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「心停止後」と偽った「脳死」臓器摘出(成人例)

小児については「脳死」小児からの臓器摘出例をご覧下さい。

このページの見出し

脳死臓器摘出をしておきながら「心臓が止まっています」と公言

死亡する2日前からドナー通報

ドナーの心停止は「ヘパリン投与、生体解剖、脱血・冷却灌流、人工呼吸停止」の後

2腎摘出後も人工呼吸、昇圧剤投与。ドナーの死亡時刻は、臓器摘出術開始から9時間後

人為的な動脈閉塞によるショック死直前に、家族を呼び、心停止後提供を演出

ノンフィクション作家も騙された

「脳死」体でなければ違法行為となる、投薬・脱血を前提とした「心停止後」の心臓・肺・肝臓摘出・移植利用研究

脱血による臓器保存効果

血流ある状態の「心停止後提供」は欺瞞

ドナーへの侵襲行為を、法的脳死判定確定も待たずに、合法とすることはできない

「心停止後の臓器・組織提供」という用語は廃止し、「3徴候死・・時間後の臓器・組織提供」に変更を

 

脳死臓器摘出をしておきながら「心臓が止まっています」と公言 #198409

 一般人は、「心停止後の臓器提供」と言うと、3徴候死後の提供、あるいは3徴候死後24時間経過して埋葬直前の臓器摘出のことであると思う。

 東大PRC企画委員会が主催した第1回脳死を考えるシンポジウム(1984年9月)に、シンポジストとして発言した東京女子医科大泌尿器科の高橋 公太講師(当時、1995年より新潟大教授)は、「死体腎移植というのは?亡くなった人というのはどういうことか、心停止後24時間たっていますか」という河野 多恵子氏の質問に即答せず、追及された挙げ句に「心臓が止まってはいますが、24時間ということはありません」と答えた(東大PRC企画委員会:腎臓移植の現状、脳死(増補改訂版)、技術と人間、10−15、1986)。

 ところが1983年4月4日、国立循環器病センターで開催された第10回臓器保存研究会において高橋氏は「死体腎donor4例中3例が脳死であり、・・・・・・」と報告している(高橋 公太:温阻血と腎、肝および膵の病理学的所見、移植、18(5)、473、1983)。また高橋 公太:脳死と死体腎移植、東京女子医科大学雑誌、54(2)、164−172、1984は、1983年10月現在で東京女子医科大学腎臓病総合医療センターが関係した死体腎(日本人)ドナーは28例、このうち脳死摘出が3例あったことを明記している。既に脳死から摘出していることを隠して、「心停止後の提供」と誤魔化された実例だ。

 1986年に発行された日本泌尿器科学会雑誌77巻7号p1188〜p1199には、高橋による「腎移植350例の経験」が掲載されている。1985年6月までに東京女子医科大学腎臓病総合医療センターで施行した腎移植のうち、脳死下で摘出された腎が21例 であり、図2に1982年の脳死症例が5例、1983年は4例、1984年は8例、1985年は4例であることを記載している。

 

死亡する2日前からドナー通報

*柏原 英彦、横山 健朗(国立佐倉病院):死体腎移植システム 第2報、移植、15(4)、248−249、1980
 これは、1977年〜1979年の「ドナー情報は44回で、19死体(43%)より36例の死体腎移植が行なわれた。ドナー通報より死亡までの期間は1.9日間、原疾患は脳血管障害および頭部外傷が82%を占めている」などを報告している。

 

ドナーの心停止は「ヘパリン投与、生体解剖、脱血・冷却灌流、人工呼吸停止」の後 #19840823

*迫 裕孝、中根 佳宏、沖野 功次、小玉 正智(滋賀医科大学第1外科)、朴 勺、友吉 唯夫(滋賀医科大学泌尿器科):滋賀医科大学における死体腎移植症例の検討 滋賀県下の施設により死体腎の提供をうけた3症例を中心として、滋賀医学、12(2)、47−54、1990

Donor:25歳,男性、
学生、脳挫傷 
1984年8月 Recipient:39歳男性
交通事故、滋賀医大入院 10日  
半昏睡、除脳姿勢
出血巣拡大→減圧開頭術
11日  
昏睡  16日  
血圧低下、呼吸微弱
脳幹反射消失、
レスピレーター使用
17日  
呼吸停止、脳波(±) 18日  
脳死確認
腎提供同意
21日  
  22日 入院→血液透析、輸血、
免疫抑制剤投与
10:00 OP室搬入
10:25 手術開始
14:22 灌流開始
14:24 レスピレーターoff
14:26 心停止
14:32 右腎摘出
14:34 左腎摘出
23日 11:52 麻酔
12:45 手術開始
15:21 血流再開
      (左腎を移植)
15:44 初尿
図1 CD6の腎移植までの経過

 迫らは、上記論文のp49に左記の図1を掲載している。1984年8月23日の同大学病院における25歳男性からの腎臓摘出手術は、心停止前(14時26分)に開始(10時25分)した。腎臓の冷却灌流開始(14時22分)も、人工呼吸器の停止(14時24分)も心停止前である。手術の開始前に、抗血栓剤ヘパリンを投与したとみられるが、ヘパリンは脳挫傷患者を致死的状態に陥らせる可能性がある。
 つまり、ヘパリン投与、手術開始(切開)、冷却灌流液の注入と脱血、さらに人工呼吸の停止と連続した臓器摘出目的の行為が、この25歳男性の心停止を引き起こした可能性が高い。

 また、このドナーが心停止する以前の11時52分にレシピエントに麻酔をかけ、腎臓の冷却灌流を開始する12時45分からレシピエント側の手術を開始したことも注目される。レシピエント側の麻酔を開始した時点で、25歳男性ドナーは心停止させられることが不可避とされたのであろう。

 ドナーが14時26分に心停止してから、6分後に右側の腎臓が摘出された。これはドナーは心停止する以前に開腹されていたこと=生体解剖であったことを示す。

*中根らは、滋賀県医師会報39巻1号p100〜p103(1987年)掲載の「死体腎移植の実際」において、死体腎提供者の身体的条件を4つあげて、「(4)脳死状態であること 組織適合性検査や患者への連絡などに最低6時間程度の時間的な余裕が必要なため、すでに患者が心停止してしまったような場合は、提供者として不適格である。・・・」と書いている。
 また死体腎摘出前の管理として、抗生物質の投与、尿路・外陰部の清潔保持、気道の清潔保持、血圧維持と利尿、死亡直前の全身ヘパリン化(初回300単位/kg、その後2〜3時間毎に初回投与量の1/2〜1/3量投与を記載している。

*上記の25歳男性ドナーの温阻血時間は0分、総阻血時間は60分だった。
 迫らは、滋賀医科大学雑誌11巻p83〜p91(1996年)掲載の「滋賀医大における腎移植73例の臨床的検討」において、心停止から腎灌流開始までの温阻血時間は1993年4月以降(27例目以降)の症例は温阻血時間が0分であること、ドナーの心停止から移植腎に血流を再開するまでの総阻血時間は59分から22時間27分で平均584.0分±285.0分であったことを記載している(他施設から来た腎臓が含まれる)。

*滋賀医科大学雑誌10巻p29〜p35(1995年)掲載の「滋賀医科大学における献腎移植症例の検討」には、27例目以前にも温阻血時間が0分は3例あり、さらに生前カテーテル挿入の可能性が高い温阻血時間10分以下は12例、生前カテーテル挿入を推測させる温阻血時間15分以下は7例ある。
*各資料には、このドナーを22歳や23歳としているものもある。移植20巻4号p377〜p378(1985年)によると、ドナーは滋賀医科大学の医学生であった可能性が高い。

 

2腎摘出後も人工呼吸、昇圧剤投与。ドナーの死亡時刻は、臓器摘出術開始から9時間後 #19851001

*中島 みち:第3章 脳死状態からの腎臓摘出、新々・見えない死 脳死と臓器移植(文芸春秋)、159−180、1994
(文芸春秋1987年6月号「あなたは脳死に直面できるか」にも掲載されている)

 1985年9月29日(日)14時過ぎ、新潟県庁職員の中村 嘉明(44歳)は、バレーボール試合の後に倒れ、新潟市社会事業協会・信楽園病院に搬入された。15時半ごろ家族は脳外科Q医師から「脳動脈瘤破裂によるクモ膜下出血」と説明を受けた。17時15分、医師は強心剤の注射を射ったのちカルテに「HOPELESS!」と書き込んだ。19時ごろ、患者はICUから病室に移された。

 9月30日、16時前、妻・良子がQ医師に確かめた。
「早い話が脳死なんですよね?もう助かりっこないんですね」
「そういうことです。お気の毒ですが回復のきざしはありません」
 臓器提供意思を告げると、今までまるで寄り付かなかった医師たちが頻繁に病室への出入りを始め、血液製剤やら栄養剤やらの輸液を与えた。あまりの変化に、良子は唖然とした。16時過ぎ、Q医師一人によって、対光反射、角膜反射、せき反射など、脳幹反射の検査がなされた。
 Q医師はカルテの「30日朝」の欄に「脳波フラット」「脳死状態といえる」と記録している。しかし、この朝は医師が前夜から来ないことで病室の親族たちが怒っていたくらいであり、脳波の検査がされたとは、考えられない。そこで彼に、その点について確かめると、検査時間等は気にしていなかったのでたまたまカルテの朝のスペースに記録したが、実際には30日16時半に行なったという。
 良子は、嘉明が29日にICUから出されたのは、すでに脳死判定がICUで行なわれ、脳波も当然はかられて脳死が確認されていたのであろうとおもいこんでいたからこそ提供を申し出たのであったが、そういう事実はなかったわけだ。

 脳死判定の再確認検査は、開始時間は記録されていないが、周囲の状況からは10月1日10時近くに始められたと考えられる。Q医師とH,O,Sの3人の神経内科医により再確認が行なわれ、「脳死状態であることはまちがいない」と記録された。
 ただ、脳波検査についてQ医師は10時30分に行なったというが、「10時35分手術室に入室」は明らかなことなので、「脳波検査はわずか分秒で済まされたことになるのですか?」という私(中島)の問いに、「脳の神経が死んでなぜ脳波をとる必要があるんですか?」等、脳波検査を無意味とする答えが返ってきた。
 10月1日、10時35分、中村 嘉明は信楽園病院の手術室に入った。Q医師は臓器摘出を執刀する東京女子医大の高橋 公太講師に、脳死の判定は再確認も済ませたと告げ「摘出手術のお手伝いをしましょうか」と申し出たという。高橋医師は、脳死患者の主治医である脳外科医が、その摘出手術の手伝いをしたのでは世の誤解を招くからと、丁重に申し出を辞退した。そこでQ医師を除く信楽園側の外科医4人、東京女子医大からの医師3人で摘出手術が始まった。両側腎臓を生体腎摘出と同じような方法で摘出した。
 12時38分、両側腎臓が摘出された嘉明のからだは、病室に戻ってきた。ここで、妻の良子は、またもや、「これは一体どういうことだろうか!」と自分の想像していた事態と、目の前で起きていることの違いに驚くことになる。
 「こと切れて出てくるものとばかり思っていましたが、お別れを言って手術室に送り込んだ時のままで・・・・・・・。しかも、もう何もしないのかと思っていましたら、また点滴を続け治療を始めた」のである。
 臓器提供が決まったあと18時間も、夫に、臓器を新鮮に保たせる保冷庫のような役目をさせただけでも可哀そうと思ってきたのに、臓器を摘出してしまったからだに、さらに治療が加えられるのをみて、ショックを受けた。
 自分自身消耗しきっている上にこの事態に接し、何がなんだかわからなくなった良子は、「先生、よくもつんですねえ、こういうものなんですか」とポツンと尋ねた。Q医師は「さあ、御主人は心臓が強いようですから相当もちますよ」と答えたのみであったという。
 14時過ぎ、良子は夫の痛ましさに堪えかねて、昇圧剤を使う意味について医師に尋ねた。その結果、やっと昇圧剤が切られ、生理的食塩水を点滴で入れるのみとなった。
 17時、脈が振れなくなる。心電計によれば心臓はまだ動いていたが、19時42分、心電図に描かれる線は平坦となった。19時43分、死亡確認。
 死亡診断書には、なんと午後7時43分と記されていた。心停止の時刻を死亡時刻としたわけだが、これでは法律上、生きているうちに両腎を摘出したことになる。脳死を死と認めぬ者には、もちろん実質的にも殺人であろうが、脳死を認める者にとっても、判定の不備とともに、これは問題であろう。
 医師は、脳死を死と考えたからこそ臓器摘出を移植医に許したにもかかわらず、摘出後も強力に昇圧剤を入れて心臓を生かし、人工呼吸器で強制的に呼吸させたわけで、これでは遺体と考えた場合にも、その尊厳にかかわることになろう。遺族の気持ちを考えると、かなり残酷な処置といえよう。

注:以上は、生体解剖・両腎摘出の評価についても著者の文章から引用した。一部分は時系列に沿って入れ替え、要約した。臓器提供申し出後の輸液は、心停止ドナーでは許容されない生前からのドナー管理に相当する。

 

人為的な動脈閉塞によるショック死直前に、家族を呼び、心停止後提供を演出

 「自然に3徴候死するのを待っていたら、低血圧状態が数時間〜数日続き、移植予定の臓器が傷む。またスタッフ十数人〜数十人がいつまでも拘束され、手術室も他の手術で使えない。ドナーカードを持った人が少なく、法的脳死判定に耐えるような脳死ドナーも少なく、事後に検証をうけるのもめんどくさい。搬送手段も時間帯によっては、利用できなくなる」。このような移植側の身勝手な都合から、「脳死」体からの臓器摘出が、「心停止後の臓器提供」と称して演出されている可能性が高い。その実態は「脳死」小児からの臓器摘出例において小児例が掲載されているため、以下では成人例を紹介する。

*藤田 民夫(藤田学園保健衛生大泌尿器科):死体腎摘出腎における死体内局所的腎灌流冷却法の臨床的応用 、移植、21(6)、525−531、1986
 この論文は、p530の表1で心停止−死亡時刻が横棒線―になっている52歳男性、57歳女性、45歳女性の各ドナーは、3徴候死後の臓器摘出(手術開始)ではないとみられる。藤田氏らはp528で、ヘパリン投与、ダブルバルーンカテーテル挿入、腎動脈遮断、灌流冷却開始、腎静脈から脱血・排液という冷却法の実際を紹介。「排液カテーテルからの液の色調が淡くなり、かつ腹壁あるいは腰部の皮膚温が低下していれば、冷却がうまく行なわれていることを示す」と解説する。

 ダブルバルーンカテーテルは、カテーテルの先端部と15cm離れた位置に、計2つの30mlまで拡張可能なバルーンがあり、この15cm間から冷却した灌流液を注入できるように1cm置きに小孔が開いている。ダブルバルーンカテーテルは腹部大動脈に挿入し、腎動脈が2つのバルーン間(15cm間)に位置するように固定する。灌流に際しては、それぞれのバルーンを20ml拡張(腹部大動脈の血行を遮断)して、冷却した乳酸リンゲル液を1分間にドナーの体重当たり20mlとなるように灌流する。灌流開始と同時に、下大靜脈に置いた脱血用チューブを解放する(メディカルビュー社発行の「腎移植と血管外科」p67〜p74。藤田保健衛生大学泌尿器科・星長 清隆教授「死体腎(献腎)ドナーからの腎摘出」より)。

 もしも臓器提供者が生存中=心臓が拍動している時に、ダブルバルーンが拡張された場合、腹部大動脈の血行が遮断され、急激な循環血液量の減少でショック死するだろう。

 

 東京医科大学八王子医療センター臓器移植部の玉置 透氏による術者の立場から 腎移植、日本手術部医学会誌、13(1)、43−48、1992は「脳死が未だ社会的にも法的にも認容されていない現況であり、当センターでは全例心停止後腎摘出を余儀なくされている。頭部外傷や脳出血などによって脳死となった場合、あらかじめ大腿動静脈の剥離、テーピングをしておく。血圧下降時に全身ヘパリン化を行い、心停止直前に大腿動脈よりダブルバルーンカテーテルを、大腿静脈よりドレナージチューブを挿入する。心停止が確認されたら直ちにカテーテルより冷却乳酸リンゲル液にて腎の in situ cooling を開始する。腎内の血液がウォッシュアウトされた時点で冷却保存液を注入する。この間、ドレナージチューブから脱血することが、初期冷却灌流の効率を高める。次いで腎摘出を行なうが・・・」と脱血効果への認識と、形式的に心停止後に臓器摘出するならば違法性を問われないだろうという誤った認識を明記している。

 東京医科大学八王子医療センター外科学第五講座の小崎 浩一、長尾 恒氏による Marginal donor からの臓器移植、医学の歩み、196(13)、976−981、2001は、「死体内冷却灌流(in situ cooling : ISC)が一般的に行なわれている。著者らの施設で移植された153例の死体腎移植中、心停止ドナーから摘出された91腎についてISC施行例76例と未施行例15例についてみると・・・」とISCの実施が8割を超えていることを明記。そして術直後の利尿、術後機能発現、術後透析期間のいずれもISC施行例の好成績を書いている。

 小ア 正巳は、臨床医13巻3号p392〜395(1987年)に執筆した「移植の問題点 臓器保存」において、多臓器摘出方法として「心あるいは心肺を摘出し、続いて冷却した電解質液を注入してin situ cooling(perfusion)を行って腹部臓器をできるだけ速やかに冷却するのがよいようで、心摘出前にin situ coolingを行うことは心室細動を誘発するので心臓のためによくない」と書き、腹部臓器の冷却灌流が心停止を誘発する行為であることについての認識を明確に示した。

 

 

ノンフィクション作家も騙された #19930820

  生前に臓器提供者の腹部大動脈に挿入したダブルバルーンカテーテルのバルーンを拡張すると、動脈の血流が遮断され、急激な循環血液量の減少で臓器提供者はショック死する。あるいは上記の小ア論文にあるとおり、臓器提供者が生存中に腹部臓器の冷却灌流を行なっても心停止を誘導できる。そのショック死をさせる過程で家族を呼べば、「心停止後の臓器提供」と演出できる。その実例とみられる様子が、柳田 邦男著、犠牲(サクリファイス)、1995年7月30日第1刷(文芸春秋)に掲載された。

 1993年8月10日(火)、柳田 洋二郎氏(25歳)は自殺行為で日本医科大学多摩永山病院救命救急センターに入院。同氏からの腎臓摘出は、上記の東京医科大学八王子医療センターの移植チームが1993年8月20日に行なった。

 父親のノンフィクション作家、柳田 邦男氏の観察によると、灌流開始後に「午後6時55分:呼ばれてベッドサイドに戻った。顔も手も白くなっていた。頬に手を当てると、冷たかった。・・・・・・心細動の状態」とあることはショック状態と想像さ れる(全経過は下記に掲載)。

 移植コーディネーターの玉置 勲氏は8月17日(火)に「血圧が50を切っても、いつまでも心停止しないときは、腎機能に異常をきたす可能性があるので、その時は心停止前に冷却した腎保存液の注入を開始したい。それによって心停止が数分から10分程度はやまる可能性がある」と説明。臓器摘出手術の一貫をなす 「ダブルバルーンカテーテルによる腹部大動脈の血行遮断、腎保存液の腎動脈への注入、下大静脈からの脱血」がショック死を引き起こすことを隠して、父親=柳田氏に虚偽のインフォームド・コンセントを行なったとみられる。

 家族が死後腎提供を決心した時に、兄の柳田 賢一郎氏は玉置氏に「ただ弟の臓器を利用するというのではなくて、病気で苦しむ人を助ける医療に弟が参加するのを、医師は専門家として手伝うのだ、というふうに考えて欲しいと思うんです」と要望した。玉置移植コーディネーター(日本移植コーディネーター協議会会長)は、「腎保存液の注入を開始したら数分後には心停止します。それでも行なってよろしいでしょうか。3徴候死後の提供ではありませんから、違法な脳死下提供になります。人工呼吸器を止めて心停止を確定させるまでに数分間はありますので、その間にお別れをしていただきます」と違法行為であることも含めて正確に説明すべきではなかったのか。柳田 邦男氏の著書からは、事前のヘパリン等の投与についても、説明されず承諾を得ていないとみられることも問題だ。

 柳田 邦男氏は1997年4月8日、衆議院厚生委員会に参考人として出席、「実際、私自身も、死後腎移植とはいえ、心停止が来る10分前から冷却剤の注入が始まりました。まだ心臓の鼓動は弱いながらありました。しかし、冷却剤を注入すると10分で心臓はとまりました。そのときの本当に胸が締め付けられるような思い、殺したのじゃないかという思い、これはいまだに消えません。それを乗り越えて移植というのは成立するのです・・・」と発言している(第140回国会衆議院厚生委員会議録第13号p27上段1行目〜8行目)。

月日

経過

8月10日(火) 午前1時過ぎ:ベッドでコードを首に巻きつけて動かなくなっている。心臓も呼吸も止まっていた(父親が発見)。救急士の心マッサージにも反応せず。日本医科大学多摩永山病院救命救急センターに移送。

未明:心蘇生し、自発呼吸戻る。心拍数は正常値。顔面に溢血痕があったが、全身の血色は悪くはなかった。声をかけても反応はない。瞳孔は開いたまま。

午後3時:医師の病状説明
 脳波は非常に緩慢で活動性が低い波、大脳の機能がかなり落ちている。聴性脳幹反応はT、U、V波はまあまあ出ています、W、X波も弱いながら出ている。自発呼吸も弱いながら出ている。脳幹も障害を受けているけれど、機能は残っているので、脳幹死ではない。脳浮腫は出ていない。今後の見通しで最もありうるのは植物状態、最悪の場合、脳死に移行するおそれもある。私たちとしては、何とか生命を維持して、せめて植物状態に持っていきたい。意識が戻る確率は、統計的データがあるわけではありませんが1%程度でしょうか。

8月11日(水) 明け方から体温が39℃以上に上昇、アルコールで体を冷やす。

午後2時半:医師の病状説明
 瞳孔は散大したままで縮小せず、対光反射もない。脳波は、かなり衰弱し、ノイズと判別しにくいほどになってきた。大脳の機能回復は期待できないかもしれない。聴性脳幹反応はT、U、V波は昨日と同じ程度に出ているが、W、X波がはっきりしなくなっている。体温の上昇は、脳幹の体温調節中枢の機能が落ちたためかもしれない。唯一の期待は、自発呼吸が残っていることである。

父の観察:張りのある胸の皮膚はピンクがかって温もりがあり、心臓は元気に鼓動を打っていた。普段居眠りしているときと、何ひとつかわらない感じだった。

8月12日(木) 兄の観察:目からかなり涙が流れる。
父と兄の観察:言葉はしゃべらなくても、体が会話してくれる。

午後2時:医師の病状説明
 自発呼吸は昨日まで毎分10回あったが、今日はだんだん減って、現在毎分2〜3回になってしまった。人工呼吸器で毎分12回のペースにしている。脳波はほとんど平坦になってしまった。大脳皮質の機能はほとんど失われたとみられる。聴性脳幹反応は、W、X波はまったくなくなり、昨日わずかに波形のみられたV波も、今日はほとんどわからない状態になった。今朝から尿量が増えている。脳幹にある視床下部が駄目になると、尿のコントロールができなくなるが、その可能性も考えられる。当初考えていたより悪い方向に向かっている。現在は植物状態から脳死に向かっている。・・・・・・もちろん脳死患者だからといって放置するのではなく、私たちは生きている患者さんと同じように最後までお世話します。

午後7時:自発呼吸が完全になくなる。

兄の観察:心拍数は毎分80くらい

8月13日(金) 兄の観察:今朝明け方に心拍数は毎分60に下がる。顔の溢血が引く。

午後3時:医師の病状説明
 かなりの脳浮腫が起きて、そのため脳圧が上がって、おそらく40〜50はある。脳圧が40を越えると、脳細胞は不可逆的に溶解してしまうといわれます。もはや脳は機能していないと考えられます。明日、第1回目の脳死判定、月曜日までには2回目の最終判定をしたい。

父の観察:午後10時すぎ、血圧は上が100強、心拍数60

8月14日(土) 午後2時:医師の病状説明
 体温は36.5℃、血圧は120〜50、心拍数は61、心拍数がやや落ちている程度で、心臓はよく保たれているのですが、脳死判定に必要な項目はすべて、ネガティブになっていますので、脳死と判定しました。6時間以上経ってから、2回目の判定をします。・・・・・・もし骨髄提供ができないときには、腎移植を待つ患者のために、腎臓の提供という道もありますが、如何でしょうか。もしそのお気持ちがあるのでしたら、移植コーディネーターにこちらに来てもらって、詳しい話をしてもらうことができます。

父の返事:急な話なので、この場でイエスかノーかをきめることはできません。それが洋二郎の意思にそうものなのかどうか、家に帰ってから妻や長男と相談して確かめたいと思います。いずれにせよ、移植コーディネーターには、明日2回目の脳死判定がすんだ後に、お会いしてみます。

兄の観察:脳死判定というから、どんなことをするのかと思ったら、耳に水を入れてみたり、顔や眼をつついてみたり、意外と原始的な方法で調べるんだなあ。それで脳のなかがわかるんだから不思議だ。

 家族で閉じた両目にたたえる涙をふき、顔、手足をふいた。

8月15日(日) 心拍数47〜48

午後2時:2回目の脳死判定、脳死と判定。

父の観察:脳死判定に立会い、無呼吸テストのために人工呼吸器を外したときだけは、≪ひょっとして≫という気持ちが働き、耳をそばだてた。・・・・・・顔の溢血痕がほとんどとれた。言葉をかけると、いままでと同じように体で答えてくれる。

移植コーディネーター・玉置 勲氏の腎臓摘出手順に関する説明

  1. 腎臓をできるだけ健全な状態で保存するために、心停止前に腎保存液を動脈から注入する、その方法は、
    @血流が停止してからでは、血管の確保が困難になるので、血圧が100を切ったら、大腿動脈の一部を露出してマーカーをつけておく。
    A血圧が50以下になると、もはや末梢血管に血液が流れなくなり、細胞の衰弱・死滅が始まるので、大腿動脈からカテーテルを挿入して腎動脈に到達させ、冷却した保存液を注入する。
     
  2. 心停止したら、5分ないし10分程度で家族にお別れをしていただき、その後、救命センター内の手術室で腎臓を摘出する。摘出手術は、東京医科大学八王子医療センターの移植チームが担当し、2〜3時間で終了する。摘出後はきれいに縫合して、家族に引き渡す。

 父親が承諾書に必要事項を書き込もうとすると、玉置氏が「腎臓以外に膵臓の提供は如何でしょうか」。父親はせっかく昨夜考えを整理したのだから、ここで問題を複雑にしたくないという思いから断る。

8月16日(月) 兄の観察:心拍数が40ぎりぎり、体温33℃台。

医師の説明:明日午後あたりが最後になるかもしれない。いまのところ腎機能は正常に保たれています。今日夕方には、東京医大の移植チームがきて、下腿動脈の確保をすることになりました。もし移植チームの準備が整わない深夜などに、急に血圧が降下し始めたら、昇圧剤を増量して、腎保存のために血圧を保持するという操作が一時的に必要になるかもしれません。
父親:せっかく腎提供するなら、最善の状態で提供したい。洋二郎もそれを望んでいるはずです。これからは、自然死に近づけながら、よりよい腎移植を実現するように対処してください。

父の観察:手足が少し冷たくなっていたが、顔も胸もいぜんとして温もりがあった。どこにも褥瘡のかけらもできず、きれいは肌が維持されている。

8月17日(火) 午前9時:昇圧剤の点滴打ち切り。昇圧剤を切っても、心臓は血圧90、心拍数50で、切る前とまったく変わらない。心拍数は前日よりむしろ持ち直した値。

玉置移植コーディネーターの説明:近郊と地方の病院に腎移植待機患者が1人ずつ見つかった。血圧が50を切っても、いつまでも心停止しないときは、腎機能に異常をきたす可能性があるので、その時は心停止前に冷却した腎保存液の注入を開始したいのです。それによって心停止が数分から10分程度はやまる可能性があるのですが、よろしいですか。

父親:心停止をはやめるというと大袈裟だが、もともと無駄な延命を拒否して昇圧剤を切ったことは、すでに心停止を早める措置を行なっているに等しいのだから、それがさらに腎保存のために数分ないし10分程度短縮されたからといって、本質的には何の新しい事態でもない。感情的にも何の抵抗感もなかったから私は「異存ありません。最善の腎移植が行なわれるような方法を選んでください」と答えた。

夕刻:血圧、心拍数は変化しないため、移植チームは引き揚げた。

父の観察:洋二郎の顔はピンクがかっていちだんときれいになっていた。

8月18日(水) 父の観察:血圧140前後、心拍数60台、看護士が「あら、お父さんが来たら、急に上がったわ。さっきまで血圧は120台、心拍数は60台だったのに」
8月19日(木) 父の観察:手足にややむくみが出てきたものの、顔の溢血痕が全くくなくなって、楽しい夢を見ているような穏やかな表情をたたえている。血圧140、心拍数54、体温36℃、全く正常なので看護士も驚いた表情。
8月20日(金) 未明に急に血圧が60台、心拍数が40、体温が34℃台に下がった。移植の準備が整わないまま、腎臓の血流が保てなくなりそうだったので、昇圧剤を点滴して持ち直す。電気毛布で体を温める。

父は兄と清拭しながら「よく頑張った。2人の人の命を助けるんだ。最善を尽くすからな。その2人のなかでいき続けるんだ」

午後2時すぎ:血圧113、心拍数60

午後3時すぎ:血圧 97、心拍数39

午後3時半 :血圧 89、心拍数37

午後4時   :移植チーム到着、家族は集中治療室を離れ、大腿動脈から腎保存液を注入するためのカテーテル挿入開始

午後4時半 :九州の腎移植センターが、深夜の自衛隊機出動要請でなく、明朝の旅客機始発便で腎臓の搬送を要望。玉置コーディネーターが腎移植センター長に電話し、輸送手段確保・緊急手術準備に。

午後5時半 :医師から「カテーテル挿入終了、血圧が下がり心拍数も30台」の連絡ありベッドサイドに戻る。

午後6時15分:医師が「血圧が下がってきたので冷却保存液を灌流させることになりますので、また待機室で待機してください。30分ないし長くても50分くらいで心停止となる可能性がありますので、いよいよとなったらお呼びします」

午後6時55分:呼ばれてベッドサイドに戻った。洋二郎の顔も手も白くなっていた。頬に手を当てると、冷たかった。閉じた目に涙がにじんでいた。モニターに心拍波形のスパイク波もはやなく、心細動の状態。

人工呼吸器の端末を外し、スイッチを切った。

午後7時 2分:医師が「19時2分、死亡と確認します」

午後11時すぎ:腎臓摘出がすみ、遺体が自宅に帰る。

 

 

「脳死」体でなければ違法行為となる、投薬・脱血を前提とした「心停止後」の心臓・肺・肝臓摘出・移植利用研究 #heart

 「小児心・肺移植の臨床応用に関する総合的研究」研究班(松田班):小児の心臓移植・肺移植、日本医学館、2003(B5判・122ページ・本体価格5,000円)のなかで、岡山大学大学院医歯学総合研究科心臓血管外科の末廣 晃太郎、佐野 俊二の両氏による「PART6 .ドナー不足解消のための実験的検討 No.2.Non-heart beating donor の心臓移植」(p103〜p106)は下記を記述している。

 「1992年 Shirakura らは、心停止前に verapamil ,propranorol ,prostacyclin などをドナー心に投与すれば心停止10分後に摘出した心臓であっても24時間UW液に保存したあと心機能の損失なく移植が可能であることを示した。その他、free radical scavenger ,nicorandil ,Na+-Ca2+exchange inhibitor などの薬剤やwarm blood cardioplegia も虚血再灌流障害の軽減に有効とされている。また、可能であれば心停止前に上記のような血管拡張剤、虚血再灌流障害を軽減する薬剤を投与することが有効であり、心停止後冠微少循環不全を起こした状態では心筋への delivery に限界があるため作用が限られる.」と心停止前からの投薬理由を説明する(p104−p105)。

 続いて「NHBD心移植が臨床応用に至らないのにはいくつかの理由がある」と医学的理由をあげた後に「問題はむしろ倫理的なもので、死亡宣告に先立って移植を前提とした前処置をはじめることが許されるのかどうかという点である。良好な心拍動が再開することがわかっていながら、心臓を摘出する目的で心停止を待つといった状況が、果たして許容されるのかどうかという点は十分議論されるべきであろう。近年、移植の成績改善のため、適応基準ぎりぎりのいわゆる“marginal donor”が敬遠される動きすらあるが、NHBDすなわち移植適応基準ぎりぎりの marginal donor といった発想は間違っており、良好な心機能を維持しているものを選択して利用すれば脳死移植と同様の移植が可能である」(p105−p106)とした。

 一般人が「心停止後の臓器提供」に対して持つイメージとは異なり、良好な臓器機能を維持している患者を救命するのではなく心停止に到るにまかせ、現行法でも「脳死」体でなければ許されない心停止前の薬剤投与を前提としているのが、「心停後」と称する臓器摘出・移植利用の実態だ。

 

 マスメディアの報道によると、京都府立医科大学・医学倫理委員会(委員長は井端 泰彦学長)は2002年2月5日、同大学心臓血管外科学の北村 信夫教授から申請のあった「心停止で死亡した人の心臓を蘇生させ心臓移植への応用を目指す」と称する研究計画を承認した。

 研究対象は、心臓疾患以外の理由で死亡した遺体の心臓で、遺族が病理解剖に同意し研究に関するインフォームドコンセントを得られた場合に限る。蘇生のため、心筋保護液や血液を主成分とする輸液を心臓や肺に注入し、再拍動するか確認する。さらに血液を正常に循環させることができるかどうか、機能の回復程度を見極めるほか、臓器保存方法も研究する。心臓は遺族の意向によって体外に取り出すケースと、取り出さずに実験装置を遺体に直接付けるケースがある、という。

 北村氏らの研究計画は「緊急出血時の循環器系の機能維持、重要臓器へ緊急避難的酸素供給などを目的とした心筋保護液、輸液、人工血液」などのデータ収集も見込まれる。すべての行為を3徴候死後に行なうのではなく、心停止前の薬剤投与などを行なえば違法行為となる。

 

 

脱血による臓器保存効果

 十束 英志:心停止ドナーおよび心停止後蘇生ドナーからの肝移植の経験、今日の移植、15(1)、100−104、2002は、米国 Pittsburgh ピッツバーグ大学移植センターにおける脳死ドナーの一過性心停止が、肝移植後成績に及ぼす影響を検討した。

 1997年5月から1998年8月までの肝移植181例中、ドナーが一過性心停止後蘇生したB群37例(平均心肺蘇生時間は27.5分、最短4分〜最長90分)は、心停止の既往のないA群144例に比較して、移植片生着率、トータルビリルビン、PTに両群間に有意差は認められなかったが、GOT値は術後3日目までの期間、心肺停止の既往のあるB群のほうがA群に比較して有意に低値を示した。

 十束氏は「(p103)短時間の阻血負荷により、心臓が以後の長時間の阻血に対する耐用性を獲得する・・・( Ischemic Preconditioning :IPC、局所虚血による障害耐性獲得)現象が、肝臓についても実験的報告が散見されるようになった。・・・・・・(p104)心停止ドナーに対して人工心肺を接続、腹部の循環を再開、再酸素化したのちにあらためて開腹、臓器摘出する方法をとれば、心停止から人工心肺が稼動するまでの肝温阻血時間 Ischemic Preconditioning となり、心停止後蘇生ドナーと同様な病態を作りだし、障害軽減のみなrず積極的な肝移植片保護作用が起動できるかもしれない」としている。

 

 広瀬 一:心停止ドナーからの心、肺移植に関する研究、厚生省循環器病研究委託費による研究報告集(平成13年度)、388、2002は「呼吸停止で得られる心臓は、無処置下では両心室拡張末期圧が高値となり悪影響を与えている」として、ブタに呼吸停止前からPGE1およびdiltiazem(Ca拮抗薬、抗不整脈)を投与して末梢血管を拡張させ両心室負荷を減少させ、呼吸停止とともに大静脈・大動脈を切断・脱血した群が、両心室拡張末期圧の上昇が少なく、心筋内ATPも良好に保たれた」と、心臓も心停止前の投薬と脱血が臓器保存法となることを述べた。

 

 

血流ある状態の「心停止後提供」は欺瞞

 心臓死後に臓器や組織の摘出を予定している場合は、臓器への血流を維持するために、心臓マッサージが行なわれる。開胸しての心臓マッサージが行なわれることもある。心臓が止まった状態で臓器・組織を摘出することは、一部の組織を除いて、大部分の施設では、まずありえない。臓器摘出目的で血栓が生じないようにヘパリンその他の薬剤も注入されるが、薬剤を全身に行きわたらせるためにも、血流が維持される。現実には一過性の心停止があっても血流が維持されており、血流があるならば臓器摘出時に意識がある可能性も危惧しなくてはならない。3徴候死が成立していないことは、言うまでもない 。

 

 

ドナーへの侵襲行為を、法的脳死判定確定も待たずに、合法とすることはできない

 臓器摘出目的で、腎臓に冷却液を流す管=カテーテルを体内に挿入するには、1998年の関西医大事件判決で、大阪地裁は「ドナーの生前同意が必要」と判決し、控訴もなく確定した。瀕死の患者にメスを入れて管を挿入することが、その患者に対する最後の打撃になりかねない行為だからだ。ヘパリン投与も内出血を起こさせる可能性を高めるため、ドナーの生前同意が必要と理解される。

 しかし、この判決が出た直後に厚生省は法的な裏づけのない通達を出し、本人の生前同意は不要としたが、管=カテーテルの挿入前に「脳死」状態が確認されていることを条件とした。厚生労働省は2000年以降、「脳死状態と診断されていない場合は、カテーテル挿入に加え心臓停止前のへパリン注入も行なってはいけない」と指導していると伝えられる。指導をするのが遅すぎるし、「脳死状態と診断・・・」と表現したため、法的脳死判定ではなくとも許されるように、移植医療従事者に理解される指導、通知であることは問題だ。

 誤魔化しだらけの「心停止」ドナーからの臓器摘出が、法的「脳死」体よりも簡単に検証もされず、麻酔をかけて摘出手術をする実態も知らされない家族の同意だけで行われている現状は、臓器移植法の主旨からしても改める必要がある。

 

 

「心停止後の臓器・組織提供」という用語は廃止し、「3徴候死・・時間後の臓器・組織提供」に変更を

 脱血により移植用臓器の保存効果を求めることは、研究されている「心停止後」の心臓や肝臓の摘出・移植にも1つの方法として含まれる。「心停止後」肺移植の研究も、事前の投薬を前提とする。

 「術前措置」と称する生前からの投薬、臓器摘出手術の開始、 人為的な動脈閉塞・冷却液注入・脱血による殺害後の臓器摘出を容認するならば、臓器移植法はまったくのザル法と化す。「心停止後の臓器・組織提供」という曖昧な用語は廃止し、法的脳死判定を受けるべき行為を厳格に規定し、投薬時期がいつからであれば倫理的か、3徴候死後の心臓マッサージの可否、3徴候死後に何時間が経過したら臓器・組織提供が許されるか、などを検討すべきである。

 


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