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医学的に無効な3分間無呼吸テストを採用 臓器提供の覚書
日本臓器移植ネットワークと沖縄、横須賀の米国海軍病院
2002年5月28日、日本臓器移植ネットワークと沖縄米国海軍病院、横須賀米国海軍病院、海軍・陸軍臓器移植委員会
は、日本の領土内にいる、米国国防総省の医療施設において治療を受けた患者の臓器摘出・移植についての了解覚書を取り交わした。
この了解覚書は、中山 太郎著「国民的合意を目指した医療 臓器移植法の成立と改正までの25年」、はる書房、2011年6月20日初版発行のp224〜232に掲載されている。同書p21〜p25には、2000年に米軍人が米海軍病院で脳死と判定されたが、厚生省が定めた臓器提供病院ではないため、心停止後の角膜・腎臓の摘出、福岡・熊本・沖縄の患者に移植されたことを、「諸君」2006年5月号の記事から引用して紹介している。中山氏は、2010年5月に沖縄米国海軍病院の外科医、アドナン・A・アルセディー少佐からメールで、この契約書コピーを入手した。アメリカ人と日本人の間の、臓器提供2件の記録も添付されていた
(同書は目次からp57まで、そしてp263以降がhttp://www.harushobo.jp/files/kokumiyekigoi.pdfで公開中、2011年10月2日現在)。
覚書で注目されることは2つある。一つ目は「3 合意事項および義務事項」において、「脳死の判定は、
米国国防総省海軍医療局(BUMED)指令5360.24に規定される不可逆的脳死の基準に従い、両米国海軍病院の担当医師および副担当医師が行う。
(中略)(c)人工呼吸器をはずしてから3分間、呼吸運動が見られないことを確認する。少なくとも1時間以上の間隔をあけて、2回以上、この確認を行う
」と、脳死判定の必須検査である無呼吸テストで、3分間無呼吸テストと1時間以上間隔をあけた2回以上の無呼吸テストを規定していること。
二つ目は「両米国海軍病院は以下を実施しなければならない。(中略)(4)日本臓器移植ネットワークに、ドナーの死亡を通知し、あわせて心臓停止・呼吸停止・対光反射の消失・瞳孔拡張の時刻を知らせる」としていることだ。
一つ目の規定は「脳死前提のカニュレーション、人工呼吸器の停止」、二つ目の規定は「心停止ドナーからの臓器摘出」を意味していると見込まれる。
無呼吸テストは、1968年のハーバード脳死判定基準や1974年の日本脳波学会の脳死判定基準は、3分間の無呼吸テストを規定していたが、1985年の厚生省脳死判定基準では10分間の無呼吸テストに、1991年の厚生省脳死判定基準では動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)が60mmHg以上であることを確認することと変遷している。藤井 之正は、ICUとCCU12巻2号p127〜p134(1988年)で「過去にわれわれの施設で行なった11例の無呼吸テストの内、3分の無呼吸でPaCO2が60mmHgに達したのは1例のみであった」と報告した。2007年8月18日、東京医科大学八王子医療センターに入院中の男性からの心臓、右肺、腎臓、膵臓の摘出が行なわれた法脳死判定59例目の脳死下での臓器提供事例に係る検証結果に関する報告書によると、法的脳死判定の第1回検査時は、PaCO2が60mmHgに達するのに27分間を要した。さらに動脈血二酸化炭素分圧が115mmHgと脳死判定の2倍近い高炭酸ガス刺激で自発呼吸が出たケース、脳死判定から43日後の自発呼吸復活ケースも報告されている。2002年時点でも、3分間ときわめて短時間の無呼吸テスト、
そして最短1時間間隔での無呼吸テストは、脳死判定としては無効なものと認識されていた。
-
厚生省の指導により、日本臓器移植ネットワークは、心停止ドナーに対する臓器摘出目的の生前カテーテル挿入、抗血栓剤ヘパリン投与、人工呼吸器の停止は、脳死状態の確認後としてきたが、これは法的脳死判定とは別の一般的脳死判定と称して、臓器提供施設ごとに異なる脳死判定で臓器を獲得してきた。
-
米国海軍省のWebサイトhttp://www.med.navy.mil/directives/Pages/CancelledDirectives.aspxは、BUMED指令5360.24は1974年4月15日の指令で、2011年8月17日に削除され、BUMED指令5360.24Ahttp://www.med.navy.mil/directives/externaldirectives/5360.24A.pdfに変更されたことを掲載している。
以下の枠内は、中山 太郎著「国民的合意を目指した医療 臓器移植法の成立と改正までの25年」、p224〜232掲載の了解覚書の部分
(施設名の英語表記は省略、略語は正式名称に変更した)。総則のb「(ただし眼、心臓停止後以外)」は、誤訳の可能性あり。
了解覚書
沖縄米国海軍病院、
横須賀米国海軍病院
海軍・陸軍臓器移植委員会
および
日本臓器移植ネットワーク
は、次の通り了解覚書を交換する。
1 総則
-
本了解覚書は、沖縄米国海軍病院司令官、横須賀米国海軍病院司令官、ウォルターリード陸軍医療センター、陸軍・海軍臓器移植委員会、および、日本臓器移植ネットワークにより合意されたものである。
-
本合意の目的は、日本の領土内にいる米国国防総省の患者(DoD患者)の臓器(ただし眼、心臓停止後以外)の回収・移植を秩序だって実施できるようにするため、両米国海軍病院と日本臓器移植ネットワークの関係を確立することにある。
2 定義
- ドナー(臓器提供者):他の人間への臓器移植を目的として、死亡により臓器を外科的に摘出するための候補となる患者。
- DoD患者:米国国防総省の医療施設において治療を受ける権利を有する者。現役軍人および退役軍人とその家族を含むが、必ずしもこれらに限らない。
- BUMED:米国国防総省海軍医療局。
- 臓器移植者(被提供者):他の人間からの臓器の移植を受ける者。
- 臓器調達チーム(OPT):十分な訓練を受け、人間の臓器を外科的に摘出・輸送することを認められている医療専門家のクループ。
3 合意事項および義務事項
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脳死の判定は、BUMED指令5360.24に規定される不可逆的脳死の基準に従い、両米国海軍病院の担当医師および副担当医師が行う。脳死の判定に当たっては、可能な限り、神経科医に助言を求めるものとする。ただし、助言を行う医師は、移植チームのメンバーであってはならない。
(1)患者の昏睡状態の原因は、脳への永久的な損傷によると推定されるものでなければならない。
(2)患者の昏睡状態の原因は、抑制剤の使用によるものであってはならない。
(3)患者の昏睡状態の原因は、低体温症によるものであってはならない。
(4)患者の昏睡状態が、最低13時間以上観察されていなければならない。
(5)患者は、外部から加えられるあらゆる刺激に対して、単純な脊髄反射を除き、無反応な状態でなければならない。可能な限り、脳波計の使用により、皮質機能が失われていることを確認する。
(6)脳幹機能が失われていなければならない。
(a)瞳孔は、中程度もしくは拡張した状態で動かず、明るい光にも無反応でなければならない。
(b)確認可能な眼球前庭反射が失われていなければならない。
(c)人工呼吸器をはずしてから3分間、呼吸運動が見られないことを確認する。少なくとも1時間以上の間隔をあけて、2回以上、この確認を行う。
(7)いかなる場合も、最低13時間以上の観察を行わずに、脳死の判定を行ってはならない。
上述の様々な確認手順は全て、この13時間の観察中に実施するものとする。
- 両米国海軍病院は以下を実施しなければならない。
(1)地域の両米国海軍病院臓器回収担当部長としての役割を果たす者1名を特定し、日本臓器移植ネットワークにこれを知らせる。この臓器回収担当部長は、本覚書の合意事項およびドナーからの臓器回収を実行するに当たって日本臓器移植ネットワークおよび地域の両米国海軍病院の間の調整・連絡の役割を担う。
(2)適切なドナーを適時に特定するための地域プログラムを実施する。
(3)臓器ドナー候補が特定された場合にはその旨を日本臓器移植ネットワークに通知する。
(4)日本臓器移植ネットワークに、ドナーの死亡を通知し、あわせて心臓停止・呼吸停止・対光反射の消失・瞳孔拡張の時刻を知らせる。
(5)臓器を摘出する上で必要な人員に限り、日本臓器移植ネットワーク臓器調達チームのメンバーに対し、病院内で通用する信用証明を提供する。
(6)ドナーの評価に必要な情報、必要な文書類、および臓器の回収に必要な手術室における基礎的サポートなどを提供する。
(7)死亡したドナー(故人)の生前における意思を確認するとともに、故人からの臓器提供に関して最近親者から承諾を得る。ただし、この承諾は、日本臓器移植ネットワークのメンバーの立会いの下で得たものでなければならず、臓器回収を行う上で必要となる唯一の有効な承諾でなければならない。
(8)臓器調達チームが速やかに到着し、特定された臓器の回収を秩序だって適時に行うことができるように計らう。
- 日本臓器移植ネットワーク(および関連の各組織)は以下を実施しなければならない。
(1)日本の「臓器の移植に関する法律」(法律第104号、1997年施行)を遵守する。
(2)ドナー候補に関する両米国海軍病院からの報告全てに対応し、日本のドナー適応基準に基づいて評価を行う。
(3)必要な血液を採取する。採取した血液を日本臓器移植ネットワークの施設に運び、適切な移植者を選択するために必要な評価を行う。ただし、この評価は日本臓器移植ネットワーク内で、日本臓器移植ネットワークの費用負担により実施する。
(4)適切な訓練を受けた外科医や補助員などにより構成される臓器回収チームを派遣し、臓器摘出を行う。同チームのメンバーは、臓器回収および移植手術に関する訓練を受けていなければならない。
(5)臓器回収チームの資格認定を行う。また、臓器調達チームの各メンバーにつき、適切な資格を維持する。これらの資格および認定に関する情報は、要請があれば、両米国海軍病院による確認のため両米国海軍病院に提供する。ただし、臓器回収時には、これらの文書の提示を求めることなく、両米国海軍病院は、日本臓器移植ネットワーク臓器調達チームの各メンバーに対し、病院内で通用する信用証明を提供する。
(6)日本臓器移植ネットワークメンバーの立会の下に両米国海軍病院の臓器回収担当部長が遺族から得た臓器提供承諾を承認する。
(7)適切に消毒された手術器具、臓器かん流液、臓器保存液を提供するとともに、当該器具の撤去および洗浄に関しても責任を負う。
(8)ドナーから提供される各臓器について、適切な移植者を選択し、日本の基準に従い、当該臓器を移植者のもとに速やかに輸送し、適時に移植を行うことができるように調整を図る。
(9)利用されなかった臓器の処分に関して責任を負う。
(10)回収された臓器の営利目的の販売に一切加担してはならない。
(11)両米国海軍病院において回収された全ての臓器に関する記録を保持するとともに、両米国海軍病院臓器回収担当部長ならびにドナーの遺族に対して、移植の結果について報告を行う。
4 臓器提供施設に対する支払い
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両米国海軍病院は、いかなる場合においても、本覚書への参加、ないし、日本臓器移植ネットワークによる臓器回収および利用に対して、日本臓器移植ネットワークに料金・謝礼を請求してはならない。両米国海軍病院および日本臓器移植ネットワークは、両米国海軍病院の近隣において早過ぎる死を迎えてしまった故人ないしその最近親者による臓器提供の意思を尊重するとともに、出身国にかかわらず臓器提供を必要としている人々の生活の質の向上に資すること、さらに、日米両国の人々の末永い絆を培うことを目的として、本覚書を交わすものである。
- 日本における通常の臓器(腎臓)回収手続の一環として、日本臓器移植ネットワークから臓器提供病院に対し何らかの支払いを行う場合、支払いを米国財務省に対し行うことができる。日本臓器移植ネットワークからの支払いは、臓器回収にかかった費用を弁済するために地域の病院に払い戻されるか、臓器提供プログラムに関する地域住民の教育・参加促進のために利用される。これらの支払額は、臓器(腎臓)回収が行われた時点での通常の支払体系および移植に成功した臓器(腎臓)の数に基づき、日本臓器移植ネットワークが単独で決定する。
5 本合意の有効期間および合意を終了する権利
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各当事者は、他方の当事者と協議を行った上で、合意の終了を希望する旨を書面で伝達することにより、いつでも本合意を終了させることができる。
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日本臓器移植ネットワークおよび両米国海軍病院(沖縄および横須賀)は、本合意の条項について、毎年再検討するものとする。書面による別段の規定がない限り、本合意は継続的に有効であり続ける。
- 本合意に関する改訂・追加は、この原合意とともに、両米国海軍病院および日本臓器移植ネットワークの両者が保持するものとする。
以上の証として、本覚書5通を作成し、各当事者が各1通づつ保有するものとする。ここに全当事者が、書名・捺印の上、本日、本覚書を締結した。
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アダム・M・ロビンソン・ジュニア
大佐、米国海軍
司令官 Adam M. Robinson Jr. 19 MAR. 02
横須賀米国海軍病院マイケル・A・ダン
大佐、米国陸軍、MC
司令官 Michael A. Dunn 25 Apr.02
ウォルターリード陸軍医療センター
ワシントンDC
マイケル・H・ミッテルマン
大佐、米国海軍
司令官 Michael H. Mittelman 28 May 02
沖縄米国海軍病院 |
筧 栄一
理事長 Eiichi Kakei 28 May 02
日本臓器移植ネットワーク
シドニー・J・スワンソン3世
中佐、米国海軍、MC
局長(Chief)、陸軍・海軍臓器移植委員会
ウォルターリード陸軍医療センター
ワシントンDC Sidney J. Swanson,V 25 Apr.02
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「ナチュラルコース」で点滴を控え、衰弱させ死なせることが日常化?
川崎協同病院「安楽死(殺)」事件 医療者が問われる生命への姿勢
1998年11月16日に男性患者(58歳)から気管内チューブを抜き、鎮静剤、筋弛緩剤を投与し死亡させていたことが今年、公になった事件について、看護教育6月号(発行:医学書院)は、清水 昭美氏による“川崎協同病院「安楽死(殺)」事件 問われる生命への姿勢”を掲載した。下記はその概要。
患者の病状は不治とはいえない。このような意識障害の患者が回復した例がある。死期が迫っていない。病院側も「半年以上生きられた可能性があった」と述べている。患者が示した苦痛は、医師が抜管したために引き起こした呼吸困難であり、挿管すれば楽になるはずである。決して命を絶つ類の苦しみではない。本人の意志は全く不明で、仮にこの患者が予め「安楽死」の意志表示をしていたとしても、事件の行為は「安楽死」として許される行為ではない。
主治医が家族(妻)からの要請で抜管したと主張しているが、自発呼吸があり、痛み刺激に反応し、血圧・脈拍が安定しているのに「9分9厘脳死状態」「最悪の植物状態」と事実より重篤な絶望状態のように説明しており、妻はその影響で抜管を求めたのであろう。
看護記録には「『ナチュラルコース(自然に死を迎えさせるコース)』で点滴を減らしていく」と記載されている。「ナチュラル」とは非常に耳ざわりがよい、罪の意識を抱かせない言葉である。生命維持に必要な水分、栄養分を減らすのであり、意図的に衰弱に導くのである。自然ではない。このように、いかにも自然であるかのような言葉は使うべきではない。日頃から、このような患者は「ナチュラルコース」として点滴を控え、衰弱して死を迎えることが日常化しているのだろうか。気になるのは、このことが現在まで問題視されずに過ぎている点である。患者の生命に対する基本的な姿勢が問われる。
看護士もこのような医療とは言えない方針を肯定し、一連の行為が実行されたのだろうか。医療者に、患者の生命を絶つ裁量権は与えられていない。違法行為に対しては、自立した看護士として、看護の立場で、はっきりと意見を述べ、阻止しなければならない。違法な支持は医療ではなく、従ってはならない。麻薬・毒薬・劇薬の管理、取り扱いは、法を厳重に守らなければならない。法違反の悪しき慣習に対しては、改めるよう積極的に発現し努力する責務がある。看護記録は、ありのまま正確に記録し、改ざんや隠蔽は許されない。
清水 昭美氏は、「脳死」・臓器移植を問う市民れんぞく講座 8月10日(土)午後2時〜午後5時 エル大阪(大阪市中央区)で『死にたい』の背後にあるもの―操作される死・本人の意志と家族の意志を講演した。
生存予測=移植不要でも登録継続して移植、3年間に8例
内科で救命できる患者に肝移植を行なうリスク大 持田氏
2002年5月25日、東京都内で第15回肝臓フォーラム(東部)が開催。全国の劇症肝炎患者に対する生体部分肝移植を集計している事務局である埼玉医科大学第3内科の持田 智氏は、劇症肝炎における肝移植適応ガイドラインの信頼性が低下し、生存予測でも移植登録および移植手術が行なわれていることを指摘、「慢性肝疾患に関しても内科治療の進歩に応じて、移植の適応を常に見直していく必要がある」と述べた。
埼玉医科大学第3内科では、全国の劇症肝炎、生体部分肝移植を集計している事務局。持田 智:【成人生体肝移植:その適応をめぐって】内科からみた生体肝移植の問題点、診療と新薬、40(6)、456−466、2003によると、日本急性肝不全研究会の作成した劇症肝炎における肝移植適応ガイドライン(1996年)は、1990年代前半までの症例を基に作成されており、当初は正診率が82.5%と高率だった。
しかし1998年〜2000年には劇症肝炎急性型での正診率は昏睡出現時が69%、5日後の再予測でも67.2%とさらに低下した。
- 救命された80例のうち、昏睡出現時に正しく「生存」と予測されたのは52例、21例は「死亡」と誤った。
5日後の再評価でも16例(20%)が「死亡」予測と誤ったままだった。
→死亡予測患者のみ肝移植登録が行なわれるため、内科的治療で救命できる患者に肝移植を実施するリスクが高い。
- 死亡65例のうち、「生存」と誤って予測された患者が昏睡出現時に19例(29%)と多数存在し、5日後の再評価でも1例。
- 肝移植を受けた15例では、昏睡出現時に「生存」と予測されながら移植登録し移植手術をされた5例が存在した。
→当Web注:この生存予測5例の5日後再評価結果は、記載されていない。
1998年〜2000年の劇症肝炎亜急性型では、全体の正診率は昏睡出現時79.4%、5日後の再予測80.7%と高率であるものの、
- 救命された32例のうち、昏睡出現時に27例が、5日後の再評価でも18例(56%)が「死亡」と誤って予測されていた。
- 死亡した102例のうち、5日後再評価では4例が「生存」予測となったが死亡した。
- 移植された40例のうち、3例は5日後再評価時点においては「生存」予測だった。
このほか、信州大学医学部第1外科の川崎 誠治氏は、岐阜県から搬送された翌日に移植した小児が、術後2日目に敗血症患者であることがわかった事例ほかを報告している。川崎 誠治:【成人生体肝移植:その適応をめぐって】劇症肝炎、診療と新薬、40(6)、457−514、2003
討論では最後に米国におけるドナー死亡例が取上げられ、藤原研司(埼玉医科大学第3内科)、川崎 誠治(信州大学医学部第1外科)、幕内 雅敏(東京大学大学院人工臓器・移植外科)の各氏は「日本人は手先が器用。米国は術後の管理がよいとは思えない。欧米人は日本から学ぶところが多いのではないか。術前評価の面でも日本のほうがきめ細かい」などの発言が相次いだが、田中 紘一氏(京都大学大学院移植免疫医学)は「少し弁護しなければいけないところもありまして。(笑)日本人と欧米人とでは体格がかなり違うのです・・・・・・・プロテインC欠損が多いとか・・・・・・」と述べている。藤原研司ほか:【成人生体肝移植:その適応をめぐって】討論、診療と新薬、40(6)、515−531、2003
国勢調査で役所のコンピュータに、臓器提供意思を登録せよ
寺岡教授ほか移植推進中心メンバー10人が連名で提案
「本人意思表示が必須となったら、献腎は壊滅」の危機感から
医学図書出版が発行する「泌尿器外科」Vol.15
No.5は、“腎移植をめぐる諸問題”を特集した。冒頭には東京女子医大の寺岡 慧氏をはじめとして大島 伸一氏(名古屋大)、平野 哲夫氏(市立札幌病院)、里見 進氏(東北大)、長谷川 昭氏(東邦大)、打田 和冶氏(名古屋第2赤十字病院)、秋山 隆弘氏(近畿大)、田中 信一郎氏(国立岡山病院)、進藤 和彦氏(国立嬉野病院)、中村 信之氏(沖縄県立中部病院)の10氏連名による「わが国における献腎移植の現状と今後の課題」を掲載している。以下は要旨。
臓器移植法の制定と、その後の脳死下臓器提供のシステム構築が進行してゆく過程で、心停止下献腎件数は低迷を続けた。脳死下提供と心停止下提供の要件(法的脳死判定、提供意思の表示など)の混同、臓器摘出施設の限定、ドナー適応基準の厳格化、都道府県腎移出入格差の拡大など、これらが献腎のactivityに負の影響を与えていると考えられた。また温阻血時間が31分以上で、総阻血時間が12時間以上の場合は移植後に腎機能が得られない確率が高く、都道府県腎移出入格差の増大と併せて、これらを是正する目的で新しい腎配分ルールが2002年1月に導入された。今後、新しい腎配分ルールのもとでいっそうの献腎の掘り起こしが急務と考えられる」
近い将来における問題点として、臓器移植法附則第4条の「当分の間、遺族が承諾しているときにおいても、眼球または腎臓を、脳死した者の身体以外の死体から摘出することができる」の『当分の間』が削除され、心停止の献腎においても、本人の意思表示が必須となる可能性がある。その場合は、心停止下の献腎は壊滅的な打撃をうけることにもなりかねない。
この問題を克服する方策のひとつとして本人意思の役所へのコンピュータ登録が考えられる。諸外国の例からドナーカード所持率は20〜25%を越えることはないと予測され、定期的に(例えば国勢調査、健康保険証の更新、自動車運転免許証の取得ないし更新の際などに)国民の意思をコンピュータ登録ないし登録内容の更新を行なうシステムを構築することにより、潜在的な提供意思を掘り起こすことも可能となりうる。いずれにせよ状況を先取りして対処する必要があると考えられる。
以下は当Web注
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温阻血時間とは「体温に近い温度で、血液による栄養や酸素などの補給がない状態=腎臓への血流停止から始まり、冷却灌流開始までの時間。
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太田 和夫:臓器移植の立場から、蘇生、2、58−60、1984は、「腎は心臓死で摘出しても移植に使用できるとされているが、循環停止後、冷却灌流するまでに許容される時間は約30分と限られているため、死後に臓器提供をお願いし、了承がえられたにしてもそれから移植チームに連絡をとり、手術場を用意し、摘出にかかるとなれば30分ではほとんど不可能ということになろう」としている。
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3徴候死の形式的確認に5分間、病室から手術室への搬送に数分間、そして冷却灌流用のカテーテル挿入・灌流開始まで10〜20分間を要し、これらの所要時間の合計=温阻血時間は30分以上となる。ところが臓器移植草創期の1960年代から、温阻血時間30分以下の小児臓器摘出例がある。
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