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2006年3月31日 秋田赤十字病院 入院当日に脳死を匂わす
家族は手術拒否 脳性小児麻痺・脊髄損傷患者 
165日間生存 人工呼吸器を停止、臓器摘出
2006年3月25日 京都第一赤十字病院 鎮静剤影響下の女性を脳死判定
脳動脈瘤確認後も待機手術予定のまま、再・再々破裂
法的脳死判定44例目
2006年3月22日 低血圧で対象外の蘇生後脳症患者を脳死判定
カテーテル挿入し4日後に腎臓摘出
心停止するも九大摘出チームが揃うまで蘇生術
2006年3月21日 42例目の脳死臓器ドナー 治療打ち切り時に脳は生きていた!脳波記録に出現
神経内科医の園生氏「脳幹細胞が生存、世間の理解が得られるか覚悟が必要」
検証会議報告書は麻酔影響下の脳死判定、脳死を否定する運動を無視・隠蔽
2006年3月14日 日弁連 臓器移植法「改正」に反対の意見書を提出
2006年3月 4日 第33回日本集中治療医学会学術集会
脳低体温療法の医療費は、正常体温維持療法と同じ 名古屋大
脳死判定できない鼓膜損傷患者から臓器摘出 市立札幌病院
ICU15日以上は4割生存 「医療費かかる」と介入 群馬大
2006年3月 4日B ICUにおける末期医療 9割の施設で手控え症例あり
16%は手控えの選択、実施を診療録に記録していない
日本集中治療医学会評議員アンケート

20060631

秋田赤十字病院 入院当日に脳死を匂わす
家族は手術拒否 脳性小児麻痺・脊髄損傷患者 
165日間生存 人工呼吸器を停止、臓器摘出
  

 秋田赤十字病院で臨床的脳死後も165日間生存していた43歳女性の人工呼吸が、2006年3月中に停止され臓器が摘出された。同病院の医師による症例報告「臨床的脳死成人患者の長期身体生存(英語)」http://ci.nii.ac.jp/cinii/servlet/CiNiiLog_Navi?name=nels&lang=jp&type=pdf&id=ART0008661247(Neurologia Medico-Chirurgica48巻3号p114〜p117、2008年)によると、担当医は、入院当日に言外に脳死と説明していた。以下の枠内は症例報告の主要部分。

 脳性小児麻痺、脊髄損傷で車椅子使用、認知機能正常の43歳女性は、転落事故による重度頭部損傷のため当院へ入院した。頭部CTにて右側頭葉に多発性外傷性出血を認め、その他の重要臓器には明らかな損傷は認めなかった。
 治療方針について、患者家族と議論した。我々は家族に、患者の深刻な状態と、暗に脳死と説明した(We informed the family of her serious situation and the implications of brain death)。我々は可能な外科的介入を提案したが、家族は非外科的な最大限の治療を求めた。

 第2病日、高血圧が進展した後に、血圧低下とともに尿崩症を発症、このエピソード以後、患者の神経学的状態は悪化した。深昏睡に陥り自発呼吸は消失、瞳孔は散大固定、7つの脳幹反射消失が確認された。家族は、患者のドナーカードに心停止後に腎臓と眼球の提供意思が書かれているという情報を持ってきた。

 第3病日、脳波と聴性脳幹反応に反応なく、臨床的脳死と診断された。無呼吸テストは行わなかった。同日、経験ある脳外科医2名は、患者が臓器移植法にもとづく臨床的脳死に該当することを確信した。移植コーディネーターは、家族に心停止後の臓器摘出に承諾するか尋ねた。家族は患者の臓器提供意思に同意したが、我々に、患者が心停止するまで最大限の医療処置を求めた。

 積極的な血行動態管理および呼吸管理、3つのホルモン療法を施行し、心活動が長期持続した。脊髄反射と体動が心停止まで観察された。

 第155病日、家族は生命維持療法の中止を求めた。病院倫理委員会は、すべての生命維持システムの終了を了承。

 第168病日、人工呼吸が停止され、患者は18分後に心停止、この間、自発呼吸運動は一切認めなかった。心停止を確認後、患者の腎臓と眼球は移植のために摘出された。その後、警察による検死が行われた。病理解剖は施行されなかった。

 この臓器提供者とみられる報告が、第40回日本臨床腎移植学会で、あきた移植医療協会の土方氏よりなされている。2007年12月23日付の西日本新聞http://www.nishinippon.co.jp/nnp/national/20071223/20071223_006.shtmlでも報道された。

当Web注

  1. 秋田赤十字病院脳神経外科の医師は、入院当日の家族への説明で、脳死と思わせる説明をした。このような説明をしたから、家族は外科手術を拒否したのではないか。患者は人工呼吸器を停止されるまで165日間生きていたのだから、脳死という重篤な状態ではなかったのではないか。最初から積極的な手術をしたら、より良好な状態で、より長期に生存できたのではないか。
     

  2. 家族が患者への積極的治療を拒否する理由に、脳性小児麻痺、脊髄損傷で車椅子使用であることはなかったか。
     

  3. 臓器提供意思表示カードの所持・記入に強制はなかったか。臓器提供意思を表明している人は、脳死でも心停止でも提供の意思を表示する人がほとんどであり、「心停止後のみ提供」は1割程度いるに過ぎない。心停止後の臓器提供に限定した理由に、本人の懸念が反映されているのではないか。
     

  4. 第2病日に7つの脳幹反射の消失を確認したが、このうちの眼球頭検査は頭部を急速に回す検査だ。脳性麻痺・脊髄損傷の患者に、そのような検査が可能か、検査結果について健常者の場合と同じと解釈が可能か。
     

  5. 第3病日に臨床的脳死と診断したが、家族は内科的な最大限の治療を求めたのだから、治療中に中枢神経抑制剤を投与して脳死判定をしてはいけない患者になっていたのではないか。
     

  6. 検死対象であるならば、警察は受傷直後に事件性の判断も行ったのか?

 


20060325

京都第一赤十字病院 鎮静剤影響下の女性を脳死判定
脳動脈瘤確認後も待機手術予定のまま、再・再々破裂
法的脳死判定44例目

 3月25日、京都第一赤十字病院(京都市)にクモ膜下出血で入院していた40歳代女性が脳死と判定された。法的手続きをした脳死判定としては44例目、臓器摘出は43例目になる。

 厚生労働省検証会議報告書http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/02/s0208-6b.htmlによると、このドナーは透析患者で3月6日17:30頃、血液透析中に強い頭痛が出現、3月9日18時頃、買い物中に頭痛、意識障害を発症し救急搬送された。頭部CT検査でクモ膜下出血が認められた。3月10日頭部MRIとMRAで脳動脈瘤が確認され 、同日17:30、ICU入室時には意識清明、破裂脳動脈瘤に対しては待機手術予定として、鎮静(ミダゾラム、塩酸モルヒネ)・降圧(塩酸ジルチアゼム)下に、持続血液濾過(CHF)が開始された。

 3月12日に人工呼吸開始、3月18日と3月20日に脳動脈瘤破裂を繰り返した。20日16:30以降は両側散大したまま回復することはなかった。3月22日9:30、鎮静剤(ミダゾラム、塩酸モルヒネ)を中止、3月24日11:00から臨床的脳死診断が開始、3月24日17:18に第1回法的脳死判定を開始、3月25日2:01に第2回法的脳死判定が開始され、4:25に第2回法的脳死判定が終了した。

 3月25日の読売新聞の報道によると、臓器ドナーにされた女性は、一部の臓器について意思表示カードに提供しない意思を示す「×印」を付けながら、その余白には提供意思を示す記述もしていた。日本臓器移植ネットワークは厚生労働省と協議のうえ、「×印」を付けた臓器については、余白の記載の方が本人の最終的な意思表示であると判断した。同ネットワークによると、女性は意思表示カードで、脳死下での心臓、肺、小腸には提供意思を示す「○印」を、肝臓と腎臓、膵臓(すいぞう)には「×印」を付けていた。その一方で、カードの余白には「肝、腎、膵は、もし移植に使えるなら提供します」と記載をしていた。 同ネットワークでは、家族に聞き取りをして、余白の記載が女性の意思であると確認したという。
 心臓は九州大で50代男性、「×印」があった膵臓(すいぞう)は東京女子医大で40代男性に移植された。検証会議報告書には、両肺と肝臓は医学的理由で臓器の斡旋が断念されたことが記載されている。 余白の書き込みが本人意思として「尊重」された初のケースになった。

 

当Web注

  1. 中枢神経抑制剤に影響された患者を脳死判定したことについて=検証会議報告書は「3月20日のCTにて皮髄境界も不鮮明となり、脳血流がほとんど無くなったと診断された。なお、ミダゾラム・塩酸モルヒネの投与終了後、48時間が経過し、かつその間に持続血液濾過を20時間実施しており、脳死判定への影響はないものと考える」としている。
     しかし、脳血流が低下すると、鎮静剤(ミダゾラム、塩酸モルヒネ)が脳組織から洗い出される量も低下して、長期間、鎮静剤が脳に影響したままになる。主に脳以外で循環している血液を濾過しても、脳に影響している薬物濃度を低下させる効果は低い。
     高知医科大学の守屋氏は日本医事新報4042号p37〜p42において、臨床的脳死状態で塩酸エフェドリンを投与された患者が約72時間後に心停止し、解剖して各組織における薬物濃度を測定したところ、心臓血における濃度よりも53倍 (3.35μg)の塩酸エフェドリンが大脳(後頭葉)に検出されたことを報告している。九州大学の實渕氏は日本法医学雑誌51巻2号p181において脳死から7日後、脳組織から14.1倍のジアゼパムを検出したことを報告している。
     検証会議メンバーの竹内 一夫も脳と神経2002年7月号p557〜p563において、守屋氏が指摘した脳組織内薬物濃度と血中薬物濃度の乖離を紹介し、このような現象を知っている。厚生労働省検証会議は「京都第一赤十字病院は、脳死判定対象から除外すべき中枢神経抑制薬に影響された患者を脳死判定した。行ってはいけない脳死判定であった」と結論すべきであった。
     

  2. 3月10日に脳動脈瘤を確認しながら待機手術予定とし、3月18日と3月20日に脳動脈瘤破裂を繰り返したことについて=患者の様態によっては即座に手術ができないため待機手術予定とすることが妥当な場合もある。しかし、この患者は脳動脈瘤破裂を繰り返して脳死判定基準を満たす状態に陥り、臓器ドナーにされたのであるから、待機手術予定とした妥当性について、現状の報告書よりも詳しく記載すべきだ。
     京都府下では2003年8月から、ドナーカード所持者のカルテに貼る“臓器提供意思表示”を医療現場につなぐ「シール」が配布されている。カード所持有無のチェックがなされて、外来カルテ、入院カルテに貼付し医療現場スタッフの目に届くことを目的としたシールだ。今回、臓器ドナーにされた40代女性は、早期から臓器提供意思のあることが公然化されていたために、救命治療を控えられることはなかったのか。このことについて検証はなされたのか。
     高知赤十字病院における法的脳死判定1例目では、クモ膜下出血の女性患者に対して、法的脳死の30数時間前に抗利尿ホルモンが投与され収縮期血圧が220mmHgに急上昇している。法的脳死判定44例目においても、早期から違法なドナー管理がなされたために、脳動脈瘤破裂が繰り返され脳死判定基準を満たす状態に陥ったのではないか。このような懸念に答える検証報告を行うべきではないか?

 


20060322

低血圧で対象外の蘇生後脳症患者を脳死判定
カテーテル挿入し4日後に腎臓摘出
心停止するも九大摘出チームが揃うまで蘇生術 

 3月16日6時30分に急性心不全、意識不明で発見されてから血圧80mmHgと脳死判定対象外の状態だった62歳男性が、3月17日14時に脳波が平坦とされ、臨床的に脳死状態と判定された。同日20時、九州大学病院のドナー(臓器摘出)チームによって、腎臓に冷却灌流液を注入する目的のカテーテル(管)挿入が行われた。

 男性は3月22日10時に一時、心停止となるも昇圧剤と心肺蘇生術により心拍が再開。九州大学病院に帰還していたドナーチームメンバーが揃った後に腎臓の冷却灌流、摘出準備を開始。12時45分に主治医が死亡宣告、2分後にベッドサイドで体内灌流開始(温阻血時間2分)、12時50分ドナー手術室入室。13時4分両腎摘出した。

 摘出されたうちの右腎は、北九州市在住の先天性多嚢胞腎の36歳女性(透析歴21年)に移植され、移植術後は透析の必要なく退院した。

 出典:6月28日開催、第2回臓器移植に係る普及啓発に関する作業班資料のうち、 福岡における臓器移植に係る普及啓発に取り組み(杉谷参考人提出資料)http://www.wam.go.jp/wamappl/bb13GS40.nsf/0/c672c7ba2035c2254925719c001fbedc/$FILE/20060629siryou4.pdf

 

当Web注:低血圧や低体温では生命徴候があっても誤ってないと判断してしまうため、収縮期血圧90mmHg以上、深部温32度以上であることを確認できなければ、脳死判定の必須検査は開始できないとされている。関西医大事件判決は、生存時からの臓器摘出準備は違法とした。上記のPDFファイルには「3月19日10時までに4回、氷冷水を交換」「3月21日提供病院主治医にルートをフラッシュしてもらう」との記載がある。これらの処置 により「ドナーの体温を下げる」「不整脈の副作用があり血液を凝固させないヘパリンを投与する」などがあれば、さらに傷害を強めたことになる。3月22日10時の心停止後の蘇生処置も、臓器摘出チームが揃うのを待つために行われたのであろう。

 


20060321

42例目の脳死臓器ドナー 治療打ち切り時に脳は生きていた!脳波記録に出現
神経内科医の園生氏「脳幹細胞が生存、世間の理解が得られるか覚悟が必要」
検証会議報告書は麻酔影響下の脳死判定、脳死を否定する運動を無視・隠蔽

 2006年3月21日、帝京大病院(東京都板橋区)に入院していた30代男性から脳死臓器摘出が行われた。しかし、この男性は脳死になったと主治医らが判断して治療を終了した後も、2度にわたって脳が機能しているとみられる筋電図活動が脳波上に記録されていた。また厚生労働省が2008年5月29日に 公表した43例目脳死判定・42例目臓器移植についての検証会議報告書http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/05/s0529-4.htmlと、帝京大病院神経内科の園生 雅弘氏、畑中 裕己氏、清水 輝夫氏らが日本脳死・脳蘇生学会機関誌「脳死・脳蘇生」19巻2号p93〜p99(2007年)に発表した論文「他の脳死判定基準を満たす患者の脳波上に見られる筋電図活動 その本態と扱いについて」を比べると、筋電図活動の解釈や事実経過に相違がみられる。

治療中止は医師先行か、家族発議か?

 42例目の「脳死」臓器ドナーにされた30歳代男性は、2006年3月11日、50ccバイク運転中に電柱に激突して受傷した。開腹手術、開頭血腫除去術が行われ、術直後のCTでは血腫は完全に除去され、頭蓋内圧(ICP)は10mmHgだった。翌3月12日に頭蓋内圧亢進と脳灌流障害があり、薬物療法に加えて過換気療法、バルビツレート療法や軽度低体温療法などが実施された。しかし3月14日に頭蓋内圧は60mmHgを超え、深昏睡状態、両側瞳孔散大、対光反射も両側消失し、検証会議報告書は「家族に脳死直前の状態であることを伝えたところ、ドナーカードの提示がなされた。バルビタール療法は中止した」としている。
*「脳死・脳蘇生」19巻2号p94は「ICP60mmHg台となり、瞳孔散大、バルビタール療法は無効と考え中止した。同日、家族よりドナーカード提示あり」と帝京大学病院の治療中止が先行したかのように書いている。

 

治療中止後に脳幹の活動が発覚、脳死直前という説明の間違い、治療中止の妥当性、報告書における隠蔽

 3月15日には頭蓋内圧は平均血圧に達し、尿崩症も出現した。3月17日には軽度低体温療法を中止した。
*厚労省検証会議報告書には書かれていないが、「脳死・脳蘇生」19巻2号p94には「3月17日午前8時台、臨床的脳死診断開始を想定した脳波を取り始めた所、右側頭野のEMG(筋電図)活動残存に気付いた。(p96)10〜20Hzで半規則的リズムで発火しているものであり、随意収縮と区別がつかないことから、脳幹に存在する脳神経核(いずれも側頭部に出現していることから、側頭筋を支配する三叉神経運動核が最も疑われる)の細胞体が生存・発火していることを強く疑わせるものである」と書いている。この段階で、帝京大学の医師らには「家族に対する『脳死直前』という説明が正しかったのか?」「治療中止の判断が妥当だったのか?」という問題が生じる。厚労省検証会議報告書は、この部分を一切、公開せず隠蔽している。

 その後、3月17日17時台に、このEMG活動が消失したため臨床的脳死診断を開始、3月18日0時35分より第1回法的脳死判定を開始し2時11分に終了、8時30分に第2回法的脳死判定を予定していたが、脳波上、散発的なburst様の筋電図の混入があり、平坦脳波(ECI)の確定ができず、第2回法的脳死判定を中止した。
*「脳死・脳蘇生」19巻2号p95は「脳波上左中心野にEMG活動がみられることに気付いた。同日13時台には活動が残存していたが、18時台には消失。2Hz前後で半規則的に発火するバースト状活動であった。(p96)この活動は既知の筋電図活動のなかでは、ミオキミー放電、もしくはテタニーでみられる多重放電に最も類似していた。テタニーは末梢神経軸索の過興奮性を示唆するものであり、ミオキミーも多くは末梢神経遠位部由来とされている。ただし、ミオキミーについては多発性硬化症で顔面ミオキミーが出現することもよく知られており、この場合には脳幹内にある髄内根が起源ということになる。即ち、このテタニー/ミオキミー様活動については、脳幹外の末梢神経(前頭部にみられたことからおそらく顔面神経)軸索由来の可能性が高いが、脳幹内の軸索由来の可能性も完全には否定できないと考えられる」と書いている。

 帝京大病院神経内科の園生氏らは、「脳死・脳蘇生」19巻2号p93で「脳神経領域の運動は脳死を否定する根拠とされることを考えると、このようなEMG活動の意味付けは単純ではない。日米の脳死の定義では“全脳の不可逆的な機能喪失”が要求されるが、この“機能”とは個々の細胞の“活動”ではなく、細胞活動が組織化され方向性を有している時に“機能”しているのだと規定されている。そうすると脳波上のEMG活動は、孤立した細胞活動に過ぎず、“機能”の定義にあてはまらないと解釈するのは妥当である」としつつも、p98では「脳幹の細胞の生存が示唆されるという事実が広く知られた場合に、“活動”と“機能”の違いという説明をしたとしても、世間一般の理解が得られるかということについても覚悟が必要となる。今回の我々の経験からしても、文献上の記載からも、脳死と思われる症例でのこのようなEMG活動は、1〜2日の経過で完全に消失するものである。従って、EMG活動が見られた場合には脳死判定を中止ないし開始を延期し、EMG活動が消失したことを十分な時間(少なくとも24時間以上)確認してから脳死判定を開始(再開)するのも、慎重な方針として考慮されるだろうと我々は考えている。本来は、この点についての見解は日本のガイドラインにおいても明記がなされるべきであると思われる」と論文を結んだ。

 園生氏らの「脳幹の細胞の生存が示唆されるという事実が広く知られた場合に、・・・世間一般の理解が得られるかということについても覚悟が必要 となる」という認識と、検証会議が「脳波上、散発的なburst様の筋電図の混入」と結論したことを比べると、後者の事なかれ主義が際立つ(過去の脳死判定でも「散発的なバースト様筋電図の混入例」と処理されたケースは多いと想像される)。

 なお、この30代男性については、3月20日8時40分、再度、臨床的脳死と診断され、11時10分から第一回法的脳死判定を開始し13時36分に終了、同日19時40分から第二回法的脳死判定を開始し21時13に終了した。

 

中枢神経剤抑制下の脳死判定、低感度な頭皮上脳波の過信

 検証会議報告書は「集中治療室での経過中3月11日に筋弛緩剤ベクロニウム10mgが1回、鎮静剤プロポフォール10mg/時間が3月11日0:00から3月12日15:00まで投与、3月12 日12:00から3月14日16:00までチオペンタール(バルビツレート)が250mg/時間で投与された。なお最も長時間投与されたチオペンタールは投与終了後から3月20日の2回目の臨床的脳死診断まで135時間以上が経過しており、血中濃度検査はないものの、時間的には脳死判定に影響しない状況で脳死判定がなされていると考えられる」としている。
*守屋 文夫氏(高知医科大学法医学)は日本医事新報、4042号p37〜p42(2001年)において「臨床的脳死状態で塩酸エフェドリンを投与された患者が約72時間後に心停止した。解剖して各組織における薬物濃度を測定したところ、心臓血における濃度よりも53倍 (3.35μg)の塩酸エフェドリンが大脳(後頭葉)に検出された」と報告している。

 中枢神経抑制剤の投与終了から数十時間〜百数十時間経過しても、脳組織に影響している薬物濃度は知りようが無い。帝京大学病院は、脳死判定をしてはいけない患者を脳死判定したことも、いまだ脳が機能している患者の治療を打ち切り、脳死判定したことの一因になった可能性がある。また、脳死判定から5日後に鼻腔脳波が測定された患者もいる。感度の悪い頭皮上脳波が消失しても、感度の高い頭蓋内脳波は存在する可能性がある。「筋電図活動が見られた場合には脳死判定を中止ないし開始を延期し、筋電図活動が消失したことを十分な時間(少なくとも24時間以上)確認してから脳死判定を開始(再開)する」ことが「慎重な方針」とは到底いえない。

 


20060314

日弁連 臓器移植法「改正」に反対の意見書を提出

 日本弁護士連合会(梶谷 剛会長)は3月14日、l「臓器の移植に関する法律」の見直しに関する意見書を厚生労働省や衆院議長、参院議長などに提出した。概略はhttp://www.nichibenren.or.jp/ja/opinion/report/060314.html、本文はPDFファイルhttp://www.nichibenren.or.jp/ja/opinion/report/data/060314.pdf

意見の趣旨


 当連合会は,2002年10月8日,「臓器移植法の見直しに関する意見書」を明らかにしたが,2005年には「臓器の移植に関する法律」(以下「臓器移植法」という)に関する「改正」案が国会に提案されるなど,同法の見直し議論が活発化している。そこで,上記意見書公表後の脳死臓器移植を巡る状況や2004年までに実施された世論調査の結果を踏まえ,これまでに明らかにされた「改正」案についても言及し,臓器移植法の見直しについて,下記の通り意見を述べる。
 

1 臓器移植法を見直すにあたっては,
(1) 中立公正な機関を設立して,臓器移植法施行後の実施例を含めた法施行状況の全般を検証すべきである。
(2) 脳死と判断された後も長期に生存する患者が存在する事実を踏まえ,脳死を死とする生物学的・医学的根拠を再検討しなければならない。その上で脳死の定義,脳死判定基準や手続き,ならびに脳死臓器移植実施時の検証システムなどを是正すべきである。
(3) 救急医療の実態を調査し,十分な救急医療体制の確保のための制度を整備すべきである。
(4) 脳死からの非主要臓器や生体間の臓器の移植についての法整備をすべきである。
(5) 以上の検証結果を公開するとともに,脳死についての正確な情報を市民に提供し,市民が脳死について十分に理解した上で,脳死臓器移植について社会において十分に議論を尽くさなければならない。
2 よって,当連合会は,上記(1)乃至(5)が実施されないままに,脳死を一律に死とみなしたり,臓器摘出要件や脳死判定要件を緩和することなどを内容とする臓器移植法の「改正」には反対する。


当Web注:同意見書は5.親族への臓器の優先提供を認める「改正」案について、法的脳死判定臓器移植15例目で「親族を移植希望者(レシピエント)に指定し,暫定的な措置として認められたという経過があった」と1例のみしか行われていないかのような表現・認識をしているが、実際には1980年代から行われており、日本臓器移植ネットワークも内規を設けて「心停止後の提供」と称して実行している。参照:レシピエント指定移植

 また意見書は「2 脳死の定義,判定基準への疑義−厳格な規定への見直しの必要性」では「これまでの判定基準の他に少なくとも脳血流検査と聴性脳幹反応検査を追加・・・するべきである」としているが、脳血流検査電気生理学的検査の感度の悪さも指摘されている。

 


20060304

第33回日本集中治療医学会学術集会
脳低体温療法の医療費は正常体温維持療法と同じ 名古屋大
脳死判定できない鼓膜損傷患者から臓器摘出 市立札幌病院
ICU15日以上は4割生存 「医療費かかる」と介入 群馬大
 

 第33回日本集中治療医学会学術集会が3月2日〜4日の3日間グランキューブ大阪(大阪国際会議場)にて開催された。以下はプログラム・抄録集より注目される発表の要旨(タイトルに続くp・・は掲載頁)。

*福岡 敏雄(名古屋大学大学院医学系研究科 救急集中医学講座):重症頭部外傷に対する軽度脳低体温療法は正常体温維持療法に比べて医療費を増加させるか、p176

 2施設において軽度脳低体温群(頸静脈温32−34度)と軽微脳低体温群(同35.5−37度)では医療費は、476万円と491万円であった。入院30日間の急性期医療費は367万円と358万円であった。急性期の手術に関わる費用を差し引いても同様であった。両群とも入院および急性期医療費はほぼ同額であった。急性期の厳密な体温管理に同等の人工呼吸やICU入室を要したためと思われた。

 

*鹿野 恒(市立札幌病院救命救急センター):救急集中治療の終末期における臓器提供のオプション提示、p201

 2004年1月より2005年8月までに、臨床的脳死と判定された11例全例に対して臓器提供のオプション提示を行った。1例にドナーカードを確認したものの鼓膜損傷により法的脳死判定ができず、脳死下臓器提供にはいたらなかった。しかし、同患者を含めた8例に心停止下での臓器提供をうけることができた。臓器提供となった8例中6例の家族は延命治療中止を希望したが、以前からの施設の方針により人工呼吸器停止は行っていない。心停止下臓器提供時も含め家族が延命治療を望まない場合に、どのような終末期医療を行うか、今後法的な問題を含め慎重に検討する必要がある。

当Web注:「心停止下」と称する臓器摘出においても、臓器に血栓を生じさせないように抗血栓剤を投与して、血液を循環させて抗血栓剤を臓器にいきわたらせる必要がある。臓器を早く冷却するためにカテーテル挿入も行われるのが一般的。麻酔をかけた臓器摘出も行なわれおり(心肺停止ならば麻酔は効かないはずだが)、「脳死」臓器摘出と変わらない。これらは法的脳死判定手続下で行わないと傷害致死罪に問われる可能性が高い。

 

*林 淑郎(群馬大学医学部附属病院 集中治療部):ICUに15日以上在室した患者の予後と医療費、p238

 対象は、群馬大学医学部附属病院ICUを2002年6月1日から2005年6月30日の間に退室した患者(926人)のうち、15日以上在室した患者95人。95人のうちICU死亡は32人、ICU退室後の入院中死亡は25人、入院中4人、転院13人、退院21人。

 15日以上在室した患者のICU医療費は、患者1人当たり659万8千円±557万7千円、患者1人の1日当たり21万9千円±11万3千円。特にICU死亡の患者のICU医療費は患者1人当たり1029万5千円±702万1千円/人と極めて高額であった。一方、14日以内在室患者のICU医療費は患者1人当たり110万円±64万5千円、患者1人の1日当たり20万3千円±24万7千円であった。

 考察:回復の可能性が低い患者の治療をどこまで行うかは、主治医の裁量に大きく依存している。しかし今後、増加を見込めない医療資源と医療費を効率よく分配するためにも、なんらかの介入が必要である。

当Web注:15日以上ICU在室患者1人の1日当たり医療費が「21万9千円±11万3千円」と、14日以内在室患者より低い金額の患者もいることは、すでに「なんらか介入」が行われた可能性がある。群馬大学集中治療部では1990年頃から「脳死」患者の医療費を試算するなど、医療費関連の報告が目立つ。

 


20060304B

ICUにおける末期医療 9割の施設で手控え症例あり
16%は手控えの選択、実施を診療録に記録していない
日本集中治療医学会評議員アンケート
 

 第33回日本集中治療医学会学術集会のパネルディスカッション「ICUにおける末期医療」において、北海道大学大学院侵襲制御医学の丸山 哲教授は、日本集中治療医学会評議員を対象に行ったアンケート結果を報告した。

 4月6日付のメディカルトリビューンによると、過去1年程度に終末期において治療の手控えを意図して実施したことがあったのは90%、なかったのは7%。治療の手控えを意図して実施した治療の内容は、現状維持39%、減量治療28%、部分的中止27%、すべて中止4%。

 医師の治療上の判断(55%)や家族の希望(45%)によって、最終的に担当医グループ(45%)、病棟医長/所属長(28%)、医局検討会での会議(24%)、担当医単独(3%)が選択された。16%は治療の手控えの選択、実施を診療録に記録していなかった。

 治療の手控えを意図して実施しなかったもののうち、家族から治療の手控えを希望する申し出を受けたのは91%だった。

 70%が「治療の手控えは法的に問題がない」、22%は「ある」とした。58%は最近、患者家族から積極的な治療を望まないという申し出が増えていると感じていないが、35%は増えていると感じていた。

 手控えの対象となる治療は「血液浄化療法」と「昇圧薬投与」で、「酸素療法」と「苦痛・不快の除去」は手控えてはいけないとされた。

 


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