戻る • ホーム • 進む
脊髄反射でも問題は解決しない
古川 哲雄:脳死と臓器移植 ―脳死患者に本当に意識はないのか?―、神経内科、54(6)、529−533、2001
【要旨】
-
両側大脳半球を除去した動物から自発行動は無くなるが、強い不快な刺激を与えると覚醒する。これら除脳動物にみられる共通の症状は、インプットは保たれているが、アウトプットは極度に障害されているということである。≪無意識的・受動的な感覚≫と、≪意識的・能動的な感覚、知覚≫は区別しなければならない。後者は大脳半球によって起されるのに対し、前者は間脳、中脳、橋、延髄、脊髄に依存している。
-
頭皮上脳波が平坦でも、脳室内あるいは鼻腔からの誘導では活発な活動電位が見られる例がしられている。さらに臓器摘出のために皮膚に切開を入れると同時に、血圧の上昇、頻脈の出現することは1985年 Wetzelの報告以来、よく知られた事実である。このような現象は、脳の一部に機能が残っていなければ起こりえない。
-
意識は大脳皮質のみで感じているという根拠は無い。高次の中枢が障害されれば、それより下位の中枢が働く。皮質下中枢、脳幹、さらに脊髄にも中枢がある。客観性、再現性、普遍性を金科玉条とする現代科学は、≪意識≫を扱えない。
-
米国では脳死やそれに近い患者からの臓器摘出に、モルヒネを使うようになった。脳死患者の種々の体動は反射とされているが、脊髄反射を抑えるためならば筋弛緩剤を用いれば十分であるのに、なぜモルヒネを使わねばならないのか。人に言えぬ不快感を感じて移植手術から手を引いた外科医や、脳死と判定することを嫌がり、脳死判定を遅らせる傾向もあるのはなぜか。実際に救急部で医師はこのような経験をしている。手術台上に起き上がる脳死患者もいるのである(会田 薫子私信)。これが脊髄反射であろうか。(注:手術台上に起き上がる脳死患者については、上記以上の記述は「神経内科」誌上にはない)
-
麻酔をかけるだけでは解決しない問題である。脳死と診断された患者に100%意識が無いとは言えない、と考える神経内科医はいる。前述の除脳動物ではインプットは入ってもアウトプットができない状態であり、脳死患者もこれに近い状態にある可能性を筆者は考えている。
-
果たして脳死という診断が可能かという疑問を出す研究者もいるが、移植が優先される現在ではあまり問題にされない。「脳が無いからといって意識もないとするのは、胃が無いから食物が摂れない、と考えるに劣らず愚かしいことである」といったのは1907年Henri
Bergsonであるが、この言葉には今改めて深く考えさせるものがある。現在脳死は、臓器移植の必要に迫られて無理に設定されているとの批判を免れない。意識がある状態で臓器を取り出しているとすれば、われわれは恐ろしい罪を犯していることになる。われわれは進歩の名において、取り返しのつかない罪を犯しているのではないか?
-
移植臓器の不足から、脳死以外に心臓死5分後(施設によっては2分後)に臓器摘出が行われる例が増えてきており、このような場合は患者は本当に痛みを感じていないのかとの強い疑問も出されている。
〔本論文の内容は、第40回(1999年)および第41回(2000年)日本神経学会では発表を拒否された。〕 |
*武田 尚子(愛知県心身障害者コロニーこばと学園診療部リハビリテーション科):水頭無脳症1例に行った言語聴覚療法と摂食の取り組み、日本重症心身障害学会誌、36(2)、295、2011
症例:7歳0ヵ月の女児(2011年6月現在)、水頭無脳症。脳幹と小脳虫部の一部が認められるのみで、小脳、間脳、大脳はない。脳下垂体もなく汎下垂体機能不全にてホルモン補充療法を受けている。現在までにV-Pシャント術と胃痩造設術を受け、ABR検査にて右耳60dB左耳50dB、検査にて誤嚥なしと確認した。
方法:聴覚刺激については2009年9月から1年間、週1回、純音、楽器音、人の声への反応を観察、ビデオ録画した。摂食については2010年1月から1年4ヵ月間、食べる手続きを統一して取り組み、摂食の様子をチェックシートに記録、ビデオ録画した。
結果:言語聴覚療法では、聴覚刺激に驚愕反射、耳性眼瞼反射、入眠時聴性開眼反応が出現し、呼びかけに規則性のある瞬きと眼球の動きを確認した。摂食については、5種類の食材を日替わりで1回10匙まで食べるようになった。摂食開始頃は取り込み時の口唇や送り込みの舌の動きは弱く、食べた後には新規な刺激に反応してか眼球がグルグル動いていた。日替わり摂食開始頃には口唇や舌の動きが力強く活発になり、積極的に食べるようになった。
考察:言語聴覚療法では一度の聴覚刺激を1つとし、反応後にはニュートラルな間を挿入した。このように刺激と反応を1セットにしてつながりやすくしたことで、児の反応に規則性が確認できたと思われた。摂食では同じ働きかけが毎日繰り返されたことで摂食状況が安定し、食べる機能が向上したと思われた。またいろいろな物が食べられるようになりQOLも向上したと考えている。
まとめ:刺激を1つにすることや働きかけを統一することにより、大脳や間脳を介さない児の反応にも規則性と向上が期待できるとわかった。
*田中 英高(大阪医科大学小児科):子どもの脳死と死:脳死概念や定義の不整合性について UCLA小児神経学・アラン・シューモン教授 来日記念講演の概要と解説、小児科臨床、54(10)、1935−1938、2001
アラン・シューモン教授の講演会抄録:大脳皮質がほとんどないにもかかわらず、意識のある水頭無脳児、Andrew君(6歳)に出会ったのである。彼は水頭無脳症児でありながら、音楽にも嬉しそうに反応し、鏡に映る自分の顔をみて嬉しそうに笑うのである。さらには背臥位の状態で足をぴょこぴょこさせながら、家具にぶつかることもなくベランダに出ることができた。
このページの上へ