人工呼吸の停止が困難になった 待機時間が延長
急変時対応に苦慮 長崎県、心停止腎摘出の現況
2009年12月19日、長崎大学医学部・良順会館において第252回日本泌尿器科学会長崎地方会が開催された。国立長寿医療センターの松屋 福蔵氏、相良 祐次氏、中村 貴生氏、林 幹男氏、長崎大学の望月 保志氏、酒井 英樹氏、同大学血液浄化療法部の錦戸 雅春氏、元長崎原爆(病院?)の進藤 和彦氏、長崎県移植コーディネーターの竹田 昭子氏は連名で「長崎県における献腎提供の現況」を発表した。以下は西日本泌尿器科72巻7号p419より。
長崎県内では年間数例(1〜5例)の献腎ドナーからの腎臓摘出が施行されている。以前は臨床的脳死診断の後、主治医、家族の同意の下、人工呼吸器を停止し心停止後に開腹、体内灌流を行いつつ、腎臓摘出を行なっていた。従って、腎臓摘出時刻はある程度設定できていた。しかし、最近は諸般の事情により人工呼吸器の停止が困難となり、心停止後の腎臓摘出までの待機時間の延長、ドナー急変時の対応などに苦慮することが多くなった。このような献腎提供の状況下、一般泌尿器科医のさらなる協力の必要性を感じた。
当Web注:長崎県を中心に福岡県、佐賀県でも死体腎摘出にかかわった錦戸氏らは、西日本泌尿器科65巻5号(p259〜p264、2003年)において、1983年より2001年までに長崎大学および国立病院長崎医療センターによって摘出された心臓死下献腎ドナー56例について、「病室でレスピレータをオフしてもらっている。ドナー主治医には十分な輸液と血圧、尿量の確保を御願いした。レスピレーターオフから心停止までの平均時間は11.6分(2〜25分)。ドナーの家族、ドナー主治医に配慮して心停止前カニュレーションは行なってこなかった。結果として温阻血時間は18.6分、(移植後)平均透析日数も16.6日と長かった。しかし生着率は国内の他施設と同等の成績でありレスピレーターをオフすることによってより死戦期のダメージは少なく、腎摘出のタイミングもうまくはかれたことが原因と考える」と報告している。
一般的な人体内の酸素量と消費量からは、人工呼吸器を停止してから心停止までに要する時間は数分間と見込まれる。心停止まで25分を要したドナーは、微弱な自発呼吸能力があった可能性=脳死ではなかった可能性も考えられる。
法的脳死判定手続を行なわないまま、臨床的脳死診断で終末期の判断を行い、さらに「ドナー主治医には十分な輸液と血圧、尿量の確保を御願いした」ことも問題と見込まれる。
人工呼吸器の停止が困難となった対策として、生前カテーテル挿入(挿入時に出血性疾患には禁忌の抗血液凝固剤ヘパリンの投与)など、脳不全患者にとって傷害となる行為がなされる恐れもある。
偽造OK!偽造容易な表記法がいい
親族優先の「脳死」臓器提供意思表示
臓器移植委員会で白倉委員が発言
2009年12月18日に
第29回厚生科学審議会疾病対策部会臓器移植委員会が開催され、親族優先提供についての議論が行なわれた。議事録http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/12/txt/s1218-20.txtによると、白倉委員は親族優先提供についての偽造を許容し、偽造が容易な表記法を提案した。該当部分は以下の枠内。
○佐野委員 ええ、そこまで厳しくなくてもいいかもしれませんが、何かあったほうがいいと。本人だけではなくて、医学的な根拠があったほうがいいと思います。
○白倉委員 まず頻度の問題からも考えたのですが、レシピエントの子供がその親族にいて、その人の家族の中にドナーが出るという確率はどれくらいあるのかなということです。
腎臓は比較的高いかもしれませんけれど、他の臓器ではそんなチャンスはまずないと思います。例えば心臓などの場合ですね。ですから、そういうチャンスになったときに○があるだけで、その人が○をつけたこと信じて提供してあげても良いのでしょうか。本当の親子関係かどうかが疑われるような、もしかしたら脳死になるかもしれないというときに婚姻関係を作るとか、そういう売買とかいう形のことが生じなければ、例えば本人が○を付けていなくても、付き添っていた親父さんが○を付けたというような場合でも、頻度が低いのですから親族を優先してあげたらという気がします。皆さんの中にも同感の方がおられると思います。そんなのは絶対駄目だという方もあると思います。だから委員長のご質問の、親族優先提供の意思の表記法に関しては、○を付けるか付けないか等、簡単なものでいいのではないかと。
あとはレシピエント登録が前提になっているというのは必須だと思います。これがないと、現場はものすごく混乱すると思います。一体、誰が移植の術者なのかもわかりませんし、どこの病院に連絡していいかもわからなくなりますから。これは医学的にできないと思いますから、レシピエントが必ず登録されていて、その親族にドナーが出たときに、○が書類上あるかどおうかで判断する方向で良いと思います。
○永井委員長 カードでもよろしい。
○白倉委員 カードでも何でもいいですから、あるなしで判断するということで、そんなに混乱は起きないのではないか。例えそれが偽造であっても。
○白倉委員 偽造でもいいと思うのですよ。親族の中の偽造であればね。
○永井委員長 それはちょっと別の話になります。町野委員は原案どおりということで。 |
当Web注:第4回臓器移植に係る普及啓発に関する作業班では、脳死臓器提供意思表示カードが偽造されたケースが話されている。
2009年12月16日付のNew York Times電子版は、マサチューセッツ医科大学で小児心臓学の医師、医療コラムニストのDarshak
Sanghavi氏による、5ページにわたる“When Does Death Start?”を掲載した。マサチューセッツ医科大学神経救急科のDr.
Wiley Hallが「脳死ではない患者に死亡宣告し、臓器ドナーとするザック・ダンラップと類似のケースが昨年、マサチューセッツでもあった」と話した(以下の枠内)。
この記事は、ほかに心停止ドナーになるはずが翌朝まで長時間苦しんで死亡しドナーにならなかった8歳女児Jaidenのケース、米国デンバー小児病院における心停止心臓ドナーの摘出時の様子(最初は心停止後3分待ったため心臓が青くなっていた、だから65秒まで短縮したこと、ドナーの名前、致死的過程の状況、レシピエントの名前)、生命の始まりについてのチベット人やナバホインディアンの思考など広範な内容が書いてある。