精神科患者から腎臓、膵、骨、眼球、弁を摘出 藤田保健衛生大
内科的治療により肝臓移植適応患者6名のうち2名を救命 大阪大
人工心肺、脳低温療法ディスカッションなど第32回日本救急医学会
10月27日〜29日まで第32回日本救急医学会総会・学術集会が、千葉市の幕張メッセ日本コンベンションセンターと幕張プリンスホテルを会場に開催される。以下は「日本救急医学会雑誌」15巻19号より注目される発表の要点。
凡例=抄録の筆頭執筆者名(所属施設):タイトル、掲載ページ。
精神科患者からの多臓器・組織摘出
岩月 昇治(藤田保健衛生大学病院救急部):心停止後、臓器(腎臓、眼球)・組織(膵島、心臓弁、血管、骨)移植の1例、397
28歳男性は2年前より癲癇および精神遅滞に伴う適応障害にて、精神科入退院を繰り返していた。2004年1月1日より近医入院中、同14日23時巡視時は異常なかったが、15日0時すぎ、CPA状態で発見されCPR施行。挿管、補助呼吸をしながら当院転院搬送された。頭部CTでは脳浮腫を認めるも出血等認めず。
第2病日より血圧低下、同日の頭部CTでは、脳浮腫は増強し脳波は平坦。第4病日、ABRの所見も加え臨床的脳死と判定し家族への説明を行ったところ、臓器提供の申し出を受けた。第5病日、心停止を来たしたがCPRにて心拍再開、同日、右鼠径部よりカニュレーション施行。さらに一度心臓停止、心拍再開を繰り返し、その後死亡確認。
手術室にて、両腎臓、膵、骨(両大腿骨、両下腿骨、腸骨)、眼球、大動脈弁、肺動脈弁を摘出した。両腎、両眼球は移植を行ない、膵島は分離冷凍保存中。心臓弁、血管、骨も冷凍保存中。
肝臓移植の適応判断(内科的治療の限界指標が未確立)
- 安部 隆三(千葉大学大学院医学研究院救急集中治療医学):救急・集中治療部における劇症肝炎に対する集中治療の有効性および他科との連携の有用性、348
当科では、日本急性肝不全研究会の肝移植適応ガイドラインに加え、亜急性型症例と肝萎縮を認める症例も移植適応と考え、基準を満たす症例においては速やかに移植を行う方針で治療している。
- 切田 学(兵庫医科大学救命救急センター):救命できなかった腹部消化器系疾患の検討、350
生体肝移植は3例に手続きがなされ、1例は実施直前に死亡、1例は手続き中に改善、実施された1例は救命できなかった。
- 中川 雄公(大阪大学医学部付属病院高度救命救急センター):大阪大学高度救命救急センターにおける急性肝不全に対する治療の現状とその問題点、491
肝移植を行なった9例中、3例を失い、1例に神経学的後遺症が残存した一方で、移植の適応と判断されながらもドナーが存在しないため内科的治療法を継続した6症例のうち、2例を救命することができた。このことは、生体肝移植においては肝再生困難で内科的治療の限界と判断する指標が確立されていないことを示しており、より鋭敏な指標の確立が急務と考える。
救命救急士による早期の除細動と人工心肺導入の変化
「パネルディスカッション3 救急領域におけるPCPS、ECMOをめぐる最近の進歩」では7施設がディスカッションを行う。(この部分p346〜p348)。
菊島 公夫(日本大学医学部内科学講座循環器部門):CPAに対するPCPSの効果、347
包括的指示により救命救急士がより早期の除細動が開始できる体制となり、このことは収容時も非心拍再開例では蘇生が困難な例が多くなっているものと思われた。そこで可及的速やかにPCPS(経皮的心肺補助法)を用いた低体温療法を導入する新しい戦略を開始した。
当Web注
最近、PCPS装着下で臨床的脳死判定後に、法的脳死判定手続きによらず臓器摘出する事例が報告されている。蘇生医療の進歩は期待されるがPCPS装着下、さらに脳死判定ができない低体温状態において臓器摘出が検討される場合の対応が注目される。
脳低温療法
「パネルディスカッション2 脳低温療法の適応、有効性の機序、有効性の立証」のパネリストは、日本医科大学、大阪市立総合医療センター、大阪府三島救命救急センター、大阪大学、札幌医科大学、愛媛大学、日本大学の各施設(この部分p344〜p346)。
出生2週目に平坦脳波、3週目に聴性脳幹反応も無反応
10週目に回復 虚血性低酸素脳症 宮城県立こども病院
第10回日本小児神経学会東北地方会が10月23日、仙台市医師会館にて開催。宮城県立こども病院神経科の北村 太郎氏らは「平坦脳波からの回復が見られた重症新生児仮死の1例」を発表した。
「脳と発達」誌37巻2号p176によると、胎盤早期剥離後、重症新生児仮死があり全身間代性のケイレンがみられたため、蘇生、ケイレンの抑制を行ったが出生2週目には、全頭野にわたり平坦に近い脳波が観察された。自発呼吸、体動はなく、3週目のABRは無反応であった。しかし10週目の脳波は、左前頭野と右中心側頭野優位に頻回に棘波によるサプレッションバースト・パターンの出現を認めた。
臓器提供後、「脳死は人の死」と考える看護職が減少
62%から48%に 和歌山県立医科大学附属病院
第6回日本救急看護学会学術集会が2004年10月22日、23日の2日間、長野県松本市内で開催。法的脳死判定23例目・臓器摘出22例目が行われた和歌山県立医科大学附属病院で、「脳死を人の死」と考える看護職は減少したことが発表された(以下は日本救急看護学会雑誌6巻1号p259より)。
この「看護職の脳死臓器移植に関する認識調査」
を行ったのは、和歌山県立医科大学・保健看護学部の池田 敬子氏ら。1999年と2003年12月の2回、和歌山県立医科大学附属病院の看護職593名を対象に同内容の質問紙を配布、無記名で個人の特定ができないように留め置き法で回収した。2003年調査の回収は472名、回収率79.6%、年齢は32.6±10.5歳、経験年数は9.5年±9.8年で1999年調査時と有意な差は認められなかった。
脳死を人の死と認めるかについては、2003年調査で「脳死を認める」227名(48.0%)、「心停止に限る」123名(26.1%)、その他103名(22.2%)。1999年調査の「脳死を認める」は253名(62.2%)であり、今回の調査で有意に減少していた。
脳死臓器提供に直接または間接的に関わった70名の自由記載には「家族の葛藤を目の当たりにした」、「崇高なご意志に対する敬意を持つとともに、脳死臓器移植そのものの必要性に疑問を感じた」、「ご遺体を見て不快な気持ちを抱いた」など。
臓器提供意思表示カードの所持は「持っている」109名(23.1%)、「持っていない」359名(76.1%)。わずかに上昇傾向はあるものの1999年調査時(21.4%)と有意な差はなかった。
当Web注:臓器提供意思表示カード所持者の「提供意思の有無」の比率については記載がない。
補助人工心臓+心不全治療=半数は自己心機能が回復
大阪大では拡張型心筋症11名うち5名が人工心臓離脱
埼玉医科大でも急性心筋梗塞4名のうち2名が離脱、
特発性心筋症3名うち1名離脱、他の1名も予定
第57回日本胸部外科学会定期学術集会が10月20日〜22日の3日間、札幌市内で開催。大阪大学臓器制御外科の松宮護郎氏、埼玉医科大学心臓血管外科の西村元延氏らは、重症心不全患者に対する心臓移植以外の治療成果を発表した(出典はいずれも日本胸部外科学会雑誌 52巻supplement p193)。
- 補助人工心臓と再生医療との連携による自己心機能回復を目指した末期重症心不全治療
大阪大学では2000年以降、左室補助人工心臓(LVAS)装着中に積極的に離脱を図る方針とし、ベータブロッカー他の心不全治療を行い、自己心機能を定期的に評価した。LVAS装着後3ヵ月目以降にオフテストを行い、充分な自己心機能の回復が得られた場合、徐々にLVAS補助を減少させ、再度LVASオフテストを行い離脱可能か否かを判定した。
LVAS装着後6ヵ月以上生存の拡張型心筋症11例(3例で僧帽弁形成術を同時施行)のうち、5例で平均429日(239日〜663日)のLVAS補助の後、離脱に成功した。これらの患者は、非回復群に比し有意に心不全歴が短く(平均10.2ヶ月vs53.8ヶ月)、左室線維症が軽度(%
fibrosis 17.7%vs30.5%)であった。
虚血性心筋症に対しては3例に左室形成+僧帽弁形成術術後にLVASを装着、このうち1例は心機能回復を認め、離脱可能となった。
LVAS補助中の心筋再生治療が大阪大学医学倫理委員会で承認され、臨床応用準備中である。
- 難治性心不全に対する新しい外科治療−外科的両心室ペーシングの応用と自己心機能の回復を目指したVAS治療・Bridge
to Therapy
埼玉医科大学では、補助人工心臓(Ventricular Assist System VAS:バス)装着患者に、付加手術として中等度以上の増帽弁閉鎖不全が認められるものに対し増帽弁輪縫縮術を、また虚血性心筋症、急性心筋梗塞に対しては全例LVAS装着手術と同時あるいは2期的に冠状動脈バイパスグラフト術を施行した。
VAS装着の特発性心筋症患者3症例に両心室ペーシングリードを装着し、うち2症例で有効であった。うち1例はVASを離脱し、他の1例も離脱予定である。
LVAS装着の急性心筋梗塞4例のうち、比較的残存心筋量の多かった2例(50%)でVASを離脱しえた。
虚血性心筋梗塞でLVASを要する症例では心機能回復の可能性は低く、細胞移植などの新たなストラテジーが必要であると考えられた(参考:supplement p374に、同大学の「LVAS治療を要した虚血性重症心不全症例の検討」が掲載されている)。
第57回日本胸部外科学会定期学術集会では、このほかに東京女子医科大学・心臓血管外科から自宅療養を前提とした体内埋設型LVAS・EVAHEARTの臨床治験が4施設10〜20例が予定されていること(p194)。国立循環器病センターから超高圧により脱細胞化処理をしたミニブタの下行大動脈の移植実験に成功し数年以内の臨床応用を目指していること(p323)、また異種気管移植の研究も行っていること(p495)が発表された。
千葉東病院 「心停止後の組織提供」と称して
温阻血時間3〜30分で膵臓摘出・膵島分離
事例 ドナー 年齢 性別 WIT
- 脳死 60代 男 0分
- 心停止 40代 女 20分
- 心停止 50代 男 3分
- 心停止 10代 男 5分
- 心停止 40代 女 15分
- 心停止 10代 女 4分
- 心停止 60代 女 23分
- 心停止 20代 女 30分
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メヂカルフレンド社発行の看護技術11月号(50巻13号)はp1〜p4に剣持 敬、丸山 通広、西村 元伸(国立病院機構千葉東病院)、浅野 武秀(千葉県ガンセンター)の各氏連名による「1型糖尿病に対する膵島移植」を掲載。
2003年9月12日以降、2004年7月末までに国立病院機構千葉東病院で行った8例の膵島分離例の表を掲載している(左記は部分)。それによるとWIT:温阻血時間は0分〜30分。
2000年10月13日に膵・膵島移植研究会は心停止下における膵ドナーの摘出条件ガイドラインで@心停止前に大腿動・靜脈に膵臓を灌流するためのカテーテルを留置することA人工呼吸器の継続が中止されることB心臓が停止した死後にカテーテルから灌流液により膵臓を冷却し膵臓の摘出がなされること、に「承諾が得られていることが望ましい」としている。
藤田 民夫:死体内灌流を用いた献腎手術と腎保存、泌尿器外科、7(2)、111−115、1994は、「心臓死提供者の温虚血時間は、遺体の手術室への搬入、消毒、腎臓の摘出手術などに必要な時間が加わり、これらの操作には最低でも60分は掛かる」としており、上記8例の温阻血時間が0分〜30分であることは、心臓死後とは言い難い臓器摘出とみられる。
移植用としての臓器は、死戦期における長時間の低血圧状態にさらされると傷んでくる。心停止により血流が停止すると30分程度で血液が凝固しはじめ、移植には使えなくなる。また、ドナーが自然死するのを待ち続ける手間を省くためにも人工呼吸器中止、そして急速に冷却液を注入・灌流させるためのカテーテル挿入が計画され、その通りに実行されている模様だ。
内出血を誘発しかねない抗血栓剤も心停止前に投与(血流がないと薬剤は全身に行きわたらない)しているとみられ、人工呼吸器も停止するにもかかわらず、京都大学移植外科は心停止ドナー膵島移植において、「心停止ドナー膵島移植はドナーの危険性がないため、移植適応が生体ドナー膵島移植よりも広くなっています」という。
膵島移植は、膵臓全体を摘出するにもかかわらず「膵島は組織」と称して臓器移植法の規制は受けないかのような勝手な解釈で、レシピエント選定までも独自に実行されている。しかし、生前からのレシピエント目的のカテーテル挿入、そして人工呼吸器中止など人為的心停止が行われているにもかかわらず、法的脳死判定手続きをしないのは問題がある。
第18回臓器移植委員会 脳死前の移植施設連絡で意見分かれる
北村委員:パブリックコメント募集後に黒川委員長が「御英断」を
貫井委員:長くかかったから臓器が生かされない証拠は、全くない
「意思を生かすために短くしたらどうか」という議論はなくなった
町野委員:委員間で通知を早める意見が熟してきた、世論はどうか
第18回厚生科学審議会疾病対策部会臓器移植委員会が10月15日、中央合同庁舎5号館で開催された。
臓器提供意思表示カードの記載不備や疑義解釈については、各委員ともおおむね「提供意志あり」の解釈を拡大することに合意、最近のはやり(黒川委員長)で、パブリックコメントを求めることに決した。しかし議題3、移植施設(レシピエント)への意思確認時期について各委員の意見は分かれた。以下は議事録より主要部分の要旨。
北村委員:第1回目の判定が第2回目で覆った例はないわけですので、そういった科学的、医学的なことと、なおかつ、実質的には第2回も行うわけですが、御家族の方から、通達していただいても結構ですという了解があれば、法的なものを変える必要もないし、そして御遺族の確認があれば行える範囲のことではないでしょうか。そうすれば、時間の短縮により、テンションのお話もありましたが、経済的な効果もあるかもしれませんし、レシピエント側にもそれなりのメリットがあると思います。
相川委員:今、北村委員から御発言がありましたように、過去の29例において、第1回で脳死と判定されたものが第2回で覆ったことがないということは事実ですが、それを今の議論の中に入れますと、第2回目の意味というものが複雑になりますので、むしろそのことは別に置いておきまして、やはり現在は第2回の脳死判定をもって死亡とするということはいじらずに、手続の上では、第1回判定後に家族の了解が得られればレシピエントに通知するということでよろしいと思います。しかしながら、第1回と第2回の間の6時間あるいはそれ以上に関しまして、さらに救命に力を尽くすということも、今のところは変えないというスタンスでやってはどうかと思います。
貫井委員:前からここで主張しているのですが、技術論ではないだろうと思います。30例の移植がなされているわけですけれども、これをもって、既に日本では移植が定着したかという判断があると思います。実際に、今までにやってきた4例について人権擁護委員会から訴えられているという状況もございます。現場の脳外科の人たちが、臓器の提供施設に相当の関与をしているわけですが、そういう人たちに聞いてみますと、一つは、今、相川先生と言われたこととは反対に、もし第1回目のときにやってしまうと、まず移植ありきになってしまい、第2回の脳死判定がいいかげんに行われるのではないかという批判がマスコミから必ず出てくるということと、1回目から2回目の間の治療でも、移植の準備をしているのではないかということが必ず出てくるだろうということです。
実際にそういう場面で批判をされているところもあります。何とか移植をふやしたいといいますか、協力したいという気持ちはあるわけですが、今、そのあたりのことをしてしまって本当にいいのか、少なくともしばらくはもう少し慎重に行った方がいいのではないかという意見が、実際に脳外科の中では強いです。
現実に、30例中、脳血管障害が22例と、外傷が6例ありますから、もちろん救急に属して関与している人たちもいますけれども、ほとんどのケースに脳外科の医者が関与しております。提供で終わればいいのですが、その後1年以上も調査が入るというようないろいろなことがあって大変に迷惑をしているということも現実にあるものですから、そう簡単に、第1回の脳死判定終了時にすぐ臓器移植のレシピエントに対して問い合わせをするということは現状ではよくないのではないかと私は思います。
臓器移植ネットワークが提出した資料によると、第1例目から29例目までの脳死判定事例にかかる平均所要時間は、意思確認開始から臓器摘出開始までには平均10.5時間、臨床的脳死診断終了から摘出終了までの全事例の平均時間は44時間15分。2回目の脳死判定終了から臓器摘出開始までの時間のうち、17時間以上かかった事例と8時間以内であった事例を分析したところ、提供臓器の機能に差はなかった。
この統計は私がベーシックなデータを示してくださいという話をしたので出てきたのだと思いますが、これで見ますと、少なくとも長くかかったから臓器が生かされなかったという証拠は全くありません。時間がかかるので、現場の人たちが大変であるということは確かにあるかもしれませんが、前回の、せっかくの意思を生かすために短くしたらどうかという議論はなくなってしまったわけです。今度は、家族及び現場の人たちからそういう批判が起こるかもしれないけれども、それでいいのかどうかという意見聴取をしなくてはいけないのではないかと思います。
山本委員:やはり一番疲れるのは、現場のドクターでもネットワークの皆さんでもなく、家族です。家族の負担を何とかしていただけないだろうかということが3症例での我々の印象でした。もう一つ大事なことは、経済性の問題で、第1回の脳死判定と第2回の脳死判定で覆ったことはないということは厳然たる事実で、その間の6時間プラスアルファの経済性ということも、命の尊さということはありますけれども、逆に見れば、相当に大きな支出を我々はしているわけで、そのあたりのところもあると思います。
我々のところでは、大体すべてが終わるまでに45、6時間がかかるわけですが、その中の6時間プラスアルファというのは、医療費ということではなく、ガードマンや職員、あるいはナースのディスカッションの中に入ってくるというような、医療ではないところの問題だけでも相当な負担がかかるという意味です。
5月6日に開催された第17回厚生科学審議会疾病対策部会臓器移植委員会では脳死下臓器提供関連費用交付金(臓器移植ネットワークからの申請額)資料が提出され、委員も負担の大きさを語った。
黒川委員長:実際に予想していないときに患者さんが飛び込んできて、脳死判定とか、摘出の手術のチームが外から来る。手術室を提供する。何時になるかわからない。そういうときに予定された手術はできない。そういういろんなことがあるわけで、そのコストがどれぐらいかというと、追加資料にあるように、最初の13例ではいろいろばらばらで、最高は600万円かかったという例もあるし、最低というのはないんだけれども。
相川委員:この費用に関してですけど、私どもの慶応義塾大学病院、第2例目の臓器提供をしたわけですけれども、そのときは報道関係の対応、警備員を配置したり、大変なことでそれも含めての費用となると大変なものですけれども、もう一つここに隠れて見えないのが2つあります。
1つは、医師は超過勤務手当を一切つけていません。ですから、夜中に出て来ようが、夜12時までこれに関して働いていようが、一切、医師の報酬はこれに反映されてなかったわけです。
もう1つは、この法律が施行された当日から脳死判定の医師、それから脳波の技士をオンコールにして毎日リストをつくっています。しかしながらその人たちには何の手当も出してないで、ボランティア的にいまでもやっています、
365日、誰かがオンコールになってそこで連絡がつくように拘束されているわけです。実際に提供が1例でもあったから、それが報いられたわけですけども、こういうふうに毎日その人たちを拘束しておかなければいけないということもこの費用には含まれていません。
山本委員:この交付金の100万上限というのは、私の聞いたところでは、超過勤務、あるいは時間外手当、職員のものは含まれないという流れで、それはいいんですね。我々のところは、我々の中で4日も5日も徹夜状態で何十人という皆さんが超過勤務したそのものは、この中には入ってないわけで、そこが一番の問題になるところではないのかなと。 |
相川委員:負担がかかるのは事実で、私もその御意見に賛成ですけれども、今回の話は、通知を1回目にしようが2回目にしようが、それは経済性にはあまり関係のない話だと思います。
黒川委員長:確かに両方のコストはほとんど変わらないけれども、やはり両方の家族と、特にポテンシャル・レシピエントのサイコロジー、不安はすごく高いと思います。貫井先生のおっしゃることも無理のないところもあって、やはりもう一つは、ドナーになった方は予定外に出てきますから、オペ室が20もあるような大きな病院であれば別かもしれませんが、そうでないところでは、スケジュールされた昼間の手術などが全部飛んでしまうような可能性が相当にあります。それでもいろいろな人がかかわってきますから、最近はプレスがたくさん押し寄せるというようなことはなぜかなくなってきて、それはそれで結構なことですが、そういう意味で、今回と前回の議論では、メディカルなイッシューとしてはどうなのかというデータを出していただいたところ、それについては比較的満足できるようなデータがあるということが今回初めてわかりました。
そうなると、やはりどうしても、ドナーを提供に至ったということになった病院なり施設に、どうにかファイナンシャルな手当てをしないと、ただでさえ医療事故があって、スタッフはみんなくたびれきっていて、看護師さんもドクターも足りないことがわかっているにもかかわらず、ドクターはふやさないと言っているし、医療費は減らすと言っていて、仕事ばかりさせて、リスクがどうだ、インフォームド・コンセントがどうだ、態度が悪いなどと言われてしまっていて、それをどうするかということはパブリックが決めることで、最近の内閣府の国民の意識調査では、一番の悩み事は経済や就職ではなく、医療と健康です。
しかし、パブリックの意見が一番高いにもかかわらず、どうしてそこに政策として公共投資のインベストをしないのか。そこに問題があるのではないですか。・・・・・・まだ2000キロも道路をつくってほしいというけれども、国民の意識調査は医療と健康で、しかし医療と健康は事故が多くて、医者と看護師さんやスタッフに、あれをやれ、これをやれと言われて、だれもお金は払いたくないというのであれば、勝手にしてくれと言わざるを得なくなってしまう。結局はそれをどうするのかという話に来るのではないかと思います。
松田委員:臨床的脳死診断というところが議論の外に置かれているのが問題と思いますが、そろそろ臨床的脳死診断というところについて、もう少し専門の方々がそれなりの判断をすれば、大分スタートが違うと思います。臨床的脳死診断について、どうもあいまいに受け取られているからこういった議論になるのではないかと感じています。やはり臨床的脳死診断については、それなりの見解といいますか、何かを示した方が、この議論は進むのではないかと思います。
山勢委員:私は看護の立場からですけれども、実際に臓器提供をした施設の看護師への調査をしたことがありまして、何が一番困ったかということでは、臓器提供のドナーが出てしまうと、特別な看護チームを編成せざるを得ないということがありました。まだ定着していない医療ですので、通常のスタッフでは対応できませんから、とにかく特別なナースのスタッフのチームを編成しなければいけないということですが、そのときに何が困ったのかというと、実際にそのチームに入った人の心労ももちろんありますし、その他の患者さんへの看護の質が明らかに低下したということが現実にあったということです。1人の方の命に関する重みというのはあると思いますけれども、そのほかの患者さんへの看護の質、量が低下してもいいのかどうかということは、やはり考えていかなくてはいけないことではないかというふうに思っています。
黒川委員長:そのように附帯した問題がいろいろとあって、一つだけのセグメントではなく、そういうときに十分なマンパワーを、例えば臨時の人でもリクルートできるのかというバックアップ態勢が日本の医療でできますかという話もあるわけです。・・・・・・みんなはあれも欲しいこれも欲しいと言うけれども、国はそこにお金を出したくないと言っているわけ。もっと国民が反乱を起こしてくれなくてはいけないけれども、意識調査と政策がこんなに乖離をしているのはなぜかということをもっとみんなに考えてもらいたいと思います。・・・・・・ですからこういう問題を、2回目を待たなくてはいいのではないかというように矮小化せずに、もっと大きな問題があるということを現場の人たちは知っているけれども、役所にもそういうことをもっと認識してほしいということと、内閣府の国民調査をどのように政策に生かすのかといったことも考えなくてはいけないのではないかと思います。
北村委員:貫井教授の脳外科医としてのお考えも、気持ちはよくわかるのですが、第2回の前に通知することは移植ありきという観点は、このセッティングには少し合わないのではないかと思います。第1回の脳死判定が行われて、臓器を提供するという本人と御家族の意思のもとで行っている段階ですので、我々はこの流れの中で、目的に向かって、いかに移植を成功させるかという道順に乗った話ですから、ここでもう一度、第2回目の脳死判定前の通達が移植ありきということが前面に出るとおっしゃるのは理解ができないと思います。
貫井委員:私がそう思っているのではなく、一般にそう思われがちだということです。今までの例を作業班でいろいろと検証してきた経験でも、私たちは提供側の気持ちも移植側の先生方の気持ちもわかるのです。しかし、こういうことをやって、移植が後退しないのか、あるいはもっと進むのかという判断は必要だろうと思います。私が移植ありきと思っているということではなく、マスコミを含めたいろいろな人たちがそういう動きをする可能性は十分あるので、そのときに提供側の人たちが、面倒くさいからできるだけ提供しないようにしようという感じになっては困るということを心配しているだけです。
黒川委員長:そのとおりです。これによって移植がふえるとか減るという話ではなく、やはりジェネラルな国民の信頼の問題でしょう。町野先生に聞きたいと思いますが、脳死の立法の精神からいうと、ガイドラインなどで、1回目、2回目の脳死判定といったことをセットしたけれども、この委員会でそういうことをどんどん変えていいのですか。
町野委員:法律事項ではありませんから、それは構わないと思います。レシピエントへの通知を早めるという議論が随分昔からあったという御紹介がありました。2ページにありますレポートですけれども、私はそのときには早めていいのではないかという考えでしたが、多くの人は、時期がそこまで熟していないという判断でした。
きょうの御議論を承っていますと、かなり昔とは雰囲気が違ってきているという感じがしましたけれども、一つは、第2回目の脳死判定の前にレシピエントに通知するということは、本人の死ということを前提にした行動であるからよくないのではないかという議論があったのですが、必ずしもそうではないということを皆さんが認識をされたと思います。
もしそれを言うのであれば、臨床的脳死判定の次に動き出すというのもよくないということですが、それは認められています。さらに、恐らくマニュアルの中には出ていると思いますけれども、第2回の脳死判定が終わる前から検視の人に連絡をするという手続がありますが、それもおかしいとは思わないわけです。ですから、この点については恐らく受容されただろうと思います。
もう一つの問題は、脳死臓器移植ということを前提にして動き出すと、延命医療や脳死判定がおろそかになるのではないかという危惧があるということですが、それも現在は恐らく解消されているのではないかと思います。
もう一つは、家族がそれを受容するかということですが、それについても今のお話を承っていると、家族の側はむしろそれを希望しているということですので、その点は問題ないと思います。
最後に、貫井先生や黒川委員長が言われましたとおり、世論がそのことを受け入れるかという最大の問題が残っていると思います。そのためには、きょうの御議論でもいろいろとありましたとおり、臨床現場でのいろいろな問題等を全部出した上で、マスコミの方が全部書いてくださればよろしいのですが、今までのところはなかなかそうはなっていないようですので、透明性ということで、ここから発信する必要があるのではないかと思います。パブリックコメントをするかどうかは別として、そういったことをやってからでなければ話が進まないのではないかと思います。
北村委員:時間もなくなってきましたので、黒川委員長の御英断で、厚生労働省臓器対策室に、何をするかということをこの委員会からおっしゃっていただいて、例えば先ほどパブリックコメントを取るということがありましたが、それをどの時期にやって、どの委員会を開いて進めましょうということにつきましては、黒川先生の御英断をぜひお願いしたいと思います。
事務局(関山課長):パブリックコメントというお話がありましたが、それには一般的に、具体的で、ある程度わかりやすい形で問うていかないと難しいので、今、町野先生がおっしゃったように、問題となっている点がどういうものか、それは具体的にどのようにクリアできるのかというところを、私どもでももう一度整理させていただき、今後の進め方については、委員長にお話しいただいたように、もう一度委員長とよく相談をさせていただきたいと思っております。
黒川委員長:パブリックコメントをするにはまだあまりにも準備不足です。広報活動は大事なので、それをよく考えていないと、突然出てきても難しいと思います。 そういうことで、きょうは結論は出さずに、結論を出すための雰囲気づくりといってはおかしいですが、町野先生がおっしゃるとおり、より広いと言っても、関係者といったあたりもそういうことを認識しているという話が広がってこないと、全員一致ということは世の中にあり得ないと思いますが、そういったプロセスを取ることが大事だと思います。
この委員会の最後に北村委員は「カードのことに対する社会の理解については、きのうかきょうの新聞でもディスカッションされましたけれども、やはりやるべきではないかという意見が以前にも増してはっきりと出てきているように思いますので、パブリックコメントを取られた後には、どうするのかという態度をはっきりと示していただきたいと思います。パブリックコメントには決定権はないと思いますし、しばしば反対意見の方はしっかりと書かれて、賛成の人は何も書かないということもありますけれども、その結果を踏まえて、どう踏み込むのか、いつ踏み込むのかということについても、委員長の英断で、我々の多くで集約したものがきょうのところであろうかと思いますし、やはり踏み出すべき時期ではないかと思いますので、それぞれの立場の役割を努めなくてはいけないとおっしゃいましたけれども、先生がどちらになられるかということが焦点ですので、よろしくお願いいたします」と、形式的なパブリックコメント募集であることを念押ししている。
脳死ドナーの胸骨縦切開時に血圧上昇!ガス麻酔で抑えた
迷走神経性徐脈に効くアトロピンが、脳死患者に有効の怪?
法的脳死30例目 日本医科大学医学部麻酔科学教室
2004年10月14日(木)〜16日(土)の3日間、日本臨床麻酔学会 第24回大会が大阪国際会議場とリーガロイヤルホテルを会場に開催される。14日(木)、ポスター会場(大阪国際会議場10階)では11時10分過ぎより、日本医科大学医学部麻酔科学教室の大島 正行、佐藤 花代子、村瀬 熱紀、稲木 敏一郎、横山 健至、島田 洋一、小川 龍の各氏が、2004年5月20日の法的脳死判定30例目とみられる「脳死ドナーの麻酔管理経験」を発表する。
日本臨床麻酔学会第24回大会抄録号、S59および付属CD\endai\1-023.html.による要旨は下記のとおり(大会抄録号、S59には3行の抄録のみ掲載され、CD\endai\1-023.htmに抄録の全体が掲載されている)。
ドナーは40歳、男性、身長170cm、体重65kg。2回の脳死判定により脳死と判定された。心臓、肺、肝臓、膵・腎臓、腎臓、角膜摘出手術が予定された。第2回脳死判定終了後、9時間50分後に手術室に入室した。
入室時、ドパミン7μg/kg/min、バソプレシン4u/hr持続投与により、血圧157/84mmHg、心拍数81bpm。執刀前にコハク酸メチルプレドニゾロン1g、トシル酸スルタミシリン1.5gを15分かけて持続静脈内投与した。フェンタニル0.1mg、ベクロニウム20mgで麻酔導入し、酸素-イソフルランで維持した。
各摘出予定臓器周囲の剥離と臓器の視診、触診後、ヘパリン20,000uを静注し、灌流用カテーテルを挿入した。その際徐脈を来したためアトロピン0.5mgを静注した。大動脈遮断直前にアルプロスタジルアルファデクス500μgを肺動脈より注入し、大動脈を遮断し心臓を摘出した。肺摘出にあたっては、術者の要望通りに肺を何度か加圧し、摘出直前に加圧して気管支を遮断し、肺を摘出した。その後順次臓器を摘出した。
【考察】脳死後も脊髄反射が残存するため、筋弛緩薬は必須である。胸骨縦切開時の血圧上昇時にフェンタニル、イソフルランを使用した。徐脈時にはアトロピンは無効とされるが、我々の症例では有効であった。
*大島 正行:脳死ドナー臓器摘出の麻酔 あらためて感じたコミュニケーションの重要性〜「命のリレー」に携わって、LiSA、11(9)、960−962、2004は「プレジア用のカニュレーションを行った際、心拍数40bpmという徐脈となった。アトロピン0.5mgを投与したところ、心拍数は回復した」としている。
以下は当Web注(薬剤の説明)
- バソプレシン:抗利尿ホルモン、ドナーの全身状態を臓器摘出に適した状態(脳不全患者の治療には反することが多い)にするため用いたとみられる。
- コハク酸メチルプレドニゾロン:副腎皮質ホルモン、急性循環不全、腎臓移植にともなう免疫反応の抑制に用いたとみられる。
- トシル酸スルタミシリン:アンピシリン・スルバクタム相互プロドラッグ、感染症に用いたと見られる。
- フェンタニル:ノイロレプトアナルゲシア用麻酔剤、手術、検査および処置時の全身麻酔ならびに局所麻酔の補助に用いる。
- ベクロニウム:非分脱極性麻酔用筋弛緩剤、麻酔時の筋弛緩、気管内挿管時の筋弛緩に用いる。
- イソフルラン:ハロゲン系吸入麻酔剤、全身麻酔に用いる。
- アルプロスタジルアルファデクス500μg:プロスタグランジンE1誘導体、外科手術時の低血圧維持に用いる。
- アトロピン:副交感神経遮断剤、徐脈に対して用いられた。アトロピンは迷走神経性徐脈に適応があるが、心臓迷走神経中枢は延髄にある。
林 行雄(大阪大学大学院医学系研究科 生体機能調節医学講座)・妙中 信之(大阪大学医学部付属病院集中治療部):脳死ドナーの麻酔管理、臨床麻酔、24(3)、513−518、2000は、脳死ドナーの徐脈について「とくに徐脈はアトロピンには反応しないので、直接心臓に対して作用するドパミンやイソプロテレノールを用いる」と書いている。脳死ならば延髄の機能が不可逆的に失われているはずなので、脳死者の徐脈にアトロピンは反応しないと考えるのは当然だ。
日本医科大学の大島氏らが、あえて迷走神経性徐脈に適応があるアトロピンを選んで投与したのは、脳死とされた男性が回復してきているのを予測していたのであろうか。
アトロピンは副交感神経系の働きを弱めて交感神経系を優勢とする作用があるため、脳死判定の補助検査としてアトロピンテストを行なう施設もある。患者の副交感神経系が正常ならば、1.0〜2.0mg靜注すると頻脈(毎分35〜40拍の増加)が起こる。脈拍数が増加しなければテスト陽性で、その患者の副交感神経系は弱まっていると判断される。
7カ国、20名の患者に26手1指の移植
「日本でも狂気ともいえるエネルギーで・・・」
第31回日本マイクロサージャリー学会学術集会
2004年10月14、15日の2日間、熊本市民会館において第31回日本マイクロサージャリー学会学術集会が開催され14日、小郡第一総合病院整形外科の土井 一輝氏は「複合組織同種移植の現況と問題点」を特別講演した。以下は日本マイクロサージャリー学会会誌 第18巻第2号p91〜p100(2005年)より。
手の同種移植臨床症例リスト(2004年10月現在) |
手術年月日 |
片手移植 |
両手移植 |
指移植 |
|
1998年 9月
1999年 1月
9月
2000年 1月
5月
5月
9月
10月
1月
2001年 2月
9月
10月
2002年 1月
11月
2003年 2月
3月 |
リヨン(フランス)1
ルイビル(アメリカ)1
広州(中国)2
南寧(中国)1
クアラルンプール(マレーシア)1
ミラノ(イタリア)1
ルイビル(アメリカ)1
南京(中国)1
ミラノ(イタリア)1
ブリュッセル(ベルギー)1
ミラノ(イタリア)1
|
リヨン(フランス)1
インスブルック(オーストラリア)1
広州(中国)1
ハルピン(中国)1
ハルピン(中国)1
インスブルック(オーストラリア)1
リヨン(フランス)1 |
南寧(中国)1 |
|
全症例数 |
12 |
7 |
1 |
20症例 |
全移植手・指数 |
12 |
14 |
1 |
26手・7指 |
土井氏によると1998年8月フランス・リヨンの成功例移行、2004年10月までに20名の患者に26手1指の同種移植が行われた。このうち9例11手1指が中国で実施された。マレーシアの1例は双生児間の移植。
中国・広州の第一人民軍医科南方病院のドナーは脳死患者だが、多臓器提供ドナーではなく手のみのドナー。レシピエントの第一症例は術後15ヵ月で移植手に白癬が発生。さらに角化症と皮膚炎を併発。皮膚科医による治療薬の注入後、手指運動の悪化、関節拘縮。2回の手術でも改善せず、耐えがたき疼痛と治癒遅延のため患者の強い希望により移植後28ヵ月で移植手は切断された。免疫抑制剤の副作用と糖尿病性壊死の関与がぬぐいきれないという。
このほかフランスの第一例は数回の拒絶反応に耐え切れず、また死体の手が自分についていることの精神的苦痛のために移植後28ヵ月、英国で切断した。
他のレシピエントには移植された手・指は生着しているが、中国医学会は9例以後の手移植を当分、禁止する方針という。
土井氏は「手移植は臓器移植より生着率は高い。現時点での手移植は両手切断のみ適応がある、外傷性切断のみに限り、移植手の知覚回復程度を考えると盲目者への適応はない、糖尿病患者や因子保有者への適応は慎重に決定すべき、術前には厳しい精神的評価が不可欠。保険診療で認められていないため、手術月400万円以上、以後も年間200万円以上の費用問題もある」と指摘した。
土井氏は「今のままでは臓器移植と同様、複合組織移植も日本は世界から取り残される運命にあるのは確実である。それでもいいのかもしれないが、あえていうならば、明治維新のような革命は狂気とも思えるエネルギーでもって成し遂げられた。移植医療においても、現在の日本の低迷状態を打破するためには若いマイクロサージャンの燃えるエネルギーが必要であろう。若い後輩諸君の奮闘を期待して稿を終える」と結んでいる。
当Web注
第一人民軍医科南方病院における3症例は、同病院のPei Guoxian,M.Dにより「手同種移植の臨床経験」のタイトルで日本マイクロサージャリー学会会誌 第16巻第4号p307〜p315(2003年)に報告されている。症例1は術後4ヵ月目に移植手でコップを持ち、水を飲むこと、衣服を押さえる補助ができた。症例2および3は術後1年でペンでの書字やパソコンキーボード操作、腕相撲ができ監視官としての新しい職務についた。
脳死肝移植登録患者が、血漿交換で移植不要に
劇症肝炎のPE施行規準変更 大阪大学付属病院
大阪大学医学部付属病院高度救命救急センターの入澤 太郎氏らによる「劇症肝炎における血液浄化法」が、救急医学(へるす出版)10月号 p1219〜p1233に掲載された。
それによると26歳女性は、原因不明の高度の肝逸脱酵素上昇ののち、肝性脳症をきたして転院してきた。来院日に脳死肝移植登録(図3)。初期3回の血漿交換(plasma
exchange;PE)をへて、肝性昏睡U度から、軽度の見当識障害程度に意識レベルの改善をみとめたものの、PT(プロトロンビン時間)値の低下、高ビリルビン血症・直接間接ビリルビン比(D/T比)ともなかなか改善しない状態が持続した。
15病日に脳死肝移植を再び登録。経過が遷延するものの、臨床的な出血傾向が顕著ではなかったので血漿交換施行の指標となるPT値を、従来の30%から20%にまで引下げ、20日間にわたって計10回の血漿交換を施行した(保険医療として認められている血漿交換は、1連につきおおむね10回以内)。
第22病日の時点でPT値20%、D/T比<0.3と肝合成能、解毒・排泄能ともに著しく傷害されており、画像上も肝容積約480mlと、著明な肝萎縮を認める状態であった。しかしながら、肝性昏睡T度と意識障害は軽度で、明らかな出血症状も欠いていたため、血液浄化を実施せず保存療法を継続した。
結果として約3ヵ月を経て肝再生が徐々に進み(肝容積>1000ml)、PT値50%以上を維持、総ビリルビン値の正常化、D/T比の正常化を得た。現在、社会生活に復帰されている。
劇症肝炎時の血漿交換施行規準は、PTが30%を下回らないように、という見解が一般的であろう。本症例は、とくに肝移植が早々に期待できないような症例について、われわれの施設における血漿交換施行の目安となるPT値の設定を従来より引き下げるきっかけとなった。
この論文は、持続的血液濾過(CHF)が頭蓋内圧制御に効果を示した症例も掲載している。
特集「臓器移植法改正を問う」 技術と人間
「技術と人間」から10月5日、特集「臓器移植法改正を問う」が発行される。本年5月23日に開催された
「臓器移植法」の改悪に反対する市民集会を取り上げる。
内容(執筆者)
- 「臓器移植法」改悪に反対する市民集会を開催して(川見 公子)
- 自民党調査会案の問題点(近藤 誠)
- 繰り返されるドナーへの人権侵害(山本 歩)
- 医師の権限と医療の拡大はなにを招くか(福本 英子)
- 集会発言−「脳死」臓器摘出病院を徹底追及し講演に反論する(五島 幸明)
- 集会アピール
- 臓器確保のため、「脳死」よりさらに早める死(清水 昭美)
- 「臓器移植法」改悪=自民党調査会案の出てくる背景(古賀 典夫)
- 医学的に演出される「脳死は人の死」(守田 憲二)
- 小児からの脳死・臓器移植の問題点(山口 研一郎)
- ほか資料と囲み記事
この特集号は全国の書店で購入可能、書店にない場合は出版社「技術と人間・電話03−3260−9321」で注文を受け付ける(価格およびページ数などは後日掲載)。
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