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20000910

救命不可能の判断や臨床的脳死で、“脳死”と言ってはいけない
医学的には皮膚も組織 日本救急医学会が会員に注意を喚起

 日本救急医学会はニュースレター vol.9-2000で、皮膚の採取・組織移植の実施について、そして臨床的脳死の定義について、会員の注意を喚起した。以下は日本救急医学会雑誌11巻9号巻頭に掲載されたニュースレターから。

皮膚は、臓器ですか? 組織ですか?

 医学的には「皮膚は臓器」と考えられていますが、法的には皮膚は「組織」のカテゴリーに入ります。3年前に「臓器の移植に関する法律」(臓器移植法と略)が施行されましたが、この法律がカバーするのは、心臓、肺、肝臓、腎臓、眼球等の「臓器」で、皮膚等の「組織」は法の対象外です。厚生省の“「臓器の移植に関する法律」の運用に関する指針(ガイドライン)”には、組織移植の取扱いとして、「法が規定しているのは、臓器の移植等についてであって、皮膚、血管、心臓弁、骨等の組織の移植については対象としておらず、また、これらの組織の移植のための特段の法令はないが、通常本人又は遺族の承諾を得た上で医療上の行為として行われ、医療的見地、社会的見地等から相当とみとめられる場合には許容されるものであること。」と書かれています。すなわち、法的には、臓器移植と組織移植は全くことなる扱いとなります。

 組織移植の実施に際し、この相当性の判断には、国の規定がない現状では、学術団体としての学会が重要な使命を担う立場にあります。例えば、日本熱傷学会では、スキンバンク検討委員会が中心となり死体からの皮膚採取や保存のマニュアルや施設の基準が示されています。臓器移植法は、その附則に「3年を目途として、この法律の施行の状況を勘案し、その全般について検討が加えられ、」と記されています。今年の秋は、その3年目にあたります。この「全般についての検討」は、国会で行われますが、これに組織移植のことが含まれるか否かは不明です。国会での検討の過程は、衆議院のHPで逐一知ることができます。

 

臨床的脳死

 臨床的脳死という言葉の定義を改めて確認したいと思います。この言葉は、医療の現場(臨床医)から発したものではなく、前項でも紹介した臓器移植の指針(ガイドライン)で示された言葉です。しかし、日々の臨床でも使用可能であり、今後医学用語として定着する可能性があります。この言葉が生まれる背景には、脳死判定における無呼吸テストの侵襲性の問題があります。脳死の判定方法は幾つもありますが、診断を確定する上で等しく重要視するのがこの無呼吸テストです。このテストを抜きに脳死の診断は、不可能であると言っても過言ではないでしょう。しかし、このテストは他の検査(脳幹反射の確認、脳波検査など)に比べ遥かに侵襲度が高いのも事実です。そこで、この無呼吸テストを除外し、1)深昏睡、2)瞳孔が固定し、瞳孔径が左右とも4mm以上であること、3)脳幹反射の消失、4)平坦脳波の4条件を満たしたものを臨床的脳死と診断します。

 厚生省のガイドラインでは、臨床的脳死を確認し、それ以後に意思表示カードの所持等本人の臓器提供に関する意思を確認することとされています。臨床の現場では、移植医療に関係なく脳死の診断が行われます。この時も、いきなり無呼吸テストではなく、上記の1)〜4)を確認し、最後の決めてとして、無呼吸テストに進むことになるのが一般的でしょう。その意味で、臨床的脳死は、無呼吸テストを実施するための前提条件とも言えます。しかし、竹内基準によっても、諸外国の判断基準でも、臨床的脳死=脳死では無いことは自明です。移植医療とは関係ない状況でも、最も重要な検査を除外して、安易に“脳死”と診断したり、また家族に説明することは臨床家として慎むべきことだと思います。

 移植に関係するしないは別として、脳死状態に至るような重篤な救急患者の場合、A可能な治療手段がない―>B救命不可能の判断―>C臨床的脳死―>D脳死の診断(脳死下での移植の場合は法に基づく脳死診断)という経過をたどる事になります。この時、C、ましてやBの状態で、“患者さんは脳死です。”という表現は避けるべきでしょう。

 


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