0歳児 ] 1歳児 ] 2歳児 ] [ 3歳児 ] 4歳児 ] 5歳児 ] 6歳児 ] 7歳児 ] 8歳児 ] 9歳児 ] 10歳児−15歳児 ]

小児脳死判定後の脳死否定例(3歳児)

脳死否定例の定義は小児脳死判定後の脳死否定例(概要および自然治癒例)を参照


growth-3y

84

臨床的脳死例

北海道大学病院:経管栄養で持続的な体重増加を認めた

 池田陽子:体重が増え続けて栄養量の設定が困難であった遷延性脳死状態の小児の栄養管理、臨床栄養(別冊栄養力UP NST症例集2)、2−7、2009

 痙攣重責発作により当院に救急搬送された3歳女児、急性脳症と診断、脳浮腫が急速に進行し、入院2日目に臨床的脳死状態に至った。尿崩症に対してデスモプレシンスプレー、中枢性甲状腺機能低下症に対してはチラージンS散が投与された。体温調整が困難であるため、電気毛布による加温が必要であった。循環動態が安定したのち、自宅退院を目指して一般病棟へ転科となった。

 入院3日目より人工呼吸管理下で経鼻胃管からの栄養投与が行なわれた。入院当初は基礎代謝量程度の800〜900kcalが投与され、入院から3ヵ月後には1日640kcalまで減量した。にもかかわらず、体重増加は続き、適正栄養量の評価とビタミン、ミネラルを含めた栄養プランの策定を依頼された。
 栄養アセスメント介入時、身長・体重は標準範囲であった。1日540kcalから投与を開始したが、体重の増加を認めたため栄養量を漸減し8ヵ月後に340kcal(基礎代謝量の35%)で体重維持が可能となった。 総水分量は1日650ml。カルシウム・リンの摂取量が不十分で、ブイ・クレスの代わりに牛乳を週1回投与。また、両親の希望により、脳症発症前に好物だったジュース類もブイ・クレスとの交換で週1回投与した。
 身長は介入9ヶ月で8cm伸び(103cmから111cmへ)、同時に体重も4.1kg(15.5kgから20.6kgへ)増加した。

 本症例において、体重維持のための必要エネルギーは通常時と比較して著しく低下していた。この低下の原因としては、第一に脳死による脳のエネルギー消費の欠如が考えられた。第二に、全身の熱産生や代謝の低下が推察されたが、その要因として、脳機能廃絶のため体温調整が困難であること、自発呼吸不能のため人工呼吸器を使用していること、その他筋緊張の低下などが推察された。

 小児の基礎エネルギー消費量を求める推定式での栄養量の設定は、脳死状態の小児患者においてオーバーフィーディングとなった。成長過程の小児の発育を考慮し、過不足のない投与内容の調整が必要であるため必要栄養量の設定は間接熱量計での実測が望ましいと考えられる。それが使用できない環境では、定期的に栄養アセスメントを行い、体重変化に合わせて慎重に栄養投与量の調整を行う必要がある。

 今後も成長にともなう変化が予測されるため、その時々で評価を行ないながら必要栄養量を調整していくことが肝要と考えられる。

 

 

 

18d-eeg-3y

85

脳死判定例

大阪労災病院:被虐待児、脳死判定から18日目の脳波・聴性脳幹誘発電位で反応、治療中止、30日間生存

 吉川 聡介:脳死と思われた後18日日に脳波・聴性脳幹誘発電位(ABR)の反応を認めた被虐待の一女児例、大阪小児科学会誌、25(2)、8、2008
 吉川 聡介(大阪労災病院小児科):脳死と思われた後、脳波・ABR所見の変化を認めた被虐待の一女児例、日本小児救急医学会雑誌、8(2)、248、2009

 3歳女児は0X年8月入浴中の火傷のため皮膚科受診。10月頭部打撲で近医へ救急搬送。痛み刺激に反応なし(JCS300)、体温35.5℃、血圧80/45mmHg、呼吸25/分、脈拍115/分、両側瞳孔散大、対光反射消失、除脳硬直姿勢、右頭頂部に皮下血腫あり、体表に新旧入り混じった出血斑多数、口腔内に食物残渣と血腫を認めた。頭部CTで広範囲にわたる右硬膜下血腫、midlineshift。

 緊急開頭・血腫除去術施行。術後ICU入室、脳外減圧術、低体温療法を施行。入院2日目、3日目24時間間隔で行った脳死判定では小児脳死判定基準(暫定案)をみたした。その際の脳波(感度2μV/mm)は平坦で、ABRでは第1波から第7波のすべての波形が消失していたが、判定から18日目の脳波ではわずかながら活動を認め、ABRでは左第1波・第2波の反応が認められた。両親が収監中のため親族の同意の下延命治療は行わず、入院32日日永眠された。

 

 

 

respiration-3y

86

臨床的脳死例

横浜市立大学附属市民総合医療センター:手足の運動、呼吸回数の増加あり、2ヵ月間生存

 佐藤 尚美:脳死状態に陥った患児と家族に対するターミナルケアを通しての看護師の悩み、日本看護学会論文集(小児看護)、36号、333−335、2006
 

 急性壊死性脳症と診断された3歳男児は、翌日脳波上脳死と診断。家族の希望によりDNRの方針となり、人工呼吸管理と維持輸液療法のもと2ヵ月後に亡くなった。

 経過中、誕生日を迎え、看護師は家族とともにお祝いをし足型や手形をとった。手足の運動や呼吸回数が増えた時期に「本当に脳死状態なのだろうか。もう一度、脳波を調べてほしかった」と悩んだ看護師もいた。医師は「手足の運動は不随意運動で、自発呼吸ではなく横隔膜の反射の可能性あり」と説明。

 



 

87

脳死判定例

大分県立病院:積極的治療を望まない家族の申し出により、脳死判定から52日後に転院

李 守永:激烈な急性脳症で発症したオルニチントランスカルバミラーゼ欠損症の1例、大分県立病院医学雑誌、34、50−52、2005

 3歳男児は2004年9月12日食欲低下、,嘔吐が出現し、13日溶連菌感染症と診断。14日に昏睡状態となり、脳炎疑いで治療を開始したが、断続的に全身性けいれんがあり,呼吸停止となった。気管内挿管後、頭部CTで脳ヘルニアがみられたため当科転院となった。入院時、自発呼吸なく脳幹反射消失。
 9月26日の脳波検査では活動波はほとんど消失しており、両親に臨床的脳死を説明した。.積極的治療を望まないという申し出があった。
 9月27日の聴性脳幹反応でも1波から5波まで活動波を認めなかった。当院の脳死判定委員会により、ほぼ脳死の状態と判断された。10月7日に,倫理委員会で審査を受けたが延命治療の中止は認めら れなかった。輸液管理、人工呼吸器管理のみ続行とし、11月18日家族の申し出があり、前医に転院となった。
 

 

 

88

臨床的脳死例

島田市立島田市民病院:約1ヵ月間生存

三木 直樹:臨床的脳死の2乳児における経時的画像変化、脳と発達、35(Suppl)、S236、2003

 3歳1ヵ月男児、1q trisomy、てんかん合併症、臨床的ライ症候群による急性脳症。意識障害、痙攣で発症し、呼吸管理、ステロイド投与、低体温療法など行うが、第7病日より脳幹反射消失、尿崩症発症。第37病日に永眠。SPECT上の脳血流は、第3病日には保たれていたが、第9病日以降ほとんど認められなかった。頭部CTでは、第3病日には浮腫性の変化が著明となり皮髄境界は消失していたが、第29病日には皮髄境界が認められた。
 脳血流の消失により、脳組織の液状化機転が遅延したため、通常の全般性脳軟化過程をとらなかったものと推測された。

 

 

 

89

脳死判定例

新潟市民病院:自動運動、脊髄反射あり、死亡前日に開眼、172日間 生存

吉川 秀人:小児長期脳死症例における体動について、新潟市民病院医誌、24(1)、25−28、2003

 急性脳炎・脳症の3歳女児は、脳死に至るまで3日間。小児脳死判定暫定基準案(1999年)により脳死判定してから、自動運動、脊髄反射が認められた。心停止に至るまで172日間、心停止の前日に開眼運動が認められた。

 

 

 

90

脳死判定例

新潟市民病院:51日間生存

吉川 秀人:小児長期脳死症例における体動について、新潟市民病院医誌、24(1)、25−28、2003

 急性脳炎・脳症の3歳男児は、脳死に至るまで1日間。小児脳死判定暫定基準案(1999年)により脳死判定してから、心停止に至るまで51日間。

 

 

 

91

脳死判定例

聖マリア病院:18日間生存

松石 豊次郎:小児の脳死、小児科、42(5)、880−887,2001

 聖マリア病院において細菌性髄膜炎と脳腫瘍により脳死判定された3.1歳児は死亡まで18日。

 

 

 

92

臨床的脳死例

水戸済生会総合病院:51日間生存

 今村 勝:脳死状態で長期生存した急性脳症の2例、日本小児科学会雑誌、104(4)、482−483、1999

 インフルエンザ脳症の3歳男児。当科紹介入院時に脳死状態であった。その後51日間生存した。6歳以下の脳死判定基準の作成に関しても、このような長期生存例の存在も考慮すべきと思われた。

 

 

 

93

臨床的脳死例

札幌医科大学医学部救急集中治療部:約2週間生存

今泉 均:重篤な意識障害を有する小児症例に対する脳低温療法の現状と問題点、臨床体温、16(1)、69−76、1998

 ライ症候群の3歳男児は、搬入時の頭部CTで脳幹と小脳に著明な脳浮腫を、視床には脳出血を認めたため脳低温療法(32℃)を開始した。しかし、開始2日後の頭部CTでは皮髄境界が不鮮明となる著明な脳腫脹を認めた。この間、2回施行した脳波、ABRがともにフラットと脳死状態であったため3日間で脳低温療法を中止し、第16病日に永眠された。

 

 

 

94

臨床的脳死例

九州大学:脳死判定除外例で検討すべき脳中薬物濃度が血中濃度の14倍、7日間 生存

實渕 成美:頭蓋内出血から脳死を経過したと考えられる小児の体内薬物分布、 日本法医学雑誌、51(2)、181、1997

 3歳女児は自宅で意識不明となり、CTにより左側頭葉の硬膜下およびクモ膜下血腫と診断され、硬膜下血腫除去手術を受けた。手術から2日後、自発呼吸が停止し脳死状態となり、9日後に心停止を来たした。剖検では、脳は軟化および腫脹し、クモ膜下腔に血液が貯留していた。

 脳中薬物濃度の血中濃度に対する比はジアゼパム14.1、リドカイン0.2となり、脳血流の停止はジアゼパムの投与後、リドカインの投与前と考えられた。ジアゼパムの脳内分布を見ると、対血中濃度比が右大脳では10.1〜15.1であったが、左側頭葉では4.7であった。これはジアゼパム投与時に血腫周辺の脳血流が減少していたためと考えられた。

 

 

 

95

脳死判定例

慈恵医大:7日間生存

重田 聡男:脳死にともなう臓器障害、 日本法医学雑誌、51(supple)、98、1997

 急性一酸化炭素中毒の3歳女児は、中毒後5日目に脳死、11日目に死亡。

 

 

 

96

脳死判定例

札幌医科大学救急集中治療部:21日間生存

奈良 理:高次救命救急医療の場における小児脳死症例とFutilityをめぐって、日本救命医療研究会雑誌、10、181−186、1996

 マンション火災・一酸化炭素中毒による心肺機能停止の3歳女児は、救出40分後に当部搬入。搬入5分後に自己心拍が再開し大腿動脈も触知可能となった。自発呼吸の再開は認められなかったが、循環動態は比較的安定した。 蘇生早期から循環動態の安定は得られたが、それに比して神経学的回復は認められなかった。頭部X線CT写真では、受傷早期から脳腫脹がみられた。第11病日の2度目の脳死判定から、21日後の第32病日に心停止した。

 

 

 

97

脳死判定例

広島大学医学部附属病院:13日間生存

有田 有徳:6歳未満の小児の脳死判定、救急医学、16、1484−1488、1992

 交通外傷による頭部外傷の3歳男児は、クモ膜下出血をともなった脳挫傷の症例。厚生省竹内基準判定基準で脳死と判定し心停止までの期間は13日間。

 

 

 

98

臨床的脳死例

福島県立医科大学:15日間生存

郡司 博文:パワーウィンドウによる頸部圧迫後クモ膜下出血を認めた1剖検例、法医学の実際と研究、34、265−269、1991

 1990年7月14日、乗用車後部座席に乗車中、パワーウィンドウに首を挟まれ、ぐったりしているのを後続車の運転手により発見された3歳女児。7月16日には脳波は平坦であり、その後症状は改善せず7月30日に死亡した。

 剖検所見は小脳・延髄部は極めて軟らかく汚黄色褐色調で脳摘出時に一部が崩壊した。気道狭窄ないし閉塞によって窒息が長引き、脳に極度の鬱血を来たした結果、溢血点発生機序と同様にしてクモ膜下に出血が生じたものと考えられる。

 

 

 

99

臨床的脳死例

徳島大学・国立療養所香川小児病院:平坦脳波でも聴性脳幹反応あり、9日間生存

橋本俊顕:発育期脳障害による人工呼吸管理を要する児の中枢神経機能及び発生要因  平坦脳波を呈し人工呼吸管理を要した5例、厚生省精神・神経疾患研究62年度研究報告書 発育期脳障害の発生予防と成因に関する研究、57−61、1988

 交通事故による脳挫傷の3歳9ヶ月女児は第1病日に脳幹反射が消失、第2病日の脳波検査で平坦脳波、同日の聴性脳幹反応は左T波のみ出現、第8病日に全波形消失、第9病日に心停止となった。

当サイト注
 聴性脳幹反応ABR=脳幹聴覚誘発電位(聴性脳幹誘発反応、聴性脳幹誘発電位 brainstem auditory evoked potential :BAEP)は、音圧レベルが100デシベル前後で持続時間0.1〜0.2msec程度のクリック音で刺激する検査。U〜X波が記録されると脳幹部が機能している。T波も脳血流の残存を示すが、厚生労働省は「聴性脳幹誘発反応の消失の確認は努力義務であり必須検査項目ではない。T波の残存の解釈は脳死判定医の裁量の範囲内」という趣旨の見解を示している(唐澤 秀冶:脳死判定における聴性脳幹誘発反応検査、脳死判定ハンドブック、羊土社、210−212、2001)。

 

 

 

100

臨床的脳死例

徳島大学・国立療養所香川小児病院:脳幹反射消失より86日間生存

橋本俊顕:発育期脳障害による人工呼吸管理を要する児の中枢神経機能及び発生要因  平坦脳波を呈し人工呼吸管理を要した5例、厚生省精神・神経疾患研究62年度研究報告書 発育期脳障害の発生予防と成因に関する研究、57−61、1988

 未熟児として出生し、脳室内出血後水頭症をきたしV-Pシャント術を施行されていた3歳1ヶ月男児は、シャント機能不全による水頭症の憎悪により意識障害、自発呼吸停止となり、第1病日にすべての脳幹症状が出現した。脳波は第3病日に右前頭部に低振幅散発していたが、第13病日には平坦脳波、同日の聴性脳幹反応検査も全波形消失していた。

 尿崩症が第10病日に発症、尿崩症の治療はDDAVPの点鼻と輸液により脳死状態の患者においても可能であった。第86病日に心停止となった。

 


このページの上へ

0歳児 ] 1歳児 ] 2歳児 ] [ 3歳児 ] 4歳児 ] 5歳児 ] 6歳児 ] 7歳児 ] 8歳児 ] 9歳児 ] 10歳児−15歳児 ]  


ホーム ] 総目次 ] 脳死判定廃止論 ] 臓器摘出時に脳死ではないことが判ったケース ] 臓器摘出時の麻酔管理例 ] 人工呼吸の停止後に脳死ではないことが判ったケース ] 小児脳死判定後の脳死否定例 ] 脊髄反射?それとも脳死ではない? ] 脊髄反射でも問題は解決しない ] 視床下部機能例を脳死とする危険 ] 間脳を検査しない脳死判定、ヒトの死は理論的に誤り ] 脳死判定5日後に鼻腔脳波 ] 頭皮上脳波は判定に役立たない ] 「脳死」例の剖検所見 ] 脳死判定をしてはいけない患者 ] 炭酸ガス刺激だけの無呼吸テスト ] 脳死作成法としての無呼吸テスト ] 補助検査のウソ、ホント ] 自殺企図ドナー ] 生命維持装置停止時の断末魔、死ななかった患者たち ] 脳死になる前から始められたドナー管理 ] 脳死前提の人体実験 ] 脳波がある脳幹死、重症脳幹障害患者 ] 脳波がある無脳児ドナー ] 遷延性脳死・社会的脳死 ] 死者の出産!死人が生まれる? ] 医師・医療スタッフの脳死・移植に対する態度 ] 有権者の脳死認識、臓器移植法の基盤が崩壊した ] 「脳死概念の崩壊」に替わる、「社会の規律として強要される与死(よし)」の登場 ] 「脳死」小児からの臓器摘出例 ] 「心停止後」と偽った「脳死」臓器摘出(成人例) ] 「心停止後臓器提供」の終焉 ] 臓器移植を推進する医学的根拠は少ない ] 組織摘出も法的規制が必要 ] レシピエント指定移植 ] 非血縁生体間移植 倫理無き「倫理指針」改定 ] 医療経済と脳死・臓器移植 ] 遷延性意識障害からの回復例(2010年代) ] 意識不明とされていた時期に意識があったケース ] 安楽死or尊厳死or医療放棄死 ] 終末期医療費 ] 救急医療における終末期医療のあり方に関するガイドライン(案)への意見 ] 死体・臨死患者の各種利用 ] News ] 「季刊 福祉労働」 127号参考文献 ] 「世界」・2004年12月号参考文献 ]