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第42回日本臨床腎移植学会
急性硬膜下血腫、脳挫傷の60歳男性に生前カニュレーション:千葉東病院
65歳男性の心停止後にヘパリン投与、心臓マッサージ:藤田保健衛生大学
献腎移植登録患者のうち定期的に診察を受けている人は1/3:虎ノ門病院
透析で20年間生存の36歳男性、移植後49日で死亡:金沢医科大学
17歳男性、交通事故頭部外傷ドナー、温阻血時間1分:社会保険中央病院
56歳女性に生前カニュレーション、死亡確認の2分後に腎摘出:立川総合病院
脳出血患者にヘパリン投与、心臓マッサージを腎摘出:総合太田病院
生前カニュレーション、承諾書受理から10日目に心停止:三重県立総合医療センター

 2009年1月28日から30日まで、第42回日本臨床腎移植学会が千葉県浦安市のシェラトン・グランデ・トーキョーベイ・ホテルにおいて開催された。以下は日本医学館発行の第42回日本臨床腎移植学会記録集・腎移植症例集2009から、注目される発表の要旨(タイトルに続くp・・・は掲載貢)。

 

*細田 豊(国立病院機構千葉東病院外科):化学物質過敏症のため移植の決断と治療に難渋した献腎移植の1例、p34〜p36

 60歳女性は2003年1月、化学物質過敏症と診断、1985年、献腎移植登録以降、2回の献腎移植の候補となるが、過敏症が心配で移植を断念した。2008年9月、3回目の献腎移植の候補となり、当科受診となる。プラスチック、塩ビ容器、チューブの不使用、透析回路を前もってガラスボトル生食で洗浄、金属製チューブ使用など実施。
 ドナーは60歳男性、移植から5日前に交通事故による急性硬膜下血腫、脳挫傷により脳死状態となった。心停止前に鼠径部よりカニュレーションを行い、心停止後両腎摘出を行なった。温阻血時間は1分。

 

*早川 邦弘(藤田保健衛生大学腎泌尿器科):突然のドナー心停止に対し、体内局所灌流冷却法で献腎摘出術を施行した献腎移植症例、p46〜p48

 ドナーは65歳男性、脳腫瘍の悪化にて当院より約180km遠方の愛知県外に存在する某病院で加療していたが、入院後徐々に意識状態の悪化が進行した。脳外科主治医より患者は医学的に回復の望みがないことを家族に説明したところ、家族から自発的に心停止後臓器提供の申し出があった。このため、同県内の献腎摘出チームが組まれ、患者の心停止まで数日間待機していた。しかし、患者の容態が急変した当日、県内チームが諸事情にて予定されていた摘出に向かうことができなくなり、急遽、当院摘出チームに変更して献腎摘出に出向くことになった。
 当院チームへの連絡時、患者の血圧は収縮期圧60mmHg以下のショック状態であり、連絡前4時間の尿量は100ml以下であった。さらに家族の希望にて患者は気管内挿菅が行なわれず、脳死判定の施行は不可能であり、脳死下での体内灌流カテーテル留置は行なえない状態であった。
 当日12時51分:ヘリコプターにて1名の指導医を含む3名の摘出チームがドナーのいる病院の近傍に着陸。病院到着とほぼ同時に突然の心停止。ただちにヘパリンを静脈投与して心臓マッサージを開始。
 12時52分:心臓マッサージを施行しながら病棟で患者の大腿動脈より体内局所灌流カテーテルの挿入を開始。
 13時06分:カテーテル留置が完了し、体内局所灌流冷却を開始。同時に手術室の手配をして献腎摘出手術の準備を平行して行なう。
 13時50分:手術室搬入後に加刀。献腎摘出を開始。温阻血時間15分、体内局所灌流冷却時間82分であった。

 左腎は最終的に当院へ搬送されて59歳男性に移植、右腎は県内移植施設に移送し46際男性へ移植され、現在まで両腎とも良好な腎機能を維持して生着している。

 

*丸井 祐二(虎ノ門病院腎センター外科):献腎移植登録患者の現状評価 アンケートの結果から、p49〜p50

 2008年4月1日時点で日本臓器移植ネットワークに献腎移植登録している患者のうち、虎ノ門病院分院を移植希望施設としている患者203名を対象とし、郵送により無記名記入式アンケートを行なった。回答者数は148名(73%)。透析年数と登録待機年数はともに10〜15年が30%と最も多く、10年以上待機者が半数を超えていた。
 移植患者候補者として連絡を受けてから移植を受けるまでの流れについては、9割以上の人が知っていると回答したが、具体的に説明をうけたことがある人は2割以下であった。また、登録時に献腎移植についての説明を受けた人はおよそ1/3であった。また、献腎移植のために定期的に検査や診察を受けている人は約1/3で、移植に関して相談相手がいない人が40%であった。相談相手としては透析室スタッフに相談するとした人は約7割で、移植施設医師に相談するとした人の5倍であった。

 

 36歳男性は先天性低形成腎による末期腎不全のため、16歳時に血液透析導入、今回、ドナーはクモ膜下出血の17歳男性(温阻血時間4分)をドナーとする死体腎移植目的で入院。入院時心電図でブルガダ症候群が疑われたが、高K血症によるものと考えた。術後17日目に透析から離脱。術後合併症精査のため、術後49日目にブドウ糖負荷試験を施行したが、負荷 試験開始15分後に突然意識消失、呼吸停止をきたした。ただちに心肺蘇生を開始したが2時間後に永眠。

 

*加藤 真史(社会保険中央病院泌尿器科):献腎移植後4回の妊娠、3回の出産を経験後、移植腎機能が安定している1例、p197〜p199

 症例は22歳時に透析歴50ヶ月で献腎移植を受けた。ドナーは17歳の男性、死因は交通事故による頭部外傷、温阻血時間1分。
 

 

*諏訪 通博(立川総合病院泌尿器科):9年ぶりに再開した献腎移植の2例、p206〜p209

  2006年2月13日夜にドナー情報があり、2月14日にレシピエント第2候補が入院、18時5分に9年ぶりの腎移植が開始された。温阻血時間は11分。

 2006年3月27日夜に、当院脳外科で56歳の女性がドナー候補であるという情報が入った。翌28日深夜に体内灌流用カテーテル留置術を行い、11時にドナーの死亡確認、その2分後に両腎を摘出した。レシピエント第3候補が昼ごろ入院、第1候補が医学的に適応外となり、同一施設内でドナー腎採取から献腎移植までを経験した。

 

*杉山 健(総合太田病院泌尿器科):一地方の単一施設においてドナー腎摘出術と腎移植術を行ないえた献腎移植、p210〜p212

 症例1ドナーは63歳男性、2006年2月24日、脳出血により緊急搬送、臨床的脳死状態となった。2月25日に臓器提供のための承諾書を作成。27日21時ごろにドナーが突然心停止をした。カニュレーションをしておらず、ただちにヘパリンを投与し、21時13分に死亡確認ののち、心臓マッサージをしながら手術室に入室、22時27分に腎摘出術を開始、22時37分に両側腎臓摘出終了。
 レシピエントの56歳女性は、2月27日に入院、28日6時8分より移植術を開始、11時に終了した。

 症例2ドナーは36歳男性、2007年2月6日に夕食後を外食後に歩行中、自動車にはねられ緊急搬送、食直後の外傷を契機とした誤飲によると窒息が原因で臨床的脳死状態になった。2月15日に臓器提供のための承諾書を作成。2月17日2時28分、ドナーの状態悪化に伴いダブルバルーンカテーテルを留置後、2月19日5時25分に死亡を確認、5時53分にドナー 手術開始、6時47分に両側腎臓を摘出した。
 レシピエントの51歳男性は第4候補で2月17日5時37分に入院、移植手術は2月19日16時20分より開始、21時40分に終了した。

 症例3ドナーは43歳男性、2007年3月27日8時30分、自宅物置で縊頸の状態を発見され緊急搬送、臨床的脳死状態となった。3月31日にドナーの状態が悪化したため、ダブルバルーンカテーテルを留置、4月1日4時30分に死亡を確認、4時54分にドナー手術を開始、5時47分に両側腎臓を摘出した。
 レシピエントの56歳女性は3月29日に入院、移植手術は4月1日12時32分に開始、17時18分に終了した。

 

*松田 緑(三重県立総合医療センター):はじめての腎臓・角膜同時提供を経験して、p290〜p291

 2008年8月にはじめて腎臓・角膜同時提供が行なわれることになった。ドナーは70歳代の女性、自宅に多意識レベル低下がみられ心肺停止にて当院に救急搬送、CT検査結果でクモ膜下出血と診断された。脳外科の手術適応もなく、家族は予後不良と説明を受けており、家族からも積極的治療は望まれず、人工呼吸器管理および維持輸液管理にて経過観察となる。主治医から入院4日目に臓器提供のオプション提示がなされ、6日目に承諾書受理となる。
 臨床的脳死診断が行なわれ、患者の容態悪化に伴い摘出準備を進め、16日目に心停止となり腎臓・角膜摘出となった。承諾から摘出までの間、連日にわたり急激な血圧低下と除脈を繰り返し心停止時期の予測がつかず、摘出チームの待機や主治医・コーディネーターの緊急招集も繰り返された。また、患者の状態変化に伴って腎臓提供への影響も危惧され、家族へのリスク説明や長期カテーテル留置に対する配慮など、予期せぬ状況に対して医療者側にも戸惑いが見られた。

 

当Web注

  1. 臓器を摘出する目的でカテーテル挿入=カニュレーションを行なう際には、抗血栓剤ヘパリンも投与される。血液を固まらせないためのヘパリンは外傷患者、内出血患者には禁忌であり、ドナー候補者家族に、その副作用を説明せずに投与されている可能性が高い。

  2. 生前カニュレーションやヘパリン投与そして人工呼吸器停止等について、厚生労働省は「脳死状態が確認されていること」としているが、これは法的脳死判定手続きをザル法とするものだ。

  3. 温阻血時間が1分や15分などであることは、三徴候死の継続の確認が不十分と見込まれる。

  4. 心停止後の心臓マッサージは、蘇生処置と同じである。臓器提供者を生体解剖される危険に晒す。心停止を持って死亡宣告をしたこと=心停止を自ら取り消す行為である。

 


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