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脳波がある脳幹死、重症脳幹障害患者

 

52歳脳挫傷例

68歳脳内出血例

46歳脳梗塞例、59歳小脳出血例

1歳5か月心肺停止例

 頭皮上から測定する脳波は感度が悪いが、その頭皮上脳波の測定さえ行わずに脳死と判定して 、臓器摘出まで行う国や施設がある。

 広島大学医学部脳神経外科の有田氏らは、1994年の日本救急医学会雑誌5巻2号において以下を書いている。
 「脳幹死という言葉には二種類の意味が含まれている。ひとつは大脳半球機能の存非は不明であるが、単に脳幹機能の廃絶が確認されたというだけの意味である。これは広義の脳幹死ということもでき、脳死判定基準に脳波活動の停止を必須条件としていない国家、地域では脳幹死といえばこの状態である。一方、本邦のごとく脳死判定基準のなかに脳波検査を必須としていれば、脳幹機能が廃絶しているが、なお脳波活動は存続している状態の患者も確認され得る。広義の脳幹死に対して、この状態は狭義のあるいは孤立性の脳幹死と言い換えることができる。(中略)孤立性脳幹死においては脳波活動が保たれていることから、ある時期においては表出不可能な精神活動が残存している可能性は否定できない。その意味では、孤立性脳幹死は臨床的かつ社会的には全脳死と同一に処遇されるべきでなく、独立して対処されるべきと思われる 。

 そして同科の有田氏、黒木氏らは1995年の日本救急医学会雑誌6巻3号において「最重症脳幹障害では、真の孤立性脳幹死からごく一部の脳幹機能の残存する擬似脳幹死とよべるさまざまな病態が存在することが考えられ、その病態は全脳虚血とほぼ同義であるところの全脳死ほど一様ではない」として、最重症脳幹障害患者に自発呼吸のある症例を提示した。無呼吸を目視観察するのではなく、計器で呼吸量を示した。

 2000年の日本救急医学会関東地方会雑誌21巻1号において、日本医科大学の横田氏らは「当初孤立性脳幹死と考えられたが、その後自動眼球運動が認められ、最終的には重症脳幹障害と診断された一例」を報告。「脳幹機能停止状態と診断されるものの中には、その後の経過で脳幹機能が回復してくる例も存在することが今回の経験で明らかとなり、孤立性脳幹死の診断は慎重に行われるべきと考えられた」と結んでいる。

 日本医科大学における脳幹障害からの回復例も、発症から42日後と長期間を要した。臓器獲得に強い誘引が働いたり、優生思想が強い、あるいは医療費抑制への考慮が働く施設や関係者が周囲にいる場合、長期間の治療は続けず、自発呼吸能力など生命徴候の観察もおざなりにして、早期に治療打ち切り、臓器摘出まで強行することが懸念される。その結果、精神活動がある生きている人を、臓器・組織ドナ ーにしてしまう残虐行為を避けられない。

 

横田 裕行(日本医科大学附属多摩永山病院救命救急センター):孤立性脳幹死と鑑別困難であった重症脳幹障害の1例、日本救急医学会関東地方会雑誌、21(1)、142―144、2000

 52歳女性、歩行中に大型バイクと接触し受傷、脳挫傷、外傷性くも膜下出血、骨盤骨折、両側血気胸。頭部CTにて小脳内血腫を認めたため後頭蓋窩減圧開頭術を施行。その後、頭蓋内圧は徐々に上昇し、受傷後24時間では60mmHg、深昏睡で対光反射も消失した。第4病日には脳死判定基準の7つの脳幹反射が全て消失したが、脳波活動 は認められた。無呼吸テストは実施しなかったが、自発呼吸は確認できなかった。脳波活動が認められていたため、脳死と診断されることなく、治療を続行していた。
 その後、第41病日までは脳幹反射は消失していたが、第42病日に対光反射を認め、第58病日には自動眼球運動も確認できるようになった。この経過から第41病日までは孤立性脳幹機能停止状態、それ以降は一部の脳幹機能が回復した重症脳幹障害と考えられた。脳幹機能の一部が回復した第62病日の脳血管撮影では内頸動脈系、椎骨動脈系ともに血流は維持されていた。115病日に合併症死。



黒木 一彦(広島大学脳神経外科):孤立性脳幹死と鑑別が困難であった最重症脳幹障害(疑似脳幹死)の1例、日本救急医学会雑誌、6(3)、253―258、1995

 68歳男性、突然の激しい頭痛を自覚、救急車で搬送中に意識レベルが低下し、来院時JCS200.CTでは小脳虫部から第四脳室、側脳室へと血腫が広がり急性水頭症を伴っていた。両側脳室ドレナージ術、バルビツレート療法を開始。その後、頭蓋内圧が安定化したためバルビツレート療法は一週間で中止した。その後も意識レベルはJCS300と改善することなはく、第11病日を最初に8回の脳死判定検査を行った。いずれの判定においても、脳波所見を除いて厚生省竹内班脳死判定基準を満たし、聴性脳幹反応も陰性であった。脳波は第45病日まで後頭葉を中心にシータ波、アルファ波が認められた。経頭蓋ドプラーでは中大脳動脈に順行性血流が存在した。第6病日にSPECTで脳幹部に13ml/100g/min、大脳半球に24ml/100g/minとわずかであるが脳血流が認められた。
 8回施行された無呼吸試験では、不規則で微弱な胸郭運動は存在したが、明らかな呼吸運動とは認められなかった。しかし第123病日に行なった無呼吸試験では、10分間のうち最後の1分間にスパイロメータを装着し、客観的に自発呼吸の有無を検査したところ、1分間に約700mlという少量の換気を認めた。MRIでは第18病日に、少なくとも下部脳幹は器質的に保たれていた。第116病日でも延髄は比較的保たれている所見を呈していた。アトロピンテストではいずれの時期でも陽性反応を示した。
 患者は髄膜・脳室炎、消化管出血を併発し、第137病日に死亡した。頭部のみ行われた剖検で中脳・橋・小脳に融解壊死が認められたが、延髄付近は比較的保たれている所見が得られた。




有田 和徳(広島大学脳神経外科):孤立性脳幹死の2例、日本救急医学会雑誌、5(2)、192―196、1994

 症例1:46歳女性、昏睡状態で入院、第2病日のCTでは脳幹部から両側視床にかけて梗塞巣が認められた。大脳半球には異常は認められなかった。第3病日、意識はJCS300で瞳孔は両側4mmで固定、厚生省脳死判定基準に指定されているすべての脳幹反射の消失と、10分間の無呼吸試験によって無呼吸が確認された。
 一方、脳波は前頭部を中心に高振幅の徐派が散発していた。両側中大脳動脈の経頭蓋ドプラー所見は正常であった。その後、次第にドパミンに対する反応が不良となり、血圧が低下し第5病日に心停止に至った。

 症例2:59歳男性、突然の頭痛、嘔吐で発症した。CTでは巨大な小脳出血が認められた。深昏睡であったが対光反射が残存していたので開頭血腫除去減圧と脳室 ドレナージ術を施行。第7病日にバルビタール療法を中止したが、その後も脳幹反射は認められなかった。バルビタール療法中、脳波のトレンドモニター上では徐派バーストが認められ、その後アルファやシータ波帯域の脳波活動が持続的に認められるようになった。
 しかし第4病日の聴性脳幹反応検査は無反応。第12病日の脳血管撮影では、両側内頸動脈、椎骨脳底動脈系いずれも末梢までよく造影された。第13病日と第14病日に厚生省基準に基づく脳死判定を試みた。2回とも脳波上アルファやシータ波帯域を含む活発な電気的活動が認められる以外は、厚生省脳死判定基準を完全に満足した。脳波は発症19日まで検出し得た。第24病日のMRIでは、小脳、脳幹、後頭葉、側頭葉下面には梗塞像が認められた が、前頭葉、頭頂葉には明らかな異常は認められなかった。
 その後、ドパミンに対する反応が不良となり血圧が次第に低下し、またドパミン液の交換時に血圧の測定が不可能になるというエピソードが数回起こった。第26病日に脳波は完全に消失し、第30病日に心停止した。



永野 哲(東京都立神経病院神経小児科):いわゆる脳幹死と判断された後にanisocoriaをきたした二例、脳波と筋電図、14(1)、92、1986

 1歳5か月の男児、臨床的に脳幹死と判断され、90日の生存期間中にanisocoria(瞳孔左右不同症)が認められた。患児は突然の無呼吸・心臓停止により深昏睡となり、脳波はほぼ平坦であったが右後頭部では15μVの活動が持続性に認められた。さらに、ほぼ同様の1例も経験。

 


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