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医療経済と脳死・臓器移植

 

脳死臓器移植のコスト試算例

 倉持 武:移植の費用について、松本歯科大学紀要、31、1−10、2003は、事務管理費を含めた2001年度移植ネットワーク支出総額8億4150万6152円に対して脳死下臓器提供者数5人、脳死下移植手術数23件であったことから、脳死下臓器提供者1人当たり1億6830万円、移植手術1件当たり3,659万円と試算している。

 

 

心停止後と称する脳死臓器移植のコスト・ベネフィット試算例

 鎌田 敏郎:経済的観点からの保存期腎不全治療、腎と透析、53(4)、445−450、2002
 三年間の総医療費は血液透析患者約1590万円に対し、献腎移植患者は約1370万円だから移植を受けて3年を超えると血液透析患者より医療費は低減される。

 この試算の問題点は、移植を受けたがために一部の患者に発生する、早期死亡やQOLの低下による損失が考慮されていないことだ。

  1. 腎臓移植は、正確な生存率・死亡率さえも不明である。
    日本移植学会:腎移植臨床登録集計報告(2003)−3 2000年追跡調査報告、移植、3 9(1)、57−64、2004は、献腎移植患者の生存率を1年目9 0%、5年目83%、10年目77%、15年目70%としている。しかし 、この統計は消息不明率が34%と極めて高い。腎移植臨床登録集計報告(2007)−3 2006年経過追跡調査結果では消息不明率は50%とさらに低下した。その多くが死亡例と見込まれ、本当の生存率は数ポイント〜約 30ポイントも低下する可能性がある。
  2. 原因疾患、年齢、性別、合併症、重症度などの点で、ほぼ同一といえる状態の透析患者が、透析を続けた場合と腎臓移植を受けた場合の、生存率やQOLに関する調査データが存在しない。
  3. 以上の比較検討を可能とするデータが揃った後に、はじめて臓器移植の経済性が検討できる。

 移植医療の評価は「透析患者と移植を受けた後に腎機能が廃絶して透析に戻った患者の双方に接する透析施設職員の評価」あるいは「臓器移植を行なっている施設の職員の評価」が参考になる。

  1. 真田 晴美(医療法人医誠会 医誠会クリニック):透析医療従事者から見た腎移植医療、大阪透析研究会会誌、15(2)、155−158、1997は、「あなたが透析者なら腎移植をうけますか?」の問いに、医誠会クリニックの看護職員21名は、はい9.5%、いいえ38.1%、わからない52.4%と答えた。「透析をしなくてすむのはいいが、命にかかわる危険性を考慮すると思い切れないと考える職員が大多数であった」と分析している。
     このほか、透析患者へのアンケートでは、移植後の合併症についてほとんど知識がなかったこと。同院の透析患者に移植を「このような機会はそれ程ないのだから思い切って受けてはとかなり勧め」たところ、移植腎が機能することなく数ヵ月後に死亡し、その後は移植に関する説明は移植医に受けるよう指導していることを記載している。
     注目されることは関連施設も含め移植を受けた30名のうち4名が生着せず入院したまま死亡していることだ。日本移植学会の1年目生存率91%よりも低い。このような死亡事例が身近にあると、移植に慎重になることが予想される。しかしそのような経験がない施設では移植に対する期待が高まる(次の白鷺病院)。
     
  2. 山川 智之(白鷺病院):腎移植患者紹介施設としての関わり、日本透析医学会雑誌、37(Sopple)、683、2004は、職員326名に透析が必要になった場合に移植を希望するか意識調査したところ147名(45.1%)が希望した。
     透析施設職員の判断も「身近な経験で大きく左右されがち」ということであれば、移植施設の職員の判断を見てみよう(次のアンケート)。
     
  3. 2001年8月28日、腎移植に携わるコ・メディカル研究会(佐藤 久光会長)と免疫抑制剤サンディミュンなどの製薬メーカー・ノバルティスファーマ鰍ヘ28日、名古屋市の毎日ビル内国際サロン『ホワイトハウス』で第4回腎移植勉強会を開催。愛知県下で腎不全医療に携わるコ・メディカルスタッフ1030名の「腎移植についての意識アンケート」結果が発表された。
  • 調査方法   :郵送による質問紙法
  • 調査期間   :1999年8月〜9月
  • 調査対象   :愛知県における腎不全医療に携わるコ・メディカル132施設(うち移植施設11)
  • 回答総数   :1030名(85施設=64.4%・愛知県下で腎不全医療に携わるコ・メディカルスタッフはおよそ2000名強)
  • 回答者の職種:看護士39%、準看護士33%、臨床工学技師17%、その他11%
  • 対照アンケート:1999年10月の名城大学参加者565名(学生は473名83.7%)

 主なアンケート結果を紹介すると、腎移植を必要と考えるコ・メディカルは80%を超え、臓器移植を必要と考える学生数より数%上回った。移植が必要な理由は「患者のQOLを考えて」と回答したコ・メディカルが最多の30%を超えたのに対して、学生は約2%と大差がついた。「移植が最良の治療手段」としたコ・メディカルは20%を下回るのに対して、学生は40%を超えた。「合併症の予防と治療」としたコメディカルが20%を超えたが、学生は約10%だった。

 「移植希望者の増加」としたコ・メディカルは約1割なのに対して、学生は4分の1を超えた。また「海外移植の問題生ずる」としたコ・メディカルが2%程度しかないのに対して、学生は「合併症の予防と治療」の回答よりも多いなど、マスメディアの影響が想定された(当Webページ注:質問がコ・メディカルには腎移植について、学生には臓器移植を質問していること。また腎臓移植は不成功でも透析に戻る選択肢のあることが、回答にも影響したと考えられる)。

 移植に反対の理由は、学生は「情報不足でわからない」が5割を超え、さらに「移植手術に不安」「他人の臓器をもらってまで」の回答で大部分を占めた。コ・メディカルの回答は「情報不足でわからない」は筆頭だが約2割、「移植手術に不安」「合併症が透析の方が少ない」「QOLは透析の方が高い」「他人の臓器をもらってまで」などに回答が分散し、「医療不信」と回答したコ・メディカルも1割弱存在することが注目される。腎移植について学びたくないと強い忌避感を持つコ・メディカルも、非移植施設がほとんどだが8%いた。

 コ・メディカルに対する「自分が腎不全になったらどの治療法を選択しますか」には、40%が腎移植、33%が血液透析、16%が腹膜透析だった。この質問を所属施設別に見ると移植施設のほうが腎移植を選択するコ・メディカルが少なかった。ドナーカードを持っているコ・メディカルは1030名のうち27%、移植施設のコ・メディカルは4割近い所持率で学生の約2倍だったが、非移植施設のコ・メディカルは学生よりも数%高い程度だった。

 以上の内容は、腎移植に携わるコ・メディカル研究会「腎移植についての意識アンケート」http://www.kid-t-comed.com/sato_PP1.files/slide0029.htmより(インターネット上からは削除されている可能性がある)

 

  1. 移植を受けた患者のQOLについては、小林 朋子:SF−36による小児腎不全患者のQOL評価、神戸大学医学部紀要、63(3・4)、39−44、2003が、「移植をしてもQOLが向上しない、もしくはむしろ低下した患者がいる可能性は否定できない。・・・『移植をすれば必ずQOLが向上する、透析患者にとっては移植が常に最善の方法である』とは結論づけられない」としている。

 

 

移植を受けた患者の1割強〜5割弱が透析再導入

 日本透析医学会統計調査委員会:わが国慢性透析療法の現況(2003年12月31日現在)、日本透析医学会雑誌、38(1)、1−16、200 5は透析施設の回答率が99.12%と、腎移植臨床登録集計報告(2003)−3の施設回答率56.09%よりも高い。それによると、透析人口は237,710人、透析人口の平均年齢は62. 3歳。2003年に透析療法を導入された患者の平均年齢は65.4歳。

 透析人口の増加を取上げて腎臓移植の必要性がPRされているが、100万人当たり透析人口の伸びが減速、透析人口高齢化も減速してきた。2003年12月末の腎臓移植登録患者数1 2,609名のうち61歳以上は1,107人(8.8%)。合併症などからレシピエントには選ばれない高齢の透析人口が増加していると見込まれ、厚生労働省・日本移植学会・日本臓器移植ネットワークには、正確な広報が求められる。

 腎臓移植後に腎臓が機能しなくなり、2002年1年間に透析療法が再導入された患者は108人(平均年齢49.60歳)、2003年は177人(平均年齢 52.84歳)だった。これは過去20年間に毎年400〜800例行なわれてきた腎臓移植手術数の1割強〜3割〜5割弱に相当する。2003年の透析人口全体のうち、腎臓移植後に透析に戻った患者は1, 448人(平均年齢49.24歳)。過去に腎臓移植を受けたが腎臓が機能しなくなり、現在は透析療法により生存している患者が1,448人ということになる。

調査年 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003
透析人口 175,988人 185,322人 197,213人 206,134人 219,183人 229,538人 237,710人
人口100万人当たり
透析人口
1394.9人 1465.2人 1556.7人 1624.1人 1,721.9人 1801.2人 1862.7人
粗死亡率 9.4% 9.2% 9.7% 9.4% 9.3% 9.2% 9.3%
最長透析歴 31年0ヶ月
(48歳・男性)
32年0ヶ月
(49歳・男性)
33年0ヶ月
(58歳・女性)
34年0ヶ月
(59歳・女性)
35年10ヶ月 36年8ヶ月
37年6ヶ月
患者の平均年齢 59.2歳 59.9歳 60.6歳 61.2歳 61.6歳 62.2歳 62.3歳
調査年導入患者の平均年齢 62.2歳 62.7歳 63.4歳 63.8歳 64.2歳 64.7歳 65.4歳
移植後再導入患者
(原疾患記載患者数)
記載なし 記載なし 601人
(96,618)

記載なし

1,301人
(206,257)

1,301人
(217,508)

1,448人
(228,769)

調査年に移植後再導入
原疾患記載数/導入患者数
0人
(1,655/28,870)
記載なし 記載なし 記載なし 167人
(31,999/33,243)
108人
(32,308/33,710)
177人
(33,220/33,561)

※粗死亡率とは、前年末患者数と当年末患者数の平均に対する、当年の年間死亡患者数の比のこと。

以上は下記の資料より作成した。

日本透析医学会統計調査委員会:わが国慢性透析療法の現況(1996年12月31日現在)、日本透析医学会雑誌、31(1)、1−24、1998
日本透析医学会統計調査委員会:わが国慢性透析療法の現況(1997年12月31日現在)、日本透析医学会雑誌、32(1)、1−17、1999
日本透析医学会統計調査委員会:わが国慢性透析療法の現況(1998年12月31日現在)、日本透析医学会雑誌、33(1)、1−27、2000
日本透析医学会統計調査委員会:わが国慢性透析療法の現況(1999年12月31日現在)、日本透析医学会雑誌、34(1)、1−31、2001
日本透析医学会統計調査委員会:わが国慢性透析療法の現況(2000年12月31日現在)、日本透析医学会雑誌、35(1)、1−25、2002
日本透析医学会統計調査委員会:わが国慢性透析療法の現況(2001年12月31日現在)、日本透析医学会雑誌、36(1)、1−31、2003
日本透析医学会統計調査委員会:わが国慢性透析療法の現況(2002年12月31日現在)、日本透析医学会雑誌、37(1)、1−24、2004
日本透析医学会統計調査委員会:わが国慢性透析療法の現況(2003年12月31日現在)、日本透析医学会雑誌、38(1)、1−16、2005

 

 

脳死患者管理のコスト試算例

 藤田 達士:脳死患者管理の医療費、蘇生、8、19−23、1990は、「健康保険による医療費は全症例で3024万円余である。脳死判定前期が平均255±55万円、後期が187±12万円であったが両期の医療費に統計上有意差はなかった。なお、脳死判定費用は7万円弱であった」としている。脳死判定前期、後期の定義は記載が無いが、3024万円を9症例で割ると平均336万円になる。

 

 

臓器提供施設の医療資源制約

*加藤 一良、大塚 敏文(日本医科大救急医学科):臓器提供を推進するために必要なこと−救急医の立場から−、移植、28(Supplement)、510−514、1993

 搬入された患者7,450例
(1987年7月〜1992年6月)

死亡例            =2,513例
脳死前提を満たす症例  =  680例
臓器提供可能例      =  516例(100.0%)
脳死判定例         =  181例( 35.1%)
臓器提供オプション提示例=   24例(  4.6%)
臓器提供意思確認例   =   12例(  2.3%)
複数臓器提供意思確認例=    6例
心臓提供意思確認例   =    5例

 日本医科大では、1992年6月までの5年間に臓器提供可能な患者が516例あったにもかかわらず、335例(64.9%)は脳死判定されなかった。「脳死前提を満たす症例」の発生と「脳死患者」の発生は一致せず、時期により10%以下〜60%近くと大きく変動する脳死診断率が脳死判定例の発生と連動していた。

 加藤氏らは考案で、「したがって救急医に余裕がないと発生しないという奇妙な状況にあると考えられる。これはあるべき姿ではなく、本来はすべての症例に対して同一の治療方針を取られるべきであるため、全例に対して脳死判定を行い、確認すべきである。われわれが脳死判定−診断を行なう最大の理由は bed control のためであり、治療の平等性を維持するために、全例について脳死かどうかの確認を行なう必要があると考えられる。しかしながら実際臨床上は、全例に対して脳死判定を行うことが必ずしも容易なことではないことも事実である。したがって臓器提供可能症例のうち、最初に可能性が消滅する335例を減らすために、救急医療の現場で脳死判定を常に行えるような状況を作り出す必要がある。実際に必要なものは人的労力であり、24時間いつでも脳死判定ができるような医療スタッフの充実が望まれる」としている。

 

法的脳死判定5例目

*佐伯 茂:臓器提供に対する手術部の対応−麻酔科からみた問題点−、日本手術医学会誌、22(2)、125−129、2001
 拘束時間が長く日常の業務に影響をきたし、他の医局員への負担となる。ドナーからの臓器摘出手術が、予定手術、緊急手術、その他に影響をおよぼす。3月29日の午前中は麻酔科管理の手術症例が3件のみであったため、麻酔科のマンパワーはなんとかやりくりできた。仮に予定手術が多い翌日3月30日だったらならば予定手術、緊急手術の実施にも支障が生じることが予測される。このような状況下では1.他の手術の開始時間が遅れる。2.他の手術の延期、3.緊急手術に対する対応が不可能となるなどの自体が生じうる。このことは術者のストレス、麻酔科医にもストレスが生じ、手術を待っている患者、ペインクリニック外来で診療を待つ患者にもストレスが生じる。病院が狭いため、ドナーの手術室入室時に他の患者の目に触れる可能性があること・・・。

 

法的脳死判定15例目

*阿部 眞澄:法的脳死判定および臓器移植に関する病院経営上の視点からの考察、日本病院会雑誌、50(1号)、139−144、2003 PDFファイルhttp://www.hospital.or.jp/news-zassi/zassi/j200301.pdf
 緊張感を持続したまま40時間という長丁場を乗り切るのは多大なエネルギーを要する。・・・こうした事例が一施設に短期間に何度も生じると物理的にも経営的にも負荷がかかり日常診療体制は破綻する。・・・当院は私立病院であり経営は死活問題である。・・・収支の側面から言えば有形無形にかなりの負担となった。・・・患者の救命に全力を注ぎ・・・法的脳死判定、臓器摘出というプロセスを移植ネットのコーディネーターはじめ関連部門と連携しながらこなしていくのは容易なことではない。このような事態が特定の施設に集中的に生じれば現状では音をあげざるを得ないと思う。
 論文審査担当の:益田 啓作講師も「脳死判定と臓器摘出、搬出のため緊張の40時間を中心にどれだけの医療資源が消費されたか知りたいものである」と書いている。

 

法的脳死判定17例目

今井 昭雄(新潟県医師会):脳死下の臓器提供、その後、新潟県医師会報、630号、10-14、2002
 意思表示カードが確認されてから摘出手術が終了するまでの約39時間は、病院にとっても御家族にとっても心身共にくたくたになるとても長い時間であった。意思の1人がいみじくも「大変良い経験ができました。が、二度とやりたくありません。」と感想を述べてくれたのが印象的であった。

*傳田 定平:脳死患者臓器摘出術の管理を体験して、新潟医学会雑誌、116(6)、297、2002
 一連の作業に、手術室業務に従事する多くの人員、手術室がさかれ、通常手術室業務が少なからず犠牲になった。

2002年12月19日 第12回厚生科学審議会疾病対策部会臓器移植委員会http://www.mhlw.go.jp/shingi/2002/12/txt/s1219-3.txt
 臓器移植対策室の9月1日調査で、4類型施設(431施設)のうち「臓器提供の体制を整えている施設」が83.2%、「未だ整えてないが今後整える予定」が15.1%(52施設) 。体制未整備の39施設のうち、「1年以内に体制を整える予定」が14施設、「3年以内に体制を整える」が14施設、「5年以内」が5施設、「それ以上の期間を要する」が6施設だった。協力体制が整わない理由(複数回答)は、経済的理由(脳死判定スタッフなど増員困難、諸経費の財源困難など)18施設、実施体制面(事例発生時の体制が不十分という)30施設、設備面の理由が25施設。

 

法的脳死判定41例目

*中 大輔(日本赤十字社和歌山医療センター脳神経外科):臓器提供における救急医の果たすべき役割、四国医学雑誌、64(3−4)、92−99、2008 http://www.med.tokushima-u.ac.jp/pdf/shikokuacta64_3-4.pdf(6,420KB)
 20歳代男性、バイク走行中の交通事故、「この患者が搬入されて8日間、私たちにとっては本当に肉体的にも精神的にも辛い期間であった。特に最後の3日間は、十分な睡眠すら取れない日々であったが、・・・」
 

 

 

臓器移植施設の医療資源制約

国立循環器病センター

 小松 美幸:臓器移植に対する手術室の対応、日本手術医学会誌、22(2)、132−135、2001は、法的脳死判定2例目による心臓移植手術当日に、胸部動脈瘤破裂症例と急性冠動脈閉鎖症例がほぼ同時刻に発生。
 「他施設への紹介も考慮されたが、センターの使命を守る総長の指示のもと、心臓移植手術を合わせた3症例の手術が同時進行の状況で行われた。緊急手術症例は2例とも極めて重症で、心臓移植手術の方が整然として薦められていた」と国内最大の心臓外科手術施設であっても他施設への協力を考慮する緊急事態が起こることを報告している。

 

東京女子医科大学病院

 河合 明彦:多臓器摘出の実際と問題点、移植、37(総会臨時号)、159、2002は、法的脳死判定16例目による心臓移植時のこととして、
 「医師3名、看護士1名のドナーチームを編成。心臓ドナー第一報時に医師1名は水戸市に出張中であり、ネットワークの希望する出発時間まで4時間であった。今回は間に合ったが、出張病院は診療不能となり迷惑をかけた。早いドナー情報の伝達がやはり必要である。現在の少数のドナーであれば摘出チームによる心機能検査も可能であるが、今後ドナーの増加を求めるのであればドナーチーム派遣前に非侵襲的な心エコーなどの情報が得られるようなシステムの構築が望まれる」と法的脳死確定以前の早期からの情報提供を主張している。死体であることが法的に確認されてもいない時点で、臓器獲得行動を開始することの問題に認識が無い。

 週刊朝日2002年9/13号は東京、大阪、愛知の3大都市圏の病院を対象にアンケート調査を行い、年間手術数の多い上位30の医療機関をp24に掲載した。このうち心臓病バイパス手術等(心臓バイパスおよび人工心肺を使う手術)については、表のとおり。

心臓病バイパス手術等ランキング

手術数
国立循環器病センター(大阪府吹田市)
豊橋ハートセンター(愛知県豊橋市)
東京大学病院(東京都文京区)
名古屋第二赤十字病院(名古屋市昭和区)
大阪大学病院(大阪府吹田市)
新葛飾病院(東京都葛飾区)
大阪市立総合医療センター(大阪市都島区)
社会保険中京病院(名古屋市南区)
愛知県立尾張病院(愛知県一宮市)
三井記念病院(東京都千代田区)
綾瀬循環器病院(東京都足立区)
国立大阪病院(大阪市中央区)
岸和田徳州会病院(大阪府岸和田市)
名古屋市第一赤十字病院(名古屋市中村区)
帝京大学病院(東京都板橋区)
近畿大学病院(大阪府大阪狭山市)
関西医科大学病院(大阪府守口市)
東京女子医科大学病院(東京都新宿区)
大阪警察病院(大阪市天王寺区)
名古屋大学病院(名古屋市昭和区)
榊原記念病院(東京都渋谷区)
聖路加国際病院(東京都中央区)
東京女子医科大学第二病院(東京都荒川区)
東京医科歯科大学病院(東京都文京区)
桜橋渡辺病院(大阪市北区)
岡崎市民病院(愛知県岡崎市)
大阪労災病院(大阪府堺市)
日本医科大学病院(東京都文京区)
藤田保健衛生大学病院(愛知県豊明市)
小牧市民病院(愛知県小牧市)
府立母子保健総合医療センター(大阪府和泉市)
756
271
266
223
212
208
183
179
176
171
169
161
159
159
152
152
143
141
137
134
130
125
123
119
113
112
112
106
106
102
102

 注目されることは、心臓移植実施施設の東京女子医科大学病院が年間141例と手術数が少なく、新たに心臓移植実施施設として推薦された埼玉医科大にいたっては、この上位30に登場しないほど小規模な医療施設であることだ。

 日本心臓病学会は1991年に「本邦で心移植を希望している病院は医療技術が劣る。冠動脈再建術(バイパス手術)を欧米が死亡率2%〜3%以内で行っているのに対し、日本は5〜8%台の死亡率の施設が大部分を占める。本邦で心移植を申請している病院のうち、何施設が2〜3%以内の死亡率でバイパス手術を行っているのか、公表されてもいない。人工心肺を用いて行う心臓手術が年間200例、あるいはパイバス手術が150例以下の施設は、心移植という大きな手術一件が入ることにより、他の手術予定を大幅に変更、削減せざるを得ない。欧米で心移植を行っている病院では、バイパス手術のみでも、年間300〜400例以上は行っている。そのような施設は、現在の日本には一つもない。看護婦不足、病院管理体制の不備など矛盾に富む条件下で、無理を押して少数例の心移植を敢行しても、雛寄せと被害が病院全体にも及び、そのため心移植が妥当な治療として長続きしなくなる可能性があろう」と懸念を表明していた。
 出典=日本心臓病学会総務委員会:心臓移植―日本心臓病学会からの提言―、日本医事新報、3515、43−46、1991

 東京女子医科大学病院は、日本心臓病学会のいう「心移植という大きな手術一件が入ることにより、他の手術予定を大幅に変更、削減せざるを得ない」小規模施設に該当する。東京女子医科大学病院で明らかになった医療事故の多さ、心臓移植の辞退は11年も前に予言されていたことになる。 

 日本移植学会や日本循環器学会など6学会で構成する心臓移植関連学会協議会・施設認定審議会(議長=今泉勉・久留米大医学部教授)は2002年7月24日、東北大(仙台市)、東大(東京都)、埼玉医科大(埼玉県毛呂山町)、岡山大(岡山市)、九州大(福岡市)の5施設を、心臓移植実施施設として移植関連学会で組織する合同委員会に新たに推薦することを決めている。

 東京大学病院は年間手術数が266例、大阪大学病院は212例と欧米心移植施設よりも小規模だ。埼玉医科大学は東京女子医大病院よりも小規模であることから、一段と従来医療への皺寄せが懸念される。

注:その後、週刊朝日2002年10月4日号は再び心臓病バイパス手術等ランキングを掲載し東京女子医大の手術数は610に増やしランキング1位に変更した。厚生労働省に報告した年間手術数、また東京女子医大の事務当局が認識している年間手術数はともに141だが、9月13日号の記事が出てから同大学の医師が「認識が違う」と訂正を要求してきたという。人工心肺を使わないなど他の軽い手術も含めて水増しした模様だ。

 


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