透析患者の増加傾向は1999年から頭打ち 保険適用締め付けで
2009年頃に患者数ピーク、減少に向かう 生命予後短縮の恐れ
板橋中央総合病院血液浄化センターの阿岸 鉄三氏と桐蔭横浜大学医用工学部臨床工学科の佐藤 敏夫氏は、日本透析医学会雑誌40巻4号p347〜p350に「頭打ちになった透析患者の増加傾向」を発表した。
慢性透析患者数の推移については、日本透析医学会が毎年末に集計し発表している「わが国の慢性透析療法の現況」を引用して、過去40年間ほどにわたって「直線的な増加傾向を示している」と表現されるのが一般的だった。阿岸氏らは、同じ資料を数学的に分析・検討したところ、「もはや直線的増加の表現では適切でなく、増加が頭打ち状況にあること」を指摘した。
阿岸氏らは「1991年に患者数推移の加速度の減少傾向が現れ、1999年に推移速度は減少し、加速度は負に転じたことがわかる。その原因は、1992年に、いわゆる包括化として始まった透析医療に対する保険適用の締め付けにあることが推定される。このような条件が継続されると仮定すれば、累積透析患者数はいずれ(計算上は2009年に)プラトーに達し、さらに減少に向かうと推定される。それはとりもなおさず、維持透析患者の平均的生命予後の短縮を意味すると考えられる。透析療法に関係する医療従事者として、わが国における適切な透析医療の保持のために、早急に、患者数を減少に向かわせる要因を確定し、医療に反映させるべきであると考える」としている。
法的脳死55例目は自殺臓器ドナー?
薬物・脳低温療法で対象外患者を脳死判定
腎臓移植済みの患者2名に移植候補と連絡
2007年4月25日、東京女子医科大学東医療センターに入院していた40歳代女性が、法的に脳死と判定され(55例目)、翌26日に心臓、肺、肝臓、腎臓、膵臓、眼球が摘出された。
厚生労働省の脳死下での臓器提供事例に係る検証会議報告書http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000011syr-att/2r98520000011t08.pdfによると、法的54例目脳死臓器ドナーとなった40歳代の女性は、4月14日15:30頃、自室内で意識を失っているところを母親に発見された。15:34救急隊の現場到着時に心肺停止状態。救急車内で心拍が再開、東京女子医科大学東医療センターに搬入後、人工呼吸管理。その後、ミダゾラム、臭化ベクロニウム投与下で脳低温療法が開始された。4月17日脳機能が全く見られないまま、脳低温療法を終了。4月19日8:00よりミダゾラム、臭化ベクロニウムの投与を中止した。4月20日、頭部CT検査で低酸素脳症に合致する所見が見られた。
脳死判定を行なう前提条件について、報告書は「神経学的所見並びに全身状態に変化を認めず、入院10日後の4月24日23:05に臨床的脳死と診断された。この時点で、神経症状に影響を及ぼす可能性のある薬剤であるミダゾラム、臭化ベクロニウムの投与中止から126時間が経過しており、薬物の影響はないと考えられる」としている。
法的脳死判定において第一回の無呼吸テストは3分超で終わり、2回目の無呼吸テストは4分超で終わった。テスト開始時の血圧148/90が、終了時には100/56に落ちている。報告書は「肺については、第1候補者及び第2候補者(ともに両肺移植希望者)は、移植を受諾したものの、ドナーの医学的理由により片肺のみが提供可能と判断され、移植が見送られた」としている。
報告書はレシピエントの選択について「右腎臓については、第1候補者は、生体腎移植済みのため辞退した。第2候補者は、移植候補者の医学的状態のため辞退した。第3候補者は、他の献腎提供者より移植を受けていたため辞退した。第4候補者は、自己都合のため辞退した。第5候補者は、移植候補者の医学的状態のため辞退した。第6候補者の移植実施施設側が腎臓の移植を受諾し、移植が実施された」と、第1候補者、第3候補者が移植ずみだったことを記載している。「肝臓については、第1候補者は、死亡していたことを把握していたため、意思確認を行っていない」としている。
当Web注
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ドナーの発症原因が記載されていない。「自室内で意識を失っているところを母親に発見された・・・低酸素脳症の所見」から、自殺の可能性がある。
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脳低温療法により薬物代謝は低下し、薬物を肝臓で分解し、腎臓から排出する量は減ったと見込まれる。薬物を投与中止後から約72時間後に血液中濃度よりも53倍の薬物が脳から検出された報告(守屋文夫・日本医事新報4042号)もあり、検証会議報告書が「126時間が経過しており、薬物の影響はないと考えられる」とは憶測に留まる。中枢神経抑制剤の影響が否定できない患者、脳死判定の対象としてはならない患者に脳死判定を強行したと判断される。
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脳不全患者を低温管理する治療を行なったところ、担当医が不可逆的な脳不全と診断していたにもかかわらず脳機能良好で退院したケースは聖路加国際病院救急部救命救急センターから、患者本人の体験談は加藤医師自身から報告されている。Emory
University School of Medicineからは、臓器摘出術開始後に脳死ではないことが発覚したケースが報告されている。脳低温療法による誤診の可能性が、報告書では記載されていない。
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片肺のみが提供可能とされ、また無呼吸テストが3分超、4分超と短時間で終わった。このような患者に、1980年代の10分間無呼吸テストが行なわれていたら心停止する可能性がある。
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報告書は「法的脳死判定マニュアル」においては無呼吸テストの基本的条件として深部温で35℃以上が望ましいとされている。本症例においては、第1回法的脳死判定及び第2回法的脳死判定のいずれにおいても腋窩で体温が測定されていたが、36.8℃、36.6℃と35℃以上の体温であり、無呼吸テストを実施する望ましい体温に至っていたと判断できる」と既成事実の事後承認を繰り返した。
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右腎臓移植は、第1候補者は生体腎移植済み、第3候補者は献腎移植済みだった。肝臓移植では、第1候補者は、死亡していたことを把握していたため、意思確認を行っていない。移植待機患者の情報更新がお粗末!
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