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生命維持装置停止時の断末魔、死ななかった患者たち
#terminal
weaning(ターミナル ウィーニング:与死離脱) , terminal extubation(ターミナル エクスチュベーション:与死抜管)
北米では、生命維持を中止されて死を強いられる患者は、「脳死」患者の数倍発生しているとみられる。日本でも終末期医療ガイドラインが策定され、リビング・ウィル作成に関わる診療報酬も設定されたことから、非「脳死」患者に対する医療中止の実態が認識される必要がある。
生命の終末期(End of
life)であるために、「新たな治療を行わないこと・控えること」、あるいは「現在行っている治療から撤退すること・中止すること」、あるいは「治療効果は不明であるが、中止した場合は三徴候死に至ると見込まれる生命維持行為を中止すること」、あるいは「生命維持装置を停止すること・生命維持装置から離脱させること」を、英語ではterminal
weaningと表現されることがある。同様に、終末期であるために人工呼吸器を取り外すことをterminal extubationという(extubationは抜管だが、文字どおり挿管した気管チューブまで外す行為だけでなく、人工呼吸器から肺までの
回路の一部分を外す行為も含む、隠語でもpull
the plugやblow byなどあり)。いずれも、ある基準により患者を三徴候死に至らせると予期される行為であるため、松村 外志張が日本移植学会雑誌で主張した「特定条件における与死許容の原則」から、terminal
weaningを「与死離脱」、terminal extubationを「与死抜管」と訳すべきと思われる。
欧米で先行しているterminal
weaningの現実をみると、重大な問題が浮かび上がる。それは、「死を与えるために人工呼吸器を停止したにもかかわらず、死亡しない患者の存在」、「心停止まで時間単位・日単位で生存した患者の存在(透析中止など原疾患や中止する医療によっては日単位の生存も理解可能だが)」、「臨死期の苦悶に対する鎮静剤・鎮痛剤の投与」、「自発呼吸能力を奪う筋弛緩剤・麻痺剤の投与」、「長時間生存患者に対する薬物の増量」、「これらの薬物投与を知らない家族の存在」、そして「死を見守る人々の平安のために鎮静剤・鎮痛剤を投与していること」だ。
筋弛緩剤の投与下に自発呼吸能力がないと判断するなど、麻酔剤投与下で脳死判定することと同様の無茶苦茶な終末期診断も横行している。鎮静剤や鎮痛剤は、患者の生命を短縮することがある
(医師の意図に反して延命させることもある)。自発呼吸能力がある患者の生命まで、薬物で奪っていないのか。苦痛を感じることができるほど生命力のある患者を、死なせるのか(薬物で苦痛を感じさせないようにするとしても)。鎮静剤や鎮痛剤を投与する施設でも、苦悶のなかに死んでいった患者が報告されている。この断末魔は、死を与えられた患者だけの苦しみであろうか。
死を与えたつもりが生存している、あるいは死亡まで長期間であった患者は、「終末期の判断の誤り」、そして「治療効果が不明な重症患者に対する酷薄な対応、医療の荒廃」を身を持って示しているのではないか。
欧米では患者自身の人工呼吸に対する過剰な拒否、そして終末期について誤った認識にもとづく人工呼吸中止の要求も、長期生存につながっている。しかし、速すぎる治療の差し控えや中止は、患者自身に不必要な傷害を負わせて生きさせることにつながりかねない。そのような事態を避けるために、大量の麻酔投与や筋弛緩剤を投与して殺害する医師がいるかもしれない。
このように、安易な治療の差し控え、中止は重大な事態を、次々と誘発していく恐れがある。
以下では、英語文献からは、人工呼吸中止により与死離脱をさせられた患者の苦悶や長期生存の記載がある報告を主体に紹介する。日本国内の与死離脱例は、網羅的に掲載する予定だ。
17のEuropean諸国(含イスラエル)における37集中治療室 2.2%に薬物投与し
致死過程を短縮、治療中止例の1%が生存、治療の差し控え例は11%生存
*Charles L. Sprung, MD (Hadassah Hebrew University Medical
Center):Relieving suffering or intentionally hastening death: Where do you
draw the line?,Critical Care Medicine、36(1)、8−13、2008
*Charles L. Sprung, MD (Hadassah Hebrew University Medical Center):End-of-Life
Practices in European Intensive Care Units The Ethicus Study,JAMA、290(6)、790−797、2003
(JAMAの原文はhttp://jama.ama-assn.org/cgi/reprint/290/6/790にある。全体の情報はJAMAが、薬物投与に関する情報はCritical
Care Medicineが詳しい。以下は2資料から)
1999年1月1日から2000年6月30日までに、ヨーロッパ17カ国の37の集中治療室に患者31,417名が入室した。死亡または生命維持療法の制限を受けた患者は4,280名。この研究の分析対象は、13歳未満およびデータ欠落を除いた4,248名。2,734名(88.6%)の患者が人工呼吸を受けていた。生命維持の制限は3,086名
(72.6%)にあり、全ICU入室患者の9.8%、死亡患者の76.0%にあった。
|
最強度の医療制限後、患者死亡までの日数 |
|
0日 |
3日 |
6日 |
9日 |
12日 |
15日 |
致死過程の積極的短縮 |
94 |
2 |
0 |
0 |
0 |
0 |
治療の中止 |
1192 |
80 |
42 |
33 |
25 |
24 |
治療の差し控え |
1542 |
491 |
385 |
320 |
285 |
263 |
生命終末期分類の頻度は以下のとおり。832名(19.6%)は蘇生の不成功、330名(7.8%)は脳死、1,594名(37.5%)は治療が差し控えられ、1,398名(32.9%)は治療が中止され、94名(2.2%)は死する過程が積極的に短縮された(underwent
active shortening of the dying
process)。致死過程が積極的に短縮された患者は全て、それ以前に治療の差し控え、または治療中止がなされた。致死過程の積極的な短縮は
、ヨーロッパ中部(オーストリア、チェコ、ベルギー、ドイツ、スイス)で79例と多く、7カ国の9センターで行われ、1センターからの報告が多かった。蘇生の不成功、脳死、致死過程の積極的短縮による院内死亡率は100%。治療の差し控えによ
る院内死亡率は89%、治療中止による院内死亡率は99%。
致死過程の積極的な短縮のための医薬品は、アヘン剤(患者71名にモルヒネ)
、またはベンゾジアゼピン(患者54名にジアゼパム)が単独または組み合わせて投与された。4名の患者は筋弛緩剤も、7名の患者はバルビツレートも投与された。モルヒネ投与量の中央値は毎時25.0mg(5-200mg)、ジアゼパムは毎時20.8mg(20-200mg)。致死過程の積極的な短縮の開始から死亡までの時間は0.1時間(筋弛緩剤とモルヒネ投与例)〜92時間。
医師は、致死過程の積極的な短縮のための医薬品が、患者72名(77%)に死を明確にもたらし、患者11名(12%)には多分、死をもたらし、患者11名(12%)には死をもたらしていないと判断した。
気管内チューブの中止は、致死過程を積極的に短縮された患者94名中17名(18.1%)と、治療が中止された1,398名中125名(8.9%)に行われた。気管内チューブの中止から死亡までの中央値は、致死過程を積極的に短縮された患者で7時間、その他の患者は3.5時間。
致死過程の積極的な短縮(active shortening of the dying process:SDP)という用語は、ほとんどの集中治療室の患者が積極的安楽死を要求することができないことから使われる。終末期医療において「苦痛の軽減」と「意図的に死する過程を短縮する行為」、「緩和医療」と「安楽死」には
区別の困難な領域がある。
当サイト注:「致死過程」、「死する過程」や「dying
process」という表現は、患者自身が死を避けられない段階にあることを前提にした中立的な表現だ。しかし、
意図的な治療の差し控えや治療中止という行為の後の薬物投与であり、さらに薬物の大量投与例や筋弛緩剤の投与例もあることから、dying
processが無い患者への致死的薬物投与も疑われる。治療の中止や差し控えにも関わらず1〜11%の生存例があること、そして特定の施設に致死過程の積極的な短縮例が集中していることからは、「医療放棄を速やかに完結させるための殺害」の混在も予想される。
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Charleston area medical
center 心臓死宣告後、臓器摘出予定の患者が、人工呼吸停止から10分後に意識回復
*2008年5月24日のABCニュース“Doctor Calls Near-Death Experience a 'Miracle'
Hospital Took Velma Thomas off Life Support -- Then She Woke Up”http://abcnews.go.com/GMA/story?id=4923465(記事の前半とビデオ)、http://abcnews.go.com/GMA/Story?id=4923465&page=2(記事の後半)
米国ウェストバージニア州で心停止ドナー候補者とされたVelma
Thomasさん(59歳女性)が、人工呼吸器を外されてから10分後に意識を回復した。内科医のKevin
Eggleston氏(チャールストン地域医療センター)によると、ヴェルマ・トーマスさんは心停止3回、脳波も17時間にわたり測定不能、神経学的機能停止だった。
American Thoracic Society 米国の成人集中治療医879名
9%が人工呼吸中止後6ヵ月以内に死亡しないとみられる患者を経験、12%が患者・家族に知られずに治療中止、3%が反対にもかかわらず治療を差し控え、中止を経験
*David A.Asch DA(Division of General Internal Medicine, University of
Pennsylvania School of Medicine):Decisions to limit or continue
life-sustaining treatment by critical care physicians in the United States:
conflicts between physicians' practices and patients' wishes、American
Journal of Respiratory and Critical Care Medicine、151(2 part1 of
2):288−92、1995
米国胸部学会の会員1970名に1990年1月に郵送調査し、うち米国内の成人対象の集中治療に従事している医師879名の回答を分析した。
「無益な医療」の判断で生命維持を差し控えた医師(n=726) |
同意・承諾の状態 |
|
患者または家族の書面または口頭の同意なし |
219(25%) |
患者または家族には知られずに |
120(14%) |
患者または家族の反対にもかかわらず |
28( 3%) |
生命維持治療について中止の経験が無い医師は31名(4%)、96%の医師が患者の死を予期して治療を中止した。中止した生命維持治療別の医師数(比率)は、人工呼吸の中止は786名(89%)、昇圧剤の中止758名(88%)、腎臓透析の中止604名(71%)、輸血または造血の中止687名(80%)、人工栄養または水分補給の中止486名(58%)。
人工呼吸の中止経験が1例の医師は736名(85%)、256名(29%)は3〜5例、229名(26%)は5例以上。293名(33%)の医師は、自己決定能力が無く、また代理決定権者もいない患者の人工呼吸中止を経験していた。294名(34%)の医師は、患者または代理人から人工呼吸の中止を求められても拒否した経験があった。
「無益な医療」の判断で生命維持を中止した医師(n=713)
治療法または同意・承諾の状態 |
人工呼吸 |
554(63%) |
昇圧剤 |
650(74%) |
腎臓透析 |
494(56%) |
人工栄養または水分補給 |
405(46%) |
患者または家族の書面または口頭の同意なし |
203(23%) |
患者または家族には知られずに |
105(12%) |
患者または家族の反対にもかかわらず |
28( 3%) |
人工呼吸の中止要望を拒否した医師の理由は、「まだ患者に回復するチャンスがある」227名(77%)、「家族の要求は患者の最善の利益に基づいていない」115名(39%)、「医療過誤訴訟を懸念した」55名(19%)、「人工呼吸中止は違法」42名(14%)、「患者が人工呼吸中止を要望したが家族が拒否した」33名(11%)、「人工呼吸中止は非倫理的」25名(9%)、「現在の治療に逆行する」24名(8%)、「人工呼吸中止の方法に確信が無い」23%(8%)、「病院の顧問弁護士から人工呼吸を中止しないよう助言された」14名(5%)。
83名(9%)の医師は、生命を維持する人工呼吸の中止にもかかわらず、6ヵ月以内に死亡しないとみられる患者を経験していた。
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Barnes-Jewish Hospital 人工呼吸中止284名中5名(2%)が生きて退院
*Michael N. MD(Washington University):Factors associated with withdrawal
of mechanical ventilation in a neurology/neurosurgery intensive care unit,
Critical Care Medicine、29(9):1792−1797、2001
82ヶ月間にNNICUに患者6,971名が入室、2,109名が人工呼吸を受け、そのうち284名(13.5%)の人工呼吸が中止された。284名のGCS中央値は5。279名(98%)が死亡、3名が慢性療養施設に、1名はリハビリテーション施設に、1名は他の病院に転院した。
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Study Investigators and the Canadian Critical Care Trials Group 人工呼吸中止166名中6名
(3.6%)が生きて退院
*Withdrawal of Mechanical Ventilation in Anticipation of Death in the
Intensive Care Unit(集中治療室における死を予期して行う人工呼吸の中止)、The New England Journal of
Medicine、349(12)、1123−1132、2003(和文抄録はhttp://www.nankodo.co.jp/yosyo/xforeign/nejm/349/349sep/xf349-12-1123.htm)
カナダを主体とする15の集中治療室で72時間以上の人工呼吸を受けていた成人患者851例中、166
例(19.5%)が人工呼吸を中止し、166名が院内で死亡、6名が生存退院した。人工呼吸中止のもっとも強い規定要因は、年齢および疾患や臓器不全の重症度よりもむしろ、患者が生命維持装置の使用を希望していないという医師の認識、集中治療室での生存の可能性が低いという医師の予測、および認知機能が低下する可能性が高いという医師の予測、そして強心薬または昇圧薬の使用であった。
*Withdrawal
of Mechanical Ventilation、The New England Journal of
Medicine、349(26)、2565−2567
(上記報告の)死を予期され人工呼吸を中止され生存退院した6名の患者は、リハビリテーションや緩和ケア、長期療養施設に移送された後に死亡した。1名の患者は、自宅に連れて帰られた後に48時間以内に死亡した。
Detroit Receiving Hospital, University Health
Center 人工呼吸中止31名のうち2名が生きて退院、死亡患者で8日生存例も、65%に薬物投与
*Margaret L.Campbel(Detroit Receiving Hospital):Patient responses during
rapid terminal weaning from mechanical ventilation: a prospective
study,Critical Care Medicine、27(1)、73―77、1999
モルヒネ使用 |
投与方法 |
平均 |
患者番号 |
丸薬(mg) |
8.3±1.07 |
16 |
注入(mg/Hr) |
5.5±0.68 |
17 |
累積投与量
(mg/24Hr) |
36±9.69 |
17 |
Detroit Receiving HospitalとUniversity Health
Centerで人工呼吸器を取り外された患者31名(平均70.3歳、34〜88歳)は、与死離脱(terminal wean)開始時の平均GCSは5.26。29名が死亡、気管切開されていた2名は生きてホスピスに退院した。
35%の患者は、鎮痛剤・鎮静剤は必要なかった。13%の患者には、事前鎮静が必要だった。65%の患者に薬物投与が必要だった。死亡した29名の人工呼吸器離脱完了後の生存時間は、平均24.2±9.34hr(2分〜183時間、中央値2.3時間)。.
.
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Rochester (NY) General
Hospital 28名のうち4名が生きて退院。長期生存の要因は、神経学的・機能的理由からの生命維持中止
*David k.Lee(Rochester General Hospital):Withdrawing Care
Experience in a Medical Intensive Care Unite, JAMA、271(17)、1358−1361、1994
ロチェスター総合病院MICU(16床)で、1991年に生命維持を中止された28名の非脳死患者は平均年齢70.6歳。生命維持を中止された日に、12名はGCS5未満だった。27名は人工呼吸を受け、23名が人工呼吸を中止された。4名は人工呼吸を継続されたが、他の生命維持手段を中止された後に死亡した。4名は血液透析を受け、6名は血圧を維持するために昇圧剤が必要だった。2名は輸血を受けていた。全例で、これらの治療は中止された。そのうえ不整脈治療剤、抗生物質、栄養剤、水分補給も中止された患者もいた。
生命維持中止後の生存 |
中止の理由 |
患者数 |
生存日数
平均±標準偏差 |
生存日数
中央値 |
生存退院
の患者数 |
生理学的無益性 |
12 |
1.9±2.7 |
0.5 |
0 |
神経学的無益性 |
11 |
15.4±41.1 |
2.0 |
1 |
機能的無益性 |
5 |
22.4±21.9 |
18.0 |
3 |
生命維持が中止されてから、14名の患者は24時間以内に死亡、7名は1日〜7日の間に死亡、7名は7日またはそれ以上生存し、4名の患者は生きて退院した。
生理学的な無益性から生命維持が中止された患者の死亡は速く、これらのグループに長期生存者はいなかった(表)。
生存退院した患者のうち、2名は人工呼吸の長期化を避けることを願い、日常生活のかなりを介助されて1ヵ月以内に死亡。1名の患者は、心停止後昏睡が遷延した患者で、家族が神経学的診断の後に治療中止に同意した。看護施設に退院し、日常生活動作に多くの介助を必要とする。4番目は子供で、医師のアドバイスにより、母親は児の予後が長期間、人工呼吸を継続するには非常に悪いと判断したが、生命維持の中止にも関わらず状態は安定、認知機能を害されて看護施設に退院、数ヵ月後、彼女は長期間の看護は不要になった。
San Francisco General
Hospital 家族の要求で生命維持を復活させ24名中2名が生存、意識障害は終末期判断の誤り、医療放棄による発症?
*Julianne G O'Callahan(Department of Medicine, School of
Medicine,University of California):Withholding and withdrawing of life
support from patients with severe head injury、Critical Care
Medicine、23(9)、1567−1575、1995
24名の重症頭部外傷患者で、最初に
中止または控えられた生命維持方法 |
方法 |
中止
No.(%) |
差し控え
No.(%) |
人工呼吸 |
− − |
10(41) |
酸素 |
− − |
3(13) |
気管内チューブ |
− − |
3(13) |
昇圧剤 |
− − |
1( 4) |
他の薬物 |
3(13) |
0( 0) |
水分 |
1( 4) |
1( 4) |
栄養 |
1( 4) |
1( 4) |
合計 |
5(21) |
19(79) |
1990年にサンフランシスコ総合病院集中治療室に入室した重症頭部外傷患者47名は、全員が入室時に気管内チューブと人工呼吸、酸素そして昇圧剤で生命が維持されていた。
24名(51%)が生命維持を控えられるか、中止された。24名のうち脳死判定されたのは11名、うち7名は臓器を提供した。14名は集中治療室で死亡、6名は観察室/病棟で死亡、2名はリハビリテーションセンターで死亡した。
生存患者は2名あり、入院中に医師の見通しが“likely
death”から“植物状態”に変わったため、家族の要求で生命維持を復活した。予後が変わった時、既に患者は集中治療室を退室させられており、1名は人工呼吸依存ではなく集中治療は必要なかった。退院後、両名とも植物状態で生存している。
当サイト注:“植物状態”の用語は不適切だが、原文が“vegetative”あるいは“vegetative
state”のため、そのまま掲載した。2名の生存患者の意識障害は、原疾患の頭部外傷に加えて、過剰な治療の差し控え、中止によって病状を悪化させられた可能性も考えられる。
サンフランシスコ総合病院, Moffitt-Long病院 鎮静剤と鎮痛剤は、患者と家族の苦痛軽減のため、早く死なせるために投薬。挿管したまま筋弛緩剤投与も
*Wilson WC, Smedira(Department of Anesthesia, University of
California):Ordering and administration of sedatives and analgesics during
the withholding and withdrawal of life support from critically ill
patients.、JAMA、267(7)、949−953、1992
対象は1988年11月1日から1989年10月31日までの12ヵ月間に、サンフランシスコのMoffitt-Long病院とサンフランシスコ総合病院の集中治療室で、生命維持が控えられた、または中止された各22名の非脳死患者。
|
生命維持の差し控え時、中止時の投薬理由 |
|
苦痛の軽減
No.(%) |
不安の軽減
No.(%) |
窒息感の軽減
No.(%) |
家族の慰安
No.(%) |
早く死なせるため
No.(%) |
医師 |
29(88) |
28(85) |
22(67) |
17(52) |
12(36) |
看護師 |
28(85) |
17(52) |
25(76) |
27(82) |
13(39) |
昇圧剤は59%の患者に控えられ、人工呼吸は83%で中止された。鎮静剤または鎮痛剤が44名中33名(75%)に投与された。鎮静剤と鎮痛剤の双方が投与された患者は19名。44名中42名(97%)の人工呼吸が中止された。
生命維持の差し控えまたは中止から死亡までの時間は中央値3.5時間(平均11時間、5分間〜5.5日間)、鎮静剤と鎮痛剤を投与された患者は1.3時間(平均5.3時間、6分間〜1日間)。生命維持の差し控え、または中止が決定された後に、患者家族や代理人は、薬物を投与すべきか決断するように問われたことはないにも関わらず「必要があれば患者に、鎮静剤と鎮痛剤を投与してcomfortaleにする」と告げられるのが通例であった。
生命維持の差し控え、中止がされた患者44名のうち、1名は医師・看護師の双方から呼吸困難の苦悶があったとみられた。
鎮静剤と鎮痛剤が投与された患者のうち3名は、抜管されることなく筋弛緩剤も投与された。死亡まで中央値3.6時間(平均3.6時間、1.7〜5.3時間)。
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Columbia-Presbyterian neurocritical care service 死亡まで1日間以上が3割、
11日間生存例も。鎮静剤投与を知らない家族3割、昏睡状態でない患者も人工呼吸停止
*Stephan Mayer, MD;Sharon B. Kossoff(Department of Neurology,
Neurological Institute, Columbia University College of Physicians and
Surgeons):Withdrawal of life support in the neurological intensive care
unit、Neurology、52(8)、1602−1609、1999
コロンビア・プレズビテリアンNICUで、1994年4月1日から1997年3月30日までの3年間に3,432症例のうち229例が死亡、118例がNICU内またはケアが撤退された直後に他のフロアに移されて死亡した。このうち神経集中治療医だけがケアした105例を分析対象とした。非脳死患者74例のうち、32例(43%)が
与死抜管(terminally extubated)されて死亡した。
昏睡レベル別、人工呼吸器抜管後の生存期間 |
生存期間 |
グラスゴーコーマスケール スコア |
合計
n(%) |
3 |
4,5 |
6,7 |
8,9,10 |
1時間未満 |
3 |
3 |
1 |
1 |
8(25) |
1〜24時間 |
4 |
6 |
2 |
2 |
14(44) |
24時間超 |
2 |
2 |
4 |
2 |
10(31) |
5人の患者だけがアドバンス ダイレクティブズを持っていた。人工呼吸停止の決定は、16例(50%)は配偶者、8例(25%)は子が行った。2例のneuromuscular
respiratory failureは患者自身が行った。
抜管後の症状は、死戦期の苦悶または努力呼吸は19例(59%)、毎分30回を超えた頻呼吸は11例(34%)・120回超は4例(13%)、収縮期血圧100mmHg未満の低血圧は8例(25%)、200mmHg超の高血圧は3例(9%)に発生した。
モルヒネまたはフェンタニルが22例(68%)に投与された。モルヒネの平均的投与量は毎時6.3mg(2.5mg〜20mg)。投与時間は20分間から96時間。15例(47%)は抜管後に投与開始し最後まで投与、4例(13%)は抜管後に投与開始し後に中止、3例(9%)は抜管に先立って投与開始し最後まで投与した。総投与量は6から456mg。
抜管後の生存期間の中央値は7.5時間(10分間〜11日間)、25%は1時間以内に、69%は24時間以内に死亡した。1日間〜4日間以内が9例(28%)、4日間超が2例(6%)。抜管時のGCSスコア(中央値5、3〜10)は、抜管後の生存期間と関係がなかった。
24人の代理意志決定者へのインタビューでは、
-
患者が死ぬと診断されたと理解した人は12人(50%)、植物状態になると診断されたと理解した人は11人(46%)、重度障害になると診断されたと理解した人は1人(4%)。
- 患者が死ぬ前に苦痛除去のために投与された鎮静剤等の量について、
(p1605の表現=)66%は適量、33%はdidn't know(知らなかった)と答えた。
(p1606の表現=)12人(50%)は適量、6人(25%)はdon't know(分からない)、6人(25%)は適切でないと答えた。
- 再び生命維持の撤退について決断を迫られる場合に、1人を除いて23人はイエスと回答した。
当サイト注:上記論文には、Comment
inが52巻8号のp1538〜1539と53巻9号のp2215〜p2216にある。後者は、GCSが10ではなく昏睡状態でない患者の人工呼吸を停止したことも非難している。
University of Minnesota
Hospital 死亡まで最長9日間、人工呼吸の設定を下げる与死に大量の鎮静剤、鎮痛剤が必要
*Kathy Faber-Langendoen(Center for Biomedical Ethics, University of
Minnesota):Process of forgoing life-sustaining treatment in a university
hospital: an empirical study、Critical Care Medicine、20(5)、570−577、1992
ミネソタ大学病院で1989年5月1日から6月30日までに死亡した患者70名のうち52名(74%)は、なんらかの生命維持治療を差し控えられ、または中止されて死亡した。1患者当たり平均3.4回、計5.4種類の治療が差し控えられ、または中止された。
26名は人工呼吸を受け、うち11名(42%)は人工呼吸を受けている間に死亡、8名(31%)は人工呼吸の設定を下げ続けられている間に死亡、6名(23%)は抜管後1時間以内に死亡した。重症低酸素脳症の患者1名は、抜管から9日後に死亡した。
人工呼吸補助を減らした時の鎮静剤、鎮痛剤の使用 |
患者
番号 |
モルヒネ
人工呼吸
削減の前
(mg/hr) |
モルヒネ
人工呼吸
削減の後
(mg/hr) |
ミダゾラム
人工呼吸
削減の前
(mg/hr) |
ミダゾラム
人工呼吸
削減の後
(mg/hr) |
1 |
3 |
9 |
0 |
0 |
2 |
11 |
12 |
10 |
10 |
3 |
0 |
8 |
0 |
0 |
4 |
0 |
46 |
3 |
40 |
5 |
15 |
80 |
1 |
1 |
6 |
0 |
0 |
34 |
45 |
7 |
0 |
0 |
0 |
0 |
フルに人工呼吸を受けつつ死亡した11名には、麻酔剤や不安緩解剤の投与量や投与回数の増加を必要としなかった。モルヒネ投与量の中央値は毎時0.4±0.7mg、ミダゾラムは4.8±6.7mg。
抜管した6名のうち、3名の脳死患者には麻酔剤や不安緩解剤は投与されなかった。非脳死患者3名のうち、1名に毎時0.75mgのミダゾラムと毎時0.3mgのモルヒネが投与された。この患者が抜管された時、モルヒネは毎時5.0mgに増量された。他の2名は、抜管時に毎時1.0mg未満のモルヒネとミダゾラムを必要とした。
人工呼吸補助を低下させられながら死亡(terminal
weaning)した患者8名のうち、1名は小児脳死患者で麻酔剤、不安緩解剤ともに投与されなかった。残る7名のうち6名は、人工呼吸補助が下げられるのにともない麻酔剤、不安緩解剤の投与量が増加し(左表)、モルヒネは最大毎時80mg、ミダゾラムは同45mgが呼吸困難と興奮を抑えるために投与された。
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Kingston General
Hospital 死亡まで最長8日以上、ガン患者と脳不全患者に治療制限が多い
*Gordon G. Wood MD FRCPC, Edward Martin BSC(Queen's
University):Withholding and withdrawing life-sustaining therapy in a
Canadian intensive care unit,Canadian Journal of
Anesthesia、42(3)、186−191(原文はhttp://www.cja-jca.org/cgi/reprint/42/3/186にある)
1993年2月〜1994年1月にカナダのクイーンズ大学付属キングストン総合病院ICUへの入室患者は1134名、このうち死亡した非脳死患者110例を分析した。39例(35.5%)はフルに治療されたが死亡し、71例(64.5%)は治療が制限されて死亡した。フルに治療された39例に比べて、治療が制限された71例は入院期間・ICU滞在期間が長く、多臓器不全で、高率に悪性腫瘍があった。13例は治療制限時に単一臓器不全で、うち10例は重症脳外傷による神経不全だった。
治療が制限された71例のうち、正式なアドバンス ダイレクティブズを持っていたのは1例のみ。7例の患者は、治療制限の決定に加わることが精神的に可能と判断された。残る64例の患者のうち38例は友人または家族と終末期について議論した。他の26例の患者家族は、治療の差し控えや治療中止についての患者の見解を知らなかった。3組の患者家族は、医療チームの提案を最初は拒否したが、2組は2日以内に了承、残る1組はさらに1週間後に了承した。
71例中68例の治療中止は、首尾一貫した方法でなされ、まずDNRオーダーが書かれ、昇圧剤が中止され、最後に患者は人工呼吸から離脱させられて抜管された。昇圧剤を投与されていた31例中8例は、昇圧剤の中止だけで死亡した。残る人工呼吸を受けていた60例のうち、20例は人工呼吸器の設定を徐々に下げるterminal
weaning方式で離脱中に死亡(離脱開始から平均3.4時間±1.1時間後)、40例は抜管後に死亡した(離脱開始から32.5時間±7.6時間後)。22例はICUを退室し、その後の7日以内に死亡した。2例は7日以上生存したが、病院を生きて退院した患者はいない。人工呼吸を中止するプロセスの間、52例にモルヒネが6分間当たり11.5±1.6mg投与された。
Queen Elizabeth II Health Sciences Center、Kingston
General Hospital、McMaster University、St. Paul’s Hospital and University of
British Columbia、University of Alberta、Queen’s
University 死亡まで最大4日間、死戦期の症状コントロール不良が4%に発生
*Graeme M. Rocker(Queen Elizabeth II Health Sciences Center):Most
critically ill patients are perceived to die in comfort during withdrawal of
life support: a Canadian multicentre study,Canadian Journal of
Anesthesia、51(6)、623−630、2004(原文はhttp://www.cja-jca.org/cgi/reprint/51/6/623にある)
カナダの6ヶ所の大学病院ICUに、調査期間中256例が48時間以上滞在し人工呼吸された後に死亡した。うち206例は、死を予期して生命維持が中止された。人工呼吸の完全な中止が155例、人工呼吸の縮小が32例、人工呼吸は継続するも他の生命維持を中止が19例。生命維持の中止から患者死亡まで中央値1.1時間、最大72.3時間。
|
患者家族の症状コントロールについての評価 |
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Excellent |
Very good |
Good |
Fair |
Poor |
agitation
動揺・不安・興奮 |
98(58.44%) |
56(31.11%) |
20(11.11%) |
3(1.67%) |
3(1.67%) |
pain
苦痛 |
117(59.9%) |
66(33.33%) |
13( 6.57%) |
1(0.51%) |
1(0.51%) |
shortness of breath
呼吸困難 |
101(54.89%) |
59(32.07%) |
14(7.61%) |
7(3.8 %) |
3(1.63%) |
生命維持が中止された206例に対して、モルヒネは119例に中央値24ミリグラム(2−450mg)投与、ミダゾラムは45例に24ミリグラム(2−380mg)、ロラゼパムは35例に4ミリグラム(1−80mg)、フェンタニルは11例に200マイクログラム(20−4000マイクログラム)、プロポフォルは7例に800ミリグラム(200−1920mg)、ディアゼパムは6例に投与された。
患者の最後の様子について、家族196名のうち73名(37.2%)は完全に、48名(24.5%)は大変、58名(29.6%)はおおむね安楽(comfortable)であったとみていた。3名は患者の内的興奮が、1名は患者の苦痛が、3名は呼吸困難があったと感じた。
家族の163名(83.6%)は、患者の生命は不必要に延命も短縮もされなかったと答え、23名(11.8%)は不必要な延命、9名(4.6%)が不必要に短縮されたと述べた。患者が死ぬ最後の数時間に181名(92.3%)は医療チームから支えられたと感じ、8名(4%)は見捨てられたと答えた。
(p628)4%の家族は、彼らの愛する人がvery
uncomfortableであったと信じており、我々はすべての死にゆく患者の症状コントロールを改善する努力を続けなければならない。同様に、見捨てられたと感じている家族に話しかけなければならない。
Queen Elizabeth II Health Sciences
Centre 死亡まで最長6.5時間、吸入気酸素濃度を下げられ人工呼吸中に死亡、筋弛緩剤投与5例、死亡直前にモルヒネ7倍
*Richard I. Hall, MD, FCCP; and Graeme M. Rocker, MA, DM, FRCP(Dalhousie
University):End-of-Life Care in the ICU.Treatments Provided When Life
Support Was or Was Not Withdrawn、CHEST、118(5)、1424−1430、2000(原文はhttp://www.chestjournal.org/cgi/reprint/118/5/1424にある)
1996年7月から1997年6月の12ヶ月間、クイーンエリザベス2世健康科学センター(カナダ・ハリファックス市)ICUに患者1327名が入室し、174名がICU内で死亡した。生命維持が中止されたのは138名(10.3%)、生命治療の差し控えまたは中止による死亡は79.3%。
生命維持が中止された患者で、死亡時に人工呼吸を受けていたのは82名、生命維持の中止から死亡まで4.3時間(2.1−6.5時間)。死亡前12時間に投与されたモルヒネとロラゼパムは、生命維持を継続された患者に比べて、中止された患者のほうが5倍多かった。特にモルヒネ使用は死亡前4時間に増加し、毎時投与量は死亡前12時間の1.6±3.4mgから、死亡直前の11.4±34.6mgまで上昇、総累積投与量の中央値は32mg(範囲1〜698mg)。医師によりモルヒネ投与量は毎時1.4±4.7mgから12.4±30.2mg、他の薬剤使用も同様の傾向だった。
筋弛緩剤の使用は、2名の医師が多かった。生命維持を中止された患者で、死亡時に筋弛緩剤を投与された患者は5名。筋弛緩剤を投与された患者は全員、死亡時に人工呼吸を受けていた。治療を中止された患者で、吸入気酸素濃度を下げられた患者は11名。治療を中止された患者のすべては、吸入気酸素濃度を下げられた後、あるいはinotropic
supportを中断された後に人工呼吸を受けながら死亡した。
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Children's Hospital, Massachusetts General
Hospital, Tufts-New England Medical
Center
4時間〜24時間生存が53人のうち8人、すべてに薬物投与、24時間以上生存者には3倍量投与、筋弛緩剤の影響下で終末期判断
*Jeffrey P.Burns(Department of Anesthesia, Harvard Medical School and
Children's Hospital):End-of-life care in the pediatric intensive care unit
after the forgoing of life-sustaining treatment, Critical Care Medicine、28(8)、3060−3066、2000
米国ボストンの3つの教育病院(Children's Hospital, Massachusetts General Hospital,
Tufts-New England Medical
Center)の小児集中治療室では18ヶ月間に連続1,913例のうち100例が死亡、うち完全なデータが残された97症例を分析した。15例は脳死を宣告され、29例(平均14ヶ月、Pediatric
Risk of Mortality:PRISMは34)は蘇生を試みたが死亡、53例(平均30ヶ月、PRISM14)はなんらかの生命維持が控えられて死亡した。
生命維持の撤退は、人工呼吸の停止が53例全例、うち47例(89%)はextubated(抜管)された。terminal
wean(与死離脱)の6例は気管内チューブが取り除かれ、同時に心血管系補助も停止された。人工呼吸停止後の生存時間は、4時間未満が45例(85%)、4時間から24時間が8例(15%)。
鎮静剤および/または鎮痛剤は、47例
(89%)に投与された。脳不全(昏睡状態)患者5例には50%に、敗血症患者8例には89%に、その他の患者にすべてに鎮静剤、鎮痛剤が投与された。
benzodiazepines(ミダゾラム、ロラゼパム、またはディアゼパム)が44例に、barbiturates(ペントバルビタール)が3例に投与され、鎮静剤が投与されなかったのは6例。benzodiazepinesが投与された患者のうち17例(39%)は投与量が維持され、27例(61%)は増加した。barbituratesを投与された患者のうち、2例は投与量が維持され、1例は増量した。
鎮痛剤(モルヒネ、フェンタニル、またはメペリディン)は46例に投与され、7例には投与されなかった。鎮痛剤を投与された患者のうち、3例(6%)は投与量が減少し、10例(19%)は維持され、33例(62%)は増量した。
生命維持撤退患者への平均薬物投与量 |
|
生命維持撤退の
24時間前 |
生命維持撤退の
4時間前 |
4時間後
生命維持撤退から |
24時間後
生命維持撤退から |
Benzodiazepine投与量
mg/kg/hr
ディアゼパム換算 |
0.54(n=44) |
0.59(n=44) |
0.98(n=44) |
1.4(n=6) |
アヘン剤投与量
mg/kg/hr
モルヒネ換算 |
0.54(n=41) |
0.55(n=44) |
1.00(n=46) |
1.80(n=4) |
神経筋遮断薬(neuromuscular blocking agents:NMB)の投与を、生命維持の撤退を決めた後に開始したのは1例もなかった。14例(26%)は、生命維持を止める4時間以上前に投与された。14例中6例への神経筋遮断薬は抜管前に中止され、呼吸が回復した。残る8例は人工心肺、昇圧剤、人工呼吸の停止による急速な生理状態の悪化で死亡した。6名の患者は人工呼吸が停止された。これらの14例の生命維持撤退前後4時間に、鎮静剤の平均投与量は0.7から0.8mg/kg/hrへ増加した。鎮痛剤投与量は0.5mg/kg/hrから0.9mg/kg/hrに増加した。
医師と看護師は、これらの薬物投与の理由として患者の苦痛、不安、窒息感、およびhastening
death(早められる死、促進死)に言及した。hastening
deathについて医師・看護師の91%は、ターミナルケアの「容認できる、意図しない副作用」とみなしていた。
当サイト注:この論文については、Comment
inが同じ28巻8号p3119〜p3123に掲載されている。倫理的な言及のほかに、神経筋遮断薬が投与されており、その影響で自発呼吸能力が無いと判断したのではないか、など薬物影響下の終末期判断にも異論が呈されている。
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University of Toronto 心臓死肺ドナー候補者の半数は、心停止に至らなかった
*Marcelo Cypel(The Toronto Lung Transplant Program, University of
Toronto):Initial Experience With Lung Donation After Cardiocirculatory Death
in Canada,The Journal of Heart and Lung Transplantation,28(8),753-758,2009
http://www.hyperhidrosis-surgery.org/eng/b/15.pdf
2006年6月から2008年12月までに9例の心臓死ドナー候補者は、人工呼吸停止後に2時間以内に心停止に至らなかった。最終的に9例のドナーの肺が移植に用いられた。
当サイト注:p755のfigure2には、肺ドナーとした9例のほかに、ドナーとしなかった4例の人工呼吸停止から120分間の収縮期血圧の推移が記載されている。心停止ドナーとされなかった患者のなかには、当初の血圧が140、その後下降して130程度で十数分間継続した後、再び150超までの上昇が9分間程度、その後60程度に急落した患者もいる。心停止ドナーとされた患者のなかには、当初の血圧が170程度、その後110、160、100、150、60、80、0と大きく変動したドナーもあり、死戦期の苦悶が伺える。
*Bronwyn J.Levvey(Lung Transplant Service, Alfred
Hospital and Monash University):Definitions of Warm Ischemic Time When Using
Controlled Donation After Cardiac Death Lung Donors、Transplantation、86(12)、1702−1706、2008
2006年5月から2008年8月までにマーストリヒトカテゴリー3の心臓死亡ドナー候補者13例のうち、抜管または人工呼吸停止後に、10例は20分以内に心停止した。90分以内に心停止至らなかったのは3例。
当サイト注:この論文は、抜管または人工呼吸停止後(以下、人工呼吸停止後)の40分間における収縮期血圧、心拍数、末梢血酸素飽和度の推移を掲載している。
-
収縮期血圧の推移=人工呼吸停止時の血圧が100mmHg以上は7例、100mmHg以下は5例(データ欠落が1例)。心停止までに、血圧が低下する一方だったのは13例中3例のみで、8例は経過中1回の上昇がみられる。1例は2回上昇しているとみられる(線が錯綜しているため断定できない)。人工呼吸停止後から血圧が上昇したのは、100mmHg以上で2例(160mmHg台から200mmHg台へ、140mmHg台から160mmHg台へ)、100mmHg以下で2例(80mmHg台から110mmHg程度へ、70mmHg台から80mmHg台へ)。90分以内に心停止しなかった3例のうち、
-
1例は人工呼吸停止時の血圧が110mmHg台、人工呼吸停止後に血圧が緩やかに15分後頃まで120mmHg台に上昇し、40分後の時点で110mmHg台と緩やかに推移している。
-
人工呼吸停止時の血圧が120mmHg台だった1例は、人工呼吸停止10分後に80mmHg台まで低下したが、その後は緩やかに上昇し、40分後の時点で100mmHgまで緩やかに回復した。
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人工呼吸停止時の血圧が140mmHgに近かった1例は、人工呼吸停止10分後までほぼ同じ血圧で推移した後に、13分後には80mmHg台まで低下したが、16分頃には160mmHg近くまで急上昇し、さらに39分頃の時点で220mmHgに上昇している。
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心拍数の推移=心停止までに、心拍数が低下する一方だった患者は1例のみ。抜管または人工呼吸停止直後から毎分数拍〜10拍上昇した3例のほかに、数分間安定した後に毎分10拍〜20拍上昇する者、9分間低下した後に7分間上昇して人工呼吸停止時の心拍数を上回る者、1〜6分程度安定した後に急落するケースなど多様だ。多くは心停止までに心拍数が横ばいになる期間が2回みられる。90分以内に心停止しなかった3例のうち、
- 1例は人工呼吸停止時の心拍数が毎分120拍、人工呼吸停止25分後まで数拍増加して、その後も120拍台で大きな変動はない。
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人工呼吸停止時に100数泊程度だった1例は、人工呼吸停止後25分後まで120拍近くまで増加して、その後も110拍台だった。
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人工呼吸停止時に60拍だった1例は、8分間程度安定した後に、人工呼吸停止後12分頃には50拍に低下した直後に、人工呼吸停止13分頃には130数拍、同15分後には140拍に急上昇、その後は下降して同40分後には50拍台に低下した。
-
酸素飽和度の推移=90分以内に心停止した10例のうち9例の酸素飽和度は、抜管または人工呼吸停止後に低下する一方だった。1例は90%台から100%近くまで上昇した。心停止時の酸素飽和度は80%台が2例、40%台が1例、30%台が2例、0%が4例だった。90分以内に心停止しなかった3例のうち、
- 1例は人工呼吸停止時の100%近い状態から10分後に60%台まで低下した後は、60%から70%の間を推移した。
- 1例は人工呼吸停止時は60%、5分後に50%台まで低下、15分後に数%上昇した後は、40分後は40%台だった。
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1例は人工呼吸停止の11分後からのデータのみ記載されている。40%台から始まり16分後頃には90%、26分後頃にはさらに数%上昇した後に、人工呼吸停止から40分後には50%台に減少した。
-
次に紹介する日本呼吸器外科学会雑誌22巻3号に記載のとおり、同病院のドナー候補者は、動脈血酸素分圧が443mmHgと酸素化されていることも、死戦期の経過に影響したとみられる。
*大藤 剛宏、山根 正修、岡崎 恵、豊岡 伸一、佐野 由文(岡山大学病院呼吸器外科)、グレッグ・スネル(モナッシュ大学アルフレッド病院):臨床心臓死肺移植における中間期成績、日本呼吸器外科学会雑誌、22(3)、432、2008
2006年5月から2007年12月までにオーストラリアのアルフレッド病院に臓器提供の申し出のあったマーストリヒトカテゴリー3心臓死亡ドナーのうち、11例は心臓死ドナー基準を満たさず提供は断念された。残る8例については実際に臓器摘出されたが、うち1例は摘出後評価にて使用を断念された。臓器摘出にいたった8例については延命治療中止後平均19分で心停止に至った。90分を超えても心停止に至らなかったケースは全19例中2例に認められた。移植に至った7例ではドナー平均年齢30歳、延命治療中止直前のPaO2
443mmHg、平均温虚血時間31分(11−54分)で移植された。
心臓死ドナーの分類( Categories of non-heart-beating donors )=マーストリヒトカテゴリー
- Dead on arrival =病院に運び込まれた時には、既に心臓死の状態であった場合
- Unsuccessful resuscitation =救命救急室で救命措置を受けるも、蘇生できなかった場合
- Awaiting cardiac arrest =入院中の患者が脳死を経ずして心臓死となった場合
- Cardiac arrest while brain dead =脳死となり、脳死判定後に心停止を待って摘出する場合
Freeman
Hospital 心停止ドナー29名のうち死戦期5時間超が9〜10名?5日間のドナーも2名?
*S. Sohrabik(Freeman Hospital, Liver and Renal Transplant Unit):Agonal
Period in Potential Non-Heart-Beating Donors、Transplantation
Proceedings、38(8)、2629−2630、2006
*S. Sohrabik(Freeman Hospital, Liver and Renal Transplant Unit):Renal Graft
Function After Prolonged Agonal Time in Non–Heart-Beating
Donors、Transplantation Proceedings、38(10)、3400−3401、2006
1998年から2004年までに、心停止ドナーから摘出された腎臓は58個(移植された腎臓について38巻8号は42個、38巻10号は40個としている)。マーストリヒトカテゴリー3のドナー29名から摘出された。(治療中止から心停止までの死戦期が5時間を超えたのは38巻8号は20腎、38巻10号はドナー数にして9名)。治療中止から心停止までの死戦期は、多くの臓器摘出施設は待機時間の限界を2時間としているが、当施設は5時間を限界としている。当施設で心停止ドナーからの臓器摘出を始めた時に、待機時間の限界を設けていなかった。死戦期が24時間以上が4腎、5日間のドナー(複数)もあった。
Children's Hospital of
Philadelphia 小児集中治療患者の直接死因トップは生命維持からの撤退、鎮痛剤投与、42%は10分間以上生存、3%は91分〜2時間生存
*Tracy Koogler,MD,Andrew T.Costarino,Jr,MD FAAP(Department of Anaethesia
and Critical Care Medicine,Children's Hospital of Philadelphia):The
potential benefits of the pediatric nonheartbeating organ
donor(心停止ドナーの潜在的利点)、PEDIATRICS、101(6)、1049−1052、1998
1992年1月から1996年7月までに小児集中治療室に入った6307例のうち319例(5.34%)が死亡した。内訳はライフサポートの撤退111例(34.8%)、蘇生不能102例(32.0%)、脳死84例(26.3%)、DNR指示22例(6.9%)。ライフサポートの撤退(withdrawal
of life
support)から死亡までの時間は、10分未満58%、10分〜30分19%、31〜60分13%、61〜90分6.5%、91〜120分3%だった。
ライフサポートの撤退後1〜2時間以内に死亡しない場合は、臓器は移植には使えないので患児はPICUまたは他の場所に死ぬために戻される。人工呼吸などライフサポートを止めるときに苦しむ患者もいるため、その場合は鎮痛剤を与えて苦痛を取り除かれるべきだ。これらの薬剤は、呼吸を抑制し、死の過程を早める可能性を高める。このリスクにもかかわらず、苦痛を軽減する主な効果が、呼吸を抑制する二次的効果を上回り、よく受け容れられている。私たちの見解では、医師が子供が苦痛を感じると判断したならば、充分な鎮痛剤が与えられるべきだ。ほとんどの潜在的ノン・ハートビーティングドナーは、特に小児では神経に重大な障害があり鎮痛剤の必要量は最低限とみられる。
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*小久保 雅代、更科 岳大、高橋 弘典、大久保 淳、岡本 年男、町田 祐子、高橋 悟、梶野 真弓、高瀬 雅史、白井 勝、坂田 宏、沖 潤一(旭川厚生病院小児科)、丸山 静男(現 美幌療育病院):NICUにおける緩和医療の実際、旭川厚生病院医誌、15(2)、67−72、2005
旭川厚生病院NICUに1996年〜2001年までの6年間に入院した新生児1157名のうち、死亡退院は17例。平均出生体重1442g(452g〜2998g)、平均死亡日齢4.4日(0〜23日)、平均生存時間107時間(1.5時間〜23日間)。人工呼吸器使用14名、12名が死亡時に人工呼吸器の抜管や離脱をした(死亡時挿管3名、非2名)。抜管後死亡時間は35±25分(5分〜80分)。
院外出生、出生体重452gの超低出生体重児は日齢5に高カリウム血症が悪化、呼吸器離脱後約20分で死亡を確認。院外出生の重症仮死成熟児は低酸素虚血性脳症を合併。頭部CT・脳波を行い日齢5、父親に病状と「緩和的医療」選択の可能性を説明した。父親は、母親が親の自覚を持てるように一緒に過ごす時間を希望した。日齢10、母親が初面会した。日齢13、抜管し1時間20分後死亡確認した。
Frenchay
Hospital 治療中止220名中ICU内死亡は203名、17名は一般病棟で死亡、最長15日間生存?
A.R.Manara AR(Frenchay Hospital):Reasons for withdrawing treatment in
patients receiving intensive care, Anaesthesia、53(6):523−528、1998
英国Frenchay HospitalのICUに、1992年8月から1996年2月までに1745名が入室、1407名が生きてICUを退室、338
名(19.4%)がICU内で死亡した。死亡患者のうち、死亡まで積極的な治療が行われたのは135名、治療中止は220名(12.6%)に行われ、203名がICU内で死亡しICU内死亡の60%を占めた。17名はICUを退室した後に、末期患者用一般病棟で死亡した。治療中止の決定後、ほとんどの患者は24時間以内に死亡した(中央値1日、範囲1日〜15日)。
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University
of Miami Organ Procurement Organization 「心停止」ドナー58人のうち、1人は1時間以上生存
*タツヤ フクモリ、トモアキ カトウ、David Levi, Les Olson, セイゴ ニシダ, Suzan Ganz, ノボル ナカムラ,
Juan Madariaga, ノブヒロ オーコーチ, ススム サトミ, Miller J,Tzakis A:Use of older
controlled non-heart-beating donors for liver transplantation
、Transplantation、75(8)、1171−1174、2003(執筆者の所属は、ほとんどDepartment of Surgery,
University of Miami School of Medicine, Miami, FL,
USA。フクモリ氏は東北大学にも所属、オーコーチ氏は筑波大学のみ、サトミ氏も東北大学のみの所属)
1994年6月から2001年12月までに、University of Miami Organ Procurement Organization
において肝臓と心臓の心停止ドナー58人があった。55歳未満ドナー39人のうち移植に用いたのは23肝、16肝は移植に用いなかった。内訳は摘出術中に移植不適と評価された肝臓が6肝、脂肪肝は5肝、活動性肝炎3肝、悪性腫瘍あり1肝、ドナーが人工呼吸停止後1時間以内に死亡しなかった1肝。
*ダニエル・F・チャンブリス(米国ハミルトン大学教授・社会学):ケアの向こう側 組織的行為としての死(3)、ナーシング・トゥデイ、16(9)、52−55、2001
*ダニエル・F・チャンブリス( 〃 〃):ケアの向こう側 組織的行為としての死(4)、ナーシング・トゥデイ、16(11)、48−51、2001
人工呼吸器にはさまざまな調整が可能で(例えば酸素濃度、換気量、気道内圧など)、調整は患者の状態に影響する。患者が死に向うように調節することもでき、しかも自然経過に対しては何ら積極的介入をしないというやり方もある。(中略)
このような一連の手順は特定の1人が行うわけではなく、複数の人々が関与する。ある看護婦の話によると、医師が呼吸療法士に患者の人工呼吸器の設定値を少し下げるように言い、数日後さらに下げる、という具合にして、ある日患者は亡くなるのだそうだ。呼吸療法士は、患者のことを最もよく知っている医師がそう言うのだから、患者の状態は改善しているのだろうと考える(しかし別の看護婦は、そんなことはあり得ない、呼吸療法士は知っていたはずだ、と言う)。医師は、確かにその決定を下したたが、その結末に立ち会うことはない。このようなかたちでの離脱は、患者を治療開始前の状態に戻して、事を終わらせようとするものである。「あとは神様におまかせ」という感じであろうか。
当サイト注:患者の状態を観察しながら人工呼吸器からの離脱を図る手順が、医療スタッフの共通認識とみられることから、呼吸療法士の主張に虚偽が伺える。
もう少しはっきりしたかたちは、実際に患者の人工呼吸器の接続を外してしまうやり方である。(中略)この場合、死はほとんど避けられないものとされ、患者を逝かせるために決定が下されたことは明らかなので、責任の所在もより明確である。その一例として、ある新生児の話が私のインタビュー記録の中にあるので、少し長くなるがそれを引用する。
べビーD.は、この新生児ユニットに入って5ヵ月になる。両親は14歳の少女と19歳の青年である。赤ん坊は刺激に反応し、こちらを見つめたりもするが、肺が完全にぼろぼろで、人工呼吸器なしには生きていける望みはなかった。
赤ん坊を自然に逝かせようという両親の決断に対し、母方の両親は賛成したが、父方の両親は「奇跡を信じたい」(看護記録のまま)と言った。最終的に「決めるのはあなた方です。しっかりと受け止めなければなりません」と言われた赤ん坊の両親は、ついに赤ん坊を逝かせるという決断をした。彼らはより頻繁に面会に行くようになり、赤ん坊を抱き、話しかけ、[婦長に]いろいろ質問をしたりもした。
[人工呼吸器を外す日の]前夜、婦長と両親は一晩中眠れなかった。医師も同じだった。皆、そのことを考えていた。当日の朝、彼らは病室にやって来た。午前8時の予定だったが、ユニット内に他の人たちがいるからなどと言って医師がぐずぐず遅らせたため、結局午後2時まで待たなければならなかった(ある看護婦は「あれはひどかったわ」と言っていた)。
その行為は、婦長と(女性)医師により行われた。人工呼吸器を外すと、赤ん坊は驚いて目を大きく見開き、1分間ほど不規則な痙攣を起こした。それまで手足を縛られていたが、それはほどかれた。モルヒネの筋注[筋肉内注射]が行われた。赤ん坊の静脈はほとんど潰れていて静脈に針を入れることができなかったため、効果では劣る筋注でモルヒネを投与しなければならなかった。しっかりと抱きかかえる婦長の腕の中で、赤ん坊は再び痙攣を起こし、やがてあえぎ始めた。15分ほどかかったが、これはかなり早いほうだ。[インタビュー]
同様のケースを扱った別の看護婦が、その時の気持ちを話してくれた。
ある患者の人工呼吸器を外すことになって、呼吸療法士と私でそれを行ったの。患者はすぐに死んだわ……あんなことを、あんなに淡々としたのは初めて……まるで自分が神か何かになったように、生死を決める力をもっているように思ったの。でも、そんな権利は絶対ないのよね。医師たちには腹が立ったわ。私にこんなことをさせるなんて。[インタビュー]
この看護婦は、本来は医師が人工呼吸器を外すべきなのに、自分にその責任が押し付けられたことを怒っている。直接手を下す役割を自分がしなければならなかったことも、彼女には苦痛であった。
私は悩んだわ。なぜ私がしなければならないのかって……他の人たちは皆、こういうことにはとても慎重でうまく立ち回っていたわ。[インタビュー]
当サイト注:上記のほかにチャンブリスは、「安楽死の手順に従うことによる“患者を死なせる決断の回避”」「投与間隔が看護師の自由裁量に任された麻薬鎮痛剤の大量投与」「複数の看護師が交代でモルヒネを注射して責任分散を図る」などの行為も紹介している。
*田中
まゆみ(聖路加国際病院内科):危険がいっぱい 医療事故と研修医教育 倒れていた老婦人、Medicina、42(1)、148―158、2005は、米国の臨床現場における田中氏の経験をもとにしたフィクションだが、
これも治療を中止されてから数日〜数週間後に死亡する患者の経過を考える素材(栄養・水分・薬剤などの中止による死)を提供している。
脳卒中で倒れ、心筋梗塞と肺梗塞を合併した76歳白人女性に、心筋梗塞の治療として(脳卒中患者には不適切な)亜硝酸とベータブロッカーを投与して、血圧が急低下したために人工呼吸を開始した。その後、血圧と意識は戻ったが自発呼吸が不安定なため抜管できなかった。1週間後に家族から治療中止の申し入れがあった。事前指示書はなかったが、「患者さんは無駄な延命は嫌がっていたとのことでした」。鎮静薬を切り、自発呼吸が戻ってきたところで家族立会いのもと抜管した。呼吸停止は起こらず、酸素投与だけで維持できた。しかし、意識は戻らず傾眠状態が続いた。胃管栄養も中止、すべての薬剤を切って入院10日後に亡くなった。
田中氏は「脳卒中自体が重症で、挿管しても抜管は困難かもしれないことをあらかじめ家族に説明したうえで挿管態勢を整えておいたおかげで、後々のトラブルを回避できた」としている。
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