中国で腎移植、帰国3ヵ月後入院 合成糸で炎症きたし死亡
臓器移植ネットへ不満が噴出 第34回日本腎移植臨床研究会
第34回日本腎移植臨床研究会が1月23〜25日、熱海後楽園ホテルにて開催された。以下は移植36巻第4号より。(タイトルに続くp・・は掲載頁)。
*橋本 恭伸(東京女子医大泌尿器科):中国にて献腎移植施行後ノカルジア肺炎を発症した1例、p284
45歳男性、2000年4月29日、中国にて献腎移植を受け帰国後、肝機能障害のため7月31日入院。入院時胸部レントゲン写真にて空洞形成を伴う肺炎を認め、痰からノカルジア(好気性放線菌)を検出した。肝機能障害は免疫抑制剤を変更して改善された。ノカルジア肺炎はST合剤で改善されたが、副作用の腎・肝機能障害で一時中止。この頃から、るいそう(消耗による痩せ過ぎ)が明白になり、イレウス(腸管内容の通過障害)、DIC(播種性血管内血液凝固症候群)が進行して死亡した。
病理解剖にて、アスペルギルス感染症(糸状真菌)、および膀胱に接する部位の回腸が合成糸を核として炎症をきたし閉塞性イレウス、腸管穿孔をきたしていた。
*パネルディスカッション、p239〜p241
坂本 薫(国立佐倉病院外科)
臓器配分が日本臓器移植ネットワークにより一元的に管理されるようになった5年間で、移植件数が減少しレシピエント年齢が上昇、移植前の透析期間の長期化とこれに伴う合併症が増加している。HLAミスマッチ数の減少やDRマッチ数の増加はあるが、移植腎生着率の改善にはつながっていない。献腎数と移植数の都県別アンバランスの問題も無視できない。今後は@移植医の果たすべき役割とシステムの再検討A献腎実績や移植成績の分析と結果の公開B献腎実績や移植成績に基づいたレシピエント選択基準の見直し、などが必要と考える。
小崎 浩一(東京医大八王子医療センター第5外科)
臓器移植法が施行され脳死移植が可能になったが、当初の予想数をはるかに下回っている。なぜ献腎移植も減少しているのか。移植コーディネーターの絶対数が少なく、かつ実力のあるコーディネーターが育っていない。移植医と救急医の連携体制が低下した。
星長 清隆(藤田保健衛生大泌尿器科)
愛知県の献腎移植数は腎移植ネットワーク発足前7年間の年平均49件と、長年にわたり他都道府県を凌駕していた。しかし95年に臓器移植ネットワークが発足してからは激減し、98年には年間15件まで減少した。最大の原因は愛知県摘出腎の県外への流出にある。臓器移植ネットワークの発足以来、移植医が臓器提供病院に直接働きかけることを止め、数少ないコーディネーターにその役割を押し付けたため提供病院側に移植の必要性が伝わりにくくなった。県外への腎搬送があまりにも多く、献腎ドナー獲得に移植医は意欲を喪失した。数少ない移植数では臓器移植ネットワークの存在意義が危うい。移植を飛躍的に増加させうる具体的な指針を早急に示す必要に迫られている。
寺岡 慧(東京女子医大)
献腎の県別移出入アンバランスは固定されている。移出超過が、移出先県のドナー獲得活動を抑制している可能性がある。6抗原適合例の生着率は必ずしも良好とは言えず、搬送経費その他労力等を考えると6抗原適合例のブロック外移出は再検討を要する。臓器提供の意思表示は献腎を促進しえていない。脳死下臓器提供施設の限定も、これ以外の施設の活動を低下させている。この5年間の総括をふまえ、今後の献腎移植推進のための方策を提言したい。
肺気腫と重症患者は肺移植登録に送ってくるな
コンディションの良いレシピエントしか登録しない
東北大学医学部で肺移植を行っている近藤 丘教授は、15日発行された加齢医学研究所雑誌第52巻第1・2号に「内外における肺移植の現状と展望」を寄稿した。
近藤教授は、「国際的な肺移植の施行状況は
International
Society for Heart and Lung Transplantation(ISHLT) の第15回レポートによれば移植後1ヶ月以内の死亡原因の中で、原因が特定できない移植肺機能不全が20%以上に上るとされている。著者はこの中に占める、移植後の肺気腫の割合は少なくないものと考えている。1ヶ月以内の死因として感染症は心臓では数字に上がってこないが、肺移植では16%という高い数字が示されている」と述べた後に、以下の記述をしている。
「これまで日本臓器移植ネットワークに登録した肺移植待機登録患者の疾患を見ると、欧米で最も頻度の高い慢性肺気腫症は数字に上がってこない。逆に欧米では頻度がそれほど高くないPPH(原発性肺高血圧症)が最も多く(12例、50%)、以下、気管支拡張症、肺リンパ脈管筋腫症、肺線維症が横並びで続いている。ちなみに肺リンパ脈管筋腫症は欧米ではその他の疾患のごく一部を占めるに過ぎないものである。その原因として、本邦では比較的若年での肺気腫が少ないという見方もあるが、欧米と異なる点は、特に移植医療立ち上げ時期というバイアスもあると思うが、本邦では適応をより生命予後を重視する考え方に絞っている結果ではないか、また一般的にはいまだに臓器移植が実験的な医療であるという認識しかない結果ではないか、と著者は考えている。」
「したがって、われわれの施設において移植の相談を受ける患者はそれこそ終末期を迎えている場合が多く、このような症例は移植を行ってもその予後は不良であり、すでに肺移植の適応時期を通り越してしまっているものが多いことが充分に理解されていないと思われる。最近までの紹介を受けた50例の検討で適応外と判断したものは7例であったが、このうち4例はすでに人工呼吸器が装着されていたものである。臓器移植をより安全に行い、その成績を向上させるためには、レシピエントのコンディションもある程度良好であることが望ましいのは言うまでもない」
中枢神経抑制剤の影響下に法的脳死判定 昭和大学横浜市北部病院救急センター
低感度、回復例・長期生存例ある脳血流停止所見を「より客観的な診断法」と採用
2001年1月7日19時40分、30代男性に対する11例目の法的脳死判定が開始されたが、この患者は脳死判定の対象外とされるべき中枢神経抑制剤に影響された患者だった。
昭和大学横浜市北部病院救急センターの豊田 泉氏らがNeurosurgical Emergency 7巻1号p41〜p44(2002年)に「法的脳死判定11例日の経験より 一中枢神経系に影響を及ぼす薬物についての問題−」として報告した論文によると、この男性は1月4日、路上でケイレンしているところを通行人に発見され救急車により同救命救急センターへ搬入された。1月7日の臨床的脳死判定にあたり、中枢神経に作用すると考えられる薬物の血中濃度の測定を行った。その中で
- プロフォポールは一般的に測定が非常に困難な薬物であり、従って臨床経過を参考に通常の作用時間から脳死判定に影響はないと判断した。
- ミダゾラムは検出されなかった。
- フェニトインは2.7μg/mlであり、これは検出限界域(2.5μg/ml以下)近傍であり、脳死判定には影響なしと判断した。
- リドカインと、患者が嗜好品として摂取していたと考えられるカフェインがわずかながら検出された。
-
ジアゼパムは、来院直後までケイレンがみとめられたため10mgを使用したが、同大学薬学部での測定で投与後71時間後において75.7ng/mlと検出された.。
同病院内ではジアゼパムの検出について、急性薬物中毒の原因物質同定などの目的で使用する全自動高速液体クロマトグラフィー薬物同定システムの検出限界は250ng/mlであるから問題なしとする意見もあった.。しかし、あらかじめ決められていた院内ルールは“検出限界以下”で脳死の判定にすすむというもの。そこで豊田氏らが「慎重を期する意味で」協力を依頼した薬学部の高速液体クロマトグラフィー
で検出限界10ng/ml以上の75.7ng/mlが
検出され、独自脳死判定マニュアルにおける「薬物の濃度は検出限界以下とする」に抵触した。
以上の“マニュアルとの矛盾”についての議論を経て「より客観的な診断法」として脳血管撮影(4動脈造影法)を行い、その結果、脳血流の停止所見を得た。その後、法的脳死判定による死亡確認の手順を開始した。
豊田氏らは論文で以下も述べている。
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ジアゼパムは、抗痙攣剤としては、通常、200〜500ng/mlで作用する。脳波で観察すると作用発現時間は静注終了直後にピークとなり、作用持続時間は60分であるという。本例では投与後71時間後に75.7ng/mlという血液濃度であった。この量では脳波や脳幹反射への影響はないと考えられる。しかし、脳死
判定に対する当時の社会的な事情を考慮すれば、ある意味で慎重にならざるを得なかったことも事実である。本例ではさらに、投与から88時間後のジアゼパム濃度の測定においても62.6ng/mlであった。これは、通常のジアゼパムの代謝では考えられない結果であり、患者はジアゼパムに対するいわゆるpoor
metabolizerであった可能性も否定できない。このことは、薬物に対する個体差の検討も必要であることを示している。
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当院で、脳死判定に関わる薬物としてリストアップした薬物は、向精神薬、眠剤や整形外科領域などで使用される骨格筋弛緩薬を含めると100種類を超える。もし、これら全てを個体差まで考慮しなければならないとすれば、医療現場での混乱は間違いないと考えられる。さらに脳死状態の患者において、薬物の脳組織と血中濃度を測定した守屋らの報告がある。脳組織の濃度が血中濃度より高いということは、脳循環の停止を意味していると解釈することもできるが、一方脳波への影響はどのようかということになれば、その判断は極めて難しく、議論も少なくないと考えられる。本例では、この薬物の問題を解決する手段の一つとして、脳血管撮影を行い、脳死の補助的診断法として利用した。これは、ベッドサイドで行うには限界があるかも知れないが、本法の普及度、信頼度は他の方法に比べて勝るとも劣ることはなく、法的脳死判定の実行を決断するにあたり、非常に有用であると考えられる。
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わが国の現状では、手続き論に拘ればそれだけ、現場を混乱させる可能性がある。脳血管撮影などの、脳循環停止を証明する補助診断法の導入を用いる意義は極めて高い。現場の医師の裁量で各種検査を用いればよいということも確かであるが、現場にいる我々が、その有用性を積極的に主張する必要もあると思われる。
脳血流停止所見に関する当Web注
豊田氏らは、脳循環停止を証明する補助診断法の導入が「手続き論を無用とする、意義は極めて高い」としている。しかし脳血流停止とされながらも、脳波、聴性脳幹反応、自発呼吸、長期生存例のあることが以下のように報告されている。
1、杉野 繁一(日鋼記念病院):平坦脳波と判定できなかった臨床的に脳死の1例、日本集中治療医学会雑誌、11(supple)、163、2004
臨床的に脳死と考えられた心停止蘇生後の75歳女性は、脳血流SPECT、FDG−PETでは脳血流、糖代謝は認められなかった、ABRでは1波〜5波のいずれも消失していた。しかし20mm/μvの高感度脳波測定で10Hz、15μv程度の振幅があった。
2〜3、今西 正巳(奈良県立医科大学救急科):脳死判定時における平坦脳波の確認の難しさ、日本脳死・脳蘇生学会誌、13、16−17、2000
脳挫傷の56歳男性、第6病日のSPECTでは脳血流は認められず、第9病日に瞳孔散大、脳幹反射消失。第10病日は平坦脳波といえず、5倍感度でも平坦脳波、脳死診断は困難であった。
窒息による心肺停止の60歳女性は第17病日に瞳孔散大、脳幹反射消失、SPECTでは脳血流は認められなかった。第19病日の脳波は3μVの電位変化がみられ、平坦脳波、脳死診断は困難であった。
4、星田 徹(奈良県立医科大学脳神経外科):重傷脳損傷と脳死脳波、小児の脳神経、26(4)、303、2001
32週に1,576gで出生した男児。2ヵ月半後のSPECT検査で大脳血流なく、さらに3ヵ月後のSPECT検査でも同様の所見であった。臨床的に脳死と判定したが、脳波検査では発症後1.5か月、2か月後にも10μV前後の脳波活動を認めた。1歳8か月時の脳波検査でも同様に脳活動を捉えることができた。
5〜6、森田 浩一(川崎医科大学核医学):脳死患者のSPECTによる診断、日本医学放射線学会雑誌、53(臨時増刊号)、S380、1993
脳血流停止がSPECT上で示された5例中2例に脳死臨調の診断基準では脳死とは診断されない自発呼吸が認められた。
7〜9、中村 弘(千葉県救急医療センター脳外科):切迫脳死、脳死239例の検討、救急医学、12(臨時増刊)、S128-S129、1988
頸動脈撮影は48例(51回)、全例で脳波を、20例でABRを施行後3〜4時間以内に、また臨床的に脳死を疑った時点から14〜56時間後に施行された。48例中3例(6.3%)はnonfillingであったが、2例で脳波上Hockaday4aを、1例でABR上1波を認めた。
10、星田 徹(奈良県立医科大学):脳死判定時における平坦脳波の判定について、臨床脳波、44(5)、295−302、2002
びまん性脳損傷と外傷性くも膜下出血の58歳男性、受傷後翌日のCTで著明な脳浮腫と脳実質の低吸収域が出現し、受傷5日目の脳血流SPECT検査で頭蓋内血流はほとんど認められないにもかかわらず、受傷後8日目の脳波で6Hz、8μvの律動性活動が認められECIと判定できなかった。
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