“意思表示”を医療現場につなぐ「シール」、「持ってますシール」
カルテ、携帯電話に貼付、京都で院内コーディネーターが推奨
京都府立医科大学雑誌112巻第10号は、特集「臓器移植最前線」を掲載。このなかで、井上 みさお、岡本雅彦(京都府予防医学センター京都府臓器移植コーディネーター)、吉村 了勇(京都府立医科大学大学院医学研究科移植・再生制御外科学):京都における「院内コーディネーターシステム」について−院内体制の確立を目指して− は、ドナーアクションプログラムの概要を紹介。
2003年6月、7月には臓器提供に至らなかったが、ドナーアクションプログラムが始まって以来の“オプション展示”(当Web注:ドナー候補者家族に臓器提供の選択肢を提示するオプション提示の誤植と思われる)のあったこと。そしてドナーカード所持者のカルテに貼る“意思表示”を医療現場につなぐ「シール」と、カード所持者の携帯電話などに貼る“意思表示カード”「持ってますシール」を2003年8月から配布していることなどを報告している。
“意思表示”を医療現場につなぐ「シール」は、臓器提供意思表示カードと同じデザイン。問診表のカード所持有無の記入チェックで外来カルテ、入院カルテに貼付して医療現場スタッフの目に届くことを目的とした。「意思表示カード保持が判明していれば、話が切り出しやすいのでは?」と考えたという。
“意思表示カード”「持ってますシール」は、携帯電話や免許証・保険証のカバーなどに貼付し「所持をアピールしてもらう」ためのシール。p786の写真によると、名刺サイズの台紙に、臓器提供意思表示カードと類似したシール2枚と、ハートマークのなかにエンゼルがドナーカードを手にしたシール1枚がセットされている。
当Web注
ドナーアクションプログラムは、ドナー候補識別→ドナー照会→家族ケア→ドナー管理→ドナー臓器摘出を総合的・効率的に推進するためのプログラムだ。同プログラムの先行地域である新潟県では、2001年8月15日、いまだ脳幹反射があるにもかかわらず、家族にドナーカードを持ち出すほど脳死と確信させてドナー管理を開始、患者が臓器摘出の激痛で暴れ出さないように筋弛緩剤を投与して臓器を摘出した。京都府の院内コーディネーター諸氏も、このような行為に参画するのであろうか。
臓器提供意思表示シールと院内コーディネーター制度について、2002年11月1日の衆議院厚生労働委員会で厚生労働省の高原健康局長は、被保険者としての権利制限、差別的な取り扱い、院内情報の収集等については、否定的な見解を明らかにしている。
誤判定と心停止のリスク、無呼吸テスト除外例を判定?
法的手続き下では「脳死」判定27例目・臓器摘出26例目
法的手続きを踏んで行なわれたものとしては「脳死」判定27例目が18日、鹿児島市立病院(鹿児島市)で50代男性に実施。19日、臓器摘出26例目として膵臓と眼球が摘出された。ドナーとなったこの男性自身も腎臓病で人工透析を受けており、腎臓移植希望を登録していた。移植希望登録者が法的「脳死」ドナーになるのは初めて。
膵臓は19日午後、大阪大(大阪府吹田市)で30代男性に移植された。このレシピエントは、2001年1月8日に法的「脳死」11例目ドナーから膵・腎同時移植を受けたが、膵臓に血栓が生じたため同年1月17日に膵臓は摘出された。同一患者への2度目の法的「脳死」移植は初めて。大阪大学は「(移植希望者の少ない)膵臓のみを希望していたため、2度目の移植を受けられた」と説明しているという。心臓と肺、肝臓は医学的理由から、小腸は患者登録がなく、いずれも移植が見送られた。
この27例目法的「脳死」判定では、2度とも無呼吸テスト開始前の動脈血酸素分圧PaO2が200mmHgに達しないまま無呼吸テストを開始した。法的脳死判定マニュアルは、実施の除外例として「低酸素刺激によって呼吸中枢が刺激されているような重症呼吸不全の症例ではテストを実施しない」と規定し、さらに望ましいPaO2(酸素分圧)レベルを200mmHg以上としている。
共同通信は「同病院脳死判定委員長の上津原 甲一副院長によると、男性は慢性腎不全で透析治療を受けており、脳死状態になってからは血中酸素濃度や血圧なども不安定になっていたため、法的脳死判定に必要な無呼吸テストなど負荷の大きい検査を行うと心停止する恐れがあった。しかし、男性の家族が『もし脳死になったら臓器を提供したいと本人が強く望んでいた』と説明。家族も提供を強く希望したため、病院側は脳死判定委員会で慎重に判断した上、法的脳死判定の実施を決めたという」と報道。
毎日新聞は「同病院は『患者の全身状態からみて問題はなかった。・・・・・・血圧などの状態も踏まえ、脳死判定は可能と判断した』と話している」と報道。読売新聞は「有賀 徹・昭和大医学部教授(救急医学)は『酸素濃度が危険な状態にならないように監視していたのであれば、200を切っているからといって不適切だとはいえない』としている」と報道した。
以下は当Web注
現行の無呼吸テストは、日本呼吸器学会が「炭酸ガス刺激しか行なっていない。化学刺激と低酸素刺激も行なわずに無呼吸と判断することは、倫理的に問題がある」と改良無呼吸テストを提案したにもかかわらず、採用せずに旧来のまま強行している方式だ。
しかも無呼吸テストテスト終了時の動脈血二酸化炭素分圧:PaCO2目標値を60mmHg以上としているにもかかわらず、日大では72mmHgで、京大では 86mmHgで、日本医科大では54歳女性が脳死と判定された6日目に再度、脳死判定を行なったところ100mmHgを超えて呼吸様体動が出現した。唯一実施している炭酸ガス刺激でさえも十分な刺激強度なのか、学問的に危うくなっている。
特に、無呼吸テスト前の10分間100%酸素投与によっても動脈血酸素分圧が200mmHg以上とならない患者は、無呼吸テスト中に心停止する確率が高いだけでなく、酸素不足(炭酸ガス刺激)への慣れから無呼吸テストに反応しにくくなり、本当は自発呼吸能力が残されていても「無呼吸」と判定される危険性がより高い。関連文献情報は炭酸ガス刺激だけの無呼吸テスト。
「酸素濃度が危険な状態にならないように監視していたのであれば、200を切っているからといって不適切だとはいえない」というが、無呼吸テストによって血液pHが低下すると血中に酸素があっても、組織に酸素は供給されなくなる。酸素消費量なども見ないと、ドナーに危険があったのか否かを判断できるものではない。関連文献情報は脳死作成法としての無呼吸テスト。
報道にも用語の混乱がある。法的脳死判定マニュアルが記載しているのは、mmHg(ミリ水銀柱)が単位の「動脈血酸素分圧」であるにもかかわらず、「酸素濃度」とする報道ばかりだ。
大気中の酸素濃度は20.93%、大気圧760mmHgの下では、正常体温時の水蒸気圧47mmHgを差し引き(760−47)×0.2093=149mmHgが吸入気酸素分圧となる。肺胞内でガスと混合され水蒸気で飽和されて104mmHg、この肺胞気と肺毛細血管との間でガス交換が行なわれ動脈血酸素分圧は100mmHg前後となる。
無呼吸テスト中の簡易なモニター法として動脈血酸素飽和度(血液中のヘモグロビンの何%が酸素と結合しているかをあらわすSaO2:saturation of arterial oxygen
)が測定され、%の単位で表現されるが、動脈血酸素飽和度%はわずかな低下でも、その時の動脈血酸素分圧mmHgは大きく低下し、生体は危険な状態になる。「分圧」と「濃度」とを、区別した取材・報道が求められる。
岩手医科大学小児科 13歳男児、脳死様症状から回復
八戸市立市民病院 脳死状態の女児を国外移送、臓器摘出
10月18日、八戸市のユートリーを会場に、第9回日本小児神経学会東北地方会が開催された。以下は、脳と発達 第36巻第2号p172より。
岩手医科大学小児科の加賀 元宗氏らは「非典型的な経過をたどっているBickerstaff
型脳幹脳炎の1例」を発表した。
13歳男児が胃腸炎の先行感染後、急激に昏睡となり自発呼吸消失。Guillain-Barre
症候群と Bickerstaff
型脳幹脳炎の診断基準を満たした。抗ガングリオシド抗体陰性。γグロブリン大量療法を1ヵ月毎5回施行。各回毎に意識回復。人工呼吸器から離脱、下肢の抗重力運動が可能、つかまり立ち可能、独り立ちまで改善した。10ヵ月経過したが下肢の筋力は緩解しない。重篤な筋力低下を伴なった脳死様の症状を呈し、典型的な
Bickerstaff 型脳幹脳炎とは異なった。
八戸市立市民病院小児科の田名部 宗之氏らは「急性壊死性脳症で脳死臓器移植を行なった3歳女児(米国籍)の1例」を発表。
発熱、けいれん、意識障害で発症し三沢米軍病院から救急搬送された。インフルエンザは陰性で、脳波は平坦、ABRも無反応で脳死状態であった。頭部CT所見では橋、中脳、両側視床も低吸収域であり、右視床に血腫を伴ない両側脳室に穿破していた。肺炎、DICも合併していたがコントロール出来た。入院11日目に人工換気の状態で米国へ移送し、翌日脳死臓器移植(心臓、肝臓、腎臓)が行われた。
当Web注:脳死状態という危険な状態で患者を移送することは禁止されているが、東京医科大が行った実例がある。しかも、これは弟の腎臓を兄に移植するための移送だった。
兄弟への骨髄提供「喜んで提供」と「断れない」は半々
小児にインフォームドコンセント困難 鹿児島大ほか調査
10月17、18日の2日間、第45回日本小児血液学会が金沢市の石川県立音楽堂で開催。シンポジウム「小児の造血幹細胞移植の現状と課題」において、鹿児島大学の河野 嘉文氏らは、兄弟に骨髄や末梢血を提供した小児41人・42回提供のうち「喜んで提供した」と「断れなかった」が、ほぼ半数ずつだったことを報告した。
HLA一致同胞ドナーの意見
当時を振り返って(n=42) |
|
- 喜んで提供した
- 断れなかった
- 判断できない年齢だった
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20
19
3 |
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再度提供するか(n=41) |
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- 無条件でできる
- 病気が治るのであればできる
- したくない
- わからない
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0
27
11
3 |
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日本小児血液学会雑誌18巻3号p168〜p170(2004年)掲載の「小児における同種末梢血幹細胞移植術の現状と展望」によると、対象は徳島大学小児科、九州がんセンター小児科および鹿児島大学小児科で造血細胞移植を受けた患者(レシピエント)のHLA一致同胞ドナー41例(のべ42回の細胞提供)。年齢中央値は15歳(範囲:4〜23歳)、女児21例、男児20例。14例が末梢血を提供し、28例は骨髄を提供した。細胞提供から今回の意見調査まで、中央値で4年経過後のドナーの意見で、レシピエントは全例生存例での調査。
結果は左記のとおり。河野氏らは「『喜んで提供した』ドナーが半分しかいなかったことは、小児ドナーにおけるインフォームドコンセントあるいはアセントのあり方の難しさを示しているように思える。今回の意見は生存患者(レシピエント)のドナーから得られたものであるが、移植合併症や再発のために早期死亡した患者のドナーではもっと厳しい意見になるかもしれない」としている。
上記ドナーのうち1例は初回に骨髄提供、2年後の再移植時に末梢血を提供した。日本小児血液学会雑誌17巻4号p195(2003年)によると、この年長小児ドナーは「骨髄採取時に手術室での恐怖感、術後の疼痛の記憶が強く、末梢血採取ではアフェレーシスのための拘束時間がつらい記憶であった」と紹介している。
また河野氏らは、日本造血細胞移植学会と日本輸血学会から、10歳未満ドナーからの提供は回避するように提言されているが2000年の保険適応後も37例の10歳未満ドナーがあることも指摘している。
法的「脳死」・臓器摘出25例目のレシピエント選択ほか
日本臓器移植ネットワークの発表資料
平成15年10月7日
社団法人日本臓器移植ネットワーク
[レシピエントの選択及び移植実施施設等の決定について]