視しているからではないか。臓器移植を急ぐあまり脳死判定が的確に行なわれない不安がある。もっと医師自身すすんで登録するなど前向きな姿勢を見せていただきたい。
- 30代その他 臓器を提供して他人が喜んでくれるなら良いと思うが、結局は自分の臓器を営利目的に利用されそうな社会なので怖い。
- 30代事務 信頼のおけるDr.ばかりではない。
- 40代事務 脳死判定について(特に若い患者さんの時)医師のレベル、モラル等疑問を持つところがある。まず、医師から登録する必要があると思う。次に医療関係者へと広がれば全体に理解する人が増えるのでは?
- 30代看護婦 医師の倫理観に疑問を抱いている。
- 40代医師 臓器提供は諸外国で見られるように犯罪の温床となりがち。最近の保険金詐欺事件を見てもわかるように、わが国においてもそれを防止できるだけの制度が整っていない。脳死体からの臓器移植を行なう場合、脳死者の生前の意思が文書で確認されることは、当然、今後も必要!!文書以外の同意は認めてはならない。自筆かつ第三者の証明が必要。臓器提供は献血と同じ意味を持つ。必要なのは、社会的土壌を整備した上での個人への啓蒙。・・・・・・人間ドックなどでもデータを集めたらどうでしょう!
上記の脳死臓器移植に対する否定的意見よりも、量的には意思表示への迷いを述べる意見が多く、少数だが下記(部分)の肯定的意見も掲載されている。
- 40代技師「・・・・・・妻は腎臓障害があるため、せめて角膜の移植(ドナーになること)はOKやろか、とけなげに言います。この気持ちがわかりますか。ぼくは泣けてきます。提供する側や医療従事者はきれいごとすぎます。受ける側は遠慮して暮らしています。しかし、強く、明るく生きています。健常者以上に!!」。
- 40代看護婦「・・・・・・今後、早急にドナーカードを手に入れて所持します・・・」。
*清水 幸雄(国立函館病院麻酔科):「臓器提供意思表示カード」に関するアンケート調査、蘇生、17(3)、206、1998
- 調査対象:麻酔科医35人(40歳代以上が80%・全員男性)、医薬情報担当者54人、医療機器製造販売に関わるもの55人。医薬情報担当者と医療機器製造販売に関わるものは、40歳未満が65〜75%で男性85%、女性15%。
- 調査時期:臓器移植法の施行後6ヵ月経った時点
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麻酔科医 |
医薬情報担当者 |
医療機器製造販売に関わるもの |
臓器提供意思表示カードを 実際に見たことがある人 |
14人(40%) |
22人(41%) |
17人(31%) |
臓器提供意思表示カードの 内容がわかりやすいという人 |
1人(3%) |
16人(30%) |
13人(24%) |
臓器提供意思表示カードの 内容がわかりにくいという人 |
8人(24%) |
9人(16%) |
7人(12%) |
組織移植について知っている人 |
14人(41%) |
22人(41%) |
13人(24%) |
臓器提供の意思のある人 |
9人(26%) |
6人(11%) |
12人(22%) |
臓器提供意思表示カードを 携帯している人 |
0人( 0%) |
4人( 7%) |
1人( 2%) |
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人(%) |
人(%) |
人(%) |
- 結語:移植医療は啓発および推進すべきという意見がある一方で、麻酔科医、医薬情報担当者、医療機器製造販売に関わるもののすべての対象において、移植医療に対する不信が存在しており、今後解決しなければならない多くの問題を含んでいる。
*真田 晴美(医療法人医誠会 医誠会クリニック):透析医療従事者から見た腎移植医療、大阪透析研究会会誌、15(2)、155−158、1997
「あなたが透析者なら腎移植をうけますか?」の問いに、医誠会クリニックの看護職員21名は、はい9.5%、いいえ38.1%、わからない52.4%と答えた。「透析をしなくてすむのはいいが、命にかかわる危険性を考慮すると思い切れないと考える職員が大多数であった」と分析している。
*中西 睦子(広島大学医学部保健学科):生命倫理的諸問題に関する看護職指導層の意識−アンケート調査報告−、生命倫理、2(2)、80−88、1992
- 調査方法:無記名質問紙法
- 調査期間:1990年8月〜11月
- 調査対象:看護職の指導層(平均年齢43.6歳、経験年数平均18.5年)1,058名
- 回答総数830名(回収率77.5%)
- 脳死を人の死と認める者が48.1%、認めない者が4.2%、現時点では認めない者が47.7%。
- 現時点では認めない者は、「脳死判定の公正さ信用できぬ」が57.9%、「脳死判定技術的に困難と思う」が36.1%、「脳死患者の回復ありうると思う」が28.2%。とくに50歳以上では「脳死判定の公正さ信用できない」とする回答が多い傾向にある。
(考察)つまりは医療の裏表に通暁している看護婦リーダー層は、脳死を人の死と認めるのにやぶさかでない反面、それが慣行化されることで起こりうる事態をも見通して反応しているともいえる。その意味でアンビバレントな状態にある。
- 「臓器移植を推進すべき」14.3%、「推進すべきでない」5.8%、「条件つきで推進してよい」76.5%。
- 「推進すべきでない」理由は
「脳死患者を不当に生み出す」54.5%、「結局弱い患者のQOL犠牲に」40.9%、「データ不足で不透明部分多い」36.4%など。
- 「条件つきで推進してよい」場合の条件は
「医師の倫理教育を徹底」25.0%、「倫理委員会が公正に機能する」20.2%、「データをきちんと公開する」16.2%など。
(考察)人数では圧倒的に多い「条件つき推進」派が選んでいる理由の上位3位は、すべて医の倫理の問題である。つまり看護婦リーダー層は、現場において必ずしも公正に進行していないことを承知しており、それ故そのような手続のいかんに対してより強い関係を示しているといえる。これは医療機関のポリティックスや手続き、責任構造と大いに関係している反応であろう。
「麻酔終了後は明らかに患者が死んでいる、という事実、
それをはっきりと予測して麻酔を開始することに、いやな気持ちがした」
-
諏訪 邦夫(東京大学医学部麻酔学教室):電子版麻酔学教科書 18.救急蘇生 脳死に関して麻酔の立場からhttp://cgi12.plala.or.jp/kcn-home/forum/forum2.cgi?Work=Part&Forum=page18&No=&Num=8&Back=Tree
脳死患者からの腎採取の麻酔を担当した際、生体からとる普通の腎移植の場合とは、全く異なる「いやな気持」がした。「これは本来私のやるべき仕事ではない」、「普通の手術や診断のための麻酔とはいちじるしく異なる仕事だ」という気持であったように思う。当時の私は患者が脳死であったか否かを明確に考察したという記憶がないが、とにかく麻酔終了後は明らかに患者が死んでいる、という事実、しかもそれをはっきりと予測して麻酔を開始する、というあたりが「いやな気持」の理由であったろう。
「脳死」を認めるとすると、我々の業務は「死体を対象に麻酔を施行する」ことになる。この点は、本来の日常の業務とは全く異なる行為である。麻酔医は何の苦しみ・痛みもなくその業務に従事できるであろうか。この点に関しては、個々の麻酔医も心の準備と意見の表明とが必要かもしれないし、同時に日本麻酔学会を始めとして麻酔医の集団としても討論し、見解をまとめておくことも有意義であろう。いや、是非行っておくべきことかもしれない。
現時点での個人としての気持とすれば、なるべくこの仕事は避けたい気はする。アメリカを始めとして諸外国においては、D&Cの麻酔を拒否する麻酔医、麻酔ナ−スがカトリック信者を中心にかなり多数いる。脳死の問題に関してこれと類似の立場を認めてもよいのではないか、とも考える。
筆者は「脳死は死である」と基本的に認める。それにしても、幾つかの疑問点に対して、明解な解答が欲しい。
-
「人間の人間たる所以は脳にあるから、脳死は死である」という主張に対し、
何故「脳幹」にこだわるのか。意識があること、思考すること、外界と高い密度で情報を交換すること、などが人間を他の動物植物から際立たせている特徴であろう。植物人間は意識を回復することがあるから、「死」とすることが不適切なことは十分に理解できるが、「回復した症例があるから死ではなく、回復した症例がないから死である」という主張は、脳死のように人間の尊厳を扱う基本問題への解答としては、あまりに粗雑で便宜的すぎるのではないだろうか。
-
「脳死では必ず心臓死が起る」という主張に対し、
脳死の「専門家」は、脳死では必ず心臓死が訪れ、その間隔は長くても高々一週間程度である、と主張している。二つの点で疑問を提出したい。
事実の問題として本当にそうなのか。それはどの程度に「一生懸命に」しかも「上手に」全身管理を行っての話なのか。循環系の管理を専門としている循環器専門医、心臓外科医、胸部外科医、全身管理の専門家であるICU専門医や救急医療専門医の意見をききたい。
「脳死では必ず心臓死が訪れる」として、その間に何が起って来るのか。そこの生理学面の説明が欲しい。循環器の専門家はこれで納得しているのか。もしこれが循環生理学の面から判明している事実であるなら、正確に、科学的に説明して欲しい。循環系の活動のために脳幹が絶対に不可欠のものであるとしたら、どの点が不可欠なのか。その不可欠な脳幹の死の後も一日乃至一週間は生きるのに,それ以上は生きられないのは何故か。
-
我々の行っている医療においては、メカニズムが明確に判明しないまま実務的には採用されている事柄も多いから、こうした要求はやや酷に過ぎるように思えるかもしれないが、我々には「事実」を追試することは不可能に近いのであるから、少なくとも論理的な筋道のたった説明は欲しい。
看護婦たちは、本当にとてもおろおろしています。
脳死状態の患者にメスを入れたとたんに、心拍と血圧が急上昇するのですから
英紙「ドナーの苦痛の訴えが、移植医学を打ち倒すだろう」と報道
Claim of donor pain 'will hit transplant surgery’
-
2000年8月20日共同通信・ロンドン発
英国王立麻酔医師協会が学会誌『麻酔Anaesthesia」に『「脳死」患者は移植のため、臓器を摘出されるときに痛みを感じる』という麻酔専門医のフィリップ・キープ博士の報告を掲載。これが一般紙でも報道され、英保健省スポークスマンが国民に向け「脳死患者は痛みを感じない。この報告を見て、ドナーカードを破り捨てたりしないで欲しい」とコメントを出すほど、市民への影響を恐れる事態になっている。
学会誌に報告した麻酔専門医のフィリップ・キープ博士は「看護婦たちは、本当にとてもおろおろしていますよ。(脳死状態の患者に)メスを入れたとたんに、心拍と血圧が急上昇するのですから。この状態でなにもしないでおけば、患者はやがてのたうち回りだします。そして臓器摘出なんかできない状況になってしまうんです。・・・だから外科医は常に臓器提供患者に麻酔をかけてくれと要請しています」と現地メディアの取材に答えた。
フィリップ・キープ博士自身は、それでも「この脳死の人が生きていると言っているわけでもないし、痛みを感じれると言ってるわけでもない。麻酔をかけてもらえばドナーカードを持つ」という。
エレクトロニック・テレグラフの2000/8/20付原文は以下。By
Andrew Alderson and Jenny Booth
Dr Keep, 58, has now provoked controversy with a letter in
Anaesthesia, the journal of the Royal College of Anaesthetists, saying that
many people within the profession feel uneasy about the issue.
This weekend at his home in Norwich he said: "Nurses get
really, really upset. You stick the knife in and the pulse and blood pressure
shoot up. If you don't give anything at all, the patient will start moving and
wriggling around and it's impossible to do the operation. The surgeon has
always asked us to paralyse the patient."
広報にドナーの呼吸、循環管理を担当した麻酔科医の実名が載らないようしてほしい
- 佐伯 茂:臓器提供に対する手術部の対応 麻酔科から見た問題点、日本手術医学会誌、22(2)、125−128、2001
(法的脳死判定5例目・駿河台日本大学病院において)呼吸、循環管理をどのように行うかに関する資料が乏しく、肝臓を2分割するため心停止に至るまでの3時間30分、呼吸、循環の管理を行わなければならなかった。さらに肝の2分割終了時に突然、心室細動となった。徐細動によりただちに洞調律に戻ったものの、この時の麻酔科医の気持ちはおして知るべしである。
臓器摘出に直面してストレスを感じる麻酔科医もいると思われるし、臓器提供に対して賛成していない麻酔科医もいる場合もありうるので、その場合には呼吸、循環担当を拒否してもよいと当科では決めていた。実際に当科麻酔科医13名に対してドナーの呼吸・循環の管理を行うことに対して抵抗が有るか無いかをアンケート様式で聞いてみたところ9名(69.2%)が抵抗があると答えていたが、その理由は全例「経験がないため」であった。
日大広報(こちらはインターネット版)に今回の臓器移植に関する記事が掲載されていたが、ドナーの呼吸、循環管理を担当した麻酔科医の名前が実名で載っていた。この麻酔科医個人宛てに抗議文が送られてくる可能性もあるので、名前が公表されないように努めるべきである。
-
大島 正行:脳死ドナー臓器摘出の麻酔 あらためて感じたコミュニケーションの重要性〜「命のリレー」に携わって、LiSA、11(9)、960−962、2004
脳死ドナー臓器摘出に麻酔が必要であるのは、ちょっと複雑な気持ちである。しかし、脳死ドナー臓器摘出による「命のリレー」に携われたことは貴重な体験であった。
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