0歳児 ] [ 1歳児 ] 2歳児 ] 3歳児 ] 4歳児 ] 5歳児 ] 6歳児 ] 7歳児 ] 8歳児 ] 9歳児 ] 10歳児−15歳児 ]

小児脳死判定後の脳死否定例(1歳児)

脳死否定例の定義は小児脳死判定後の脳死否定例(概要および自然治癒例)を参照


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臨床的脳死例

札幌医科大学医学部付属病院:発症1年後から在宅人工呼吸療法、身体が成長、812日間生存

 高山 留美子:長期臨床的脳死の4小児例、日本小児科学会雑誌、113(9)、1418−1421、2009

  1歳6ヵ月男児は急性脳症(アデノウイルス2型)、第12病日に小児脳死判定基準にもとづき脳死判定(無呼吸テスト実施、前庭反射は数週間後に施行)。両親は臨床的脳死判定前と同様に昇圧剤の使用を含めた積極的治療の継続を希望された。脳機能の回復を見込めないことを理解しつつも、延命治療を希望された。気管切開、胃瘻造設し、発症から約1年後、在宅人工呼吸療法へ移行した。呼吸不全のため数回、入院を要したが、心停止は発症から約2年3ヵ月後、急性腎不全により第823病日であった。

 死亡時の身長は102cm、体重18kgであり、身体発育の成長がみられていた。頭部CTは第20病日に白質の低吸収域が進行し、白質と灰白質の境界が明瞭となってきた。発症2年2ヵ月後には灰白質は低吸収域に変化し、白質との境界が不明瞭になっており、脳の液状化の進行と考えられた。

 2003年〜2005年札幌医科大学医学部付属病院小児科において4例(本例、10歳男児9歳2ヵ月男児9歳女児)の長期脳死症例を経験した。全症例の両親は臨床的脳死を死とは考えておらず、臨床的脳死判定後も延命治療の継続を希望し、わが子の存在をできるだけこの世で感じていたいと考えていた。

 

 

 

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脳死判定例

東京医科大学附属病院:経過中に脳波変化を来たす例が大部分、1例は生存中

 森地 振一郎:当院で経験した小児脳死5症例の臨床的検討、日本小児科学会雑誌、113(2)、401、2009

 対象患者は5例(男児4例・女児1例)、4ヵ月〜5歳2ヵ月(平均1.7歳)。心肺停止・低酸素脳症4例、インフルエンザ脳症1例。基礎疾患として早期ミオクロニー脳症1例、SMA-1型1例、被虐待児症候群疑い1例。4例は死亡、1例は現在入院中で在宅医療に向け調整中。

 5例中4症例で深昏睡・自発呼吸停止・脳幹反射消失は認めたが、経過中に脳波変化を来たした例を含め、平坦脳波は認めず脳死と判定するのは困難であった。経過中に脳波変化を来たしたことにより判定基準から外れた例が大部分を占めていた。海外では脳波を必要条件として基準から除外している国もある。

当サイト注:正確な年齢、症例数が不明

 

 

 

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臨床的脳死例

 

日本大学板橋病院:虐待による脳死が増加、41日生存、100日以上生存

 小平 隆太郎:被虐待児にみられた新たな傾向、日本小児科学会雑誌、112(2)、204、2008

 1984年から2007年までの22年間に、日大板橋病院で経験した虐待により入院または死亡した小児65例(男児33例、女32例)中、死亡は13例。気管切開は3例で施行され、自発呼吸での長期生存例に加え、脳死状態のまま人工換気下での1ヵ月以上生存例が本年から2例(1例は41日生存、他1例は100日以上生存)みられた。以前同様、医療機関では乳児の頭部外傷が虐待の主体だが、虐待の周知、救命センターや脳外科と小児科との連携強化に伴い脳死は増加傾向にある。
 

当サイト注:年齢の記載無し

 

 

 

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臨床的脳死例

兵庫県立こども病院救急集中治療科:平均在院日数194日、臨床的脳死の15日後に自発呼吸、一時人工呼吸器から離脱例あり

 澤田 杏子:当院救急医療室において救命不可能であった児への対応、日本小児科学会雑誌、112(2)、279、2008

 2005年1月から2007年9月までに死亡退院51例、うち来院時に深昏睡・対光反射消失で在院日数7日以上は11例。年齢中央値は1歳11ヵ月(月齢3〜17歳)、平均在院日数は194日(7〜859日)。10例は入院後10日以内に脳波検査を含めた中枢神経評価を行い、臨床的に脳死状態であると診断されていた。臨床的脳死状態と診断した15日後に自発呼吸が出現し、一時人工呼吸器から離脱した症例があった。

 

 


 

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臨床的脳死例

 

愛知県心身障害者コロニー中央病院:3年近く生存、四肢体幹の動きは活発

三浦 清邦:脳死状態で長期生存したミトコンドリア病の1例、脳と発達、39(5)、404、2007

 1歳時にLeigh(原因不明)と診断した女児。1歳3ヵ月児に代謝性アシドーシスとなりクモ膜下出血を発症、瞳孔散大、脳幹反射消失、自発呼吸消失、脳波平坦で脳死状態となった。家族の強い希望により2歳7ヵ月時に退院し、4歳3ヵ月児に感染症により永眠した。脳死状態で3年近く生存したが、脊髄反射と思われる触覚刺激による四肢体幹の動きは活発であった。

 

 

 

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臨床的脳死例

昭和大学医学部小児科:入院後1268日目に退院し在宅人工呼吸療法、身体成長、9年1ヵ月生存

 阿部 祥英:遷延性脳死の2症例、日本小児科学会雑誌、111(2)、300、2007
 阿部 祥英:脳死と考えられる状態が5年以上継続した後に在宅人工呼吸療法に移行した1幼児例、日本小児科学会雑誌、110(12)、1680−1682、2006


 1歳1ヵ月時に急性壊死性脳症に罹患、痙攣重積のため入院した男児。意識障害は一時改善したが、再度痙攣を認め、この時点から人工呼吸器管理になった。入院1日目、1歳11ヵ月時、5歳7ヵ月時の脳波検査では、感度を2μV/minとしても平坦であった。2歳時、2歳10ヵ月時、3歳9ヵ月時、5歳6ヵ月時の聴性脳幹反応で波形は不明瞭であった。両親が在宅人工呼吸療法への移行を希望し、4歳7ヵ月時、入院後1,268日目に初めて退院した。その後、9日間から198日間の入院加療を計7回要したが、6歳4ヵ月 時点で在宅人工呼吸療法を3ヵ月間継続。

 現時点でのJapan Coma ScaleはV−300、瞳孔は両側とも中心固定、瞳孔径は両側とも5mm、対光反射、角膜反射、毛様体脊髄反射、眼球頭反射、前庭反射、咽頭反射、咳反射はいずれも認められない。これら7つの脳幹反射のすべての消失を厳密に確認したのは6歳4ヵ月の時点が初めてであった。両親が希望しなかったことと臓器移植を前提としていないことから、無呼吸テストは施行していない。本症例の遷延性脳死と考えられる状態がどの時点から始まったものなのか、明確に定めることはできないが、入院後早期から脳死と考えられる状態にあったものと推測している。

当サイト注:その後、複数回の入院加療を繰り返し身体は成長、10歳2ヵ月で死去(私信)。

 

 

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臨床的脳死例

市立札幌病院:9日間生存、早期より複数の治療が重要。バルビツレート療法後に脳死と判断

 上垣 慎二:ヒトヘルペスウィルス感染が原因と考えられた急性壊死性脳症の1例、日本集中治療医学会雑誌、13(4)、451−455、2006

 1歳3ヶ月女児は発熱後に痙攣。大泉門の膨隆は認めなかったが触診上やや硬であった。第5病日、急激に大泉門の隆起が著明となり、その2時間後には瞳孔散大、対光反射・自発呼吸も消失、脳波も平坦となった。第6病日に血清・髄液検査の 結果が判明し、ヒトヘルペスウィルス−6陽性であった。脳圧コントロールを目的にバルビツレート療法を行ったが、神経学的所見に変化は見られず、第14病日に死亡した。

 脳圧コントロールは、搬入時から脳圧もさほど高くないと判断しており、早期からの頭蓋内圧センサー挿入や軽度低体温療法を考慮せず、大泉門の触診で対応した。そのため詳細な脳圧の評価が不可能であり、第5病日の急激な脳腫脹から脳死への進行に迅速に対応できなかった。以上の経験を踏まえ、今後は早期より複数の治療を同時に開始することも重要であると考えられた。

 

 

 

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脳死判定例

関東の大学病院小児外科病棟:「脳死の状態」と一貫して説明されている小児、1年数ヵ月以上生存中

 平野 美幸(神奈川県立こども医療センター):人工呼吸器を装着し、脳障害のため意識も反応もない子どもへの看護師の関わり ‘子どもの声’を聞き分ける、日本看護学会誌、25(4)、13−21、2005

 1歳7ヵ月時に痙攣重積、呼吸停止により低酸素性脳症を発症、気管切開術の後に転棟した男児。脳波上平坦、自発的な運動なし。医師から家族へは「脳死の状態」と早い段階から一貫して説明されていた(p20には同病棟の発症時2歳男児との区別が書かれていないが「数ヵ月おきのCT撮影でも脳の融解や石灰化が着実に進行している」とある)。

 毎日、親が面会に来て、抱っこ、吸引、マッサージ、ベッドサイドでの沐浴などを行っている。入院期間1年で現在3歳。

 

 

 

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臨床的脳死例

枚方市立枚方市民病院:体動が頻繁、331日間生存

 田辺 卓也:小児の長期脳死自験例5例とわが国における小児脳死判定の問題点、日本小児科学会雑誌、113(3)、508−514、2009
 原 啓太:小児脳死判定基準に合致した5症例の臨床経過、脳と発達、36(Suppl)、S193、2004

 1歳11ヵ月女児、特発性脳出血。開頭術後脳浮腫進行。2病日に散瞳固定、尿崩症、5病日に脳幹反射、脳波活動が消失。体動を頻繁に確認。積極的治療を行うも腎不全の悪化から335病日死亡。

 保護者の気持ちの変化は、積極的な治療を希望→気管切開の受け入れ(36病日)→急変しても心マッサージなどしない(113病日)→宗教家と「生と死について議論し、死を受け入れる気持ちに(161病日)。

 他の症例は6歳7ヵ月男児4歳11ヶ月男児、 1歳2ヵ月男児(下記)、6ヵ月男児

 

 

 

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臨床的脳死例

枚方市立枚方市民病院:体動が頻繁、134日間生存

 田辺 卓也:小児の長期脳死自験例5例とわが国における小児脳死判定の問題点、日本小児科学会雑誌、113(3)、508−514、2009
 原 啓太:小児脳死判定基準に合致した5症例の臨床経過、脳と発達、36(Suppl)、S193、2004

 1歳2ヵ月男児、化膿性髄膜炎。搬送時にすでに散瞳固定、深昏睡。脳浮腫進行し2病日に尿崩症、3病日に自発呼吸、脳幹反射、脳波活動が消失。 体動を頻繁に確認。積極的治療を行うも緊張性気胸を起こし136病日死亡。

 保護者の気持ちの変化は、積極的な治療を希望→気管切開は次第に受け入れ→死を迎える際には穏やかに看取ってあげたい。

 他の症例は6歳7ヵ月男児4歳11ヶ月男児、 1歳11ヵ月女児(上記)、6ヵ月男児

 

 

 

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臨床的脳死例

島田市立島田市民病院:2ヵ月間以上生存

三木 直樹:臨床的脳死の2乳児における経時的画像変化、脳と発達、35(Suppl)、S236、2003

 1歳2ヵ月男児、溺水による心肺停止、自発呼吸は出現せず、瞳孔は散大しなかった。第2病日のABRは1、2波がみられたが、第8病日には消失。第13病日から尿崩症を発症。第7病日、第30病日のSPECTで脳血流は消失していた。頭部CTでは、第2病日に脳浮腫のため脳溝、脳槽が消失、第7病日のCTではくも膜下出血がみられた。第15病日のCTで皮髄境界が再び認められ、第74病日のCTでも皮髄境界は保たれていた。脳実質の液化は緩徐で、第88病日のMRIで両側前頭葉白質に液化病巣がみられた。
 脳血流の消失により、脳組織の液状化機転が遅延したため、通常の全般性脳軟化過程をとらなかったものと推測された。

注:第7病日の「脳血流消失とクモ膜下出血」は矛盾しないか、また「脳血流消失による脳組織の液状化機転の促進」はあっても「遅延」は起こりがたいのではないかとみられるが詳細の説明はない。死亡の有無の記載もない。

 

 

 

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臨床的脳死例

高知市民病院:死亡はhollow skull image の9日後

熊田 恵介:脳死状態の画像所見 SPECT像を中心に、脳死・脳蘇生、16、50−56、2004

 蘇生後脳症1歳男児は脳死状態と診断(無呼吸テスト施行せず)、SPECT検査で hollow skull image を呈した後9日後に死亡した。

 

 

 

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脳死判定例

新潟市民病院:脊髄反射あり、41日間生存

吉川 秀人:小児長期脳死症例における体動について、新潟市民病院医誌、24(1)、25−28、2003

 低酸素性脳症の1歳男児は、脳死に至るまで2日間。小児脳死判定暫定基準案(1999年)により脳死判定してから、脊髄反射が認められた。心停止に至るまで41日間。

 

 

 

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脳死判定例

新潟市民病院:自動運動、ミオクローヌスあり、13日間生存

吉川 秀人:小児長期脳死症例における体動について、新潟市民病院医誌、24(1)、25−28、2003

 低酸素性脳症の1歳女児は、脳死に至るまで1日間。小児脳死判定暫定基準案(1999年)により脳死判定してから、自動運動、ミオクローヌスが認められた。心停止に至るまで13日間。

 

 

 

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脳死判定例

 

聖マリア病院:死亡まで65日間、25日間、72日間

松石 豊次郎:小児の脳死、小児科、42(5)、880−887、2001

 聖マリア病院において溺水により脳死判定された1.1歳児は死亡まで65日、同じく溺水の1.1歳児は死亡まで25日、同じく溺水の1.5歳児は死亡まで72日。

 

 

 

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臨床的脳死例

 

聖マリア病院:脳血流あり、心停止まで22日、23日、97日、323日、414日、445日、757日、908日

桂木 誠:乳幼児脳死例における脳SPECTについて、核医学、37(3)、276、2000

 対象は9例(2〜22か月)の乳幼児脳死疑い例(深昏睡で自発呼吸や脳幹反射消失)、脳波やABR(聴性脳幹反応)では脳活動が消失していた。脳SPECT検査(シングル・フォトン・エミションCT:体内に入れたアイソトープから出るガンマ線量を測り画像化)を行なったところ、6例は脳内部への血流はみられず頭蓋冠への血流がみられるのみ( HSI:Hollow Skull Image.Hollow Skull Sign )で、検査後6〜97日後(平均41日後)に心停止をきたした。

 わずかに脳内にラジオアイソトープの認められた3例では、それぞれ323日後、445日後、908日後に心停止をきたした。HSI は成人の場合と同様、脳死判断の有力な指標になると思われた。わずかに集積のあった3例では脳が機能しない程度の血流が残存していたと思われる。脳死と考えられる例のなかにHSIを示さない例のある可能性があり、さらに検討を要すると思われた。

当サイト注:Hollow Skull Image(HSI)は、最近はHollow Skull Sign と表現されることが多くなっている。頭蓋骨と頭皮にのみ放射性トレーサーの存在が映像化され、脳内にはないことから、頭蓋骨の輪郭だけの空洞状に見える像のこと。

 

 桂木 誠:脳死例における脳SPECTについて、核医学、35(7)、618、1998

 対象は6歳以上の43例(12〜81歳)、6歳未満6例(2〜23カ月)。いずれも深昏睡で自発呼吸がなく臨床的には脳死と判定されていた。6歳以上では42例がHollow Skull Image(HSI)を呈した。検査後0〜22日(平均4.7日)後に心停止をきたしていた。残り1例は小脳にわずかに血流が見られたが4日後に心停止となった。

 6歳未満では4例でHSIを呈した。この4例は23〜445日(平均141日)後に心停止をきたした。残り2例は脳内の一部にわずかな血流がみられたが、意識の改善のないまま414日と757日目に心停止をきたした。

 HSIは、心停止までの期間に長短はあれ、脳死を強く示唆する指標と思われた。なお、臨床的には脳死と思われる例でも、血流がわずかに残存する時間のある可能性が考えられた。

  

 

 

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脳死判定例

杏林大:虐待され小児脳死判定基準(案)を満たし死亡まで346日

 前田 基晴:小児脳死判定基準(案)を満たし約11ヶ月間脳死状態を呈した男児例、日本小児科学会雑誌、105(3)、424、2001

 1歳3ヶ月の男児、生後3ヶ月頃より両親(特に母親)により虐待を受けていた。今回、児が泣き止まないため首を絞め、痙攣を認めたため救急搬送。約3時間の痙攣重積と考え、直ちに脳浮腫対策を行ったが、入院後3日目に自発呼吸が停止し人工呼吸管理を開始。その直後より対光反射は消失し、脳波も平坦となり、ABRの波形も消失した。

 以降、輸液や薬剤による循環動態の管理ならびに中心静脈栄養による栄養管理を行っていたところ、脳死状態でありながらも348病日目(脳波平坦確認後346日目)に腎不全にて死亡した。脳死の診断については、竹内らによる小児脳死判定基準案に基づき判定を行った。その結果、計6回の判定でいずれも基準を満たした。また、補助診断として行った各検査所見ならびに頭部の剖検所見においても、脳死であったことは間違いないものと思われ、小児における脳死を考える上で貴重な症例と考えられた。

 

 下記は同症例とみられる杏林大の高木 徹也氏らによる、11ヶ月間脳死状態を呈した被虐待児の一部剖検例、日本法医学雑誌、54(1)、56、2000より。

【死亡者】

 2歳2ヶ月の男児。実父、実母との3人暮らし。

【虐待の状況】

 某年4月15日午後4時頃から、母親が死亡者(当時1歳3ケ月)が泣き止まないことに立腹し、顔面、背面に噛みつき、顔面を足で踏みつけ、頸部を締め上げる等を繰り返した。その直後から死亡者の眼球が上転し、意識の消失があったにもかかわらず放置していた。同日午後7時になり、母親が怖くなったため救急車を要請、午後7時55分病院に搬送された。

【入院後の経過】

 病院到着時、自発呼吸および対光反射はあるものの、意識レベルはJCS200で頭部CTで軽度の脳浮腫を認めた。入院後、脳浮腫に対する治療を開始したが、入院3日目に自発呼吸停止し人工呼吸管理開始、その直後から対光反射の消失、平坦脳波を認めた。諸治療による全身状態の管理を行うも、入院348日目(脳波平坦確認後346日)に心拍停止し、死亡確認された。

【解剖所見】

 外表および内臓諸臓器に創傷は認められない。大脳、小脳、中脳、橋脳は、汚黄色を呈し泥状化及び液状化。また延髄は―部崩壊し、頚髄から腰髄にかけて全般に白質の崩壊と色素沈着を認めた。その他、肺炎、慢性膵炎による線維化、肝障害、腎障害を認め、死因は脳死状態を基盤とした多臓器不全と判断した。

【考察】

 本事例では入院中に、小児に対応した暫定的脳死判定を行っており、脳死と判断されている。解剖所見では、大脳から橋脳までの泥状化、液状化を呈しているが、臨床的に長期に渡り心拍動をはじめとする血行動態が保たれていたという事例は、本邦では報告がない。小児の自律神経系の恒常性には、成人とは異なるものがあると推測されるが、そのメカ二ズムについては今後の検討が必要と考えられた。また、近年社会問題となっ ている被虐待児の病院における対応について検討の必要性が感じられた。

 

 

 

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臨床的脳死例

土浦協同病院:下垂体機能が保たれ、379日間生存

渡辺 章充:臨床的脳死状態と判定された後、1年間生存した1幼児、日本小児科学会雑誌、105(3)、424、2001

 1歳4ヵ月女児は1999年4月16日、肺炎治療後に急性脳症を発症し、人工呼吸管理。第4病日に平坦脳波となり、以後、脳波活動を認めることはなかった。第15病日と第23病日に無呼吸テストを除く脳死判定を行い、臨床的脳死状態と診断した。2000年3月の時点で平坦脳波・ABR無反応で脳血流シンチで血流は認めなかった。しかし、非常に顕著な脊髄反射が観察され、また下垂体ホルモンの分泌は認められた。第393病日に心停止、死亡した。下垂体機能が保たれていたことが、長期生存の要因の一つと考えられた。

 

 

 

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臨床的脳死例

佐賀医大:脳死と判断した5ヵ月経過後も比較的安定、生存中

 泉 佳代子:急性脳症後に脳死となり長期生存している1女児例、日本小児科学会雑誌、104(6)、702−703、2000

 症例は2歳女児。1歳5ヶ月時に原因不明の急性脳症に罹患し、高度の脳浮腫による脳ヘルニアをきたした。平坦脳波、脳幹反射喪失、聴性脳幹反射消失、脳血流シンチでの血流消失により、19病日に脳死と判断したが、5ヵ月を経過した現在、中枢性尿崩症と慢性の気道感染はあるものの、人工呼吸管理下では比較的安定した状態である。

 

 

 

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臨床的脳死例

済生会川口総合病院:1年間以上生存

 榎本 綾子:急激な経過で脳死状態となったインフルエンザ脳炎の1例、脳死・脳蘇生研究会誌、12、51−52、1999

 インフルエンザ脳炎の1歳8ヶ月女児は、発熱の2日後1998年1月26日、入院5時間後に突然自発呼吸が停止した。厚生省小児における脳死判定暫定基準案(1998年)に従い脳死判定を行なった結果、自発呼吸消失も消失していた。無呼吸テストは施行しなかったが脳死状態と考えた。以後も家族の希望により、呼吸循環管理および肺炎などの合併症に対する治療を続けたが約1年後の1999年2月15日0時から突然呼吸状態が悪化し、同日15時14分に心停止した。心停止3日前の2月12日の頭部MRIでは白質の大部分および脳幹が破壊されていた。

 

 

 

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臨床的脳死例

岡山大: 血圧と脈拍が同時に上昇、自律神経支配が生き残る、28日間生存

 榎 日出夫:臨床的脳死判定後にCushing現象を認めた幼児例、脳と発達、39(1)、27−31、2007
 榎 日出男:幼児の急性脳症における臨床所見と電気生理学的検査の経時的変化、脳死・脳蘇生研究会誌、12、62、1999

 1歳2ヶ月女児は、鼻汁、咳嗽が2日間先行し38℃台の発熱が出現した当日に全身性間代性痙攣が重積症に発展し入院した。 痙攣はジアゼパム5mg静注により頓挫した。フェノバルビタールを5.1mg/kg/day投与。第5病日に自発呼吸が停止、瞳孔は散大し脳幹反射の消失を確認した。脳波は平坦でABRはT波のみが残存し、U波以降の成分は消失していた。

 呼吸停止14時間後から18時間後までの間、血圧と脈拍が同時に上昇し、収縮期血圧150mmHg、脈拍184/分に達した。この間、昇圧剤は使用していない。第6病日の脳波も平坦で、ABRはT波も含め、全成分が失われていた。以後も呼吸管理を行なったが。第32病日に心停止し死亡した。

 自発呼吸停止後(小児脳死判定基準暫定案の再評価期間)12時間を過ぎてから心拍数と血圧が上昇した病態について、自律神経の関与が示唆される。ABRのT波が残存している時点で自律神経支配が生き残っている可能性があることを示す所見であり、重要と思われる。

当サイト注:ジアゼパムとフェノバルビタールは中枢神経抑制剤。聴性脳幹反応ABR=脳幹聴覚誘発電位(聴性脳幹誘発反応、聴性脳幹誘発電位 brainstem auditory evoked potential :BAEP)は、音圧レベルが100デシベル前後で持続時間0.1〜0.2msec程度のクリック音で刺激する検査。U〜X波が記録されると脳幹部が機能している。T波も脳血流の残存を示すが、厚生労働省は「聴性脳幹誘発反応の消失の確認は努力義務であり必須検査項目ではない。T波の残存の解釈は脳死判定医の裁量の範囲内」という趣旨の見解を示している(唐澤 秀冶:脳死判定における聴性脳幹誘発反応検査、脳死判定ハンドブック、羊土社、210−212、2001)。

 

 

 

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脳死判定例

石川県立中央病院:脳死判定後も約3ヵ月生存

久保 実:脳死判定を試みた急性壊死性脳症の一幼児例、日本臨床救急医学会雑誌、2(1)、129、1999

 1歳2ヶ月女児は1998年3月19日より発熱、嘔吐、痙攣が出現し、翌20日痙攣重積状態となったため21日当院を受診。除脳硬直状態で、頭部CTなどにより急性壊死性脳症と診断した。ICU入室後呼吸停止したため人工呼吸器装着、循環・脳減圧などを行なうも改善なく、30日、不可逆的脳不全の状態と判断、積極的治療を断念した。6月10日、脳死判定を試みた。8月31日、心停止し人工呼吸器を停止した。

 脳死判定後も約3ヵ月生存した。幼児の脳死判定はその基準、信用性に問題があるように思われた。

 

 

 

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臨床的脳死例

筑波メディカルセンター病院:16日間生存

高柳 賢一:小児をドナー候補とした経験、移植、31(2)、168、1996

 ドナー候補を1歳小児とし移植コーディネートを実施、いくつかの問題点を経験し最終的には献腎へ至らなかった。
昨年6月12日、溺水にて協力病院へ搬入、心肺停止状態であった。18日脳死状態へ至り献腎の申し出を受けた。ドナー情報及びコーディネート第一報は20日、1歳、体重約12kg、男児であった。同日コーディネーターが協力病院を訪問、病院、家族の了解を得、承諾書を頂いた。24日献腎を打切りとし7月3日心停止、お見送りをした。

 高柳氏らは臓器摘出が行なえなかった理由として「レシピエント候補が見つからなかった。心停止までに13日を有し協力病院、医学的問題が生じ献腎を断念した、.小児腎摘出の経験がなかった(特殊なケース)」などを記載している。

 

 

 

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脳死判定例

犬山中央病院:脳死判定後、尿崩症併発まで 8日間、33日後に脳内血流、134日間生存

 荒木 有三:脳死状態下に長期間下肢の異常運動を認めた幼児の1例、小児の脳神経、19(4)、317−322、1994

 交通事故で重症頭部外傷の1歳10ヵ月男児は、第7病日にRowland らの小児脳死判定基準に従い脳死状態と判定した。下肢および上肢の異常運動は第3病日より出現し、第15病日では、胸郭の動きや掛け布団などが刺激で誘発され、第30病日ごろまで増強した。血圧が安定している間、異常運動は継続し、第120病日ごろよりは減弱したが、死亡(心停止)直前までみられた。

 第15病日に尿崩症を併発し血圧低下が見られたがDDAVP(抗利尿薬、デスモプレシッシンの商品名、視床下部ホルモン・バソプレシンの同族体)の使用により血圧は安定した。第120病日にDDAVPを中止し血圧は低下、第140病日に死亡した。

 経過期間中の脳波検査は、すべて平坦。1回の聴性脳幹反応と体性誘発電位でも反応はみられなかった。第40病日のダイナミックCTでは、硬膜を介した外頸動脈より潅流する血流とみられる残余循環が示唆された。剖検が得られなかったがCT所見から融解、壊死には至っていない可能性が示唆された。

 

 

 

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脳死判定例

 

福岡大学筑紫病院:厚生省基準と米STF基準で1日差、24日間生存

 大府 正治:小児の脳死における電気生理学的検討 脳波および聴覚誘発電位の経時的変化、日本小児科学会雑誌、98(1)、39−45、1994

 厚生省研究班(1985年)およびSTF基準(米国小児脳死判定特別専門委員会1987年)の脳死判定基準を用い脳死と判定した1歳7ヶ月男児(溺水)。第5病日に厚生省基準を満たした。第6病日にSTF基準を満たした。第28病日に心停止した(厚生省基準で脳死判定後24日)。

当サイト注:論文では第26病日に心停止としているが、p41の表2では第28病日に心停止となっている。この症例が心停止まで最も長期間だったが、p41で心停止までの期間を「24日間」としていることから、心停止時期は第28病日とみられる。

 

 

 

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臨床的脳死例

自治医科大:再三の虐待により脳死、脳幹血流停止は臨床的脳死より遅れた、約3ヵ月間生存

富田 功一:脳死に陥ったBattered Childの1例、日本法医学雑誌、47(補冊)、256、1993

 泣き止まないのに腹を立てた実父が乳児を(年齢記載なし)再三ベッドへ放り投げていたが、呼吸停止など容態急変に驚き救急車で病院へ運んだが、病院の医師が診察した時点ではDOA状態であった。翌日の脳波検査では低電圧であるも平坦とは言えず、脳死状態とは言えないまま治療を続けた。しかし10日近くの後、脳外科の検査では脳波平坦と言ってよいだろうと言うことであった。一般状態は好転しないまま、循環不全、不整脈出現して約3ヵ月後に死亡した。

 剖検所見により、臨床的には受傷後1ヵ月以内に脳死と考えられる状態に陥ったものの、脳幹部の血流停止はこれよりずっと遅れたものと、判断している。(捜査結果、父親の自供からも)ICUに収容された暴行の2、3日前にも頭を強打し、その際徐々に硬膜下出血を生じ、収容当日の暴行後に再度強く出血し、脳圧迫により、呼吸、続いて循環不全に陥った。そして収容までにかなり時間があったため、回復不能になり、これを肺の病変が助長したものと推定している。

 このようにきわどい幼児脳死の発生では経過が著しく長期に及ぶので、正確な脳死判定には脳内の血流停止を確認することが極めて重要と考えている。

 

 

 

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臨床的脳死例

和歌山県立医大高度集中治療センター:3回とも頭蓋内にわずかな血流を認め、生存している

中 敏夫:小児の脳死判定と補助診断としての99mTc-HM-PAO-SPECTの有用性、蘇生、11、97−98、1993

 1歳6ヶ月男児は異物誤嚥にて窒息状態のところを発見され、約25分後異物除去されるも心停止。蘇生後、当センター入室。翌日の頭部CTでは著明な脳浮腫を認めた。その後、臨床的に脳死状態に陥ったため2日目、10日目、27日目と計3回SPECTを施行、3回ともわずかながらも頭蓋内に血流を認めた。

 12日目から尿量増加とともに低Ca血症、血中ADH低値を認め、中枢性尿崩症と診断。ピトレッシンの投与により尿量は正常化し、以後状態の変化なく47日後退室した。

 

 

 

12d-hypothalamic-1y

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臨床的脳死例

兵庫県立西宮病院: 聴性脳幹反応全波消失後も視床下部に血流、抗利尿ホルモン分泌、約20日間生存

山村 仁:心停止後脳症の1小児例、日本救急医学会雑誌、2(4)、744、1991

 臨床的脳死となった1歳1ヵ月の女児、溺水後心停止となり約45分後に心拍再開した。第2病日に瞳孔は散大し、脳幹反射はすべて消失した。同日のABRではT〜X波が消失し、脳波では平坦化が認められた。第14病日の脳血流シンチでは、視床下部付近にわずかながら血流を認め、内分泌学的検索において抗利尿ホルモンADH1.0(pg/ml)および副腎皮質刺激ホルモンACTH31(pg/ml)と、微量ながら分泌されていた。第26病日、尿浸透圧の著しい低下とともに心停止となった。

 小児の脳死では、ADHを使用しなくとも長期間生存する報告が散見される。本症例では、成人の脳死に特徴的な尿崩症を認めなかった。このことから、少量のカテコラミンのみで循環動態を維持することができたのは、ADHの関与があったためと推測された。

 

 

 

169175

臨床的脳死例

神戸市立中央病院:高Na血症を来たしてから死亡に至るまで62日間

加藤 浩子:小児深昏睡患者における高Na血症の意義、蘇生、5、136、1987

 脳幹反応の消失、無呼吸、平坦脳波(Vb)、BAEP無反応(全波形消失)を来たし脳死状態となった7例全例に循環停止にいたる過程で著明な高Na血症がみられた。高Na血症を来たしてから死亡に至るまでの日数は3〜62日間であった。

 注:この論文には年齢の記載がないため、後日の調査に便利なように兵庫県下からの施設の報告(上記)と隣接して掲載した。

 

 

 

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脳死判定例

淀川キリスト教病院:約1ヵ月間生存、わずかな血流を認めた?

 島田 誠一:小児における脳死と脳循環(123I-IMP-SPECTの応用)、日本小児科学会雑誌、94(3)、646、1990

 出生仮死、先天性多関節拘縮症で経過観察中の生後13ヶ月児は、突然に心停止をきたし、蘇生後低酸素虚血性脳症となり、約1ヵ月後に自然経過で死亡した。米国小児科学会等合同特別委員会ガイドラインに従い判定。SPECTでは脳循環をほとんどみとめなかった(当サイト注:わずかな脳血流を認めたという意味か?)。

 

 

 

177

臨床的脳死例

徳島大学・国立療養所香川小児病院:頭部皮膚温低下より20日間 生存、
前額部と前胸部の体温差が変動(ABRは無反応だが脳血流は復活した?)

 橋本 俊顕:発育期脳障害による人工呼吸管理を要する児の中枢神経機能及び発生要因  脳死状態における皮膚温のモニタリングについて、 厚生省精神・神経疾患研究平成元年度研究報告書  発育期脳障害の発生予防と成因に関する研究、141−145、1990

 急性脳症の1歳女児は、脳死状態に至り前額部と前胸部皮膚温を同時測定を開始。15日後に最大温度差6.3℃となった。ABRは無反応、温度差に変動を認めた。尿崩症を合併した。頭部皮膚温低下より心臓死に至る期間は20日間。

 

 

 

178

臨床的脳死例

徳島大学・国立療養所香川小児病院:(ABRは無反応でも?)脳内残余循環あり、135日間生存

 橋本俊顕:発育期脳障害による人工呼吸管理を要する児の中枢神経機能及び発生要因  平坦脳波を呈し人工呼吸管理を要した5例、厚生省精神・神経疾患研究62年度研究報告書 発育期脳障害の発生予防と成因に関する研究、57−61、1988

 軽度の発熱に伴ない痙攣重積をおこした1歳11ヶ月女児は、約24時間断続的な痙攣がみられ、その間意識の回復が認められなかった。第2病日に角膜反射と眼頭囲反射が消失、第4病日に対光反射、瞳孔散大固定、自発呼吸停止、聴性脳幹反応は全波形消失。第35病日の検査で平坦脳波。

 脳死状態の経過中、頭囲が拡大し、第50病日のCTでも頭蓋骨縫合の離解がみられ、脳内残余循環が示唆された。尿崩症が第4病日に発症、尿崩症の治療はDDAVPの点鼻と輸液により脳死状態の患者においても可能であった。第138病日に心停止となった。

 

 

 

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臨床的脳死例

徳島大学・国立療養所香川小児病院:脳幹反射消失から11日間生存

 橋本俊顕:発育期脳障害による人工呼吸管理を要する児の中枢神経機能及び発生要因 平坦脳波を呈し人工呼吸管理を要した5例、厚生省精神・神経疾患研究62年度研究報告書 発育期脳障害の発生予防と成因に関する研究、57−61、1988

 新生児仮死、クモ膜下出血、無酸素性脳症の後遺症で発達の遅れのみられた1歳4ヵ月男児は、歩行練習中に上顎部を打撲し、痙攣にひきつづいて意識障害、自発呼吸の停止をきたし人工呼吸管理を施行した。頭部CTにて急性硬膜下出血、脳挫傷を認めた。第1病日に脳幹反射が消失、第2病日の脳波検査で平坦脳波、第11病日に心停止となった。

 

 

 


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臨床的脳死例

都立神経病院、死亡まで18日間、95日間(2例)

谷口 真:脳死の脊髄病理、第46回日本脳神経外科学会総会抄録集、147、1987

 2例は小児脳腫瘍例で脳死後18〜95日生存した。脊髄病変は脳死後の経過が長いほど破壊が強く長期生存の小児例では、脊髄は器質化した瘢痕に置換されるが、反応の主体はglia 細胞ではなく間葉系細胞である。

当サイト注:この2例は年齢の記載が無いため、後日の調査に便利なように同施設の報告(下記)と隣接して掲載した。

 

 

 

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臨床的脳死例

都立神経病院:溺水9日目より15日目がCT高吸収域拡大(新生血管か)、109日間 生存

 中村 安秀:「脳死」後長期生存小児におけるCTの経時的変化、日本小児科学会雑誌、90(10)、2139−2149、1986

 1歳2ヶ月男児は1985年6月25日、風呂で溺れているのを母親に発見された。脳波は7日目以降平坦。バルビタール大量療法中止後も深昏睡は持続し、対光反射、角膜反射、毛様脊髄反射、眼球頭反射、前庭反射(温度試験)、咽頭反射、咳反射などの脳幹反射はすべて消失していた。バルビタール中止後7日目において無呼吸テストを行い、PaCO2が59.9mmHgまで上昇したが自発呼吸は認められなかった。この時点で厚生省脳死研究班の判定基準に相当していたと retrospective に判断される。

 脳死判定基準に相当した後も、体温、血圧、脈拍などの vital signs は安定し、尿崩症に対して輸液量を調節しDDAVPを投与することにより全身状態は維持されていた。頭蓋骨の縫合離開は進行し、大泉門は開大しており、Glycerol の投与は続けていた。経過中、無菌性胸水貯留や肺炎をきたしたが、いずれも治療によく反応した。体温は外界温度に左右されるため、たえず適度の保温を必要とした。10月19日突然血圧低下をきたし、一時は dopamin に反応したものの、22日に再び急激な血圧低下をきたし、昇圧剤に反応しないまま心停止にいたった。脳死判定基準に相当した後、109日目であった。

 溺水15日目のCTでは、大脳皮質のびまん性の低吸収域と、全脳室・脳槽系の消失を認めた。脳溝、脳溝にそった高吸収域は溺水9日目のCTより広がっていた。

 溺水後49日目、79日目のCTにおいては、全脳室・脳槽系の消失所見は持続しており、脳幹、小脳の一部、基底核部、深部白質に低吸収域が認められた。溺水15日目のCTで認められた(脳溝、脳溝に沿った)高吸収域は明らかに減少していたが、tentorium 表面、側頭葉、後頭葉を中心とした高吸収域の一部は、溺水15日目よりhigh density となり石灰化を疑わせた。同様の変化は大脳底部脳槽の一部にも認められた。

 

 

 

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臨床的脳死例

都立神経病院:局所的石灰化の一方で局所的脳血流再開の可能性、死亡まで60日間

 中村 安秀:「脳死」後長期生存小児におけるCTの経時的変化、日本小児科学会雑誌、90(10)、2139−2149、1986

 無酸素性脳症と精神運動発達遅滞を主訴に入院していた1歳5ヵ月児が、1984年10月29日、無呼吸発作と思われる呼吸停止・心停止の状態で発見された。バルビタール中止後、深昏睡が持続し、角膜反射、対光反射、眼球頭反射、前庭反射、咽頭反射、咳反射は消失していた。瞳孔径は左右とも5mmであった。一時的に右後頭部に極めて低電位の脳波活動を認めたが、その後は平坦脳波が持続した。無呼吸テストは施行していないので各種の脳死判定基準は満たしていないが、吸引時や体位変換時にPaCO2が上昇している時にも自発呼吸はまったく認めなかった。以上の状況に基づき、蘇生後25日目(バルビタール大量療法中止後17日目)の時点でいわゆる脳死という病態であったと retrospective に判断した。

 その後は、瞳孔径の変動を認めたものの、体温、血圧、脈拍などの vital signs は安定していた。1985年1月21日、突然に血圧低下、徐脈、チアノーゼをきたし、種々の蘇生努力にもかかわらず心停止に至った。脳死という病態であると判断されてから60日目であった。

 心肺停止以前のCTでは、中等度の脳萎縮の所見であった。心肺停止より蘇生した8日後のCTでは、脳室・脳槽系は圧迫・縮小しており、灰白質と白質は区別できず、脳槽に沿った高吸収域と両側視床・脳幹部に低吸収域を認めた。

 蘇生後25日目のCTでは、深部白質に広範な低吸収域を認め、灰白質と白質の境界は鮮明であった。両側基底核や脳幹部にも低吸収域を認め、脳溝や脳底部脳槽に沿った高吸収域は、蘇生後8日目よりも幅広く広がっていた。全脳室・脳槽系の圧迫・消失所見・深部白質、基底核部・脳幹部の低吸収域、脳溝・脳槽に沿った高吸収域を認めた。右頭頂部の勾玉様の高吸収域のCT値は徐々に上昇し、蘇生後74日目のCTでは石灰化と考えられた。またこの時、両側前頭部に extracerebral fluid collection を認めた。

 蘇生後33日目に contrast enhancement を同時に施行し、鞍上槽内の高吸収域や脳溝に沿った高吸収域が確かに造影されることを確認した。・・・・・・(p2148)少なくとも頭蓋内に血流が供給されている可能性を強く疑わせた。

 

 

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臨床的脳死例

施設名記載なし:虐待?死亡まで7日16時間

日本法医学会課題調査委員会:脳死を経過した剖検例調査、日本法医学雑誌、40(2)、165−183、1986

 1歳男児、1984年10月、階段から転落(約10段)、泣いていたので部屋で寝かせたが意識障害あり病院に搬送。脳死判定から心停止まで7日16時間。死因は硬膜下出血、くも膜下出血。後頭部に円形の表皮剥奪・痂皮形成・同部の皮下に出血。

 

 

 

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脳死判定例

熊本労災病院:ドパミンによる補助循環下、7日間生存

田上 正:溺水からの心肺蘇生、長期管理後、脳死に至った一例、日本臨床麻酔学会誌、3(4)、501、1983

 自宅近くの用水路に落ちた1歳2ヶ月男児は、30〜40分後に発見された。来院時直腸温30℃に下降していた。体表面積が広く体温が低下しやすい幼少児は、時間が経過していても蘇生法に反応する。約40分後に自己心拍が、さらに30分後からは自発呼吸が出現、対光反射もみられるようになった。

 第2病日にかけて瞳孔は次第にピンホールとなり対光反射が消失してきた。第3病日よりすべての反射は消失、四肢は弛緩し、瞳孔散大、自発呼吸停止、血圧低下を生じたのでドパミンによる補助循環を必要とした。第4病日、脳波の平坦化、CTにおける脳浮腫の増強、脳室の消失を認め脳死と判定した。第10病日、心停止を来たした。

 


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