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20050513

肝移植なく成人した胆道閉鎖症71例の現況:宮城県立こども病院
膵島分離は脳死ではなく急死ドナーが好都合:国立病院千葉東病院
同一生体ドナーから肝臓と腎臓を摘出・移植:東京女子医科大学
拒絶反応時に臓器をドナーにバック移植、ラットで実験:筑波大
第105回日本外科学会定期学術集会

 第105回日本外科学会定期学術集会が5月11日〜13日、名古屋国際会議場で開催された。11日のシンポジウム“脳死臓器移植を定着させるには何が求められるか?”では寺岡 慧氏(東京女子医大)、山本 保博氏(日本医科大)らが臓器移植法およびガイドラインの改悪を主張した。肝臓ガン患者への生体肝移植の報告も増えた。以下はその他の注目される発表を日本外科学会雑誌・第106巻臨時増刊号より(タイトルに続くp・・は掲載頁) 。

 

*仁尾 正紀(宮城県立こども病院外科)ほか:胆道閉鎖症術後長期間にわたる晩期続発症との戦い 肝移植を避けるための治療の是と非、p83

 肝移植なく成人に達した胆道閉鎖症71例の転帰・現況は、黄疸なし生存60例、移植4例、死亡2例、移植待機5例であった。肝内胆管形態異常をともなわない上行性胆管炎・食道静脈瘤・脾機能更新症以外の続発症の予後は不良であった。続発症を適切に治療するのみでは不十分であり、患者の社会・家庭環境に配慮し、選択可能な治療法について、常に患者・家族と情報を交換するとともに、経済面・精神面でのサポート体制の確立が必須である。

 

*丸山 通広(国立病院千葉東病院外科)ほか:当院におけるヒト膵島分離・移植の現状と問題点、p171

 2004年9月現在10例の膵島分離、1例の膵島移植を経験した。脳死ドナーの1例を除いて、いずれも心肺停止のエピソード、心停止前のカニュレーション未施行などマージナルドナーであった。膵島の分離は脳死ドナーであっても成績良好ではなく、逆に良好な膵島が得られた例はレスピレーターonのまま心停止となった症例やカニュレーション未施行例であった。良い膵島が得られた2例では血圧・尿量が比較的保たれたまま急に心停止となっており、それ以外の7例では心停止前の低血圧・乏尿が長く続いている傾向にあった。

 

*小山 一郎(東京女子医科大学腎臓病総合医療センター外科)ほか:同一生体ドナーからの二期的肝腎移植術の経験、p405

 原発性高蓚酸尿症4例、先天性肝線維症+多発性嚢胞腎1例、原発性硬化性胆管炎+間質性腎炎1例に、肝移植後3〜10ヵ月後に腎移植を行なった。1例を拒絶反応により失った。残る5例のうち1例は免疫抑制剤フリー、3例はMMFもしくはタクロムリスの少量投与、1例はMMFとステロイド漸減中で、いずれも良好な肝腎機能を維持している。同一ドナーからの肝腎移植は移植免疫寛容導入という意味では有効な治療手段である。

 

*湯沢 賢治(筑波大外科):Back-transplantationは可能か、p406

 制御不能な拒絶反応では移植臓器を諦めざるをえない。我が国の二次移植が困難な状況で非常に特殊な場合、移植臓器を一時的にドナーに返して移植臓器の回復が望めるなら、それを必要とすることもあり得る。心移植ラットから5、6日後に移植心を摘出し、ドナーと同系ラットにバック移植し全例生着した。7日目にバック移植された心(3/5拒絶)は拒絶4例のうち2例が回復し3例(3/5)が生着した。8日目にバック移植された拒絶心はまったく回復しなかった。心拍の再開した心ではバック移植後1週間で細胞浸潤が消失した。Back-transplantationによる拒絶された移植臓器の機能回復の可能性は示された。

 


20050505

移植ネット・学会の活動は、古典主義的な啓蒙活動の見本
患者の人権保障に問題解決の道がある 工学院大の林氏

 月刊誌「思想」5月号は“科学技術と民主主義”を特集。「脳死臓器移植問題の社会的側面」を工学院大学の林 真理氏(はやし まこと 科学史・科学論)が解説した(p104〜p128)。

 林氏は、脳死臓器移植の問題を新しいテクノロジーの社会的受容という観点から執筆、「この問題をめぐるこれまでの歴史的経緯を整理し、本来立ち戻って考えるべき点と今後の見通しを考えることを目的」とした。

 臓器移植法成立後の経緯は専門家集団、行政、患者サポートグループ、人権擁護団体、製薬企業、宗教団体などの動きを、13ページにわたり解説している。日本臓器移植ネットワークの活動については「移植医療の普及を目指したものとはいえる。ただし、文書となったあらゆる提供情報において『都合の良いことしか書かない』姿勢が一貫し、古典主義的な啓蒙活動の見本ともいうべきものになっている。こういった文書を読む市民の中にあるはずの不信感の存在を前提とし、それを払拭しようという姿勢はまったくみられない(p118)」と指摘する。

 著者が重要と考える事として三点を指摘した。
(一)公的な法「改正」論における「患者の人権」という観点の欠落。
(二)立法中心主義の限界と多様なコミュニケーションの可能性。
(三)死をめぐる医療問題の一部としての脳死臓器移植問題。

 “「患者の人権」問題”では、「生体移植の問題認識が政治家レベルの議論ではかき消されていくこと、そもそも専門家集団において「患者の人権」を重視しようとする意識が低いこと、先進的・実験的医療においては患者の保護が重要な問題となるのは当然」と指摘。「もし、脳死臓器移植という特殊な医療技術を本当に社会が受け入れるとしたら、それはこの構造的不信が部分的にでも解消されたときであろう。しかし、専門家集団も行政も様々な市民団体その他による問題点の指摘に直接向き合おうとせず、日弁連の勧告にも真撃な対話で応えようとはせずに、関係者中心の『検証作業』を重ねている。社会とのコミュニニケーションを担う日本臓器移植ネットワークや日本移植学会は、啓蒙的な情報提供に終始している。さらに、専門家集団の後押しによって移植をさらに容易にする『改正』が議会に提案されている。こういった状況の下では、構造的不信が増大するばかりである。専門家集団および行政がこの不信を解消するために行うべき第一のことは、むしろこの『患者の人権』問題を議題に載せ、それを保障するような制度を整えることである。遠回りではあるが、そこに『問題解決』の道があるのではないだろうか」としている。


 “立法化の限界”では、テクノロジーの受容のために必要な科学技術コミュニケーションの問題について述べている。

 原子力発電やGMO(遺伝子組み換え生物)をめぐる問題では、厚生省や農水省が、専門家や行政以外の視点を積極的に取り入れて政策に生かそうとする試みがあるのに対し脳死臓器移植問題では「日本臓器移植ネットワークが作成したパンフレット、教材および日本移植学会が作っているチラシに共通している点は、知識を持たない素人に知識を注入するという『欠如モデル』の考え方に基づき、何も知らない人に一から教えるという手法をとっていることである。そういったモデルにあてはまらない、つまりあらかじめ予備知識(しかも『都合の悪い』あるいは『偏った』予備知識)をもったいわゆる『反対派』への対応法を持ち合わせていないのである」と指摘。
 「例えばウェブページ『死体からの臓器摘出に麻酔?』(死体からの臓器摘出に麻酔?)において、守田憲二は多数の問題となる事例を、主に日本語学術論文からの引用としてあげている。それらは主に、臓器移植に関する広報活動において伝えられる内容と齟齬が見られるような事例である。こういった問題提起に対応すること、あるいは対応しようとすることが、専門家集団にとって重要なのではないだろうか。非専門家による問題の指摘を無視するのではなく、その指摘が誤っているのであればそれを公式に正し、あるいはその指摘の方が正しいならば自分達の発信情報を改める。そういうコミュニケーションのプロセスが重要なはずである。それが見られないことが、先に述べたような構造的不信を生みだすのである」としている。


 “脳死問題から尊厳死問題へ”では、脳死臓器移植というテクノロジーをめぐる問題のもつ射程の広がりについて述べている。


 「脳死の問題も、尊厳死の問題も、どちらも本来は終末医療がどうあるべきかという問題に包含されていることがわかる。だからこそ、脳死臓器移植問題を突っ込んで考えた、てるてる(西森豊)の『改正案』は、リビングウィルにまで行き着いたのではないだろうか。たしかに、自らの死について考える場合に、臓器提供とのかかわりのみを考えて、そういった場合における意思決定のみを行っておくというのは偏った感じがするであろう。したがって自らの死後のこと一般についてあらかじめ考えて決定しておくべきであるという方向に向かうのは、その偏りを正そうとしているという意味で誠実な考え方に基づくと言える。しかし、そこに尊厳死の罠があるのは既に述べた通りである」としている。

 


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