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20080725

透析療法で12年間生存、腎移植後75週間で死亡
移植前の悪性腫瘍検査が不十分 和歌山医大

 和歌山県立医科大学泌尿器科の南方 良仁氏らは、透析療法で12年間生存してきた46歳男性が、腎臓移植時に悪性腫瘍が見落とされ、移植後の免疫抑制下に腫瘍が増大して75週で死亡したことを、“腎と透析”65巻1号p155〜159に「移植後早期に進行性大腸癌が発見された献腎移植の1例」として公表した。

 死亡した男性は1994年4月に慢性糸球体腎炎で血液透析導入、12年後の2006年7月に献腎移植レシピエントに選定され、和歌山県立医科大学泌尿器科に入院した。ドナーはクモ膜下出血の33歳女性。移植術前に、感度の低い腫瘍マーカーの測定と腹部CT検査は行っていたが、明らかな異常を認めなかったため移植に踏み切った。

 男性は移植術後26週頃から、軽度の貧血と便潜血陽性が持続するため下部消化管内視鏡を施行したところ、下行結腸に全周性の進行癌が発見され、さらに多発性肝転移も確認された。原発巣を切除し、5−FUの肝動注療法、全身化学療法を行ったが死亡した。

 南方氏らは、ドナーが健康な若い女性だったことからドナーから腫瘍が持ち込まれた可能性はきわめて低く、また術後経過と発見時の腫瘍の進行状況から、腫瘍は移植前から存在したとみており、「移植待機患者における悪性腫瘍のスクリーニングは、移植施設と透析施設が連携のうえ、より厳密に行う必要があると思われた」と論文末尾に書いている。

 


20080720

新小文字病院の吉開氏ら 脳神経外科ジャーナル誌に珍説
「ドナーカード所持確認のみでも数年で腎移植問題は解決」

 福岡県北九州市門司区の医療法人池友会新小文字病院の吉開 俊一氏(脳神経外科および院内移植コーディネーター)、山本 小奈実氏、飼野 千恵美氏、穴井 はるみ氏(ICU看護部および院内移植コーディネーター)、土方 保和氏、外尾 要氏(脳神経外科)の5名は、脳神経外科ジャーナル17巻7号p547〜p550に「心停止下腎臓提供における臓器提供意思表示カード所持確認と臓器提供オプション提示の意義 脳神経外科医師に期待される腎臓移植医療への貢献」と題する文章を発表した(インターネット上で目次ページhttp://ci.nii.ac.jp/vol_issue/nels/AN10380506/ISS0000423275_jp.htmlにおいてPDFファイルが公開されている)。

 2003年3月〜2007年10月までに、致死的経過が不可避と判断した28症例の家族に、臓器提供意思表示カードの所持確認と臓器提供のオプション提示を行い、19例で心停止下腎臓提供の承諾を得た。吉開氏らはp548で「28例中カード所持確認例は2例(7.1%)と世論調査結果(8%)に近似していた」、p549で「献腎1例が10年間に約4,400万円の医療費削減に貢献しえる」「本邦では66歳以下の年間死亡症例のうち約7万名が献腎のポテンシャルドナーと推定される。全国カード所持率が8%であることから、うち5,600名がカード所持者と推定され、左右11,200個の移植可能腎が発生する。ドナーカード所持確認のみでも4〜5年で腎移植問題は解決されうる」「献腎該当症例は脳死を経る必要がない。マスコミ取材は献腎ではない。経費負担に関しては2腎提供で62万円、時間外摘出時にはその1.8倍が支払われる」などと書いている。

 

以下は当Web注

  1. 「献腎該当症例は脳死を経る必要がない」とは全くの虚偽だ。移植可能な臓器を獲得するには、ドナーの生前から臓器摘出目的(ドナーの救命に反する)の処置=カテーテル挿入、抗血液凝固剤ヘパリンの投与、ドナー管理など行われる必要がある。そのような処置を臓器ドナーの心停止前に行えなかった時にも、心臓マッサージをするなど血液循環を人為的に行いつつ=心停止の実体がない状態で抗血液凝固剤ヘパリンの投与ほかが行われる。臓器摘出時も、千葉大や名古屋大の医師が報告しているように麻酔をかけないと臓器摘出ができない場合もある生体だ。
     吉開氏らも脳神経外科ジャーナル16巻9号p706〜p710において出血性疾患患者への抗血液凝固剤投与、カテーテル挿入、心臓マッサージを報告している。今日の移植20巻4号 p349〜p354では、ドナー管理も行ったことを報告している。
     臓器提供者が生存中から、あるいは心停止後であっても生体と同じ状態で臓器摘出目的の行為を行う際には、その時点で致死的過程にあることと生体ではないことを確認する行為、脳死判定が欠かせない(脳死判定が可能と思う医師にとっては)。法律上も、第3者目的の行為(臓器摘出目的の行為)は傷害罪、傷害致死罪に問われるため、法的脳死判定による死亡宣告がなされている必要がある。
     
  2.  臓器提供者が法的脳死判定を経る必要があることから、吉開氏らが仮定する「66歳以下の年間死亡症例のうち約7万名が献腎のポテンシャルドナー、カード所持率8%から5,600名がカード所持者、左右11,200個の移植可能腎が発生、ドナーカード所持確認のみでも4〜5年で腎移植問題は解決」という計算は成り立たない。
     年間数千例の脳死判定例のうち、66歳以下、カード所持率、法的脳死判定施設への入院率、家族承諾率などに影響されて、結局、現行の年間数例〜10数例の法的脳死判定臓器提供症例数と同じになる。
     
  3. 腎臓移植患者の医療費は、少数の症例における医療費の平均が示されているだけであり、全ての腎臓移植患者の平均の医療費が算出されていない。移植患者の消息すら約半数しか把握されていないため移植患者の生存率から疑義がある。拒絶反応や感染症そして免疫抑制による早期死亡・医療費高騰、そして移植によるQOL低下例・低下リスクの評価が反映されていない。

 


20080707

法的「脳死」臓器移植レシピエントの死亡は累計39人
5月15日更新情報で死亡としていた患者6人が復活

 日本臓器移植ネットワークは5月 9日更新情報で脳死臓器移植患者の死亡が累計39名になり、さらに5月15日更新情報で累計45名 となったことを表示していたが、7月7日更新の脳死での臓器提供ページで 死亡した臓器移植患者数は累計39名になったことを表示した。5月15日の記載が間違っていた模様だ。今年4月7日の更新情報でも、死亡患者数が40名から38名に少なくなっている。

 臓器別の法的「脳死」移植レシピエントの死亡年月日、レシピエントの年齢(主に移植時)←提供者(年月)、臓器(移植施設名)は以下のとおり。

  1. 2005年 3月 7日 50代男性←bP2ドナー(20010121)  心臓(国立循環器病センター)

  2. 2005年 3月21日 40代男性←bR2ドナー(20041120)  心臓(大阪大)
     

  3. 2002年 2月 3日 43歳男性←bP1ドナー(20010108)  右肺(東北大)

  4. 2002年 3月20日 46歳女性←bP6ドナー(20010726)  右肺(大阪大)

  5. 2002年 6月10日 38歳女性←a@5ドナー(20000329)  右肺(東北大)

  6. 2002年12月 5日 20代女性←bQ2ドナー(20021110)  両肺(岡山大)

  7. 2004年 6月 7日 50代男性←bR0ドナー(20040520)  両肺(東北大)

  8. 2005年 3月10日 50代男性←bR6ドナー(20050310)  両肺(京都大)

  9. 2006年 5月初旬  40代男性←bP9ドナー(20040102)  右肺(岡山大)

  10. 2006年 5月27日 40代女性←bS6ドナー(20060526)  両肺(岡山大)

  11. 死亡年月日不明   レシピエント不明←ドナー不明       肺(施設名不明)

  12. 2006年10月24日 30代女性←bS3ドナー(20060321)  両肺(京都大)

  13. 2007年 7月?   32歳男性←bS9ドナー(20061027)  左肺(福岡大)

  14. 死亡年月日不明   レシピエント不明←ドナー不明       肺(施設名不明)

  15. 死亡年月日不明   レシピエント不明←ドナー不明       肺(施設名不明)
     

  16. 2000年11月20日 47歳女性←bP0ドナー(20001105)  肝臓(京都大)

  17. 2001年 5月25日 10代女性←bP4ドナー(20010319)  肝臓(京都大)

  18. 2001年12月11日 20代女性←bP8ドナー(20011103)  肝臓(北大)

  19. 2002年 9月10日 20代男性←bQ1ドナー(20020830)  肝臓(京都大)

  20. 2005年12月26日 50代女性←bS1ドナー(20051126)  肝臓(北海道大)

  21. 死亡年月日不明   20代男性←bQ9ドナー(20040205)  肝臓(大阪大)

  22. 死亡年月日不明   60代男性←bR6ドナー(20050310)  肝臓(京都大)

  23. 死亡年月日不明   40代男性←bQ2ドナー(20021111)  肝臓(北大)

  24. 死亡年月日不明   レシピエント不明←ドナー不明     肝臓(施設名不明)

  25. 死亡年月日不明   レシピエント不明←ドナー不明     肝臓(施設名不明)

  26. 死亡年月日不明   レシピエント不明←ドナー不明     肝臓(施設名不明)

  27. 死亡年月日不明   レシピエント不明←ドナー不明     肝臓(施設名不明)

  28. 死亡年月日不明   レシピエント不明←ドナー不明     肝臓(施設名不明)
     

  29. 死亡年月日不明   レシピエント不明←ドナー不明     膵臓・腎臓(施設名不明)
     

  30. 2004年 6月頃   50代女性←bP5ドナー(20010701)  腎臓(東京女子医科大学腎臓総合医療センター)

  31. 死亡年月日不明   50代男性←a@5ドナー(20000329)  腎臓(千葉大)

  32. 死亡年月日不明   30代男性←bP4ドナー(20010319)  腎臓(大阪医科大)

  33. 死亡年月日不明   50代男性←bP6ドナー(20010726)  腎臓(奈良県立医科大)

  34. 死亡年月日不明   50代男性←a@2ドナー(19990512)  腎臓(東京大学医科学研究所附属病院)

  35. 死亡年月日不明      女性←bQ6ドナー(20031007)  腎臓(名古屋市立大)

  36. 死亡年月日不明   50代男性←bR6ドナー(20050310)  腎臓(国立病院機構千葉東病院)

  37. 死亡年月日不明   レシピエント不明←ドナー不明     腎臓(施設名不明)

  38. 死亡年月日不明   レシピエント不明←ドナー不明     腎臓(施設名不明)
     

  39. 2001年9月11日   7歳女児←bP2ドナー(20010121)  小腸(京都大)

 


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