酒井氏「膵島移植は法律の制限を受けない点で明瞭」?
国立千葉東病院 温阻血時間20分の「心停止」ドナー
九州大学 カニュレーション・人工呼吸器を停止し膵腎摘出
第31回膵・膵島移植研究会
2004年3月26日、三光荘において第31回膵・膵島移植研究会が開催された。以下は「移植」40巻4号より、注目される発表の要旨(各タイトル末尾のp・・・は掲載ページ)。
*酒井 哲也(神戸大学大学院消化器外科)ほか:膵島移植における社会システムの構築について、p389
ドナーにおいては膵臓移植は「臓器の移植に関する法律」のもと規制され、組織移植である膵島移植はこの制限を受けない点で明瞭に区別されている。これは膵臓移植が法制定後の6年間で12例しか行なわれていないのに対し、膵島移植は法的脳死を必要としない心停止ドナーからの移植が可能であり、献腎移植に年間70〜80人からの提供があることを考えるとドナープールの拡大において1型糖尿病患者への福音となりうることを意味する。西日本では組織移植ネットワークに該当するシステムがなく、膵島移植における社会的システムの構築は急務である。
当Web注:膵島を獲得するためには、人工呼吸器の停止や抗血栓剤
ヘパリン(血液凝固を阻止する薬物、脳内出血や外傷患者には原則禁忌)の投与、膵臓冷却のためのカテーテル挿入(脱血して冷却液を注入する手技と一体)などが行なわれ、膵臓全体を摘出するにもかかわらず「心停止後の組織摘出・移植」と称して行なわれている。
*丸山 通広(国立千葉東病院):わが国における臨床膵島移植のための膵島分離、p386
今年1月の心停止ドナーは40代の女性、死因はクモ膜下出血。心停止後手術室に移送、開腹後、総腸骨動脈にカニュレーションし灌流開始、温阻血時間は20分。両腎摘出後に膵臓摘出。
*山本 健太郎(九州大学臨床腫瘍外科)ほか:心停止下膵腎同時移植の2例、p390〜p391
症例1:ドナーは低酸素症で死亡した32歳女性、カニュレーション、人工呼吸器オフを経て膵腎を摘出した。温阻血時間2分。
症例2:ドナーは頭部外傷で死亡した26歳歳女性、カニュレーションののち自然心停止を待って膵腎を摘出した。温阻血時間3分。
日弁連 本林会長が、自民党の臓器移植法改悪案に反対を声明
28例といわれる移植検証が先決、社会は検証すらできない状態だ
3月24日、日本弁護士連合会(本林 徹会長)は、自民党脳死・生命倫理及び臓器移植調査会の臓器移植法「改正」案について、「脳死を一律に人の死とせず自己決定を尊重するという現行法の根幹を否定するものであり、到底認めることはできない」とする会長声明を発表した。
声明要旨は以下。
脳死を一律に人の死とせず「自己決定権を保障すること」は現行法の根本思想である。移植を待つ人々の心情は十分理解できるものの、今回の改正案は、脳死臨調での議論を初めとする移植法制定の経緯を無視し、現時点で社会の大多数が脳死を人の死として受け入れているのか否かを検証せぬまま提案されるものである。移植法の見直しは、28例といわれる移植の実施例の十分な検証や、脳死を人の死と考えるか否かの世論の動き、臓器移植に関する社会的認知の程度等が総合的に判断されねばならない。当連合会も、初期の事案3例につき、人権侵害ありとして脳死判定をした当該病院それぞれに対し是正などの勧告等をしている。しかも、最初の数例を除くと患者のプライバシーを理由に基本的な情報もその後は公開されなくなっているから、社会は検証することすら出来ない状態に置かれている。
それゆえ、社会が「脳死を死と認めるようになった」「拒絶の意思表示がないかぎり、脳死・臓器移植に同意していると推測すべきだ」と評価できるほど社会的状況が変わったと判断することはできない。
会長声明の全文はhttp://www.nichibenren.or.jp/jp/katsudo/sytyou/kaityou/00/2004_01.html
心臓移植が必要な患者15例、うち11例が症状改善
基礎疾患の誤診例、正常まで回復例も 藤田保健衛生大
第3回重症心不全フォーラムが3月13日、サンケイプラザで開催された。シンポジウム「急性重症心不全の治療戦略」において、藤田保健衛生大学循環器内科の平光 伸也氏らは「当院における重症慢性心不全の転帰」を発表した(出典:「呼吸と循環」52巻10号S21〜S22)。
2000年〜2002年の2年間に慢性心不全の急性憎悪で入院した448例のうち、将来、心臓移植が必要となる可能性のある症例(60歳未満で左室駆出率30%以下)が51例(11.4%)存在した。うち15例が心臓移植を前提として紹介・入院した患者だった。この15例のうち3例は心不全死、1例に人工心臓が装着されたが、11例は治療により心不全症状は改善した。
心不全症状が改善した11例のうち、3例は再入院しているが、その一方で拡張型心筋症の58歳男性は僧帽弁置換術で心不全が改善して独歩退院。また、二次性心筋症の28歳男性は精査の結果から心房頻拍が心不全の原因であると考えられ、カテーテルアブレーションを施行したところ、ほとんど正常な心機能に回復し社会復帰した。また、産褥心筋症が疑われた31歳女性は、全身性エリテマトーデス(SLE)に伴う慢性心筋炎であることが判明し、ステロイド投与で心不全が改善して退院した。
これらの経験から、平光氏らは「一時は心臓移植が必要と考えられるほど重症な心不全でも、様々な治療を工夫することにより、心不全が改善する症例がかなり存在することが示された。心臓移植が困難であるわが国においては、内科的治療のみではなく、外科的治療も組みあわせながら様々な治療を試みる必要があると考えられた」と結んだ。
脳血流・糖代謝は認めず、ABRも全波消失、脳死と思っていたら脳波あり
「法的脳死判定基準の再検討が必要かもしれない」日鋼記念病院・杉野氏
津山中央病院がドナーカード所持調査 家族が「死ねということか」と激怒
第31回日本集中治療医学会学術集会が3月4、5、6日の3日間、福岡国際会議場、福岡サンパレスで開催される。
3月4日午後、ポスター展示会場で日鋼記念病院の杉野 繁一氏らは、頭部CTでは脳の構造が消失した像、脳血流SPECT、FDG−PETでは脳血流、糖代謝は認められなかった、ABRではT−X波のいずれも消失し、臨床的に脳死と考えられた心停止蘇生後の75歳女性(破傷風による痙攣発作を懸念して筋弛緩薬を投与していたので対光反射以外の脳幹反射は実施せず、無呼吸テスト施行せず)は、5mm/50μvの感度では平坦であったが20mm/μvの高感度脳波測定で10Hz、15μv程度の振幅があったとして「法的脳死判定基準の再検討が必要かもしれない」と発表する(プログラム・抄録集p163)。
当Web注:頭蓋内脳波に比べ低感度かつ雑音も多い頭皮上脳波においても、法的判定基準に疑義を呈した点が注目される。
3月5日午前は「わが国の小児集中治療の現状と問題点」が開催され、小児脳死患者の報告が多い市川 光太郎氏もパネリストとして発表する。
午後のパネルディスカッション「脳低温療法の有効性」(プログラム・抄録集p136〜p137)では、日本大学の長尾 健氏らがヨーロッパ(137例)・オーストラリア(43)例の脳低温療法施行例と自験例109例を比較。「虚脱から心拍再開までの時間が、自験例が平均55分と他群の2倍、良好な神経学的転帰は自験例41%、他群が55%、49%と自験例が低値。わが国の救急医療体制では、虚脱から心拍再開までに長時間を有し、かかる例は、さらなる低温療法の挑戦が必要」と発表する。
同ディスカッションでは国立循環器病センターの大江 洋史氏らが「局所脳低温療法で急性期脳梗塞患者17例のうち6例(35%)が良好な機能回復を示した。重篤な合併症は皆無。均一な脳温低下が得られない弱点があるが、簡便性、安全性の面で優れており、虚血病変の首座が脳表にある主管動脈塞栓性梗塞の治療に有用」(p137)と発表する。
大阪大学の塩崎 忠彦氏は、脳低温療法の効果と限界、適用患者の選択について発表する。
このディスカッションでは、日本大学の守谷 俊氏らが「重症脳損傷29例に対して、頭蓋内圧センサー付近に微小脳透析カテを挿入し、グルコース、乳酸、ピルビン酸、グルタミン酸などを10〜30分間隔で測定した。抗ケイレン剤の脳内濃度測定成功した。微小脳透析装置により、脳低温療法中における細胞レベルでの脳虚血病態の存在および治療介入に対する評価がベッドサイドで早期に行なえる可能性がある」と発表する。
当Web注:中枢神経抑制剤を投与された患者を脳死判定対象から除外する判断において、問題とされているのは有効濃度域の不明薬物が多く濃度測定しても判断できないこと。また末梢血の薬物濃度と、脳細胞に吸収された薬物濃度の差が数十倍におよぶケースがあること。脳血流内薬物濃度と脳組織内薬物濃度は異なる。
3月6日午前、ポスター展示会場では、津山中央病院の國米 由美氏らが救命救急センターに入院した患者全員に、入室時にドナーカード所持の有無を用紙を用いて確認したところ、5ヶ月間300人弱の入院患者のうちドナーカード所持者は2名だったこと。用紙記入の時点で起こった問題として、家族から「死ねということか」と言われたり、ドナーカードの存在自体を知らない場合があり、その説明に困惑したことなどを発表する(プログラム・抄録集p297)。
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