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「過去、3年間の臓器移植は、フェア、ベスト、オープンに行われた。前提段階として20例を越えるまで、国民が信頼できるような臓器移植を実行していって『こういう集団になら、我々の命は託せる』ということをベースに臓器移植法の改正実現を!」と語る日本移植学会理事長 日本臓器移植ネットワーク副理事長の野本 氏

 

 NHKラジオ第一放送は、2001/2/12(月)午後6時から、日本移植学会理事長、日本臓器移植ネットワーク副理事長の野本 亀久雄氏へのインタビューを放送した。下記はNHK側の質問は要約しましたが、野本氏の発言は論旨を損ねないように、要約は最低限にしています。

  • NHK=脳死による臓器移植を実施するに当たって、日本移植学会では“移植がフェア、ベスト、オープンでなければならない”を原則として掲げてきた。臓器移植が公正で、最善、しかも情報を公開して行われなければならないという意味だった、と思う。臓器移植法の施行から3年が余り経って、この3つの原則が達成されているのかどうか、ということから伺いたい。
  • 野本=(移植を受ける機会の均等、公平さを保つ)フェア、公正にということに関しては達成できた。フェアのなかには、いろんな問題がある。お金の問題とか色々ある。そのことも今は一応、考えないで、とにかく人の命を救うということに関しての公正さに、すべてを賭けたということなんです。特にですね、移植をするお医者さんたちが、登録患者を登録したのでは、場合によっては自分が移植してあげたい人を登録することになるでしょ。そうではなくて、移植する前の一般の治療を担当しておる内科の先生方が、登録する人達を選定して登録してくれているんです。ここまで公正さの保障の努力はしてきたわけです。

  • NHK=ベスト、最善の体制だったかどうか、ということについてはどうか。例えば臓器提供者の脳死判定が適正だったかどうか。脳死判定の手順のミスが、一例目以外の病院でも見られたが。
  • 野本=臓器移植は「脳死判定と臓器提供の決定のシステム」「臓器の斡旋」「臓器移植」という3つの別々の流れが組み合わさって動くわけです。第一の脳死判定の問題に関しては、私の立場上、介入できない部分ですが、やはり「従来、自分たちがやった正しい医療行為に関して、法的になぜ、こう、ちょこっと変えようとするのか」という感覚的抵抗があったような気がします。だから「手順のミスであって、医療のミスではない」ということを主張されるんですが、私はそれは違うと。
     今は命の取り扱いに関して、一般市民と医療界と政府と、そういうシステムが新しい協定を創ろうとしている。だから新しい協定を創る時には、システムとして約束事が守られるか、ということが非常に大事なんです。

  • NHK=医療を実施する施設については、ベストの体制で進める、ということについてはどうだったでしょうか。
  • 野本=これは100%だったと思います。実を言うと、私はあそこまで行くとは、むしろ考えていなかった。というのは世界中の移植術後の成績は、短期の成功率がだいたい90%です。そうしますと、移植を受けた方が40名位おられるわけですから、当然4人くらいは亡くなっているはずなんですね。それは(欧米の移植先進国で)最先端でもっとも良くやっているところでの話ですよ。それを越える成果を得てくれている。
     それはですね、アメリカの先端病院なんかは、自分とこ流でそれぞれやっています。ヨーロッパでもそうです。日本の場合、ありとあらゆるところに留学して、情報を入れ、技術を入れて、そして構築してもらったのが移植学会の体制ですから。それで100数十%の能力を身に付けることができたんだと、私は思っています。

  • NHK=オープン、移植医療について情報を公開して進めて行く、ということについてはどうか。患者と移植医療の仲立ちをする日本臓器移植ネットワークの立場からは、移植医療の情報公開について、どのようにお考えでしょうか。
  • 野本=これはですね、当然、情報公開しなければならない。なぜかと言いますとですね、多くの人達が、「自分は脳死を受け入れ臓器提供する」ないしは「自分はやっぱり脳死はいやだ、臓器提供はしない」と、どちらに決めてもいいんですよ。しかし私が期待しているのは、国民の一人一人が考えて決定することです。考えて決定するのにですね、先行する人達の情報があれば、どれほどみんな考えやすいか。反対するのも賛成するのも、はるかに安心して考えられるんですよ。だから、どうかして情報公開をしていただくと。

     勝手に情報公開はできませんけれど、家族の方々と直接、コーディネーター達も、それから移植医療を提供される側も接点を持っていただいて、とにかく情報公開をお願いしてきたというのが、今までのやり方です。だから(これまでの脳死判定)12例のメディアを通しての情報公開の時にですね、一例一例、波があったんですね。かなり大きく情報公開するケースもあれば、「最低の事しか言えません」というケースもある。その理由はもう、患者さんの気持ちを反映するので、ああなったんです。

     しかし「まったく、情報公開しない。一切、家族と医者しか知らない形で移植をしてくれ」というのだったら、斡旋はしない、というのが私の方針です。それは、また再び医療への不信を引き起こすことになるんです。普通の医療のようにですね、お医者さんと家族の、ないしはお医者さんと患者さんの閉鎖空間で行われる医療じゃないんです。これはあくまで全国民が参加する、社会的医療なんです。社会的医療にですね情報公開がなかったら、そこに医療は成り立たないんです。

     だから私としては、努力をしたのがあの結果です。もっと本当は公開したいんですけど、それは移植例が20例、30例になって、いろんな本来はプライバシーに属するような悩みもデータ化できる、数値化できると、こういう時には、私は移植された、提供された方々のご家族に相談をして「このような形で国民にぜひ、知ってもらいたい」、という形で公開したいと考えています。
     今の段階ではまだ、「これはあの人だと、きっとあの人に違いない」という、個人につながる可能性がありますから、なかなか、そこの段階までの公開はできないと。しかしそこまで行かないと、国民全部が「うん、なるほど。自分は良くわかったから脳死に賛成」と、「いや自分は良くわかったけれど、脳死に反対」と、いずれも「よくわかったけれど」が前提で、賛成や反対であって欲しいと考えています。

  • NHK=去年の10月で臓器移植法施行から3年経って、法律の見直し時期に当たっています。現在の臓器移植法では、本人の意思表示が尊重されていて、子供への移植ができない。一つの考え方としては子供の移植に道を開くためには、法律を変えて本人の反対の意思表示が無い場合は、書面による家族の承諾だけで臓器を摘出できるようにする考え方があるが、こうした考え方には、どのようにお考えでしょうか。
  • 野本=これは、私のように現場を引っ張って行く人間にはわかりません。わかりません、というのは無責任なのではなくて、今、大人の自己決定権に基づいて行動しているパターンで進んでいるのから、大きく今度はもう一歩、大きな川を越えなければいけない。子供というのは社会の未来を託する人達ですから、臓器提供者となる子供の命も、私の命よりも重いんです。移植を受けて社会を背負うようになる病気の子供さんの命も、私より重いんです。その両方をかけたものが(子供への脳死臓器)移植ですから、私が例えばあなたに臓器をあげるケースより、はるかに重い。国民にとってつらい話なんです。

     従ってですね、私は市民レベルでよく考えて、よく議論をして「これがもっとも正当なやり方だろう」、というのを決めていただきたい。それには、まず前提段階として私は20例を越えるまで、国民が信頼できるような臓器移植を実行していって「こういう集団になら、我々の命は託せる」ということをベースにして子供さんのことを考えて欲しいと。だから私は今の段階で、子供さんのことに関して「こうして欲しい、ああして欲しい」という考え方は持っていません。

     ぜひ、できるようにして欲しい。これは間違いないんです。私がこの臓器移植という難しい問題のリーダーをしている理由は、むしろ、不幸にも体に病気があって生まれてきて、幼稚園へ行っても遠足にも行けないと。運動会にいっても走れないと。そんな子供がね、一度でも自分の足でリュックサックを背負って遠足へ行き、運動会で仲間と一緒に走れたら、私はそれで自分の役目は達成したと思うぐらい、私は思いがありますから、ぜひ、子供たちの移植ができるようにしていただきたい。

     しかし、それをどういうシステムでやったらいいのか、ということは現場のリーダーの私が言うべきことでありません。私は今、一例でも多く、国民が安心できる形で脳死臓器移植を実行して、そして、まず国民、市民の人たちが考えるときのベースにですね「こういうメンバーが、こういう連中が移植という問題を担当しとるのならば、そこのところだけは任そうではないか。安心して託そうではないか」をベースにして考えていただけるようにしたいと、それが私の今、考えとることです。

  • NHK=移植医療について、公正、最善、それから情報公開の原則に基づいて、実績を重ねながら、まず国民の信頼を得てゆく必要があると。そうしながら法律の改正についても、議論を重ねていかなければならないという、そういうことですね。
  • 野本=そういうことです。
  • NHK=どうも有難うございました。
  • 野本=有難うございました。

 


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