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被虐待児の司法剖検例に関する調査

乳児に見られた硬膜外血腫一例

小児脳死臓器移植における被虐待児の処遇に関する諸問題

 

 日本法医学会企画調査委員会(井尻 巌委員長)は、日本法医学雑誌 第56巻第2・3号(2002年9月)に「被虐待児の司法剖検例に関する調査」を発表した。積極的暴行が増加し、死因の第一位は頭部外傷で、2歳以上は頭部外傷が50%を超えることを明らかにしている。

 これは全国63機関、1990年〜1999年の459例(0歳〜15歳)の報告をまとめたもの。前回調査は1968年〜1977年、次回調査は5年後の予定。以下は要旨。

 

被虐待児の年齢分布

 今回の調査によると0歳〜4歳までの症例が83.0%(381例)を占めており、前回報告の85.3%と大きな変化は認められなかった。しかし、1歳未満の症例については前回調査で22.2%であったものが、今回の調査では35.1%(161例)と増加しており、乳児が虐待の対象となる例が増えていることが明らかとなった。

 

死因分類

  1. 頭部外傷       =35.1%(161例)注:各年齢とも死因の第一位は頭部外傷。2歳以上は頭部外傷が50%を超える。
  2. 鼻口閉塞による窒息= 8.1%( 37例)注:1歳以下に多い。
  3. 頚部圧迫による窒息= 7.0%( 32例)
  4. 溺水          = 6.5%( 30例)

 以上の4つで死因の50%を超える。前回年調査では上位3位までの死因は同じであったが、第4位が栄養による肺炎・衰弱(8.6%)で、溺水は2.2%に留まっていた。放置するなどして衰弱死させる消極的虐待から、積極的に暴行を加える虐待行為が増えている可能性が疑われた。

 

加害者の分類

  1. 実母   =49.2%(226例)
  2. 実父   =15.9%( 73例)
  3. 継父   =10.0%( 46例)
  4. 実母実父= 9.6%( 44例)
  5. 不明   = 5.0%( 23例)
  6. 実母継父= 2.2%( 10例)
  7. 兄弟   = 1.5%(  7例)
  8. 継母   = 1.1%(  5例)

 前回の調査で第3位であった継母(14.1%)が今回の調査では1.1%にとどまり、代わって継父が第3位となっていた。実母が子を連れて再婚し、継父によって虐待されるケースが増えている結果と考えられる。

 

死亡場所

  1. 屋内=53.8%(234例)
  2. 病院=31.3%(136例)

 虐待が密室で行われ、不顕在化しやすいこと、また医療機関で死亡した例に虐待例があることを示しているものと考えられる。特に医療機関で虐待を発見することが重要であると考えられる。

 

虐待の期間

 不明および記載なしの例を除いて記載された203例のうち、2ヵ月未満が67.0%(136例)で過半数を越え、5ヵ月未満では76.8%(156例)と8割を占める。

 

公的機関の介入

 不明あるいは記載なしの例を除いて、ない場合が208例、ある場合が29例で、介入例はある場合に比べ10%にも満たない。

 

虐待の原因・動機

 加害者が実母の場合、貧困が原因になっている事例が減っており、そのかわりに無責任や被害者の泣き声が原因になる割合が増加している。

 


「内因死、検視の必要なし」との主張を排し検視したら、1〜2週間前の外傷による硬膜外血腫だった

 阿部 俊太郎:乳児に見られた硬膜外血腫一例、日本法医学雑誌、57(1)、95、2003

[事例の概要] 5ヵ月男児、某日午前1時30分、感冒症状を主訴として病院を受診したが、「上気道炎」と診断され治療を受けた。自宅に戻り、午前7時頃には泣いたり手足を動かしていたというが、側にいた母親は 異常に気付かなかった。午前9時20分、顔面蒼白であり、救急車で同病院に搬送されたが、すでに死亡していた。CT検査により頭蓋内に水が溜まっている「内因死」と診断された。救急隊より連絡を受けた警察官が検視に赴いたところ、病院側が「検視の必要なし」と主張したが、死因不詳のため同日午後4時40分より三重大学にて司法解剖を行なった。

[主要解剖検査所見] 身長65cm、体重7.0kg、右側頭後部にすでに吸収された皮下出血があり、直下の右頭頂骨に長さ4cmの骨折があり、これが硬膜動脈溝を越えていた。骨折線周囲に骨膜下出血があり、硬膜外に9×8.5cm大、厚さ2cmの血腫があり、その重量は82gであった。右大脳半球は圧排され、大脳縦裂が左方に偏位し、右海馬ヘルニアがあった。硬膜外面の血腫を除くと、年輪上に血痕が付着していた。

[考察] 本例にみられた硬膜外血腫は明らかに外傷性であり、発症後、少なくとも1〜2週間を経過しているおのと判断された。当初、病院待合室にてイスから転落したことが原因かと疑われたが、受傷後長時間を経過しているものであり、何らかの外傷によるものと考えられる。

 

 


小児「脳死」の1〜4割は虐待の可能性あり、臓器摘出は不適切 証拠として身体が必要、提供同意確定困難

 田中 英高:小児脳死臓器移植における被虐待児の処遇に関する諸問題、日本小児科学会雑誌、107(2)、421、2003

【目的】

  1. 小児脳死の原因として虐待の頻度は高いと推定されている。
  2. さらに虐待が疑われても特定できない症例はかなり多いと考えられる。虐待は通常、保護者によって陰湿に行なわれ、事実は隠蔽されるために、事実確認は大変難しい。従って頭部外傷があっても虐待と診断しえるまでに2週間から1ヶ月以上の期間を要したり、虐待を見逃してしまう症例も存在する。この場合、乳児突然死症候群と診断されたり、また検死官の裁量にて突然死と処理されることもありえる。
  3. そこで子供を診療する医師を対象に調査を行い、小児脳死臓器移植における被虐待児の処遇に関する諸問題について調査検討したので報告する。

【方法と結果】

 子供虐待の診療経験のある医師に対して聞き取りを行なった。日本の小児頭部外傷の1〜4割程度が虐待による可能性があると考えていた。また脳死症例において脳死の原因が虐待でないと確定できないならば、以下の理由から臓器摘出は不適切と考えていた。

  1. 虐待の事実の存否が明確になるまで、事実確認のための証拠として身体が必要である。
  2. 虐待が親権者によってなされた場合、罪悪感などの激しい心理変化によって、臓器提供同意の意思確定が困難であったり、また甚だしい心理的影響が考えられる。

【結論】

 小児脳死臓器移植における被虐待児の処遇に関しての問題点は多く、その対策のために今後の議論が必要である。

 


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