同外科では、この移植例よりも前の1967年6月14日、脳挫傷の19歳男性から腎臓を摘出して25歳男性に移植したが、レシピエントは2日目に心不全で死亡した。また大阪大は1966年10月10日、脳腫瘍の32歳男性ーから左腎を摘出し、26歳男性に移植したが、このレシピエントも5日目に脳出血のため死亡している。
今回の移植例は、レシピエントの生存期間が長く、また剖検により移植した腎臓の異常が軽度だったことから、日本の死体腎移植医療は、この小児ドナー・小児レシピエント例から実質的にスタートしたといえそうだ。
以下は当Web注
1、三徴候死を無視した恣意的な死亡宣告
この8歳児からの臓器摘出は、心停止後24時間以上の経過後に行なわれたのではない。主治医が死亡を宣言した後も、2時間にわたり心臓マッサージと人工呼吸が継続された。人工的にではあれ、この8歳児には酸素化された血流が供給され続けており、三徴候死の実体は無かった。岩崎氏らは「移植」4巻1号のp73で「いわゆる脳死の状態」としている。後年の日本移植学会見解によっても「脳死判定がなければ行うわけにはいかない臓器摘出」と判断されるであろう。
2、出血多量による人為的な心停止の可能性
移植、4巻1号のp74では要旨「家族から腎提供の承諾を得てただちに股動脈からカテーテルを挿入し、ヘパリンを心内注入、人工呼吸を続けながら摘出を開始した。開腹後、下大静脈を切断し腎臓の灌流冷却を行った後に腎臓を摘出した」と書いている。
しかし第2回腎移植臨床研究会で千葉大学第2外科の尾越氏は「まず心臓が止まると心臓マッサージを閉胸でやるわけですが、それをずっと続けます。それと同時にビニールチューブを大腿部から通して、だいたい30cmくらいですか、腎動脈のあたりと思われるところまで入れて、乳酸加リンゲルですが、それを前もって冷却しておき、どんどん入れて冷やすわけです。その間、年の甲をへた人がドナーのファミリーに腎臓をもらう交渉をするわけですが、その間若い人は心臓マッサージを行い、それ(腎臓)をカテーテル法で冷やしておく」と述べている。
家族の承諾とカテーテル挿入のタイミングについて、両者の記述は矛盾しているが、事前審査を経て掲載される移植、4巻1号のp74の表現ではなく、話し言葉で記録されたまま掲載されたとみられる尾越氏の「家族の承諾を得る前からのカテーテル挿入、腎臓の灌流開始」の蓋然性が高い。
千葉大学第2外科の岩崎氏は第2回腎移植臨床研究会でも「腎臓の灌流をはじめるのは、下大静脈を切ってから灌流を始めております。というのは、その前に始めますと、腎臓はパンパンになってしまうからです」と述べた。つまり脱血しないと灌流液が入りにくいからだが、血管の切断は出血多量をもたらす。
もしも、家族の承諾を得る前に腎臓の冷却灌流を開始していたのならば、冷却灌流は脱血開始後に始めることから、家族は出血多量死直前に冷たくなりつつあるドナーにあわされて「心停止」を誤認受容させられる場面があったであろう。
いずれにしても(家族の承諾とカテーテル挿入のタイミングに関わりなく)、この8歳児は死亡を宣言した後も心臓マッサージと人工呼吸が継続されていることから、直接の死因は人為的な出血多量であった可能性がある。
3、カテーテル挿入の侵襲性、致死的性格
移植、4巻1号のp74の図1には
@股動脈からカテーテルを挿入し、カテーテル挿入部位の上部と下部の2ヵ所で股動脈を縛った状態
Aカテーテルを挿入しなかった対側の股動脈、大動脈を腎動脈上部、以上の2ヵ所でクランプした状態
B大静脈を切断
、が描かれている。
@およびAは「注入する冷却灌流液の圧力によりカテーテルが下方に移動する。腎動脈に灌流液が入っていかない。腎動脈より下流で二股に分かれる対側の股動脈に灌流液が流出する」などを予防するためと見られるが、動脈を縛ったりクランプするならば下半身への血行を阻害して壊死につながる。
後年、開発されるダブルバルーンカテーテルでも、下半身の変色があり、腎臓摘出の直前まで挿入を控える施設がある。
カテーテルの固縛・動脈のクランプまたはバルーン付きカテーテルの血管内挿入は、血行を阻害するだけではない。B大静脈の切断→脱血により冷却灌流効果を上げる処置と不可分の摘出手技の場合は、カテーテル挿入は致死的行為を前提としたものとなる。
1997年の関西医大事件に対する判決後に、厚生省、移植学会などは「カテーテル挿入は低侵襲」として臨床的脳死判定がなされているドナーへのカテーテル挿入は、生前同意は不要」としてきた。このような通達や見解は@カテーテル利用の侵襲性・致死的性格A臨床的脳死判定や一般的脳死判定で法的脳死判定手続を無視するB行政や現場医師による司法判断の無視、という点で問題である。
検視例ではカテーテル挿入が控えられている。検視医や警察官に見られる場合は使わないカテーテルを、何も知らない一般人を相手には使う、というのも奇妙なことである。
4、生前意志表示能力なき小児からの臓器摘出
成人でも臓器提供に生前同意が不可欠な理由は「脳死を人の死とすること」だけでなく、ドナーの心臓拍動時(心臓死前)からレシピエントへの移植目的で、(ドナーの利益にならない、
またはドナーの救命治療に反する)薬剤を投与したり臓器冷却用のカテーテル挿入などを行うことが、移植の成功には必要なためだ。
抗血栓剤・抗血液凝固剤(ヘパリンなど)の投与は、血栓の生じた臓器を移植するわけにはいかないことから、臓器移植には不可欠の処置だ
(血栓・凝固した血液塊のある臓器を移植すると、レシピエントの血管を閉塞して即死させる、あるいは移植臓器が機能しない)。当然のことながら血流(心臓の拍動)がないと、
ヘパリンほかの薬剤は臓器にいきわたらないから、三徴候死以前または三徴候死を中断するしか、薬剤投与は効果を発揮しない。三徴候死を中断する心臓マッサージ等は、本当の脳死でなければドナーの意識を回復させる可能性がある。
ドナーに内出血があれば、抗血栓剤は容態を悪化させる。カテーテルも血行を阻害し下肢の変色、壊死につながるなど、ドナーの治療に反するため生前同意がないとできない。
では、この8歳児は「内出血の危険のある薬剤投与や下半身の壊死を引き起こすカテーテル挿入・動脈の閉塞、三徴候死ではなく出血多量死もさせられての臓器提供、脳死を人の死とすること」を生前に承諾していたのか?承諾していても、それは有効なのか。
そもそも、移植医療や脳死の存在さえ知らなかったであろう。
5、入院時からドナー候補者扱い、家族の同意なきドナー管理、などを行った疑い
第1回腎移植臨床検討会において、千葉大学第2外科・雨宮氏は「血液透析をやっている患者さんは、教室の中に大体5人ないし6人常に待機の状態でいるわけです。そこで1人なにか脳腫瘍とか、交通事故とかで死に瀕した方が入院すると、それがわれわれにとっては
candidate になるわけです」
「これはドナーになるんだということで、われわれが泊り込んでおりますと、それが今度は血圧が下がったりなんかいたしまして、かえって小便が出なくなって、腹膜灌流をやらなくちゃならんことが、まあ3回のうち2回ぐらいあります」と述べた。
第2回腎移植臨床研究会では、千葉大学第2外科の尾越氏が「いつ死ぬかわからないわけですが、だいたい禁足にして、1週間くらい前からそういうことがありそうだといいますと、今日はどこにいるという毎日表を作っているわけです。ですから亡くなった時点では必ず全員そろうことになっております」
「もちろんその患者に対してもベッドサイドにはウォッチャーが2人くらいつきまして、1人はすぐ連絡をみんなにとる。1人はすぐ屍体のほうの処置をするというふうなことです」
「まず心臓が止まると心臓マッサージを閉胸でやるわけですが、それをずっと続けます。それと同時にビニールチューブを大腿部から通して、だいたい30cmくらいですか、腎動脈のあたりと思われるところまで入れて、乳酸加リンゲルですが、それを前もって冷却しておき、どんどん入れて冷やすわけです。その間、年の甲をへた人がドナーのファミリーに腎臓をもらう交渉をするわけですが、その間若い人は心臓マッサージを行い、それ(腎臓)をカテーテル法で冷やしておく」と述べている。
入院時からドナー候補者扱いをして、移植用臓器保全のためにドナー管理を行い、心停止時には、家族から臓器提供の承諾を得る前から摘出目的の処置を行なった可能性がある。
同外科は1967年6月14日、脳挫傷の19歳男性から腎臓を摘出して25歳男性に移植したが、レシピエントは2日目に心不全で死亡した。ドナーが死亡してから連絡を受けたため、3時間を要する白血球型検査が行えず、レシピエントとは血液型のみ合わせて移植した。また死亡より腎灌流開始まで2時間30分を要した。
これに対して、8歳ドナーからは白血球型合わせを行っている。また死亡より腎灌流開始まで(心臓マッサージの時間は含まず)30分だった。
7、死にいたる人体実験を躊躇しない医師
岩崎 洋治氏らは、移植、4巻1号のp77で「(レシピエント)は全身状態が極めて不良で、そのうえ肝硬変が合併し、移植適応外の患者であった。そのうえ移植腎のWITが2時間30分と限度を超えていたことなども死因にあげられる」と自ら書いている。
移植適応外の患者と知りながら、なぜ移植を敢行したのか。