日本小児科学会 一般会員98名のアンケート回答無視
代議員373名だけで「小児科医は脳死移植容認」と提言
日本小児科学会は4月26日に、小児脳死臓器移植に関する提言を決定、同会ホームページには6月24日に掲載した。
これは日本小児科学会小児脳死臓器移植検討委員会がまとめた。下記の課題を挙げている。
- 親権の問題について合意が得られていない。
- 脳幹機能の評価について臨床経験豊かで神経生理検査に精通した医師が不足。
- 現場で生じる心理的葛藤への対策、小児の救急医療体制、コーディネーターの役割の不明瞭さなど受け入れシステムの問題。
- 小児の脳死は家族という視点でとらえられるべき。
- 町野案では小児脳死に最も深く関わる小児科医の意見が取り入れられていない。
- 小児脳死臓器移植に関するアンケート調査では、大多数の小児科医は小児臓器移植の必要性を認め(72.6%)脳死を死と容認する(82.3%)が、小児臓器移植法改案には小児科医の意見を採り入れること(96%)、小児科学会として議論の継続が必要とする(74.2%)。
当Webページ注:http://plaza.umin.ac.jp/~jpeds/saisin.html#24によると、アンケートは小児科学会代議員を対象に郵送アンケート、一般会員にはインターネットアンケートを行なったが、一般会員からの回答は「98名のみと会員の0.5%にすぎず解析の対象とはなりえない」と無視。代議員の回答のみ分析した。アンケート送付数592通、回答は373名(回答率63%)、平均年齢55.8歳。うち男性が363名。
- 死生観を含めた倫理観を培うことは社会生活の上でも重要。
- 多くの病院では小児に限らず死に際して見取りの体制が不十分である。小児の「いのち」「人権」が尊重されない臓器提供はなされてはならない。
提言は、日本小児科学会として小児脳死臓器移植を治療法の一つとして容認。その前提としてドナー・レシピエントとなる小児の人権を損なうことのないように「死を考える授業」などを実践し、例えばチャイルド・ドナーカードによる自己意志表明、小児専門移植コーディネーターの育成、そして被虐待児脳死例の臓器移植を回避する方策の確立など環境整備の諸問題を今後継続して検討していくことを提言した。
小児脳死判定基準については、前方視的症例が139例中11例に過ぎないことと、成人と比較して小児では遷延性脳死(長期脳死,chronic
brain death)といわれる症例が多い傾向があることの2点が指摘され、「重症脳障害患児を扱う機会の多い施設の協力の下に前方視的脳死症例の蓄積が望ましい。また、医学の進歩に即した脳循環、神経生理学的補助的機能検査を採用していくことによって補完的に診断精度を向上させることが望ましい」とした。
日本弁護士連合会が複数の法的脳死判定で人権侵害の事実を認め勧告したことから、小児脳死判定マニュアルの作成と脳死判定の過程を患児と関係者のプライバシーを配慮した上で、情報の最大限の事後公開をすることが望ましい、としている。
当Webページ注
- 低年齢児童は死を理解することも困難であり、「死を考える授業」や「チャイルドドナーカード」は臓器提供意思表示の強要になる恐れがある。
- 小児を死体腎ドナーとした移植数は1983年以降だけでも推定300例以上(ドナー数は約半分の1
00数十例以上)、行なわれてきた。このうち80年代前半で約4割が「脳死」摘出、最近は大部分が「脳死」摘出とみられる。既にこれだけ大規模に小児からの非合法・非倫理的な臓器摘出を行いながら、「これから小児からの脳死臓器提供を進めたい」と提案するのは、
社会の構成員を愚弄する提案である。
43歳女性 透析で22年5ヵ月生存、移植後276日で死亡
60歳男性 透析で23年8ヵ月生存、移植後2年8ヵ月で死亡
藤田保健衛生大学泌尿器科 術前の患者評価が不十分
第19回腎移植・血管外科研究会が2003年6月13〜14日の2日間、鶯宿温泉(岩手県)において開催され、藤田保健衛生大学泌尿器科の深見氏らは、透析歴20年以上の献腎移植レシピエント7例のうち2例が死亡していることを報告した。
43歳女性は、既往歴にC型肝炎、高血圧他を認めている。透析導入後22年5ヵ月を経過した1996年10月19日、クモ膜下出血により死亡した51歳男性から腎提供を受けた。術後135日頃から肝機能以上が認められ、術後236日目に突然黄疸が出現。原因は慢性肝炎、肝硬変の増悪と考えられたため肝庇護剤、FFPにて保存的治療を行ったが、肝不全は進行し肝性昏睡も認められ肺炎、腹膜炎、敗血症などを併発して術後276日に死亡した。
60歳男性は、既往歴にC型肝炎、高血圧を認めている。透析導入後23年8ヵ月を経過した1998年12月27日、クモ膜下出血により死亡した56歳男性から腎提供を受けた。術後96日目より2回の心不全とCMV肺炎を合併。また患者はしばしば転倒し、外傷と創感染を繰り返し、その結果MRSA敗血症を2回認めた。2001年5月18日、CRP4.5mg/dlと上昇を認め腹部CTにて精査したところ、右鼡径部に膿瘍を認めた。ドレナージ術を行い、膿培養からMRSAが検出された。しかし、ドレナージ術後も膿瘍は改善せず右腸腰筋周囲と対側骨盤内にも出現し、急速な全身状態の悪化を認め同年7月28日に死亡した。
この2症例以外は存命中、拒絶反応を2回認めた58歳男性のs-Crは3.1mg/dlだが、他はすべて2.0mg/dl以下。深見氏らは「この当時はHCV感染に対する検査法が十分確立されていなかった。長期透析患者の腎移植では、重大な合併症がなく周術期の管理が十分であれば良好な腎機能を得られる。術前の患者評価が不十分であれば、術後にいったん合併症を発症すると致命傷となる可能性が示唆された」としている。
出典 深見 直彦、日下 守、
森川 高光、石瀬 仁司、内藤 和彦、桑原 勝孝、佐々木 ひと美、樋口 徹、石川 清仁、白木 良一、星長 清隆(藤田保健衛生大学泌尿器科):透析歴20年以上の献腎移植7症例の検討、腎移植・血管外科、15(1)、4−9、2003
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