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2013年10月25日A 十分な前臨床試験の検証なしに、なぜiPS細胞の臨床試験を許可したのか?
国際的な指弾 薬事法に基づく開発を 臨床研究情報センターの木村氏ら
2013年10月25日 デービッド・マタス氏が中国の臓器移植ドナー構成を推計 500件は生きている親族
1千件は死刑囚、8500件は少数民族、宗教信者などからオンデマンド殺人臓器調達
2013年10月17日 法的「脳死」臓器移植患者の死亡は累計110名
肝臓移植患者が1名死亡
2013年10月15日 荒木・横田:一般の脳死判定は、大脳機能の不可逆的消失の科学的根拠になる
岐阜県下:一般の脳死判定、小児の75%が1か月以上生存、集中治療が進歩
2013年10月10日 臓器移植の増加は、著名人の脳死ドナーが出ること
韓国の経験から 神戸朝日病院の金医師が提案
   

20131025A

十分な前臨床試験の検証なしに、なぜiPS細胞の臨床試験を許可したのか?
国際的な指弾 薬事法に基づく開発を 臨床研究情報センターの木村氏ら

 2013年10月25日付で発行された「臨床評価」41巻2号p407〜p406に「iPS細胞を臨床応用するために求められるべきデータ FDA/EMA規制文書に基づく我が国のiPS関連通知の考察」が掲載された。全文はhttp://homepage3.nifty.com/cont/41_2/p395-406.pdfで公開されている。著者は、公益財団法人 先端医療振興財団 臨床研究情報センターの木村 泰子氏、西村 秀雄氏、福島 雅典氏、そして独立行政法人放射線医学総合研究所分子イメージング研究センターの栗原 千絵子氏。

 木村氏らは、薬事法に基づき正規の体性幹細胞等を用いる再生医療治験が4件(2013年8月現在)実施されている以外に、“我が国ではiPS 細胞(induced pluripotent stem cells)による再生医療実用化への熱望から,メディアの熱狂的な後押しを得て,臨床応用へ向けて薬事法外の「臨床研究」を強引に進めようとする動きが顕著である.しかしながら,iPS 細胞は,in vivo における腫瘍化や未分化な細胞が全く意図しない表現型を提示する可能性を含めて,安全性を担保するうえで未解明の問題もあり,規制当局による十分な前臨床試験の検討,検証を経ずに,臨床応用に向けて我が国の研究機関,政府が一体となって突き進んでいることに,内外の多くの研究者が懸念を示しているのも事実である”と指摘。

 “規制を緩和すればイノベーションを促進できるというものではない.米国や欧州が,むしろ規制を強化しているのは,科学の最高水準を追求しているからである.それに対して,我が国において,昨今のiPS 細胞の再生医療への期待の高まりから,十分なリスクの検討が行われないまま臨床応用が進められようとしていることは,明らかに世界の先端科学の潮流と相いれない”
 “本稿はFDA/EMA 草案と,我が国での細胞製剤等に関する規制内容を比較・整理して論じ,「ヒト(自己)iPS(様)細胞」を含む一連の通知の廃止と,欧米規制文書を参考として細胞製剤等の前臨床評価に関する通知を改めて発出することを求めるものである”としている。

 幹細胞製剤の潜在的リスクについて、FDA草案は

  1. 投与部位の反応

  2. 標的および/または非標的組織での考えられる免疫反応

  3. 細胞に対するホストの免疫反応

  4. 投与部位からの転移

  5. 意図しない/不適切な種類の細胞に分化する可能性(異所性組織形成)

  6. ホストの体内での細胞の無秩序/無制御な増殖

  7. 潜在的な造腫瘍性等
    さらに,形質導入細胞またはベクターを用いる場合には,臨床試験を開始する前に対処するべき課題として,

  8. 非標的細胞/組織に対する迷入

  9. 不適切な免疫活性または抑制

  10. 標的細胞の表現型/活性化状態

  11. 生殖細胞系伝達の可能性等
    を挙げている.

 これに対して、本邦2012 年の「ヒト(自己)iPS(様)細胞」および「ヒト(同種)iPS(様)細胞」の通知は、細胞製剤等の持つリスクをベネフィット等に対して相対化し、更にそのことを患者に説明して患者の自己決定権に委ねる記載になっている。木村氏らは“すなわち,リスクを極小化するために要求すべき厳格な科学的検討を止めて,リスク責任を医師ないし患者に転嫁しようとしているのである.患者の心身への医学的介入に起因する有害事象の予測と評価は,すべて医師の責任である.インフォームド・コンセントは免罪符ではない.「免責の文言」に対する患者の同意をもって効果と安全性が未確立の実験的介入を行うことの違法性を阻却できるものではないということは医事法学の一致した見解である”と指摘した。

 文末は“2013 年2月28日号(Vol. 494)のNature http://www.nature.com/news/stem-cells-cruise-to-clinic-1.12511は,Taka hashi’s iPS が臨床試験に入ることに対して,“I cannot imagine any regulatory agency permitting such a trial without years of extensive preclinical testing,”(どんな規制当局でも複数年にわたる前臨床試験の結果を求めずして,そのような(Taka hashi’s iPS の)臨床試験を許可するとは思えない)とのAdvanced Cell Technology 社の最高科学責任者の発言を引用し,日本の臨床試験規制の不備を取り上げている.このようなNature の指摘を受けるところは,我が国科学界の恥辱以外のなにものでもない.iPS 細胞臨床研究のgo signを出した日本のヒト幹細胞臨床研究に関する審査委員会の責任は重大である.そもそも,このような「臨床研究」は,薬事法外であり,法的根拠の乏しい「ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する倫理指針」に基づくものであって,科学と倫理の国際水準からみて問題である.
 既に国際的に厳しい指弾を受けるに至った今,我々に求められるのは,iPS 細胞に限らず全ての幹細胞製剤は,薬事法に基づいて開発しなければならないという,当然の理を受け入れることなのである”としている。

 


20131025

デービッド・マタス氏が中国の臓器移植ドナー構成を推計 500件は生きている親族
1千件は死刑囚、8500件は少数民族、宗教信者などからオンデマンド殺人臓器調達

 2013年10月25日付で自由社から「中国の移植犯罪 国家による臓器狩り」が発行された。2012年にカナダで発行された“STATE ORGANS Transplant Abuse in China”の翻訳という。

 トルステン・トレイ(英・医学博士)執筆の第1章「岐路に立つ移植医学 医学を愚弄する非倫理的な臓器摘出」は、(中国で法輪功が禁止された)1999年以降、臓器移植の件数が急増し、同時に中国の様々な病院のホームページに、外国人患者に1〜4週間の待ち時間で適合する臓器を提供するという宣伝が載り、中国の大学が移植手術のデモンストレーション日時・時刻を数週間または数ヵ月前に通知していたことを指摘して、“「オンデマンド式」臓器調達システム”と表現する。p35〜p35で「公式発表された『処刑された囚人』の説明以外に、かならず他の臓器ドナーのグループがあり、しかもいつでも臓器を摘出できるように、拘束された状態で待機する『臓器提供源』の存在が推察される」としている。

当Web注:日本国内においても、1991年に大阪大学付属病院・泌尿器科病棟の看護師から、「死体」腎移植が予定手術として行なわれたケースが複数あったことが報告されている。

 

 イーサン・ガットマン(Foundation for Defense of Democracies特別研究員)執筆の第4章「臓器を摘出された人数は 2000年〜2008年の法輪功学習者殺害に関する調査ベースの推定値」は、失脚した元政治局常任委員候補・簿  熙来の部下、王 立軍がかつて錦州公安局長を務めており、数千の現場(移植)事例の監督であったこと。王立軍が「医療技術革新を讃えるためのある授賞式で、王は現場での処刑の行為を観察し、これに続く移植を 監視することに『戦慄』感を覚えると公言していること」。簿 熙来、王 立軍の二人とも法輪功への弾圧で政治的功績を築いていること、「それは指導層に昇るために中国共産党が要求する通過儀式である、合格するための資格だ」とし、簿  熙来事件を中国共産党の派閥間闘争と結び付ける解釈を提示する。

 イーサン・ガットマンは、2000〜2008年に拘束・監禁された法輪功学習者数、拘束中に検査を受けた割合から臓器狩りに選ばれた法輪功学習者数の低推定値9000人、高推定値12万人、最も妥当な推定値として中位数の65000人としている。

当Web注:王立軍が(移植)事例の監督であったことについて、同書の参考文献はRewarded for Torture: The Rise of Bo Xilai in China http://www.theepochtimes.com/n2/china-news/rewarded-for-torture-the-rise-of-bo-xilai-in-china-204452-all.html には“Wang Lijun, who, before Bo brought him to Chongqing, was police chief of Jinzhou City in Liaoning, bragged when accepting an award for advances in organ transplantation that he had overseen thousands of organ transplantation operations. His contribution to organ transplantation most likely involved developing a drug regimen that would paralyze without killing the victim, producing organs of higher quality for transplantation.”

 上記文章のリンク先のWould-be China Defector, Once Bo Xilai’s Right Hand, Oversaw Organ Harvesting Former Chongqing vice mayor involved in ‘thousands’ of transplantation operations http://www.theepochtimes.com/n2/china-news/would-be-china-defector-once-bo-xilai-s-right-hand-oversaw-organ-harvesting-191338.html には“In his acceptance speech, Wang said, “For a veteran policeman, to see someone being executed and to see this person’s organs being transplanted to several other persons’ bodies, it was profoundly stirring.”とある。

 

 デービッド・マタス(弁護士)執筆の第6章「数字」は、中国政府が2010年3月に「死亡したドナーからの臓器の90%以上は処刑者からのもの」と発表したことに対して、中国の死刑執行数は最高推計値1万件、法改正後は7000件。血液型および組織タイプの一致、感染症患者の多さなどから、「年間1万件の臓器移植があるとして、処刑された死刑囚のみを臓器提供源とする場合、処刑される死刑囚は年間10万人に上る桁数が必要である」とする。
 中国で年間行なわれる臓器移植のうち、1千件は死刑囚の臓器、500件は生きている親族ドナーの臓器、500件はチベット人、ウイグル人、「全能神」の信者の臓器、残り8千件は法輪功学習者の臓器が用いられたと推定している。

 


20131017

法的「脳死」臓器移植患者の死亡は累計110名
肝臓移植患者が1名死亡

 日本臓器移植ネットワークは、2013年10月17日に更新した移植に関するデータページhttp://www.jotnw.or.jp/datafile/offer_brain.htmlにおいて、法的 「脳死」臓器提供にもとづき肝臓移植を受けた患者の死亡が1名増加し、法的「脳死」臓器移植患者の死亡は、心臓11名、肺37名、肝臓36名、膵腎同時8名、腎臓14名、小腸4名の累計 110名に達したことを表示した。

 これまでの臓器別の法的「脳死」移植レシピエントの死亡情報は、臓器移植死ページに掲載。

 


20131015

荒木・横田:一般の脳死判定は、大脳機能の不可逆的消失の科学的根拠になる
岐阜県下:一般の脳死判定、小児の75%が1か月以上生存、集中治療が進歩

 2013年10月15日付で日本小児救急医学会雑誌12巻3号が発行され、p372〜p374に、日本医科大学救急医学教室の荒木 尚氏、横田 裕行氏による特別寄稿「一般的脳死判定の解釈について」が掲載された。「一般の脳死判定がコンセンサスを得た脳死判定基準に準拠して正しく実施され、経験が蓄積されることにより、大脳機能の不可逆的消失という病態の科学的根拠となる」としている。
 p392〜p395には、岐阜市民病院小児科の篠田 邦大氏による原著「岐阜県における、臓器移植にかかわらない一般の脳死判定により脳死と考えられた小児例の調査」が掲載された。1999年〜2004年の全国調査では脳死(疑いも含む)と診断後1か月以上生存した症例は24%であったのに対し、篠田氏の調査では8例中6例(75%)が1か月以上生存しており、著者抄録では「近年の集中治療の進歩を反映している可能性が示唆された」「今後小児を脳死ドナーとする臓器移植を推進していくにあたっては、全国規模でより詳細な症例の把握が必要と思われた」としている。以下は各文の主要部分。

 

*荒木 尚、横田 裕行(日本医科大学救急医学教室):一般的脳死判定の解釈について

 (前略)1997年制定の旧臓器移植法では、施行規則第2条に法的脳死判定(法第6条第4項に規定する判断に係わる同条第2項の判定)、指針第5に「臓器移植にかかわらない一般の脳死判定」、さらに指針第4条第1項に「主治医等が、臨床的に脳死と判断した場合」、すなわち『法律施行規則第2条第2項各号のうち第5号の「自発呼吸の消失」を除く、第1号から第4号までの項目(深昏睡、瞳孔が固定し瞳孔径が左右とも4ミリメートル以上であること、脳幹反射の消失、および平坦脳波)のいずれもが確認された場合』について説明がなされている。特に「主治医等が、臨床的に脳死と判断した場合」という文言は、その後 「臨床的脳死診断」と表現されるようになり、「法的脳死判定(施行規則第2条)」、「臨床的脳死診断(指針第4第1項)」、「一般の脳死判定(旧法指針第5・改正法指針第7)」と、あたかも3種類の脳死判定・診断が存在するかの印象を与えた。

 (中略)改正臓器移植法では、「臨床的脳死」の言葉の使用が控えられ、「法に規定する脳死判定を行ったとしたならば、脳死とされうる状態」と表現されることになり、臨床的脳死という言葉は使用されないこととなったのである。
 しかし旧臓器移植法成立に伴い、日本脳神経外科学会は既に以下の様に提言しており、従来脳死診断は独立した基本的医療行為であり、臓器提供の有無により影響を受けるべき性質のものではないことを明らかにしている。

 (中略)この法律は臓器移植を行う場合に限って、脳死の定義とその判定について定めたものであり、臓器移植と直接関係の無い脳死については全く言及していない。しかしながら、この法律による脳死の定義が拡大解釈され、従来脳神経外科において行われてきた診断・医療行為に制約を加える結果となる可能性がある。「脳死したものの身体」とは、同法の第六条第2項において『その身体から移植術に使用されるために臓器が摘出されることとなる者であって脳幹を含む全脳の機能が不可逆的に停止するに至ったと判定されたものの身体』であると定義されている。もしこの定義が一般の脳死を定義するものであれば、移植術を前提にしない限り、脳死とは判定できないということになる。脳死の判定は、本来医療チームが患者の家族への適切な説明を行い、家族の充分な理解のもとに行われるべき重要な病態把握、予後判定のための基本的医療行為である。また、適切な手順で脳死と判定された場合に、その後どのような診療を行うべきかは患者本人のリビングウィルと家族の意志を尊重して医療チームが対応するべき事項である。脳神経外科学会は、脳死判定という重要な診断行為が今後とも新たな制約を受けないことが重要であると考えている。脳死の判定については、いわゆる竹内基準が必要な条件を基本的に満たしていると考えている。

 即ち、「従来の方法で差し支えない」一般的脳死判定には、無呼吸テストを要しないという解釈は少なくとも、脳神経外科学の範疇において「一般的」ではない。しかしながら、依然判定を実施せずに治療者の印象を以て「ほぼ脳死」、「脳死状態」、「限りなく脳死に近い」などと家族説明されることや、診断に至らない時点で「脳死」あるいは「死」が家族に提示され臓器提供の意思確認が行われることは、およそ日常的な感すらある。このように「脳死」という語彙が濫用された結果、医学的のみならず法的な判断や、ひいては患者家族の理解にも混乱を与え、臨床現場の医師患者関係に影響した事例も稀ではない。
 また、「脳死」に付随する未解明の病態(Chronic brain death等)についても、“対象症例のうち正確に脳死診断された割合はどの程度か”等の批判が常にあるように、判定基準を満たさない「不正確な」脳死症例を対象とする研究は依然として、医学的根拠としての信瀬性に疑問を孕み続けることになる。

 米国では2008年大統領生命倫理諮問委員会(president's Council of Bioethics)がControversies in the determination of death を公表した。この中で、Harvard基準以来、集中治療の発展に伴い観察された「脳死の概念の矛盾」を指摘した文献を集約しその問題点を整理している。特にChronic brain death:meta-analysis and conceptual consequencesの執筆者Alan Shewmonの業績は検証され、論理的な批判と評価されることとなり、最終的に白書は、脳死(Brain Death)という語彙は不適切であり、完全脳不全(complete brain failure)と変更するよう提言したのである。この白書の内容において注目すべきところは、完成度が一律に高い文献、即ちinclusion criteriaが明確な文献を対象としてreview を行い、脳死についてエビデンスレベルの高い検討が行われていることである。大統領諮問委員会はその結果、自らの国が形成してきた概念の妥当性について素直に反省し再定義を行ったのである。この姿勢に学ぶところは大きい。

 初めに挙げた背景から、我が国では「脳死診断は臓器提供のためにおこなうもの」という認識が依然強い。また世界的にも小児分野では基準に準拠した判定実施の割合が低いことが報告されており、成人例に比較して科学的解析が困難な研究対象であると言える。一方、北米PICUを始めとした施設からの報告も多く認められ、小児の脳死の疫学、病態などについては、より詳細な情報が蓄積されつつある。今後、成人小児を問わず、多くの集中治療・終末期医療の課題において、脳死(完全脳不全)即ち全脳機能の不可逆的消失の診断は、各々医学的判断の「根拠」として注目されることが予想されている。

 我が国では、旧臓器移植法と同法の運用に関するガイドラインにより、「患者本人が事前に脳死下臓器提供に同意しており、かつドナーカードを準備していて、家族の反対がない場合においてのみ法的脳死判定が実施され、脳死と診断された患者のうち、臓器ドナー候補となる場合において」脳死が死とされ、それ以外は従来の三徴候死を以て死とされている。
 (脳死の二重基準) この二重基準について、会田は「症例ごとに患者家族に対応し、家族の受容までの期間を支えて「軟着陸」を実現するという点では意義がある」とし、「個人によって脳死の認識と脳死診断後の治療要求レベルが多様である日本の現状を考えると、法が脳死を一律にしていないことこそ、個別の家族への対応に必要な裁量を医師に与えている」と評価している。このように、肯定的に捉えられた日本の死の特殊性が、国際的に理解されていくには、我が国の脳死診断が正確であることを前提とするであろう。

 将来「臓器の移植に関する法律」の枠組みを超え、臓器提供の有無に関わらない一般の脳死判定がコンセンサスを得た脳死判定基準に準拠して正しく実施され、経験が蓄積されることにより、
@患者家族に対し正確な病状説明が可能となる
A終末期対応を検討する前提となる
B「大脳機能の不可逆的消失」という病態の科学的根拠となる
C医療の透明性の確保につながる
等の点から、複雑な歴史的経緯を有する我が国の脳死の議論に対時することが可能となると思われる。現に、厚生労働省は過去厳正に実施された102例の法的脳死判定結果をまとめ、そのデータを公表している。多くの試練に対時し蓄積されてきた先人の経験を生かし新しい論理的展開を求め、更にはInternational consensus の策定においても、日本が科学的に参加するための土壌を育んでいく姿勢が求められているのではないだろうか。(後略)

 2014年2月25日付発行の日本小児救急医学会雑誌13巻1号で、「著者から下記訂正の連絡があり」との但し書き付きで
“「大脳機能の不可逆的消失」という病態の科学的根拠となる”は、
“「全脳機能の不可逆的消失」という病態の科学的根拠となる”に訂正された。

 

当Web注

  1. 一般的脳死判定が“「大脳機能の不可逆的消失」という病態の科学的根拠となる”とすることは、従来から「脳死判定基準を満たしたら、全脳の機能が不可逆的に廃絶した状態を示し、数日以内に心停止=個体死に至る」としてきたことから、「脳死判定基準を満たすことは、大脳機能の不可逆的消失を示す」に、病態把握と予後判定を軽症に変更し、大脳皮質死の採用になる。終末期対応も、大脳機能の観察されない患者一般と同一視することと接近する。
     

  2. 医師の私的脳死判定により臓器を摘出したcase1969年に東大の稲生が報告し、死亡診断書に脳死判定時刻を記載し臓器まで摘出したケースは1984年の京都府立医大のアンケートに登場し、日本臓器移植ネットワークの発足後は毎年数十例が一般的脳死判定後に人工呼吸器を停止したり、臓器摘出目的でカテーテルが挿入された。心臓拍動時の抗血液凝固剤ヘパリンの投与も(外傷患者や脳内出血患者に原則禁忌の薬剤であることを説明せずに)、一般的脳死判定で行なってきた。旧臓器移植法の制定以前から、麻酔を投与しての生体解剖・臓器摘出も行なってきた。
     脳死臓器摘出が法的に許容されない環境下において、脳不全患者の生命・人権を守るべき医療チームが、移植医の臓器獲得意図に迎合して、不透明な運用、実質的な脳死臓器摘出への協力を、一般的脳死判定により行なってきた。 

 

 

*篠田 邦大(岐阜市民病院小児科):岐阜県における、臓器移植にかかわらない一般の脳死判定により脳死と考えられた小児例の調査

 (前略)小児の脳死症例について、本邦では2004年に全国アンケート調査がされた以降は大規模な調査は行われておらず、最近の小児の脳死症例の実態は明らかになっていない。今回、我々は過去3年間(2008年7月〜2011年6月)の岐阜県における、臓器移植にかかわらない一般の脳死判定により脳死と考えられた小児例について調査を行ったので報告する。

対象・方法

 調査対象施設は岐阜県内の小児科常勤医2名以上の全15施設とした。調査票を該当施設の小児科医に郵送し、一次調査は2011年9月、二次調査は2011年11月までに回収した。調査対象には救急診療部や脳神経外科など他科で管理された症例も含め回答を依頼した。調査対象期間は2008年7月から2011年6月の3年間であり、2010年7月に小児をドナーとする脳死移植が認められた以前と以後の症例がともに対象となった。調査対象症例は、臓器移植法に準じた厳密な脳死判定施行の有無は不問とし、主治医ないしは施設として臓器移植にはかかわらない一般の脳死判定により脳死と考えられた小児例(以下、『脳死と考えられた小児例』)とした。調査対象年齢は『脳死と考えられた小児例』と主治医が判断した時点で修正歴12週から15歳までとした。
 調査票の質問内容は一次調査では調査期間内の対象症例の有無、二次調査では対象症例の年齢(1歳未満は月齢)、性別、基礎疾患、脳死と考えられた直接の原因、虐待の可能性について「確定している」「可能性あり」「否定はできない」「否定できる」からの選択(児童相談所への通告の有無や、虐待対応委員会開催の有無などは不問)、頭部CT施行の有無、脳波施行の有無、脳幹反射7項目施行の有無、無呼吸テスト施行の有無、その他に施行した検査、在宅管理の有無、急性期病院以外の施設への人所の有無、家族への臓器提供の意思確認の有無、『脳死と考えられた小児例』と判断されてからの生存期間・最終転帰、小児を脳死ドナーとすることに対する意見(自由記載)とした。

結果

 一次調査では調査を依頼した全15施設から回答を得た。4施設で計8例の症例があり、この8例を二次調査の対象とした。全例について二次調査の回答が得られ、調査票回収率は一次調査、二次調査とも100%であった。
 年齢はO歳5か月が1例、1歳が2例、2歳、3歳、4歳、11歳、13歳が各1例であった。性別は男児4例、女児4例であった。原因疾患は病院到着時心肺停止後の蘇生後脳症が3例(うち2例は原因不明の心肺停止、1例は縊頸)、脳炎・脳症が2例(うち1例はネフローゼ症候群にてシクロスポリン投与中のインフルエンザウイルスとロタウイルスの混合感染)、細菌性髄膜炎が2例、脳幹出血が1例(再生不良性貧血にて治療中に合併)であった。虐待の可能性については、5例が「否定できる」とされ、病院到着時心肺停止の3例が「否定はできない」とされた。
 検査は頭部CTが全8例に施行されていたが、脳波は5例しか施行されておらず、法に基づく脳死判定に準じて無呼吸テストや脳幹反射全7項目を施行された症例は認めなかった。その他の検査では頭部MRIが2例、ABRが2例に施行されていた。
 『脳死と考えられた小児例』と判断されてからの生存期間は3日が2例、1か月が2例、3か月、5か月が各1例、21か月間生存中、2年間以上生存中が各1例であった。生存中の2例は1例が在宅管理、1例が長期療養型施設での管理に移行していた。法改正後の症例は5例あったが、家族へ臓器提供の意思を確認された症例は認めなかった。
 二次調査(2011年11月回収)の自由記載欄に記入された小児を脳死ドナーとすることに対する意見には、『通常は人の死を心臓死で判断し臓器提供の時のみ脳死で判断するところに矛盾を感じる』、『脳死となってから亡くなる(心臓死)までの時間は子どもの死を家族が受け人れるために大切な時間と感じる例も多い』、『脳死状態が長期になると家族にとって負担は重く、また急性期医療機関としても問題が多い』などがみられた。

考察

 (前略)本調査では対象を『臓器移植法に準じた厳密な脳死判定施行の有無は不問とし、主治医ないしは施設として一般の脳死判定により脳死と考えられた小児例』としており、これらは呼吸停止、瞳孔散大、対光反射消失、脳波平坦などにより、主治医が臓器移植と無関係に脳死と判断した症例である。すなわち、本調査の対象症例の一部に延髄機能が残存していた可能性があることを考慮し、『法的脳死』や『法に規定する脳死判定を行ったとしたならば、脳死とされうる状態』とは区別して結果の解釈をする必要があることを予め明記しておく。
 過去2回の全国調査(調査期間1987年〜1999年、1999年〜2004年)の対象は、疑い症例も含めた脳死と考えられた小児例であり、本調査での対象症例と同様と考えられるため、本調査をこれら過去の全国調査と比較、検討し以後の考察を行った。
 1999年〜2004年の全国調査(調査対象施設は日本小児科学会研修指定病院または救命救急センター、一次調査回収率45.7%)では小児の脳死症例(疑い症例も含む)は全国で年間40〜50例とされている。脳死を疑う症例は救急を受け入れている病院であれば上記調査対象外の小規模病院でも発生しえ、また上記調査の回収率が低かったことを考慮すると、実際はもっと多くの小児の脳死症例(疑い症例も含む)が全国で発生していると思われる。そこで本調査をもとに2010年の全国と岐阜県の小児人口(総務省統計局発表)より換算したところ、全国で年間約157人の『脳死と考えられた小児例』が発生していると推定された。本調査では、過去の全国調査で19%にみられた頭部外傷が1例もなく、回答者が小児科医であったことで頭部外傷の症例が漏れている可能性も考慮すると、実際はさらに多くの症例が発生している可能性もある。

 本調査の対象症例で脳波が施行されていたのは8例中5例(63%)であり、脳波が施行されていない症例が少なからずみられた。過去の全国調査でも脳波が施行されていたのは139例中108例(78%)、74例中59例(8O%)であり、小児科領域では脳死を強く疑った場合でも、必ずしも全例に脳波が施行されているわけではない。当院でも初期治療の段階で脳死ないしはそれに近い状態と判断しても、保護者の心情を慮りあえて脳波を施行せず数日〜1週間は積極的治療を行い、その過程を経た後に脳波を施行し積極的治療を中止する場合が多い。このような過程の途中で亡くなった場合や保護者が脳波を拒否する場合等に脳波が未施行になると考えられる。このように小児例においては保護者の精神的苦痛に対し繊細な配慮が必要であり、過去の報告をみても保護者に対する対応の困難さや複雑さが指摘されている。臓器移植を前提としない場合、現時点では法的にも厳密な脳死判定の施行を規定しておらず、脳死を疑った症例の診療においては画一的ではなく個々の症例毎に最善と思われる対応をとるべきと思われた。

 2000年発表の全国調査では、『脳死と考えられた小児例』とされてから1か月以上生存した症例(以下、『1か月以上生存例』が、1998年5月以前は96例中17例(18%)、それ以降は20例中8例(40%)であり、患者管理の進歩により『1か月以上生存例』が増加している可能性が指摘されている。本調査と過去の全国調査を比較しても『1か月以上生存例』の頻度は、2000年発表の調査では116例中25例(21%)、2004年発表の調査では74例中18例(24%)、であったのに対し本調査では8例中6例(75%)と高率であった。これらの症例は厳密な意味での長期脳死とは異なり一部延髄機能が残存していた可能性(本調査対象例では無呼吸テストや脳幹反射全7項目を施行された症例は認めなかった)もあるが、同じ集団を対象とした過去の全国調査と本調査の差から、近年の集中治療の進歩に伴い『1か月以上生存例』が増加している可能性が推測された。

 法改正をうけ今後の臨床現場では、脳死を疑われた小児の家族への説明の場で、患児が『法に規定する脳死判定を行ったとしたならば脳死とされうる状態』の可能性があることが説明されることになる。その際に同様の症例が脳死ドナーとならなかった場合はどのような自然経過をたどるのか等についても正確な情報提供を行う必要がある。これらの情報を得るためには、主治医が脳死を疑った、または脳死と考えた症例を幅広く調査しそれら症例のうち何%に『法に規定する脳死判定を行ったとしたならば脳死とされうる状態』が確認、説明がなされ、実際に何%に法的脳死判定が行われたか、またそれら以外の『臓器移植にかかわらない一般の脳死判定により脳死と考えられた症例』がどのような検査を施行され、どのような経過をたどったかなど、法改正後の現状を全国規模で詳細に調査する必要があると思われた。(後略)

当Web注:篠田氏は、調査対象について「主治医が臓器移植と無関係に脳死と判断した症例・・・対象症例の一部に延髄機能が残存していた可能性がある」とし、法的脳死判定は確実との前提をしている。しかし、法的脳死判定は、「中枢神経抑制剤投与例を判定対象から除外していない」、「脳波は感度の低い頭皮上脳波の測定」、「脳幹反射は患者を傷害するほどの検査を行なうならば反応がありうる」ことが指摘されている。
 法的脳死判定と同等と見込まれる脳死判定例でも、自発呼吸・脳波・痛み刺激への反応例があり、法的脳死判定臓器摘出例ではアトロピンへの反応例がある。

 


20131010

臓器移植の増加は、著名人の脳死ドナーが出ること
韓国の経験から 神戸朝日病院の金医師が提案

 第17回、日本肝臓学会大会が2013年10月9日、10日の2日間、東京都品川区のグランドプリンスホテル新高輪、同高輪、品川プリンスホテルなどを会場に開催され 、金 守良氏(神戸朝日病院・消化器外科)は「脳死肝移植の現状打開を目指して 韓国の現状をreferenceとして」を発表した。以下の枠内は「肝臓」54巻Supplement(2)のA591に掲載された 抄録の主要部分。

【はじめに】
 2010年の法改正後、日本においては脳死肝移植が飛躍的に増加すると考えられたが、この3年間、年50例の脳死ドナーにとどまっている。生体肝移植もここ数年、年500例前後で、横ばいもしくは減少傾向にある。脳死ドナー数の伸び悩みの最大の要因としては、法改正はあったものの脳死が人の死であるという議論=「脳死論議」と社会的合意の不足が考えられる。
 一方、海を隔てた韓国では脳死肝移植と生体肝移植(括弧内)は2008年233(950)例、2009年236(1019)例、2010年242(1066)例、2011年313(1210)例、2012年363(1250)例と脳死、生体肝移植とも着実に増加している。人口比からみると韓国は日本に比べて生体肝移植は約5倍、脳死肝移植は約20倍多いと考えられる。(中略)

【韓国の現状をもたらした要因】
 韓国においても脳死論議が日本と比較して活発だったとは言い難いが、脳死移植の増加した要因として人口の3分の1がキリスト教徒であり、その博愛主義によるドネーションの増加や著名なプロボクサーや宗教家が脳死や死に際して臓器提供したことで、死(脳死)に際して臓器提供を是認する社会的風潮が高まったことが挙げられている。

【日本での現状打開に向けて】
 日本での脳死肝移植の打開に向けては発想の転換と具体的な行動が求められる。
 第一に脳死論議と社会的合意に向けての焦点を絞ることである。国民的合意というあいまいな概念ではなく、まず医師会、看護協会、薬剤師会などの医療団体、そして何よりも前に消化器病学会、肝臓学会を対象とした本音にたった脳死論議と合意が求められる。
 第二は脳死移植の社会的風潮の高まりである。そのためには著名人(政界、芸能界、スポーツ界)の脳死時の臓器提供の具体例が出ること。
 第三は博愛主義に立つキリスト教を含む宗教団体や社会団体への働きかけである。(後略)

 

当Web注:臓器移植法の改定後に、脳死判定や臓器提供に積極的な日本の救急医、有賀鹿野吉開らが「脳死は人の死とは思えない」と公言し、移植医の杉谷は「蘇生不可能と判断される状態」と表現するなど、日本の医学界の「脳死が人の死であるという議論」は様相を変え始めた。

 


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