盛岡赤十字病院 法的脳死臓器摘出207例目
5臓器提供し黒字231万円「経済的に協力容易」
2013年1月31日、盛岡赤十字病院に入院中の60歳代の女性(原疾患は脳血管障害)が法的に脳死と判定され、移植用に心臓、肺、肝臓、腎臓が提供された。
「日赤医学」65巻1号p182掲載、西嶋 茂樹、岡田 一敏(盛岡赤十字病院麻酔科)「脳死下臓器摘出術の管理経験」によると、臓器摘出術中は麻酔薬と麻薬は使用せず、筋弛緩薬は脊髄反射防止のために使用した。
p186掲載、赤平 寛彦、栗澤 忠志、赤坂 義悦(盛岡赤十字病院事務部総務課)「脳死下臓器提供における事務部の対応と経済的考察」によると、本症例に要した経費は延べ23名の人件費が約68万円、脳死宣告後の医療費が約21万円の約合計90万円で、同院に日本臓器移植ネットワーク等から約321万円が支給され、約231万円の黒字であった。本症例には全7手術室の内3室が午前中のみ占有されたが、同院の手術予定をわずかに変更するのみで中止した症例はなかった。結語は「院内業務への影響は僅少、経済的には黒字で移植医療への協力は容易と考える」としている。
当Web注:1993年にMayo Clinic の Roger W.Evans,PhDは、「臓器獲得経費の奨励金的性格に関する研究」において、“多臓器提供ドナーは、1人で多数の患者を救うが、と同時に、各レシピエントは各々に臓器獲得費を請求されるので、結果として膨大な収入を生み出す”と指摘した。
名寄市立総合病院 病室で電気けいれん療法施行
32歳女性が心停止、臨床的脳死で約1ヵ月間生存
2013年1月15日付で医学書院が発行した「精神医学」55巻1号は、名寄市立総合病院において修正型電気けいれん療法を受けた32歳女性が心停止、蘇生に約40分を要し臨床的に脳死の状態で約1ヵ月間生存したことを掲載している(論文の受稿は2012年7月10日)。
出典=野口 剛志、高崎 英気(名寄市立総合病院心療内科・精神科):修正型電気けいれん療法施行後に心室頻拍を呈し回復が困難だった1例、精神医学、55(1)、33−35、2013
32歳女性、体重55kg。診断は非定型精神病。家族歴・既往歴に特記すべきことなし。循環器疾患の家族歴・既往歴なし。名寄市立総合病院心療内科・精神科に21歳時に1日間入院、23歳時に同科に6ヵ月間入院、28歳時に他院に約2ヵ月間入院、30歳時に
同院内科で右結腸部分切除、心療内科・精神科で修正型電気けいれん療法を6回施行後31歳時退院、32歳時に再びこれまでと同様な興奮状態となり同科に入院となった。
入院後薬物療法として、リチウム(最大600mg/日)、ゾテピン(最大150mg/日)、バルプロ酸(最大600mg/日)、クエチアピン(最大600mg/日)を使用し、精神症状は徐々に安定してきた。入院1週間後から上肢、下肢の脱力が出現し、薬物の影響の可能性も考慮し向精神薬を減量していき、最終的にクエチアピン200mg/日まで減少したが、上肢の脱力は続いた。入院2週間頃より、多弁、多動、易怒的傾向が徐々に悪化してきたが、向精神薬の増量はせず、前回の入院で効果が得られた修正型電気けいれん療法を開始した。
1週間に2〜3回の頻度で修正型電気けいれん療法を行った。麻酔科医の管理下で病室で、次の手順で行なった(アトロピンの前処置なし)
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チアミラール4ccによる全身麻酔
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スキマソメニウム40mgの静脈内注射
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サイマトロンによる通電。
4回目頃から精神症状は徐々に改善されてきた。5回目までは問題なく終了した。6回目の通電が終了約1分後より、突然脈の触れない心室頻拍が出現した。ただちに麻酔科医により救命処置(電気ショックによる除細動、リドカイン、ドパミン、グルコン酸カルシウム、硫酸マグネシウム、アトロピン、アドレナリンなど)が行われたが、洞調律に回復した時には約40分が経過していた。その後、集中治療室にて経皮的心肺補助装置や低体温療法なども行ったが、臨床的には脳死の状態で、約1ヵ月後に永眠した。
考察において野口氏らは、電気けいれん療法による重大な合併症の発現頻度はデンマークでは2万件超の多施設研究で「1例の報告がない」。本邦では585件中3件(中村ら)、600件中3件(八田ら)が報告されているがいずれの症例も治療により合併症は回復しているとし、「仮に十分な観察と迅速な処置ができない環境で電気けいれん療法を施行したならば、重大な障害あるいは死亡につながった可能性があったということになる」。おわりに「電気けいれん療法ではきわめてまれながら、身体的に特記すべき問題のない人であっても、死亡というアクシデントを生じうる。精神科医はこのことを深く認識して電気けいれん療法を慎重に実施する必要がある。そのためには麻酔科医と精神科医の連携と反省の場を定期的に持つことが役立つかもしれない。たとえば、程度の如何によらずトラブルのあったケースをレビューすれば互いの緊張感維持に有用と考えられる」と結んだ。
当Web注:野口氏らは海外も含めて、電気けいれん療法による死亡例は把握していない。世界初の死亡例を発生させた可能性がある。
法的「脳死」臓器移植患者の死亡は累計94名
移植後冠動脈病変で心臓移植患者1名が死亡
日本臓器移植ネットワークは、2013年1月10日に更新した移植に関するデータページhttp://www.jotnw.or.jp/datafile/offer_brain.htmlにおいて、法的
「脳死」臓器提供にもとづき心臓移植を受けた患者の死亡が1名増加し、法的「脳死」臓器移植患者の死亡は、心臓8名、肺30名、肝臓31名、膵腎同時7名、腎臓14名、小腸4名の累計94名に達したことを表示した。
「移植」47巻6号p429〜p432掲載の「本邦心臓移植登録報告(2012年)」は、2012年11月25日までに日本国で施行された心臓移植146症例。図11に110例のレシピエント生存率を示し、死亡は8例、死因は多臓器不全(移植後3週、3ヵ月)、感染症(移植後4ヵ月、8ヵ月、4年2ヵ月)、移植後冠動脈病変(移植後7年)、胃癌(移植後10年)、腎不全(移植後11年)としている。
前回の心臓移植後患者死亡7例目の時点で、“国内心臓移植146例中7例が死亡(死因は多臓器不全3例、4ヵ月・4年感染症各1例、10年胃癌、11年腎不全各1例)”と報告されているため、8例目の死因は移植後冠動脈病変と見込まれる。
これまでの臓器別の法的「脳死」移植レシピエントの死亡情報は、臓器移植死ページに掲載。
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