脳波、前庭機能検査だけで一般的脳死と判定?
カテーテル挿入、腎臓・眼球摘出 磐城共立病院
磐城共立病院医報26巻1号はp42〜p48に、九里 孝雄氏(いわき市立総合磐城共立病院外科)、廣川 陽子(福島県移植コーディネーター)ほかによる「心停止での移植腎提供2例の経験」を掲載した。これは、福島県いわき市立総合磐城共立病院が、創設以来初めての腎臓摘出を2004年に行った経過の報告。
症例1は50代男性、自転車で横断中に乗用車と衝突した。左右肋骨骨折、左鎖骨、両側肺挫傷、CT所見で外傷性くも膜下出血であった。第2病日に心停止となり人工呼吸装着。病状説明後、第3病日、家族から臓器提供の申し出があった。意志表示カードは保持していなかった。同日連絡来院した移植コーディネーターから説明を受け、第4病日に脳波、前庭機能検査を実施。第6病日循環状態が悪化、直ちに大腿動静脈からカニュレーションを施行した。第10病日心停止後、両側腎摘出となった。摘出日の尿流出量はピトレッシン使用下で約70ml。
症例2は60代男性、市場への配達の途中突然倒れ、くも膜下出血による心肺停止状態であった。直ちに人工呼吸器管理となったが第7病日、家族から臓器提供の申し出があった。意志表示カードの保持はなかった。同日連絡来院した移植コーディネーターから家族が説明を受け、脳波、前庭機能検査を施行した。第10病日目に急激に循環状態が悪化、カニュレーションを施行した。同日心停止、両側腎、眼球の摘出となった。
当Web注:「心停止後の臓器提供」と称するが、生前に臓器摘出目的のカニュレーション(臓器冷却目的の管の挿入)を施行した。また臓器に血栓が生じないように、抗血液凝固剤ヘパリンを血液循環下に投与したとみられるが、抗血液凝固剤を外傷患者や脳出血患者に投与すると、内出血を生じて致命的な状態に至らせる可能性が高い。
心臓マッサージにより、くも膜下出血を再出血させる場合がある。移植コーディネーターは、カニュレーション、抗血液凝固剤ヘパリンの投与
、心臓マッサージが重大な打撃を与える危険性を、ドナー候補者家族に正確に説明して、承諾を得たのか?
カニュレーションや抗血液凝固剤の投与は、臓器獲得・レシピエント目的の処置のため、生体に行うと傷害罪に問われる可能性がある。現行法では、法的脳死判定手続き下のみ許容されているが、厚生労働省は「心停止後の臓器提供は、一般的脳死判定後に行ってよい」としている。九里氏らは緒言で「提供への過程・・・を詳細に報告したい」と書いたが、脳死判定については「脳波、前庭機能検査を実施」としか書いていない。
厚労省検証会議 前提条件さえ守らない日本医大病院を擁護
判定基準なし崩し、法的手続が「一般的脳死判定」に変質
厚生労働省臓器提供事例検証会議は30日、法的脳死判定30例目が「必須とされる脳の画像診断を実施していない」「無呼吸テスト時の動脈血ガス分析は2〜3分間隔で行なうべきところを、4〜9分間隔でしか実施していなかった」と発表した。
共同通信記事によると、検証会議座長の藤原研司横浜労災病院長は記者会見で「マニュアルを守っていないのは不適切だが、臨床症状などから脳に障害があったことは間違いなく、脳死との判定は妥当だった」と述べたという。
当Web注
- 脳不全が不可逆的状態であることを確認するために、画像診断は脳死判定の前提条件とされている。
- 昨年5月に日本医大第2病院(川崎市)で行われた法的脳死30例目からの臓器摘出では、執刀前から麻酔をかけておきながら術中に血圧が上昇したためにガス麻酔を追加した。さらに不整脈に「脳死」患者では反応がないはずのアトロピンが効いた事例でもある。
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「心停止後」と称する臓器摘出においても、各施設が独自の「一般的脳死判定」を行なった後に、臓器摘出目的の人工呼吸器停止、抗血栓剤ヘパリン投与、臓器冷却用カテーテル挿入を行なっている。
厚労省 2006年度に臓器提供意思登録システムを整備
すべての重症脳不全患者がドナー候補として検索される恐れ
9月29日、第21回厚生科学審議会疾病対策部会臓器移植委員会が開催され、2006年度予算概算要求において54,591,000円をかけて「臓器提供意思登録システム」を日本臓器移植ネットワークに設置する計画が説明された。
日本臓器移植ネットワークのホームページ上に登録コーナーを設ける。臓器提供について検討する人は、携帯電話またはパソコンからアクセスして臓器提供の意思を登録する。登録内容を記載したカードが、ネットワークの方から本人に郵送され、本人が内容を確認し署名所持する方式で運用する。
今後は、法律、医療、情報システム関係等の有識者による作業班を設置。登録システムの基本的な仕組み、事業化に際して留意すべき事項、個人情報の取り扱い等を検討するという。
臓器提供意思登録システム整備の目的を、臓器移植対策室は「臓器の提供に関する意思表示の機会を拡大し、カードの所持者の増加を図るとともに、より確実に臓器提供に関する意思を確認することができるようする」と説明した。1年早く同様の事業を検討している福岡県の担当者が、重症脳不全患者の情報が即、集まることが臓器獲得増大につながることに期待していることは触れなかった。
このほか法的脳死臓器移植制度のスタート時には困難度が高いとして検討していなかった複数臓器の同時移植について議論が行なわれ、まず肝腎同時移植のレシピエント選択基準などのルール作りに取り組むことが決定された。生体肝移植ドナーのアンケート調査についても報告された。
当Web注:当日の提出資料はhttp://www.wam.go.jp/wamappl/bb11GS20.nsf/vAdmPBigcategory10/7DC62CBB6C7864544925708F001A0B55?OpenDocumentからダウンロード可能。イギリスの臓器提供意思登録システムで「21% *イエスの登録」とある部分について、臓器移植対策室は「これはイエスの登録ではなく、登録に協力することで、役に立ちたいと言っている人数。登録に協力することで役に立ちたいと回答している人」と訂正したが、ファイル上は訂正されていない。
福岡市の国民健康保険証(25万世帯分)
2008年から臓器提供意思表示欄を新設
毎日新聞の福岡都市圏版は、福岡市が2008年から国民健康保険の被保険者証(約25万世帯)に臓器提供意思表示欄を設ける予定であることを報道した。政令市では初めての試み、既に滋賀県では11市町村で被保険者証を活用して臓器移植の意識啓発をしているという。
当Web注:脳不全患者が入院時から臓器提供意思を把握されていたために、脳死でさえない段階から臓器摘出目的の投薬などが開始されたとみられる新潟市民病院例がある。福岡県事業においても、インターネット等を活用した提供希望者の新登録制度、各病院にその登録状況を照会する担当者設置などが計画されている。
今日の移植「臓器提供病院からみた移植システムの課題」
有賀氏 法改悪を主張、低感度の電気生理学的検査に期待
“今日の移植”18巻5号は冒頭のp451〜457に、有賀 徹氏(昭和大学医学部救急医学)による「臓器提供病院からみた移植システムの課題」を掲載した。
これは有賀氏がメディカル朝日9月号に発表した主張をより詳しく書いたもの。メディカル朝日に書かれていなかった主な内容は以下。
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救急医療施設においては脳死判定から移植用臓器の摘出に至るまでに、無駄な資源の投入を行なっている。救急施設が臓器提供施設になる負荷に耐えるために「人的支援、またそれを可能とする原資たる費用が欲しい」。
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呼吸中枢のある延髄の機能を電気生理学的に把握する手段を開発すれば「無呼吸テストをせずとも“無呼吸テストの結果を知ること”が可能となる。短潜時体性感覚誘発電位(short-latency
somatosensory evoked potentials)のN18波形の消失を確認する方法であるが、このことに関する具体的な研究成果が示されている。今後の発展が望まれる」。
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第1回目の脳死判定が終了して、その後に判定の結果が覆ったことはいままで一度もなかったので、その時点で移植医療に向かって舵をきりレシピエントへの意思確認などを開始すれば9時間前後“節約”できる。
当Web注:「脳死判定が覆ったことはない」どころではなく、「脳死」確定5日後でも鼻腔脳波が測定されている。
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小児からの臓器摘出、虐待の問題は「脳死も3徴候死と同じものであるという社会的合意がなされれば、その後の展開は正に病理解剖などと同じように対応できる。・・・・・・現在の法律は妥協の産物と揶揄されて久しい。このような難解な法解釈が入り込む余地の無い“筋の通った”体系こそ望ましいと考える。
短潜時体性感覚誘発電位(SSEP:short-latency somatosensory evoked
potentials)は手関節部正中神経を電気刺激する検査、前腕から大脳皮質感覚野に至る深部感覚路を電気生理学的に評価する検査法。
有賀氏は電気生理学的手段の開発により無呼吸テストが不要になることを期待している。その研究成果として横田 裕行氏(日本医科大学多摩永山病院)の文献を紹介したが、より詳しい資料によると、この検査法が直接、呼吸中枢機能の状態を示すものではないことがわかる。
- 自発呼吸の有無とN18波形の有無が一致していない=横田 裕行(日本医科大学多摩永山病院):臓器提供施設内における臓器提供システムに関する研究、厚生科学研究費補助金 ヒトゲノム・再生医療等研究 平成14年度総括・分担研究報告書、150−173、2003
自発呼吸陽性(自発呼吸アリ)でN18陰性は3/52(検出率=感受性94.2%)。自発呼吸陽性でSEP陰性は1/52(感受性98.1%)。
自発呼吸陰性(自発呼吸消失)でN18陽性は7/16(感受性43.8%)。自発呼吸陰性でSEP陽性は5/16(感受性31.3%)。
- 自発呼吸消失と異なる時刻にN18波形が消失した実例=畑中 裕己(帝京大学
神経内科):脳死移行8症例における正中神経SEP
N18成分と臨床徴候との関係、脳死・脳蘇生研究会誌、12、58−59、1999
外傷性脳挫傷患者、脳死移行の2時間前に角膜反射が消失。徐脳硬直、咽頭反射、咳反射が消失して、約20分後に自発呼吸が消失、血圧の急激な低下を認めて、脳死に移行したと判断された。N18とP13/14成分は、以後も10数分間は振幅を徐々に下げながらも保たれていたが、約30分後にはN18は完全に消失していた。
畑中氏は約30分後のN18消失を「ほぼ同時に消失した」と理解し、「脳死判定に有用であることが期待される」と主張している。
電極の設置場所が異なるなど直接的な比較はできないが、短潜時体性感覚誘発電位が脳死を示唆しても全脳の機能廃絶とは認められない症例の報告もある。
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浦崎 永一朗(産業医科大学脳神経外科学教室):脳死の短潜時体性感覚誘発電位 聴性脳幹反応と組み合わせて、臨床脳波、39(11)、733−739、1997
橋出血から昏睡状態になった48歳男性がSSEPでは scalp P14 消失しBAEPでも無反応であるが、臨床的には脳死ではなかった。・・・・・・BAEPとSSEPのいずれも脳死パターンであるが臨床的には脳死でない場合もあり、短潜時体性感覚誘発電位と聴性脳幹反応と組み合わせても誘発電位のみで脳死判定はできないことも銘記すべきである。
浦崎氏は日本脳神経外科学会(47回総会抄録集、523、1988)において、ABR,SSEPともにいわゆる脳死パターンを示した植物症の症例があったことも報告している。
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荒木 有三(犬山中央病院):脳死状態下に長期間下肢の異常運動を認めた幼児の1例、小児の脳神経、19(4)、317−322、1994
重症頭部外傷の1歳10ヵ月男児は、第7病日にRowland
らの小児脳死判定基準に従い脳死状態と判定。その後の脳波検査は、すべて平坦。1回の聴性脳幹反応と体性誘発電位でも反応はみられなかった。しかし第40病日のダイナミックCTでは、硬膜を介した外頚動脈より潅流する血流とみられる残余循環が示唆された。剖検が得られなかったがCT所見から融解、壊死には至っていない可能性が示唆された。第140病日に死亡した。
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月刊誌「思想」“メタ・バイオエシックス”特集
島薗氏 自己決定に根拠おくバイオエシックスは歴史的役割を終了
香川氏 バイオエシックスは問題ずらす、米国も脳死問題は未解決
小松氏 脳死を人の死とする全脳死説・有機体統合性概念は破綻
田中氏 命のリレー・自己決定の果ては人間の尊厳を守らぬ社会
月刊誌「思想」(岩波書店)9月号は“メタ・バイオエシックス”を特集した。
巻頭の“「人間の廃止」に抗して”において島薗 進氏(東京大学・宗教学)は、「科学とテクノロジーを一人歩きさせることで、人は道具化された『自然』の中に取り込まれていき、自ら道具の一部と化していって『人間の廃止』に至る。自己決定や自律の理念に根拠を置くバイオエシックスがもはやその歴史的役割を終えた。道具的理性の限界を見きわめようとするメタ・バイオエシックスは、現代科学の歴史的・科学社会学的反省を必要としているとともに、現代的な生活文化史研究、宗教文化史研究をも不可欠の局面として含む。市民の経験から立ち上がって来る問いかけに、じっくり耳を傾ける知の営みともなるはずである」という。
全文はhttp://www.iwanami.co.jp/shiso/0977/kotoba.html
香川 知晶氏(山梨大学・哲学、倫理学)は“「新しい死の基準」の誕生 臓器移植と脳死,その結合と分離”において、米国で脳死が死の基準として成立してゆく過程を検討した。
1968年:ハーバード大学「不可逆的昏睡の定義」の草稿では、死を再定義する目的の1番目に「臓器獲得」があったのを、「治療停止の許される死の基準の見直し」と入れ替えることで、死の再定義と臓器移植の結びつきを弱めた。
1972年:社会・倫理・生命科学研究所(ヘイスティングズセンター)の論文が、ハーバード基準を臓器移植とは別個に成り立つ、純粋に新しい死の基準としての受容されるべきことを強調した。
ニュージャージー州で遷延性意識障害患者の生命維持継続を争ったカレン・アン・クインラン事件で、人の死の判定基準が論じられ大統領委員会設置につながった。
などから「脳死の概念は臓器移植の問題と密接に結びつきながら、その結びつきを切り離そうとする力が働くことによって死の基準としての地位を獲得してゆく。バイオエシックスは医学の欲求を法に伝える役割を担おうとした。その役割は問題をずらすものでしかなかった可能性が高い。クインラン事件で論じられたのは人の死の判定基準であって、定義ではない。米国では問題そのものは、いまだ残されていると考えるべきである」とまとめた。
小松 美彦氏(東京海洋大学・科学史、科学論、生命倫理学)は“「有機的統合性」概念の戦略的導入とその破綻 脳死問題の歴史的・メタ科学的検討”において、脳死を死の基準とした論理はもはや成立たないと指摘。「ハーバード基準策定後の議論の混乱状態を1981年の“米国大統領委員会報告―死を定義する”が『有機的統合性』概念を導入することで成功した。そのコピーが日本の脳死臨調報告だが、シューモンらにより「有機的統合性―全脳」説は崩壊した。ポスト・シューモン時代の脳死臓器摘出推進論理が、松村外志張の『特定条件における与死許容の原則』である」としている。
M.ポッツ氏(メソジスト大学・宗教哲学、医療倫理学)は、“全脳死への鎮魂歌 アラン・シューモン「脳と身体の有機的統合性」への応答”において、脳全体が永続的に機能を喪失すれば、有機体の統合性が終わるとの全脳死基準説に重大な欠点があること、シューモンによって全脳死基準を正当化する主張が適切でないことを示す重大な例外が指摘されていることを論じた。
田中 智彦(東京医科歯科大学・政治思想、医療思想)は、“「命のリレー」の果てに 日本へのバイオエシックス導入「前史」から”において「自己の生命・身体への『欲望』は、『自己決定』としてだけでなく『ニーズ』としても正当化され、その実現を『責務』として要求するようになる。ここからはからずも、脳死・臓器移植においてしばしば語られる「深刻な臓器不足」という言説の意味があらわとなる。他人の臓器への『ニード』を訴えるとはどういうことなのか。それは他人の生命・身体に権原があると訴えることにほかならないのではないか。それはこう語っているのと同じことではないのか――アナタニハソノ生命・身体ヲワタシタチニ提供スル責務ガアル。近代の政治的主体の誕生をしるしづけた自己の生命・身体への権利要求は、いまや他人の生命・身体を前にして、かつてみずからをしてそれに対抗させたはずの国家の生殺与奪権とほとんど変わらない、非人間的な権利要求へと反転する。・・・・・・ナチの政治家たちもあえて口にしなかったことが公に口にできるようになっている(アガンベン)の一例であり・・・」と述べている。
高血圧を移植 自殺?ドナーから 奈良県立医科大学
9月3日、ピアザ淡海県民交流センター(滋賀県大津市)で第51回日本麻酔学会関西支部学術集会が開催され、奈良県立医科大学麻酔科の宇治 満喜子氏らは、同一ドナーからの腎臓移植を受けたレシピエントが2名とも高血圧になったと報告した。
ドナーは縊頸の42歳男性。レシピエント1は20年間透析を受けてきた57歳男性、移植腎再灌流前の血圧は100/60mmHg程度だったが、再灌流後200/100mmHgとなった。レシピエント2は8年間の透析・11年間の腹膜透析を行ってきた57歳女性。再灌流前の血圧は100/50mmHg程度だったが、再灌流直後155/80mmHgとなった。2症例とも降圧薬を用いたが抵抗性だった。
宇治氏は「移植腎再灌流時に持続性の高血圧が再現性をもって発症したため、この高血圧の原因はドナー腎にあるのではないか」と考えている。
出典:宇治 満喜子(奈良県立医科大学麻酔科)ほか:同一ドナーよりの死体腎移植において再灌流時に持続性の高血圧を発症した2症例、麻酔、55巻5号、p656(2006年)
「治療は尽くしましたか?」渡航移植の受け入れ先が指摘
国立循環器病センターに 指摘どおり心機能が即、改善
第6回重症心不全フォーラムが9月3日、新潟大学医学部有壬記念館で開催。国立循環器病センターで4歳女児が心臓移植の適応と判断され渡航移植を打診したが、受け入れ先から心臓再同期療法の有効性の確認を求められた。実施したところ、開始直後から症状が著明に改善したことが報告された。
新潟県立新発田病院小児科の塚野 真也氏によると、この女児は先天性完全房室ブロック。新生児期からペースメーカーを使用。ACE阻害剤、ベータ遮断剤の効果はなかった。しかし心臓再同期療法により、BNPは700前後から1年後64pg/mlまで改善した。
国立循環器病センター小児科では、1998年から2004年までに心臓移植の適応と判断された症例は17例、このうち2例は心機能が改善した。ほかは国内移植1例、国内待機中1例、渡航移植の準備中死亡1例、海外渡航12例(うち2例は待機中死亡、移植10例のうち生存8例、移植後死亡2例)。
出典:塚野 真也(新潟県立新発田病院小児科)、越後 茂之(国立循環器病センター小児科)ほか:重症心不全の多角的治療 小児重症心不全の治療、呼吸と循環、54(4)、S11―S12、2006
有賀氏 脳死判定に低感度の脳血流停止確認を推奨
松田氏 ドナー発生数に考慮なく移植医療確立を切望
メディカル朝日9月号
メディカル朝日9月号はp70〜p71に昭和大学医学部救急医学講座・救命救急センターの有賀 徹氏による「救急医療の現場から見た課題」、p72〜p73にロサンゼルス小児病院の松田 和子氏と南カリフォルニア大学移植免疫研究所の岩城 裕一氏による「臓器不足に悩むアメリカの移植事情」を掲載した。
有賀氏は第18回日本脳死・脳蘇生学会での議論として7項目を紹介した。
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脳死判定が“できない”場合がある。つまり脳死の判定方法は厚生省令などによって定められているので、医学的な診断は可能でも、法令に則した脳死判定ができない場合がある。
- 脳死判定(死亡)から臓器摘出までにかかる医療費、また脳死判定がなければ請求されなかった医療費が、ドナーに請求される。
- 脳死判定から臓器摘出の開始までに平均約13時間を要している。この長い時間はドナー家族を含む関係者にとって、大きな負担である。
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脳死判定時に、関連大学や日本臓器移植ネットワークを介した支援を受ける場合があるが、まだごく限られた範囲のみで、成熟したルールとなっていない。
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移植用臓器の摘出に加えて、皮膚や心臓弁などの組織摘出もある場合、日本臓器移植ネットワークのスタッフがすべてを掌握できていないことがあり、医療者にもドナー家族にも負の影響を与える。
- マスメディアからの外圧は、地域によってはいまだに大きい。
- “脳死は人の死か”という本質的な問題が解決されていない。現実には臓器移植を前提にした場合にのみ、脳死を人の死としている。
有賀氏は「脳血管撮影で脳血流の停止を確認するなどの医学的診断を尊重するルールの確立が期待される」「1回目の脳死判定終了をもってレシピエントに移植の意思確認を始める」「臓器と組織摘出の社会的ルール一本化」を主張した。
また松田氏らはアメリカの臓器不足の実情と対策を紹介し、「わが国でも地に足のついた移植医療が確立されることを切望している」と結んだ。
松田氏らが紹介した「ドナーを増やすための努力」は以下。
- 人類愛への理解、国民的運動の展開
- 脳死患者の報告義務・クリントン大統領令(1998年)
- 連邦政府移植推進審議会の設定(2004〜2008年)
- 臓器移植コーディネーター養成大学院の設置(オハイオ医科大学)
- ドナーカードにサインしたら1万ドルの税金控除(議論中)
- ドナー家族への見舞金支給(議論中)
- 生体ドナーへの交通費支給(議論中)
- 生体ドナーへの生命保険の付与(議論中)
- 生体ドナーが移植適応となった場合の優先権(議論中)
以下は当Web注
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脳血流停止所見があっても脳波・自発呼吸の出現例や長期生存例が多数ある。脳血流が無いかのような画像・検査結果(=脳血流停止所見)を家族に示すと、治療打ち切りに誘導しやすいが、それは頭皮上脳波と同じく、精度・感度の低い検査結果であることを隠して家族および社会に虚偽の説明を行い、重大な決断を促すという倫理上の問題にも発展する。
- 新潟市民病院はあきらかに脳死ではないのに「脳死に近い状態」と説明、杏林大学病院は臨床的脳死前後から救命に反するドナー管理を開始している。他の臓器摘出例でも違法なドナー管理の横行を現場の看護師が内部告発しており、レシピエントへの移植意思確認時期を早めることは臓器移植法の一層のザル法化につながる。
- 膵島移植では、人工呼吸器を停止し膵臓全体を摘出している。心臓弁採取では温阻血時間15分と心停止後きわめて短時間で心臓全体を摘出された例があるにもかかわらず、「組織移植」と
称して法的規制が行われていない。
- 日本国内で小児心肺ドナーは6年間に1人の発生と見込まれている。また腎臓移植ではドナーの270倍の移植希望患者がいても組織適合性が低下するため、
移植希望患者を増やしドナー不足にしておく必要性が公言されて
いる。移植医でさえ、すべての移植希望患者への移植は予定しておらず、移植を受けられない患者が多数あることを前提としている。さらに腎臓移植が透析よりもすぐれた医療であるとの医学的根拠は存在しない。
真に臓器不全患者を治療しようとする医師は、臓器移植以外の治療法を優先して考慮するであろう。
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