法的脳死ドナーの母親4人に面接調査 福井大学病院の高山氏ら
福井大学医学部附属病院・救急部の高山裕喜枝氏らは、「脳死下臓器提供選択後のドナー家族の他者との相互作用における心理プロセス 母親の語りから」を日本救急看護学会雑誌9巻3号p24〜p35に発表した。
国内で脳死下臓器提供を行い、2年以上経過したドナー家族の母親4名に面接調査した。母親に注目した理由は、15歳未満からの臓器提供の改訂案が検討されることで「今後臓器
提供が低年齢化するに当たり、感情的つながりの強い母親への家族ケアはより必要性が高くなる。よって母親の心理に着目し分析する事は、意義があると考えた」という。
4名の母親の他者との相互作用における心理は、9つのカテゴリーとして抽出された。カテゴリーは【気持ちの一致と支持による安心】【子どもを自慢したい】【現実認識ができ冷静】【話すことで楽】【質的な永遠時間への願い】【自分を納得させる】【気遣って欲しい】【底なしの悲しみ】【うらはらな言動に疑問を含んだ怒り】。以下は注目される母親の発言(注:論文に記載の順番ではなく、当Webで時系列と判断した順番に入れ替えた)。
A氏(10代脳疾患ドナーの母親、提供地:県外、提供まで3日間)
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「病院の脳外科の副院長、えーううん、脳外科の部長かな、その人が入ってきた時に、ドナーカードとか持っていないですよね。と一言、言われたんです。うーん、で、その一言がすごく嫌やったんです。・・・・・・待っているみたいにね、どうしてもね、なんかね、死を待っているみたいな、どうしてもそのときは、受け取れるのね」
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「その先生のね、自分の子どもやったらしないって言われた一言でね、先生の気持ちというか、真心というか、(間2秒)それを感じてね、あ、この先生は本当につらい私らの気持ちを分かってくれて、自分の立場に置き換えて、考えてくれてうん」
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「・・・・・・物ではなくて、一個の人間としてね、あのー、捉えてくれたんやなって。うん、そういうあれがちょっと感じられて。そう、今までの嫌な感情は、その時に無くなって」
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「あのー丸1日半ですか、かかってあのー(間3秒)先生にはっきりその状態を聞いて、あのー1週間しか、あのぐらいで命がなくなるだろうって聞いたときに(涙ぐむ)、その時は割りと冷静やったんですよね」
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「急転して、だんだんと生命が終わっていくような状況にしていたのを、臓器がより元気に保管するための積極的な治療になるのかな、やっぱり。まーそういう感じに受け取りました。今までは何もしなかったのに、急になんか、あれこれ、そう悲しいけど当然のことやな思っていました」
当Web注:A氏の4番目の発言「先生にはっきりその状態を聞いて、あのー1週間しか、あのぐらいで命がなくなるだろうって聞いた」は不正確な説明がなされた可能性を示す(永寿総合病院の465日間生存例ほか
、成人の「脳死」患者も長期生存例が報告されている)。このドナーとみられる第16例目の脳死下での臓器提供事例に係る検証結果に関する報告書でも合併症は記載されていない。5番目の発言は、ドナー管理の開始を示す。
B氏(20代交通事故ドナーの母親、提供地:県外、提供まで3日間)
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「自分は○○さんのCOだから、じゃ、タイムリミットなので帰ります。と帰って行っちゃいました。許せない、あーこの人には無理だと、何を言っても無駄だと思った」
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「(移植CO)が突然とお話だして、どういう風にしたらいいか、臓器をみせないほうがいいですね、名前は出さないほうがいいですねと。(淡々と早口で)こう何か、何か、もう、何か、決まった言葉、臓器を、臓器を移植する、臓器を移植したその入れ物は出さない方がいいですねって、みなさんそうしてます。だから、とにかくいろいろな紙を貰ったっけ。同意書とかね。それで。ひとりづずつ名前を書かされてね、こんなことまでしなきゃならないのかと」
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「それで、全部ようするに○がついているんだけど、そのードナー終わってから、結局使えたのは4つでした。・・・・・・(淡々と)4つしか使えませんでしたって。なんでこれだけの事、聞いておきながら。(間5秒)なんで使えないのかしらと、何かすごい、これって何のため、なんだったんだろうって思った」
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「(他のドナー家族がマスコミに)あんまり出すぎて、うちの子だってやってるんだよ、うちなんか大事な娘だよって。なんかすごい、腹立たしかったのね」
当Web注:B氏の1番目の発言は、ドナー家族と交通事故加害者または臓器提供施設や移植ネットワーク、コーディネーターなどとの摩擦を伺わせる。2番目の発言は、日本臓器移植ネットワークが「
ご家族の強い要望により摘出された臓器を収納する容器を撮影することは、控えていただきたい。・・・患者家族に対する取材等は―切行わないでください」などマスメディアに要請していることが、個別のドナー家族の要請にもとづかない、日本臓器移植ネットワーク側の既定方針であることを示す(法的脳死判定発生時の日本臓器移植ネットワークの発表文例は2001年7月26日付ニュース参照)。3番目、4番目の発言に関連して、論文の著者は「日本のシステムや規制に由来するものもあるが、事務的で配慮のない言動から移植コーディネーターに対して【うらはらな言動に疑問を含んだ怒り】を抱いていた」と評している。
C氏(30代脳疾患ドナーの母親、提供地:県外、提供まで6日間)
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「けれども電話は来ない。私は、やっぱり関わりたくないのかな。と正直思った、関わりたくないのかな私はそう思うから、そう思う人間だからさ、あー関わりたくないんだなと思った」
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「あのね、暑中見舞いとか、寒中見舞いは葉書できたわ。時季の挨拶みたいな、でもね電話で、お母さん元気ですかなど、一切ない(力をも込めて)」
- 「移植COの人に聞いたのよ。誰が私の心のケアをしてくれるんですかねって。そしたら誰も何も言わないで黙ってしまったのよ」
当Web注:C氏の発言は、法的脳死判定時に脳波が出現したなど脳死判定時の不手際(23例目)、あるいは臓器提供時や検査時に麻酔が使われていたこと(2例目)、患者が搬送されてきた日から臓器ドナーになる見込みで手術室が準備を始めたこと(同2例目)を知った、などが考えられる。
日大板橋病院 小児虐待で脳死2例 40日間、100日間以上生存
兵庫県立こども病院 臨床的脳死の15日後に呼吸 人工呼吸離脱
国立成育医療センター 5年間に治療手控え50例、治療終了30例
第111回日本小児科学会学術集会
第111回日本小児科学会学術集会が4月25〜27日の3日間、東京国際フォーラム(東京都)で開催される。25日は、ミニシンポジウム「長期入院と在宅医療」も開催される、シンポジストは細谷 亮太氏(聖路加国際病院小児科)、滝 敦子氏(川口市立医療センター新生児集中治療科)、前田 浩利氏(あおぞら診療所新松戸)、杉本 健郎氏(びわこ学園医療福祉センター)。
以下は日本小児科学会雑誌112巻2号より、脳死判定や終末期医療に関連する発表の要旨(タイトルに続くp・・・は掲載貢)。
*小平 隆太郎(日本大学小児科):被虐待児にみられた新たな傾向、p204
1984年から2007年までの22年間に、日大板橋病院で経験した虐待により入院または死亡した小児65例(男児33例、女32例)中、死亡は13例。気管切開は3例で施行され、自発呼吸での長期生存例に加え、脳死状態のまま人工換気下での1ヵ月以上生存例が本年から2例(1例は41日生存、他1例は100日以上生存)みられた。以前同様、医療機関では乳児の頭部外傷が虐待の主体だが、虐待の周知、救命センターや脳外科と小児科との連携強化に伴い脳死は増加傾向にある。
不法滞在を含む外国人妻の児への虐待2例が2年前からみられ、児童相談所のみでは解決困難な場面が増加している。代理Munchausen症候群も4年前から目立ち始め5例みられ、母親が生活空間からの逃避を意図したと考えられるものが3例、うち2例は救急外来から痙攣発作と偽り個室入院を希望するものだった。乳幼児救急が普及するなかで、病院を宿泊施設として利用するような社会的経済的背景が推察された。
当Web注:代理ミュンヒハウゼン症候群(Munchhausen syndrome by
proxy)は、小児虐待の一種。親が子供を傷害して本来は不必要な医療を受けさせたり、極端な療法により子供を傷害したり、家庭で想像上の異常を治療しようと試みること。
*澤田 杏子、永瀬 裕郎、上谷 良行(兵庫県立こども病院救急集中治療科):当院救急医療室において救命不可能であった児への対応、p279
2005年1月から2007年9月までに死亡退院51例、うち来院時に深昏睡・対光反射消失で在院日数7日以上は11例。年齢中央値は1歳11ヵ月(月齢3〜17歳)、平均在院日数は194日(7〜859日)。10例は入院後10日以内に脳波検査を含めた中枢神経評価を行い、臨床的に脳死状態であると診断されていた。全例の家族にwithhold(治療差し控え)を提示し、最終的には全家族がwithholdを希望していた。しかし、現行の薬剤の増減など、家族とスタッフの間あるいはスタッフ間でもwithholdの解釈が一致しないことが課題に挙げられた。
また治療方針の決定は、児の適確な診断と予後の判断が前提となるが、臨床的脳死状態と診断した15日後に自発呼吸が出現し、一時人工呼吸器から離脱した症例があった。中枢神経機能評価方法とそれによる予後診断、withholdの提示時期を含めた治療方針決定プロセスの確立と、多方面の分野が参加する緩和医療の充実が急務であると思われた。
当Web注:臨床的脳死診断後に自発呼吸が出現した小児は、積極的に治療していたら救命できた可能性が考えられる。不適切な治療差し控え(withhold)の犠牲者ではないか、検証されるべきだ。
*清水 直樹、中川 聡、阪井 裕一(国立成育医療センター手術集中治療部)、高山 ジョン一郎(国立成育医療センター総合診療部):小児救急集中治療における看取りの医療をめぐる問題、p280
2002年3月から2007年5月に、国立成育医療センター小児集中治療室(PICU)入室総数3,668例の2.7%にあたる99例がPICU内で死亡。84例では心肺停止が予測されていた。家族と医療チーム間での合意のもと50例(60%)で蘇生・生命維持療法の手控え(withholding)、30例(36%)では体外呼吸循環補助装置の中止を含めた治療の終了(withdrawal)が実施された。その時々の、わが国の終末期医療に対する市民の関心や社会的情勢等が、現場における具体的判断の修飾因子となっていた可能性も見出された。
当Web注:米国のChildren's
Hospital of Philadelphiaでは、1992年〜1996年に生命維持の中止により死亡した小児患者の比率が34.8%であり、直接死因のトップが治療中止・撤退(withdrawal)だった。国立成育医療センターPICUにおいても、直接死因における治療の手控え、治療中止の比重の高さが注目される。
「自分の目の黒いうちに脳死移植はみられないだろうと思っていた」
脳死臓器摘出・移植を行ってきた寺岡移植学会理事長が「感慨」
日本移植学会理事長で東京女子医大腎臓外科教授の寺岡 慧(てらおか さとし)氏は、日本医事新報No.4382、p33の“人(ひと)”欄に登場して以下(枠内)のように述べた。
正直に申し上げて、自分の目の黒いうちに脳死移植はみられないだろうと思っていました。実現に向けてレールを敷き、次世代にバトンタッチするのが役目だと自分を納得させてやってきましたので、第1例は非常に感慨が深かった。・・・臓器提供掘り起こしの前提として、できるだけ早い法改正を国会にお願いしているところです。
(病腎移植について)問題は病腎を移植することの是非だけでなく、病気の治療で受診した方が、治療上の必要がないのに腎臓を摘出されてしまったことにあります。中には亡くなった方もあり、ドナーとなった方の不利益があまりに大きい。許される範囲のデータを示し、社会に説明しなければならないと考えています。 |
寺岡氏らは1991年の今日の移植4巻6号および
1992年の日本外科学会雑誌93巻9号において、脳死判定にもとづく人工呼吸器の取り外しや生前カテーテル挿入、心停止直後の開腹など脳死前提の膵臓摘出例を発表し
た。
また石橋 道男(奈良県立医科大学)、里見 進(東北大学)、寺岡 慧(東京女子医科大学)ほか:「心停止下における膵ドナーの摘出条件」ガイドラインに関する膵・膵島移植研究会ワーキンググループ報告、今日の移植、14(3)、355−357、2001は、1993年5月までに行われた14症例の心停止下膵臓摘出症例を検討している。東京女子医科大学11例、国立循環器病センター1例、岡山大学1例、京都府立医科大学1例と、東京女子医科大学における実施が圧倒的に多かった。14症例のうち人工呼吸器の停止は4例であり、東京女子医科大学の症例に限定されるとみられる。
病腎移植事件を非難しているが、自らが多数行ってきた腎臓移植に医学的根拠(エビデンス)があるのか示すことができていない。
脳死とされた64歳女性 息を吹きかえす
人工呼吸器から離脱 長野赤十字病院
2008年4月11、12日に第110回中部日本整形外科災害外科学会が大津プリンスホテルで開催され、長野赤十字病院からは人工呼吸器管理となり脳死と診断されていた64歳女性患者が自発呼吸を再開したことが発表された。
:64歳女性は1977年に関節リウマチ発症、1998年に四肢の痺れが出現し歩行困難となる。脊椎管狭窄を高度に認めた。後頭骨頸椎後方固定術を施行、完全覚醒したため抜管し帰室した。帰室40分後、呼吸困難、チアノーゼが出現した。再挿管を試みるも困難で心肺停止となる。心臓蘇生を行い、5分後に心拍再開、15分後に耳鼻科医により気管切開を施行された。
ICU入室し人工呼吸器管理とした。昏睡状態で術後3、6日に脳波を測定するも反応に乏しく低酸素脳症と診断。その後、数回の脳波測定でも反応が見られず、脳死と診断された。術後約50日バイタルサイン安定しており、自発呼吸もなんとか認めたため、家族に説明し人工呼吸器より離脱した。術後60日に呼吸状態が悪化し永眠した。
出典=新城 龍一、出口 正男(長野赤十字病院整形外科):脊椎手術後に上気道閉塞による窒息をきたした2例、中部日本整形外科災害外科学会雑誌、51(4)、783−784、2008
当Web注:脳死と診断した年月日は、資料に記載されていない。「術後60日に呼吸状態が悪化し永眠」とは、呼吸状態が悪化してから再度、人工呼吸器を装着することは試みなかったものとみられる。脳死判定を覆したにもかかわらず、治療を断念したケースとしては大阪労災病院の3歳女児例と類似する。
法的「脳死」臓器移植レシピエントの死亡は累計38人
心・肝・膵腎同時移植患者が復活?腎移植患者は2度死ぬ?
日本臓器移植ネットワークは、脳死臓器移植でレシピエントの死亡が累計で40例になったことを3月21日
に表示したが、4月7日更新の脳死での臓器提供ページでは死亡患者が38例と表示した。3月21日に死亡例に追加していた心臓移植患者1名、肝臓移植患者2名、膵腎同時移植患者1名のうち、心臓移植患者1名、肝臓移植患者1名、膵腎同時移植患者1名が「蘇生」した。一方で、3月21日に腎臓移植患者は死亡患者数が従来よりも1名少なくなったが、今回は再び1名増やした。結局、1月7日時点の死亡累計37例からは、肝臓移植患者の死亡が1名増えたことになる。
臓器別の法的「脳死」移植レシピエントの死亡年月日、レシピエントの年齢(主に移植時)←提供者(年月)、臓器(移植施設名)は以下のとおり。
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2005年 3月 7日 50代男性←bP2ドナー(20010121) 心臓(国立循環器病センター)
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2005年 3月21日 40代男性←bR2ドナー(20041120) 心臓(大阪大)
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2002年 2月 3日 43歳男性←bP1ドナー(20010108) 右肺(東北大)
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2002年 3月20日 46歳女性←bP6ドナー(20010726) 右肺(大阪大)
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2002年 6月10日 38歳女性←a@5ドナー(20000329) 右肺(東北大)
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2002年12月 5日 20代女性←bQ2ドナー(20021110) 両肺(岡山大)
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2004年 6月 7日 50代男性←bR0ドナー(20040520) 両肺(東北大)
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2005年 3月10日 50代男性←bR6ドナー(20050310) 両肺(京都大)
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2006年 5月初旬 40代男性←bP9ドナー(20040102) 右肺(岡山大)
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2006年 5月27日 40代女性←bS6ドナー(20060526) 両肺(岡山大)
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死亡年月日不明 レシピエント不明←ドナー不明 肺(施設名不明)
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2006年10月24日 30代女性←bS3ドナー(20060321) 両肺(京都大)
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2007年 7月? 32歳男性←bS9ドナー(20061027) 左肺(福岡大)
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死亡年月日不明 レシピエント不明←ドナー不明 肺(施設名不明)
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死亡年月日不明 レシピエント不明←ドナー不明 肺(施設名不明)
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2000年11月20日 47歳女性←bP0ドナー(20001105) 肝臓(京都大)
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2001年 5月25日 10代女性←bP4ドナー(20010319) 肝臓(京都大)
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2001年12月11日 20代女性←bP8ドナー(20011103) 肝臓(北大)
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2002年 9月10日 20代男性←bQ1ドナー(20020830) 肝臓(京都大)
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2005年12月26日 50代女性←bS1ドナー(20051126) 肝臓(北海道大)
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死亡年月日不明 20代男性←bQ9ドナー(20040205) 肝臓(大阪大)
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死亡年月日不明 60代男性←bR6ドナー(20050310) 肝臓(京都大)
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死亡年月日不明 40代男性←bQ2ドナー(20021111) 肝臓(北大)
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死亡年月日不明 レシピエント不明←ドナー不明 肝臓(施設名不明)
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死亡年月日不明 レシピエント不明←ドナー不明 肝臓(施設名不明)
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死亡年月日不明 レシピエント不明←ドナー不明 肝臓(施設名不明)
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死亡年月日不明 レシピエント不明←ドナー不明 肝臓(施設名不明)
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死亡年月日不明 レシピエント不明←ドナー不明 肝臓(施設名不明)
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死亡年月日不明 レシピエント不明←ドナー不明 膵臓・腎臓(施設名不明)
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2004年 6月頃 50代女性←bP5ドナー(20010701) 腎臓(東京女子医科大学腎臓総合医療センター)
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死亡年月日不明 50代男性←a@5ドナー(20000329) 腎臓(千葉大)
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死亡年月日不明 30代男性←bP4ドナー(20010319) 腎臓(大阪医科大)
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死亡年月日不明 50代男性←bP6ドナー(20010726) 腎臓(奈良県立医科大)
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死亡年月日不明 50代男性←a@2ドナー(19990512) 腎臓(東京大学医科学研究所附属病院)
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死亡年月日不明 女性←bQ6ドナー(20031007) 腎臓(名古屋市立大)
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死亡年月日不明 50代男性←bR6ドナー(20050310) 腎臓(国立病院機構千葉東病院)
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死亡年月日不明 レシピエント不明←ドナー不明 腎臓(施設名不明)
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2001年9月11日 7歳女児←bP2ドナー(20010121) 小腸(京都大)
大阪大学大学院救急医学の杉本 壽教授
脳死患者の長期生存例は、法改正と結びつかない?
絶対にあってはならない脳死判定が行われた可能性
4月3日付のメディカルトリビューンは、p54に大阪大学大学院救急医学の杉本壽教授へのインタビュー記事を掲載し、「長期脳死患者の存在
は、臓器移植法の改正と結びつかない、法改正に影響を与えない」としている。以下の枠内は、その部分要旨。
長期脳死は臓器移植法の改正に影響を与えるか
(前略)昨年末,脳死と診断された小児が長期に生存した事例を取り上げ,性急な法改正に待ったをかける一般報道がされたことは記憶に新しい。ここでは,小児の脳死判定基準の作成にも携わった大阪大学大学院救急医学の杉本壽教授に,現段階の小児長期脳死の知見とともに,法改正を含めた今後の脳死移植について聞いた。
半年〜1年の脳死の維持は可能
(前略)紙面で紹介された症例が本当に脳死だったのかという真偽は別にして,脳死と診断された症例が長期に生存するということは.現実にありうることである。
(中略)杉本教授は「脳死状態に陥った方を,カテコールアミンのみで管理すれば,早い人では2〜3日で,多くの人は1週間足らずで心停止となるが.治療行為を継続すれば,長期間にわたって心臓を維持させることはできる」と言う。
そもそもわが国で脳死状態の長期間の維持に初めて取り組んだのは,同教授らであった。約20年前,カテコールアミンに加えて,抗利尿ホルモン(ADH)を少量投与し,長期の循環動態の維持を達成したが,「理解されないどころか,大きな反発を受けた」と当時を振り返る。
今でも倫理面を抜きに,長期生存を目指せと言われれば,「栄養・カロリーを与え,貧血のケアをし,肺炎などの合併症に対処するために,本来は視床下部−下垂体−副腎皮質系から分泌されるステロイドホルモンを補えば,半年から1年は確実に脳死状態で生かすことはできる」と指摘する。
脳死状態でも成長は認める
一般紙報道が世の中にインパクトを与えたのは,脳死した子供が成長したという記載と思われるが,これも十分にありえることだ。
内分泌関係の中枢の役割を果たし,各種免疫機能を調整している脳が停止すれば,脳からの種々のホルモンの発現はゼロになるはずだが,実際にはごく微量の発現が確認できるという。杉本教授は「以前は測定誤差と解釈されてきたが,現在は脳死状態でもホルモンが発現することがわかってきた。元来,すべての細胞は遺伝子的に分泌する機能を持っているが,特に分化過程にある小児の場合は幹細胞的なものが働きやすい状態にあるため.ホルモンの発現を代行するところができやすく.一定の身長・体重の増加が起きるのではないか」と話す。
このため新聞で紹介された脳死の小児の身長が伸びたことは十分に説明できるというが,表情が出るとか,嚥下反応が認められるなどということは.脳死症例においては全く考えられないことだという。
脳死後も長期間にわたり,心臓を拍動させた症例の脳を検索すると,自己融解する脳が観察でき,解剖時には脳が液体状に流れ出す症例も散見できる。つまり,全脳の回復が見込めないから「脳死」であって,神経学的な回復など決してありえないことである。「表現は悪いが,蛙が脳を取っても跳ぶのと同様に.分化過程の小児では,脊髄反射は残る。ただ.顔から上が反応するということは脳死では起こるはずがなく,もしそのような反応があるとすれば植物状態だったということ」と,報道された事例には脳死と言えない症例が含まれていることを示唆する。
臨床的脳死判定は慎重に
同大学病院では,脳死判定を施行した症例以外は「脳死」と診断しないという取り決めを設けているが,現状は,脳死が疑われる患者の家族に判定の希望を聞くと,99%が判定は希望しない,特別な治療を行わないで欲しいということだ。
(中略)脳死は一時点でなく,慎重に経緯を見ていくなかで診断していくものであり,定められた脳死判定を行わなくても,臨床的な脳死を推測することはでき,通常であれば,医師の行った臨床的な脳死診断が間違えることも考えられないという。
つまり,嚥下反応など脳死症例であれば起こるはずがない領域の反応を見たような事例は,投与薬剤の影響,低体温や低血圧,電解質異常などの除外項目を確認せずに瞳孔や反射の所見から脳死と判定したという絶対にあってはならない診断が行われた可能性が捨てきれないほか,医師から家族への伝達の過程で誤解が生じた事例と考えられる。
一般の人にとって,脳死とはきわめて受け入れにくい状態である。(中略)脳死の状態を理解させるために,最近ではCTアンギオを用いて、脳血流がないことを家族に確認させる方法も取っている。「脳波は医療機器など周囲の雑音を拾うし 無呼吸テストにしても心臓の拍動で働くこともあるので納得できない方もいる。CTアンギオで脳の血流がないことを示すと納得されやすいようだ」と話す。
長期脳死と法改正は結び付かず
倫理的な問題は別にして,子供を亡くした両親が,慢性脳死の状態でも維持させたいという気持は理解できるという。また.24時間365日の管理を行えば,機能発達の段階にあり,褥瘡予防のための体位変換も行いやすい小児脳死例は,経済的,精神的な余裕さえあれば,半年,1年でなく,10年単位の心拍動の維持も可能である。
また,こうした行為自体の是非について,杉本教授は個人的な判断はできないとしながらも,「長期に脳死が維持できるから,小児をドナーの対象にすべきでないという議論は成り立たない」という見解を示す。
その理由として,脳死が維持できるのは成人にも言えることであり,この議論で言えば,生体以外の心拍動下の移植は,小児例に限らず皮膚や腎臓を除けばできないということになり,脳死移植自体が成立しなくなる。本質的には,未来の医学の進歩に期待して,肉体を冷凍保存する概念と同じことなのではないか,と疑問を投げかける。
なお,同教授は,常々家人にドナーとなる意思を伝えているが,「ドナ一にならないとはけしからんという立場ではなく,個人の死生観,ものの考え方に応じて,選択すればよいこと」という意見を持つ,移植に対しては中立の立場にある。
このため,臨床的に脳死と判断した事例に対しては,必ずドナーカードの所持を確認しているが.これは移植をしたい意思だけでなく,しないという意思を確認することも大切と考えるからだ。
最後に,長年にわたり脳死を研究してきた立場から,「やはり人間の本質は“全脳”にあると思う。仮に脳を移植したら,その人でありえるかは疑問だ。その脳の回復が見込めない状態が脳死なのだから,医学的に脳死状態の維持が可能だから小児ドナーは対象にすべきでないという論理が成立するとはやはり思えない」とまとめた。 |
当Web注:上記の記事は「報道された事例には脳死と言えない症例が含まれていることを示唆する」としているが、脳死ではない患者も脳死と判定し、臓器摘出まで行ってしまっているのが実態だ。脳死判定基準も満たさないのに、臓器摘出に向けたドナー管理が開始されたケースもある(参照:脳死になる前から始められたドナー管理)。中枢神経抑制剤影響下の脳死判定も乱発されている。長期脳死例やホルモン分泌例のなかに、誤診された患者も含まれる。「脳死判定後の脳血流再開例、さらには神経学的な回復例もある」。これらの不幸な結果として臓器摘出時に脳死ではないことが判ったケースも多数報告されている。
杉本教授は「現段階の小児長期脳死の知見」あるいは「脳死患者のホルモン分泌についての仮説」等を持ち出したが、そのような生理学的な考察だけで「長期脳死と臓器移植法改正は結びつかず」と結論できるものではない。この記事には、現実の脳死判定における複雑な問題(絶対にあってはならない脳死判定が横行していること)を無視して、生理学的な思考に矮小化しようとする傾向がみられる。
また、過去20数年間にわたって「脳死判定基準を満たしたら数日以内に必ず心停止に至る」という情報を植え付けて、「脳死は人の死」について受容を図り、その脳死認識で臓器移植法の制定に至った。ところが脳死判定後に1週間以上の生存例が2〜7割と非常に多いことが現実だ。有権者の脳死認識とともに臓器移植法の基盤が崩壊している。臓器摘出時に血圧が急上昇し麻酔投与がなされていることも、知る人は少ない。こうした実態は、やはり臓器移植法の改訂時に考慮されるべきだ。
大阪大学病院では絶対的な結果を示せない低感度の脳血流測定を患者家族への説明に用いていること、そして杉本教授らが脳死前提の人体実験(心臓移植研究目的の心筋採取、カテーテル挿入など)を行ってきたことも見逃すことはできない。
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