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20070725

終末期ケアの希望 説明する医師の人生観や信条が影響
「議論を行う際の指針や教育が必要」 名古屋大 平川氏ら

 名古屋大学大学院の平川 仁尚氏(医学系研究科老年科学)らは、愛知県内の療養型病床施設で患者家族の終末期医療についての希望を調査し「終末期ケアに関する方針を記録する書類(アドバンスディレクティブ)を作成する際に、説明にあたる医師により『心肺蘇生の希望』『急性期病院への転院』を希望する比率が有意に異なる。医師による説明を標準化する必要性が示唆され、家族や医療者に終末期ケアに関する議論を行う際の指針や教育が必要である」という調査結果をまとめた。日本老年医学会雑誌44巻4号p497〜p502に「療養型病床群1施設における心肺蘇生および急性期病院への転院に関する家族の希望」として掲載された。共同執筆者は益田 雄一郎氏、葛谷 雅文氏、井口 昭久氏、植村 和正氏。

 調査対象は、2005年4月から2006年9月までに愛知県内の療養型病床群1施設に新規に入院した患者70名(男32名・女38名・平均81.8歳)およびその家族。この療養型病床群は、病床数101の全てが療養型病床、外科的処置など高度な医療にも対応できる病院に隣接しており、入院時には患者・家族に、必要な場合には隣接病院への転院が比較的容易であることを伝えている。入院時に、医師より病院所定の担当医が所定のアドバンスディレクティブ(AD)にしたがって全患者に終末期ケアに関する医療行為を説明し希望を聞くことにしているが、コミュニケーションに障害がある患者が入院することが多いため、その場合は家族に説明することにしている。説明にあたる医師は5人(表)で、各患者に対して1人の医師が説明にあたった。
 今回の調査は、研究の趣旨をあらかじめ患者に知らせることで日常診療に影響を与えることを避けるため、データ収集は後ろ向きに行われた。対象患者全員が認知症などコミニュケーションが困難であったため、終末期ケアに関する家族の希望に関する調査となった。

医師の特徴:年齢、性別、専門、勤務 心肺蘇生を
希望した割合
急性期病院への転院を
希望した割合
A医師:86歳、男性、内科(一般)、常勤 27.3% 3.85%
B医師:72歳、女性、内科(一般)、常勤 18.2% 34.62%
C医師:56歳、男性、内科(老年科)、非常勤 27.3% 34.62%
D医師:41歳、男性、内科(老年科)、非常勤 0.0% 3.85%
E医師:34歳、男性、内科(老年科)、非常勤 0.0% 11.54%

  治療の希望について、心肺蘇生を希望したのは15.7%、急性期病院への転院希望は37.1%であった。これらの希望の有無と患者背景各項目とは有意な関連を認めなかったが、アドバンスディレクティブを支援した医師の割合は両群間で有意に異なっていた。心肺蘇生について、常勤内科医師A(86歳男性)の作成支援を受けた家族の間で希望が多く、非常勤医師で老年科を専門とする医師D(41歳男性)と医師E(34歳男性)の支援を受けた患者家族の間で希望が少なかった。また、急性期病院の転院では医師Dの支援を受けた家族で転院希望が少なかった。

 平川氏らは「心肺蘇生および転院に関する家族の希望に影響を与えたものとしてアドバンスディレクティブの作成を支援した医師が挙げられた。(中略)医師としての経歴以外の要因、つまり個人の人生観や信条などによりアドバンスディレクティブに関する説明が異なっていた可能性が示唆される」としている。

 全文はhttp://www.jstage.jst.go.jp/article/geriatrics/44/4/497/_pdf/-char/ja/で公開されている。

 


20070714

HAB研究機構 ヒト組織バンクを構想 新鮮人体試料の医薬学研究に
「心臓死ドナーからの試料獲得は臓器移植法の対象外」と町野氏ら結論

 医歯薬出版発行の週刊「医学のあゆみ」7月14日号は「人体試料の研究・教育・医療での利用 その現状と問題点」を特集した。NPO法人HAB研究機構の雨宮 浩氏、鈴木 聡氏は「人体試料の研究供与 わが国の活動」(p99〜p102)において、心臓死ドナーからの研究用試料を獲得・保存・利用する「ヒト組織バンク」のシステムを検討していることを明らかにした。以下の枠内は要旨。

 新しい薬剤や治療法を人体で実験する前に、正常な代謝活性のある新鮮人体試料を使えば、試験管内でもある程度の反応の違いがわかるはずである。現在、国内での新鮮人体試料の提供はゼロに近く、ほとんどすべてアメリカに依存している。HAB研究機構は、アメリカNPO法人NDRIの協力を得て移植不適となった死体ドナーの臓器組織の配分を受け、日本の医学、薬学分野の研究者に配布してきた。2007年3月末現在で1,071検体におよぶ。その内容は、皮膚、肝が検体数の7割を占めるが、腸管、膵・膵島、腎、包皮、頭皮、乳房、膀胱、精巣、骨格筋などがある。かならずしも移植不適合臓器とは限らない。死体臓器移植ドナーから研究用として別途提供を受けている。

 わが国では臓器移植法によると“移植術に使用されなかった部分の臓器”は焼却しなければならない。手術切除組織の研究利用はなかなか進んでいないのが現状である。このような状況を踏まえ、新鮮人体試料のあらたな研究供与源として、移植のための心臓死ドナーからの腎の摘出の場面を念頭において、移植用腎摘出の開腹時に経腹腔的に組織を摘出し、研究者に提供する場合の条件や体制のありかたについて人試料委員会を設置(町野朔座長/上智大学教授)して、2007年3月までに10回の委員会を開催し報告書をまとめた。

  • 心臓死ドナーから組織を摘出し、バンクに保存し、医学薬学的研究に供する場合、死体解剖保存法との関係がまず問題となる。本事業に際して行われる死体からの組織摘出は、死体解剖保存法にいう“死体の解剖、保存、研究”に該当しないと理解された。
  • 臓器移植法は、第1条で臓器の移植術に使用されるための臓器を死体から摘出することに目的を限定している。本事業は“臓器の移植術に使用されるため”ではなく研究用であり、臓器移植法が規定する臓器ではなく組織の提供を目的としているために、同法の対象とはならないと考えられる。

人試料委員会の結論:心停止ドナーからの腎提供に際して研究用組織の提供を受ける場合に、この行為を規制する法律あるいは規則は現存しないという結論に至った。したがって、既存の類似分野の法律や規則の意を体し、あらたな規範、すなわち指針と実施要領を自ら構築する必要のあることが認識された。

 本委員会での検討の結果、現行法では遺族などの権利主体の同意があれば,死体からの組織の切除と研究への供与は許されると判断された。そこで、つぎのようにヒト組織バンクのシステムを検討している。
 心停止後の腎摘出を行っている医療施設に、研究用の新鮮組織の提供事業への協力をHAB理事長から依頼し、提供医療機関では本事業に参加することに関して機関内倫理委員会で審査、承認を受ける。また、日本臓器移植ネットワークと十分な協力関係をもち、死体腎ドナー発生の連絡を受けたら速やかに対応するコーディネーターを中心とした体制を構築する。
 もちろん、これを実行するためには社会一般の理解を得ることが必要である。具体化の検討は、今後、慎重に進めていく必要があると考える。

 当Web注

  1. 心臓死ドナー・心停止ドナーと称するものの、移植可能な臓器を獲得するためには血液循環のある時点で(3徴候死になっていない生存中に)抗血液凝固剤ヘパリンの投与やカテーテル挿入などがなされる必要がある。人工呼吸器の停止 (人為的な心停止)、あるいは人工呼吸器装着中(3徴候死になっていない状態で)の脱血・冷却灌流液注入も行われる。それらの処置はドナー候補者の救命不可能の判断が必要であり、またレシピエント目的の行為であり違法性が阻却されないため、脳死判定後に行われる。 つまり、法的脳死判定手続きを踏むべき行為が、「心臓死ドナー・心停止後の臓器提供」と称して横行してきた。
     また試料として用いる時は組織であっても、人体から摘出する場面においては肝臓、腸、膵臓、腎臓として摘出しなければ、肝、腸管、膵・膵島・腎などの新鮮人体試料は獲得できない。「膵島移植は組織移植である」と称して法的脳死判定手続きをしない膵臓摘出が行なわれてきたが、HAB人試料委員会が「本事業は・・・臓器移植法が規定する臓器ではなく組織の提供を目的としているために、同法の対象とはならない」と結論したのは、“脳死ドナーを心臓死ドナー と称すること”“臓器摘出を組織摘出と称すること”の両面から臓器移植法を一層、ザル法化する行為である。
     
  2. HAB研究機構が、現行の心臓死ドナーを前提とした新鮮人体試料の獲得・ヒト組織バンクシステムを構築することは、「心停止後の臓器提供」と称する臓器移植法のザル法化が、医学 研究目的や薬品開発の産業目的からも固定化される恐れがある。

 


20070710

アメリカ “回復不能の脳障害”で人工呼吸器停止、心停止ドナー増加
小文字病院 心停止ドナーに生前ドナー管理 献腎であまりある報酬

 日本医学館発行の「今日の移植」20巻4号はp319〜p324に「アメリカにおける臓器不足」を掲載し、アメリカでは脳死ではなくとも“回復不能の重篤な脳障害”と診断されると人工呼吸器の停止が標準であること、それが“心臓停止後の臓器提供”を増やしていることを伝えた。またp349〜p354に「救急医療における心停止下腎臓提供症例の開発」を掲載し、福岡県北九州市の小文字病院が、「心停止ドナー」に臓器摘出目的で生前からドナー管理を行っていること、同病院が「献腎には、時間外勤務手当てを充分に払ってもあまりある報酬が支払われることも、病院経営上銘記すべき」と判断していることを報告した。

 「アメリカにおける臓器不足」の執筆者は、ロサンジェルス小児病院の松田 和子氏と南カリフォルニア大学泌尿器科の岩城 裕一氏。ドナー不足解消への取組みとして「行政や社会からのサポート」、「医療現場からのチャレンジ(生体ドナー移植、ABO血液型不適合移植、クロスマッチ陽性移植など)」を紹介した後に「呼吸器の停止と心臓死による臓器提供」を記述している。主な内容は枠内の1〜6。

 移植までの待機期間は、2007年4月の統計によると、腎臓移植の場合、血液型がO型やB型の患者では約6年、A型でも4年、肝臓や心臓移植を希望する患者は2年、臓器移植の待機中に落命する患者は2004年に7,582人、2005年に7,464人。

  1. アメリカで“心臓停止後の臓器提供”とよばれる“donation after cardiac death(DCD)”あるいは“non heart beating donation(NHBD)”の現実は、生命維持装置の停止が前提にある。
     

  2. 不慮の事故や脳梗塞・出血などにより、重篤な脳障害を負った患者が医師団から脳死ではないものの“irresible brain damage”(回復不能の脳障害)と診断された場合、患者の家族(または近親者)に対し、臓器提供の可能性を探るとともに、人工呼吸器などの生命維持装置を停止すること(により心臓死を促すこと)を提案されるのである。先に述べたDCDやNHBDは、このような“促された心臓死のもとでの臓器提供”なのである。これは、移植の世界で不文律であった“dead donor rule”に反するものであった。
     

  3. DCD(NHBD)は、2003年には268例であったが、06年には倍以上の605例に増えている。これらの統計は、促された心臓死のもとでの臓器摘出の広がりが進んでいることを示しており、従来の心臓死や脳死の定義では対象にならなかった患者からの臓器提供が増えていることを示しているにほかならない。
     

  4. アメリカでの終末医療は日本と大きく異なる。脳死の条件を満たしていない状況でも“回復不能の重篤な脳障害”と診断された場合、医師団は延命医療の中止(生命維持器の停止)を家族に提案する。臓器提供の意思の有無にかかわらず、医師団が延命治療の意味がないと判断した場合に、家族や近親者が承諾しなくとも治療を中止する権限がある。このような終末医療がスタンダードであるアメリカでは、「延命を中止し、死を早める」のであれば、人の役に立つよう臓器提供を望む家族は少なくない。
     

  5. ドナーを増やすという立場からみれば、臓器提供が増えることは喜ばしいことだとしても、DCD(NHBD)による提供は、やはり単純には受け入れがたいといわざるをえない。本来であれば“尊厳ある死”を迎えるがゆえの延命治療中止が、臓器摘出が大きな目的になるのであるなら本末転倒であるからである。
     

  6. 死を迎える患者や家族・近親者の横で、臓器摘出チームが今か今かとそのときを待っている状況は、やはり患者や家族への尊敬の念を欠いた状況に思える。

当Web注:日本でも人工呼吸器停止後臓器摘出は1980年〜1985年3月に122例あったことが「移植」21巻2号に、1984年〜1988年に133例あったことが「移植」25巻第4号に報告されている。日本臓器移植ネットワークは、1995年4月から2003年12月末までに心停止「死体」腎移植が1,279例のうち、レスピレーターオフ=人工呼吸器停止が280例あったことを報告している(同ネットワークhttp://www.jotnw.or.jp/datafile/news.htmlにあるNEWS LETTER Vol.8,2004のうちp9=http://www.jotnw.or.jp/datafile/vol.8/P9.pdf)。同期間に、実際に臓器摘出のために人工呼吸器を停止させられたドナー数は、医学図書出版発行の「泌尿器外科」19巻5号p607〜p620によると146人。このほか膵島移植のための膵臓摘出は、人工呼吸器の停止を臓器摘出の条件としている。

 

 p349〜p354の「救急医療における心停止下腎臓提供症例の開発」は、福岡県北九州市の救命救急病院(189床)、医療法人財団池友会小文字病院脳神経外科の吉開 俊一氏、 土方 保和氏、同集中治療部看護師の山本 小奈美氏、飼野 千恵美氏らが執筆した。要旨は以下の枠内。

 2003年〜2007年2月までに13例の心停止下腎臓ドナーがあった。2例は脳死を経ずに心停止に至った。このうち脳塞栓症の75歳女性ドナーには、心停止後にヘパリンを静脈投与し心マッサージを行った。また自発呼吸消失後、移植医到着までの約20分間をアンビューにて用手呼吸した。このドナーから摘出された2腎のうち、左腎は初期に機能廃絶した。もう一人の脳挫傷の64歳女性ドナーは、自発呼吸があった。心停止後に検死が行われ、またヘパリン投与後の心マッサージが不十分であったため、腎臓内に血栓化が起こったと考えられ、摘出されたが移植されなかった。

 カニュレーションは13例中7例で行われた。脳死に至った症例には、原則的に外液組成補液約2,000mL/日を投与した。

 (p352)脳死経由症例と非経由症例の相違は、臨床的脳死下で血液抗凝固処置(ヘパリン化)と大腿動静脈からのカニュレーションができるというルールが適応されることのみである。しかもこれらの二つの処置は必須ではない。さらに、臨床的脳死は、法的脳死とは異なり無呼吸テストが不要であり、脳神経外科専門医が不在の施設でも判定可能である。すなわち、献腎提供は手術室を有するすべての医療機関で可能である。

 (p354)献腎には、時間外勤務手当てを充分に払ってもあまりある報酬が支払われることも、病院経営上銘記すべきである。

当Web注:「脳死に至った症例には、原則的に外液組成補液約2,000mL/日を投与した」ことは、臓器獲得目的のドナー管理であり、これは法的脳死判定後に行わないと傷害致死罪に問われる可能性がある。ヘパリン投与後の心臓マッサージは蘇生行為と同じであり、死の3徴候(心臓の拍動停止、瞳孔散大、自発呼吸停止)は中断され死亡宣告は無効になる。脳死を経由しないドナー候補者であれば精神活動まで復活する可能性もあり、臓器摘出が生体解剖となる恐れがある。脳挫傷患者にヘパリンを投与することは、原則禁忌とされている。
 「(p352)脳死経由症例と非経由症例の相違は、臨床的脳死下で・・・。臨床的脳死は、法的脳死とは異なり無呼吸テストが不要であり・・・」は、心停止後の臓器提供が法的脳死判定手続きを形式的に回避している現実に、便乗して臓器を獲得しようという意図の表明であり、血液抗凝固処置やカニュレーションを行うとドナーは苦痛にさらされるのではないか、レシピエント目的の処置が正当化されるのか、などの医学的、倫理的、法的問題を検討していない。

 


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