第49回日本移植学会総会
中村記念病院:家族が提供希望、健康保険証で「提供しない意思」を確認
日本臓器移植ネットワーク:ドナーコーディネーターは法令遵守の勉強を
藤田保健衛生大学病院:家族内で意見相違、話し合いすることなく提供
東海北陸の127施設:子どもの臓器摘出、体制整備するつもりない30.6%
米子医療センター:脳死判定が普及すれば人工呼吸オフ、心停止ドナー活用
大阪府立急性期総合医療センター:ポテンシャルドナー確認時から家族対応
京大病院肝胆膵・移植外科:ポテンシャルドナー発生時の届け出制が最も有効
熊本大学:父親が暴飲・暴食を続け、ドナーとなった母親の怒り・混乱・不安
立命館大学:継母の生体肝移植ドナーはどのようにして決まったのか
第49回日本移植学会総会が、2013年9月5日から7日まで国立京都国際会館(京都市)を会場に開催された。以下は日本移植学会雑誌「移植」第49回総会臨時号より、注目される発表の要旨(タイトルに続くp・・・は掲載
ページ)。
*高橋 美香(社会医療法人医仁会 中村記念病院看護部):臓器提供症例をめぐる倫理的課題、p265
看護師として、これまでに経験した提供症例においては、倫理的ジレンマを感じたことはなかった。その理由は、症例数が少ない事や関わるスタッフが症例ごとに異なるためで、提供は家族が決断された貴重な善意と受け止め、安全に臓器を摘出し移植につなげるために、スタッフそれぞれの役割を遂行させることに精一杯であったためである。
しかし、つい最近、脳死患者の家族に選択肢提示した結果、家族は提供を強く希望され、院内で順調に準備を進めていたが、承諾書の作成段階で、健康保険証にて患者の「提供しない意思」が確認され提供に至らなかった症例を経験した。この症例を通じて、これまでの家族のみの承諾症例に対して「家族の意向=患者の意思」と捉えていたことに疑問を感じた。
家族のみの承諾では「患者が拒否の意思表示をしていない」ことを確認したことにはならず、医療倫理の4原則である「患者の自律尊重」「無危害」に反していないか議論する必要性は高いと考える。
また、臓器提供の絶対的かつ相対的禁忌事項に該当しないにも関わらず、担当医個人の判断で臓器提供の選択肢を家族に説明しない症例についても医療倫理の「正義」原則に反するのではないかと考えられる。
このような倫理的ジレンマが生じる原因は、提供の可能性のある症例に対して、提供に係わる医療の正当性や判断の妥当性等について組織として議論しない結果と考えられ、今後の大きな課題である。
当Web注:大学生とその保護者に行なった調査で、臓器提供について話し合う機会を持ち意見の一致したのは、93組のうち10組であったと報告されている。
*芦刈 淳太郎(日本臓器移植ネットワーク):ドナーコーディネーターの教育と展望:求められるコンプライアンス、p263
ドナーコーディネーターの役割の基本の一つとして「コンプライアンス」が求められる。つまり、法令遵守である。臓器移植法・省令・ガイドライン、厚生労働省通知、ドナー適応基準やレシピエント選択基準、臓器提供施設マニュアル、法的脳死判定マニュアルなどの法令や手順を熟知し、現場において、自らが遵守すること、また関係者が遵守していることを確認することが求められる。特に臓器提供の承諾手続きは、ネットワーク及び都道府県ドナーコーディネーターに認められた専権事項であり、厳正に実施する必要があるのは言うまでもない。
ドナーコーディネーターの適切な手続きにより、提供者家族の承諾が得られていることを信頼されて、脳死下臓器提供においては、脳死判定医が脳死判定を行い提供者の死亡宣告を行っている。また、同様に、摘出医は提供者から臓器を摘出し、移植医はその臓器を移植している。ドナーコーディネーターは、移植医療において非常に重要な責任と権限を伴う役割を担っていると言っても過言ではない。そのような観点から、自戒を込めて、信頼に値する教育研修や業務習熟を行ってきたと言えるだろうか。「教育を受ける機会がなかったから」と受身になるのは容易い。プロフェッショナルとして業務確立をするためには、あらゆる機会を捉えて自ら勉強する意思を持たなければならない。
当Web注:日本臓器移植ネットワークは発足以来、ドナー候補者家族に抗血液凝固剤ヘパリンの副作用を説明しない文書を提示するなど、ほぼ全例において必要な情報を開示しないで家族の承諾を得て、臓器を不当に獲得してきた疑いがある。
*鈴木 恵美子(藤田保健衛生大学病院移植医療支援室):臓器提供に対して意見の相違がある家族への対応を検討して、p416
臓器提供についての考えは個々よって異なり、家族間においても同じである。今回、院内Coとして臓器提供について説明をした後、意思確認をした際に家族間で意見が割れ対応にとまどった症例を経験したため報告する。
50歳代男性、仕事中に心肺停止で倒れているところを発見された。家族は妻と娘の3人。別世帯に弟と認知症の母がいた。妻と長女は、本人が「誰かの役に立てたらいい」と話していたことより臓器提供を希望していた。弟は「はっきりした意思表示がなければしたくない」と考えていた。
「家族が提供を希望している」と連絡を受けたため、家族の総意で臓器提供を希望していると認識していたが、意思確認した際に反対の意思が出た。また、家族で話し合うよう提案したが、話し合いをすることなく「提供する」という結論に至った。院内Coは家族関係を理解し第三者の立場で意見の表出を促し、話し合いができるよう関わる必要性を感じた。また、個別の関わりによる気持ちの表出の援助や必要に応じ臨床心理士によるかかわりが必要と感じた。
*飯田 恵以(日本臓器移植ネットワーク中日本支部):臓器提供施設の体制整備状況に関する調査報告、p347
東海北陸7県の臓器移植法ガイドライシ第4の3に該当する127施設に調査票を発送、72施設より回収(回収率56.7%)。
脳死下臓器提供の体制整備については、「済んでいる」45施設(62.5%)、「準備中」18施設(25.0%)、「整備するつもりはない」9施設(12.5%)。
児童(18歳未満)からの臓器提供の体制整備については、「済んでいる」27施設(37.5%)、「準備中」22施設(30.6%)、「整備するつもりはない」22施設(30.6%)、無回答1施設(1.4%)。
脳死下臓器提供の体制整備が済んでいる45施設においてシミュレーションを実施したのは35施設(77.8%)。事例が発生した際に不安に思うことのトップ3は、「関係する職員の確保やシフト」48施設(66.7%)、「ドナー家族への対応」41施設(56.9%)、「脳死判定全般」36施設(50.0%)であった。
*杉谷 篤(国立病院機構米子医療センター外科):提供された膵臓を有効に活用するには、p258
本邦の現実は、ドナー数が少ないことは言うまでもなく、高齢、肥満、心肺停止の既往、不安定な循環動態といったマージナルドナーが多く、レシピエントも長期糖尿病・透析に伴う多彩な合併症を持ったハイリスクレシピエントが多い。このような状況の中でも、中期的なグラフト機能保持と糖尿病合併症改善は欧米の成績に劣らないことが発表されてきた。
膵臓の提供数を増やすには、従来のマージナルドナーに加え、クラッシュケースもふくめた脳死ドナーの拡大、脳死提供施設の基準緩和、脳死判定が普及すればレスピレーターオフによる心停止ドナーの活用などが現状打開のひとつであろう。
摘出された膵臓のバイアビリティを保つには、マニュピレーションも少なく時間も短い潅流・摘出方法が好ましい。かつて日米で証明された二層法保存も回顧してみるべきであろう。心停止ドナーは、Life
portなどの低温持続潅流の応用もありうる。阻血時間を短縮するシステムや配分ルールの再考もありうる。
膵臓移植に不使用となった場合の活用法は、膵島移植に利用する、また基礎研究に転用するのも大切な考えである。そのための社会整備、技術整備も必要である。
*筒丸 真矢(大阪府立急性期総合医療センター高度救命救急センター):多職種で構成された院内臓器移植コーディネートチーム(transplantation
coordinate team:TCT) の取り組み、p224
2011年4月に医師、看護師、臨床検査技師、事務職員計17名の多職種で構成された院内臓器移植コーディネートチーム(以下TCT)を発足させた。はじめに、院内体制構築の為にマニュアルを改定した。次に、ポテンシャルドナーの適性確認のチェック表、関係者の役割が一目でわかる手順表、TCT以外の関係者の行動の指標となるアクションカード、チームでコーディネートを行う為のTCT用進行表を作成した。集中治療室内での脳波検査を緊急で容易に行える体制とし、"ドナー発生時には夜間や休日にも対応ができるよう連絡網を作成し実働できる体制を整えている。また、ポテンシャルドナ一と確認された時点から日々の受け持ち看護師はTCT
が中心となり家族看護も同時に行っている。平時は、ポテンシャルドナーの適性確認や院内教育、普及・啓発活動を行なっている。
*海道 利実(京都大学肝胆膵・移植外科):Sustainable な脳死移植医療となるための提言、321
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ドナーアクションプログラム:ポテンシャルドナーが多いと思われる脳外科や三次救急病院を中心に、移植医療の現状や支援システムについて説明し、脳死判定の“ハードル”を下げる。
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ポテンシャルドナーの顕在化:米国や韓国では、ポテンシャルドナー発生時の届け出制があり、この方法が最も有効と考える。救急・脳神経外科関連学会への働きかけが必要。
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分割肝移植:生体肝移植中心に肝移植が発展してきたわが国においては有望な方法。当科では該当症例に対し積極的に取り組んでいる(当科法改正後の脳死肝移植17例中、7例が分割肝移植)。
【体制整備】移植外科医・内科医などのマンパワーとICUなどのハードが確保できなければ症例数増加に対応できない。さらに次世代の医師や移植施設に対し魅力的な医療とするためには、労働時間に対する適切な対価の支払い、移植収益性の改善など、政府レベルでの強力な人的・法的・経済的支援が必要。
*西坂 寛美(熊本大学移植外科):急遽ドナーとなった候補となった患者への関わり、p222
患児は生後2ヵ月で胆道閉鎖症で葛西術施行、半年後に生体肝移植術予定であった。父親がドナー候補であったため、医療者より父親へ規則正しい食生活が必要であることを説明し、父方両親へは母から説明されていた。しかし、父親は、暴飲・暴食を続けていた。その後、患児の状態が悪化し、当初の予定より3ヵ月早く生体肝移植の必要が出てきた。その際、ドナー検査を行なったが父親は脂肪肝のためドナー不適合となり、急遽母親ヘドナー変更となった。母親はドナーとなる決意は固かったが、不摂生な食生活でドナーとなれなかった父親への怒りが収まらず、手術に対する混乱・不安がみられていた。この状況より、ドナーである母親への精神的フォロ一が必要であると考え、介人を行なった。
*一宮 茂子(立命館大学大学院先端総合学術研究科):生体肝移植ドナーはどのようにして決まっていくのか 移植後数年以上経過したドナーの語りから、p412
Aさんは夫と次男の3人家族であり、長男は妻と幼児の3人家族である。夫は会社を経営し、妻子を養い、長男家族に家を与え、A家を支配する権力をもっていた。Aさんは内向的で夫唱婦随であり、家事労働を担っていた。長男は肝臓の難病で重篤な状態となり、家族は移植まで1週間という時間的制約のなかでドナーを決定する必要があった。
ドナー候補は、Aさん、夫、次男、長男の妻であるが、最初に夫が拒否したため家族内に調整役が不在となった。ICの席上でドナーの話となったとき、Aさんは夫と長男と長男の妻が「一斉に私を見た」ことで視線による圧力を知覚したという。医学的に夫と長男の妻はドナー不適応となり、夫と長男からドナーを懇願されたAさんは、次男を傷つけたくない実母の心情と、長男を助けないわけにはいかない継母の心情に苦悩しながら余儀なくドナーを引き受けた。
Aさん家族と長男家族は移植問題に巻き込まれて家族ダイナミクスが生じ、家族内の力関係でA さんがドナー候補に浮上してきた。A
さんは今まで生きてきた営みの関係性のなかに働くジェンダー力学によってドナーに決まっていったのである。
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