「内因死、検視の必要なし」との主張を排し検視したら、1〜2週間前の外傷による硬膜外血腫だった

 阿部 俊太郎:乳児に見られた硬膜外血腫一例、日本法医学雑誌、57(1)、95、2003

[事例の概要] 5ヵ月男児、某日午前1時30分、感冒症状を主訴として病院を受診したが、「上気道炎」と診断され治療を受けた。自宅に戻り、午前7時頃には泣いたり手足を動かしていたというが、側にいた母親は 異常に気付かなかった。午前9時20分、顔面蒼白であり、救急車で同病院に搬送されたが、すでに死亡していた。CT検査により頭蓋内に水が溜まっている「内因死」と診断された。救急隊より連絡を受けた警察官が検視に赴いたところ、病院側が「検視の必要なし」と主張したが、死因不詳のため同日午後4時40分より三重大学にて司法解剖を行なった。

[主要解剖検査所見] 身長65cm、体重7.0kg、右側頭後部にすでに吸収された皮下出血があり、直下の右頭頂骨に長さ4cmの骨折があり、これが硬膜動脈溝を越えていた。骨折線周囲に骨膜下出血があり、硬膜外に9×8.5cm大、厚さ2cmの血腫があり、その重量は82gであった。右大脳半球は圧排され、大脳縦裂が左方に偏位し、右海馬ヘルニアがあった。硬膜外面の血腫を除くと、年輪上に血痕が付着していた。

[考察] 本例にみられた硬膜外血腫は明らかに外傷性であり、発症後、少なくとも1〜2週間を経過しているおのと判断された。当初、病院待合室にてイスから転落したことが原因かと疑われたが、受傷後長時間を経過しているものであり、何らかの外傷によるものと考えられる。

 

 


小児「脳死」の1〜4割は虐待の可能性あり、臓器摘出は不適切 証拠として身体が必要、提供同意確定困難

 田中 英高:小児脳死臓器移植における被虐待児の処遇に関する諸問題、日本小児科学会雑誌、107(2)、421、2003

【目的】

  1. 小児脳死の原因として虐待の頻度は高いと推定されている。
  2. さらに虐待が疑われても特定できない症例はかなり多いと考えられる。虐待は通常、保護者によって陰湿に行なわれ、事実は隠蔽されるために、事実確認は大変難しい。従って頭部外傷があっても虐待と診断しえるまでに2週間から1ヶ月以上の期間を要したり、虐待を見逃してしまう症例も存在する。この場合、乳児突然死症候群と診断されたり、また検死官の裁量にて突然死と処理されることもありえる。
  3. そこで子供を診療する医師を対象に調査を行い、小児脳死臓器移植における被虐待児の処遇に関する諸問題について調査検討したので報告する。

【方法と結果】

 子供虐待の診療経験のある医師に対して聞き取りを行なった。日本の小児頭部外傷の1〜4割程度が虐待による可能性があると考えていた。また脳死症例において脳死の原因が虐待でないと確定できないならば、以下の理由から臓器摘出は不適切と考えていた。

  1. 虐待の事実の存否が明確になるまで、事実確認のための証拠として身体が必要である。
  2. 虐待が親権者によってなされた場合、罪悪感などの激しい心理変化によって、臓器提供同意の意思確定が困難であったり、また甚だしい心理的影響が考えられる。

【結論】

 小児脳死臓器移植における被虐待児の処遇に関しての問題点は多く、その対策のために今後の議論が必要である。

 


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