戻る • ホーム

下記のページ数または見出しをクリックすると、
該当箇所にジャンプします。

62ページ
前文
63ページ
脳死の誤診率は一〇〇%近い

64ページ

各時代の脳蘇生限界を示すことが精一杯
65ページ
蘇生限界を法的に強制する弊害
66ページ
虚構の極み、「心停止後」と称する臓器・組織提供
すでに脳死小児からの臓器摘出は百数十例
67ページ
脳死体は創られる
68ページ
69ページ
医療における臓器移植の位置付け検討を
ドナーカードと終末期医療ガイドライン
70ページ
精神論だけでは実現できない人命、尊厳の尊重

「世界」・2004年12月号 参考文献

 

 このページは、岩波書店発行の月刊誌「世界」・2004年12月号p62〜p70掲載「脳死誤診率一〇〇%〜〇%の間にあるもの」の参考文献を掲載しています。

 

凡例

1、太文字が本文における表現、=以下が資料名

2、雑誌、学会誌は、執筆者名:論文タイトル、誌名、巻(号)、掲載ページ、発行年を示す。巻(号)によっては臨時増刊号があり、号数やページ数の前にSが付く資料もある。シンポジウムなどの会議録は、執筆者名がないものもある。複数執筆者による資料も、筆頭執筆者名だけを示した。 

3、単行本は、引用箇所の執筆者名:引用箇所を含む部分のタイトル、書名、出版社名、掲載ページ、発行年を示す。

4、インターネット上の文献情報は、URLを示しリンクしている。

5、「表示されるはずの情報やページが見当たらない」などの、不具合やお気付きの点がありましたらお知らせください(メールアドレスはホームページの下部に記載)。

 

                      

 


62ページ上段

前文

 

臓器移植法は・・・・・・三〇年を超える論議の末に生まれた=第3回腎移植臨床研究会、移植、5(2)、131−184、1970

 1970年1月30日に開催された第3回腎移植臨床研究会において、大阪大学法医学の松倉教授が、臓器移植研究会のメンバーとして法律原案作成に参加したことを話している。
 なお松倉氏の指摘する「臓器移植は医療の目的でなされなければならない」「臓器提供者の同意」「死体損壊罪に抵触しないための、死体解剖保存法に則った臓器摘出手続き」なども参考になる(松倉氏の発言は上記資料のp158〜p164)。

 

 

「親族を指定した臓器移植」を目指す改定案が、日本移植学会や一部議員により検討されている=親族を指定した臓器移植論議は、2001年7月1日の第15例目脳死判定(第14例目臓器移植)において、親族と称する2名に腎臓移植した事件に関連して、厚生労働省の対応に批判があり、厚労省が「ルール化が必要」として始まった。

 しかし、実際には親族を指定した臓器移植を、日本臓器移植ネットワークが臓器配分の内規まで設けて実施してきた。同ネットワーク発足以前の実施例もある(詳しくはhttp://www6.plala.or.jp/brainx/reserved1.htm)。すでに実施しているにもかかわらず、初めての事例であるかのごとく議論を提起するのは、本文66ページで述べる小児「脳死」ドナーと同じく、民主主義社会を愚弄するものと考える。

 

 

厚生労働省の終末期医療に関する調査等検討会は「延命治療の不開始および中止の具体的手順を示すガイドラインを専門医学会が作るべき」とする報告書をまとめた=終末期医療に関する調査等検討会報告書 −今後の終末期医療の在り方について−(平成16年7月) http://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/07/s0723-8.html

 

 

62ページ下段

付記

脳死判定は「脳不全の重症度判定」などに改称すべき理由を述べる。・・・(中略)・・・脳不全患者の救命と臓器移植の両立」「死生観の尊重」「納得のいく終末期医療」は医療の充実で実現されるべきことを述べる=脳死判定ができなくなれば、臓器摘出も行なえなくなる。「脳不全の最重症の状態として脳死が判定されうる」と仮定しても、現時点ではそのような厳密な脳死判定基準は存在しない。従って脳死した者からの臓器摘出も中止が求められる。
 臓器移植は、現在よりも大幅に少ない脳死ドナー候補者の発生、そして常設法的機関による検証下で行われるべきことになるため、年間症例数がきわめて限られた医療にならざるをえない。「脳不全患者の救命と臓器移植の両立」は、このような量的にも限定されたなかで、将来は成立する可能性があると考える。

 

このページの上へ


63ページ上段

脳死の誤診率は一〇〇%近い

 

一九九七年三月一七日、日本大学板橋病院で起こったことが、脳死を考えるのに重要な情報を提供している=林 成之(日本大学医学部救命救急医学教室):脳死状態における脳温と脳循環代謝変動の臨床的意義、臨床脳波、39(11)、715−721、1997。この要旨はhttp://www6.plala.or.jp/brainx/nasal_eeg.htm


 

このような患者は、未だ一例も回復していないので、脳機能の不可逆的状態を脳死の判定基準にしている現在の脳死判定法に誤りがあるわけではない林 成之(日本大学医学部救急医学):脳動脈破裂に伴なう脳死と局所脳波、脳蘇生治療と脳死判定の再検討、近代出版、22−25、2001

 鼻腔脳波が現在の脳死判定に採用されていない経緯はhttp://www6.plala.or.jp/brainx/nasal_eeg.htm#鼻腔脳波についてを参照。

 

 

果たして「結局、一人も意識を回復させることができていない」なら、脳死判定の誤診率は〇%といってもよいのか=神経内科医の古川哲雄氏(千葉西総合病院)は「現在、脳死は臓器移植の必要に迫られて無理に設定されているとの批判を免れない。意識がある状態で臓器を取り出しているとすれば、われわれは恐ろしい罪を犯していることになる。われわれは進歩の名において、取り返しのつかない罪を犯しているのではないか?」と指摘している。古川 哲雄:脳死と臓器移植 ―脳死患者に本当に意識はないのか?―、神経内科、54(6)、529−533、2001。この要旨はhttp://www6.plala.or.jp/brainx/reflex2.htm


 

脳死者からの臓器摘出手術では、手術に先立って筋弛緩剤が投与されるhttp://www6.plala.or.jp/brainx/anesthesia.htm

 

63ページ下段

 

移植医・救急医らは、こうした事実を問われた後に初めて「臓器摘出時の血圧急上昇や、体が動くことは脊髄反射です。脳死は大脳と脳幹の機能が失われた状態ですから、脊髄が機能していても問題ありません」、と憶測をいう=田中 和夫(大阪市立大学大学院医学研究科麻酔・集中治療学):オーストラリアにおけるドナー管理と臓器摘出術、ICUとCCU、25(3)、161−165、2000は「ドナー管理を行っているときによく経験されることであるが、臓器摘出術中の侵害刺激に対応して血圧が上昇する。このことから“脳死”そのものに疑問を投げ掛ける意見がある。しかし、現在の脳死の定義に“呼吸中枢の機能廃絶”はあるが、“疼痛刺激に対する循環変動の消失”が含まれていないため現段階では容認されるべきであろう。今後の論を待つ必要がある」と定義問題に矮小化している。

 このほか麻酔科医が臓器摘出時の筋弛緩剤、麻酔薬の医学的必要性について述べた文献は、

  1. 高内 祐司:心臓手術の麻酔、臨床麻酔、26(臨時増刊号)、399−412
  2. 林 行雄:脳死ドナーの麻酔管理、臨床麻酔、24(3)、513−518、2000。
      

 麻酔科医としての嫌悪感を述べた事例では、

  1. 東京大学医学部麻酔学教室の諏訪 邦夫氏http://cgi12.plala.or.jp/kcn-home/forum/forum2.cgi?Work=Part&Forum=page18&No=&Num=8&Back=Tree
     
  2. 田村 京子、第4章 医療システムの観点から見る脳死移植、「臓器移植と生命倫理 生命倫理コロッキウムA」、太陽出版、2003は、ドナー管理に携わった麻酔科医たちは「いやな気持ちが残った」と述べていることを紹介し、原因として「麻酔科医にとってドナー管理は、通常の麻酔管理と変わるところがなかった点。・・・しかし通常は生きている患者の手術であり、患者本人のための治療であるのに対して、この脳死ドナーについてはドナー本人のための医療ではなく、麻酔科医にはあくまでも移植のためにドナーの臓器をできるだけ良い状態に保つことが求められた。ドナーは第二回脳死判定により法的には死亡していたにもかかわらず、身体としては生きている状態であったことは明白である。・・・麻酔科医たちはドナー家族には関与していないのでドナーや家族の心境を知り得ず、主治医とは異なり、ドナーと家族の意思を尊重することの意義を実感し得なかった。・・・この手術の目的が達成されたのかどうか、つまり提供された臓器を移植されたレシピエントが良くなったのかどうかは麻酔科医たちには知らされない、フィードバックが全くなされない」と分析している。
     
  3. 英国の事例ではエレクトロニック・テレグラフの2000/8/20付原文は以下。

By Andrew Alderson and Jenny Booth

Dr Keep, 58, has now provoked controversy with a letter in Anaesthesia, the journal of the Royal College of Anaesthetists, saying that many people within the profession feel uneasy about the issue. 

This weekend at his home in Norwich he said: "Nurses get really, really upset. You stick the knife in and the pulse and blood pressure shoot up. If you don't give anything at all, the patient will start moving and wriggling around and it's impossible to do the operation. The surgeon has always asked us to paralyse the patient."

 


脊髄反射を検証するための電気生理学的モニターなどの検査を追加して臓器摘出中も記録、さらに摘出直後に解剖し脊髄以下の神経細胞だけが生存しているのか否かを確認するしかない=野倉 一也(藤田保健衛生大学神経内科):虚血性脳症による無呼吸性昏睡状態において認めた反射性呼気様運動とSBS反射について、臨床神経学、37(10)、876−880、1997は「脳幹死に近い患者の太腿の神経を電気刺激し、その電気刺激が脊髄神経で折り返してくるはずの時間よりも長い0.07秒後に、持続時間0.3秒間の筋電図がお腹の筋肉から測定されました。従って、この呼吸をするかのような動きは脊髄反射だけではなく延髄の一部が関与した反射である可能性がある」という趣旨の報告をしている。この要旨はhttp://www6.plala.or.jp/brainx/reflex1.htm#脊髄反射にしては、筋電図の反応が長時間だ

 

関西医科大学救命救急センターの川本圭司氏らは脳死判定基準を満たした患者二〇名のうち六名(三割)から鼻腔脳波を測定した=河本 圭司:鼻腔導出法による脳死判定、臨床脳波、39(11)、722−725、1997。この要旨はhttp://www6.plala.or.jp/brainx/nasal_eeg.htm。原稿段階で誤植があり、「川本圭司氏」は間違いです。「河本圭司氏」に訂正します。

 

このページの上へ


64ページ上段

 

新潟大学脳研究所の生田房弘氏は「視床下部の神経細胞は脳死後二四時間以内に解剖された六名はみな、おそらく生存していたとみなされた」と報告した=生田 房弘:“脳死”例の剖検所見からみた個体の死の時刻、週刊医学のあゆみ、172(10)、641−646、1995

 生田氏らの対象とした脳死体は、日本脳波学会の脳死判定基準により判定されたものが大部分を占める。これは無呼吸テストなど現代の厚生省基準より緩やかだが、典型的な脳死の経過をたどることの多い一次性障害(脳に直接の障害が加わること、窒息など間接的に脳に障害を起こす二次性障害と異なる)の患者に限定されている点で、解剖結果の信頼性は高くなる。この要旨はhttp://www6.plala.or.jp/brainx/autopsy.htm

 

 

「視床下部を含む脳幹部の神経細胞レベルで脳死判定ができないと、臓器摘出や治療打ち切りは人倫にも反する」という考え方を採用するならば、誤診率は一〇〇%近くになる=林 成之(日本大学医学部救急医学科):脳死とその対応、Modern Physician 、16(8)、974−976、1996は、「神経細胞のレベルで考えると、神経細胞が死んでいなくても神経細胞膜がまったく機能しない場合は、臨床症候学的にも電気生理学的にもまったく反応を示さないため、細胞が死んでいるのかあるいは神経細胞膜の機能が消失しているのかの区別ができないことがある。このことは神経細胞膜の構築が完成していない乳幼児では特にその傾向が大きく、脳の機能が回復しないと思われても、後で回復してくることが大人より多く、厚生省脳死判定基準から小児が除外されていることでも容易に理解できる。現在これらの区別を正確に行える方法が確立されていないため、どんな検査手法を駆使しても脳死判定を正確に行なうことはできない。したがって、脳死という言葉も実は正確ではなく、脳死状態、あるいは医学的脳死状態と言う方が正しいと考える」としている。
 これは63ページ上段で「現在の脳死判定法に誤りがあるわけではない」といった同じ人物が書いた文章であることに注意。

 

 

筆者が国内の一五歳以下の小児脳死患者について、脳死診断後(疑いを含む)に@心停止まで七日間以上A脳死判定基準の必須検査項目に反応があったB脳死判定の補助検査に反応があったC脳血流を認めた、以上のいずれかに該当した患者を調査したところ、過去二〇年間に約一七〇名もあったhttp://www6.plala.or.jp/brainx/recovery3_15.htm

 

 

七日以上生存の例が多く、最長は脳死判定例で三四六日間=前田 基晴:小児脳死判定基準(案)を満たし約11ヶ月間脳死状態を呈した男児例、日本小児科学会雑誌、105(3)、424、2001。この要旨はhttp://www6.plala.or.jp/brainx/recovery1.htm#杏林大:虐待され小児脳死判定基準(案)を満たし死亡まで346日間
 脳死疑い例の最長生存期間は九〇八日間=桂木 誠:乳幼児脳死例における脳SPECTについて、核医学、37(3)、276、2000。この要旨はhttp://www6.plala.or.jp/brainx/recovery1.htm#聖マリア病院:脳血流あり、心停止まで22日、23日、97日、323日、414日、445日、757日、908日

 

 

正常なホルモン分泌が続き身長が伸びたり、抗利尿ホルモン補助を中止できた患者、自発呼吸や脳波を認めた患者もあり、脳が一時的に機能停止しているだけの患者が、脳死と判定されていた=この要旨はhttp://www6.plala.or.jp/brainx/recovery3_15.htm#脳死から復活した子ども達=“ラザロ患者”

 

 

脳死とは異なるとされる遷延性意識障害患者と、区別が難しくなる傾向もうかがえた=高橋 義男:日本における小児の脳死状態とは−小児の脳死と重症心身障害児との連続性、小児の脳神経、25(4)、375、2000は「患者が自己決定できないため、その方針は医療スタッフ、家族で決定された。18例中8例は発症後2日以内に現病歴、CT所見、症状などから患児がもし生存したとしても極めて重度の障害を残すとして積極的な治療はされず、経過とともに脳死状態となった。現在私達は、急性期に脳死類似状態でも広範な脳損傷を認めながら長期生存しているなどがあり、脳死状態の判断はしていない。小児では自己決定ができないため重症例では治療方針が医療スタッフにより決まる。積極的治療継続の判断要因は生存しても重度のハンディキャップをもつか否かということである。小児の脳死と重症心身障害児は、時に経過の連続線上にあり、本邦でどこまでを生存とするか整理する必要がある。誤差が生じないように発症後2週以内は脳死評価せずに積極的に治療すべきである」としている。

 この要旨はhttp://www6.plala.or.jp/brainx/recovery0.htm#北海道立小児総合保健センター:心臓死まで平均17日間、最長118日間。5割は心臓死時期まで体動

 

 

奈良県立奈良病院では、新生児が脳死判定の一三日後に脳波と痛み刺激に反応した=坂上 哲也:「6歳未満の脳死判定基準案」により脳死と判定された1新生児例、日本新生児学会雑誌、35(2)、290、1999。この要旨はhttp://www6.plala.or.jp/brainx/recovery0.htm#奈良県立奈良病院:脳死判定後13日後に脳波と痛み刺激に反応、17日後に脳幹部血流再開、死亡まで43日間

 

64ページ下段

各時代の脳蘇生限界を示すことが精一杯

 

脳死判定をしてはいけない除外例の明確化や各種の検査を追加して、現行よりは、厳密な判定基準を提示すると見込まれる=脳死判定をしてはいけない患者についてはhttp://www6.plala.or.jp/brainx/narcotic.htm

 

 

例えば瞳孔を見る時に光を当てるが、その時に室内の明るさ、当てる光の強さ、照射時間により結果は異なる=洪 祖培:[5]自由討論、セミナー記録 脳蘇生と脳死 21世紀の健康と人間、日本大学総合科学研究所、87−101、1998、このうち対光反射に関する洪氏の指摘はp97

 島津 邦男(埼玉医科大学神経内科):昏睡時の瞳孔異常、神経研究の進歩、29(5)、792−800、1985は、対光反射について「これを検査するにはペンライトでは光量が十分でなく、ずっと明るいたとえば100ワットの光源の下に虫メガネを用いて瞳孔径の変化を調べるくらい注意を払うべきである」と書いている。

 

この原理から無呼吸テストは、低酸素と高炭酸ガスの両方の状態を作り自発的呼吸が出現しないか確かめる必要がある=日本胸部疾患学会肺生理専門委員会:脳死判定における無呼吸テストに関する提案、日本胸部疾患学会雑誌、32(5)、巻末、1994。この要旨はhttp://www6.plala.or.jp/brainx/apnea_test1.htm#生理学者、呼吸の専門医が無呼吸テストに異議

 

 

高炭酸ガス刺激だけ加えているが、一方の酸素投与で自発呼吸を抑制している恐れもある=オストランド:息こらえ−潜水、運動生理学、大修館書店、183−185、1976は、「O2吸入をした場合は、Paco2 がさらに5〜10mmHg上昇しても耐えられるのである。・・・・・・息こらえに先立って純粋O2を吸入すれば、Paco2 が90mmHg以上になるまで耐えられる」と酸素投与による息こらえ時間の延長効果を指摘している。

  1. 竹内 一夫:厚生省“脳死に関する研究班”による脳死判定基準(いわゆる竹内基準)覚書−神経所見と無呼吸テスト−、日本医師会雑誌、118(6)、855−865、1997も、「高PaO2がPaCO2上昇による中枢性換気量の増加を抑制したり」と書いている。
     
  2. 日本胸部疾患学会肺生理専門委員会:脳死判定における無呼吸テストに関する提案、日本胸部疾患学会雑誌、32(5)、巻末、1994も、「炭酸ガスによる換気刺激効果は低酸素の同時負荷により著明に増大し、高酸素吸入下では減少する」としている。

 

このページの上へ


65ページ上段

 

どれだけの炭酸ガス刺激を加えても反応がなかったら「自発呼吸がない」と判断してよいかの科学的根拠もないhttp://www6.plala.or.jp/brainx/apnea_test1.htm炭酸ガス刺激の適正強度が設定できないを参照。個別の資料を再掲すると以下

  1. 日大は七二mmHgで=林 成之:脳死診断の現場と無呼吸テスト、脳蘇生治療と脳死判定の再検討、近代出版、83−98、2001
  2. 京大は八六mmHgで自発呼吸を測定した=榎 泰二朗:無呼吸テストの信頼性について、麻酔、37(10S)、S66、1988
  3. 日本医科大では五四歳女性が脳死判定された六日目に再度、脳死判定を行なったところ一〇〇mmHgを超えて呼吸様体動が出現した=木村 昭夫:脳死判定後長期心停止に陥らなかった1症例、救急医学、12(9)、S484、1988
  4. 藤田保健衛生大では四歳男児が臨床的脳死とされた一ヶ月後に、=石山 憲雄:小児脳死例(臨床および諸検査上脳死状態と診断されうる)の特殊性について、救急医学、12(9)、S477−S478
  5. 大阪大でも三ヵ月女児で四〇日後に自発呼吸が出現した=岡本 健、視床下部−下垂体系機能の残存を認めた脳死状態の1乳児例、日本救急医学会雑誌、2(4)、744−745、1991

 

 

「無呼吸テスト終了時の二酸化炭素分圧目標値を上げれば済むことではないか」と思われるかもしれないが、それはできない。無呼吸テスト中に血液pHが七.二以下と酸性化するため、赤血球のヘモグロビンから酸素が切り離されにくくなり、神経細胞や臓器で酸素が欠乏する。その機能低下により誤って脳死と判定したり、全身状態を悪化させるからだhttp://www6.plala.or.jp/brainx/apena_test2.htm

 

 

過去に立花隆氏らが「脳血流停止を証明できれば神経細胞レベルの死を証明できる。脳幹反射の検査など要らなくなる、放射性同位体を使うPETで代謝停止を測定すれば確実だ」と主張した。しかし脳血流測定、PETともに、低血流や低い代謝の状態は測定できるものの、神経細胞死が確実な状態を証明できないのが現実=脳死判定において「脳血流停止を確認した」などの表現がみられるが、測定限界以下や測定限界に近い低血流状態を含めて「脳血流停止」と称していることについて認識がなく、脳血流測定に過大な期待が流布されている。

  1. 脳血流測定技術の概要は、高須 俊明(日本大学総合研究所、医学部神経内科学):脳血流と脳死判定、脳蘇生治療と脳死判定の再検討、近代出版、117−127、2001。
     
  2. 杉野 繁一(日鋼記念病院):平坦脳波と判定できなかった臨床的に脳死の1例、日本集中治療医学会雑誌、11(supple)、163、2004は、「臨床的に脳死と考えられた心停止蘇生後の75歳女性(破傷風による痙攣発作を懸念して筋弛緩薬を投与していたので対光反射以外の脳幹反射は実施せず、無呼吸テスト施行せず)は、脳血流SPECT、FDG−PETでは脳血流、糖代謝は認められなかった、ABRではT−X波のいずれも消失していた。しかし20mm/μvの高感度脳波測定で10Hz、15μv程度の振幅があったことから「法的脳死判定基準の再検討が必要かもしれない」としている。
     
  3. 森田 浩一:脳死患者のSPECTによる診断、日本医学放射線学会雑誌、53(臨時増刊号)、S380、1993も、「脳血流停止がSPECT上で示された5例中2例に脳死臨調の診断基準では脳死とは診断されない自発呼吸が認められた」としている。
     
  4. 澤田 祐介:脳死の脳循環機能測定、救急医学、11(7)、809−816、1987には、以下の記述がある。
    (p809)“non-filling phenomenon”という一見いかにも非の打ちようのない脳循環の不可逆的停止を証明するようにみえる現象も、四半世紀を経てもなお、というよりその間の多くの蓄積により定義すら異論が多く、意見の一致をみていないのが現状である。
    (p815〜p816)われわれは脳死の判定に脳循環停止を証明する必要はないと考えるものである。・・・なぜ、あえて脳循環停止を確認しようとするのか。理由は二つである。第一には診断の確認のためであり、さらに客観性のある証拠として残しておきたいがためである。これは本稿で紹介してきたすべての脳循環測定法に共通する目的であろう。第二の目的は誤解をおそれずいえば、脳死者の家族への説明のためである。本法(SPECTのこと)では脳の血流分布が脳死例においてはあたかもドーナッツ状に、きわめて鮮明に描き出されるため、患者家族に対する説明に非常に説得力があるためというのが偽らざる理由である。 調べえた大多数の参考文献は欧米諸国の報告であったが、それらを読んで痛感したことの一つに、彼我の研究態度の相違がある。とくに脳血管撮影法以外の最近の方法による彼らの主張点は、すべてより早く確定診断ができ、非侵襲性であり、ベッドサイドで容易に繰り返し実施でき、さらにfalse-negativeがないという点に集約される。そしてこの意図するところは、いわずと知れた臓器移植である。“premature correct diagnosis”という奇妙な言葉が、この間の事情を雄弁に物語っていると思えてならない。しかし、研究方向は本当にこれでよいのだろうか。臓器移植推進の立場に立った研究ばかりが目につき、切迫脳死あるは脳死に移行する患者治療の立場からの報告が少ないように思えてならないのは、偏った論文ばかりを集めたためであろうか。臓器移植とは縁なく、すべての努力の後に、結果としてやむをえず脳死例をつくり出してしまっている立場からは、観点を変えた新たな研究の出現を期待したい。
     
  5. 脳血流や代謝を測定する技術固有の精度、測定限界が、脳死判定に有効か否かについて検討しなければならない。

 菅野 巌(秋田県立脳血管研究センター放射線科):局所脳血流代謝の新しい測定法、病態生理、4(1)、7−15、1985は「18F標識フルオロデオキシグルコース(18FDG)はブドウ糖の類似体、11C標識のブドウ糖自身を用いる方法はその代謝産物の混入等のためそのモデル化はまだ確立されていない。ブドウ糖と異なり解糖作用を受けない・・・脳腫瘍等の病的状態ではこれらは大きく変わっていると予想されており、この問題を考慮し、LC(血漿中放射線量積分量)や速度定数を同時に求める解析モデルも開発されつつある」としている。

 小暮 久也(東北大 神経内科学):脳の微小循環と代謝のcoupling、病態生理、4(1)、23−31、1985は、血球流と血漿流で血流をとらえ「血球成分と液体成分での分配係数(partition coeffisient)あるいは溶解度の異なるトレーサーを用いている局所脳血流量の測定法には疑問が生じてくる」。p29にmultitracer autoradiographyの手法で赤血球流(18F-FDG)と血漿流(14C−IAP)の灌流域の差を示している。
 小暮氏は「低酸素にさらされている領域での赤血球と血漿の乖離を示唆する現象と解釈できればはなはだ好都合ではあるが、標識された後の赤血球の性状、変形能やグルコース代謝の変化の有無など今後検討すべき点は多い」としている(菅野および小暮論文とも約20年前の論文であることに注意)。

 両論文の指摘ををわかりやすく書き直すと、脳血流や代謝を測定する時に用いる薬剤(放射性トレーサー)の物理的・化学的・生化学的性質が、生体物資と異なるために、脳血流や代謝の状態を正確に現さない。健康な時と病的な状態になった時とでは、異なった状態を示してしまう(菅野論文)。血液が微小血管のところにくると、それから先は血球は血管の大きさよりも大きいため入り込めないが、血漿・液体成分は入り込んで酸素やブドウ糖を細胞に供給する。放射性トレーサーで血球の流れ程度は把握できても、液体成分・血漿の流れを反映できない場合は、検査上は「血流なし」と出ても本当は血流がある場合がある(小暮論文)。

 脳波測定においても同様の発言がありhttp://www6.plala.or.jp/brainx/scalp_eeg.htm#一般人は3次元カラー画像で騙せ?を参照。

 

 

そもそも脳幹部神経細胞の壊死を生じる血流量について、その値×継続時間がわかっていない=脳幹部において神経細胞一〇〇g当たり毎分何mlの血流が何時間継続したら、壊死を避けられない血流量なのか、閾値がわかっていないと脳死判定における脳血流測定の意味がない。
  1. 脳は部位により虚血に対する耐性が異なる。福間 淳:短潜時SEP (SSEP)によるイヌ大脳皮質と視床の虚血耐性能の比較、BRAIN AND NERVE(脳と神経)、42(4)、383−389、1990は、電気生理学的機能が消失する機能的血流閾値は、イヌの大脳皮質脳虚血モデルで約18ml/100 g of brain/min、視床脳虚血モデルは約10ml/100 g of brain/minであることを示し「視床は虚血急性期には大脳皮質に比べて、より高度の低血流状態になるまでその電気生理学的機能は失われないことを示唆した」としている。
     
  2. 梅村 淳:虚血中脳内遊離脂肪酸増加の部位別差異および phospholipase の作用、BRAIN AND NERVE(脳と神経)、42(10)、979−986、1990は、心停止による完全脳虚血ラットの大脳皮質、海馬、線状体では心停止後2分まで早期に遊離アラキドン酸の急激な増加がみられたのに対して、視床では心停止後8分までの全経過中、アラドキン酸値が優位に低値であったことなど、虚血による脳細胞の脆弱性は部位別に差があることを報告している。
     
     また年齢や体温によっても耐性が異なってくる。http://www6.plala.or.jp/brainx/NHBD.htm#幼弱動物の低酸素・虚血実験を参照。

 

65ページ下段

蘇生限界を法的に強制する弊害

 

過去に脳死と判定された人が、後年に「脳死ではなかったかもしれない」となる=無呼吸テストの変遷による、過去の脳死判定の信頼性低下についてはhttp://www6.plala.or.jp/brainx/apena_test2.htm#1970年代以前の脳死者は、本当に脳死だったのかわからない

 

 

聴覚機能を調べる補助検査は、その実施だけでなく、検査結果の解釈までも各施設の判断に任されているが、検査の有無と結果の解釈により脳死宣告日が数日違ってくる=聴性脳幹反応は、音圧レベルが100デシベル前後で持続時間0.1〜0.2msec程度のクリック音で刺激する検査。U〜X波が記録されると脳幹部が機能している。T波も脳血流の残存を示すが、厚生労働省は「聴性脳幹誘発反応の消失の確認は努力義務であり必須検査項目ではない。T波の残存の解釈は脳死判定医の裁量の範囲内」という趣旨の見解を示している(唐澤 秀冶:脳死判定における聴性脳幹誘発反応検査、脳死判定ハンドブック、羊土社、210−212、2001)。
 聴性脳幹誘発反応、聴性脳幹誘発電位、脳幹聴覚誘発電位、ABR、BAEP(brainstem auditory evoked potential )など各種の標記がされる。

 聴覚機能の消失日と脳死判定日が大きく離れた症例は、大府 正治:小児の脳死における電気生理学的検討 脳波および聴覚誘発電位の経時的変化、日本小児科学会雑誌、98(1)、39−45、1994に掲載の4ヵ月男児。
 第2病日に厚生省基準(1985年の成人用基準)を満たしたが、BAEPはT〜V波があった。米国小児脳死判定特別専門委員会による脳死判定基準は第3病日に満たした。しかしBAEPはT〜U波があり、第11病日にBAEPは平坦化し、第17病日に心停止した。つまり、この4ヵ月男児の場合は、

  1. 厚生省基準では1987年5月11日に脳死になったが、
  2. 米国小児脳死判定特別委員会による脳死判定基準では1987年5月12日に脳死になり、
  3. BAEPの全波平坦化をもって脳死判定する考えを採用するならば1987年5月20日に脳死になる。
  4. 従来の3徴候死では1987年5月26日が死亡日となる。

 

このページの上へ


66ページ上段

虚構の極み、「心停止後」と称する臓器・組織提供

 

米国ピッツバーグでは血圧の測定が不能になり、心電図上で心室細動か心筋無収縮が二分間以上続けば心臓死として臓器摘出が行なわれている=星長 清隆:心停止ドナーからの献腎移植 ―その現状と将来―、臨床泌尿器科、54(10)、749−754、2000。星長 清隆:わが国の献腎移植 ―その現状と将来―、藤田学園医学会誌、25(1)、1−6、2001Vol.25,No.1もほぼ同内容の論文。

 この2論文は藤田保健衛生大の「心停止ドナー」と称する腎臓摘出についても紹介している。

 当施設は脳死と診断した患者でも人工呼吸器を心停止まで作動させていることもあり、死戦期の低血圧状態が遷延する傾向にあるため、あらかじめ書面による家族の了解を得ておいて、ドナーの最高血圧が50〜60oHgに低下した時点で大腿部を小切開をおいて大腿静脈と静脈を露出し、これらよりダブルバルーンカテーテルと脱血用チューブを挿入し、それぞれ腹部大動脈と下大静脈内に留置することを原則としている。・・・・・・心停止直前にドナーの全身ヘパリン化を行っている。主治医による死亡宣告後、大動脈内の2つのバルーンカテーテルを約20mlずつ拡張し、ベッドサイドで体内局所潅流冷却を開始する。・・・・・
 臨床泌尿器科の図1では「腎静脈からの脱血は、腹部大静脈の分岐部あたりに置いた多孔のカテーテルより行う」としている。

 星長氏は「心停止直前」を、どのデータにより判断しているのかは記載していない。摘出する腎臓が移植後も機能するように、低血圧による機能障害が発生することが明らかな最高血圧50〜60oHgを「腎臓にとっての心停止直前」としているものと見られる。

 

 

しかし、刈谷総合病院では心室細動が二〇分間持続した五〇歳男性の蘇生に成功、軽度の脳機能障害はあるものの六ヵ月後に退院できた=大久保 一浩:20分にもおよぶ心停止後生存退院できた1例、蘇生、18(3)、203、1999。この要旨はhttp://www6.plala.or.jp/brainx/NHBD.htm#2.心臓が停止した後に、いつまで蘇生が可能か

 

 

新潟大学の動物実験(ネコとサル)では脳血流を完全に遮断し一時間後に血流を再開したところ、五五%から六分後に脳神経細胞の活動を測定している=小林 啓誌(新潟大学脳研究所 脳神経外科):虚血脳の代謝の回復性、最新医学、35(6)、1174−1180、1980。この要旨はhttp://www6.plala.or.jp/brainx/NHBD.htm#C:1時間の完全虚血実験

 

 

すでに脳死小児からの臓器摘出は百数十例

 

66ページ下段

カテーテルも血行を阻害し下肢の変色、壊死につながるなどドナーの治療に反するため生前同意がないとできない=大岡 啓二(愛媛大泌尿器科):心臓死ドナーにおける腎摘出までの過程、移植、33(1)、19−23、1998は、「心臓死に至るまでに大腿動靜脈カニュレーションをするというプロセスが選択可能であり、この方法が、温阻血時間を最も短縮できる。しかし、この場合はカニュレーションを行った方の下肢が循環障害のため変色するため、現在我々は積極的には行っていない」としている。

 

 

一九六七年一〇月五日、脳腫瘍で死亡した八歳男児ドナーは千葉大学第二外科によって腎臓が摘出され、一六歳男児レシピエントに移植された=岩崎 洋治:死体腎移植術(1)−症例選択、麻酔ならびに移植手技について−、移植、4(1)、72−78、1968および岩崎 洋治(千葉大学第2外科):死体腎移植の問題点、日本移植学会雑誌、4(1)、16−17、1968。この要旨はhttp://www6.plala.or.jp/brainx/pediatric_harvest.htm#出血多量死臓器摘出法

 

 

一九六八年七月二三日、弘前大学第一外科は一四歳男児ドナーに体外循環による全身冷却を行い、体温三一℃で心停止、直腸温二五℃で腎臓を摘出した=第2回腎移植臨床検討会:移植、4(3)、193−252。この要旨はhttp://www6.plala.or.jp/brainx/pediatric_harvest.htm#凍死臓器摘出法

 

このページの上へ


67ページ上段

 

一九七八年に福島県立医科大学第一外科は一四歳男児ドナーに「(臓器の)灌流装置は小型でベッドにかくれており遺族の方々には見えないようにし、灌流を施行した」と報告した=薄場 彰(福島県立医科大学第1外科):屍体内臓器灌流による腎の変化、移植、13(5)、235−239、1978および本多 憲児(福島県立医科大学第1外科):屍体内灌流腎(福島医大方式)移植6症例について、日本外科学会雑誌、79(11)、1417−1425、1978。この要旨はhttp://www6.plala.or.jp/brainx/pediatric_harvest.htm#原町市立病院が14歳児のベッド下に装置を隠し、心臓拍動中に灌流開始

 

 

心マッサージや人工呼吸を続ける恣意的な死亡宣告、出血多量死や凍死させる人為的心停止、ドナーの生前同意なき(遺言が認められない小児への)臓器摘出目的の処置、家族を誤認させての臓器摘出など、移植医療では草創期から「心停止後」と称する非合法・蛮行が横行していたといえよう=楠 隆光(大阪大学泌尿器科学教室):同種腎移植の臨床報告−自験例について、移植、2(1)、28−33、1967は、1966年10月10日、大阪大学第1外科に入院中の脳腫瘍患者(32歳男性・AB型)に、人工呼吸および心マッサージが行われながら左腎が摘出され、慢性腎不全末期の26歳男性(B型)に移植したことを報告している。しかしレシピエントは5日目に脳出血のため死亡した。
 前出の岩崎 洋治(千葉大学第2外科):死体腎移植の問題点、日本移植学会雑誌、4(1)、16−17、1968も、8歳男児ドナーからの臓器摘出よりも前の1967年6月14日、脳挫傷の19歳男性から腎臓を摘出して25歳男性に移植したことを報告しているが、レシピエントは2日目に心不全で死亡した。同外科による8歳男児ドナーからの臓器摘出・移植例は、レシピエントの生存期間が長く、また剖検により移植した腎臓の異常が軽度だったことから、日本の死体腎移植医療は、この「脳死」小児ドナーから実質的にスタートしたといえる。 

 なお、近年の「心停止」ドナーの約7割には、腹部大動脈にダブルバルーンカテーテルが挿入されている。これをドナーの心臓拍動中に使う場合の心停止メカニズムは、腹部大動脈内でダブルバルーンが拡張されることで、腹部大動脈の血行が遮断され、急激な循環血液量の減少でショック死すると見込まれる。実例と推測されるのは1993年8月20日の柳田洋二郎ケースhttp://www6.plala.or.jp/brainx/beating_NHBD.htm#ノンフィクション作家も騙された

 

腎移植臨床研究会は「人工呼吸器をつけたまま摘出した例と、人工呼吸器を外して呼吸が無いのを確かめたが心拍動がなお完全に停止しないうちに手術をはじめたとするもの、この両者がいわゆる脳死状態における摘出に該当する」と見なし、一九八四年から一九八八年末まで五年間四二九例の死体腎摘出のうち、一五二例(三五.四%)が脳死腎臓摘出だったと「移植」二五巻四号で報告した=太田 和夫:わが国における死体腎提供の現況と問題点(1984年〜1988年)、移植、25(4)、457−461、1990。この要旨はhttp://www6.plala.or.jp/brainx/pediatric_harvest.htm#日本移植学会も認める、80年代前半で3割は脳死下臓器摘出

 

 

しかし腎移植臨床登録集計報告によると、一九八一〜一九八七年に温阻血時間が六〇分以上は六八〇例のうち一割以下の六七例だ。二〇〇〇年になると平均温阻血時間はわずか五.四分だ=日本移植学会:腎移植臨床登録集計報告(1987年)、移植、23(3)、315−333、1988、日本移植学会:腎移植臨床登録集計報告(2001)−T 2000年実施症例の集計報告(2)、移植、37(1)、1−11、2002。この要旨はhttp://www6.plala.or.jp/brainx/pediatric_harvest.htm温阻血時間からみると80年代前半で8割強が、現在はほとんどが「脳死」下臓器摘出

 

67ページ下段

 

膵島移植にいたっては「膵島は臓器ではなく組織」と称して、温阻血時間一〜五分で膵臓全体が摘出されているhttp://www6.plala.or.jp/brainx/tissue.htm#心停止下における膵ドナーの摘出条件

 

 

「臓器移植法後に、わずか三〇例しか行なわれていない」と臓器不足が煽られるが、法的脳死判定とドナーの生前同意をともなわない臓器摘出が毎年数十〜百数十例行われ、「脳死」小児からの腎臓摘出はこれまで百数十例とみられるhttp://www6.plala.or.jp/brainx/pediatric_harvest.htm
 太田 和夫:臓器移植後の追跡、評価の情報システムに関する研究(1)−腎移植後の追跡調査、厚生科学研究費補助金 免疫アレルギー等研究事業 臓器移植部門 平成11年度総括・分担研究報告書、国立佐倉病院、326−331、2000によると、小児も含めた献腎移植回数は1964年〜1999年に3,816回。1ドナーから2腎を摘出されることが多いが、1ドナーから1腎だけ摘出のケースもあり、また摘出後に移植不適として移植されなかったケースもある。さらに米国から輸入された腎臓(US腎)を移植していた時期もあるため、総ドナー数の試算は難しいが、おおむね1999年までに累計で1,900人、2004年までには累計2,000人を超えたと見込まれる。

 

 

脳死体は創られる

このページの上へ


68ページ上段

 

一九八八年九月一日に川へ転落して溺水した四歳男児、同月一九日に自転車でワゴン車に衝突した七歳男児は、ともに関西医科大学救命救急センターに入院=池田 佳代:脳死患児をもつ両親への対応、第20回日本看護学会集録−小児看護−、81−84、1989。
 4歳男児はhttp://www6.plala.or.jp/brainx/recovery4.htm#関西医科大学病院・救命救急センター:脳波フラットで治療水準を(無断で?)落とし続けたが、 死亡まで30日間、ドパミン中止後も7日間生存
 7歳男児はhttp://www6.plala.or.jp/brainx/recovery7.htm#関西医科大学病院・救命救急センター:治療水準を無断で落とし続けたが、死亡まで17日間、 「脳死が蘇生した例があるのか」と医師に聞いた日に抗生剤・ドパミン中止

 同施設の医師による、千代 孝夫:脳死症例における臓器障害の発生と脳死後の医療についての検討、救急医学、13(5)、619−624、1989は、関西医科大学救命救急センターにおける1985年1月から1988年1月までの脳死患者24名に対して、脳死判定後に輸血漿は87%で施行せず、中心静脈栄養は75%で中止、検査は50%で中止、抗生物質は37%で中止したことを記載している。

 

 

「脳死は全死亡の一%弱に発生する。数日のうちに必ず死ぬ」と、さも科学的真実のように語られるが、その中にはこのような人為の加わった患者も含まれる=武下 浩:再び脳死の問題点について、麻酔、24(4)、317−322、1975は、「脳死は慢性状態としてはありえないので、脳死と判定された後、現在の方法では一般に5日以内に心拍停止になるであろう。そのようなことであれば、脳死と判定されてから、しだいに治療を非積極的にして行くという態度でやった方が、いろいろな面でむしろ好都合というわけである。後者は確かに受け入れられ易い一面を持っている。つまり自然にまかせる技術の“すぐれた”医師のとる中間の道である。前者との差はたとえ脳死判定が行なえても脳死をもって死とはしないという考えである」としている。

 並木 昭義:「心肺蘇生法をいつ、どのような状態で中止するか」に関するアンケート調査、蘇生、17(2)、87−107、1998には日本蘇生学会、日本集中治療医学会、日本麻酔学会の評議員229名が回答している。
 野倉 一也:脳死議論から学ぶこと、名古屋市厚生院紀要、15、109−117、1989にも、脳死を研究する神経内科医として正直な記述がみられる。

 

 

藤田保健衛生大の神野哲夫氏は「医学のあゆみ」一九六巻一三号に「臓器保持の処置は、臨床的脳死判定以後に行なうことを肝に命じておかなければならないであろう」と書いた=法的に脳死が確定した後ではなく、それ以前の臨床的脳死の段階で、つまりまだ生きている段階で、臓器摘出目的の処置を行うことを「肝に命じて」いる点に問題がある。

 神野哲夫:【臓器移植の最前線】 社会編 臓器移植の社会資源の整備に向けて 献腎提供と意思確認のあり方、医学のあゆみ、196(13)、1121−1123、2001は、p1121で「 臨床的脳死前にカード保持の情報が入る場合がある。良き臓器を得るための医療開始期がフライングしているのではないかとの指摘があり、厳に注意しなければならない」と書いた。
 このように神野氏(現在は藤田保健衛生大病院院長)は、臓器保持の処置=ドナー管理を開始するタイミングによっては、違法行為に問われることがあることを認識しながらp1123で「臓器保持のための処置がフライングであるかどうかの判定は微妙なところがある。しかし、今後の移植医療の真の発展を望むなら、臨床的脳死判定以後に行なうことを肝に命じておかなければならないであろう」としている。

 

 

同病院では毎朝、腎移植医が脳外科医と同行回診している。このような施設からの腎臓提供が全国でも一、二位を競う=神野 哲夫(藤田保健衛生大):脳死段階での臓器移植−何がその開始を阻んでいるか、救急医療の現場から、現代医学、41(2)、369−373、1993は、p369「我々の救命救急センター内では脳神経外科用14床の回診は毎朝8時30分より始まる。この回診に脳外科医は当然のことながら全員出席する(彼等は7時15分からの病棟回診をすでに終わっている)。特筆すべきことは、このセンターの回診に過去13年間毎朝、泌尿器科、詳しくは腎移植医が出席していることである。最初は腎臓の専門家が脳外科の患者を診ても仕方ないであろうと考えたが、彼らの意図が腎移植の提供者の発見にあることは明らかであった。以後、彼らの熱意に引きずられ、今日まで117例の心停止後の腎移植の提供が我々の施設から出ている。おそらく、この数は全国で一、二を競うものであろう。(この様に毎早朝、回診に来られる習慣をつけられた藤田民夫、現名古屋記念病院泌尿器科部長、星長清隆、泌尿器科講師の熱意に敬意を表します。)」

 神野 哲夫:脳外科医・救命救急医と腎移植−使命感とジレンマ、泌尿器外科、7(2)、105−109、1994にも同様の記載があり、腎移植医の回診参加は1979年頃より。

  1. 原 美幸(藤田保健衛生大学救命救急センター):法的脳死判定中止例を経験して、日本臨床救急医学会雑誌、3(1)、159、2000は、1979年以降の心停止後腎提供187症例のうち、交通事故などによる頭部外傷で(同施設の法的脳死判定中止例のように)耳出血のあった症例は57例中10例。つまり心停止後献腎ドナーの5.3%は、脳死判定を行うに当たって支障と考えられる外傷があったことを報告。「心停止後」と称して行なわれる、脳死判定が必要な臓器摘出において、脳死判定がいい加減になされることを示唆した。
     
     
  2. 星長 清隆(藤田保健衛生大学泌尿器科):体内局所灌流冷却法を用いた心停止ドナーからの献腎摘出法と移植成績、西日本泌尿器科、64(西日本総会特集号)、85、2002は、同施設が2001年3月までに体内局所灌流冷却法を用いて208例の心停止ドナーから412腎を摘出、温阻血時間の平均は13.8分だったことを報告している。
     
  3. 現在は同病院に限らず、一般的な病気で通院・入院する患者に対しても、臓器提供意志表示カードの所持を問診し、識別する施設が増えている。例えば京都府下の事例はhttp://www6.plala.or.jp/brainx/2003-10.htm#20031025を参照。

 厚生労働省および都道府県の予算を投入し、ドナー候補識別→ドナー照会→家族ケア→ドナー管理→ドナー臓器摘出を総合的・効率的に推進する「ドナーアクションプログラム」を実施している施設もある(次項の新潟市民病院も同プログラムの実施施設)。

 2001年に人口比で献腎数が全国1位になった静岡県では、静岡腎臓バンクが腎臓提供登録等の申し込みを受け付け(http://www.process.co.jp/~jinbank/15zigyouhoukoku.htm)、登録台帳をコンピューターに入力保存し、医療施設・臓器移植コーディネーターからの登録検索に備えているhttp://www.process.co.jp/~jinbank/16zigyoukeikaku.htm)。2003年度からは、静岡県の臓器移植推進事業計画の実施を同腎臓バンクが担当し、ドナー候補者家族への臓器提供意思確認1件につき2万円を助成している。

 米国では臓器提供意思の確認を医療施設に義務付けた「統一献体法」が施行されているが、日本でも施設によってはすでに実行されているといえる(合法性が疑わしく倫理面の問題もはらむ行為を、臓器移植をたくさん実施したいがために現場が先行して行う点で、臓器移植法以前からの「脳死」臓器摘出、レシピエントを指定した移植と共通する)。

 法的脳死判定マニュアルは、臨床的脳死判断の後にドナーの生前臓器提供意思を確認し、その後、家族に臓器提供の機会があることを説明し、臓器移植コーディネーターによる説明を受けることができることを、説明する手順にしている。しかし、このドナーアクションプログラム、院内(臓器移植)コーディネーター、問診表による臓器提供意思確認、ドナー情報の登録検索などは、臓器移植法下の諸手続を無視しないと「効率的」に機能しない。
 2002年11月1日の衆議院厚生労働委員会で社民党の阿部 知子議員は、院内移植コーディネーター制度等について質問した。これに対して高原健康局長は「臓器提供の強要はしない、コーディネーターは一般の外来患者や入院患者に対してカードの所持の確認を行なわない」という趣旨の回答をした。しかし、ドナーアクションプログラムに厚生科学研究「臓器移植の社会基盤に向けての研究班」の予算が利用されるならば、臓器移植法に抵触する臓器獲得を厚生労働省が自ら推進していることになる。

 「移植医療従事者さえも臓器意思表示カードを持っていない。家族には持たないように言う」実例http://www6.plala.or.jp/brainx/last_lie.htmがあり、ここにも「心停止後と称する脳死臓器・組織摘出」と同じ重大な虚構がある。

 

 

二〇〇一年八月一五日の一二時頃、新潟市民病院に脳出血、脳梗塞、高血圧症で入院中の四〇代男性=臓器提供及び移植委員会:脳死下の臓器提供(前編)、新潟市民病院医誌、23(1)、67−72、2002。この要旨はhttp://www6.plala.or.jp/brainx/donor_management.htm#新潟市民病院(法的脳死判定第17例目)

 

 

杏林大病院にクモ膜下出血で救急搬送された五八歳女性(法的脳死判定七例目)の家族は、二〇〇〇年四月二三日に主治医から脳死に近い状態であると説明されたが=田中 秀治:国内第7例目の脳死下臓器提供患者の臓器提供の経過とその問題、日本手術医学会誌、21(臨時)、41−42、2000

 

68ページ下段

 

平坦脳波確認の脳波測定はしておらず、翌日の二四日九時施行だ第7例目の脳死下での臓器提供事例に係る検証結果に関する報告書 診断治療概要(臓器提供施設提出資料)http://www.mhlw.go.jp/shingi/0103/s0305-1.html#s1

 

 

法的脳死確定の約二〇時間前に救命治療を止め、脳の病状は悪化させる処置に転換していたことになる=田中 秀治(杏林大学医学部救急医学):脳死の病態とドナー管理の実際、ICUとCCU、25(3)、155−160、2001は、この処置について「本来ドナー管理は、法的脳死が確定してから行われる管理を示す言葉ではあるが、実際の臨床の現場では、むしろ法的脳死が確定するまでの間の管理こそ、本当の意味でのドナー管理がなされるべきであることを実感した」と確信的に実行したことを述べている。この要旨はhttp://www6.plala.or.jp/brainx/donor_management.htm#杏林大病院(法的脳死判定7例目)

 

 

「検証会議を構成する者が関与している施設における脳死臓器摘出の検証には、当該者は加わらない」と二〇〇〇年三月二二日に決定しているにもかかわらず、医学的検証作業グループ六名のうち二名が臓器を摘出した杏林大学の教授だhttp://www1.mhlw.go.jp/shingi/s0003/s0322-3_11.html 2.検証手続 (3)検証作業を行なう者の制限

 

 

高知赤十字、古川市立、千里救命救急、福岡徳州会の各病院は日弁連および福岡県弁護士会から人権侵害の勧告を受けた=日本弁護士連合会の勧告は、法的脳死判定手続に反した行為を主に取り上げ、人権侵害の事実を認め、各臓器提供病院に勧告した。しかし、法的脳死が確定する以前から開始されたドナー管理については、臓器提供病院側の非協力的な態度や日弁連側の判断留保などにより、勧告書には盛り込まれていない欠点がある。
 福岡県弁護士会は、厚生労働大臣宛にも要望書http://fps01.plala.or.jp/~brainx/require_mhlw.htmを提出し「臨床的脳死判定から6時間おいて行うこととしている法的脳死判定の開始時刻を遅くするなど、脳死判定基準の改定をも視野に入れた手続きの十分な調査検討を行うこと、さらには、今後の脳死臓器移植に関して、厳格に調査検討を尽くすよう要望」した。

  1. 高知赤十字病院に対する日弁連の勧告http://fps01.plala.or.jp/~brainx/adviceto1th_case.htm
     
  2. 古川市立病院に対する日弁連の勧告http://fps01.plala.or.jp/~brainx/adviceto3th_case.htm
     
  3. 大阪府立千里救命救急センターに対する日弁連の勧告http://fps01.plala.or.jp/~brainx/adviceto4th_case.htm
     
  4. 福岡徳州会に対する福岡県弁護士会の勧告http://fps01.plala.or.jp/~brainx/adviceto9th_case.htm

 

このページの上へ


69ページ上段

医療における臓器移植の位置付け検討を

 

例えば日本移植学会は死体腎移植を受けたレシピエントの生存率を一年目九一%、一五年目七一%と公表している。しかし生存率を算出する基となった調査では、生死不明のレシピエントが一四二五人、生死について記入の無いレシピエントが一一〇人の合計一五三五人だ。死亡を確認された一八八三人の八割に相当するデータがないのに、なぜ生存率を算出できるのか=臓器移植ファクトブック2002 腎臓、http://www.medi-net.or.jp/tcnet/JST/fact_02/fact02_01.html。および日本移植学会:腎移植臨床登録集計報告(2000)−U 1999年追跡調査報告、移植、36(2)、91−105、2001。

 この部分は、筆者が文章を要約しすぎて不正確になった。「例えば日本移植学会は」に続いて「生体腎移植を受けたレシピエントの生存率を一年目九五%、一五年目七六%。」を加えれば正確になる。以下に書き直す。
例えば日本移植学会は生体腎移植を受けたレシピエントの生存率を一年目九五%、一五年目七六%。死体腎移植を受けたレシピエントの生存率を一年目九一%、一五年目七一%と公表している。しかし生存率を算出する基となった調査では、生死不明のレシピエントが一四二五人、生死について記入の無いレシピエントが一一〇人の合計一五三五人だ。死亡を確認された一八八三人の八割に相当するデータがないのに、なぜ生存率を算出できるのか」。

 データがない人数は、生体腎移植で1,087人、これは死亡を確認された1,288人の84%に相当する。死体腎移植では448人のデータがなく、これは死亡を確認された595人の75%に相当する。この腎移植臨床登録集計報告(2000)−U 1999年追跡調査報告は、1997年末までに実施された移植症例12,381例を対象としたのだが、得られたのは10,964症例(89%)の情報だ。これから上記の生死不明および記入なしの合計1,535人を差し引くと、9,429症例(76%)の情報で腎臓移植医療全体を検討していることになる。

 移植、42巻6号p545〜557掲載の「腎移植臨床登録集計報告(2007)−3 2006年経過追跡調査結果」においては消息不明率は 50%に増大している。

 太田 和夫:臓器移植後の追跡、評価の情報システムに関する研究(1)−腎移植後の追跡調査、厚生科学研究費補助金 免疫アレルギー等研究事業 臓器移植部門 平成11年度総括・分担研究報告書、国立佐倉病院、326−331、2000において、太田氏は1997年以前に移植した症例の「回収率が約70%であり、フォローアップできなかった症例に腎機能廃絶例や死亡例が多かったのではないかという心配もあるが、この成績は国際的なレベルにあるものと考えられる」と、実際の患者生存率・臓器生着率が低い可能性を認識している。

 透析および移植患者を身近に観察している医療関係者の、腎臓移植に対する評価はおおむね低い。移植したがために死亡する危険が、移植によるQOL改善と比べて、引き合わないと判断する関係者は多い。レシピエントに対する移植後の医学的管理水準は、年々向上すると見られるため、次第に移植医療を評価する職員の増加は予想されるが、1990年代後半までは確かに低かった。http://www6.plala.or.jp/brainx/economics.htm#移植医療の評価は、そしてhttp://www6.plala.or.jp/brainx/economics.htm#移植を受けた患者の1 割強〜5割弱が透析再導入

 

 

このように基礎的統計さえ不備なため、移植医療はテクノロジーアセスメントの対象に考えることも困難= 1964年以降、これまでに生体腎移植、死体腎移植の累計実施数が約1万5千件あるにもかかわらず、患者背景(年齢・性別・腎不全の原因疾患・重症度・合併症・透析導入後の期間など)を一致させて、透析患者と移植レシピエントの生存率、QOLを比較した全国規模の資料がなく、腎臓移植医療の効果について評価できる資料が存在しないのは驚くべきことだ。

  1. 海外で患者背景を一致させて死亡率を検討した文献例は、Friedrich K.Port.MD:透析患者と死体腎移植患者の生存率に関する比較、JAMA<日本語版>、73−79、1994年3月号。また筆者は未読だがWolfe RA et al.N Engl J Med 1999;341:1725-1730がある。
     
  2. 日本透析医学会統計調査委員会:わが国慢性透析療法の現況(2002年12月31日現在)、日本透析医学会雑誌、37(1)、1−24、2004によると、透析人口は229,538人、透析人口の平均年齢は62.2歳。2002年に透析療法を導入された患者の平均年齢は64.7歳。これに対して腎移植臨床登録集計報告(2003)−1 2002年腎移植件数報告、移植、38(2)、137−142、2003によると、2002年に生体腎移植を受けたレシピエントの平均年齢は35.9歳、死体腎移植を受けたレシピエントの平均年齢は47.8歳。
     透析人口の増加を取上げて腎臓移植の必要性がPRされているが、2001年末の腎臓移植登録患者数13,057名のうち61歳以上は993人(7.6%)。合併症などからレシピエントには選ばれない高齢の透析人口が増加していると見込まれる。厚生労働省・日本移植学会・日本臓器移植ネットワークは、透析人口の増加を理由に腎臓移植推進の必要性をPRしているが、正確な広報が求められる。
     
  3. 参照:臓器移植を推進する医学的根拠は少ない

 

 

二〇〇二年、東京女子医科大学病院は心臓外科手術で医療事故の隠蔽が明らかになり、医師の逮捕と心臓移植の辞退に至ったが、この不幸な出来事は日本心臓病学会により一九九一年に予言されていた=日本心臓病学会総務委員会:心臓移植―日本心臓病学会からの提言―、日本医事新報、3515、43−46、1991

 

 

本邦で心移植を希望している病院は医療技術が劣る。人工心肺を用いて行う心臓手術が年間二〇〇例、あるいはパイバス手術が一五〇例以下の施設は、心移植という大きな手術一件が入ることにより、他の手術予定を大幅に変更、削減せざるを得ないhttp://www6.plala.or.jp/brainx/economics.htm#東京女子医科大学病院 に各施設の年間手術数を掲載。

 

69ページ下段

 

"脳死判定・臓器移植の先進国"とも言われるイギリスの一般医療は、手術まで数ヶ月待ちなど医療水準が低い。=ルイス智子:イギリスの空の下よりAイギリスは「ゆとりの国」、看護教育、44(2)、88−89、2003

英国の医療制度NHSは医療を税金で保障しているため、ホームレスや外国人でも安心できる反面、手術を受けるまでに要する時間が長いため、金持ちは高額の医療費を払ってプライベートの病院にいっている。
 現状を改善していくために、1991年にPatient Charter 患者憲章が制定、1995年改正され、「かかりつけの一般医から紹介された患者の90%が、専門医にかかれるのを13週間以内、また手術待ち18ヶ月以内とする」ことが目標とされている。
 英国在住のルイス智子氏自身が扁桃腺の「症状を一般医に訴えたのが2001年5月、その後紹介された専門医に最初にかかれたのが2001年10月(5ヵ月後)、2回目が2002年1月(3ヵ月後)、5月(4ヵ月後)に手術が予定されましたが、私の予定が合わず延期になり、結局手術を受けられたのは2002年8月でした」と報告している。
 別の情報源によると、風邪シーズンになると、かかりつけの一般医にかかるのにも2日待ちという。

 

 

米国はGDPに占める医療費比率が高いにもかかわらず、公的医療保険が国民全員をカバーしておらず、透析患者の死亡率は日本の二倍など医療水準全般が高いとはいえない=Mike Mitka :血液透析 高死亡率の抑制策を模索する米国、JAMA日本語版、23(7)、29−30、2002
 AAKP(米国腎臓病患者協会)によれば、米国内の透析患者死亡率は約23%である。それに対して、欧州では死亡率が約15%、日本は約9%。

 廣瀬 輝夫:米国の営利医療組織の現状と問題点、日本医事新報、4092、55−57、2002は、営利システムの医療分野への浸透により、米国で患者が犠牲にされている医療分野として人工透析をとりあげた。「アメリカの人工透析センターは早くから営利企業が参入、現在では70%近くが営利で運営されており、人工透析装置の再利用や透析時間の短縮、コメディカルの透析士を中心とした治療が行われている。このためその臨床成績は年々悪化し、わが国の人工透析の生存率よりはるかに劣っている。また、メディケアの医療費抑制政策のため、支払い制限が頻繁に行われたことも成績低下の要因となっている。・・・利潤を上げるために極端な制限医療と支払い制限を行っている。・・・営利HMOは、非営利のHMOより予防接種受診率やガン検診受診率は16%前後低く、心筋梗塞に対するβブロッカーの使用や糖尿病患者に対しての低血糖剤および眼底検査による網膜病変の検査も10%以上低い」とレポートしている。

 糖尿病患者に必要な投薬・検査の制限を行うならば、人工透析が必要な容態まで悪化する患者も増える。人工透析センターで日本の2倍以上もの死亡率にさらされるならば、腎臓移植を希望する患者も増えるのは当然だろう。

 もちろん米国の透析患者の死亡率が低い理由の一つは、腎臓移植がさかんに行われていることで、合併症が少なく比較的若い透析患者から透析医療の対象から外れてゆき、替わりに移植不適応で合併症のある高齢者が透析患者に多く、従って死亡率が高くなるという事情も考慮しなければならない。

 逆に、日本の腎臓移植医療のテクノロジーアセスメントを行う際には、ほとんど腎臓移植による透析離脱の影響がない現状の死亡率をベースにして、これとくらべて透析vs移植患者間で、延命、QOL改善効果がどれほどであったかを検討することが可能であろう。

 

 

ドナーカードと終末期医療ガイドライン

 

一九九一年一二月、二四歳になったばかりのTさんはハワイで交通事故に遭い昏睡状態になり、地元のマウイ記念病院へ搬送された=山口 研一郎:「全臓器提供」より奇跡的に生還した女性、月刊総合ケア、12(8)、2002。この要旨はhttp://www6.plala.or.jp/brainx/2002-8.htm#20020801
 2002年11月25日(月)、テレビ朝日のテレメンタリー2002「私は別人〜見えざる障害、高次脳障害と闘う」で、また11月27日(水)にニュースゆうでも高次脳機能障害者として側面に焦点を当てて放送された。 


 このページの上へ


70ページ上段

 

日本でも高額医療費が見込まれる重症患者には、治療を控える動きがみられる=中村 義博(聖隷三方原病院救急診療科):心肺停止および蘇生後脳症の医療費についての検討、 日本臨床救急医学会雑誌、1(1)、139、1998は、1996年〜1997年の来院時心肺停止患者194例のうち、蘇生不成功例114例と心拍再開したものの脳死状態で短期間に死亡した30例に要した蘇生術の費用と入院費用から、「たとえば明らかに心停止時間が10分以上の症例に蘇生術を行わなければ計算上約1700万円の節減になる。その他いくつかの蘇生術の適応基準をもとに医療費の削減効果について報告」した。

 

 

筆者が三ヵ月以上改善しない遷延性意識障害患者が、自然回復や治療により症状が改善した症例を調べたところ、一九七〇年代以降に約一九〇例あったhttp://www6.plala.or.jp/brainx/recovery2000.htm。遷延性意識障害から回復しても論文等に書かれないケースや、収集できていない資料があるため、実際の回復例は上記よりも多い。


 

「脳死」患者のうち臓器提供に適した状態は二五%以下、家族承諾率二〜五割を考慮すれば最大限でも、すべての腎移植希望登録者に移植するのに三〇年〜七〇年かかる=日本臓器移植ネットワークに登録された2004年9月30日現在の、腎臓移植希望登録者+膵臓・腎臓同時移植希望登録者数は合計で12,133人。

  米国の場合
(入手可能腎数)
日本の場合
(入手可能腎数)

脳死発生

担当医の脳死認識

脳死宣言

移植ネットワーク照会

家族承諾

コーディネーション

臓器摘出

輸送

移植

22,320

 

18,972

 

15,178

 

10,018

 

8,014
(承諾率80%)

 

 

 

 

 

 

 

7,213

 

 

 

 

1,500

 

1,000

 

200〜500
(承諾率20〜50%)

 

 

 

 

 

 

 

178〜444

 一方の入手可能腎臓数の推計は、守田 憲二:「脳死」臓器移植の社会的問題点 「移植は安上がり」説のウソと臓器の絶対的不足について、四つの死亡時刻、さいろ社、166−174、1992が、左記の表を掲載している。

 つまり1年間に入手可能な移植用腎臓数は178〜444個と推計され、12,133人に移植するには約30年〜約70年かかる計算になる。

 この小論文は日本の肝臓移植適応患者数が年間3000人と、「脳死」発生者数と同じであることも指摘し、移植を必要としない治療法の開発と予防法の普及に力を入れるべきことを指摘している。

 拒絶反応がおきないように適切なレシピエントを選択するため、移植医療は潜在的ドナー候補者数よりも多いレシピエント希望者がいる必要がある。「常にドナー不足でないとないと成り立たない」のが移植医療の仕組みだ。

 もとより移植適応患者数とは、患者側の原疾患を広げたり、重症ではない軽症の患者までも移植適応患者とすることで、いくらでも増やせる性格を持つ(数万人単位の肝臓移植適応患者数を提示する研究者もいる)。臓器不足を永遠に煽り続けるための道具に使われやすい。

 日本の心臓移植待機患者はすべて最重症のstatus1だが、この最重症患者でも1割は移植以外の治療法で心臓移植が不要になっている。参照:http://www6.plala.or.jp/brainx/2004-6.htm#20040619

 米国では、より軽症のstatus2の患者も心臓移植待機患者に含まれる。必ずしも移植が最善でない患者までも、臓器移植を受けている比率が欧米ではより高いことになろう。

 

 

 

 

 

 

70ページ下段

精神論だけでは実現できない人命、尊厳の尊重

 

損傷した顔面を回復するため、顔面移植が可能な時代になった。ところが英国では「死後に自分の顔面を提供する人は、医療関係者でさえ一人もいない」と報道された=2002年11月24付の英紙オブザーバーhttp://observer.guardian.co.uk/uk_news/story/0,6903,846447,00.htmlは、Royal Free Hospitalのピーター・バトラー形成外科医らのグループが、「ガンや事故あるいはヤケドによって、顔が大きく損傷した患者の治療として、死体ドナーからのfull-face transplants=顔面移植が技術的に可能になり、社会的および政府の承認が得られれば18ヵ月後に手術ができる。倫理上の考慮されるべきことが非常に大きく、十分な公開討論がなされなければならない」と、11月27日に英国で開かれる形成外科学会に発表することを報じた。

 顔面移植手術は、顕微手術装置と拒絶反応を抑制する薬剤の進歩で可能になったという。皮膚、骨、唇、耳、鼻、あごの移植手術には10時間以上かかり、移植後に動きや感覚をコントロールする神経、血管、筋肉を付ける。神経再生がうまくいかないと、移植された顔面は役に立たない。バトラー医師らが、医師や看護婦を含む120人に「死亡時に顔を提供するか」と調査したところ、ドナーになってもいいと答えた人は1人もいなかった、とのこと。

 

 

もしも過去に臓器を提供したドナーの遺族が「顔面移植を(脳移植を)したいからレシピエント側の死体をもらえないか」と要求したら拒否できるか=脳死患者の家族が筆者宛の私信メールで、「うちの子供の体は、臓器移植を希望する子供にあげるから、その子の脳は、うちの子供にもらい自分の子として育てる」と空想した人がいた。ただしこうしたことを書いた後に続けて「うわ、グロテスク」と書いている。このような方は、本当に脳を要求をしたりはしないと思われる。しかし脳死患者の家族全体ではあり得ることと考えられる。

 回復を期待して看病し続けているにもかかわらず、一方的に臓器提供物体でしかないかのように見なされ、臓器を取り出されたり治療を打ち切られたりする恐れを抱かされている脳死患者の家族が、そのような社会の風潮に反発するのは当然と考えられる。

 

 

どの患者にも十分な"治療と癒し"を提供できる社会的経済的基盤を確保すること。そうした基盤があれば、多くの人の納得できる救命治療が行なわれ、「移植しかない」と言われた臓器不全の方に対する医療も進歩し、終末期医療の選択について負担や摩擦も軽減される加藤 一良(日本医科大救急医学科):臓器提供を推進するために必要なこと−救急医の立場から−、移植、28(Supplement)、510−514、1993

 搬入された患者7,450例
(1987年7月〜1992年6月)

死亡例            =2,513例
脳死前提を満たす症例  =  680例
臓器提供可能例      =  516例(100.0%)
脳死判定例         =  181例( 35.1%)
臓器提供オプション提示例=   24例(  4.6%)
臓器提供意思確認例   =   12例(  2.3%)
複数臓器提供意思確認例=    6例
心臓提供意思確認例   =    5例

 日本医科大では、1992年6月までの5年間に臓器提供可能な患者が516例あったにもかかわらず、335例(64.9%)は脳死判定されなかった。「脳死前提を満たす症例」の発生と「脳死患者」の発生は一致せず、時期により10%以下〜60%近くと大きく変動する脳死診断率が脳死判定例の発生と連動していた。

 加藤氏らは考案で、「したがって救急医に余裕がないと発生しないという奇妙な状況にあると考えられる。これはあるべき姿ではなく、本来はすべての症例に対して同一の治療方針を取られるべきであるため、全例に対して脳死判定を行い、確認すべきである。われわれが脳死判定−診断を行なう最大の理由は bed control のためであり、治療の平等性を維持するために、全例について脳死かどうかの確認を行なう必要があると考えられる。しかしながら実際臨床上は、全例に対して脳死判定を行うことが必ずしも容易なことではないことも事実である。したがって臓器提供可能症例のうち、最初に可能性が消滅する335例を減らすために、救急医療の現場で脳死判定を常に行えるような状況を作り出す必要がある。実際に必要なものは人的労力であり、24時間いつでも脳死判定ができるような医療スタッフの充実が望まれる」としている。

 加藤氏、大塚氏らが bed control のため蘇生限界の判定(脳死判定)を、そのまま臓器摘出が容認される状態であると考えていることは間違いだが、臓器移植法が理念とする「救命と移植の両立」そして「死生観の尊重」は、医療スタッフの充実がないと実現できないことを示す論文といえよう。

 


このページの上へ

 

ホーム ] 総目次 ] 脳死判定廃止論 ] 臓器摘出時に脳死ではないことが判ったケース ] 臓器摘出時の麻酔管理例 ] 人工呼吸の停止後に脳死ではないことが判ったケース ] 小児脳死判定後の脳死否定例 ] 脊髄反射?それとも脳死ではない? ] 脊髄反射でも問題は解決しない ] 視床下部機能例を脳死とする危険 ] 間脳を検査しない脳死判定、ヒトの死は理論的に誤り ] 脳死判定5日後に鼻腔脳波 ] 頭皮上脳波は判定に役立たない ] 「脳死」例の剖検所見 ] 脳死判定をしてはいけない患者 ] 炭酸ガス刺激だけの無呼吸テスト ] 脳死作成法としての無呼吸テスト ] 補助検査のウソ、ホント ] 自殺企図ドナー ] 生命維持装置停止時の断末魔、死ななかった患者たち ] 脳死になる前から始められたドナー管理 ] 脳死前提の人体実験 ] 脳波がある脳幹死、重症脳幹障害患者 ] 脳波がある無脳児ドナー ] 遷延性脳死・社会的脳死 ] 死者の出産!死人が生まれる? ] 医師・医療スタッフの脳死・移植に対する態度 ] 有権者の脳死認識、臓器移植法の基盤が崩壊した ] 「脳死概念の崩壊」に替わる、「社会の規律として強要される与死(よし)」の登場 ] 「脳死」小児からの臓器摘出例 ] 「心停止後」と偽った「脳死」臓器摘出(成人例) ] 「心停止後臓器提供」の終焉 ] 臓器移植を推進する医学的根拠は少ない ] 組織摘出も法的規制が必要 ] レシピエント指定移植 ] 非血縁生体間移植 倫理無き「倫理指針」改定 ] 医療経済と脳死・臓器移植 ] 遷延性意識障害からの回復例(2010年代) ] 意識不明とされていた時期に意識があったケース ] 安楽死or尊厳死or医療放棄死 ] 終末期医療費 ] 救急医療における終末期医療のあり方に関するガイドライン(案)への意見 ] 死体・臨死患者の各種利用 ] News ] 「季刊 福祉労働」 127号参考文献 ] [ 「世界」・2004年12月号参考文献 ]