第23回腎移植・血管外科研究会
32歳男性に心臓マッサージ下に開腹、カニュレーション:新潟大学
脳死にならなかった54歳女性、死亡確認1分で心臓マッサージ:秋田大学
生後9か月ドナーからの臓器提供例は「脳死状態」:日本臓器移植ネットワーク
北海道における献腎移植増加の背景:市立札幌病院
温阻血時間5分、体内冷阻血時間1時間38分の「心停止」?ドナー:岡崎市民病院
透析で13年5ヶ月生存、移植後1年4ヵ月で死亡:兵庫県立西宮病院
交通事故被害者に、生前に臓器摘出目的でカテーテル挿入:総合太田病院
倫理的理由で生体腎移植を断念した症例の検討:北海道大学病院
低酸素脳症を伴う先天性水腎症患者に生体腎移植:慶応義塾大学泌尿器科
2007年6月29日、30日の2日間、第23回腎移植・血管外科研究会が岩手県志戸平温泉のホテル志戸平で開催された。以下はプ
ログラム・抄録集より注目される発表の要旨(タイトルに続くp・・・は掲載貢)。
*齋藤 和英(新潟大学大学院腎泌尿器病態学分野):対応に苦慮した症例 ドナーの急変とレシピエント選定の遅れにより総阻血時間が延長した献腎移植症例、p41
32歳男性ドナー、クモ膜下出血によりドナー候補となる。オプション提示、インフォームドコンセント後の待機中、肺炎合併により呼吸状態が急速に悪化、突然の心肺停止に至った。摘出チームとドナー病院泌尿器科医により心臓マッサージ下に開腹、カニュレーション、体内灌流開始、温阻血時間27分で両腎を摘出した。肉眼的には灌流状態は良好であった。
ドナーの経過が早かったため、レシピエント選定は摘出後にずれ込んだ。腹膜炎合併、感染症、全麻手術不能の心不全、肺野の陰影指摘、両側腎腫瘍、ダイレクトクロスマッチ陽性で6名が辞退、第7候補49歳女性に総阻血時間24時間で1腎目を移植した。
第8候補の検査中に異常(CPK高値、パニック障害)が見つかり辞退となり、急遽、第9候補が遠方より駆けつけることになった。レシピエント自宅近くの総合病院に急遽、術前画像診断を依頼、検査結果を持って緊急入院となった。結局、第9候補49歳女性の総阻血時間は40時間に達した。退院前生検では特に2腎目に強い間質の広範な繊維化と動脈硬化が認められており、長期的な移植腎生着についての危惧を残した。
当Web注:心臓マッサージ下の開腹は、生体解剖と同じと見込まれる。
*井上 高光(秋田大学泌尿器科):秋田大学における対応に苦慮した献腎、生体腎移植の事例と対応、p43
ドナーは54歳女性、原発性脳腫瘍(多形性神経膠芽腫)。本人および家族の強い腎提供の希望があった。呼吸器は装着せず最後まで意識があり脳死状態とならなかったため、ヘパリン静注を心停止前に行なわなかった。最終Cre0.6。急激に心停止となり、死亡確認1分後にヘパリン4万単位を静注し、心臓マッサージのうえ手術室へ搬送、心停止22分後に体内灌流を開始し、46分後に摘出完了、体外灌流を開始した。
腎の色調はややまだらであったが灌流状態は良好であり、2腎とも秋田大学で透析歴24年と16年の男性2人に移植した。1腎は
primary nonfunctionであり、最終的に移植腎摘出に至った。もう1腎は部分的に機能し、現在、月2回の除水なしの血液透析で管理可能である。
当Web注:脳死状態とはならなかった患者に対する「死亡確認1分後にヘパリン静注し、心臓マッサージ」は、三徴候死の継続を確認していないこと、心臓マッサージによる蘇生効果そして生体解剖となる危険が大きい。
*芦刈 淳太郎(財団法人日本臓器移植ネットワーク東日本支部):生後9か月ドナーからの臓器提供、p43
当Web注:この抄録は、日本小児救急医学会雑誌7巻2号に掲載された北里大学病院における臓器摘出例と見られるが、日本小児救急医学会雑誌7巻2号ではドナーについて「脳機能の改善は見込めないことを受傷6日目に両親を祖父母に伝えた。・・・6歳未満では脳死判定が行なえず」としているのに対して、この抄録は「脳死状態となり」と記載している。
また「生後9ヶ月ドナーの特殊性を鑑みると同時に対応期間が長期化することも考慮し、摘出チームを3施設の合同チームで、慎重かつ万全の体制で対応に取り組んだ」としている。
*原田 浩(市立札幌病院腎移植科):北海道における献腎移植増加の背景、p47
本道において献腎移植が本格的に実施されたのは当院における1989年のことであった。その後は年間1〜6県の件数に過ぎなかったが、2002年の臓器配分ルールの変更後は実に2年3ヶ月もの長期間、本道においては献腎移植の実施はなかった。
1994年の臓器移植ネットワーク発足前では、全国シッピングにより道内への腎提供があり16件が実現した。Praimary non-function
(PNF)はなく術後透析期間も平均7.1日、最良sCrも平均1.2mg/mlと良好であった。
しかし1995年以降2002年の臓器配分ルール変更前では、道内提供腎は27件中14件と増加したが、平均移植後透析期間も平均
19.3日と著しく延長し、最良sCrも平均1.6mg/mlと悪化した。また5件のPNF腎があり、すべて道内提供腎と皮肉な結果となった。こ
の背景としてコーディネーターと移植医の情報交換が減少し、摘出医側の対応が大幅に遅れ、冷阻血時間の延長となり、また死戦期の対応の結果、温阻血時間が延長したことが要因と思われた。
2002年の臓器配分ルール変更後は、1腎を抗ドナーHLA抗体による液性拒絶反応にて失った以外は、全例機能し、最良sCrも平均1.2mg/mlと移植腎機能発現も良好である。冷阻血時間、温阻血時間が著明に短縮しているのが2002年の臓器配分ルール変更後の特徴である。
当Web注:1995年以降2002年の臓器配分ルール変更前における温阻血時間の延長等は、日本臓器移植ネットワークの発足により、「心臓拍動下の臓器摘出・脳死臓器摘出(生体解剖)は行なわない。非脳死症例には生前カニュレーションを行なわない、人工呼吸器を停止しないなどの抑制がかかった可能性」が考えられる。
一方、2002年以降の温阻血時間の短縮等は、下記の岡崎市民病院と同様の経皮的人工補助装置による臓器摘出目的の冷却
(市立札幌病院の救命目的の経皮的心肺補助使用例は蘇生24巻3号ほかに報告されている)や、早期のドナー管理の強行が予想される
(第7回日本救急看護学会学術集会では、市立札幌病院で、心停止ドナーにおける臓器ドナー管理に疑問を感じている看護師がいるとの報告がなされた)。
*由比浜 真之介(岡崎市民病院):多発性のう胞腎ドナーからの献腎移植の1例 、p69
レシピエントは53歳男性、SAHで死亡した多発性のう胞腎の42歳男性をドナーとした献腎移植術を施行した。温阻血時間5分、体内冷阻血時間1時間38分、冷阻血時間6時間34分、合計阻血時間8時間17分であった。術後約1年経過しているが、明らかな拒絶反応もなく経過している。
当Web注:岡崎市民病院は、体外循環技術33巻2号ほかにおいて、ドナーの生存中に挿入した人工心肺回路を用いて、心停止直後からの冷却・臓器保存を報告している。上記の「温阻血時間5分」は生前カテーテル挿入を示し、「体内冷阻血時間1時間38分」も人工心肺の冷却運転によるドナーの体内臓器保存と考えられる。「心停止ドナー」と称するが、実際にはドナーの体内には、徐々に冷却された自己の血液が循環している、心停止の実体はないの可能性が高いと考えられる。
*浜部 敦史(兵庫県立西宮病院):献腎移植後に急速な進行、転移をきたした固有腎癌の一例、p78
44歳男性は多発性のう胞腎による慢性腎不全のため1992年3月血液透析導入、2005年8月25日、献腎移植目的にて当院入院
。以前より、エコーにて左のう胞腎内の一部に腫瘍性病変が認められていた。入院後、造影CTにて腫瘍性病変を認めたが、リンパ節腫大はみられなかった。入院同日、根治的左腎摘除後に献腎移植を施行した。術後12日目に透析離脱。
退院後順調に経過していたが、2006年6月より食欲低下、8月に不明熱が出現、画像上、残存左腎静脈から下大静脈にかけて8×3cmの腫瘍塞栓と多発性骨転移を認め、9月27日腫瘍塞栓除去術施行。その後、インターフェロン治療を行なうも状態悪化し、12月17日癌死した。
当Web注:「死体」腎移植後に28ヶ月間未満しか生存できなかった症例は、移植費用が、透析療法の積算医療費を下回るまで生存できなかったと見込まれる。
*杉山 健(総合太田病院泌尿器科):血管吻合に工夫を要した献腎移植の1例、p84
ドナーは35歳男性、外食後に歩行中、自動車にはねられ心肺停止の状態で当院に搬送、来院後心拍動は再開したものの自発呼吸は停止しており、その後の検査にて脳出血および誤飲によると思われる気道閉塞が確認された。臓器提供意思表示カードは持参していたなかったものの、臓器提供に関するご家族の自発的な申し出があり、献腎ドナーとしての手続きを行なった。
直前カニュレーションをした後、ドナーの心停止後に体内灌流を行い、腎摘出術を行った。脾臓損傷があり、その結果、左後腹膜腔は血腫にて左腎が癒着していた。その影響から摘出時、左大動脈の損傷をきたし、2本あった腎動脈のうち本幹が約1cmを残し内膜が剥離した状況になった。ドナーの上腸管動脈を約5cmにわたり切除し、残存する腎動脈と吻合して腎動脈として使用。レシピエントは術後2週間目の現在、1日尿量1500ml程度であり透析を離脱した。
当Web注:生前のカニュレーションは、日本臓器移植ネットワークは「脳死状態を確認後に行なうこと」としているが、法的脳死判定手続きを行なっていない。
生体腎移植
*森田 研(北海道大学病院泌尿器科):倫理的理由で生体腎移植を断念した症例の検討、p40
2003年から2006年までの4年間に実現に至らなかった生体腎移植5例(男性3例・女性2例、11歳から52歳、中央値45歳)
を対象とした。同時期に当科にて行なわれた生体腎移植の総数は55例であった。
断念理由は夫婦間以外の非血縁者間2例、ドナーの提供意思撤回1例、家族関係の崩壊懸念1例、ドナーの短期記銘力低下1例であった。
非血縁者間の2例は職場環境の圧力による提供任意性の問題と、内縁関係の夫婦間移植であった。ドナーの提供意思撤回の1例は二次生体腎移植例であり、前回移植時のドナーに対するレシピエントの配慮不足がドナーに提供を撤回させるに至った。家族関係崩壊を危惧した1例は血液型不適合腎移植の説明の課程で父親が違うことを伏せる必要性が生じ、移植前の説明同意における事実隠匿が問題となり断念した。
その結果5例中4例がドナーを変更(生体3、献腎1)して移植を検討し3例施行、1例は同一ドナーのまま検討中である。
*篠田 和伸(慶応義塾大学泌尿器科学教室):低酸素脳症を伴う先天性水腎症患者に生体腎移植術を施行した一例、p79
36歳男性は先天性水腎症のため、生後10ヵ月時に左腎摘除術、右腎瘻造設術を施行された。その際、医原性に低酸素脳症となった。その後、腎機能低下のため1999年より血液透析導入となった。生体腎移植術を希望し、2箇所の病院を受診しているが、萎縮膀胱等の問題もあり、適応外とされた。今回3ヶ所目の病院として当院を受診した。
術前の膀胱容量は20ml程度であった。そこで術前より抗コリン製剤内服と生食を膀胱内に自然滴下するBladder cyclingを連日施行し、
術直前の膀胱容量は90mlまで拡張し、ドナーは父親として生体腎移植術を施行した。術後、喀痰排出困難のため再挿管、術後5日目に気管切開、術後15日目に人工呼吸器から離脱した。術後67日目に血清Cr1.9mg/dlにて退院。家族の高齢化により血液透析サポートの負担が大きかったが、生体腎移植によりそれが軽減され、患者および家族の満足度は大きかった。
第49回日本老年学会学術集会 家族の意向調査
秋田看護福祉大 経管栄養実施者を半減 アンケート示し
西円山病院 人工呼吸の希望43%、人工栄養の希望54%
アメニティ本別 心肺蘇生を総て希望34%、総てしない19%
入所時確認群・認知症・j女性の家族に心肺蘇生拒否多い
第49回日本老年学会学術集会が、6月20日から22日まで札幌市内で開催された。以下は日本老年医学会雑誌44巻臨時増刊号より、終末期医療に関連する報告の概要(タイトルに続くp・・・は掲載貢)。
*佐々木 英忠(秋田看護福祉大学):高齢者終末期医療への提言、p18
経腸栄養を行っている人は1年間7万人、そのうち、要介護老人が6万人を占めているとされている。要介護老人で経管栄養を行っているご家族にアンケート調査したところ、60%のご家族はやむをえないと答えたが、あなた自身または現在健康な両親が同じようになったとき経管栄養しますかとの問いには90%が否と答えた。
この成績をある関連施設でこれから経管栄養を行う前にご家族に示したところ、経管栄養実施者は従来の半数に減少した。経管栄養を実施した場合平均1年2ヵ月生存し、900万円医療費が必要であった。一方、末梢静脈点滴1000ml+ビタミン剤で平均余命2ヵ月、100万円の医療費であった。差し引き800万円×3万人=2400億円の経済効果をもたらすと推定される。
欧米並みに経管栄養を中止する場合と日本の中間的落ち着き先が理想的と考えられる。
当Web注:医療費節減は、ある行為の結果として報告されることは必要だが、医療費節減そのものを第一目的としてはいけない。患者本人の意向が不明のなか、家族の意向で早く死なせる行為に、本来の意味での経済(経世済民)効果はあるのか?下記、西円山病院の報告では経口摂取可能な段階で患者家族の54%が人工栄養を、43%が人工呼吸器を希望したように、終末期医療の意思表示には調査対象者・調査者の説明の仕方により、変動・偏り(バイアス)の発生が想定される。
*宮岸 隆司(西円山病院神経内科):西円山病院における入院時の終末期医療に関する意識調査、p36
【方法】当院入院患者家族に、医療ソーシャルワーカーが入院相談時あるいは入院時医師との面談前に人工栄養の希望や、延命治療に対する認識について聞き取り調査を行った。
【結果】対象は30例(男性12例、女性18例)。主たる基礎疾患は認知症9例、脳血管障害8例、パーキンソン症候群5例、その他8例で全例にて認知機能の低下を認めた。入院時人工栄養施行患者8例、経口摂取可能な22例にて嚥下障害が進行した場合、人工栄養を希望する症例12例、希望しない症例6例、「今はわからない」が4例であった。
延命治療について30例中13例で人工呼吸器、5例で意識がない状態で行う治療があげられた。終末期の迎え方については23例が「苦しまずに安らかに」、4例は「今はまだ考えていない」であった。
【結論】外来通院中の一般高齢患者では、終末期に人工栄養を望む割合は10%以下とされているが、当院死亡症例の後ろ向き調査では66%の症例が人工栄養を選択している。今回の入院時調査では54%にて人工栄養を希望しており、病状の進行に伴い患者家族の意向が変化する可能性や進行期の患者の意向確認が困難な可能性が考えられた。
延命治療は人工呼吸器や意識のない状態での治療で、最後は苦しまないように自然な死を望んでいる。しかし苦しまない治療は患者の状態や価値観により異なり一概に規定することは出来ない。したがって入院早期より患者の価値観を理解し、十分なインフォームフォームドコンセントを行い意向を尊重することが重要である。
*白山 真司(刀圭会 介護老人保健施設アメニティ本別):老健入所中の急変時(心肺停止時)に家族が希望する治療行為、p93
【目的】老健入所中の利用者が心肺停止状態で発見される事例は決して稀ではない。このため当施設では利用者の家族に対し「その際に希望する医療行為」を確認している。今回、要介護状態にある者の家族の一般的な希望を知るため集計し比較検討した。
【方法】2005年5月27日〜2007年1月10日までの人所利用者117名を対象とした。心肺停止かつ意識がない状態を想定、医療行為として心肺蘇生、薬剤の使用、挿管、人工呼吸器、電気除細動器を示した。回答は希望1:全て希望する、希望2:心肺蘇生と薬剤は希望するが挿管、入工呼吸器、電気除細動器は希望しない。希望3:全て希望しないの中から選択するか具体的に記載していただいた。
【結果】104例から有効な回答が得られた。全例で例示した中から選択されていた。希望1:33.7%、希望2:47.1%、希望3:19.2%であった。
次に各背景因子別に集計した。性別では希望1が男性で多く、希望3は女性で多かった。年齢では90歳以上で希望1が特に少なかった。80歳未満でも希望3が比較的多かった。
介護度、日常生活自立度、認知症ランクでは高い群で希望1が少なく、希望3は多い傾向だが、認知症ランク自立、Iでも希望3が比較的多かった。
入所からの期間では入所時に確認した群で希望3が多かった。方向性では在宅以外を希望する群では希望1が少なかった。
【結論】心肺停止状態で発見された高齢者の救命率は低いと考えられる。それにもかかわらず3割以上が人工呼吸器や電気除細動器の使用まで、8割以上が心肺蘇生等の医療行為を希望するという結果であった。また各背景因子別に集計し比較検討した結果、一定の傾向を認めることが出来た。しかし個々の考え方は様々であり、知る方法は直接確認するしか無いと思い知らされた。予め希望を知っておくことにより皆が納得する形で最期を演出することが可能であり、無用のトラブルを避けることにも繋がると思われた。
心臓移植術でレシピエントが「脳死」、麻酔剤投与後に脳死判定?
ドイツ、アメリカで心臓を再移植 メディカル トリビューン紙が誤報
6月21日付のメディカル トリビューンは5面に「初の移植心臓の再移植」を掲載した。
米国で、最初に心臓移植を受けた患者は、移植手術中に心臓以外の原因で脳死となった。脳死発生後、患者の家族は別のレシピエントへの心臓提供に同意し、シダース・サイナイ医療センター(ロサンゼルス)心臓移植プログラム手術部長で心臓外科のSinan
A.Simsir博士らは、移植心の再移植術が正当であることに合意した。2番目に心臓移植を受けた土木技師のMike Iwuchukwu氏は、移植以来、毎週行われている検査では拒絶反応の徴候のないことが明らかとなっている。
これらの情報をメディカル トリビューンは「既に他人に移植されていた心臓が再移植されたのは、初めてのことであろう」と報道している。ところが、ほぼ同様の症例が1992年12月に発行されたTransplant
Proceedings 24巻6号p2663―2264に、ドイツのMunich大学Grosshadern医療センターのBM.Meiser氏らから「Retransplantation
of an already transplanted heart」として報告されている。
Meiser氏らの「成功した心臓再移植についての最初の臨床報告」によると、ドナーは妊娠33週の28歳女性、脳死後に帝王切開で出産。最初のレシピエントは44歳男性で、移植後心臓は拍動を開始したが、術後6時間後に右足に塞栓が確認された。術後24時間自発呼吸はまったくなく、CTで脳浮腫を確認、脳波がなく40時間後に脳死と宣告された。妻が心臓提供に同意し、66歳男性に再移植された。男性は術後14ヶ月後の現在、体調良好という。
当Web注:手術を受ける患者は、筋弛緩剤と麻酔剤を投与される。アメリカの最初の心臓レシピエントは「移植手術中に脳死となった」、ドイツの最初の心臓レシピエントも「術後6時間後に右足に塞栓が確認」だった。脳不全になる要因以外にも、麻酔にかかったままで脳波が出ず、痛み刺激にも反射テストにも無呼吸テストにも反応しなかった可能性を排除できない。麻酔剤に影響された状態であり、脳死判定をしてはいけない患者だった。
浦添総合病院 入院患者と集中治療室でドナー探し
入院時に臓器提供意思表示カードの保有を確認
保有有りの情報を院内移植コーディネーターに連絡
看護師がドナーになりうる患者をチェック
集中治療室で移植コーディネーターが毎朝回診
第3回日本クリティカルケア看護学会学術集会が「いのちの危機を回避し、生を支える看護をめざして」をメインテーマとして2007年6月16日、17日の2日間、福岡県北九州市の北九州国際会議場で開催された。
浦添総合病院・移植推進委員会の慶世村 光代氏らは“集中治療室における「ドナー探し」への取り組み”を発表し
、入院時に患者の臓器提供意思表示カードの保有を確認し、保有していたら院内移植コーディネーターに連絡していること。
看護師がドナー適応基準を携帯し、ドナーになりうる患者をチェックしていること、院内移植コーディネーターの救急総合診療部医長と集中治療室看護師長が毎朝、集中治療室を回診し
、県の移植コーディネーターも1回、回診に参加することがあるなど、各種の「ドナー探し」を行なっていることを明らかにした。以下は日本クリティカルケア看護学会誌3巻1号p137より
要旨。
慶世村 光代、古謝 真紀、上原 ひろみ、新里 康代、洲鎌 美佐子、新垣 和美、張磨 安彦、町田 尊、比嘉 奈々枝、具志堅 順子、仲村 香、名嘉 かつえ:浦添総合病院・移植推進委員会
当院は2005年に新型救命救急センターの認可を受け、脳死下臓器提供施設となった。2006年9月から臓器移植委員会を発足させ院内体制整備に着手した。臓器移植委員会は院長・看護部長・事務長を中心とする中枢の委員会で、その直下の移植推進委員会は主に、院内の移植教育・普及活動を担う働きをしている。臓器移植の数を増やすに当たり、まずはポテンシャルドナー(ドナーになりうる患者)の拾い上げが重要であることは周知の事実であるが、当院ではどのような形で実現が可能か、移植推進委員会で協議した。
入院時に収集する情報の一部に「意思表示カード」保有の有無について確認する項目を設け、「有り」の情報が入った段階で、各病棟から院内移植コーディネーター(移植情報担当者)に連絡が入るシステムを構築する。また、院内にドナーが発生した場合にも、院内移植コーディネーターに情報を伝達する仕組みを構築する。
「意思表示カード」の保持の有無を確認することは比較的容易に導入できたが、この情報を管理し、院内移植コーディネーターに情報が入る形を構築するには各部署の協力を要した。
ポテンシャルドナー探しに関しては、現場の看護師からの申し出と、毎朝の回診での拾い上げの双方が必要であることが提案された。現場の看護師からの申し出を増やすために、「ドナー探し」の症例検討を徹底的に演習させ、またドナーの適応基準をラミネートし、ポケットに入る形として作成し配布した。回診については、救急総合診療部医長と集中治療室看護師長(共に院内移植コーディネーター)が毎朝集中治療室を回診し「ドナー探し」を行うこととした。
脳死下提供施設として、ポテンシャルドナーを見極め、家族が臓器提供の意思を示した場合に、その意向に治えるドナー管理が要求される。当院では、ポテンシャルドナーとなりうる患者が発生した場合は、即座に院内移植コーディネーターである救急総合診療部医長に連絡が入り、各主治医と相談し家族対応およびドナー管理についての方針を協議する体制を構築した。また、救急総合診療部医長と師長が連携し、毎朝回診を行う事とした。可能であれば県の移植コーディネーターも週1回、回診に参加することとした。 ドナーとなりうる患者を拾い上げるには、看護師からの提案と、現場の回診の双方が必要である。
当Web注:藤田保健衛生大学救命救急センター脳神経外科病棟でも、毎朝、腎移植医が脳外科医と同行回診している。ドナー管理は
、脳不全患者の救命に反し、脳不全を悪化させて脳死判定基準を満たす状態に陥らせる可能性が高い。また第3者(レシピエント)目的の行為であるため、法的脳死判定が確定する以前にドナー管理を
行なう者は傷害致死罪に問われる。
東邦大学医療センター、50歳代女性を法的脳死(57例目)と判定
脳死判定対象外患者の可能性 臨床的脳死診断の脳波記録19分間
無呼吸テスト時に動脈血酸素分圧、血中酸素飽和度が著しく低下
検証会議報告書は「全身状態、血圧、脈拍に著明な変化はなく妥当」
日本臓器移植ネットワーク 生体肝移植済み患者に第一候補者と連絡
2007年6月14日、東邦大学医療センター大森病院で50歳代女性が法的57例目脳死と判定され、心臓、腎臓、膵臓、眼球が摘出された。
第57例目の脳死下での臓器提供事例に係る検証結果に関する報告書http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001lz9x-att/2r9852000001lzdg.pdfによると、この50歳代女性は2004年より多系統萎縮症、2006年から寝たきり、会話は可能だったが、痰が詰まりやすい状況。2007年6月11日7時頃、自宅で呼吸停止を家族が発見した。7時40分、救急車により東邦大学医療センター大森病院に到着した。
来院時、心肺停止状態、経口気管挿管、心臓マッサージ、人工呼吸管理をしたところ、7時52分、心拍が再開。この時、多量の吐物が気管内より吸引され、吐物の誤嚥に伴う気道閉塞により心肺停止に陥ったものと考えられた。8時43分、集中治療室(ICU)に入室。意識レベルはJCS
300,GCS 3(E1V1M1)、瞳孔は両側散大、対光反射は消失していた。
6月12日CT検査を施行、後頭蓋窩にくも膜下出血を疑わせる所見を認めたが、脳実質はびまん性に腫脹し、低吸収域を認め、皮髄境界は不明瞭となっていた。これらの所見より呼吸停止に伴う低酸素脳症と診断された。その後も脳幹反射はすべて消失した状態が続き、6月13日17時15分に臨床的脳死と診断された。
報告書は「2.1
脳死判定を行うための前提条件について」において“神経症状に関与する可能性のあるプロポフォールがICU入室から6月12日15:00まで8〜10ml/時(250ml/日)で投与されていた。投与を中止してから臨床的脳死診断の開始までに25時間を経過しており、脳死判定に影響はないと考える”とし
た。
当Web注:6月12日CT検査で、脳実質がびまん性に腫脹していたのならば、脳血流が低下しており、それ以前に投与された神経症状に関与する可能性のある薬剤は、脳組織内に滞留している可能性がある。「中枢神経抑制剤の影響下にある可能性のある脳死判定除外例」とすべきではないか?
臨床的脳死診断時の脳波について、報告書は「記録時間が正味19分と短く、法的脳死判定時に定められた脳波の記録条件を完全には満たしていない。法的脳死判定時に定められた脳波の記録条件を満たすことが望ましかったが、臨床的には脳死と診断するのに支障はないと思われる」とした。
当Web注:法的脳死判定は、臨床的脳死診断時においても30分間以上の記録を求めている。
法的脳死判定の無呼吸テストは、2回とも開始から6分で無呼吸テストの閾値と称されている60mmHgを超え、血圧と血中酸素飽和度の測定は15分後まで行なわれた。
1回目無呼吸テスト開始時の動脈血酸素分圧(PaO2)は226mmHg、6分後に30mmHgに低下した。血圧は開始時169/95、6分後に91/49に低下、15分後に148/102に回復した。血中酸素飽和度(SpO2)は開始時に100%、6分後に52%に低下し、15分後に99%に回復した。
2回目無呼吸テスト開始時の動脈血酸素分圧(PaO2)は301mmHg、6分後に38mmHgへ低下した。血圧は開始時125/78、6分後に96/53mmHgに低下、15分後に134/98mmHgに回復した。血中酸素飽和度(SpO2)は開始時100%、6分後に66%に低下、15分後に99%に回復した。
報告書は「第1回目、2回目の判定時に著しいPaO2の低下が認められたが、全身状態、血圧、脈拍に著明な変化はなく、無呼吸テストを継続したという判断は妥当であったと言える。なお、検査終了後にSpO2所見はテスト前と同じ水準に回復した。(中略)本症例の脳死判定は脳死判定承諾書を得た上で、指針に定める資格を持った判定医が行っている。法に基づく脳死判定の手順、方法、検査の解釈に問題はない。以上から本症例を法的脳死と判定したことは妥当である」とし
た。
当Web注:臓器移植法の改訂論議の際に、日本移植学会の寺岡理事長(当時)は「法的脳死判定の無呼吸テスト時に血圧が下がった患者はいない」など、無呼吸テストが安全に行なえるとの発言をした。しかし、無呼吸テストを25分間継続して自発呼吸があったケースもある。今回の東邦大学医療センターの「脳死」ドナーに、さらに長時間の無呼吸テストを行なったら心停止に至る。「無呼吸テストは危険ではない」との主張は、脳死ではない人も、脳死と判定してしまう低刺激・低感度の無呼吸テストを敢行する場面に限定される。
レシピエント候補者の意思確認では、肺は第6候補者まで検討されたが「ドナーの医学的理由」により辞退あるいは移植施設として適応外との判断が続き、最終的に、ドナーの医学的理由により移植の適応なしと判断した。肝臓については、第1候補者は生体肝移植済み。第2候補者は本人の自己都合により辞退。第3候補者、第5候補者、第6候補者はドナーの医学的理由により辞退。第4候補者はドナーの医学的理由により移植施設として適応外と判断。最終的に、ドナーの医学的理由により移植の適応なしと判断し、肝臓移植も見送られた。
トロント小児病院 全身麻酔後に脳死判定 脳波提示せず
移植ネット 2006年に服薬自殺ドナー候補者6例、提供4例
市立札幌病院 脳死判定・医療に対する信頼の危機を感じる
第20回日本脳死・脳蘇生学会 総合学術学会
6月1、2日の2日間、第20回日本脳死・脳蘇生学会 総合学術学会が、くまもと県民交流館パレア(熊本市)において開催された。昨年の第19回学会と同様に、プログラム・抄録集に抄録が掲載された28演題のうち
、10演題が臓器提供促進に関連する内容となった。
以下は第20回日本脳死・脳蘇生学会 総会・学術集会プログラム・抄録集より注目される発表(タイトルに続くp・・・は掲載貢)
*荒木 尚(日本医科大学高度救命救急センター):カナダトロント小児病院における神経終末期医療の経験、p22
13歳女性、右前頭葉癲癇、孔脳症を伴い、外科的焦点切除術のために入院、全身麻酔にて右開頭嚢胞除去ならびに焦点切除術を予定した。術中一貫して安定し、組織摘出時にも脳浮腫などの所見はなかったが、開頭術中突然10/min以下の徐脈と低酸素が出現したため硫酸アトロピン投与、血圧、脈拍ともに一旦回復したが、頭蓋内病変を疑い再開頭、右大脳半球の腫脹、切除部の前頭越しに対側左前葉の腫脹および左瞳孔散大をともなった。左減圧開頭を追加し頭部CTを施行したが、全脳の虚血性変化と脳腫脹を認めた。CCU入室後、家族に術中、術後に担当医から説明がなされ、脳死兆候を確認後24時間治療を継続した。翌朝再度脳死判定の上、家族説明がなされ全治療中止の希望が家族から提示され、2時間後、家族が見守り永眠した。治療中止の決定は父親が行い医療側は回復不可能なことを簡潔に伝え、脳波などの補助検査の提示などはなく、昇圧剤中止、人工呼吸器停止、抜管が集中治療科長により施行された。
9月13日付メディカル トリビューン48面記事によると、脳波は施行せずMRAで血流途絶を証明した。荒木氏は「医療側が訴訟社会を過剰に意識するあまりに、われわれは主役である患者本人の“安らかな死”を置き去りにしてしまう傾向がある。日本でも“安らかな死”を迎えることができる成熟した社会を医療、行政、経済、法曹、報道が真摯に議論し、近未来に創造しなければならない」と述べたという。
当Web注:虚血性変化と腫脹がある脳からは全身麻酔薬が排出されにくい。24時間後も全身麻酔にかかったままであった可能性がある脳死判定をしてはいけない患者であり、脳波提示も省略すると「誤診」「家族の誤判断・治療中止への誘導」の可能性が高まる。脳血流停止とされても、長期間生存し脳波や自発呼吸等がある患者が多数報告されている。
*大宮かおり(日本臓器移植ネットワーク東日本支部):急性薬物中毒が疑われる事例における移植コーディネーターの対応、p42
脳死下臓器提供において脳死と判定するための必須条件として、脳死と類似した状態になりうる症例である急性薬物中毒は除外することが明記されているが明確な基準がない。急性薬物中毒には、治療上投与した場合と自ら服薬した場合があるが、特に後者は服薬後発見されるためその種類・量が不明瞭であることが多く、薬物が法的脳死判定に影響する状態にあるか否かは各施設の判断に委ねられているのが現状である。
2002年7月〜2006年12月の間に日本臓器移植ネットワーク東日本支部で受信した有効情報391例のうち、蘇生後脳症に至った原因が急性薬物中毒またはその疑いがある6例(1.5%)全例が2006年に受信しており、意思表示カードを所持していた。服薬した薬物を正確に把握できた事例はなく、薬物血中濃度を測定した事例は2例あった。最終的に、必須条件を満たさず心停止下腎提供3例(前提条件を満たさず1例、法的脳死判定施行できず2例)、院内体制未整備で心停止下腎提供1例、家族辞退1例、急変1例であった。
当Web注:
大宮氏らは「脳死と類似した状態になりうる急性薬物中毒を除外する明確な基準がない」と称するが、臓器獲得の機会を増やしたいがための恣意的解釈であろう。守屋 文夫氏(高知医科大学法医学)は、日本医事新報(4042号p37〜p42、2001年)において、臨床的脳死状態で塩酸エフェドリンを投与され約72時間後に心停止した患者を解剖し、各組織における薬物濃度を測定したところ、心臓血における濃度よりも53倍
(3.35μg)の塩酸エフェドリンが大脳(後頭葉)に検出されたことを報告している。
脳組織内薬物濃度と血中薬物濃度は乖離し、患者が生存中に脳組織を採取して薬物濃度を測定することは許されない。脳死と類似した状態になりうる薬物を投与された患者は、すべて脳死判定対象患者から除外するしかない。
市立札幌病院救命救急センターの鹿野 恒氏は6演題=「蘇生の基本はROSCではなく早期ROCCである」「院外心停止症例の『避けられた死』Preventable
death」「救急医療終末期に患者本人・家族の意思を尊重するには」「救急医療における終末期医療の問題」「臓器提供のきっかけの分析」「本人の臓器提供の意思を生かすために」の筆頭演者となった。
9月13日付メディカル トリビューン48面記事によると、鹿野氏は「臓器移植法の運用指針では治療決定などのためには一般の脳死判定でよいことが示されているものの、一般の脳死判定自体が明確になっていない。・・・・・・患者・家族の意思を尊重するため臓器提供についても話をするが、専門外の一部の人たちから、臓器摘出の目的が優先され救命の努力がなされていないのではないかなどという批判や誤解を受け、医療に対する信頼の危機を感じている」と発言した。
当Web注:
「一般の脳死判定」は、脳死臓器提供には生前の意思表示を前提とする臓器移植法が制定されたために、以前からの「心停止後」と称する臓器提供を従来どおり行うための方便として創られた。成人でも小児でも、脳死判定基準を満たした後の長期生存例や脳波など復活例があり、医療において脳死判定を用いること自体が医師の姿勢を疑わせる。臓器摘出目的で凍死させたり、脳死判定基準を満たさないのに臓器摘出目的の処置を開始するなど「臓器摘出の目的が優先され救命の努力がなされていない」実例は多数、従事した医師自身により報告されている。
このページの上へ