戻る ] 上へ ] 進む ]

2003年12月31日 厚労省委託 心停止ドナーからの心、肺移植に関する研究
阪大論文の約6割は前年と同じ、1年後の経過も報告なし
岡山大 心停止30分以内のヘパリン投与+心マッサージ
法的脳死手続きに考慮なく「心停止後肺移植可能」と結論
2003年12月25日 移植学会理事長も、ドナーカードは持っていなかった
何も知らない素人に持たせる、途方もない欺瞞 古川氏
2003年12月 6日 人工心肺を装着した患者が心停止、その後も循環を維持して臓器摘出
中部地方で3ドナーから
2003年12月 5日 市立函館病院も臨床的脳死以前からドナー管理か?
有効血中濃度域が不明な薬物投与下の脳死判定
2003年12月 1日 虐待を疑い始めるのに2〜3日、否定に2週間から1ヵ月以上必要
乳幼児頭部外傷の約3割程度が虐待!大阪の小児科医40名ほか

20031231

厚労省委託 心停止ドナーからの心、肺移植に関する研究
阪大論文の約6割は前年と同じ、1年後の経過も報告なし
岡山大 心停止30分以内のヘパリン投与+心マッサージ
法的脳死手続きに考慮なく「心停止後肺移植可能」と結論

 国立循環器病センター(北村惣一郎総長・大阪府吹田市)は、「厚生労働省循環器病研究委託費による研究報告集(平成14年度)」を発行。「心停止ドナーからの心、肺移植に関する研究(主任研究者:国立循環器病センター・中谷 武嗣)」を10ページ(p149〜p158)にわたり掲載している。

 このうちp152掲載の「臨床応用に関する研究」は、大阪大学大学院医学系研究科臓器制御外科学(第―外科)の福嶌 教偉氏による報告書だが、本文部分の20字詰め59行のうち34行は、前年度に発行した「厚生省循環器病研究委託費による研究報告集(平成13年度)」p383掲載と同一だ。以下の枠内が、平成13年度報告書と平成14年度報告書と同一部分。 

緒 言
 心臓移植は末期的心不全患者の外科的治療として、欧米ではすでに確立されているが、ドナー不足は深刻な状態にあり、marginal ドナーの利用が注目されている。また、日本の交通事情を考えると、4時間を越える保存を余儀なくされることが予想され、長時間保存法の開発も重要である。本研究の目的は、呼吸停止、または出血により心停止に至ったドナーからの、臨床応用可能な多臓器提供法を開発することである。特に無呼吸停止ドナーからの多臓器提供法は確立すれば、脳死下の臓器提供が困難な本邦においては、さらにドナープールを拡大できるものと考え、本年度は、呼吸停止により心停止に至ったドナーからの多臓器提供法の急性期の効果を検討した。

 方 法
2)本研究で開発中のシステムと同様のシステムを用いて腎提供を行った。症例は28才男性で、単心室、肺動静脈痩のため心肺移植待機中に、チアノーゼによる脳虚血発作のため循環不全となった。PCPSによる蘇生を行ったが、脳死に陥ったため、家族の腎提供の承諾を得た後にPCPSを―旦停止し、心停止後PCPSを用いてUW液で腹部臓器を灌流した。腎臓を2例に移植した。

 結 果
2)両症例とも移植後数日以内に透析を離脱し、移植後4カ月目の現在生着している。

 考 察
 また、本システムを用いた腎提供を行い、その2腎共が良好に機能していることから、本システムを用いた多臓器移植の可能性を示唆する症例であると考えられた。

 結 論
 本システムを用いて腎提供を行い、その移植後機能が良好であったことから、この方法を用いることにより、無呼吸停止心ドナーからの臓器提供の可能性が示唆された。

 学術論文は掲載誌により投稿規程は異なるが、国際的には論文のもととなっているデータベースが、以前に発表された論文から50%以上増えていなければ二重投稿とみなす方向にある(出月 康夫:二重投稿と不正投稿、日本医師会雑誌、126(10)、1389−1394、2001)。今回の福嶌論文は、13年度報告書ではブタで心臓移植を、14年度報告書ではイヌ(論文の途中で表記がブタに変わっている)で肺移植を行なった点で元データは50%の増加となるため、二重投稿すれすれ。腎臓移植を受けたレシピエント2名について、移植後1年以上も経過しているにもかかわらず、「2)両症例とも移植後数日以内に透析を離脱し、移植後4カ月目の現在生着している」と前年度報告書と同じ表現のままであり、このような論文が厚生労働省循環器病研究委託費の対象となることには、納税者から疑問の声が出るだろう。

当Web注A:この研究では、@人為的に心停止させているAドナーの救命に関係のない投薬を行ったB心停止させる前に投薬した3剤はドナーの救命に反し容態を悪化させる可能性がある( prostacyclin=プロスタサイクリンは末梢血管拡張薬、脳出血などの急性期には禁忌。verapamil =ベラパミルはCa拮抗薬、血管拡張、不整脈抑制、心筋保護作用がある。頭蓋内出血で止血が完成していないと推定される患者や脳卒中急性期で頭蓋内圧が更新している患者には禁忌。propranorol=プロプラノロールは、交感神経(β)遮断薬で降圧作用、 禁忌、慎重投与の範囲が広い。 ベラパミルと相互に作用が増強する)C人工心肺による灌流は蘇生処置と同じであり、ドナーとされる患者は臓器摘出時に人格、意識がある可能性がある。これら@〜Cの処置を人間に行う場合には、法的脳死判定手続を踏まないと違法行為となる。

 

 この報告書p154掲載の近藤 丘氏(東北大学加齢医学研究所呼吸器再建研究分野)による「心停止ドナーからの肺移植における移植前機能評価」は、6例の脳死肺移植ドナーから脳死体内で肺動脈からの灌流後に、バックテーブルで肺静脈から逆行性灌流を追加して、肺動脈からの血栓除去ができたことを報告している。

当Web注B:脳死体内での肺動脈灌流は、法的脳死確定後にしか行なえない。心停止ドナーにはできない。

 

 p155に掲載の伊達 洋至氏(岡山大学医学部付属病院第2外科)による「心停止ドナーからの心、肺移植に関する研究」は、心停止後にヘパリンを投与して心マッサージすることの効果と、ヘパリン投与の至適時間についてイヌを使った実験結果を報告。「心臓死後肺移植において、心停止後にヘパリンを投与し心マッサージを行うことによって微笑血栓(当Webページ注:微笑との表現は原文のママ)の形成を予防しうる。ただし、心停止後30分以内に心マッサージによるヘパリン化を行う必要があると考えられた」としている。心停止から45分後、60分後に投与した群では、動脈圧酸素分圧が低値を示し、死亡するイヌがあったためだ。

当Web注C:有効な血液循環が20〜30分間ない患者も、心マッサージなどの蘇生措置により社会復帰している。臓器を摘出するために心停止後30分以内に心マッサージを行えば、臓器摘出時には意識が戻っている可能性がある。内出血のある患者には禁忌のヘパリンを投与して、心マッサージを行うならば、ドナーとされる患者にはさらに激しい苦しみを与える可能性がある。伊達氏らの実験では塩化カリウムを静注してイヌを心停止させたが、同様のことを人間に対しても行うのであろうか。

 死戦期の低血圧状態や負荷による臓器機能の低下、そして緊急手術では摘出スタッフの負担や移植までに要する時間が延長するため、人為的心停止が行われる恐れがある。厚生省循環器病研究委託費による研究報告集(平成13年度)のp388「心停止ドナーからの心、肺移植に関する研究」において広瀬 一氏(岐阜大学第一外科)は、「臨床的に最も頻度が高いと考えられる呼吸停止で得られる心臓は、無処置下では両心室拡張末期圧が高値となり悪影響を与えている。脱血をこれに追加すると両心室に前負荷がなく、両心室拡張末期圧は上昇しなかった。またPGE1およびdiltiazem(Ca拮抗薬、抗不整脈)により両心室の負荷減少が得られた。また心停止時の心筋内ATPは両心室拡張期末期圧が呼吸停止後高いほど低い傾向があった」と述べ、大静脈・大動脈を切断する脱血が、心停止ドナー作成時の処置として考慮されていることを報告している。

 

 主任研究者の中谷 武嗣氏は、総括研究報告p149〜p150の最後を「肺移植に関しては、現在の臓器提供意思表示カードで心停止後の提供を希望される場合でもドナー臓器と成りえると考えられた。今後の臨床化にむけては、摘出臓器機能の簡便で迅速な評価法の開発や法整備などの社会的基盤づくりが必要と考える」と結んだ。

当Web注D:日本医学館が2003年に発行した「小児の心臓移植・肺移植」の「PART6 .ドナー不足解消のための実験的検討 2.Non-heart beating donor の心臓移植」(p103〜p106)において、岡山大学大学院医歯学総合研究科心臓血管外科の末廣 晃太郎、佐野 俊二の両氏は、「すべてのNHBDに付きまとう問題であるが、―度自然停止した心臓がつぎに拍動を開始した時に、どの程度の機能を持っているか、やはり予想しがたく再灌流後の心機能評価をすることが望ましい。問題はむしろ倫理的なもので、死亡宣告に先立って移植を前提とした前処置をはじめることが許されるのかどうかという点である。良好な心拍動が再開することがわかっていながら、心臓を摘出する目的で心停止を待つといった状況が、果たして許容されるのかどうかという点は十分議論されるべきであろう。NHBDすなわち移植適応基準ぎりぎりの marginal donor といった発想は間違っており、良好な心機能を維持しているものを選択して利用すれば脳死移植と同様の移植が可能である」と指摘している。

 


20031225

移植学会理事長も、ドナーカードは持っていなかった
何も知らない素人に持たせる、途方もない欺瞞 古川氏

 千葉西総合病院神経内科の古川 哲雄氏は、月刊誌「神経内科」に、臨床メモを連載している。2003年12月号ではp662に「医師はドナーカードを持ちたがらない」のタイトルで掲載した。以下はその内容。

 

 数年前、移植学会理事長のN教授が脳死臓器移植促進の講演をされたあとの懇親会で、「先生はドナーカードをお持ちですか」と尋ねた。「いえ、持っていません。私はもう年ですから」「60歳くらいではまだ使える臓器はいくらでもあるのに、じゃ、お子さんはどうですか?」「こどもは本人の自由意志にまかせてありますから」こういう返事であった。

 筆者は今までに臓器を提供するというドナーカードを持っている医師に会ったことがない。移植ネットワークに関係している人もあいまいな返事であった。米国UCLAの小児神経学のAlan Shewmon教授に会った時、ドナーカードを持っている医師をご存じか尋ねてみたが、アメリカでもドナーカードを持っているmedical doctorは知らないとの返事であった。彼は脳死臓器移植に反対である。筆者は今までに何度も発表した理由でもちろんドナーカードは持っていない。

 脳死からの臓器摘出がどのようなものかよく知っている人はドナーカードを持たないで、なにも知らない素人に持つようにすすめているのが現状である。小児からの臓器移植が検討されているが、検討している専門家たちや家族はドナーカードを持っているのであろうか?

 自分では持ちたくないものを他人には持たせたい。これほど大きな欺瞞があろうか?

 

当Web注:移植施設ではレジデントのドナーカード保有率2割5分、看護師は4割、臓器提供施設におけるアンケートでは意思表示率4%、などの事例がある。医療機関に就労歴が長いほど、意思表示率は低落する。脳死判定に、慎重な神経内科医のドナーカード所有率は古川氏のいうとおり、相当の低率と見込まれる。

 


20031206

人工心肺を装着した患者が心停止、その後も循環を維持して臓器摘出
中部地方で3ドナーから

 12月6日、第8回静岡県腎移植研究会(座長:須床 洋)がホテルアソシア静岡ターミナルにおいて開催。日本臓器移植ネットワーク中日本支部の浅居 朋子氏らは、3名の人工心肺(PCPS)を装着した患者に対して、心停止した後も循環を維持し、腎臓を摘出したことを発表した。

 浅居 朋子(日本臓器移植ネットワーク中日本支部):PCPS装着下で摘出された3献腎症例の移植経過、今日の移植、17(2)、325、2004に記載の症例報告は以下のとおり。 

【症例1】
 48歳、男性、急性心筋梗塞、CPAOA、第2病日に心停止、心停止後もPCPSにて循環維持、35分後に灌流液に変更、総灌流量22,000ml。両腎生着。

【症例2】
 60歳、男性、急性心筋梗塞、第1病日に心停止、WIT2分、総灌流量15,300ml。左腎は灌流不良で移植せず、右腎生着。

【症例3】
 67歳、男性、急性心筋梗塞、第1病日に心停止、WIT6分、総灌流量81,000ml。右腎は動脈硬化が著明で移植せず、左腎生着。

【結語】
 これらの症例は、ドナーソース拡大の可能性や新たな灌流法を考える参考になると思われる。

 

 人工心肺を使う臓器摘出は、1998年の日本移植学会総会においても埼玉医科大学の小山氏より以下の報告があった。

 携帯型人工心肺を用い、心停止による死亡宣告後、大腿動静脈よりベッドサイドでカニュレーションを行う。血液を酸素化しながら全身を徐々に冷却、静脈血が15℃以下になったところで人工心肺を中止し、ユーロコリンズを大腿動脈より自然落下させる。ドナーを手術室に運び、腎を摘出し・・・17例の心停止ドナーに応用した。平均温阻血時間は32分。

出典:小山 勇(埼玉医科大学第1外科):心停止ドナーからの臓器を移植に用いるための人工心肺下コアクーリング法、献腎移植における経験、移植、33(総会臨時号)、133、1998 

 埼玉医科大学のコアクーリング法は、死亡宣告後に人工心肺装置に接続したとしており、浅居氏らの報告とは異なる。また浅居氏らの症例で全身冷却を試みたか否かは、「今日の移植」に明確な記載がなくわからないが、症例1では「35分後に灌流液に変更」とあるため冷却灌流液への変更があったと考えられる。
 急性心筋梗塞で第1病日あるいは第2病日に心停止と経過が早く、脳死判定は困難と見込まれる。いずれにしても、埼玉医科大学の事例も酸素化された血液を供給しつづけるため、臓器摘出が法的に容認される死体といえるのか、疑問が呈されよう。

 


20031205

市立函館病院も臨床的脳死以前からドナー管理か?
有効血中濃度域が不明な薬物投与下の脳死判定

 

 脳死下での臓器提供事例に係る検証会議は、12月5日、第11例目の脳死下での臓器提供事例に係る検証結果に関する報告書をhttp://www.mhlw.go.jp/shingi/2003/12/s1205-6.htmlに、第10例目の脳死下での臓器提供事例に係る検証結果に関する報告書をhttp://www.mhlw.go.jp/shingi/2003/12/s1205-5.htmlに公開した。第11例目の検証作業は2002年3月26日に、第10例目は6月21日に終えていた。

 第10例目検証における注目点は以下の2つ

  1. 臨床的脳死判断以前からの臓器ドナー管理目的の昇圧剤投与
  2. 有効血中濃度が不明な中枢神経抑制剤投与下の脳死判定

 

1.臨床的脳死判断以前からの臓器ドナー管理目的の昇圧剤投与

 2000年12月18日付の毎日新聞は、「11月4日午前9時半に臨床的脳死診断(仮の脳死判定)で脳死状態と分かった。しかし、血圧が不安定で、臓器を移植できない可能性もあり、女性の主治医が家族に説明。家族から『何とか(臓器提供の)意思を生かしたい』との要請を受けた。このため、同病院は1回目の脳死判定(同日午後1時半)前から昇圧剤投与などを行い、容体の安定を図った」と報道している。

 毎日新聞の報道だけを読むと、法的脳死判定以前からの昇圧剤投与と受け取られるが、厚生労働省報告書および函館医学誌の記述よると、1回目脳死判定以前から投与されていた昇圧剤はイノバンとドブトレックスであり、その投与開始は臨床的脳死診断の24時間30分前=11月3日9時とみられる。

  • 厚生労働省報告書
     10月23日、他院より搬送された60代女性は、検査所見から椎骨動脈瘤破裂によるくも膜下出血を疑い、再出血予防の目的で、不穏状態に対し鎮痛剤(ミダゾラム)を投与し、血圧コントロールのために降圧剤(ペルジピン)を投与した。
     11月3日3時45分:突然の呼吸停止、JCS 300、瞳孔散大(左右とも5mm)。血圧80mmHgまで低下。動脈瘤の再々破裂を確認。8時45分、JCS 300、対光反射消失、瞳孔の大きさ(左右ともに3mm)。夫より脳死後、全臓器の移植を希望している話があった。9時、血圧が80−90mmHgなので、イノバン、ドブトレックスを開始した。・・・さらにはノルアドレナリンで血圧が維持されている。
     
  • 丹羽 潤:脳死判定と臓器摘出−臨床経過と問題点について−、函館医学誌、25(1)、5−10
     11月3日8時45分の家族への説明時、家族(夫)は患者が臓器提供意思表示カードを所持しているとの話を持ち出した。現時点では瞳孔が散大しておらず(左右とも3mm)、脳死ではないとインフォームドコンセントした。血圧が60〜80mmHgに低下してきたため、昇圧剤(イノバンとドブトレックス)を開始した。
     11月3日20時50分プラズマネートカッターを使用、11月4日5時20分より濃厚赤血球輸血を開始した。第1回目無呼吸テスト終了時より血圧が不安定になったためノルアドレナリンの持続注入を開始した。2回目の法的脳死判定まで患者の血圧を100mmHgに維持することは非常に困難であったため、イノバン・ドブトレックス・プラズマネートカッター・輸液に加え、ノルアドレナリンでの治療を継続した。

 下山 則彦:脳死判定を受けたくも膜下出血の一部検例、函館医学誌、25(1)、11−15は、この女性ドナーについて「左椎骨動脈・後下小脳動脈分岐部の動脈瘤破裂が確認できた。・・・・・・繰り返す出血は新鮮血栓が溶解したためと考えられた。・・・・・・神経細胞が壊死していたのは、小脳・橋・延髄であり、椎骨動脈動脈瘤破裂による循環障害の影響を最も激しく受けたと考えられる所見であった」と報告している。

 新鮮血栓が溶解して動脈瘤破裂を繰り返す患者に、昇圧剤を投与することは救命目的で妥当性があるのか。函館医学誌、25(1)はp8〜p9で「(法的脳死判定)第2回目には昇圧剤(ノルアドレナリン)の使用によると思われる筋収縮が右頸部から右顔面にかけて見られ、これによる筋電図が脳波に混入した」という。単なる筋収縮だけか、それとも再出血など患者が激痛を感じていた可能性もあろう。

 くも膜下出血後の急激な経過で、数時間のうちに3徴候死にいたることも想定される。夫が臓器提供意思表示カード所持を通告した後に、臨床的脳死診断以前からドナー管理を開始したのであれば、苦痛を長引かせた倫理面の考慮とともに、違法性の有無が検証されるべきだが、厚生労働報告書は触れていない。

 函館医学誌、25(1)、p11は、左腎摘出の既往歴を報告している。違法性の検証は、「死体ではない生きている患者に、救命に反する行為・救命治療とは関係のない処置を行なったこと」とともに「臓器売買の可能性」なども含まれるべきことになる。

  • 佐藤 章(千葉県救急医療センター):臓器移植法による脳死判定が救急医療現場にもたらす医学的、倫理的諸問題:脳死判定350例の経験から、日本救急医学会雑誌、9、393、1998は、「脳死と診断された350例のうち230例(67%)で治療中止の相談がなされ、199例(86%)で呼吸器停止の承諾が得られた。しかし全脳死症例中の約18%がvital signsの悪化により呼吸器停止前に死亡した。・・・・・・臨床的には、脳死判定終了前から脳治療を目的としない徹底した全身管理を行わないと、20%近い症例が失われる可能性がある」としている。
     

  • 乾 健二(京都大学大学院医学研究科器官外科学講座呼吸器外科学):本邦における肺移植の問題点―システムについての検討―、日本呼吸器外科学会雑誌、16(3)、119、2002は「marginal donor を利用可能にしてゆくシステムに欠けているため、さらなるドナー臓器不足となりやすい。このような状況を打開するためには、例えばドナー管理の専門家を養成し、ドナー候補発生の早い段階から適切な患者管理を行なうことが重要であると思われる」としている。
     
  • 臨床的脳死判断以前からの臓器ドナー管理開始は、17例目7例目において臓器摘出施設所属医師の論文でも確認されている。

 

2.有効血中濃度域が不明な中枢神経抑制剤投与下の脳死判定

 厚生労働省報告書は「11月3日19時25分に臨床的脳死と診断されたが、中枢神経抑制剤ミダゾラムが11月2日8:00まで投与されていたので(持続点滴中止前33時間の総投与量77mg)、48時間の経過を待ち、再度、11月4日9:30臨床的に脳死と診断した」としている。
 丹羽 潤:脳死判定と臓器摘出−臨床経過と問題点について−、函館医学誌、25(1)、5−10は10月23日〜11月2日午前8時までミダゾラムを間欠的に総量550mg使用を報告している。

 ミゾダラム投与終了36時間後:11月3日19時25分の臨床的脳死診断を無効として、48時間後:11月4日9時30分の臨床的脳死診断を有効とする12時間の延長に、科学的根拠はあるのか。健常人の薬物代謝と、脳不全患者の薬物代謝を同じと考える間違いに気付かず、形式を整えたに過ぎないのではないか。脳血流が低下すると、脳内の薬物濃度が末梢血の薬物濃度よりも高くなる。厚労省報告書・函館医学誌ともに血中薬物濃度の報告はなく、技術的には可能な末梢血薬物濃度さえ測定していないとみられる。脳死判定ハンドブック(羊土社2001年p134)によると、ミダゾラムの有効血中濃度は不明であり、このような薬物投与下では、その影響が消失しているか否かは、脳内薬物濃度の測定技術が開発されても判断できない。

 重症患者を臓器摘出目的でドナー管理することにより脳死に追いやり、脳死判定をしてはいけない除外例とすべき患者を脳死判定して臓器を摘出してしまった可能性があるにもかかわらず、「問題なし」と、検証後18ヵ月も経たないと公表できない、そのおかしさが問われている。

 


20031201

虐待を疑い始めるのに2〜3日、否定に2週間から1ヵ月以上必要
乳幼児頭部外傷の約3割程度が虐待!大阪の小児科医40名ほか

 日本小児科学会雑誌107巻12号(2003年)はp1664〜1666に、田中 英高氏(大阪医科大学小児科学教室)ほか10名連名の「小児脳死臓器移植における被虐待児の処遇に関する諸問題」を掲載した。以下、要旨。

 調査項目は、頭部外傷の小児患者における虐待の頻度、虐待が完全に否定できるまでの期間、脳死に陥った被虐待児が臓器提供者となる事態の適切性について、その他処遇に関する自由な意見。

(調査1)被虐待児を多く取り扱っている専門小児科医5名に対して、2002年10月に電話で聞き取り調査

  • 乳幼児の頭部外傷において虐待が原因と考えられる頻度は、3名が約3割、2名はわからないと回答した。
  • 「虐待が完全に否定できるまでに2週間以上かかる」が2名、「同1ヵ月以上がかる」が3名であった。
  • 被虐待児がドナーになることが「不適当」と考えていた者は4名、「難しい」と回答した者は1名であった。

   本件の処遇に関する問題では以下のような指摘があった。

  1. 法的な問題:死亡した後に検死を行う必要がある。
  2. 倫理的問題:子どもを殺害し命を奪った親が、臓器提供によって他者から間接的にでも感謝されるという状況には倫理的不整合がある。虐待行為は親権が剥奪されるべき悪行であり、その意味から親権者としての権利を持ち続けることが不合理。
  3. 現実的問題:被虐待児の両親のうち虐待していない方の親が提供に合意しても、いずれが虐待行為をしていたか、その判断はむずかしい。偶発的虐待では、子どもに対する親の気持ちが甚だしく不安定になり、臓器提供の話は混乱を極めると予想される。すなわち、親の子どもに対する両価性感情により、―度、臓器提供に同意してもそれを後悔して撤回したりパニックを起こすなど、いかなる事態が起こるか予想が困難である。

 

 

(調査2)大阪府北摂三島ならびに北河内医療圏の病院勤務小児科医に2002年12月アンケート調査。最終分析対象者40名

  • 診療で経験した被虐待児数は
    1〜5名の者は50%、5〜10名の者は32.5%、42.5%が虐待による死亡症例を経験していた。
  • 頭部外傷における虐待の頻度は
    乳幼児では、「1〜3割」と回答した者22.5%、「3〜5割」と回答した者22.5%、「わからない」と回答した者35%。
    学童期は、「1割以下」27.5%、「1〜3割」27.5%、「3〜5割」5%、「わからない」37.5%。
  • 頭部外傷で救急搬送されてきた場合(他の身体に外傷がない場合)、虐待を疑い始めるのにどのぐらいかかるか?
    60%が「2〜3日」と回答した。
  • 虐待をほぼ完全に否定できるのにどのぐらいかかるか?
    「2〜3日」と回答した者は皆無、「2週間〜1ヵ月」が22.5%、「1ヵ月以上」は20%、「わからない」は30%を占めた。
  • 受け持ちの脳死の子どもに親権者による虐待の疑いがある時、ドナーとなることは適当か
    「適当」と回答した者は2.5%、「不適当」は65%、「わからない」は25%。
  • 不適当とした理由の自由記載では、上述の調査1で示した倫理的問題が多くを占めた。

 田中氏らは、他の研究者の報告や全国病院小児科調査から、「乳幼児頭部外傷の約3割程度が虐待による可能性がある。虐待をほぼ完全に否定するには、2週間から1ヵ月以上が必要であると考えていた。また虐待脳死例では、事実確認のための証拠として、ならびに倫理的・心理社会的理由から、臓器摘出は不適切と考えていた。被虐待児を数多く含む小児脳死側における臓器移植には問題点が多い」としている。

 田中氏以外の共同執筆者は新田 雅彦(清恵会病院小児科)、竹中 義人(大阪労災病院小児科)、永井 章(友紘会病院小児科)、 山ロ 仁(中町赤十字病院小児科)、河上 千尋(枚方市民病院小児科)、神原 雪子(八尾徳州会病院小児科)、金 泰子(大阪医科大学小児科学教室)、玉井 浩(大阪医科大学小児科学教室)、谷村 雅子(国立成育医療センター研究所成育社会医学研究部)の各氏。

 臓器確保のために臨床的脳死以前からドナー管理が行なわれており20031205記事、これは虐待を疑いはじめる期間内に重なる場合がある。

 


このページの上へ

2015-03 ] 2014-12 ] 2014-10 ] 2014-9 ] 2014-8 ] 2014-7 ] 2014-6 ] 2014-5 ] 2014-4 ] 2014-3 ] 2014-2 ] 2013-12 ] 2013-11 ] 2013-10 ] 2013-9 ] 2013-8 ] 2013-7 ] 2013-6 ] 2013-5 ] 2013-4 ] 2013-3 ] 2013-2 ] 2013-1 ] 2012-12 ] 2012-11 ] 2012-10 ] 2012-9 ] 2012-6 ] 2012-5 ] 2012-3 ] 2012-2 ] 2012-1 ] 2011-12 ] 2011-11 ] 2011-10 ] 2011-9 ] 2011-8 ] 2011-7 ] 2011-6 ] 2011-5 ] 2011-3 ] 2011-2 ] 2011-1 ] 2010-12 ] 2010-11 ] 2010-10 ] 2010-9 ] 2010-8 ] 2010-7 ] 2010-6 ] 2010-5 ] 2010-4 ] 2010-3 ] 2010-2 ] 2010-1 ] 2009-12 ] 2009-11 ] 2009-10 ] 2009-9 ] 2009-7 ] 2009-4 ] 2009-2 ] 2009-1 ] 2008-12 ] 2008-11 ] 2008-10 ] 2008-9 ] 2008-8 ] 2008-7 ] 2008-6 ] 2008-5 ] 2008-4 ] 2008-3 ] 2008-2 ] 2008-1 ] 2007-12 ] 2007-11 ] 2007-10 ] 2007-9 ] 2007-8 ] 2007-7 ] 2007-6 ] 2007-5 ] 2007-4 ] 2007-3 ] 2007-2 ] 2007-1 ] 2006-12 ] 2006-11 ] 2006-10 ] 2006-9 ] 2006-7 ] 2006-6 ] 2006-5 ] 2006-4 ] 2006-3 ] 2006-2 ] 2006-1 ] 2005-12 ] 2005-11 ] 2005-10 ] 2005-9 ] 2005-8 ] 2005-7 ] 2005-6 ] 2005-5 ] 2005-4 ] 2005-3 ] 2005-2 ] 2005-1 ] 2004-12 ] 2004-11 ] 2004-10 ] 2004-9 ] 2004-8 ] 2004-7 ] 2004-6 ] 2004-5 ] 2004-4 ] 2004-3 ] 2004-2 ] 2004-1 ] [ 2003-12 ] 2003-11 ] 2003-10 ] 2003-9 ] 2003-7 ] 2003-6 ] 2003-5 ] 2003-4 ] 2003-3 ] 2003-2 ] 2003-1 ] 2002-12 ] 2002-11 ] 2002-10 ] 2002-9 ] 2002-8 ] 2002-7 ] 2002-6 ] 2002-5 ] 2002-4 ] 2002-3 ] 2002-2 ] 2002-1 ] 2001-12 ] 2001-11 ] 2001-10 ] 2001-9 ] 2001-8 ] 2001-7 ] 2001-5 ] 2001-3 ] 2001-2 ] 2001-1 ] 2000-12 ] 2000-11 ] 2000-10 ] 2000-9 ] 2000-6 ] 2000-4 ] 1999 ] 1998 ] 1997 ] 1996 ] 1994 ] 1993 ] 1992 ] 1991 ] 1990 ] 1989 ] 1988 ] 1986 ] 1985 ] 1984 ] 1983 ] 1982 ] 1981 ] 1969 ] 1968 ] 1967 ] 1966 ] 1964 ]

 

ホーム ] 総目次 ] 脳死判定廃止論 ] 臓器摘出時に脳死ではないことが判ったケース ] 臓器摘出時の麻酔管理例 ] 人工呼吸の停止後に脳死ではないことが判ったケース ] 小児脳死判定後の脳死否定例 ] 脊髄反射?それとも脳死ではない? ] 脊髄反射でも問題は解決しない ] 視床下部機能例を脳死とする危険 ] 間脳を検査しない脳死判定、ヒトの死は理論的に誤り ] 脳死判定5日後に鼻腔脳波 ] 頭皮上脳波は判定に役立たない ] 「脳死」例の剖検所見 ] 脳死判定をしてはいけない患者 ] 炭酸ガス刺激だけの無呼吸テスト ] 脳死作成法としての無呼吸テスト ] 補助検査のウソ、ホント ] 自殺企図ドナー ] 生命維持装置停止時の断末魔、死ななかった患者たち ] 脳死になる前から始められたドナー管理 ] 脳死前提の人体実験 ] 脳波がある脳幹死、重症脳幹障害患者 ] 脳波がある無脳児ドナー ] 遷延性脳死・社会的脳死 ] 死者の出産!死人が生まれる? ] 医師・医療スタッフの脳死・移植に対する態度 ] 有権者の脳死認識、臓器移植法の基盤が崩壊した ] 「脳死概念の崩壊」に替わる、「社会の規律として強要される与死(よし)」の登場 ] 「脳死」小児からの臓器摘出例 ] 「心停止後」と偽った「脳死」臓器摘出(成人例) ] 「心停止後臓器提供」の終焉 ] 臓器移植を推進する医学的根拠は少ない ] 組織摘出も法的規制が必要 ] レシピエント指定移植 ] 非血縁生体間移植 倫理無き「倫理指針」改定 ] 医療経済と脳死・臓器移植 ] 遷延性意識障害からの回復例(2010年代) ] 意識不明とされていた時期に意識があったケース ] 安楽死or尊厳死or医療放棄死 ] 終末期医療費 ] 救急医療における終末期医療のあり方に関するガイドライン(案)への意見 ] 死体・臨死患者の各種利用 ] News ] 「季刊 福祉労働」 127号参考文献 ] 「世界」・2004年12月号参考文献 ]