西垣:すべての救急病院から臓器提供を、出張脳死判定も
「ドナーは、自分の生の代わりに、生命の贈り物をした方」
日本内科学会雑誌103巻2号(2014年2月10日付発行)は“心筋症:診断と治療の進歩”を特集し、西垣 和彦氏(岐阜大学第二内科・日本循環器学会心臓移植委員会)はp399〜p407に「心臓移植の現状・未来」を書いた。以下の各枠内は西垣氏が書いた注目部分。
P399
わが国においても、1968年に心臓移植が行われた。しかし、わが国では全く法整備もできていない時代であったため、1)移植医自らがドナー患者とレシピエント患者の疾病管理を行い脳死と移植適応を判定したこと、2)そのためドナーが脳死ではなかったとの疑念が持たれ、3)さらにレシピエントの移植適応にも問題が指摘され、4)加えて臓器摘出術や臓器移植術に関する十分な記録が残されなかったなどの不具合が問題視された。しかも残念なことに、医学会全体がこの症例に対する積極的な検証作業を避け続け、30年間に渡って心臓移植が忌避される時代風潮を醸成してしまった。 |
当Web注:臓器移植法施行後においても、心臓移植医らがメディカルコンサルタントとして法的脳死確定以前のドナー候補患者を診察し、移植用心臓を獲得する目的でドナー管理を開始し、移植待機患者の利益を図る目的で、死亡宣告前のドナー候補患者に傷害を加えている。法的脳死判定30例目では「脳死患者の除脈にアトロピンは効かないから他の薬を使え」と周知されているにもかかわらず投与されて効果が確認され、ドナーが脳死ではなかったとの疑念が持たれた。心臓移植適応患者のほぼ半数〜4割は心臓移植ではなくとも生存できることを、西垣氏ら自身が報告している。
p405
現行のドナー判定実施施設(臓器提供施設)は、いわゆる4類型の大学附属病院、日本救急医学会の指導医指定施設、日本脳神経外科学会の専門医訓練施設(A項:このうち指導に当たる医師、症例数等において特に充実した施設に限定)、救命救急センターとして認定された施設に限られており、全国で450施設足らずである。これらのうち、臓器摘出の場を提供する等のために必要な体制が確保されている施設は約300施設足らずと推測される。臓器移植ネットワークのデータベースによると、意思表示カード・シールによる情報にても、約30%弱程度しか4類型の施設に収容されておらず、十分に提供の意思を活用されているとは言い難い。したがって、4類型施設限定を解除し、救命救急を行っているすべての病院から協力病院を公募すべきである。ただし、臓器摘出の場を提供する等のために必要な体制を確保すべきであり、また、このような施設の努力を行った施設に対してはインセンティブを与えるなど差別化を図り、施設としての充実を求めるべきである。また、大学附属病院などの4類型施設の脳死判定委員会の出張判定など、近隣の施設を十分活用する体制を確立し、出張判定の際も経済的なサポートを得られるようにすべきである。学会としても、今後早急に関係省庁へ働きかけを行う予定である。 |
当Web注:臓器提供施設が限定されている理由は、高水準の救命救急処置が行われ、脳死判定が的確に実施されるべきため。ところが4類型施設の限定があるにもかかわらず、法的脳死102例の医学的検証に参画した木下 順弘氏(熊本大学侵襲制御)は「最善の治療がなされず脳死判定に突き進んだ事例があった」と指摘している。
p406
ドナー家族は、臓器移植を行ったドナーを持つ家族で、レシピエントに生きるための“セカンド・チャンス”を贈り、自分の生の代わりに、生命の贈り物(ギフトオブライフ)をされた方たちの家族である。ドナーとなる多くの者は、事故や犯罪に遭遇したり、また何らかの疾患であっても、いわゆる突然死であったりした場合が多いため、ドナー家族はある意味で「共通の悲劇」を背負い、「悪夢の経験」を経ている。しかも、家族にとっての悲しみは、決して“一過性”に終わるものではなく、絶えず“喪失感”を味わうものである。誰もドナー家族になりたくてなったわけではなく、喪失の先を見ることが出来た勇気ある家族であるといえる |
当Web注:「自分の生の代わりに、生命の贈り物(ギフトオブライフ)をされた」とは、臓器提供時にドナーは生存していることが前提の表現になる。
心臓移植用に心臓を摘出されるドナーは、脳死判定基準を満たす患者のなかでも全身状態のよい患者だ。さらに歴史的に脳死判定後の生存期間は延長してきた。生物としての死の切迫する状態が薄れ、意識不明・重度後遺症を恐れる与死に臓器提供が変質しつつあるなか、「喪失」の内実・主体も問われる。
臓器提供後に「むごいことをした、かわいそうなことをした」と後悔しているドナー家族もいる。
「脳ヘルニアで積極的治療の適応なし」とされた患者
体動・逃避運動あり低体温療法、53日目退院
2014年2月1日、第64回日本救急医学会関東地方会がパシフィコ横浜(横浜市)で開催され、福岡県済生会福岡総合病院 救命救急センターの前谷 和秀氏らは「脳ヘルニア徴候を認めたが良好な転帰が得られた脳幹損傷の1例」を報告した。以下は日本救急医学会関東地方会雑誌35巻1号p125(2014年)掲載の抄録より。
31歳男性、仕事中に倉庫2階(高さ10m以上)のベランダからアスファルトの地面に墜落し受傷。病院搬入時、意識レベルGCS
E1V1M1、血圧148/70、脈拍67/分、瞳孔径 両側7mm(対光反射消失)。身体所見は、右鼻からの出血、右前腕変形、両下肢皮下血腫を認めた。頭部CTにて脳幹出血、び慢性脳腫脹を認め、脳の皮髄境界は不明瞭であり脳ヘルニアを来たしている画像所見であった。脳神経外科にコンサルトしたところ積極的治療の適応はなく保存的治療の方針となり、救急部にて集中治療室での治療が開始。
しかし、翌日になり、体動と逃避運動が出現したため、低体温療法などの積極的治療を行う方針へ転換。その後、受傷18日目に意識レベルの改善を認め、19日目に呼吸器を離脱。53日目には意識レベルGCS
E4V4M6となりリハビリ目的に転院となる。
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