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小児法的脳死判定基準の研究者
補助金を使いながら調査を手抜き
政治的判断で蘇生例ある基準を変更せず
日本蘇生学会雑誌の坂部解説文ほか
山口労災病院の坂部 武史は、日本蘇生学会雑誌「蘇生」30巻1号p1〜p7で「小児法的脳死判定基準」を解説し、無呼吸テストを終了する炭酸ガス刺激の強度が弱いのではないか?という議論のあること
は取り上げたが、「ほとんどが症例報告・・・さらに高い値に変更する科学的根拠はどこにもない・・・・無呼吸テストの代わりになるような補完検査が確立されない限り、小児脳死臓器移植は不可能となり、不毛の議論に終わる」とした。
平成21年度厚生労働科学研究費補助金(厚生労働科学特別研究事業)「小児の脳死判定及び臓器提供等に関する調査研究」の研究代表者は貫井 英明(山梨大学名誉教授、学長特別顧問)。「小児法的脳死判定基準に関する検討」の研究分担者は山田 不二子(医療法人社団三彦会山田内科胃腸科クリニック副院長)、研究協力者は阿部 俊昭(東京慈恵会医科大学脳神経外科教授)、水口 雅(東京大学医学系研究科発達医科学教授)、坂部 武史(山口労災病院病院長)、植田 育也(静岡県立こども病院小児集中治療センター
センター長)、日下 康子(東京慈恵会医科大学脳神経外科講師)。
以下の枠内は、坂部の解説文のなかで、5)自発呼吸の消失」の段落。
5)自発呼吸の消失
低酸素血症に陥る危険のない状態で人工呼吸を一時中止し,動脈血二酸化炭素分圧(PaC02)を呼吸中枢刺激閾値以上に上昇させ,自発呼吸が出現しないことを確認する。他の脳死判定基準項目すべてを確認した後に行う。
具体的方法等については,小児における脳死判定基準(2000年)と2007年,2009年の再検討報告書の内容の検討の結果,これらの内容は妥当と考えられ,大きな変更はない。心拍数,血圧,パルスオキシメータによる動脈血酸素飽和度モニター(Sp02),心電図モニター下に行う。鎮静薬・麻酔薬および筋弛緩薬の残存効果のないことの再確認には,血中濃度測定や筋弛緩モニターが望ましいが,できないときには十分な時間をおく必要がある。
テスト前の状態として,体温35°C以上,PaO2 200mmHg 以上,PaC02 35〜45mmHg
が望ましい。あらかじめ10分間以上100%酸素で人工換気により脱窒素後,人工呼吸器をはずし,
T−ピースで100%酸素(6l/min)に切り替えて呼吸の有無を確認する。人工呼吸器を接続したまま行う方法,あるいは気管チューブにカテーテルを挿入して酸素を流す方法(吹送法)もあるが,いずれにおいても,それぞれの方法の利点,欠点を熟知したものが行う必要がある。
結果の判定は,目視による観察と胸部聴診(聴診器の接触で誘発される脊髄反射に注意)で行い,目標PaC02レベルを60mmHg以上とする。この間,呼吸が観察されない場合は自発呼吸消失(テスト結果は陽性)と判定する。
PaC02の上昇速度は患者およびその状態によって予測できない。そのため経時的な血液ガス分析が必須である。動脈血採血をテスト開始後3〜5分頃に行い,以後適宜行う。
呼吸中枢を刺激するPaC02閾値についてはこれまで一部では60mmHg
では不十分とする考えがあるため,慎重に検討した。しかし,ほとんどが症例報告で中には詳細が解析できないものも含まれ.1998年以降新たな報告は見当たらない。世界的にみても小児でも成人と同じ値(60
mmHg)でよいとする報告が支配的である。これを考慮して,2000年の基準ではPaCO2を60 mmHg
と決めたと考えられる。Wijdicksによる80か国の収集資料では,一定PaC02レベルを要求している国は39力国で,PaC02は成人と同様60mmHgである。現時点で脳死判定においてPaC02を60mmHgでは不十分として,さらに高い値に変更する科学的根拠はどこにもないと言わざるをえない。本研究班でもエビデンスがない状態でこの値を変更するのは妥当でないとの結論に達した。2000年の基準でも考察されているように,特に後頭蓋窩の病変を有する小児や,二次性病変では,さらなる症例の蓄積が必要かもしれないが,今後小児脳障害患者の呼吸中枢のPaC02に対する反応の研究結果が出ない限り,あるいは無呼吸テストの代わりになるような補完検査が確立されない限り,小児脳死臓器移植は不可能となり,不毛の議論に終わる。結論として小児用脳死判定基準(2000年)の「後頭蓋窩病変では知見の集積が望まれる」とする記載は,法的脳死判定を実際に施行するにあたり削除することとした。 |
1985年に当時、山口大学麻酔科所属の坂部 武史、武下 浩、筒井 俊徳、そして同大学救急・集中治療部所属の立石 彰男、宮内 善豊は、「ICUとCCU」9巻5号p575〜p582に「脳死について
ICUの立場から」を発表した。その最終段落「集中治療と脳死」では以下枠内を記載している。
集中治療と脳死
人工呼吸を含む集中治療により、重症患者の生命が救われるようになったのは疑うべくもないが、一方では脳死の頻度が増加したのも事実である。必死の救命行為の後に生じる脳死について、特に、脳死判定後の対処の仕方については、医学の分野だけの問題ではなく、倫理、宗教、法律、哲学、経済などの面から十分検討されなげればならない問題であろう。当施設における脳死判定後の処置は開設当時に比較し現在では多少変ってきている。現在脳死判定後は昇圧薬の使用などの積極的治療は中止し、最小限の輸液と抗生物質の投与にとどめる方法をとっている。はじめは抗生物質投与を上めていたが、最近は集中治療室での細菌増殖の危険を考え抗生物質を継続するようにしている。家族の了解がえられ、人工呼吸を止めた例が3例ある。このよううな対処の仕方は生の尊厳と同様、死の尊厳を守る立場から最も大切と考えられる。経済的な面からみると、人工呼吸を中止した症例を除き脳死判定後の患者1日当たりの平均医療費は約7万円で、心臓死までは一人平均20〜30万円であった。脳死判定後、それまで通りの治療を続ければ、医療費は相当なものになるであろう。日本でこのような経済的理由が前面にでると不謹慎と思われがちである。しかし、限られた医療資源を有効に使うという意味で、諸外国ではすでに真剣に取組まれており、わが国でもこの問題に取組む姿勢が必要であろう。集中治療室のベッド数、医師、看護婦の人数にも限りがあり、他に救命できる可能性のある患者の受入れに支障をきたすことがしばしばで、現場で苦労する大きな問題の一つである。
臓器移植も重要な課題で,臓器移植がなければこれほど脳死が問題にならなかったはずである。医療の現実はすでに脳死患者からの臓器を移植している。しかし,集中治療に携わるものとして、現時点で最も強調したいのは、脳死をもって個体の死とし、死の尊厳を尊重するという考えである。集中治療医学の進歩により多くの患者を救命しえたという光の部分には、脳死という陰の部分がある。脳死と判定された後、それまでの集中治療の継続がいかに患者、家族、医療者にとって悲惨なものかは、集中治療に携わったものでないとわからない。二次性病変を含んだ脳死判定基準の国家レベルでの確立と、一般社会の脳死に対する理解をうるべく医学会全体の協力が必要と思う。 |
当Web注:坂部は「ほとんどが症例報告で中には詳細が解析できないものも含まれ」と書いたが、Critical
care medicine26巻11号掲載の症例報告(3歳男児が91mmHgで自発呼吸をした
ケース)は、その後のCritical care
medicine誌上で、中枢神経抑制剤の投与例ではないことを報告しており、この一例だけでも、呼吸中枢を刺激する動脈血二酸化炭素分圧(PaC02)の閾値が60mmHg
では不十分とする有力な証拠になる。
重大な死亡宣告につながる小児脳死判定基準を検討する以上、記述が簡略な症例報告があった場合でも、各報告の原著者または当該施設に連絡をとり、その症例のデータを可能なかぎり収集すべきだ。そのような
十分な調査を実現するために、厚生労働科学研究費補助金が支出されたのではないのか。単に文献資料を集めて読むだけならば、補助金を使わない多くの研究者でも自主的に行なっていることだ。
小児脳死判定では、無呼吸テストを2回行った症例でも心停止までの期間が6日間以内だった患者より、30日間以上生存した患者のほうが多い=つまり脳死判定基準を満たした患者が個体死に移行する可能性は低い。それだけでなく、自発呼吸を行なったり脳波が測定されるなど脳機能が復活した患者もいる。そうした現実を、坂部は日本蘇生学会雑誌「蘇生」30巻1号で紹介していない。
脳死判定基準を満たしても心停止が必然ではない=個体死に至らない=死が発生しない、なかには脳機能が復活する患者もいるのならば、そのような患者に死亡宣告を行なうことは、妥当か。坂部が1985年に書いた「死の尊厳を尊重する」場面とは異なる事態が、現実には発生しているのではないか。
それにもかかわらず、坂部が小児脳死判定基準の策定に際して「無呼吸テストの代わりになるような補完検査が確立されない限り、小児脳死臓器移植は不可能となり、不毛の議論に終わる」としたのは、意識不明の重症患者への治療を無益とする判断、そして臓器提供を優先する判断があると見込まれる(インターネット上の掲示板には、他の小児脳死判定基準の研究者とみられる人物も、坂部と同様の文献調査の手抜きや政治的判断を書いている)。
調査を手抜きをして、政治的判断を実現することが、小児脳死判定基準の研究者に求められていたのか?そうではなく、個体死につながる医学的状態、短期間のうちに心停止にいたる重症脳不全患者を見分ける脳死判定基準が策定可能か否かの医学的判断が求められていたと、医学的な個体死の定義と国会論議から考えられる。
もちろん、そのような全身状態が不安定な、短期間のうちに心停止にいたる重症患者からは、移植可能な臓器を得ることは難しい。
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