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2006年6月30日 臓器提供意思を表明する人の増加は、手放しで称賛できない
若年者は、自分を役に立たない者と感じているから臓器提供
大分県立看護科学大 看護アセスメント学研究室がプレ調査
2006年6月30日B 54歳女性 脳死状態・ICUで465日間生存 永寿総合病院
2006年6月23日 東海大 意識障害の9ヶ月児から腎臓を摘出、移植
2006年6月16日 帝京大学医学部 3ヵ月に2回も脳死判定対象外の患者を判定
43例目に続いて47例目 検証会議も残存薬物問題を指摘せず
2006年6月 4日 友人間生体腎移植 社会保険中京病院
国内初の交換生体腎移植 九州大学
第17回サイコネフロロジー研究会
2006年6月 3日B 日本脳死・脳蘇生学会 近畿大学の「脳死後復活」演題を削除
「心停止10分で脳幹死、蘇生可能性は0%」植村論文を掲載
2006年6月 3日

第19回日本脳死・脳蘇生学会 演題の6割が臓器提供促進
近畿大 乳児を脳死判定、自発呼吸出現 4年3ヵ月生存
塩貝氏 脳血流停止所見で脳蘇生限界の推測は容易でない
帝京大 法的脳死判定で随意筋収縮 36時間判定延期
北里大病院 クモ膜下出血グレード5の55%に積極治療
市立札幌病院 腎摘出術前措置を「一般的脳死診断」で
石川県 肝臓移植 辞退続出30名、あっせん中止

 

20060630

臓器提供意思を表明する人の増加は、手放しで称賛できない
若年者は、自分を役に立たない者と感じているから臓器提供
大分県立看護科学大 看護アセスメント学研究室がプレ調査

 6月30日付で発行された「こころの健康」21巻1号は、p55〜62に柿野 友美(聖路加国際病院)、藤内 美保、安部 恭子(大分県立看護科学大学看護学部看護アセスメント学研究室)による“臓器提供の意思とセルフ・エスティームの関連についての探索的調査”を掲載した。

 この調査は、臓器提供の意思を決めた人の心理的特徴、ドナーカード所持者に自殺者が多いと報じられたことから「自分を役に立たない者と感じている人の中には、死ぬ前に何らかの方法で人の役に立つことを願っている人もいるだろう。その一方法として死後の臓器提供を決心する人もいるのではないか」を仮説として、臓器提供の意思とセルフ・エスティーム(自尊感情)および死についての意識との関連に焦点を当て、研究を深める必要の有無を検討するための簡易なプレ調査として行った。A市公共文化施設に2004年9月中旬から10月上旬までの間に訪れた人々を対象として、無記名自記式質問紙を用いた。協力の同意の得られた232名のうち、回答が完全な人と、15歳未満または71歳以上を除いた199名(男性85名、女性99名、平均年齢36.8歳)の回答を集計・分析した。

 結果の概要

  • セルフ・エスティーム得点は、平均34.1±7.6点、男女別のセルフ・エスティーム得点に差はなかった。
     
  • 年代別のセルフ・エスティーム得点は、10代34.4、20代31.5、30代32.1、40代35.5、50代38.0、60代35.2であり、10代および20代のセルフ・エスティーム得点は40代のセルフ・エスティーム得点より有意に低かった。
     
  • 臓器提供意思と年代別のセルフ・エスティーム得点は、10〜20代が「提供する26.2点、提供する意思あり32.4点、提供しない32.8点」、30〜40代が「提供する39.2点、提供する意思あり36.2点、提供しない37.3点」、50〜60代が「提供する33.0点、提供する意思あり33.8点、提供しない37.8点」であり、10〜20代という若い年代においては、提供する意思が強くなるにつれてセルフ・エスティーム得点が有意に低くなっていた。
     
  • 死後に臓器を「提供する」「提供してもよい」という人の、その理由をセルフ・エスティームの高低別にみると、「誰かの役に立ちたい」「生きていた証として臓器を残したい」「困っている人をほおっておけない」「死ぬ前にひとつ大きなことをしたい」といった理由は、26点以下の低セルフ・エスティーム群でより多く見られた。
     
  • 反対に、臓器を「提供しない」という人の理由をセルフ・エスティームの高低別にみると「自分の体を傷つけたくない」「自分の臓器を使われたくない」「自分の臓器は移植できないと思う」という理由は低セルフ・エスティーム群で多く、「臓器移植に反対・抵抗がある」という理由は43点以上の高セルフ・エスティーム群で多かった。
     
  • 死について意識する頻度と臓器提供意思との関係は、死について意識する頻度が高くなるにつれて、提供意思決定群(提供する+提供してもよい+提供しない)の割合は高くなっていた。提供意思決定群に限ってみると、死について考える頻度が高いほど、提供意思も強くなっていた。
     
  • 自分自身の死について考える頻度と臓器提供の意思との関係は、考える頻度が高いほど提供意思決定群の割合は高くなっていた。意思決定群に限ってみると、自分自身の死について考える頻度と、提供する意思の強さとの関連は、有意ではなかった。
     
  • 死および自分自身の死について考える頻度とセルフ・エスティーム得点との関係は、いずれも考える頻度が高いほどセルフ・エスティーム得点が低く、「考えたことがない」という群のセルフ・エスティームが最も高かった。

 

 柿野氏らは、「意思決定群に限ってみたときに、提供意思の強さと自分自身の死について考える頻度に関連がなく、むしろ提供意思の強さと“漠然とした死について考える頻度”のほうが有意であったことも、興味深い。漠然とした死よりも自分自身の死について現実的に想像するほうが、死への不安が強まるために、提供意思は弱まるのかもしれない」と考察。

 おわりに、では「今回の調査の結果、若年者の間では、自分の死後に臓器を提供する意思を示すという一見積極的にも取れる行動の裏に、セルフ・エスティームの低い人の多い可能性や、自己の価値を見つける手段の一つとしてそのような意思を決めている人が存在する可能性が示唆された。もしもこの結論が一般的に成り立つものであれば、提供意思を表明する人が増えることを“臓器移植推進”の立場から手放しに称賛してはいけないのかもしれない。少なくとも個々のドナー候補の中には、このような心理的背景がある人も意識しておくことは必要だろう。今後、より系統的な調査計画に基づいて、上記の結果を確認してゆくことが重要だと思われる」としている。

 


20060630B

54歳女性 脳死状態・ICUで465日間生存 永寿総合病院

 永寿総合病院・看護部の高木 郁美氏は、永寿総合病院紀要18巻p96〜97に54歳の脳死患者を465日間看護した経験を「くも膜下出血で再破裂し、脳死状態となった患者様のケアを通して」として発表した。HW 氏は54 歳女性、脳底動脈痛破裂で緊急入院となったが、11病日目に再破裂を起こし意識レべルJCSV−300、呼吸停止に至った。その後、脳死状態で人工呼吸器装着のもと465日間過ごしたという。以下の枠内は発表された内容の部分。なお、原文にも脳死判定についての医学的記述はない。

看護の実際と結果

 #血圧変動に伴い同一体位を強いられている。

 仙骨部や踵部に発赤、表皮剥離が見られたがドレッシングテープにて保護し、改善した。適宜皮膚科受診を依頼した。輸液ライン固定周囲に水疱ができることあり、固定テープをいろいろ変えてかぶれにくいテープを選択して使用した。全身浮腫が増強傾向にあり寝衣やシーツのしわの跡が皮膚につきやすくなっていき、全身的に皮膚のトラブルが生じやすい状況であった。それぞれスキントラブルは長期化するもののケアを継続していくことで改善した。


 #突然のことであり家族の心理的動揺が大きい。

 家族はほぼ 1〜2日おきに面会に来ていた。家族と過ごす時間を大事にしようと特に面会制限はせず、いつでも面会が出来る環境を提供したがICUということもあり、他の患者様のケアがあると控室で待っていただくこともあった。病状説明は、家族の希望されたとき医師の希望時の時間調節を行った。医師から脳死状態であるという説明もなされ人工呼吸器を外そうという話が持ちあがったが、母は、娘の状態を受け入れられないようであり他院にCTのコピーを持っていき、セカンドオピニオンの意見を再度持ってくることがあった。母からの質問もありその都度返答していた。再破裂からしばらくは面会時に名前を呼び泣きながら話しかけていることを見かけたが、1年程経過すると落ち着いて面会しているようであった。


考察

 HW氏のケアの中で一番難しいと感じたのは家族との関わり方であった。母にとって頼りにしている娘が病気になり、意識が戻らず日常生活に戻れないことは耐えがたい苦痛であったに違いない。入院されて何度も病状説明が行われた中で、夫、息子、娘は現状は現状として受け止めていたのだろうが、母はなかなか受け入れられないようであった。母の意見を尊重しその気持ちに沿えるように医師に伝え、家族の思いを汲み取り病状説明のセッティングなど状況説明に努めた。
 ICUという隔たりのある環境の中で最期を迎えられたHW氏に、もっと家族との時間を作れる環境を提供できたのではないかという後悔もある。大岡は、医学的には再び自力で身体を動かし、食事をし、話をすることができなくても、患者が人間として尊厳が保たれ、家族が共に過ごす患者との時間は、人間の命にとって貴重なものではないだろうかと述べているように、家族と共に過ごす時間は貴重であるが限られた環境の中でいかに家族と患者様が時間を共有できるか、その時間を充実させるかということもICU看護師の役割のーつなのではないかと思う。大岡は、いったん助かった命に対しては、人為的な操作は加えず自然な死を迎えられるまで看取るのが、人間が人間の尊厳を評価することになるのではないだろうかとも述べている。HW氏は再破裂したが一命を取りとめ、家族と過ごす時間は少なかったけれども愛する家族が誰一人欠けることなく家族の見守る中で死を迎えられ、HW氏の尊厳は守られたと言えるのではないだろうか。
 


おわりに

 ICUにおいて約1年4ケ月という入院は異例と言えるが、手術待機中の再破裂という最悪の結果から今振り返ってみるといつ誰が来ても健康であった時のHW氏の面影を損なわないようにすることと、家族と過ごす時間を大切にすることがICUスタッフ全員の一貫した思いであり最後までその思いが変わることはなかった。私たちが看護をする上でケアに対しての考えが一貫していることや目標達成できたことは、根底となるものであり、また自信となった。

 

当Web注

  1. 成人で長期間生存中の脳死患者の報告は、静岡県島田市立島田市民病院から30歳女性患者が在宅療養で9ヵ月間経過したこと。臓器提供例では、秋田県下(秋田赤十字病院?)で40代女性が脳死後165日間生存したことが第40回日本臨床腎移植学会で報告された。世界の脳死出産例では 、竹内 一夫が最長107日間生命を維持されて出産したことを報告している。
     
  2. 法的脳死判定1例目(高知赤十字病院)のドナーもクモ膜下出血の再破裂であり、中枢神経抑制剤投与下の脳死判定とみられる。法的脳死判定1例目の病状経過表はこちら

 


20060623

東海大 意識障害の9ヶ月児から腎臓を摘出、移植

 第51回日本透析医学会学術集会・総会が6月23日〜25日の3日間、パシフィコ横浜(横浜市)を会場に開催される。東海大学医学部腎・代謝内科の但木 太(ただき ふとし)氏らは9ヶ月の男児をドナーとした腎移植例を発表する。

 「今回、我々は本邦最年少となる9ヶ月の男児をドナーとする死体腎移植を経験したので、若干の文献的考察を加え報告する。ドナーは9ヶ月の男児、急性硬膜下血腫にて意識障害となり家族の強い希望でドナーとなった。レシピエントは慢性糸球体腎炎で透析15年の55歳男性。移植腎はen-blockで摘出し、そのまま右腸骨窩に移植した。移植腎は左右とも長径5cm前後であったが、移植後1ヶ月で10cm程度と短期で成人と変わらぬ大きさとなった。現在、経過良好である」という。

出典:但木 太、角田 隆俊、佐藤 孔信、金井 厳太、稲垣 身穂、宮本 嘉泰、田中 礼佳、鈴木 大、斉藤 明(東海大学医学部腎・代謝内科):9ヶ月の男児をドナーとした腎移植の1例、日本透析医学会雑誌39巻総会特別号、p735(2006年)

 

当Web注:但木氏らは「9ヶ月児ドナーが本邦最年少」としているが、これは間違い。白木 良一、星長 清隆(藤田保健衛生大学):心停止ドナーを用いた献腎移植におけるドナー側危険因子、泌尿器外科、12巻7号p749〜p753(1999年)は、ダブルバルンカテーテルの留置や心停止後も心臓マッサージを行う腎臓摘出が1983年1月〜1997年12月にドナー数156名あり、年齢が7ヵ月〜70歳であったことを記載している。

 新生児からの心臓拍動中の臓器摘出・移植例もある。
=都築 一夫、美濃和 茂、伊東 重光、小野 佳成、絹川 常郎、松浦 治、大島 伸一(社会保険中京病院):無脳児をドナーとした小児腎移植の1例、小児科臨床、37巻6号p1233〜p1236(1984年)によると、1981年12月11日、名古屋大学医学部附属病院で体重2,000gの無脳児から温阻血時間0分で腎臓が摘出され、冷阻血時間309分で左右2腎とも8歳女児に移植された。温阻血時間0分とは心臓拍動中の臓器摘出を示す。


 全身を冷蔵保管した後の臓器摘出も行なわれている。
=東間 紘、高橋 公太、太田 和夫(東京女子医科大学腎臓病総合医療センター)、伊東 央、伊藤 克巳(同小児科):全身灌流による死産児腎保存の試み、移植、14巻6号p325(1979年)によると、34週目で死産した先天性水頭症を、死後およそ1時間後にカニュレーション、4℃に冷却したラクテック液を手で加圧しながら注入、全身灌流冷却を行った。アイスボックス内で全身を冷却したまま約3時間保存した後、両腎を摘出した。・・・・・・腎の灌流状態は悪かったため、臨床的に腎移植に使用することは断念した。
 


20060616

帝京大学医学部 3ヵ月に2回も脳死判定対象外の患者を判定
43例目に続いて47例目 検証会議も残存薬物問題を指摘せず

 2006年6月16日、帝京大学医学部附属市原病院にクモ膜下出血で入院していた40代女性が47例目法的脳死と判定され、46例目の脳死臓器摘出が行われた。

 脳死下での臓器提供事例に係る検証会議報告書http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/05/s0529-5.htmlは、2.1 脳死判定を行うための前提条件についてhttp://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/05/s0529-5b.htmlにおいて「脳死判定にあたり、中枢神経系への作用を勘案すべき薬剤で本症例において使用されたものは(1)フェノバルビタール、(2)プロポフォール、(3)ニゾフェノンである。(1)は100mg/日で6月11日まで、(2)は0.6ml/時間で6月12日8:00まで、(3)は60mg/日で6月13日まで投与された。臨床的な脳死診断は6月15日10:00から11:00まで行われた。薬剤の投与を中止してから臨床的脳死診断に至る時間経過について、(1)は72時間以上、(2)は64時間、(3)は34時間であるが、いずれも臨床的に脳死判定に影響することはないと判断できる」と、単純に時間経過のみ示して脳死判定を行ってもよい患者であると虚偽の報告をした。

 高知医科大学法医学の守屋 文夫氏は日本医事新報、4042号p37〜p42(2001年)に「臨床的脳死状態で塩酸エフェドリンを投与された患者が約72時間後に心停止した。解剖して各組織における薬物濃度を測定したところ、心臓血における濃度よりも53倍 (3.35μg)の塩酸エフェドリンが大脳(後頭葉)に検出された」と報告している。熊本大学医学部の木下 順弘教授は、残存薬物問題で脳死判定に自信を失ったことを日本脳死・脳蘇生学会のワークショップで講演している。

 中枢神経抑制剤の投与終了から数十時間〜百数十時間経過しても、脳組織に影響している薬物濃度は知りようが無い。厚労省検証会議メンバーの竹内 一夫は、脳と神経2002年7月号において守屋文夫・高知医大助教授が指摘した脳組織内薬物濃度と血中薬物濃度の乖離を紹介し「脳死判定の目的で被験者の脳組織を採取するような検査は、まず実施不可能であろう」と 書いている。

 帝京大学病院は2006年3月の法的脳死43例目でも、中枢神経抑制剤が投与された脳死判定 の対象外とすべき患者を脳死と判定した。

注:帝京大学医学部附属市原病院は、2006年8月1日に帝京大学ちば総合医療センターに改称した。

 


20060604

友人間生体腎移植 社会保険中京病院
国内初の交換生体腎移植 九州大学
第17回サイコネフロロジー研究会

 2006年6月4日、静岡県三島市の東レ総合研修センターにおいて第17回サイコネフロロジー研究会が開催され、社会保険中京病院から友人間の生体腎移植例が、また九州大学からは国内初の交換生体腎移植例が発表された。以下は臨床透析23巻4号p499〜p527より要旨。

友人間生体腎移植例

 社会保険中京病院の絹川 常朗氏によると、2006年4月に50歳男性同士の友人間移植を行った。2004年5月に30年来の友人間での移植を希望し来院された時には、前例のない事例であり積極的には対応せず、他施設へ紹介した。しかし、紹介先でも受け入れられず6ヵ月後に再来院された。問診ではレシピエントの親族に生体腎移植のドナー候補はおらず、ドナーの腎提供への意志は非常に強固であった。絹川氏の収集できる範囲内の客観的事実では、ドナーとレシピエント間に金銭などの取り引きはないと考えられた。面談を繰り返すうちに二人の考えもわかり、絹川氏も逃げることなく、時間をかけて正規の手続きを一つずつ踏み、移植の可能性を探ることを約束した。精神科医の面接に続き、二人の間での移植が取り引きではなく友情の発露であることを保証できる人に遠方から来院していただいた。これらの資料をもとに院内倫理委員会の承認を得、日本移植学会へ移植の可否についての意見を求めた。

 移植学会倫理委員会からは、いくつかの項目を明確にすべく一度差し戻しを受けた。指摘された項目のうち、死体腎移植未登録の件を解決し、レシピエントの4名の姉すべてが医学的にドナーとして不適格であることを各人の診断書を取り寄せ確認した。レシピエントの医学的検査と、ドナーとレシピエントの心理テストについても詳細な追加報告を行った。手術同意書もさらに詳細なものに変更した。そのうえで、院内倫理委員会で再審査を受け、日本移植学会倫理委員会に再審査を依頼し、最初の依頼より約8ヵ月後に学会の倫理指針に沿った手続きのなされていることを確認していただいた。その2ヵ月後、初診より約2年目に自院の責任において腎移植を施行した。ドナーに手術合併症はなく、患者も手術より7ヵ月経過し、血清クレアチニン値1.2mg/dlと良好な腎機能を維持している。ドナーとレシピエントの人間関係も良好に保たれている。

交換生体腎移植例

 九州大学大学院医学研究院腎疾患治療の杉谷 篤氏によると1組目の夫婦は米国籍の52歳の女性レシピエント(糖尿病で透析導入、A型)と52歳の男性ドナー(B型)。2組目の夫婦は、49歳男性レシピエント(慢性糸球体腎炎で透析導入、B型)と52歳女性ドナー(A型)。2002年1月、1組目の夫婦から、海外で行われている「交換腎移植」のような可能性はないのかという質問、提案があった、杉谷氏らは、ABO不適合腎移植と交換腎移植の比較、それぞれのペアで交換する場合としない場合の比較検討、倫理的・法律的条件の文献的検討、日本移植学会の倫理指針を調べ検討した。それぞれの夫婦別個に精神科医による面接を行い、戸籍謄本・外国人登録原票の提出を要求し、カルテに記述・保存した。2002年9月13日九州大学倫理委員会に倫理審査申請書を初めて提出したが、翌日、地方紙に報道があり、2組目の夫婦から、以後はいかなるマスコミ報道も控えてほしいという強い要望が寄せられたので、交換腎移植そのものを保留とした。

 2002年11月、1組目の女性レシピエントの糖尿病が悪化し、コントロールのため他院に入院加療となったので、移植の適応ではないと判断した。2003年3月、2組目の男性レシピエントが出血性潰瘍のため、内科的治療を開始した。2003年7月ころ、1組目ドナー、2組目ドナーそれぞれから再度、腎移植の可能性を問われたので、精神科医によるドナーの意思を確認し、直前まで報道発表しないことを約束して交換腎移植を行う合意を得た。

 2003年8月29日、2組目の男性レシピエントは出血性胃潰瘍が悪化し当科で胃切除、2003年9月、倫理委員会の承認を再確認し、精神科医による最終インフォームドコンセントを取得、事前に報道機関、日本移植学会に公表することはしないという合意を確認した。2003年10月1日に2組目ドナーから1組目レシピエントへの女性同士、10月3日に1組目ドナーから2組目レシピエントへの男性同士の交換生体腎移植を施行した。

 2組目ドナーは良好に経過し、術後7日目に軽快退院した。1組目ドナーは軽い腸管の麻痺性イレウスがあって、術後10日目に退院した。1組目レシピエントは抗体拒絶が示唆されたので血漿交換を3回行い105日目に軽快退院、3年経過した現在、血清Cr1.2mg/dlで完全社会復帰している。2組目レシピエントは胃切除部位の近傍に膿瘍を形成し24日目に穿刺吸引を行い83日目に軽快退院、その後全身骨痛と膝関節炎で入院加療、急性拒絶反応があったが、現在、血清Cr1.3mg/dlで完全社会復帰している。

 

 東海大学の加藤 俊一氏は「ドナー交換腎移植に関する日本移植学会の見解」として、学会評議員へのアンケート結果を紹介した。ドナー交換腎移植について、必要性があるとの回答と、ないという回答がほぼ同数であった。医学的適応としては、「ABO式血液型不適合」「リンパ球クロスマッチ陽性」が多く、「HLA不適合」とする回答は少数だった。複数施設間でドナー交換腎移植を可能にするための「社会的システム」については、必要、不必要の回答がほぼ同数であったが、必要とする回答者には積極的な意見は少なく、不必要とする回答者には強い反対意見が多く述べられていた。

 


20060603B

日本脳死・脳蘇生学会 近畿大学の「脳死後復活」演題を削除
「心停止10分で脳幹死、蘇生可能性は0%」植村論文を掲載

 近畿大学救命救急センターは、第19回日本脳死・脳蘇生学会において「乳児期に脳死診断後、4年間生存しえた1例」を発表したが、日本脳死・脳蘇生学会学会機関誌 第18巻1号の巻頭にこの演題を取り消す「会員へのお知らせ」が掲載された(下記枠内)。そして「心停止10分間で脳幹死が成立、蘇生可能性は0%になる」という明らかな間違いを含む、植村研一氏(浜松医科大学名誉教授・横浜市立脳血管医療センター長)による「脳の仕組みからみた脳死と脳蘇生」をp3〜p11に掲載した。

会員へのお知らせ


第19回日本脳死・脳蘇生学会における発表演題の取り消しと
学会機関誌第19巻第1号の訂正のお願い

第19回日本脳死・脳蘇生学会 会長 奥寺 敬(富山大学医学部救急・災害医学/同大学院医学薬学教育部危機管理医学)

 標記の学会における発表演題 一般口演5:臨床4 O-15「乳児期に脳死診断後、4年間生存しえた1例」演者:植嶋利文(近畿大学医学部附属病院救命救急センター)が,演題発表後に,演者自らにより演題取り下げの申し入れがありました。本演題は,演題として受け付け査読の段階では,演題名,抄録内容とも人念に点検を行い採用演題といたしましたが,発表後の討議の後に,取り下げの申し出があり,本学会代表理事等で臨時に協議を行い,取り下げを受理いたしました。

*  *  *

平成18年6月3日

日本脳死・脳蘇生学会 会長殿

近畿大学救命救急センター
植嶋 利文


 第19回日本脳死・脳蘇生学会におきまして,「1乳児期に脳死診断後,4年間生存しえた1例」を発表致しました。しかし,「脳死判定の対象となりうる症例であったのか」,「無呼吸テストができていない」,「脳血流検査などが十分なされていない」などの点が不十分でありました。そのため,題名及び抄録の内容から社会的に大きな誤解を生んでしまう可能性があると危惧いたします。
 そのため,発表をさせていただいた事後でありますが,本抄録ならびに発表内容の削除公告をお願い申し上げます。
 貴学会に,ご迷惑をおかけいたしましたことをお詫び申します。

 

*  *  *


 以上のような経過ですので.先にお届けした日本脳死・脳蘇生学会機関誌『脳死・脳蘇生』第19巻第1号掲載の学会ブログラム20ページの演題O- 15 の標記,ならびに55 ページの同演題の抄録を削除させていただきます。医学中央雑誌等の文献データべースへの収載時にも同様の対応とさせていただきます。また,本件につきましては,学会当日に各新聞社等マスコミに対しても通知をいたしましたのでご了承願います。

 

演題削除に関する当Web注

  1. 学会発表あるいは診断、治療について疑義がある場合、その学会誌上で議論が行われて記録に残されるべきだ。疑義のある発表、診断、治療の行われた事実まで削除する処置は、不適切と思われる。
  2. 近畿大の池上 雅久氏らは、1989年1月に心停止後も血圧100/50mmHg程度に維持した1歳女児から腎臓を摘出した。日本移植学会雑誌「移植」移植26巻6号p646〜653には、ドナーとされた女児は全前脳胞症であり、池上氏らは「広義の無脳児と判断された」としている。その後も、多くの演題で無脳児という表現を多用している。全前脳胞症を無脳症と混同する神経科医は皆無と思われるが、移植医療従事者は無知なためか、または差別的表現が臓器獲得に役立つと判断しているためか、この明白な間違い演題は訂正されていない。

 

 次は18巻1号p3〜p11掲載、植村 研一氏(浜松医科大学名誉教授・横浜市立脳血管医療センター長)による「脳の仕組みからみた脳死と脳蘇生」の主要部分。

p3〜4 通常の死は「ある時間経過を辿るプロセス」である。死へ向かうプロセスの中で、最初のうちは治療や蘇生術によって生還が可能であろうが、ある時点を過ぎると「いかなる手段・方法を用いても生還は不可能」となる。この時点を「不帰の点」“point of no return” という。「不帰の点の通過をもって人間の死と定義する」と言うのが、Pallisの提唱した「人間の死の定義」である。医学的にはこれ以上の定義はないと信じている。問題は、「不帰の点の通過」を現代医学でどう診断し判定するかである。

p4 脳幹の中心に脳幹網様体があり、橋の中程から上の部分の脳幹網様体が大脳皮質全体を賦活して意識を維持しており、橋の下部の脳幹網様体が呼吸を維持し、延髄の脳幹網様体が血液循環の維持に不可欠である。従って、脳幹網様体の機能が完全に停止してしまえば、意識を失い、自発呼吸は停止し、やがて心停止を来たす。このような状態をPallisは「脳幹死」と命名した。

p5 ここで人間の死は脳死か心臓死かという議論に終止符を打っておきたい。心臓が急停止しても、大脳皮質は4分、脳幹は8分間機能を維持できる。従って、心停止後3分以内に蘇生に成功すれば、何の後遺症もなく生還できるが、5分後に蘇生すれば、既に大脳皮質は死滅しているが、脳幹の機能は維持されるので、植物状態で生存が可能である。しかし、10分後に蘇生しても、脳幹死が既に成立しているので、やがて心停止する。
 従って、心臓死は不帰の点ではないので、人間の死と判定することは絶対にできない。従来、心臓死でよかったのは、蘇生術がなく放置したからにほかならない。・・・・・・脳幹死という不帰の点を通過すると、たとえ未だ心停止が不可避である以上、(生還の可能性は)0%となる。

 このように考えると、人間の死を不帰の通過と定義するなら、脳幹死以外にありえないことになる。これがPallisの脳幹死理論である。

 

植村論文に関する当Web注

  1. 「死亡宣告」と「死」の混同=植村氏は「通常の死は、ある時間経過を辿るプロセス」と知っているのだから、そのプロセスのなかの1点に、改めて死の定義を設けることに無理がある。全細胞死に至るプロセスそのものを、死の定義としておけばよいのではないか。
     不帰の点の通過が正確に診断でき、人体を構成しているすべての細胞の死ぬプロセスが開始されていることを診断できる場合は、その時点で「死のプロセスは完了していないが、社会的権利の大部分の喪失を意味する死亡宣告をすること」は妥当ではないか(火葬や解剖、臓器摘出などを行わない限り)。Pallis氏、植村氏は死亡宣告の基準と、死の定義を混同しているのではないか。
     
  2. 中脳以下の脳幹の機能を過大にみる誤り=Magoun は「意識水準を調節する賦活系は、決して中脳網様体に限定されるものではない。賦活系は間脳を含まなければ機能概念として成立しない」とする脳幹賦活系説に改めた(1958年)。花田氏らは脳と神経49巻7号(1997年)において「ヒトをヒトたらしめている自我意識の発生機構には、上位の脳幹(視床下部と中脳)と大脳皮質の統合作用が不可欠である。(中略)したがって、中脳以下の機能の不可逆的な破壊だけをもって脳幹死とし、それをヒトの死とすることは理論的に誤りである。脳幹死の判定にあたっては、視床下部と大脳皮質間の統合活動の残存に最大限の注意を払うべきである」と述べている。参照:間脳を検査しない脳死判定、ヒトの死は理論的に誤り
     
  3. 脳幹の機能を過大にみる誤り、不帰の点の誤った設定=植村氏のいうとおりに「10分後に蘇生しても、脳幹死が既に成立しているので、やがて心停止する」のであれば、脳死判定基準を満たした後に日単位、週単位、月単位、年単位で長期生存している患者は、本当は脳死ではないことになる。「延髄の脳幹網様体が血液循環の維持に不可欠である。従って、脳幹網様体の機能が完全に停止してしまえば、意識を失い、自発呼吸は停止し、やがて心停止を来たす」という部分も、脳幹の機能の過大視ではないか。
     
  4. :心停止後に蘇生可能な時間を、異常に短くいう誤り=循環科学15巻11号(1995年)で、吉村 史氏(吉村クリニック)は、自宅でホルター心電図装着中5分27秒の心停止をきたすも、神経機能もほぼ完全に再開した症例を報告した。蘇生18巻3号(1999年)で大久保 一浩氏(刈谷総合病院)は、院内でモニター記録上 心停止20分経たものの蘇生し軽度高次脳機能障害を認めた症例を報告した。マーガレット・ロックによると外科医のリチャード・セルツァー自身が、心電図フラット4分半+死亡宣告+10分以上経過後に蘇生したことを報告しているという。
     したがって、植村氏がいう「10分後に蘇生しても、脳幹死が既に成立しているので、やがて心停止する」は、明白な誤り。

     「心停止10分間で蘇生可能性はゼロになる」という俗説は、救急患者が入院後に「生存退院(社会復帰or社会復帰困難)」「生存しているが入院継続(生命維持装置依存or依存なし例」「院内で死亡」などさまざまな経過をたどるうち、「生存退院患者」の心停止時間と比率から判断されたものとみられる(蘇生術が広がり始めた頃の欧米の統計にもとづいて)。「蘇生の可能性がない」と称する患者の範囲には「院内死亡患者」だけでなく、生存している「生命維持装置依存患者、入院継続患者」も含まれる模様だ(調査中)。


 


20060603

第19回日本脳死・脳蘇生学会 演題の6割が臓器提供促進
近畿大 乳児を脳死判定、自発呼吸出現 4年3ヵ月生存
塩貝氏 脳血流停止所見で脳蘇生限界の推測は容易でない
帝京大 法的脳死判定で随意筋収縮 36時間判定延期
北里大病院 クモ膜下出血グレード5の55%に積極治療
市立札幌病院 腎摘出術前措置を「一般的脳死診断」で
石川県 肝臓移植 辞退続出30名、あっせん中止 
 

 6月2、3日の2日間、富山国際会議場(富山市)において第19回日本脳死・脳蘇生学会が開催された。3日の午後には「全国ドナーコーティネーター会議2006 in 富山」と合同セッションを開催。プログラム・抄録集に抄録が掲載された51演題のうち、過半数の28演題が臓器提供促進に関連する内容となった。

 以下は第19回日本脳死・脳蘇生学会 総会・学術集会プログラム・抄録集より注目される発表(タイトルに続くp・・・は掲載貢)

植嶋 利文(近畿大学医学部附属病院救命救急センター)、田中 大吉(暁美会田中病院):乳児期に脳死診断後、4年間生存しえた1例、p55

 5ヵ月男児は睡眠中に呼吸停止となっているところを母親に発見され、蘇生処置を実施されながら搬送。来院後、心拍は再開したが心停止時間は約40分間であった。小児脳死判定基準研究班の基準に、無呼吸テストを除き、ほぼ準拠して第20病日と第24病日に脳死診断を行った。無呼吸テストの代用として、呼吸器設定の操作により、動脈血中の二酸化炭素を貯留させた状態で自発呼吸出現の有無をチェックした。その結果、すべての反応は認めず聴性脳幹反応も認めなかった。

 しかし尿崩症は出現せず、下垂体ホルモンの基礎値も維持されていた。第30病日頃から微弱な自発呼吸の出現を認めたが、呼吸器からの離脱には至らなかった。頭部CTでの経過観察では、びまん性の脳萎縮が急速に進行した。その後、当院および他院で長期入院を継続し、発症4年3ヵ月後(1539日後)に肺炎などの合併で死亡した。

 考察:乳児に対する脳死判定は厚生労働省の研究班が示している48時間という規定だけでは脳死と判定されても、今回のように自発呼吸の出現や長期生存できる可能性があり、ホルモンの基礎値の検討や、脳血流、脳死判定間隔の延長等の検討も必要かもしれない。

 

*塩貝 敏之(京都武田病院脳神経科学診療科):脳蘇生の限界と脳血流停止 超音波検査を中心に、p38

 脳血流停止自体の定義や脳循環・代謝測定法の問題も加わって、頭蓋内血流の残存と脳実質の血流停止、頭蓋内血流停止後の再灌流、脳循環代謝と脳機能乖離などに関する疑問は、なお解決されたとは言いがたい。従って、脳死状態の脳血流停止所見に基づき、脳蘇生の限界を推測するのは必ずしも容易でないと言わざるをえない。

 

*園生 雅弘(帝京大学医学部神経内科):他の脳死判定基準を満たす患者の脳波上にみられる筋電図活動 その本態と扱いについて、p43

 交通外傷の30歳代男性は、脳死判定基準の各項目は満たし、背景脳波も脳電気的無活動であったが、右側頭葉に随意収縮類似の筋電図活動が残存したので、脳死判定を延期した。その消失を確認してから臨床的脳死診断、第1回、第2回法的脳死判定と進めていったが、第2回判定時(先の筋電図活動消失を確認してから約16時間後)、再度筋電図活動がみられたため、一旦脳死判定作業を中止した。これは数時間持続した後消失。36時間以上活動が再開しないことを確認してから臨床的脳死診断を再開、法的脳死判定を終了した。

 頭部の随意ないし反応運動は脳死を否定する根拠とされている以上、脳波に混入する筋電図活動の扱いは慎重であるべきである。特に随意収縮類似の活動は脳幹内の細胞体機能の残存を推測させるものである。(上記)にみられた活動は脳幹外末梢神経由来の可能性が高い。

当Web注:脳死判定の5日後に鼻腔脳波が測定された症例もあるが、この抄録には「36時間以上活動が再開しないことを確認してから臨床的脳死診断を再開」したことの妥当性は説明されていない。

 

*北原 孝雄(北里大学医学部救命救急医学):くも膜下出血における治療実態と分析、p40

 2004年1月〜2005年12月まで、北里大学病院におけるクモ膜下出血患者は196例。グレード4の86%(31/36例)に、グレード5の55%(30/55例)に根治術が施行され積極的な治療が行われていた。心肺停止後や脳幹反射が消失したような症例はCT所見を参考に積極治療は行わず。

 グレード5患者の転帰は、良好な回復〜軽度後遺障害4例、重度後遺障害〜遷延性意識障害24例、死亡27例。死亡例のうちポテンシャルドナーとなる可能性のあるものは約10%。

 

*鹿野 亘(市立札幌病院救命救急センター)、菊池 雅美(日本臓器移植ネットワーク東日本支部)ほか:心停止後臓器提供における脳死診断、p33

 心停止後腎臓提供の際に術前措置を行う場合、および臓器移植に関わらない脳死の診断を行う場合に「一般の脳死診断」が行われる。私たちの施設では、2004年1月より 積極的な臓器提供の選択肢提示を行っており、2年3ヶ月の間に12例の心停止腎臓提供を行っている。このうち1例のみ脳死を経ない腎臓提供であったが、残る11例に おいては脳死診断を行っている。この11例の脳死診断には基本的には「臨床的脳死診断」を採用しているが、外傷の場合には前庭反射および眼球反射ができない症例も存在した。・・・・・・心停止 後腎臓提供における術前措置は、患者や家族の「臓器提供への願い」を より確実にするための処置のひとつであり、そのためには脳死診断は避けて通ることはできない。確実性・信頼性を追及するのであれば「法的脳死判定」を採用すべきであるが、脳死下臓器提供の際にも問題となる「鼓膜損傷」や「頚椎損傷の疑い」が「脳死診断」そのものを不可能とするため、ある程度の幅を持たせた脳死の診断が必要である。しかしながら、現在の終末期医療を 取り巻く情勢の中では、 どのような脳死の診断方法が世間や法曹界に認められるか未知である。少なくともある一定のコンセンサスを得ることにより、ただでさえ負担の大きい提供施設の精神的負担を軽減し、今後 この問題により提供施設が糾弾されることがあってはならない。

当Web注:術前措置とは、「臓器に血栓を生じさせないように抗血栓剤ヘパリンを投与」「臓器冷却用・脱血用カテーテル を挿入 」「心停止後の心臓マッサージ継続、人工呼吸継続、麻酔投与」などのこと。いずれもドナー候補者の救命目的ではない。術前措置は、第3者・レシピエントへの移植目的の措置であるため、法的脳死判定手続き下で行わないと、違法性は阻却されず傷害致死罪に問われる可能性が 高い。
 抗血栓剤は、外傷患者や脳内出血患者に再出血を起こして致命傷を与える可能性がある。カテーテルは急性動脈閉塞によるショック死または凍死を前提とした行為である。心臓マッサージ、人工呼吸は蘇生と同じ、麻酔にいたっては死体ではなく生体であることを前提としている。ほとんどのドナー候補者と家族は、このような現実を熟知した上で「臓器提供 への願い」の意思を表示し、臓器提供を承諾することはないであろう。

 

*山口 由美子(石川県臓器移植推進財団)、朝居 朋子(日本臓器移植ネットワーク中日本支部):ドナー適応評価に苦慮した1例 HCVAb陽性、肝細胞癌、生体肝移植後、p67

 ドナー候補者は60歳女性、既往歴は43歳でHCVAb陽性、48歳INF投与、54歳肝細胞癌にて肝動脈塞栓術、55歳再発・経皮的エタノール局所注入、57歳で生体肝移植施行。肝細胞癌の治癒につきメディカルコンサルタントの意見は分かれたが、最終的に開腹所見で判断することになった。移植候補者の意思確認を行ったが、ドナー側理由または自己都合での辞退が続出、上位30名であっせんを中止した。

 


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