自殺企図ドナー
見出し=自殺と臓器提供についての考察 自殺企図ドナー症例報告要旨 自殺幇助・臓器摘出例 Brad Hoffmanケース 筋萎縮性側索硬化症ドナー 自殺企図ドナーからの臓器摘出断念例
臓器提供意思表示カード所持者の情報 臓器提供意思表示制度が自殺者を誘引している可能性 自殺企図によって臓器不全、移植を受けたケース
自殺と臓器提供についての考察(このページの主要事項の紹介を兼ねる)
自殺企図ドナーの定義=自殺を試みたものの心拍が再開し、または血液循環が維持され、その後に生存に必須の臓器が摘出された者を「自殺企図ドナー」と定義する。
日本の現状=古川 博之(旭川医科大学外科学講座消化器病態外科学):脳死下・心停止下における肝臓提供に関する研究、脳死並びに心停止ドナーにおけるマージナルドナーの有効利用に関する研究
(厚生労働科学研究費補助金 免疫アレルギー疾患等予防・治療研究)、37−39、2011は、我が国で1999年2月から2011年1月にかけて行われた脳死肝移植100例のうち、(表2ドナー因子は)自殺13例と記載している。法的脳死臓器提供者に占める自殺企図ドナー比率は13%になる。
「脳死並びに心停止ドナーにおけるマージナルドナーの有効利用に関する研究」は、厚生労働科学研究データベースhttp://mhlw-grants.niph.go.jp/index.htmlで、文献番号201023021Aにて閲覧できる。表示されるファイルリストのうち、古川報告は201023021A0002.pdf と
201023021A0003.pdfにまたがって掲載されている。
米国との違い=米国の自殺ドナー率は1994年以降で6.8%〜10.1%(UNOS、全米臓器配分ネットワーク統計)であり、日本の自殺企図ドナー率は
米国より多い。人口当たりの自殺者数は、日本が米国の2倍と多いにもかかわらず、日本の自殺企図ドナー率が米国の2倍にまでは達していないことの背景には、@銃が少なく自殺を完遂できる比率が低いA自殺完遂率の低さを補うほど多数の自殺を試みる人がいるB臓器提供が可能な状態で発見されることが困難、などの要因があると想像される。実際に、1998年段階では臓器提供意思表示カード所持者情報の4割が自殺者を占めた。
米国UNOSの統計は「Circumstance of
Death(ドナーが生じた事情)」の分類で、児童虐待、他殺 交通事故、交通事故以外の事故、自殺など。「Mechanism of
Death(原疾患)」の分類で、窒息、鈍的外傷、心臓血管、溺水、薬物中毒、感電、銃傷、頭蓋内出血/脳卒中、発作、乳幼児急死症候群、刺傷など。そして「Cause
of Death(死因)」の分類で、低酸素血症、脳血管/脳卒中、頭部外傷、中枢神経系腫瘍など、詳細な報告をしている。
一方、日本臓器移植ネットワークは前記のとおり、脳死下臓器提供者の原疾患を脳血管障害、呼吸器疾患、その他の内因死、頭部外傷、その他の外因死、と簡易な報告しかしていない。日本移植学会は(別ページ)脳死による臓器摘出を実施するにあたってフェア、ベスト、オープンの原則を掲げてきたが、現実はクローズされている。
自殺企図患者・ドナーの特殊性、隠蔽される理由=関西医科大学付属病院では、臓器提供オプションの提示から2回から5回の説明で臓器提供の承諾を得たケースが多いのに対して、自殺企図患者家族の場合は2例とも1回の説明で臓器提供の承諾を得た。新潟県厚生連豊栄病院では、患者家族が「植物状態となる可能性が高いなら人工呼吸器を外してほしい」との意向を伝えた。
自殺前の経緯そして自殺行為そのものによって、患者家族に精神的重圧がかかる。それは救急医・集中治療医にとっては治療する意欲を減退させ、患者の重症度からも生命維持の終了を、患者家族に提案する確率が高まる。臓器を獲得する側からも、「自殺を試みた患者の家族からは、容易に臓器提供の承諾が得られる、対応が容易」と判断されている可能性がある。
心臓移植を受けた患者が、移植後にドナーに対する罪悪感を増強したケースが報告されている(詳細は別ページ)。ドナーの本当の死因を知ることによっても、移植患者は精神的に動揺する。
メディカルコンサルタント(詳細は別ページ)が脳死確定以前からドナー管理を開始するケースもあり、ドナーが脳死に陥る経過が人為的に促進されている疑いがある。人為的な
脳死臓器ドナーの量産の疑いは、さらに移植待機患者、移植済み患者、そして臓器提供を承諾した患者家族の罪悪感を増強する。
自殺方法は、首吊りなど低酸素脳症、手首切創による出血性ショックなどが多く、脳死判定が難しい二次性脳障害が多い。実際に日本医科大学付属病院(法的脳死・臓器摘出29例目)では、臓器摘出術中に脳死では効かないはずの薬物が効き、脳死ではないことが発覚した。
精神を病んだ自殺企図ドナーが多いことは、被虐待児や知的障害者からの臓器摘出の禁止を定めた現行のガイドラインに抵触する患者が多いことも示す。しかし、自殺を企図した患者からの臓器摘出が禁止されると、若いドナーが減少して臓器機能の劣る高齢者のドナー比率が高くなる。
こうした多数の負の側面が明らかになることを避けるために、自殺臓器提供の実態は隠されているのではないか?
自殺臓器提供者の意図は達成できたか?自己決定権は尊重されたか?=法的脳死判定・臓器摘出の86例目以前は、旧臓器移植法下で、法的脳死臓器ドナーは臓器提供の意思を表明していた者に限定される。各ドナーの認識は推測するしかないが、平均的には「脳死判定は間違いがない、脳死と判定されたら心臓もそのうち止まる」「法的脳死判定手続きを信じている」「他人に役に立つことをしたい」「しかし、この世ではできることは
、もはや臓器提供しかない」「死にたい」などの思いと推測できる。
しかし、1960年代から多数行なわれてきた腎臓移植は、医学的根拠なく強行されており(詳細は別ページ)、臓器提供が他人の役に立っているのか根拠のない部分が多い。1980年代ごろから、脳死判定基準を満たしても心停止が必然ではない時代に入っている(詳細は別ページ)。メディカルコンサルタント(詳細は別ページ)
等によって法的脳死判定の確定前から、脳蘇生に反するドナー管理が行なわれており、法的脳死判定手続きは形骸化されている。
自殺臓器提供者は、死ぬことだけは達成できたかもしれない。しかし、脳蘇生に反するドナー管理、脳死ではない患者からの臓器摘出(詳細は別ページ)、摘出時の麻酔投与(詳細は別ページ)などの実態からは、臓器提供者が断末魔の苦しみ、恐怖、絶望のなかで生体解剖されたケースが多いと予想される
(死ぬことができた自殺企図ドナーの背景には、死体が発見されていない自殺者や死ねなかった自殺未遂者、さらには自殺行為で臓器移植を受けるに至った患者もいる)。
結局、自殺臓器提供とは、「他人に役に立つことをしたい」「しかし、この世ではできることは臓器提供しかない」と思い詰めた人々の善意、最後の願いと無知を、不心得な医療関係者が悪用し、形式的な自己決定そして家族の承諾あることを奇貨として利用しているだけではないか。臓器提供が可能な状態で発見されなかった自殺完遂者も含めて、自殺臓器提供では、本人の意図は達成できず、自己決定
権は尊重されないと判断される。自殺臓器提供の現実には、生命倫理学が最も重視する自己決定権の究極的な否定があるのではないか!
制度が誘発する自殺=柿野氏らは「自分の死後に臓器を提供する意思を示すという一見積極的にも取れる行動の裏に、セルフ・エスティームの低い人の多い可能性や、自己の価値を見つける手段の一つとしてそのような意思を決めている人が存在する可能性が示唆された」と報告しており、臓器移植そして生前意思表示制度が自殺を誘引し、自殺者を増やしている可能性が高い。
自殺企図ドナーから、管理された自殺臓器提供、臓器提供死の容認へ=こうした実態を知りつつも、それでも「『死体』からの臓器摘出・移植が行なわれるべき、生前の意思表示があればいいのではないか、生前からのドナー管理は厳重に監視して行なわないように規制すればいい、早期から麻酔を持続的に投与して痛み、苦しみ、恐怖を感じないようにして臓器提供をすればいい」と考える場合は、自殺容認に接近する。米国では、薬物による鎮静下の生命維持装置停止後の自殺幇助・臓器摘出は既に行なわれている。
しかし、移植可能な臓器を得るためには、血流がある状態で抗血液凝固剤ヘパリンを投与しなければならない。鎮静のための薬物投与も、臓器摘出目的での傷害になる。心臓の自然蘇生は12時間後も報告されている(詳細は別ページ)が、移植可能な臓器を得るためには心停止から分単位で臓器摘出術を開始しなければならないため、心臓死の死亡宣告は形式的なものにならざるをえない。
そもそも、改訂臓器移植法は生前意思表示を必須としないことを骨格として成立している。これらの事情は、臓器を提供をして死を遂げることを容認することを目指す動き、与死(詳細は別ページ)の許容につながる。
自殺企図ドナー症例報告要旨(法的脳死・臓器摘出の症例数は、日本臓器移植ネットワークの
臓器提供例に限定する数え方に揃えた。当サイト内の他ページは法的脳死判定症例数で記載しているため、法的脳死判定8例目以降で1例のズレを生じる)
札幌医科大学付属病院、市立札幌病院 手稲渓仁会病院(法的脳死・臓器摘出82例目) 総合南東北病院
新潟大学医歯学総合病院 新潟市民病院(法的脳死・臓器摘出128例目) 新潟県厚生連豊栄病院 総合太田病院 東京歯科大学附属市川総合病院(法的脳死・臓器摘出66例目)
国立病院機構千葉東病院 千葉大学医学部付属病院 東京女子医科大学病院(法的脳死・臓器摘出125例目) 関東甲信越の医療機関(法的脳死・臓器摘出94例目)
帝京大学付属病院(法的脳死臓器摘出142例目) 東京大学医学部付属病院 日本大学医学部付属病院(法的脳死・臓器摘出5例目)
日本医科大学付属病院(法的脳死・臓器摘出29例目) 東京医科大学付属病院 聖マリアンナ医科大学病院 北里大学病院 浜松医科大学医学部付属病院 名古屋記念病院、社会保険中京病院、小牧市民病院、市立岡崎病院、静岡済生会病院 名古屋第二赤十字病院 はちや整形外科病院 関西医科大学付属病院 兵庫医科大学病院(法的脳死・臓器摘出60例目)
滋賀医科大学付属病院 大阪市立大学医学部付属病院 大阪府立急性期・総合医療センター 奈良県立医科大学付属病院
札幌医科大学付属病院、市立札幌病院
*鹿野 恒(市立札幌病院):心停止ドナーの管理に関する研究、脳死並びに心停止ドナーにおけるマージナルドナーの有効利用に関する研究(厚生労働科学研究費補助金 免疫アレルギー疾患等予防・治療研究)、32−34、2011
市立札幌病院における2005年1月から2009年2月までに行なわれた臓器提供21例のうち、20例が心停止後腎臓提供。原疾患は脳血管障害8例、蘇生後脳症7例、外傷症例4例、遷延性意識障害患者の気道出血例1例。蘇生後脳症7例の内訳は、窒息4例、縊頸2例、循環器系疾患1例。
*鹿野 恒(市立札幌病院救命救急センター):脳死患者の終末期医療 臓器提供を含めて、ICUとCCU、31(3)、207−214、2007
2004年1月より9月まで札幌医科大学高度救命救急センター、2004年10月より2006年11月まで市立札幌病院救命救急センターにおいて、臨床的脳死診断を実施し臓器提供の選択肢提示を行った17例
のうち12例(21歳〜69歳)から、腎臓、膵臓、眼球、弁・血管、皮膚の提供があった。23歳女性はCPA縊頸、両親が承諾し腎臓を提供
した。
*鹿野 恒(札幌市立札幌病院救命救急センター):臨床的脳死症例家族に対する臓器提供に関する選択肢提示の試み、日本救急医学会雑誌、17(4)、129−136、2006 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjaam1990/17/4/17_4_129/_pdf のTable1に選択肢提示13例段階で上記Hanging症例が記載されてい
ます。
*栗本 義彦(札幌医科大学救急集中治療部):同種凍結心臓弁および動脈移植の試み、北海道外科雑誌、48(1)、57−61、2003
2001年3月から2003年1月に、心臓死患者家族から組織提供の承諾を得られたドナー5例より心臓弁および血管を組織を摘出した。61歳男性は縊首、死亡から摘出まで3時間20分。心臓弁、大動脈、角膜、皮膚を摘出した。
手稲渓仁会病院(法的脳死・臓器摘出82例目)
*小嶋 大樹:脳死ドナーからの多臓器摘出手術の麻酔経験、日本臨床麻酔学会誌、30(6)、S237、2010
20歳代女性、縊頸CPA。入院7日目に臨床的脳死と判定、入院10日目に2回の脳死判定を行い法的脳死と判定、入院11日目に多臓器摘出術が予定された。入室時バソプレシン2E/h投与で血圧127/66、脈拍80であった。導人はベクロニウム0.2mg/kg、維持はベクロニウム0.1mg/kg、レミフェンタニル0.05〜0.3γで行った。
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総合南東北病院
*管 圭一(総合南東北病院麻酔・集中治療科):心停止後に臓器提供した症例の経験、日本救急医学会雑誌、17(8)、575、2006
36歳男性、縊頸状態を家人に発見され、救急隊現場到着時既に心肺停止で、当院到着時心静止。蘇生術を開始し心拍再開、その後自発呼吸も出現したが意識が改善しないため低体温療法を開始。しかし復温終了後も意識は改善せず、第6病日の脳波はほぼ平坦、MRIでも広範な障害を認めた。第8病日家族に状態は危険である旨を説明したところ、本人の意思表示はないが臓器提供の希望があった。第11病日血圧が徐々に低下して永眠。直ちに臓器摘出が行なわれた。
新潟大学医歯学総合病院(移植施設としての報告)
*池田 正博(新潟大学大学院医歯学総合研究科腎泌尿器病態学分野):移植腎動脈狭窄により腎機能の発現が遷延した献腎移植症例、腎移植・血管外科、23(1)、49−54、2011
2010年11月11日、透析歴15年の65歳男性に献腎移植施行、ドナーは27歳女性(鬱による縊頸、蘇生後脳症)。
新潟市民病院(法的脳死・臓器摘出128例目)
2011年4月12日、日本臓器移植ネットワークは、「交通事故による頭部外傷の治療を受けていた少年が家族の承諾により脳死と判定された」と発表した法的脳死・臓器摘出128例目は、各報道によるとJR信越線加茂駅で電車に飛び込んだ自殺。臓器が摘出された4月13日は、このドナーによって始業式の日だった。
新潟県厚生連豊栄病院
*柄澤 良(新潟県厚生連豊栄病院院内コーディネーター):院内コーディネーターとしての献腎提供の経験、
今日の移植、20(2)、143−146、2007
症例は55歳男性
、28歳からうつ病のため精神科で内服治療(通院)を受けていた。自殺念慮のため、2005年12月〜2006年1月まで他院精神科に人院していた。
2006年2月17日(金)
15時 自宅の草庫で首を吊っているところを義父が発見、すぐに人工呼吸と心臓マッサージを行い、救急車で当院に搬送された。外来到着時、深昏睡であったが,心停止ではなかった。家族の救命の希望も強いため、気管内挿管を行った。
16:40 人工呼吸器を装着した(SIMV、FiO2
30%)。頭部CTでは出血性病変を認めなかった。酸素飽和度94〜97%、自発呼吸あり(11〜36/分)、JCS300、脈拍70〜80/分、血圧128/70mmHg、深昏睡で瞳孔は散瞳ぎみ、低酸素脳症によると思われる痙摯がみられ、diazepamが使用された。血圧と脈拍は安定し
腎機能は正常であった。人工呼吸器の使用時点検のため、臨床工学技士に連絡が入り、院内コーディネーターであった臨床工学技士の一人が、本症例がドナー候補と気づく。維持輸液のほか、H2ブロッカーと、発熱のために抗生剤の投与が開始された。
2月18日(土)、19日(日)
バイタルサインの大きな変化はなかったが、意識状態の改善は認められなかった。
2月20日(月)
家族は、植物状態となる可能性が高いなら人工呼吸器を外してほしいとの意向あり。家族の意向としては、不自然なかたちでの延命よりも、もしあきらめなくてはならないとしても自然なかたちで経過をみたい、とのことであった。SIMV
12回の設定であったが、14〜16回の自発呼吸があったため、主治医は筆者を含む他の内科医とも相談し人工呼吸器を離脱した。気管内挿管チューブについては、意識障害下の気道確保のため抜去しなかった。
タ方の内科新入院紹介でこの症例が紹介され、救命治療と臓器提供の可能性が議論された。このため、筆者は、主治医の意向を確認しドナーの適応を検討した。
2月21日(火)
10:30 ドナーの妻に臓器提供のオプションを、筆者ともう一人の院内コーディネーターが提示し、臓器提供に関する話を聞く希望があるかどうかを確認した。確認がとれたため、臓器移植コーディネーターに連絡。
11:00 臓器移植コーディネーター到着、再度ドナーの適応をいっしょに確認
13:15 妻、長男、兄夫婦に移植コーディネーターから臓器提供に関する説明が行なわれた。
立ち合い:院長、主治医、院内コーディネーター2名、病棟看護師
移植コーディネーターの説明で、家族から心臓死後の臓器提供の同意が得られた。ドナーが心臓死後の臓器提供を希望していたとの話が息子からあり、間接的にドナーの
意思も確認できた。
16:30 院内関係部署の責任者を招集し、今後の流れの説明と協力の確認を行った。主治医とコーディネーターのコール基準を、酸素飽和度80%以下、収縮期血圧80mmHg以下、無呼吸と決める。
メンバー:移植コーディネーター、院長、主治医、看護部長、病棟師長、手術室看護師、検査技師、放射線技師、医事主任、院内コーディネーター
その後、喀痰量が増加したが、気管内挿管チューブより看護師が頻回に吸引を行った。発熱とともに呼吸回数が毎分20回ほどに増加したが、血圧は安定していた。
17:40 新潟大学泌尿器科摘出チームによる診察とエコー実施
23:30 呼吸浅薄、酸素飽和度79〜80%、酸素3L開始
2月22日(水)
0:40 酸素飽和度79〜81%、院内コーディネーター、移植コーディネーター、主治医に連絡
1:15 酸素5Lに増量、酸素飽和度85〜87%
1:25 院内コーディネーターから関係部署へ電話連絡
1:30 移植コーディネーター到着、家族へ最終確認
1:37 移植コーディネーターから摘出チームと警察へ連絡
1:53 主治医到着
1:54 豊栄警察到着、主治医、事情聴取、検死の相談、縊死のため、頭部の写真撮影を中心とした検死が予定された。
2:45 摘出チーム到着
4:00 血圧125/67mmHg、脈拍107/分
5:30 血圧104/56mmHg、脈拍 94/分
6:20 呼吸数38(下顎呼吸)、酸素飽和度77%、血圧75/25mmHg、脈拍82/分
6:37 呼吸停止、心臓マッサージ、アンビュー開始
6:46 心停止、死亡宣告
6:47 ヘパリン3万単位 静注、心臓マッサージ、アンビューを継続し、手術室へ移動
6:55 手術室前室で警察官の検死
7:00 摘出手術開始
8:34 手術終了
9:00 手術室より帰室し、死後の処置を開始
9:40 お見送り
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総合太田病院
*杉山 健(総合太田病院泌尿器科):一地方の単一施設においてドナー腎摘出術と腎移植術を行いえた献腎移植、第42回日本臨床腎移植学会記録集・腎移植症例集2009、210−212、2009
2006年2月から2007年3月まで計3例の腎摘出術のうち1例が自殺。うつ病にて近医に通院中だった43歳男性は、2007年3月27日、自宅物置にて縊頸の状態を発見され当院に緊急搬送された。救命処置を施したものの自発呼吸は得られず、臨床的脳死状態と診断。
3月28日に病状説明の際、家族から臓器提供の申し出。
3月31日にダブルバルーンカテーテルを留置、
4月1日4時30分に死亡を確認、4時54分にドナー手術を開始、5時47分に両側腎臓を摘出した。
東京歯科大学附属市川総合病院(法的脳死・臓器摘出66例目)
*浅水 健志(東京歯科大学附属市川総合病院角膜センター):脳死下臓器提供時における組織提供オプション提示について、日本組織移植学会雑誌、7(1)、50、2008
2008年3月、当院において脳死下臓器提供が行われた。その際、院内コーディネーターとして関わり、組織提供に関するオプション提示を試みた。
縊頸により救急搬送された30歳代女性が、5病日目に臨床的脳死と診断された。主治医から家族に病状説明があった際、本人が臓器提供意思表示カードを所持しているとの申し出があり、脳死下臓器提供に至った。意思表示カード1番の、「脳死判定に従い、脳死後、臓器提供する」に丸がつけてあり、肺を除く全ての臓器に丸がつけてあった。「その他」の項目に、丸はなかった。
結果として、心、肝、膵、腎、眼球の提供に至った。
脳死下臓器提供に関するインフォームドコンセント(以下IC)後、家族を控室に案内した際、組織提供に関するオプション提示を実施した。組織提供に関する情報提供を行ったが、家族に疲労の様子が伺えたため、返事はいつでも構わない旨を伝えた。翌朝、第
2回目の法的脳死判定終了予定時刻を伝えた際、夫より、組織提供の意思は無いと回答があった。その際、「意思表示カードのその他が何を指しているのか、今まで分からなかった」、またIC後、判定等がどんどん進んで行き、これ以上考えられないので、今回はこのままで」とのコメントがあった。
国立病院機構千葉東病院(膵島分離施設としての報告)
*丸山 通弘(国立病院機構千葉東病院外科):当院における膵島分離・移植成績、膵臓、23(3)、384、2008
2004年1月より2007年3月まで心停止ドナーより当施設にて分離した23例、ドナー平均年齢37.5歳(10−69)、心停止前カニュレーション12例、温阻血時間平均9.9分(range:2−30)。死因は脳血管障害10例、低酸素脳症(縊頸・窒息)7例、頭部外傷5、脳腫瘍1。
千葉大学医学部付属病院
*落合 武徳(千葉大学第二外科):死体腎移植における移植腎機能発現遅延の原因と予後、最新医学、32(11)、2113−2116、1977
1967年以来1976年10月までに、36人の慢性腎不全患者に41回の死体腎移植を行なった。死体腎移植のドナーは33人、ドナーの原因疾患は脳挫傷20例、脳血管障害9例、脳腫瘍1例、自殺1例(3%)、筋萎縮性側索硬化症1例。
千葉大学医学部付属病院(移植施設としての報告)
*落合 武徳(千葉大学医学部第二外科学教室):臓器移植のバイオエシックス、千葉医学、62、179−186、1986
http://mitizane.ll.chiba-u.jp/metadb/up/AN00142148/KJ00004512265.pdf
千葉大学医学部第二外科では昭和42年から60年末までに約100例の死体腎移植を施行した。表4に腎提供施設、表5にドナーの死因が掲載されている。78例のうち自殺は2例(2.6%)。
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東京女子医科大学病院
*高橋 公太ほか(東京女子医大腎臓病総合医療センター第3外科)、
金 一宇(西新井病院)、真田 祥一(大森赤十字病院)、岩城 洋一、P.Terasaki(UCLA外科):死体腎 donor
の限界、移植、17(3)、174−184、1982
対象は東京女子医科大学腎臓病総合医療センターおよびその関連病院で摘出した12例の死体腎ドナー(1976年?〜1981年)。死因は脳卒中10例(脳出血
7例、クモ膜下出血2例、その他1例)、交通事故による頭部外傷1例、両側内頸動脈閉塞1例(47歳女性)。
この47歳女性の死亡前血圧は150/80、体温38.7度。死戦期に(表8)輸液がなされている。死戦期に使用した主な薬剤(表9)は、副腎皮質ホルモン剤(hydrocortisone)、マイナートランキライザー(diazepam)、解熱鎮痛剤(sulpyrine)、非ステロイド系抗炎鎮痛剤(indomethacin)の19種類である。東京女子医大のドナー管理の詳細は別ページに掲載。
*中島 一郎、淵野上 昌平(東京女子医科大学腎臓外科):膵臓移植・保存の現況と将来展望、Organ Biology、18(1)、141−144、2011
脳死ドナーからの膵臓移植は2010年10月までに計75例行われており、そのうち14例を筆者らの施設で経験している。
手術年月日2007年9月15日(法的脳死・臓器摘出60例目)の30歳代女性ドナー(臓器提供施設は兵庫医科大学病院)の死因は縊頸・低酸素脳症、心肺停止約22分。同2010年9月7日
(法的脳死・臓器摘出94例目)の20歳代男性ドナー
(臓器提供施設は関東甲信越の医療機関)の死因は縊頸・低酸素脳症、心肺停止約30分。
*小山 一郎、中島 一朗、渕之上 昌平(東京女子医科大学附属腎臓病総合医療センター外科):マージナルドナーからの膵臓移植、Organ
Biology、19(1)、87−90、2012
東京女子医科大学では2012年2月の時点で脳死下膵臓移植を21例行なっている。ドナーの死因は、クモ膜下出血9例、縊頸・蘇生後脳症4例、外傷性急性硬膜下血腫2例、外傷性クモ膜下出血2例、脳出血2例、喘息重積発作・蘇生後脳症1例、急性硬膜下血腫1例。
縊頸・蘇生後脳症は、
7例目 31歳女性で心肺停止 約22分、BMI17.0(当サイト注:前出、法的脳死・臓器摘出60例目と見込まれる)
13例目 29歳男性で心肺停止 約30分、BMI28.1(当サイト注:前出、 〃 94例目 〃 )
16例目 51歳女性で心肺停止最低46分、BMI21.2(当サイト注:2011年2月27日、東京女子医科大学東医療センターの法的・脳死臓器摘出125例目と見込まれる)
17例目 23歳女性で心肺停止最低47分、BMI17.5(当サイト注:2011年7月23日、帝京大学付属病院の法的・脳死臓器摘出142例目と見込まれる)
東京大学医学部付属病院
*末松 義弘(東京大学医学部心臓外科学教室):同種心臓弁・血管移植の実際、今日の移植、14(4)、401−409、2001
1998年3月〜2000年10月までの間に計26例の同種弁および同種血管の提供があった。死因をみると、脳卒中(n=12)、自殺(n=7)の占める割合が多く、ほかに喘息、交通事故、脳腫瘍なども認められた。
日本大学医学部付属病院(法的脳死・臓器摘出5例目)
*斎藤 豪(日本大学救急医学):脳死下臓器提供患者に対する脳死判定の問題点、日本救急医学会雑誌、14(10)、658、2003
国内5例目の脳死体からの臓器提供の経験から、脳死判定の問題点について報告する。
20歳代女性、3月27日10時5分頃、自宅で心肺停止状態で発見され10時51分当院救命センターに入室、11時18分心拍再開、12時20分病状説明をした際に家族より意思表示カードの提示があり、臓器提供したいとの申し出があった。
3月28日0時20分自発呼吸停止、2時44分臨床的脳死と判定。9時4分より第1回法的脳死判定18時31分より第2回脳死判定を施行し脳死と判定した。
家族の意向により原因疾患や既往症について公表できないが、臓器提供施設マニュアルに記載のない原因による外因死であったことと、既往症から意思表示カードの有効性については多少の問題があると考えた。厚生省に助言を求めたが当施設の判断に委ねられ、関係者の慎重な検討の結果問題なしと判断し提供に踏み切った。また、服用中の薬物が脳死判定に影響する可能性も考えられたが、服用量より問題ないと判断した。
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日本医科大学付属病院(法的脳死・臓器摘出29例目)
*冨樫 順一(東京大学人工臓器・移植外科):脳死肝移植2例の経験、外科、67(4)、469−472、2005
2004年5月20日に日本医科大学付属第二病院で臓器摘出された法的脳死判定30例目「ドナーは40歳男性で、頸部、両手首切創による出血性ショックで脳死となった
。
注:このドナーは臓器摘出術中に徐脈となり、脳死患者には効かないと知られているアトロピンが投与され、有効であったことがLiSA11巻9
号や日本臨床麻酔学会第24回大会抄録号に記載されている(詳細は別ページに掲載)。本当は脳死ではない患者を、法的に脳死として死亡宣告し、摘出する医師らは脳死ではないことを知りつつ臓器摘出を完遂したと判断される。
東京医科大学付属病院
*松野 直徒(東京医科大学八王子医療センター第5外科):当施設における心停止、検死後腎移植例の経験、移植、31(5)、453、1996
1990年から1995年3月までに当施設が経験した心停止、検死後腎移植症例の死因は、3例が交通外傷、2例が自殺、1例が転落であった。年齢は16〜25歳、検視時間は10〜15分。全例に心停止直前にダブル・バルーン・カテーテルを挿入し、心停止後の死体内潅流を行なった。
*柳田 邦男:犠牲(サクリファイス)(文芸春秋)、1995
*柳田 邦男:僕は9歳の時から死と向きあってきた(新潮社)、2011
1993年8月10日(火)、対人恐怖と強迫神経症の柳田 洋二郎氏(25歳)は、縊頸により日本医科大学多摩永山病院救命救急センターに入院。同氏からの腎臓摘出は、上記の東京医科大学八王子医療センターの移植チームが1993年8月20日に行なった
(詳細は別ページ)。
聖マリアンナ医科大学病院(移植施設としての報告)
*相田 紘一郎(聖マリアンナ医科大学腎泌尿器外科):
術中の被膜切開によりPage kidneyを回避できた献腎移植の1例、聖マリアンナ医科大学雑誌、39(4)、263−266、2012
ドナーは50歳代女性
、縊頸による心肺停止状態にて、県内の救命救急センターに搬送され、蘇生措置により心拍再開となった。頭部CT上は皮髄境界が不明瞭であり、びまん性の脳腫脹を認めたために、低酸素脳症による予後不良の状態と診断された。その後、ご家族から臓器提供意思表示カードの提示があった。心停止
前の灌流用カテーテル挿入の承諾は得られず、
カテーテル挿入なしで、心停止後に腎提供となった。心停止後に検視があったために15分間の心臓マッサージを経て、摘出手術が開始となり in
situd でのカニュレーションが行なわれた。温阻血時間は25分であった。摘出チームからは、摘出時に腎被膜下血腫が生じたとの情報提供があった。
注:相田 紘一郎(聖マリアンナ医科大学腎泌尿器外科):被膜切開が功を奏した腎被膜下出血を伴った献腎移植の1例、神奈川医学会雑誌、38(1)、85、2011
に、上記の簡易な報告が掲載されている。神奈川医学会雑誌では「ドナーは縊頸による臨床的脳死」としている。
北里大学病院(移植施設としての報告)
*笹本 治子(北里大学医学部泌尿器科学):献腎移植におけるprimary non function、今日の移植、22(6)、692−695、2009
2009年1月、50歳女性(血液型O型)ドナーは縊頸、温阻血時間1分で腎臓を摘出。
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浜松医科大学医学部付属病院
*中野 優(浜松医大泌尿器科):OKT3投与後広範な皮下出血をきたした1症例、第23回腎移植臨床検討会、70、1990
1989年5月23日、68歳の女性をドナーとして死体腎移植を行なった。ドナーの死因は首つりによる自殺であった。
*阿曽 佳郎(浜松医科大学泌尿器科学教室):腎移植自験例の臨床成績、日本泌尿器科学会雑誌、76(5)、649−657、1985 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jpnjurol1928/76/5/76_5_649/_pdf
1982年4月から、静岡県内で摘出した腎による死体腎移植は14例。表2から、ドナーは年齢・死因・温阻血時間が同じことから8例と見込まれ、うち1例が自殺で23歳・温阻血時間5分
。
名古屋記念病院、社会保険中京病院、小牧市民病院、市立岡崎病院、静岡済生会病院
*大島 伸一(社会保険中京病院泌尿器科):死体腎移植における donor 腎摘出術の検討、日本泌尿器科学会雑誌、83(2)、225−229、1992 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jpnjurol1989/83/2/83_2_225/_pdf
1987年9月より1990年12月まで、死体腎提供19例のうち、(表1)1例が自殺縊死で68歳女性・温阻血時間0分。
社会保険中京病院
*田中 國晃(社会保険中京病院泌尿器科):多発外傷のDonorから提供された献腎移植の1例、移植、34(5)、285、1999
ドナーは25歳男性、ビルの7階より飛び降りて全身を強打し、出血性ショックの状態で当院救急外来へ搬送され、2日後、臨床的脳死と診断された。家族の希望で人工呼吸器を中止し、心臓死を確認後、腎摘除術を施行した。
名古屋第二赤十字病院(地方腎移植センターとしての報告)
*加藤 治(名古屋第二赤十字病院地方腎移植センター):死体腎通報の検討、腎移植/新時代への展望(メディカ出版)、145−150、1992
1985年1月より1990年9月までの5年9ヵ月に当センターにもたらされた腎提供候補者の通報は114件、提供者としての条件を満たすと考えられた症例は114件中98件、このうち51件(52%)は実際の提供に至り、31件(31%)は家族の拒否によって、16件(16%)は医学的理由や対応不能のため、実際の提供には結びつかなかった。
ドナー候補者98例の内訳は病死59例(60%)、事故死32例(33%)、自殺2例(4%)、その他1例(3%)。
腎提供51例の内訳は病死31例(61%)、事故死17例(33%)、自殺2例(4%)、その他1例(2%)。
*JANAMEF
REVIEW1 移植システムを考える(国際医療専門家協会・出版事務局)、85、1991によると、1988年に名古屋第二赤十字病院地方腎移植センターが受けた腎提供者情報は26例、このうち自殺は2例あり、31歳女性は提供せず、26歳男性から腎臓が摘出された。
はちや整形外科病院(移植施設としての報告)
井澤 浩之(愛知骨移植研究会・はちや整形外科病院):HBs抗原検査とHBV核酸増幅検査で結果が不一致であった組織提供者の1例、日本組織移植学会雑誌、2(1)、40、2003
37歳未婚女性、自宅で頸を吊っているのが発見され、救急車で近医へ搬送された。主治医より親族へ回復不能の説明後、父親より臓器提供意思表示カードの提示があり、心臓死後の腎臓、角膜、骨の提供に同意された。患者は以前より自殺企画の既往あり。
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関西医科大学付属病院
*千代 孝夫(関西医科大学救命救急センター):救急施設からみた移植臓器提供と移植コーディネーターの問題点と将来像、今日の移植、5(5)、493−497、1992、
1986年から1992年の間に11例の腎臓提供を行った。1987年に自殺・頸部切創の56歳男性、1989年に自殺・縊頸の47歳女性。
提供までの経過では、自殺の2例は腎臓提供の説明1回目で承諾を得た。他の腎臓提供9例は、脳死後家族からの申し出1例、説明2回目で承諾が2例、説明3回目で承諾が4例、説明4回目で承諾が1例、説明5回目で承諾が1例。
*千代 孝夫(関西医科大学救命救急センター):移植腎提供の実態と問題点 経験した7症例の検討による提供現場よりの報告、今日の移植、2(5)、445−450、1989
臓器提供を行った家族へのアンケートに、上記の自殺・頸部切創56歳男性の家族は、質問「やったこと(腎提供)を誇りに思うか」に対して、「生きている間みんなに迷惑をかけどうしだったので、いまは世の中のためになって本人も満足していると思う」と答えた。
兵庫医科大学病院(法的脳死・臓器摘出60例目)
*中島 一郎、淵野上 昌平(東京女子医科大学腎臓外科):膵臓移植・保存の現況と将来展望、Organ Biology、18(1)、141−144、2011
(文献は既出)
脳死ドナーからの膵臓移植は2010年10月までに計75例行われており、そのうち14例を筆者ら(東京女子医科大学病院)の施設で経験している。
手術年月日2007年9月15日(法的脳死・臓器摘出60例目)の30歳代女性ドナー(
臓器提供施設は兵庫医科大学病院)の死因は縊頸・低酸素脳症、心肺停止約22分。
滋賀医科大学付属病院(移植施設としての報告)
*朴 勺(滋賀医科大学泌尿器科):滋賀医科大学における腎移植51例の検討、泌尿器外科、5(4)、307−312、1992
*朴 勺(滋賀医科大学泌尿器科学教室):滋賀医科大学における献腎移植症例の検討、滋賀医科大学雑誌、10、29−35、1995
*朴 勺(滋賀医科大学泌尿器科学教室):滋賀県における献腎移植症例の検討、西日本泌尿器科、58(6)、621−625、1996
*迫 裕孝(滋賀医科大学第1外科):滋賀医大における腎移植73例の検討、滋賀医科大学雑誌、11、83−91、1996
1983年1月から1994年12月までの12年間に、滋賀県で献腎移植41回が施行された。ドナーは38例。1983年6月25日、滋賀医科大学における「死体」腎移植2例目は、自殺(窒息)した兄52歳男性から摘出した腎臓を、透析歴2763日(7年5か月)、慢性糸球体腎炎の49歳男性に移植した。温阻血時間42分。腎臓移植を受けた弟の49歳男性患者は、透析を離脱できなかった。
大阪市立大学医学部付属病院(移植施設としての報告)
*仲谷 達也(大阪市立大学泌尿器科学教室):死体腎移植11症例の臨床的検討、大阪市医学会雑誌、39(3)、715−725、1990
1986年7月〜1989年12月末までに11例の死体腎移植を施行した。ドナーは男性6例、女性5例、平均42.9歳。自殺は42歳女性ドナー(ドナー側病院は関西医大、温阻血時間1分)、19歳女性(ドナー側は病院は寺元記念、温阻血時間1分)
。
大阪府立急性期・総合医療センター(移植施設としての報告)
*奥見 雅由(大阪府立急性期・総合医療センター泌尿器科):献腎移植長期生着に影響を及ぼす因子の検討、移植、39(2)、191−196、2004
1985年より2002年12月までに当院で施行した献腎移植58例、うち自殺1例
奈良県立医科大学付属病院(移植施設としての報告)
宇治 満喜子(奈良県立医科大学麻酔科)ほか:同一ドナーよりの死体腎移植において再灌流時に持続性の高血圧を発症した2症例、麻酔、55(5)、656、2006年
ドナーは縊頸の42歳男性
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自殺幇助・臓器摘出例(意識下の自殺および臓器提供の決断・完遂例) Brad
Hoffmanケース
Strong Memorial Hospital
*Jeffrey Spike(Director of the Ethics Consultation Service at Strong Memorial
Hospital):Controlled NHBD protocol for a fully conscious person: when death is
intended as an end in itself and it has its own end,The Jouranl of Clinical
Ethics,11(1),73-77,2000
Brad
Hoffmanは、高校でフットボールチームのクォーターバックを勤めたエネルギッシュで強く、背が高くハンサムな男性で、仕事にも成功していた。28歳の時、夜、一杯だけ飲んで帰宅途中に車が道をはずれ、脊髄を損傷した。完全なC3損傷で回復の見込みはまったくなく、人工呼吸器に依存した四肢麻痺となった。Bradは集中治療室の医師、看護師に人工呼吸器を停止するよう頼み、24時間以内に倫理コンサルタントがBradと話をした。コンサルタントは、Bradに最終的な決定を急ぐべきではない時期だと説明したが、Bradは生命維持装置の停止は最終決定だと保証した。翌日、Bradは家族に生命維持装置を止める決断を伝え、すべての家族は反対した。
倫理コンサルタント達の会議中に、Bradが死後に臓器提供したいと看護師に伝えたことがわかった。この病院では最近、心停止ドナープロトコルを作成したばかりだった。Bradを心停止ドナー候補者にできるのか?ある者は心停止ドナープロトコルを聞いたことがなく、ある者はBradの状況は対象外と判断し、Bradの要請に皆は驚いた。
Bradに決断する能力があるか、彼の決断は自発的か強制されていないか、受傷から間もない時期にインフォームド・ディシジョンが可能か、が疑問となった。Bradの決断に誰も賛成しておらず、彼の決断は自発的で強制されてはいなかった。リハビリテーション部の医師がBradを診察し、医師は即座にリハビリテーション部への移送を熱望した。Bradにはすべての情報が伝えられた。
Bradの自動車事故が自殺しようとしたもので、彼の決断は単に、自殺を完結させようとしているのではないかと懸念された。Bradは、事故の前まで自殺しようと考えたことはなかったと熱心に否定した。精神科医は、Bradはうつ状態ではなく決断能力があると結論した。
倫理コンサルタントは、Bradに決断するまでに1週間待つように、そして愛する人たちとよく話し合うように薦めた。Bradは了承したが、決断は変わらないと保証した。
1週間が経過し、Bradは決断を変えなかった。彼は、金曜日の午後1時に生命維持装置を切り離すように談判した。人工呼吸器は、集中治療室の彼の部屋で、鎮静下に取り外されること。集中治療医の死亡宣告の後に、臓器を摘出する手術室への搬送前に、外科医によってベッドサイドでカニュレーション、灌流が行なわれることで合意された。多くの移植施設は心停止ドナーは、マージナルドナーとみなし、Bradの腎臓のみが摘出され、2名の患者に移植され良好に機能した。
注:The Jouranl of Clinical
Ethicsの11巻1号は、この症例報告に続いてp78〜p93に4名のコメント(Jeffrey
Spike氏の応答も含む)を掲載している。脊髄損傷患者の3割がうつ状態になり、3%近くが自殺を試みること、さらに臓器提供まで約1週間という短さからドナー候補者の決断能力に疑問を呈したり、Bradのケースがデッド・ドナ・ールールを侵害するか否か、の観点からの意見などがある。
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筋萎縮性側索硬化症(ALS)ドナー
以下の筋萎縮性側索硬化症患者を「死体」臓器ドナーとした報告には、詳細な記述がないため自殺とは断定できない。しかし、金沢医科大学の報告は、人工呼吸器装着から2日後の臓器摘出、そして「死亡前より臓器提供の申し出」であることから、前記Brad
Hoffmanケースと類似の可能性がある。他の、生前カテーテル挿入例や温阻血時間(おんそけつじかん)0分の臓器摘出例では死亡宣告に疑義がある。
千葉大学医学部付属病院
*落合 武徳(千葉大学第二外科):死体腎移植における移植腎機能発現遅延の原因と予後、最新医学、32(11)、2113−2116、1977
1967年以来1976年10月までに、36人の慢性腎不全患者に41回の死体腎移植を行なった。死体腎移植ドナー33人のうち1例が筋萎縮性側索硬化症。
金沢医科大学
*津川 龍三(金沢医科大学):死体腎提供者の腎摘除とその移送の経験、日本泌尿器科學會雑誌、70(6)、734、1979
60歳女性、筋萎縮性側索硬化症により呼吸麻痺に陥り、1978年1月13日レスピレーターを装着した。死亡前より臓器提供の申し出があり、死亡当日の輸液は4000mlであった。1月15日午後8時27分に主治医と脳神経外科医により死亡を宣告され、直ちに手術室にてカテーテルを大動脈内に挿入、4度ハルトマン液にヘパリン、プロカインを加え、8時54分に潅流をはじめた。左腎は中京病院にて20歳男性に、右腎は名古屋第二赤十字病院で移植。
浜松医科大学医学部付属病院
*阿曽 佳郎(浜松医科大学泌尿器科学教室):腎移植自験例の臨床成績、日本泌尿器科学会雑誌、76(5)、649−657、1985(文献は既出) https://www.jstage.jst.go.jp/article/jpnjurol1928/76/5/76_5_649/_pdf
1982年4月から、静岡県内で摘出した腎による死体腎移植は14例。表2から、ドナーは年齢・死因・温阻血時間が同じことから8例と見込まれ、うち1例が筋萎縮性側索硬化症で34歳・温阻血時間55分。
名古屋記念病院、社会保険中京病院、小牧市民病院、市立岡崎病院、静岡済生会病院
*大島 伸一(社会保険中京病院泌尿器科):死体腎移植における donor 腎摘出術の検討、日本泌尿器科学会雑誌、83(2)、225−229、1992
(文献は既出) https://www.jstage.jst.go.jp/article/jpnjurol1989/83/2/83_2_225/_pdf
1987年9月より1990年12月まで、死体腎提供19例のうち、(表1)1例が筋萎縮性側索硬化症で62歳男性・温阻血時間20分。
注:この論文は、腎ドナーの心臓が拍動している生存中に、臓器摘出目的のダブルバルーンカテーテル挿入、留置することを記載している。
*小野 佳成(社会保険中京病院腎移植グループ):死体腎移植の経験、移植、13(総会臨時号)、79、1978
昭和48年9月より昭和53年6月までに3例の死体腎移植を経験している。60歳女性ドナーは側索硬化症。
滋賀医科大学付属病院(移植施設としての報告)
*朴 勺(滋賀医科大学泌尿器科学教室):滋賀医科大学における献腎移植症例の検討、滋賀医科大学雑誌、10、29−35、1995
*朴 勺(滋賀医科大学泌尿器科学教室):滋賀県における献腎移植症例の検討、西日本泌尿器科、58(6)、621−625、1996
*迫 裕孝(滋賀医科大学第1外科):滋賀医大における腎移植73例の検討、滋賀医科大学雑誌、11、83−91、1996(各文献は既出)
1983年1月から1994年12月までの12年間に、滋賀県で献腎移植41回が施行された。筋萎縮性側索硬化症ドナーは1993年4月12日、49歳男性、温阻血時間0分
。
注:西日本泌尿器科58巻6号は1991年の腎提供者から、滋賀医科大学雑誌11巻は1993年の筋萎縮性側索硬化症の腎提供者から、ドナーの死亡前に大動脈と下大静脈に灌流用のカテーテルを留置しておき、心停止と同時に腎灌流を開始するようになったため、温阻血時間が0分となったことを記載している。
臓器を摘出する目的で、ドナーの心臓拍動時=ドナーへの死亡宣告前から、カテーテルを挿入することは、移植待機患者の利益を図るため(第3者目的)の、ドナーに対する傷害行為になる。「家族の同意を得ればよい」と主張されるが、現行の日本臓器移植ネットワークのドナー候補者家族に対する説明文書でさえも、カテーテル挿入、ヘパリン投与の侵襲性について説明していない(詳細は別ページ)。
1993年の関西医大事件http://pikaia.v-net.ne.jp/indexkansaihankcat.html以降は、厚生省・日本腎臓移植ネットワーク等は「脳死状態が確認された後にカテーテル挿入、ヘパリン投与、人工呼吸器停止を可」とし、法的脳死判定手続もない段階から実質的な脳死臓器摘出を容認してきた。しかし、症状が進行した筋萎縮性側索硬化症では、意識があって脳死ではなくとも、神経学的検査や無呼吸テストには反応しないと見込まれるため、脳死判定の対象外にすべきと考えられる。
温阻血時間は、ドナーの心停止から臓器が冷却されるまでの時間を示す。温阻血時間0分とは、心停止の継続をまったく確認していないか、あるいは59秒間以下の観察しか行なっていないことを示す。しかし、心停止後の自然蘇生例は数分経過後、心臓拍動の再開は約12時間経過後の報告もある(詳細は別ページ)。
筋萎縮性側索硬化症の「死体」臓器ドナー候補者に対して、脳死の宣告はできないし、心臓死の宣告は他の疾患のドナーと同じく形式的にならざるをえない。ALSの「死体」臓器ドナーは、本人の意思にもとづく自殺、あるいは近親者が臓器提供により死を遂げることを容認、あるいはドナー本人および近親者の無知により成立しているのではないか?
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心臓死ドナー予定で待機したが生きている!
*岡本 賢二郎(愛媛県立中央病院泌尿器科):提供にいたらなかった心臓死カテゴリー3の2症例、移植、40(6)、548、2005
63歳女性、うつ病あり自殺企図、低酸素脳症となりICUに入院。主治医より予後不良との説明がなされた後、家族より腎提供の申し出がありコーディネーションが開始された。院内で常時の待機態勢をとったが、結果的には2ヵ月後無尿状態となり移植は中止となった。現在は腎機能良好で生存中である。
*星長 清隆(藤田保健衛生大泌尿器科):献腎提供の承諾をえながらも腎摘出を断念せざるをえなかった6症例の検討、移植、34(5)、284、1999
*伊藤 徹(藤田保健衛生大泌尿器科):献腎ドナーからの腎摘出術が行われながらも移植を断念せざるをえなかった10腎の検討、移植、34(5)、285、1999
当施設では1990年6月から1998年8月までに109例の心停止ドナーがあり、腎摘出直前あるいは腎摘出術中に重大な問題が判明したため腎摘出を中止せざるをえなかった6例が存在した。症例4は首吊り(自殺)の49歳男性。
注:この報告は、他の5症例については腎摘出・移植断念の理由を、細菌感染、臓器損傷、冷却不良など記載しているが、自殺の1症例についてのみは理由を記載していない。
自殺から、摘出そのものの断念したものとみられる。
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1998年9月3日までの意思表示カードを所持者情報 25件のうち10件(4割)が自殺
*重藤 和弘(厚生省臓器移植対策室・室長補佐):臓器移植法成立の背景と施行1年の状況、法律の広場、51(10)、4−9、1998
注:当時の臓器提供意思表示の内容は、1は脳死臓器提供の承諾、2は心臓が停止した死後の臓器提供の承諾、3は臓器を提供しないこと、の意思表示だ。25名のうち3名(うち自殺者1名)は「1.2.3に表示なし」のため、意思表示カードは保有していたものの、意思表示はしていなかったと判断される。以下の枠内で、太字などの強調は当Webで付した。
表3 意思表示カード所持していたとの情報 (社)日本臓器移植ネットワーク調べ(1998年9月3日現在) |
|
情報
受信日 |
受信
ブロック |
情報
通報者 |
意思表示者 |
意思表示 |
状況 |
提供の
内容 |
性別 |
年齢 |
原疾患 |
手段 |
内容 |
1 |
1997/11/13 |
関東甲信越 |
主治医 |
男性 |
51 |
拡張型心筋症(心移植希望者) |
意思表示カード |
2.に表示 |
連絡直後に心停止 |
角膜・皮膚 |
2 |
1997/12/29 |
関東甲信越 |
主治医 |
男性 |
59 |
脳内出血 |
意思表示カード |
1.2.3に表示なし |
記入不備、指定施設外 |
腎臓・角膜・皮膚 |
3 |
1998/ 1/14 |
関東甲信越 |
主治医 |
女性 |
59 |
胆のう癌 |
意思表示カード |
完全 |
|
角膜 |
4 |
1998/ 2/23 |
関東甲信越 |
主治医 |
男性 |
53 |
自殺企図(服毒) |
意思表示カード |
完全 角膜は表示なし |
連絡直後に心停止 |
|
5 |
1998/ 3/ 4 |
近畿 |
警察 |
男性 |
47 |
自殺企図(縊首) |
意思表示カード |
1.2.3に表示なし |
死亡確認後の連絡(6時間後) |
角膜 |
6 |
1998/ 3/20 |
東北 |
主治医 |
? |
? |
? |
意思表示カード |
不明 |
HCV,Wa陽性、心停止後の連絡 |
|
7 |
1998/ 3/28 |
関東甲信越 |
主治医 |
女性 |
32 |
自殺企図(手首切傷) |
意思表示カード |
完全 |
死亡確認後の連絡(1時間25分後) |
|
8 |
1998/ 4/ 3 |
近畿 |
主治医 |
男性 |
50代 |
膀胱癌 |
意思表示カード |
完全 |
死亡確認後の連絡 |
角膜 |
9 |
1998/ 4/ 9 |
関東甲信越 |
家族 |
女性 |
40 |
肺癌 |
意思表示カード |
不明 |
心停止後家族より連絡 |
角膜 |
10 |
1998/ 4/29 |
近畿 |
家族 |
女性 |
50代 |
自殺企図 |
意思表示カード |
1のみ完全 |
心停止後家族より連絡 |
|
11 |
1998/ 5/ 2 |
近畿 |
家族 |
男性 |
? |
? |
意思表示カード |
完全 |
心停止後家族より連絡(司法解剖後) |
|
12 |
1998/ 5/ 3 |
中国四国 |
家族 |
女性 |
15 |
原発性肺高血圧(肺移植希望者) |
意思表示カード |
完全 |
脳死を経ず腎機能低下 |
角膜 |
13 |
1998/ 5/21 |
関東甲信越 |
家族 |
男性 |
32 |
自殺企図 |
意思表示カード |
不明 |
心停止後家族より連絡 |
|
14 |
1998/ 5/26 |
近畿 |
家族 |
男性 |
36 |
自殺企図(縊首) |
意思表示カード |
不明 |
心停止後家族より連絡 |
角膜 |
15 |
1998/ 6/ 3 |
近畿 |
看護婦 |
男性 |
65 |
咽頭癌、肺癌 |
意思表示カード |
完全 |
心停止後の連絡 |
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16 |
1998/ 6/17 |
近畿 |
主治医 |
男性 |
? |
肺癌 |
意思表示カード |
1.2.眼球に○印 |
心停止後の連絡 |
角膜 |
17 |
1998/ 7/ 1 |
近畿 |
主治医 |
男性 |
17 |
脳出血(心移植希望者) |
意思表示カード |
1.2.に○印、心・肝が×印 |
HTLV-1陽性 |
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18 |
1998/ 7/ 3 |
近畿 |
主治医 |
男性 |
28 |
拡張型心筋症 |
意思表示カード |
完全 |
脳死判定基準を満たさず |
角膜 |
19 |
1998/ 7/ 4 |
九州沖縄 |
家族 |
男性 |
20代 |
自殺企図(縊首) |
意思表示カード |
完全 |
死亡(5月中旬)後遺品整理中に発見 |
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20 |
1998/ 7/ 9 |
関東甲信越 |
家族 |
男性 |
26 |
自殺企図(服毒) |
意思表示カード |
不明 |
心停止後の連絡。家族が献体を希望 |
(献体) |
21 |
1998/ 7/31 |
東北 |
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男性 |
49 |
急性硬膜下血腫 |
意思表示カード |
1.2.3.に表示なし? |
2月に死亡、後に意思表示カード所持が判明 |
角膜 |
22 |
1998/ 8/ 3 |
近畿 |
警察 |
男性 |
23 |
自殺企図(縊首) |
意思表示カード |
完全 |
心停止後の連絡 |
角膜 |
23 |
1998/ 8/ 4 |
関東甲信越 |
主治医 |
女性 |
40 |
クモ膜下出血 |
意思表示カード |
完全 |
家族が心停止後を希望 |
腎臓・角膜・皮膚・心臓弁 |
24 |
1998/ 8/10 |
関東甲信越 |
主治医 |
男性 |
55 |
甲状腺癌 |
意思表示カード |
完全 |
心臓マッサージ実践中の連絡 |
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25 |
1998/ 9/ 1 |
九州沖縄 |
警察 |
女性 |
20代 |
自殺企図(縊首) |
意思表示カード |
完全 |
死後2日後の連絡 |
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2007年 神奈川県内ドナー情報 異状死体の3割が自殺
*小野 元(聖マリアンナ医大救急医学):臓器提供自体に問題となる外因死等の検討、移植、43(総会臨時号)、442、2008
2007年神奈川県内ドナー情報による異状死体数17件の内訳(全症例心停止後の連絡)CPA:5件、縊頸:5件、溺死:2件、外傷性クモ膜下出血:2件、急性薬物中毒:1件、練炭自殺:1件、交通外傷:1件であった。当院では3症例(CPA、縊頚、転落外傷)にてオプション提示はしたが、提供に至らなかった症例と摘出後問題となった症例があった。
救急の現場で臨床医は中毒や自殺含め外因死症例等の死因を判断できない。しかし実際にそのような状況でもオプション提示が可能であり、結果的に承諾を得られた症例がある。全国で事前に警察や法医学の判断を仰ぐべき症例は存在するのであろうが、いわゆる「グレイゾーン」症例の日本移植ネットワークの判断は非常に曖昧である。過去の報告でも「グレイゾーン」の症例報告はほとんど見当たらない。今後社会を賑わしている「医療不信」・「移植医療不信」の払拭のためにも我々は県警と法医学の協力を得て安全に推進が出来る臓器提供システムを継続していく。
*柿野 友美(聖路加国際病院)、藤内 美保、安部 恭子(大分県立看護科学大学看護学部看護アセスメント学研究室):臓器提供の意思とセルフ・エスティームの関連についての探索的調査、こころの健康、21巻1号p55〜62、2006年
この調査は、臓器提供の意思を決めた人の心理的特徴、ドナーカード所持者に自殺者が多いと報じられたことから「自分を役に立たない者と感じている人の中には、死ぬ前に何らかの方法で人の役に立つことを願っている人もいるだろう。その一方法として死後の臓器提供を決心する人もいるのではないか」を仮説として、臓器提供の意思とセルフ・エスティーム(自尊感情)および死についての意識との関連に焦点を当てた。A市公共文化施設に2004年9月中旬から10月上旬までの間に訪れた人々を対象として、無記名自記式質問紙を用いた。回答が完全な人と、15歳未満または71歳以上を除いた199名(男性85名、女性99名、平均年齢36.8歳)の回答を集計・分析した。
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臓器提供意思と年代別のセルフ・エスティーム得点は、10〜20代が「提供する26.2点、提供する意思あり32.4点、提供しない32.8点」、30〜40代が「提供する39.2点、提供する意思あり36.2点、提供しない37.3点」、50〜60代が「提供する33.0点、提供する意思あり33.8点、提供しない37.8点」であり、10〜20代という若い年代においては、提供する意思が強くなるにつれてセルフ・エスティーム得点が有意に低くなっていた。
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死後に臓器を「提供する」「提供してもよい」という人の、その理由をセルフ・エスティームの高低別にみると、「誰かの役に立ちたい」「生きていた証として臓器を残したい」「困っている人をほおっておけない」「死ぬ前にひとつ大きなことをしたい」といった理由は、26点以下の低セルフ・エスティーム群でより多く見られた。
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死および自分自身の死について考える頻度とセルフ・エスティーム得点との関係は、いずれも考える頻度が高いほどセルフ・エスティーム得点が低く、「考えたことがない」という群のセルフ・エスティームが最も高かった。
柿野氏らは、「今回の調査の結果、若年者の間では、自分の死後に臓器を提供する意思を示すという一見積極的にも取れる行動の裏に、セルフ・エスティームの低い人の多い可能性や、自己の価値を見つける手段の一つとしてそのような意思を決めている人が存在する可能性が示唆された。もしもこの結論が一般的に成り立つものであれば、提供意思を表明する人が増えることを“臓器移植推進”の立場から手放しに称賛してはいけないのかもしれない。少なくとも個々のドナー候補の中には、このような心理的背景がある人も意識しておくことは必要だろう」としている。
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*岡安 寛明(獨協医科大学):塵肺症により脳死右片肺移植手術を施行した統合失調症の1例、精神神経学雑誌、113(2)、225、2011
35歳男性、X−14年に発作的に洗剤を飲み呼吸不全で入院、統合失調症と診断され抗精神病薬の内服開始。X−12年に肺生検にて塵肺と診断、X−4年に獨協医科大学肺移植適応委員会にて適応ありと判定され日本臓器移植ネットワークに登録。X年1月、待機日数約1000日で脳死右肺移植を施行、2カ月後には酸素吸入も終了となり退院となった。
注、2009年1月9日の法的脳死・臓器摘出77例目による肺移植と見込まれる。
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