Whetstine氏:生死の境界線を不明瞭、信頼損なう可能性ある循環死後臓器提供
千葉県救急医療センター:骨折に脂肪塞栓症候群を合併し臨床的脳死
福山市民病院:4DCTで脳血流途絶、脳死とされうる状態を説明、臓器提供
大阪大学医学部付属病院:28歳男性、脳死肺移植術後58日で死亡
第39回日本集中治療医学会学術集会
2012年2月28日から3月1日まで、第39回日本集中治療医学会学術集会が幕張メッセで開催される。以下はプログラム・抄録集より注目される発表の部分(タイトルに続くp・・・は掲載ページ)。
*Leslie M. Whetstine(Bioethicist, Assistant Professor of
Philosophy,Walsh University, North Canton, OH, USA):招請講演 Pioneering or
Predatory: Ethical Controversies in Donation After Circulatory
Death(先進的か略奪か:循環死後臓器提供における倫理的な論争)、p120
全国的な移植臓器の不足を解消するため、米国では循環死後臓器提供(Donation After Circulatory
Death, DCD)患者の取り扱いについて再考が行われた。当初は一定規制下におかれたDCDに限定、すなわち死が予想されかつ一定のコントロール下に臓器提供を進めうる場合にのみ生命維持の中止が行われていたのだが、これが救急室において規制に縛られないDCDにまで拡大してきている。本講演では、このような臓器確保を取り巻く状況を急速臓器摘出救急車(Rapid
Organ Recovery
Ambulances)といった新しい提案も交えて、倫埋的側面から分析したい。さらに、抗凝固薬、血管拡張薬、ECMO等を使った臓器保護手段について倫理面から論評したい。また全米臓器分配機関(United
Network for Organ Sharing, UNOS)から出された最新のガイドラインについて、特に臓器摘出時における臓器提供者死亡ルールど、DCD患者が本当に死亡しているのかどうかについて検討を加える。本議論はとりわけ急ぐ必要があろう。なぜならこのような新しい臓器確保の戦略は、すでにしてぼんやりと霞んだ生と死の境界線をさらに不明瞭なものにし、公共の信頼と臓器移植の将来を損なう可能性があるからである。
解説
Donation After Circulatory Death,DCDは本来、心停止後の臓器提供(donation after cardiac
death) と呼ばれていたもので、判定基準上の問題から心停止後臓器摘出まで数分の遅れが生じていた。米国ではUNOSが新しいガイドラインを作成しているが、これにより従来の基準を緩和して早期に臓器摘出を計る方向に転換する動きが生じつつある。反対派からは「まだ死んでいない人から臓器を摘出されることに目をつぶろうという動きだ」と強い反発もあるがすでに一部の地域で施行されている。
当Web注:日本の「心停止後の臓器提供」においては、既に
1、臓器保護手段としての抗血液凝固剤、抗血栓剤ヘパリン投与の致死的作用について、日本臓器移植ネットワークの文書そのものが、ドナー候補者家族に説明をしていない
2、凍死殺害後の臓器摘出や温阻血時間0分の臓器冷却
など多数行なわれてきた。
*稲田 梓(千葉県救急医療センター麻酔科):下肢開放骨折に脂肪塞栓症候群を合併し、臨床的脳死状態に至った一例、p257
20代男性、交通外傷にて来院時、多弁・興奮あるもバイタルサインは安定していた。左大腿骨・下腿骨の開放骨折の他は大きな外傷なく、来院後80分ほどで全身麻酔下に洗浄・デブリートメント、創外固定術が施行された。術後、覚醒が得られずICU管理、追加の脳CTでも特に異常所見はなかった。術後1日目に両眼瞼に点状出血・尿中脂肪滴の出現が見られ、中枢神経症状を含め脂肪塞栓症候群の合併と診断。術後2日目に頻拍・瞳孔不同出現し、脳CTでびまん性の著明な脳腫脹が見られた。マニトール・高張食塩水の投与を行なうも、同日夕に臨床的脳死状態に至り術後9日目に死亡された。
外傷症例における脂肪塞栓症候群の合併では、死亡原因は通常は呼吸器症状・ショック・多臓器不全が主体であり、中枢神経症状が強く臨床的脳死に至った報告はほとんどない。今後、脂肪塞栓症候群の合併により注意する必要がある。
当Web注:上記発表は、脂肪塞栓症候群で脳死になったことに異論のある法的脳死判定88例目と見込まれる。
*宮庄 浩司(福山市民病院救命救急センター):4DCT-angioにて脳血流途絶を可視化し“脳死とされうる状態”を説明した2例、p257
50歳代女性、低酸素脳症で緊急搬送され人工呼吸を開始。脳死とされうる状態確認のため、各種検査とともに320列CTを用い4DCTを撮影。臓器提供の希望があり脳死判定後、臓器提供していただいた。施行に際しては移動時、血圧の変動などに注意を払う必要がある。
当Web注:脳血流停止「所見」がありながら、脳死ではなかったケースは別のページに掲載。
*滝本 浩平(大阪大学医学部付属病院集中治療部):脳死肺移植術後にChaetomium属による膿胸を発症した症例の検討、p271
28歳男性、慢性血栓塞栓性肺高血圧症に対して脳死両側肺移植術を施行。術後、Chaetomium属による左膿胸を発症した。外科的に開窓術を行い、抗真菌薬を投与。しかし開窓術後14日目(肺移植後58日目)に肺動脈から大量出血し止血がコントロールできずに死亡した。
法的「脳死」臓器移植患者の死亡は累計79名
肝臓移植患者1名、小腸移植患者1名が死亡
日本臓器移植ネットワークは、2月23日に更新した移植に関するデータページhttp://www.jotnw.or.jp/datafile/offer_brain.htmlにおいて、法的
「脳死」臓器提供にもとづき肝臓移植を受けた患者の死亡が1名増加
し、小腸移植を受けた患者の死亡も1名増加し、法的「脳死」臓器移植患者の死亡は、心臓4名、肺26名、肝臓28名、膵腎同時6名、腎臓12名、小腸2名の累計78名に達したことを表示した。
日本移植学会は、2011年12月10日付で発行した日本移植学会雑誌「移植」46巻4号において、心臓移植を受けた患者の死亡は累計5名であることを掲載しており、実際の死亡した移植患者数は累計79名と見込まれる。
これまでの臓器別の法的「脳死」移植レシピエントの死亡情報は、臓器移植死ページに掲載。
ドイツで2010年5月から待機、心臓移植手術2011年9月に完了
「日本人の渡航移植受入れは米国とカナダだけ」は虚偽の宣伝?
2010年5月にドイツへ心臓移植目的で渡航した日本人が、2011年9月にドイツで心臓移植を受け、2012年2月6日に帰国した。日本移植学会のファクトブック2010http://www.asas.or.jp/jst/pdf/fact2010.pdfがp15で
8.海外渡航心臓移植の問題点
●2008 年5
月にイスタンブールで移植医療に関する国際移植学会と世界保健機構(WHO)の共同声明が出されましたが、臓器移植は自国内で行うように指針が出されました。
●そのため、2009 年10
月の時点でヨーロッパ全土、オーストラリアは日本人の移植を引き受けないことを決めています。現在、日本人を受け入れてくれている国は、米国とカナダだけです。 |
としていることとは、異なる事態が進行した。
美紗都ちゃんを救う会のホームページ内の設立趣旨http://misato-chan.net/pc/shushi.htmlによると「心機能、心不全の改善が見られず(陳旧性心筋梗塞、慢性心不全)、心臓移植の適応」と判断されたのは2009年7月以降。2010年2月11日付の設立趣旨は「美紗都ちゃんが助かるには、早めにドイツに渡航し、移植待機登録をしておくしかありません」としており、2010年2月11日時点で移植待機登録はできていない。活動報告http://misato-chan.net/pc/houkoku.htmlによると、ドイツ・バードユーンハウゼン心臓病センターへのデポジット(入院保証金)30万ユーロの送金は2010年3月27日。ドイツ到着は2010年5月18日。ドイツにて(2010年5月〜)http://misato-chan.net/pc/germany.htmlによるとドナー登録は5月27日、移植手術は2011年9月24日。
毎日新聞の2月8日付記事http://mainichi.jp/area/kumamoto/news/20120208ddlk43040530000c.htmlによると、帰国後の記者会見で田中 美紗都さんは“早期に移植手術を受けるためには渡航しなければならない現状を踏まえ「日本でも移植ができる環境にしてほしい」と呼びかけた”という。
当Web注: 日本臓器移植ネットワーク資料「小児の腎臓移植に関する詳細データ」http://www.jotnw.or.jp/file_lib/pc/datafile_offer_pdf/syouni.pdfによると、1995年4月から2009年末までの小児「心停止後」腎臓提供は38件だ。小児法的脳死ドナーの発生は年間1例前後と予測され、現実もその水準で推移している。1997年臓器移植法を改悪しても、小児「脳死」ドナーが極めて少ないこと(小児臓器不全患者の治療に、臓器移植が役立つ機会は少ないこと)を移植医自身も認識していた。
それにもかかわらず、移植医らは「イスタンブール宣言を受けて、ヨーロッパ全土とオーストラリアは日本人の移植を引き受けないことを決めた。日本人の渡航移植を受け容れてくれる国は米国とカナダだけになった」と、臓器移植法改悪を勧めるために事実にもとづかない宣伝を行なっている可能性がある。
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