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脳死前提の人体実験 脳死身体の各種利用 21世紀の倫理問題

研究目的の「死体」臓器・組織需給情報

 

大学名・施設名

大阪大学

奈良県立医科大学

静岡県立総合病院

このページの趣旨:日本では1997年の臓器移植法施行以前から、脳死と診断された患者を対象にドナー適応基準の検討や移植用臓器保存法の実験が行われ、違法な脳死ドナー管理後の臓器摘出も行われてきた。外国では移植に用いなかった臓器を利用して薬物代謝や治療法の研究が行われ、日本から研究者が欧米に流出する動きがある。わが国でもヒト肝細胞を輸入してキメラマウスを作出する企業があり、HAB研究機構は「心臓死ドナーからの試料獲得は臓器移植法の対象外」という珍論を創り上げた。臓器移植法改訂案のなかにも、移植不適臓器の利用を規定する案がある。

 脳死臓器ドナーになりうる人の数倍、「脳死」患者は発生する。人体試料を用いる試験管内の実験の一部は、血液の循環する人体全体を用いた実験を指向する。もしも生前意思で人体実験を容認する場合、処置の異なるコントロール群と実験群に無作為に割り付けられることまで許容を求められかねない。その結果、終末の迎え方は、まったく実験担当者任せになる。阪大の脳死患者の長期生存実験では、コントロール群に比べて、実験群で脳の融解・流出が多かったと聞く。人体実験の現実を知らないと、<他人任せにすることを自己決定した>不本意な事態を避けられない。脳死判定がなにを判定できているのか曖昧なまま、脳不全を悪化させるホルモン投与や輸液がなされていることは言うまでもない。1970年代から指摘されてきた脳死身体の多重利用の倫理について、ますます関心を高める必要があるだろう。

 古くから改善の見られない、あるいは議論されていない問題もある。「脳死患者の生前意思、家族へのインフォームドコンセント、社会の倫理規範、法律、ヘルシンキ宣言、所属施設の倫理委員会など」に関して記載のある文献は少ない。現時点で、このページで紹介している資料では医学のあゆみ134巻6.7号に社会への影響が、日本救急医学会雑誌5巻1号に家族の承諾について不十分ながら記載があるだけだ(数十行の短文の場合は、倫理面の記述は無理としても)。後者の報告は、脳死患者を骨髄ドナーとして利用することも意図しているが、北海道大学第1外科と北海道赤十字センターは1968年に急死体から採血し輸血に用いたことを報告している。

 このページでは、主に国内文献から脳死前提で各種利用を予定した人体実験例を、施設別に概観する(現時点では1990年代中頃までの一部資料のみ掲載)。脳死患者の長期生存実験だけを報告した資料は、最上部の「医学のあゆみ134巻6.7号」のみとする。

研究目的の「死体」臓器・組織需給情報

*鈴木 聡(HAB研究機構事務局長):ヒト組織・臓器 疾病研究と医薬品開発をサポートするリソース、バイオテクノロジージャーナル、6(6)、707−711、2006

 米国フィラデルフィアに拠点をおくNDRI(National Disease Research Interchange http://www.ndriresource.org/)が研究目的で供給した臓器・組織数は2005年に20,462(内訳は組織と臓器数16,100、特定疾患に関した家族の遺伝情報付き試料4,362、病態組織6,320)。NDRIが取り扱っている臓器・組織は、脳死ドナー、心臓死ドナーそして手術切除組織のうちインフォームドコンセントが得られた試料。
 HAB研究機構は1995年にNDRIとインターナショナル パートナーシップを締結し、これまでに肝臓、腎臓、小腸、肺、膵臓、皮膚、精巣など10種類以上の臓器・組織を500検体あまりを日本国内の公私立施設の研究者に供給した。

 

大阪大学

抗利尿ホルモン+カテーテル挿入

杉本 侃、吉岡 敏治、行岡 哲男、上西 正明、定光 大海、坂野 勉(大阪大学医学部付属病院特殊救急部):脳死状態における循環機能の維持に関する研究、医学のあゆみ、134(6・7)、471−472、1985

対象:大阪大学特殊救急部に入院し、脳の急性一次性粗大病変から脳死にいたった症例16例、すべて最高血圧が40mmHg以上の急激な下降を伴い、日本脳波学会の基準を満足し、大阪大学基準ではA1群に属する症例である。カテコールアミン単独群:エピネフリンを中心に、各種カテコールアミンを収縮期血圧を維持する目的で使用した10症例は、収縮期血圧を90mmHg以上に維持することはほとんどできなかった。ADH、カテコールアミン群:6症例にバソプレシンを50倍に希釈し、自動注入器を用いて1時間1〜2単位を静脈内に注入したうえで、エピネフリンを同様に希釈し別の持続注入器を用いて、静脈内に注入した。3例について、スワン・ガンツカテーテルを挿入し、同時に食道エコー法を用いてADHとエピネフリンの単独ならびに併用の心機能におよぼす影響を測定した。

結果:カテコールアミン単独群では、必要なエピネフリンの量は最初は2mg/hr前後であるが、数時間以後急速に増加し、末期には8mg/hr以上の投与を余儀なくされる例が多かった。これに反しADH、カテコールアミン群においては、エピネフリンの量は最初1〜2mg/hrを必要としたが、その後はむしろ減少し、大部分が0.5mg/hrで血圧の維持が可能であった。

脳死から心停止までの期間:カテコールアミン単独群は、すべて48時間以内に心停止に至り平均24時間11分であった。ADH、カテコールアミン群は9日から54日までの平均23日であった。

考察:バソプレシンとカテコールアミン併用群において、循環動態が安定し、栄養管理などに注意を払えば、脳死状態でも数ヵ月間以上の循環維持が可能になった。この発見は、脳死の病態解明にきわめて有用であり、かつ、臓器移植を容易にする有力な手段となりうるが、その反面、脳死状態を無意味に、かつ半永久的に、医療の対象とする危険性が生じてきた。脳死に関する根本的な論議の必要性をこの研究は示唆している。

当サイト注:杉本氏は同内容を報告した外科治療52巻4号p468〜p469の考察では、「脳死状態は間もなく心停止に至るから、死だと言うような、良い加減な論理は全く成立しなくなった」と書いている。

 

抗利尿ホルモン+水分負荷(輸液)+カテーテル挿入

坂野 勉、木下 順弘、渋谷 正徳、上西 正明、阪本 敏久、横田 順一郎、杉本 壽、吉岡 敏治、杉本 侃(大阪大学医学部救急医学教室):脳死状態における循環動態とその管理法、外科治療、58(1)、88−95、1988

 1984年4月から1986年9月に当科に入院した脳死25例、カテコラミン単独群は10症例、抗利尿ホルモンとエピネフリン併用投与群は15例。脳死後の累積水分バランスは、カテコラミン単独群3例はマイナス、抗利尿ホルモンとエピネフリン併用投与群は第3病日にプラス4,400ml(2例の平均)、プラス3,685ml(13例の平均)。水分負荷や薬剤の中止で循環動態を計測した。

 

抗利尿ホルモン+心筋採取+カテーテル挿入 #1988

木下 順弘、八幡 孝平、上西 正明、杉本 壽、吉岡 敏治、杉本 侃(大阪大 特殊救急部)、河口 直正、大西 俊造(大阪大学医療短期大学部病理学教室):脳死患者の心機能と心筋細胞の形態学的所見に関する研究、外科治療、59(4)、455−456、1988

 対象は最近3年間に当科に収容され脳死に陥った27例、平均年齢38歳、脳死から心停止までの期間は平均17日間。循環管理法としてADHを持続静脈内投与しつつ、同時にエピネフリンないしドーパミンを併用して循環動態の維持を行った。5例では右室心内膜生検法による心筋の電顕的検討も行った。

 

抗利尿ホルモン+心筋採取

*河口 直正、大西 俊造(大阪大学医療技術短期大学)、木下 順弘、八幡 孝平、吉岡 敏治、杉本 侃(大阪大学医学部付属病院特殊救急部)、澤 芳樹、河本 知秀、松田 暉、川島 康生(大阪大学医学部第一外科):脳死状態における心筋の形態学変化、心筋の構造と代謝、10、553―568、1988

症例 年齢 性別

生検
脳死後の日数

29 男性 4,7,14
45 女性
25 男性
44 男性 1,3,14,23
13 男性 3,7
23 男性 4,8,14
20 男性 4,10,14,19
51 女性 4,7
17 男性 0(脳死後4時間)

 対象は、頭部外傷により大阪大学医学部付属病院特殊救急部に収容され脳死に陥った脳死9例(13歳〜45歳)、抗利尿ホルモンを静脈持続投与し、さらにエピネフリンまたはドーパミンの追加投与を行うことにより循環動態を安定的に維持し、脳死から心停止までの期間を著明に延長することができた。脳死直後から経日的に右室心内膜生検を行い、脳死状態における心筋の変化について、形態学的に観察した。

 エピネフリン長期投与の影響で、ミトコンドリア障害は脳死14日以降に高度となる傾向を認め、筋原繊維は黄紋の消失を脳死10日および19日後に1例に認めた。

 

 

 

 

 

カテーテル挿入

*福嶌 教偉、松田 暉、中楚 粛、白倉 良太、中田 精三、川口 章、谷口 和博、松若 良介、中 好文、川島 康生(大阪大 第1外科)、木下 順弘、上西 正明、杉本  侃(大阪大 特殊救急部):ドナー心の心機能評価に関する基礎的研究 左室圧‐容積関係を用いた心機能評価の試み、移植、25(4)、449、1990

 心移植においては脳死後心機能の保たれたdonor心を移植する必要がある。近年、donor心の心機能評価法として左室圧容積関係を用いた方法が注目されてきているが、臨床脳死例における心機能評価を左室圧容積関係を用いて行ったという報告は未だ少ない。今回、特殊救急部の脳死症例2例に対し、逆行性にコンダクタンスカテーテルを挿入して左室圧と容積を測定する機会を得たので報告する。
 症例1(47歳女性)は preloadを、症例2(17歳男性)では afterload を変化させて圧容積関係を求めた。いずれも正常な左室収縮能を示す値であった。脳死後の心機能を評価する上で、左室圧容積関係を用いた心機能評価が有用であることが示唆された。

 

抗利尿ホルモン+経静脈内糖負荷試験+アルギニン負荷試験

*吉岡 裕彦、鴻野 公伸、杉本 壽、吉岡 敏治、杉本 侃(大阪大学医学部救急医学)、大西 俊造(大阪大学医療短期大学部病理学教室):長期循環管理を行った脳死症例の膵内分泌機能の検討、移植、27(総会臨時号)、169、1992

 糖尿病の既往のない頭部外傷に起因する脳死症例21例を対象とした。これらの対象に対し膵内分泌機能を調べるため経静脈内糖負荷試験、アルギニン負荷試験、剖検による膵臓の光顕的観察も行った。ADHとカテコールアミン併用による循環維持法にて脳死症例を長期間維持管理しても膵内分泌機能は十分維持されていることが示された。

 

抗利尿ホルモン+水分負荷(輸液)+臓器ドナー管理

*鴻野 公伸(大阪大 救急医学):抗利尿ホルモンとカテコラミン併用投与により脳死後長期間循環維持を行ったドナーから移植された腎の機能についての研究、移植、28(1)、1993、60−71、1993

 1989年4月から1991年3月までの2年間に、大阪大学特殊救急部ならびに同部の関連救命救急センター2施設で脳死に陥り、腎移植のドナーとなった14症例とそのレシピエント28症例を対象とした。ADH群7症例は脳死後、中心静脈圧が5cmH2O以上になるまで急速に輸液を負荷すると同時に、ADHとカテコラミンとの併用投与法で循環管理した。対照群7症例は、脳死後、ADHを併用せず、輸液負荷とカテコラミン単独投与で循環管理された。

結果:脳死から腎摘出までの期間は、ADH群(脳死期間7.7日)のほうが対照群(平均脳死期間2.6日)より有意に長かった。脳死から腎摘出までの期間に投与されたエピネフリン投与量は、対照群のほうがADH群に比してはるかに多かった。
考察:ADH群では、一過性に悪化した腎機能が脳死後の循環管理中に回復するのが度々みられる。この結果、対照群の循環管理法では到底ドナーになり得ないと思われる循環不安定期間が長い症例までもが、ADH群では十分にドナーの対象となり得る。(p69)一次性粗大病変による脳死例では脳死に伴なって急激な血圧の低下が起こるのが常である。これに加えて、外傷性の出血や頭部外傷に対する脱水療法のため患者は循環血液量が不足した状態にすでにあるので、循環調節機序が失われた脳死後は循環動態が極めて不安定な時期が訪れる。この間に腎血流が減少し、腎は当然傷害される。このときに昇圧のためにエピネフリンのような腎血管収縮作用のあるカテコラミンを大量に投与すると、腎の障害はさらに高度となる。(中略)最終的には急性尿細管壊死に陥る。
 ADH群では脳死後時間が経つにつれて血清クレアチニン値はむしろ減少している。これはADH群では脳死前後の循環不全に伴なう腎障害が脳死後の循環管理中に改善しつつあることを示す。我々の開発したADHとカテコラミンの併用投与による脳死後の循環管理法は、これらの一連の過程(家族の臓器提供承諾)に必要な時間的余裕を生み出す。この時間的余裕は、同時にレシピエントの選択や移植手術の時間設定、レシピエント自身の術前準備にとって貴重であろう。

 

抗利尿ホルモン+水分負荷(輸液)+骨髄穿刺

木下 順弘、岩井 敦志、平出 敦、阪本 敏久、上西 正明、杉本 壽、吉岡 敏治、杉本 侃(大阪大学医学部救急医学)、流田 智史(大阪大学医学部救急医学):脳死患者の臓器機能に関する検討、救急医学、11(7)、817―825、1987

 (この論文は、3年間の脳死患者14例、19〜61歳、平均年齢40歳に抗利尿ホルモン+エピネフリン療法と輸液、そして6例には骨髄穿刺も行ったことを記載している)
 

吉田 裕彦、藤井 紀男、岩井 敦志、島津 岳士、横田 順一郎、吉岡 敏治、杉本 侃(大阪大学医学部救急医学)長期循環管理を行った脳死症例の血液像と造血能の検討、日本救急医学会雑誌、5(1)、26―31、1993 http://www.journalarchive.jst.go.jp/jnlpdf.php?cdjournal=jjaam1990&cdvol=5&noissue=1&startpage=26&lang=ja&from=jnltoc

 本研究の目的は、脳死後長期間にわたり循環を維持した際の造血能を検討することである。対象は1984年より1992年7月までの8年間に当科に入院し、経過中腎障害を認めず、明らかな外出血のない単独頭部外傷による脳死症例15例、男性11例、女性4例、平均年齢35.8歳。脳死後の循環管理は一定量のADHを持続静脈投与したうえで、平均動脈圧が80mmHg以上に維持されるようにエピネフリンの投与量を調節して行った。来院から脳死までの期間は12.4±7.4時間、脳死から心停止までの期間は21.6±15.0日(7〜52日間)。全例に骨髄穿刺を施行(第5〜23病日)。なお、この研究に際しては、患者家族に研究目的を説明し承諾を得ている。
 脳死後のHb値は低下するが、エリスロポエチン値は正常より高値で、経日的に網状赤血球・血小板数の増加を認め、造血能は維持されていた。骨髄の有核細胞数は正常であり、感染・ストレスに対する顆粒球系の反応も正常に認められた。脳死後の循環維持のために、脳死直後に2000ml/day以上の体液負荷がなされており、この希釈性因子と赤血球産生反応に時間を要することが脳死直後の貧血持続の原因と考えられた。本研究対象脳死症例における脳死後24時間毎の水分バランスは3日間おのおの2880.8±1268.4ml、2083.6±1134.8ml、914.3±883.1mlであった。
 以上より、脳死患者の骨髄機能は正常に保たれていると結論できる。ADHとカテコラミンにより脳死症例を長期循環管理することにより、レシピエントの選択やプレパレーションなどの骨髄移植のための準備期間が確保できると、脳死症例は凍結保存を要しない骨髄ドナーとなり得る。

 

抗利尿ホルモン+輸液?+臓器ドナー管理+カテーテル挿入

*岩井 敦志、吉岡 敏治、杉本 侃(大阪大学救急医学):ADHとcatecholamine投与による循環維持を行った脳死体の臓器機能、日本外科系連合学会誌、19(2)、153、1994

 われわれの教室では、抗利尿ホルモンとカテコラミンを併用投与することにより脳死体の循環を長期間にわたり安定した状態で維持する方法を開発した。今回は、我々の開発した方法により長期間安定した状態で循環維持を行った脳死体を対象に、脳死体の臓器機能、特に心臓および腎臓の機能についての形態学的検討も含めて報告する。

 心臓は、われわれの循環維持法をもちいても脳死直後には比較的大量のカテコラミンを要する。しかし、脳死後数日目以降にはカテコラミン微量投与にて循環は安定し、左室仕事量係数は正常値に服した。心電図上は脳死直後に75%の症例でST(洞性頻拍)の低下がみられ、虚血性変化がうかがわれたが、経日的に改善し、しかも心筋由来の血中逸脱酵素の増加は認められなかった。ミトコンドリアの障害や細胞間浮腫等の変化がみられたが、これらは脳死直後のショック持続時間と関連しており可逆的変化の範囲にとどまっていた。
 腎機能に関しては、われわれの循環管理法で維持した脳死体をドナーとした死体腎移植時期は脳死後平均7.7日後であったが、移植後30日目のクレアチニンクリアランスは77ml/minと、対照とした従来の死体腎の平均52ml/minと比較して有意に高値であった。

 

抗利尿ホルモン+輸液?+過換気療法の中止

*三谷 和弘(大阪大 救急医学):抗利尿ホルモンとカテコラミン併用投与により脳死後長期間循環維持された症例の肺機能についての研究、移植、30(4)、367−382、1995

対象:1984年5月から1992年12月までの8年半の間に、当科において脳死後72時間以上循環が維持された84例を対象とした。年齢は1〜70歳で平均35.6±16.8歳。受傷もしくは発症から脳死までの期間は0〜668時間、平均53.6±107.7時間であるが、1週間以上経過して脳死となった例は10例のみであり、61例(72.6%)は、受傷後24時間以内の外傷急性期に脳死となった。脳死から心停止まで循環が維持された日数は3〜55日、平均10.7±9.0日であった。なお、脳死後の心停止は、家族の希望による循環維持の中止、進行する貧血に対する血液製剤投与の中止、心機能低下に対する薬剤増量の中止など、いずれも人為的な理由によって脳死管理が中止された結果であり、肺機能の低下が心停止の直接の原因であったものは1例もなかった。

循環維持法:脳死と判断された時点から、0.1〜2.0U/hr(0.033〜1.3mUkg/)の一定量のADHと平均血圧が80mmHg以上かつ適正尿量を維持するに足る最小量のカテコラミンとを持続投与した。なお、脳死の診断は大阪大学もしくは厚生省の脳死判定基準に基づいて判定した。

呼吸管理法:全例に、来院時ならびに経過中の血液ガス所見に応じて従量式人工呼吸器による機械換気を施行した。動脈圧炭酸ガス分圧(PaCO2)が、脳死以前は低炭酸ガス血症の脳圧 降下作用を期待して35〜45mmHgになるように、人工呼吸器の1回換気量と換気回数を調節した。(中略)脳死後も、脳死前からの抗生物質を継続投与し、気管内分泌物の培養検査を施行し、検出菌に応じて抗生物質を変更した。

結論:既知のさまざまな呼吸機能悪化要因を伴わない脳死症例でも、脳死後1週間を越えると非脳死例に比べて肺酸素化能は障害されたが、その原因として咳嗽反射の消失による肺炎の合併が大きな要因であると推定された。脳死症例のうち、肺移植ドナーの選択基準を満たす率は脳死直後で約35%、脳死後第2日では14%以下となり、移植肺の摘出は脳死後できるだけ早期に施行することが望ましい。

 

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奈良県立医科大学

ホルモン+コントロール群への薬剤非投与+カテーテル挿入

*谷口 繁樹、河内 寛治、福富 正明、浜田 良宏、西岡 宏彰、吉田 佳嗣、北村 惣一郎(奈良県立医大第3外科)、青山 信房、土井 康司(奈良県救命救急センター):ホルモン補充による脳死患者内心機能温存効果、移植、27(3)、414、1992

 脳死患者4例はすべて男性であり、年齢は40.0±17.3歳。脳死判定後直ちに、triiodothyronine(T3),cortisol を連日投与した。血行動態的には平均動脈圧、心係数、左室 max dp/dt において脳死後3日目よりコントロール群に比して有意な改善を示し、その結果脳死判定より心停止までの気管は11.5±5.3日とコントロール群の4.3±3.0日に比して有意に延長した。ホルモン補充中の心機能は全例良好であった。

 

*谷口 繁樹、北村 惣一郎、(奈良県立医大第3外科)、青山 信房、土井 康司(奈良県救命救急センター):心移植ドナーとなりうる脳死患者における内分泌環境と心機能の変化、病態生理、8(10)、863−865、1989

 上記資料は、下記の日本心臓血管外科学会雑誌19巻5号で報告されているとみられる「カテコールアミン類をはじめホルモンを全く投与しなかった12例」について報告している。要旨は省略するが、「心移植ドナーとしての適性をみる検討上カテコールアミン類をはじめとするホルモンの投与は行われていなかった」としている。

*谷口 繁樹、北村 惣一郎、河内 寛治、小林 博徳、森田 隆一、西井 謹、福富 正明、浜田 良宏、櫛部 圭司、吉田 圭嗣(奈良県立医大第3外科):心移植ドナー心のドナー体内における機能温存についての研究、日本心臓血管外科学会雑誌、19(5)、901−903、1990

 上記資料は、奈良県救命救急センターにおいて全脳死と判定された15例(年齢は8歳〜75歳)について報告している。内訳は、カテコールアミン類をはじめホルモンを全く投与しなかった1群12例、脳死判定と同時にT3 75〜150μg/日を内服投与、コルチゾール150〜300mmg/日を靜注投与にて補充療法を施行した2群3例。
 下記の日本外科系連合学会誌19巻2号の結論に至る研究とみられ、内容も近似しているので要旨は省略するが、「ADH,エピネフリンは脳死前と比較すると脳死後経時的に低下するものの、いずれも健常人における正常域にとどまっており今回の補充療法からは除外した」脳死患者であること、そして「心移植へのドナー心としての機能維持の検討を目的としたため、カテコールアミン類の使用(補充)は本研究ではまったく行わなかった」とあることは注目される。

 

*庭屋 和夫、谷口 繁樹、河内 寛治、吉田 佳嗣、北村 惣一郎(奈良県立医科大学第三外科)、鎌田 喜太郎(奈良県立救命救急センター):心移植ドナーとなり得る脳死患者に対するホルモン補充療法の心機能に及ぼす影響、日本外科系連合学会誌、19(2)、152、1994

 【目的】心移植ドナーとなりうる脳死患者における比較的急速な心機能の悪化はよく知られている。我々も脳死患者における各種ホルモンの経時的定量によりインスリン、T3、コルチゾール、ADH、エピネフリン、ノルエピネフリンの低下が心機能の悪化とともに見られることを報告してきた。そこで、心移植ドナーとなり得る脳死患者に対してホルモン補充療法による心機能温存の可能性を検討した。

【対象・方法】対象は、救命救急センターにおいて脳死判定を受けた16例である。すでに行った脳死後の各種ホルモンの変化の検討で、T3とコルチゾールの低下が顕著であったこと。および心移植ドナ一に対するカテコールアミン類の投与は避けたほうが望ましいことから、これら16例をカテコールアミン類をはじめホルモンを全く投与しなかった1群12例、脳死判定と同時にT3 75〜150μg/日を内服投与、コルチゾール150〜300mmg/日を靜注投与することによる補充療法を施行した2群4例の2群に分けた。年齢は1群が8〜75歳(平均46.3歳)、2群が16〜54歳(平均40)歳)。
 これら2群間で脳死前と脳死判定後経時的に心拍数(HR)、平均動脈圧(MAP)、心係数(CI)、体血管抵抗(SVR)、左室拡張末期圧(LVEDP)および左室max dp/dtを測定し比較検討した。

【結果】脳死判定より心停止に至るまでの期間は1群が1〜10(4.3土3.0)日、2群が6〜17(11.5±5.3)日であり、2群が有意に長期間であった。1、2群間の血行動態の推移の比較では、1群は左室拡張末期圧以外の指標は経時的に低下を示し、2群においては左室拡張末期圧以外の指標は一時的な低下を示すものの、脳死3日後にはすべての指標は脳死前値と差が認められなくなった。特に脳死3日後には、平均動脈圧(MAP)、心係数(CI)、左室max dp/dtは、2群が有意に高値を示した。

【まとめ】脳死患者にたいしてT3とコルチゾールのホルモン補充療法を行うことで、脳死患者の心機能を温存しえた。

 

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静岡県立総合病院

抗利尿ホルモン+臓器ドナー管理

*伊藤 文夫、中上 和彦、森 典子、西尾 恭規、青木 俊輔、遠山 和成(静岡県立総合病院):脳死患者の管理について、移植、27(1)、126、1992

 死体腎移植の普及には、死戦期の患者管理も重要な要素と考えられる。脳死状態の長期循環管理を可能にしたとされるADH−エピネフリン併用療法を、最近4症例に適用したので検討した。
対象は過去2年間に脳死判定を受けた、同療法施行の4症例を含む14例。

 カテコラミン単独投与群および非投与群では併せて9例中、5日以上脳死状態が維持されたのは3例で血清Cre値2.0mg/dl未満を維持したのは1例に過ぎない。一方、ADH−エピネフリン併用群4例では、うち3例で、5日以上脳死状態が維持され、かつ血清Cre値も2.0mg/dl未満に維持された。なお、この3例から腎の提供が得られ、移植後も移植腎機能は良好である。

考察:脳死状態の長期循環管理を目的とした本療法の有効性が示されると共に、腎提供の承諾の得られた患者に対する本療法の適用が、死体腎ドナーの推進に結果的に繋がるものと考えられる。

 

当サイト注:伊藤氏らはADH−エピネフリン併用投与を「療法」というが、発表の主旨からして臓器レシピエントのために行なった処置であることが明瞭であろう。

 


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