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脳死判定5日後に鼻腔脳波
鼻腔脳波=最も脳幹部に近接した鼻咽頭後壁に電極を設置して記録する脳波:Nasal
EEG、鼻腔導出脳波(Nasopharyngeal electroencephalogram)、鼻腔誘導脳波(Electroencephalogram
by the Nasopharyngeal lead)ともいう。
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林 成之(日本大学医学部救命救急医学教室):脳死状態における脳温と脳循環代謝変動の臨床的意義、臨床脳波、39(11)、715−721、1997、そして同じ患者について林 成之(日本大学医学部救急医学):脳動脈破裂に伴なう脳死と局所脳波、脳蘇生治療と脳死判定の再検討、近代出版、22−25、2001(以下は上記の2論文と検査記録から、一部当サイトが合成した表現を含む)
「46歳男性患者は左内頚動脈瘤の破裂で急速に意識が低下してきたため、血管内手術で出血を止めようと試みた。バルーンカテーテルを破裂脳動脈瘤の直前まで送り込んだが、数分の差で間に合わず大量の脳内、脳室内、クモ膜下出血となり脳波も脳幹電位もフラット(平坦)で脳死状態となった。3月10日、12日の4回、繰り返し脳死判定で脳死と診断された。
ところが脳死判定後5日後の3月17日17時49分、頭皮上脳波には全く脳波活動を認めなかったが、鼻腔脳波にはしっかりとした脳波活動が認められ、周波数解析を行ってみると多くはδ波であるが、なかには(当Web注:高度な脳活動を示す)α波まで混在していた」
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河本 圭司(関西医科大学脳神経外科学教室):鼻腔導出法による脳死判定、臨床脳波、39(11)、722−725、1997
「脳死判定基準を満たし、標準脳波は平坦化し、脳幹聴覚誘発電位(BAEP)も消失していた20症例(17〜76歳)のうち6例に低電位ではあるが徐波がみられた(当Web注:他は、完全に平坦化しているものと、ほとんど平坦ではあるが波動が認められるもの5例。ほとんど平坦ではあるが脳波と同定できない程度の動揺が認められるもの9例)。いままでの検討から、これらの波形が人工呼吸器などのアーチファクト(当Web注:周辺機器動作雑音)とは考えられなかった。
・・・・・・BAEPは脳幹部上半部の機能しか反映していないことになる。従って、脳死患者における鼻腔導出脳波の出現は脳幹を含めた脳幹周囲の組織の一部の機能が少なくとも残存している可能性が考えられた。
・・・・・・脳死の定義が脳幹死を含む全脳死である以上、脳死判定にすべての脳機能を把握する測定法を加えるべきであり、鼻腔導出脳波は脳死判定の一手段としてさらに検討を加える必要があると思われる」
鼻腔脳波について、臓器の移植に関する法律施行規則(脳死判定基準)を検討した1997年の第2回臓器移植専門委員会に、「鼻腔誘導脳波は、心拍、呼吸、筋電図による波形との鑑別が難しく、測定された波形が脳のいずれの部位の由来なのか必ずしも明確ではなかった。したがって、測定結果の持つ意味合いについては、今後さらなる研究すべき余地が残されている。・・・」という内容の平成8年度の厚生科学研究「脳死の判定に関する研究」が、研究要旨「鼻腔誘導脳波は、脳死の判定に関して直接的には関連しない」として報告され脳死判定基準に採用されませんでした。
しかし、関西医科大学脳神経外科学教室の河本教授は「波形が人工呼吸器などのアーチファクトとは考えられなかった」としています。「脳のいずれの部位の由来なのか必ずしも明確ではない」にしても、脳内で底部からの由来であることは確かでしょう。
石田 哲郎(関西医科大学法医学教室):脳機能判定の一簡便法(鼻腔誘導法による脳底部脳波の基礎的・臨床的検討)、日本法医学雑誌、44(4)、286−292、1992には、以下の報告がある。
- 鼻腔誘導脳波と標準脳波との相互関係を知るために、イヌの大脳を逐次除去する実験で頭頂部脳波がほぼ平坦化をきたしたにも拘らず、鼻腔誘導脳波は消失せず、なお平均10〜30μVで徐波化傾向を示すにとどまった。健常人で光刺激法を併せ行なったところ、明らかに両者は相異なるものであると言うことが認められた。
- 鼻腔誘導法で得た波形が脳底部に由来するものであることを確認しえたものと思っている。・・・・・脳幹部脳波と云いきれるかについては、より一層の検討が必要であろうが、これがその部に最も近接したあたりから誘導されていることも事実である。
- 電極挿入部局所付近が粘液で覆われている場合などには、筋電図に似た波形の乱れが出現する傾向をみる場合がある。・・・しかし、この様な場合でもその程度によっては、本来の波形が解読可能な場合も多いし、また、電極の固定を再確認することによっても、可成の程度に改善され得るものである。
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