頭皮上から測定する脳波は感度が悪いが、その頭皮上脳波の測定さえ行わずに脳死と判定して
、臓器摘出まで行う国や施設がある。
広島大学医学部脳神経外科の有田氏らは、1994年の日本救急医学会雑誌5巻2号において以下を書いている。
「脳幹死という言葉には二種類の意味が含まれている。ひとつは大脳半球機能の存非は不明であるが、単に脳幹機能の廃絶が確認されたというだけの意味である。これは広義の脳幹死ということもでき、脳死判定基準に脳波活動の停止を必須条件としていない国家、地域では脳幹死といえばこの状態である。一方、本邦のごとく脳死判定基準のなかに脳波検査を必須としていれば、脳幹機能が廃絶しているが、なお脳波活動は存続している状態の患者も確認され得る。広義の脳幹死に対して、この状態は狭義のあるいは孤立性の脳幹死と言い換えることができる。(中略)孤立性脳幹死においては脳波活動が保たれていることから、ある時期においては表出不可能な精神活動が残存している可能性は否定できない。その意味では、孤立性脳幹死は臨床的かつ社会的には全脳死と同一に処遇されるべきでなく、独立して対処されるべきと思われる
。」
そして同科の有田氏、黒木氏らは1995年の日本救急医学会雑誌6巻3号において「最重症脳幹障害では、真の孤立性脳幹死からごく一部の脳幹機能の残存する擬似脳幹死とよべるさまざまな病態が存在することが考えられ、その病態は全脳虚血とほぼ同義であるところの全脳死ほど一様ではない」として、最重症脳幹障害患者に自発呼吸のある症例を提示した。無呼吸を目視観察するのではなく、計器で呼吸量を示した。
2000年の日本救急医学会関東地方会雑誌21巻1号において、日本医科大学の横田氏らは「当初孤立性脳幹死と考えられたが、その後自動眼球運動が認められ、最終的には重症脳幹障害と診断された一例」を報告。「脳幹機能停止状態と診断されるものの中には、その後の経過で脳幹機能が回復してくる例も存在することが今回の経験で明らかとなり、孤立性脳幹死の診断は慎重に行われるべきと考えられた」と結んでいる。
日本医科大学における脳幹障害からの回復例も、発症から42日後と長期間を要した。臓器獲得に強い誘引が働いたり、優生思想が強い、あるいは医療費抑制への考慮が働く施設や関係者が周囲にいる場合、長期間の治療は続けず、自発呼吸能力など生命徴候の観察もおざなりにして、早期に治療打ち切り、臓器摘出まで強行することが懸念される。その結果、精神活動がある生きている人を、臓器・組織ドナ
ーにしてしまう残虐行為を避けられない。 |