第40回日本集中治療医学会学術集会 脳低温療法普及で蘇生限界が変動
仙台市立病院:「除脳硬直、手術適応なし、救命可能性は低い」小児が退院
福岡徳州会病院:蘇生直後の除脳硬直肢位は、脳蘇生の可能性がある徴候
沖縄赤十字病院:頭部CTで皮髄境界不明瞭の60歳女性、良好に社会復帰
聖路加国際病院:超高齢者の心肺停止蘇生後、脳低温療法は施行していない
中部労災病院:瞳孔散大・対光反射消失の64歳男性、緊急手術で転帰良好
済生会山口総合病院:終末期の延命治療などの関わりたくない医師が18%
北海道大学病院:全脳死の30代女性、倫理委員会は人工呼吸中止を認めず
東京女子医科大学ICU:延命は必要ない、しかし実際は中止できない心理
日本医科大学多摩永山病院:血圧30mmHgで20時間、心停止後に臓器提供
2013年2月28日から3月2日まで、第40回日本集中治療医学会学術集会が長野県松本市で開催される。以下は日本集中治療医学会雑誌20巻Supplement号より、注目される発表の要旨(タイトルに続くp・・・は掲載
ページ)。
*田邊 雄大(仙台市立病院小児科):脳動脈奇形破裂により除脳硬直を呈したが、独歩退院するまで改善した小児脳出血の一例、p327
除脳硬直を呈した脳出血の予後は極めて悪いが、今回劇的に改善し独歩退院した症例を経験した。
10歳女児、頭痛・嘔吐後に意識消失、さらに全身性間代性痙攣が出現し当院へ救急搬送。除脳硬直を認め血圧は160/110mmHg、頭部CTにて左前頭部に巨大血腫を認め、側脳室・第4脳室まで穿破し脳幹を圧迫していた。脳神経外科では手術適応はなく救命の可能性は低いとのことで当科にて保存的加療を行なった。脳浮腫・抗痙攣対策を施行し、脳幹のダメージによる高体温に対し機械的体温管理(37度)を行なった。入院時よりJCS−200のまま経過したが、第15病日に突然意識レベルがJCS−10まで改善。併発したネフローゼ症候群にステロイド投与。第41病日に径5cmの脳動静脈奇形の摘出術を施行。第87病日にIQ:83で独歩退院。
出血にともなう除脳硬直を認めた時、小児においては予後判定に慎重を期する必要があると考えた。
*江田 陽一(福岡徳州会病院救急・集中治療センター):心停止蘇生後の除脳硬直肢位と神経学的予後、p353
心肺停止蘇生後に認められる除脳硬直は、一般に神経学的予後不良の徴候と認識されている。今回、蘇生後に除脳硬直および頭部CTにて皮髄境界不明瞭を認めたものの脳低温療法を施行し、神経学的予後良好であった2症例(27歳男性、54歳男性)を経験した。ともに脳低温療法施行後、高次脳機能障害をほとんど残すことなく回復した。
蘇生直後に認められる除脳硬直肢位は、脳蘇生の可能性がある徴候と捉えられるべきと考えられた。
*新里 譲(沖縄赤十字病院循環器内科):心拍再開直後の頭部CTで皮髄境界不明瞭であったにもかかわらず良好に回復した院外心停止の一例、p353
60歳女性、心尖部肥大型心筋症にて近医通院中、2012年4月夕方頃虚脱、5分以内に通行人にて心肺蘇生法が開始された。救急隊接触時は心室細動。電気的除細動にて洞調律へ(虚脱から最大20分後)。直後から自発呼吸あり脈拍も触知されたが、刺激により除脳硬直肢位が誘発された。虚脱から約60分後の頭部CTは皮髄境界不明瞭。低体温療法が開始され、虚脱から約5時間後に呼びかけに開眼。以後の経過は良好で、軽度の近時の記憶障害を認めるのみで社会復帰した。
蘇生後急性期に低体温療法を含む積極的治療を考慮する際に皮髄境界不明瞭の所見で除外するべきではなく、発症からの経緯が重要であることを改めて示した症例と考えられる。
*田中 裕之(聖路加国際病院救急部):超高齢者への心肺停止蘇生後についての検討、p352
超高齢者の心肺停止蘇生後の治療経過について報告は少なく、どのような治療を行なうべきか明らかではない。
2005年1月1日から2012年7月31日まで、院外心肺停止し蘇生後入院した90歳以上の超高齢者は23名、平均年齢93歳、男女比は7:16。心肺停止原因は窒息によるものが47.8%であった。挿管症例は78%で、脳低温療法施行率は0%であった。転帰は、平均入院期間7.7日、13%の患者が生存退院し、自宅退院は0%であった。90歳以上の心肺蘇生後に対し、積極的治療希望は少なく、蘇生の延長として挿管や昇圧剤使用をしているのが現状である。
*森 康一郎(中部労災病院麻酔科):瞳孔散大・対光反射消失にもかかわらず、緊急CABGが神経学的転帰良好につながった心停止の1例、p391
瞳孔径や対光反射は心肺蘇生の有効性や蘇生継続の是非を問う重要な指標である。
透析歴30年の64歳男、非骨傷性頸髄損傷のため入院した翌日、心源性ショックから心停止となりICUへ緊急入室した。自己心拍は再開したが、瞳孔は散大し対光反射も微弱な状況が続いた。冠動脈造影検査で3枝病変が判明し、心停止から6時間後にオフポンプ冠動脈バイパス術を始めた。麻酔導入時の瞳孔は散大(>7mm)し対光反射も消失していたが、BIS値は常に35以上を示した。術後4時間目頃から瞳孔は縮小、5時間後には対光反射が出現、7時間後には呼名反応も認めた。術後8日にPCPS、術後12日にIABPを離脱、術後14日に抜管しえた。
心停止後急性期の積極的治療の指標には、昇圧剤に影響されうる瞳孔径よりBIS値のほうが有利かもしれない。
*田村 高志(済生会山口総合病院):医師の臨床倫理に関する意識調査、p421
当院の医師44名を対象に臨床倫理に関する意識調査を行なった。アンケート回収率は75%。
臨床倫理の重要性は全員が認識していたが講習会等への参加は25%が難しいと応えた。終末期の延命治療などの倫理的問題に18%は関わりたくないと回答した。このような問題への関与は個人の選択に任せてよいものだろうか。
DNR等を含めた倫理的問題に関する倫理の専門家・倫理委員会の利用について10数%が利用しないと答えた。今後の対応を考えていかなければならない。
用語に関して、医療倫理の4原則とジョンセンの4分割表を知らない人がそれぞれ78%、97%であった。医師の倫理的素養をどのように培うか、具体的に考えていく必要がある。
*丸藤 哲(北海道大学医学研究科救急医学分野):北海道大学病院先進急性期医療センターにおける「終末期医療のあり方に関する指針」と人工呼吸器中止、p421
「終末期医療のあり方に関する指針」(以下指針)は、「選択肢とすべきではない医療および看護」を除く全ての治療中止を認め、診断が確定した全脳死では人工呼吸器中止を認めている。
【症例】30代女性、頭部外傷後に全脳死の診断が確定した。家族から人工呼吸器中止の申し出があり、指針に準じて治療行為中止が許容されるか検討した。指針に加えて厚労省、集中治療学会等のガイドライン・提言に準拠して治療中止の手続をした。終末期状態は複数回の全脳死診断で確定した。以前の意思表示による患者自身の推定的意思と家族の意思表示から患者意思を忖度して治療中止時点の患者の意思表示とした。患者・患者家族支援を十分に実施した。人工呼吸中止許容条件を満たすことを確認し倫理委員会へ許可を求めた。慎重な審議を重ねたが倫理委員会および病院は承認した指針に反し人工呼吸中止を認めなかった。
【結論】終末期医療での人工呼吸器中止には問題が山積する。
*並木 みずほ(東京女子医科大学救急医学):東京女子医科大学救命救急センターICU勤務の医師・看護師の終末期医療に対する意識調査、p421
生命予後不良の患者に対しICUの医師(20名)・看護師(32名)がどのような思いでいるかアンケートを行なった。
延命治療、積極的治療、治療の緩徐な中止、本人・家族了承での治療の緩徐な中止、本人了承での治療の即中止、家族了承での治療の即中止の是非、臨床的脳死の患者について、生命維持療法、臓器移植、ICU管理の是非、治療の抑制・撤退についての想い・ストレスの有無について、考えに近いものを5段階で選択させた。
延命治療は行なうべきでないとする者は54%である一方、実際には77%が現行の治療を継続すべきであるとした。治療の緩やかな中止は約65%が支持したが、治療の即中止は19〜30%にとどまった。延命は必要ないと想いながらも実際には治療を中止できない心理が明らかになった。
*久野 将宗(日本医科大学多摩永山病院救命救急センター):PCPS管理を行ない心停止後に臓器提供となった一症例、p432
30代男性、拡張型心筋症で他院通院中。心室細動による意識消失のため救急要請され、現場処置にて自己心拍再開して来院となった。薬剤抵抗性心室細動を繰り返すため、PCPS,IABPを挿入した。これらにより循環安定化の後、蘇生後脳症に対する低体温療法を行なった。しかし、第5病日に血行動態が悪化を来たし、最大限の循環サポートにても血圧30mmHg前後となった。救命困難である旨をご家族へ説明したところ臓器提供の意思が伝えられた。最終的に急変より約20時間後に心停止となり、その後に臓器および組織提供のための摘出術が行なわれた。
本症例ではコーディネーターの迅速な対応もありPCPS管理下においても心停止後の臓器を行なうことができた。一方で終末期医療と臓器提供の間に揺れるジレンマを多く抱えた症例となった。
当Web注:「最大限の循環サポートにても血圧30mmHg前後」そして「急変より約20時間後に心停止」ならば、多くの臓器の機能を維持できない低血圧状態が約20時間継続したことになり、そのような生理的条件下で移植可能な臓器が得られる可能性は低い。これが、久野らのいう「終末期医療と臓器提供の間に揺れるジレンマ」と見込まれる。
福島県立医大の薄場らは小型の灌流装置と人工心肺を使い、ドナーが低血圧になったら灌流開始して移植用に腎臓を摘出したことを報告している。
死体移植は「蘇生不可能と判断される状態」になってから臓器を摘出する
脳死と判定されたものは蘇生しうることはないとあきらめがつく 杉谷 篤
日本臨床倫理学会の機関誌「臨床倫理」が創刊
日本臨床倫理学会の機関誌「臨床倫理」第1巻が、2013年2月20日付で発行された。“専門分野における現状と将来展望”が特集され、p32〜p37には、国立病院米子医療センター外科の杉谷 篤氏が「臓器移植・再生分野における現状と展望」を書いた。以下の枠内は“脳死論議と改正臓器移植法”の段落の一部。
(前略)本来、医療というものは、この世に人として生まれたのだから、「生きていたい」、「病気を治したい」という患者の「情」と、「治してあげたい」「何か役に立ちたい」という医療従事者の「情」によって成り立つ行為である。生体移植の場合はドナーの「情」が加わって自らの健康体に傷をつけることを受け入れ、医師は最善を尽くし、レシピエントは感謝の思いを一生、抱き続ける。死体移植の場合は「死んだ人」には「情」はなく、国家や社会が、その「情」をいかに推察して実践するかが求められる。国家単位で歴史背景、文化・社会背景を民主的に議論し、法を定めて、支払い可能な医療費であるかを検討して人々と契約をしなければならない。それがいまに生きる先進国家としての概念であろう。その前提に「人はいつ死ぬか」という現時点での結論と法制化がなければ、医師はメスを加えることはできない。医師も患者も人間であるからこそ、悩んで当然である。移植でしか助からない人を前にして、移植そのものを全否定するという暴論には賛成できない。自分や自分の子どもが移植でしか助からない状況になったとき、同じ理論で移植医療を否定する人が何人いるのであろうか。移植が必要な医療行為であると理解して、いかに不正や不信を払拭するシステムを構築するかを議論することが重要なのである。
あえて明記しよう。死体移植は「死体」あるいは「現状では蘇生不可能と判断される状態」になってから、臓器摘出・提供を行うのである。われわれ移植医は、「生きている人」あるいは「回復可能な手段がある人」、さらには「家族が死を受容できておらず、臓器提供に反対している人」から臓器提供を行うことはない。国益にかなう医療行為を行うために法制化は必要であった。1997年10月に施行された臓器移植法は「臓器移植をする場合に限って脳死は人の死」、それ以外は「心停止を含めた三徴候死が人の死」という「死」の二重基準という矛盾を包含していた。2010年7月に施行された改正臓器移植法のポイントは、@臓器移植法のもとで脳死は人の死とする、A家族同意で脳死判定・臓器提供が可能、B親族優先提供が可能、C小児の脳死判定・提供も可能、の4点であった。
改正@によって、一律に脳死を人の死と定めたものではないが、「脳死」とは「法的脳死判定」をされたもののみを指すこと、蘇生不能と考える状態を「法的脳死判定をすれば、脳死と診断されうる状態」と定義したことに意義がある。現在の基準で脳死判定を行い「脳死」と判定されたものは、自分の家族も含めて蘇生しうることはないとあきらめがつくほどの精度とシステムだと思っている。改正Aによって、現実的に脳死下提供は急増した。改正BとCによって、実際に親族優先提供、小児ドナーの多臓器提供も行われた。しかし、その多くは5類型病院からの提供であったため、心停止下献腎提供は減少し提供総数も減少した。アンケートをとると、「脳死移植に賛成、すすめるべきだ」という意見が多く出ても、それほど脳死を人の死と抵抗なく納得できる日本人は医療関係者も含めて極めて少ない。われわれは「死の教育」をしてこなかった。一般の人が脳死を受け入れることに抵抗があるのも当然で、改正臓器移植法のもとで少しずつ増える移植医療が、やがて終末期医療や尊厳死を直視し、議論するきっかけになればよいと思う。 |
当Web注:腎臓移植は医学的根拠なく行なわれており、国益にかなう医療行為ではない。
杉谷氏は“現在の基準で脳死判定を行い「脳死」と判定されたものは、自分の家族も含めて蘇生しうることはないとあきらめがつくほどの精度とシステム”とするが、実際には臓器摘出時に脳死ではないことが判ったケースや小児脳死判定後の脳死否定例があるとおり
精度は低い。
「蘇生不可能と判断される状態」とは、患者が生存している状態にあることを前提としている。脳死判定基準を満たしたことによる死亡宣告の不適切さを、杉谷本人が認めて書いたことになる。
私的脳死判定も行なわれなかった心停止ドナーには、心停止の死亡宣告後に心臓マッサージや人工呼吸が行なわれ生体に維持した後に臓器摘出を行なっている。心停止後の自然に蘇生しうる時間帯(埋葬許可から
約24時間前に)に早くも「死体」
扱いすることは、「人はいつ死ぬか」について一般人の無知を悪用することであり、移植用臓器の獲得目的で蘇生処置を行うことは「生きている人」
を解剖する、ともに重大な非倫理的行為ではないか。
日本臨床倫理学会の発起人そして顧問には、1981年に新生児を生体解剖して臓器を摘出し、組織不適合でありながら移植した大島 伸一(国立長寿医療研究センター)も加わっている。
法的「脳死」臓器移植患者の死亡は累計100名
心臓2名、肺2名、肝臓2名の移植患者が死亡
日本臓器移植ネットワークは、2013年2月5日に更新した移植に関するデータページhttp://www.jotnw.or.jp/datafile/offer_brain.htmlにおいて、法的
「脳死」臓器提供にもとづき心臓、肺、肝臓の移植を受けた患者の死亡が各2名=計6名増加し、法的「脳死」臓器移植患者の死亡は、心臓10名、肺32名、肝臓33名、膵腎同時7名、腎臓14名、小腸4名の累計100名に達したことを表示した。
これまでの臓器別の法的「脳死」移植レシピエントの死亡情報は、臓器移植死ページに掲載。
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