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2004年9月16日 自治医科大 4歳5ヵ月児から臓器摘出
温阻血時間0分〜14分の臓器摘出を心停止後と発表
千葉東病院、京都大、東京女子医大、埼玉医科大 
岡山大 人為的出血多量死を「死体心移植」と発表
組織移植として膵臓を摘出する矛盾
生体肝ドナーのQOL、タクロムリスの副作用?
静岡県 家族の臓器提供承諾率8%
第40回日本移植学会総会
2004年9月15日 脳死後8日以上生存が4割、10か月目の患児は在宅医療を考慮中
医療現場では、厳密な脳死診断をあえて行っていない現状を確認
小児脳死の実態と診断についての全国医師アンケート結果(2004年)
2004年9月13日 朝日新聞社の週刊誌AERA(アエラ)
臓器移植の現場で本当に起きていること
脳死患者は死んではいない
2004年9月10日 人工的に酸素供給、消費していても死体?
法的脳死判定手続き不要?埼玉医科大学
昇圧剤の少ないドナーは治療が尽くされた?
人工心肺と人工呼吸器の補助下でも死体?
2004年9月10日B 「本人にとって良かったかどうか」の判断根拠は、本人意思
小児ドナーの親は、臓器提供を肯定的に捉えられない傾向
日本臓器移植ネットワーク 91ドナー家族のアンケートから
 

20040916

自治医科大 4歳5ヵ月児から臓器摘出
温阻血時間0分〜14分の臓器摘出を心停止後と発表
千葉東病院、京都大、東京女子医大、埼玉医科大
 
岡山大 人為的出血多量死を「死体心移植」と発表
組織移植として膵臓を摘出する矛盾
生体肝ドナーのQOL、タクロムリスの副作用?
静岡県 家族の臓器提供承諾率8%
第40回日本移植学会総会

 2004年9月16日〜18日まで岡山コンベンションセンター(岡山市)において第40回日本移植学会総会が開催される。以下は「移植」第39巻総会臨時号より注目される発表の要点。

凡例=抄録の筆頭執筆者名(所属施設):タイトル、掲載ページ。

 

温阻血時間0分〜14分の臓器摘出を、「心停止後の臓器摘出」と発表

当Web注:温阻血時間(おんそけつじかん、Warm ischemic Time、WIT)は、心臓の拍動停止または臓器への血流遮断に始まり、その臓器の冷却灌流開始までの時間を示すため、死の3徴候をどれだけの時間、継続して観察した(または3徴候死以前から臓器摘出術を開始した)かも間接的に示す情報だ。
 3徴候死の形式的(非倫理的)確認でも5分間、病室から手術室までの搬送にさらに数分間、そして冷却灌流用のカテーテル挿入・灌流開始までさらに10〜20分間を要する。以下のように温阻血時間が0分〜14分ということは、生存時からカテーテルを挿入しておき(ドナー本人の生前同意と脳死判定が不可欠)、形式的・恣意的な死亡宣告後に臓器の冷却灌流を開始したとみられる。

 

  • 藤原 岳人(自治医科大学 消化器・一般外科):両腎を en-block として用いた献腎移植の1例、268

 ドナーは4歳5ヵ月男児(体重17kg)、交通事故による頭部外傷(外傷性クモ膜下出血)に対し、当救命救急センターで治療を受けたものの、最高血圧20〜50mmHgが24時間続いたのちに心停止に至った。直ちにICUから心臓マッサージを行い手術室に搬入した。開腹後、大動脈分岐部よりカテーテルを挿入し、両腎の灌流を開始した(WIT14分)。レシピエントは41歳女性(体重55kg)。

当Web注:この抄録は、家族から臓器提供の承諾を得たタイミングについては記載が無い。

 

膵臓

  • 丸山 通広(国立病院機構 千葉東病院 外科):臨床膵島移植法の実際、185

 2003年9月に膵島分離、2004年4月に京都大学と当施設にて膵島移植が行なわれた。ドナーは10代の男性、心停止後の提供、WITは5分。

  • 岩永 康裕(京都大学 移植外科):京都大学でのヒト膵島分離3例の検討、231

 心停止ドナー3例からの膵臓摘出で、温阻血時間はそれぞれ1分、3分、1分。

 

腎臓

  • 瀬戸口 誠(東京女子医科大学 泌尿器科):心停止ドナーからの献腎移植の長期成績、269

 1983年から2002年までレシピエント202例、ドナーの平均年齢は45.2歳(〜72歳)、温阻血時間は6.7±11.0分(0〜100分)。

  • 小川 展二(埼玉医科大学 消化器一般外科):当施設で施行した携帯型人工心肺下コアクーリング法による
    適応境界の心停止ドナーからの腎摘出、269

 1995年1月〜2003年12月まで19例の心停止ドナーの、心停止から腎臓冷却までの温阻血時間は3.5分。

 

脱血死=人為的に出血多量死させることを、「死体心移植」と発表

  • 小谷 恭弘(岡山大学 心臓血管外科):死体心移植においてドナーモデルの違いが移植後心機能に及ぼす影響、349

 ブタを脱血死群(n=5)と呼吸停止死群(n=6)に分け、心停止後常温30分放置、その後レシピエントブタに移植した。移植後の心拍出量は脱血死群で良好であった。呼吸停止死ドナーは、心停止に至る過程での低酸素血症、両心室近の過伸展が移植後心機能に影響したと考えられた。

 

組織移植として膵臓を摘出する矛盾

  • 杉谷 篤(九州大学 腎疾患治療部):本邦における膵臓移植と膵島移植の現状の課題、167

 膵島移植は独自のブロック制で施行されている。組織移植として膵臓を摘出することの矛盾と献腎移植までも減少させる危険性を内包している。献腎移植の手法に学び、心停止ドナーからすべて膵臓と腎臓を摘出できるようにし、膵臓移植患者がいない場合には、膵島移植に回すという方法が最善と考える。

 

生体肝移植ドナーのQOLは予想以上に障害されている

  • 近藤 陽子(東北大学 臓器移植医療部):生体ドナーに対するレシピエントコーディネーター関与の重要性、178

 2001年以降に当院で施行した生体肝移植ドナーにSF36を用いてアンケートを行った。ドナー11例のSF36の平均サブスケールは日本人の平均値をすべて下回っており、GH(全体的健康感)以外は50以下を示した。生体ドナーの術後は、検査結果などの客観的評価には反映されない主観的評価が低下しており、ドナーのQOLは予想以上に障害されていた。

 

免疫抑制剤タクロムリスと疾患感受性遺伝子による、移植後糖尿病の発症

  • 浅井 利大(大阪市立総合医療センター 泌尿器科):腎移植後糖尿病(PTDM)症例の検討、203

 54歳男性は献腎移植4週間後、糖尿病を発症。タクロムリスをシクロスポリンに変更したところ徐々に血糖値は正常化した。移植後糖尿病発症とHLAとの関係を検討した。

 

長期生着または免疫抑制剤タクロムリスによる、悪性腫瘍の多発

  • 平野 篤志(社会保険中京病院 泌尿器科):腎移植後の悪性腫瘍についての検討、203

 1973年9月から2003年10月までの腎移植症例722例における悪性腫瘍の合併は36例(5.0%)。腎移植後から悪性腫瘍発見までの期間は、平均7.7年。

 アザチオプリンを用いた免疫抑制法での悪性腫瘍発生率は5年、10年とも2.9%、シクロスポリンでは5年1.6%、10年3.3%、タクロムリスでは5年4.9%、10年9.7%。悪性腫瘍診断後の患者生存率は1年71%、3年55%、5年44%。

 

死亡前から情報収集するも、低い臓器提供承諾率

  • 大田原 佳久(浜松医科大学 泌尿器科):静岡県における平成15年度の献腎推進活動について、279

 2003年度、16施設から提出されたポテンシャルドナー情報は103例。このうち死亡前の情報数が74例、患者家族に臓器提供の情報が知らされたのは36症例。最終的に腎提供があったものは3症例、6腎(臓器提供オプション提示に対する承諾率8%)。

 


20040915

脳死後8日以上生存が4割、10か月目の患児は在宅医療を考慮中
医療現場では、厳密な脳死診断をあえて行っていない現状を確認
小児脳死の実態と診断についての全国医師アンケート結果(2004年)

 日本小児科学会小児脳死臓器移植基盤整備ワーキング委員会第三分科会(分科会長・杉本健郎)、日本小児神経学会小児脳死診断基準検証会議(議長・飯沼一宇)は、小児脳死の実態と診断についての全国医師アンケート結果(2004年)をまとめた。日本小児科学会雑誌への掲載が決定している。インターネットでもhttp://web.kamogawa.ne.jp/%7Esugimoto/topi/sinfuteiki.htmに公開された。

以下は主要部分の要約(原文では分散して記述してある関連事項を、各段落にまとめた部分があります)。

 

 2004年2月〜5月に、日本小児科学会研修指定病院467施設と救命救急センター170施設を対象に郵送でアンケート調査を行った。指定病院と救命救急センターあわせて291(45.7%)施設から回答を得た。

 1999年5月以降の4年半の間に、15歳未満脳死(疑い例含む)は163例(75施設)。脳死の原因病名として虐待は乳幼児8例、不明死は11例。検死は3例で行われた。

 第二次アンケートは163例を経験した施設の回答医師に郵送で調査し、74例(45%)の回答を得た。二次調査対象施設回収率は、36施設(49%)。

注:以下の番号は当Webが付したもの、原文の番号には対応していない。

  1. 脳死診断の目的(選択肢・重複回答)は、医学的診断37例、家族への状態説明51例、その他3例。
     
  2. 脳幹反射をすべて実施の23例中、感度をあげての脳波記録は13例、うち無呼吸テストは6例で実施された。すなわち、脳幹反射と脳波記録まで診断基準に沿って厳密におこなった臨床的脳死診断は13例(18%)で、無呼吸テストまでとすると6例(8%)と極めて少数であった。
     
  3. 13例については呼吸回復や脳死状態と矛盾する結果はなかった。13例では診断基準は妥当であった。
     少数例であった主な理由は、「家族への終末医療の対応によって、あえて診断や判定を行わなかった」との内容が記載されていた。第一回から第二回判定を行ったのが32例(43%)にすぎず、最近の4年半の時期には、医療現場では厳密な脳死診断をあえて行っていない現状が確認された。
     
  4. 臨床診断後治療について、脳死診断は一度だけで、心停止までの対応は、
    1.薬物量や人工呼吸設定をゆっくりさげていく→5例
    2.その時点以上に薬物量や人工呼吸設定をあげない→21例
    3.薬物量や人工呼吸設定を必要に応じてあげる→21例

     
  5. 最終脳死診断(第一回、第二回)後、親の希望で呼吸循環の維持を止める方向にした10例は、4時間以内が2例、1〜5日は4例、それ以上は4例だった。
     
  6. 主治医が脳死状態(疑い含む)としてから心停止まで30日以上かかった症例・長期脳死例は、18例(24%)存在した。最終脳死診断後死亡確認までの時間は、24時間内6例、1〜7日15例、8〜14:6例、15〜30日未満:6例、30日以上:13例。長期脳死例は6か月未満7例、6か月〜1年未満5例、2年1例。なお、判定基準にそって診断が的確に行われた13例中4例が長期脳死例であった。
     
  7. 現在なお管理中の症例は2例、9か月目の患児は刺激なしで両上肢を挙上する。10か月目の患児は在宅医療考慮中。
     
  8. 「なにか診断後の治療についてご意見あればご教示下さい」の設問に、「脊髄反射に家族が希望をもつ、家族の気持ちの揺れに対応する一定の基準がほしい」。
     
  9. 臨床脳死診断後、身長がのびる4例、体の動き4例があった。人工呼吸器をはずした時、ラザロ徴候(両側の手を胸の上であわせる・祈るような動作)はなかった。

 今後の課題と取り組み

  1. 小児脳死診断検証会議の主な目的は、15歳未満(1985年脳死判定基準)、特に6歳未満の2000年脳死判定基準の検証を行うことであった。診療現場での脳死診断としては、脳幹反射の実施や脳波記録方法が不十分であった。今後の検証には診断基準にそった症例の蓄積が必要である。
     
  2. 30日以上心停止がない長期脳死症例が、24%存在したことは、主治医や専門医などの病院側チームは、長期脳死状態について患者家族および市民に十分説明する義務があり、今後長期脳死例にあたって、病状の十分な説明を基本として、家族としっかり向き合うべきである。
     
  3. 今後の1年間、学会として、専門医による2000年脳死診断基準の推奨を行い、2005年5月の総会までに前方視的アンケート調査を実施し、あらためて1年後に2000年脳死判定基準に準じた詳しい実態を検証する。なお、今回の検討は、あくまで小児脳死の診断であって、それは重篤な病態の予後を判断することにある。臓器提供とは全く別の課題と認識して取り組む。
     
  4. 今後、日本小児神経学会では脳死診断/判定事例について、第3者委員会としての検証・検討委員会を独自に立ち上げる予定である。

 

 当Web注:脳死概念が登場して以来、「脳死になれば数日のうちに必ず心停止にいたる」と、くり返し言われてきた。今回のアンケートでは臨床診断後に治療水準を落とした5例、そして親の希望で呼吸循環の維持を止める方向にした10例があり、早期の心停止が人為的操作でもたらされた症例も30日未満死亡例に含むとみられる。30日以上心停止がない患者のみを「長期脳死症例」とし、8〜30日未満の患者の存在を軽視することには疑問がある。
 また、「13例については呼吸回復や脳死状態と矛盾する結果はなかった」というのだが、無呼吸テスト実施は6例である。自発呼吸能力の有無を判定していないにもかかわらず、「呼吸回復はなかった」とはいえないであろう。「判定基準にそって診断が的確に行われた13例中4例が長期脳死例であった・・・長期脳死状態について患者家族および市民に十分説明する義務があり」としているにもかかわらず、「13例については脳死状態と矛盾する結果はなかった」ことも不適切ではないだろうか。

 


20040913

朝日新聞社の週刊誌AERA(アエラ)
臓器移植の現場で本当に起きていること
脳死患者は死んではいない

 朝日新聞社発行の週刊誌AERA(アエラ)9月20日増大号は見開き2ページで、臓器移植の現場で本当に起きていること「脳死患者は死んではいない」を掲載した(p32〜p33)。

 これはジャーナリストの吉村 克己氏が小松 美彦氏(東京海洋大教授)にインタビューした記事。見出しは「のたうち回る脳死者」「脳死者が20年も成長」「問題残す国内第一例」「進む法改正の危険性」。

 心臓移植を手掛ける側として、国立循環器病センター北村 惣一郎総長の意見も紹介されている。

 


20040910

人工的に酸素供給、消費していても死体?
法的脳死判定手続き不要?埼玉医科大学
昇圧剤の少ないドナーは治療が尽くされた?
人工心肺と人工呼吸器の補助下でも死体?

 9月10日付で発行された「今日の移植」17巻5号は、p637〜p642に南カリフォルニア大学の岩城 裕一氏による「ドナー不足下でのアメリカの腎移植の実情」を、そしてp643〜688に特集“心停止ドナーからのクリアーすべき問題点”を掲載した。

 埼玉医科大学臓器移植センターの小山 勇氏らは、「人工心肺下コアクーリング法による心停止ドナーからの腎摘出(p646〜650)」において「心停止後、人工心肺を用いた体外循環中に、10℃以下となるまでの動脈および静脈酸素飽和度は明らかに差があり、脱血温が10℃前後になる体外循環開始後20分ほどではじめて酸素消費が同じになる。すなわち、冷却中も酸素が消費されていることが示されている」と報告した。

 同センターが関与した人工心肺下コアクーリング法による腎摘出は2000年1月〜2003年12月までに8例、「心停止から腎臓冷却までの温阻血時間は3.5分・・・・・・心停止前にカニュレーションが可能であった症例の温阻血時間は2、3分以内であるが、カニュレーションができずに、心停止後にヘパリンを投与して、カニュレーションを行った症例では18分と延長した」としている。

 つまり8例のうちほとんどは生前から臓器摘出目的のカニュレーション、ヘパリン投与を行ったことになり、全例で心停止後も携帯型人工心肺によって、毎分流量2〜3Lの酸素化された血液をドナーに供給しつづけ、ドナーはその酸素を消費し続けていたことになる。このような臓器摘出が法的脳死判定手続もなしに行われることが、容認されているのだろうか。

 血管が収縮するほどの大量の昇圧剤は使用せず心停止するにまかせ、人工心肺や大動脈バルーンパンピング(IABP)、心室補助装置(VAS)などの機械的補助が臓器獲得目的で行われる懸念が指摘されている。

 

 北海道大学の古川 博之氏も「心停止ドナーからの肝移植の現状(p667〜670)」において、米国UNOSデータベースからのNHBD(心停止)群のドナーの特徴としては「平均年齢35歳でHBD群に比して有意に昇圧剤の使用量が少ない」と報告した(ドナー予定だから昇圧剤が少なくされたのかは不明)。

 岡山大学の伊達 洋氏氏らは「心停止後の肺移植(p680〜p682)」において、スペインで院外死亡患者からの肺移植成功例を下記のように紹介している。

 救急室に運ばれた心停止患者にヘパリンを投与し心マッサージを加え、全身ヘパリン化する。大腿動静脈にカニュレーションして、超低体温での人工心肺を開始する。このとき、300mlの血液を採取保存しておく。胸腔ドレーンを挿入して細胞外液によって局所冷却を行う。ついで、開胸して人工呼吸器下に肺動脈から先に採取した血液を混じた細胞外液で灌流を行う。ガス交換能が良好であれば移植に使用可能と判断し、肺静脈からの逆行性灌流も加える。このような方法で摘出した肺を2人の患者に移植し、どちらも良好な経過を示したと報告している。

 救急病院との綿密な打ち合わせ、迅速な対応なくして成り立たない移植術式である。

 


20040910B

「本人にとって良かったかどうか」の判断根拠は、本人意思
小児ドナーの親は、臓器提供を肯定的に捉えられない傾向
日本臓器移植ネットワーク 91ドナー家族のアンケートから

回答者からみたドナーの続柄と提供後の気持ち

  配偶者  子       その他 計 
提供してよかったと思う 47 13 16 76
提供して良かったのか
迷っている
14
52 22 16 90

注:上記からは、無回答の1名を除外してある。

 日本死の臨床研究会 編集・発行の「死の臨床」27巻1号は、p76〜80に朝居 朋子氏(日本臓器移植ネットワーク)、原 美幸氏(藤田保健衛生大学救命救急センター)らによる「心停止後腎臓提供のドナー家族の思いの分析 移植コーディネーターによる家族フォローのための基礎的研究」を掲載した。

目的:1995年に日本臓器移植ネットワークが発足して以来、死体ドナー総数は700名を超える。しかしながら、ドナー家族がどうして臓器提供を承諾したのか、提供後にどのような気持ちを抱くのかということについて信頼に足る調査研究は行われていない。本研究は、ドナー家族が臓器提供したことに対して事後どう思うのか、またその思いには何が影響するのかを明らかにし、ドナー家族に対する臓器移植コーディネーター(以下Co)の望ましいフォローの在り方を考える基礎資料を得ることを目的とした 。

対象:1995年4月から2001年12月に東海北陸7県で心停止後の腎臓提供を行った174家族のうち、住所不明等の理由により送付できなかった29家族を除く145家族への郵送アンケート調査(2002年3〜4月)、91家族から返送された(回収率63%)。

結果

  1. ドナーとの続柄:76名(84%)が「提供して良かった(以下A群)」と思っている反面、「提供して良かったのか迷っている(以下B群)」14名のうち子を失った親が9名と有意に多かった。
     
  2. 診療に対する思い:全91例のうち、ドナーに対する治療結果に66%が納得し、72%が医療スタッフの対応に満足していた。診療に対する思いとA・B群の間には有意な関係は見出せなかった。また臓器提供のプロセスにおけるCoの対応に満足したのは78%で、A・B群の間には有意な関係は見出せなかった。
     
  3. 腎臓提供のきっかけと提供承諾理由:医師からの提供についての意思確認(以下「オプション提示」)が61名(67%)、家族からの自発的な申し出は27名(30%)、不明3名(3%)。オプション提示例または家族からの自発的な申し出例と、A・B群の間には有意な関係は見出せなかった。
     提供承諾理由(複数回答)は、多い順番に「どこか一部でも、生きていて欲しかったから」「人助けや社会のためになるから」「医師や移植コーディネーターから提供について話を聞き、『提供しても良い』と思えたから」「自分が助からない状態になったら、腎臓を提供したいと思うから」「提供者が書面または口頭で明確な意思を残していたから」。承諾理由とドナーとの続柄には有意な関係は確認されなかった。
     提供承諾理由と提供後の思いの関係について、「人助けや社会のためになるから」を理由に承諾した人のうちA群に属するのは95%で有意に多かった。また「提供者が書面または口頭で明確な意思を残していたから」を理由に承諾した人のうち9割はA群に属していた。
     
  4. 提供後の思い:A群では「人助けを実感できた」「提供したことを誇りに思えたり、心の支えと感じられる」という回答が有意に多く、一方、B群では「移植後の経過がどうなったのか分からず、不安を感じる」「周囲に話せる人や同じことをした人がいなくて、不安になる」「本人にとって提供が良かったのかどうか分からず、不安に思っている」「提供者本人を傷付けて、申し訳ないと思う」「なんとなく後ろめたい気持ちがする」「提供したとき、病院で(提供に関連した)嫌な思いをした」「提供によって最後のお別れがゆっくりできなかった」という回答が多かった。
     ドナーとの続柄で分けてみると、子を亡くした人は「提供者本人にとって、提供が良かったのかどうか分からず不安である」「提供したとき、病院で嫌な思いをした」という思いが有意に多かった。
     
  5. 死後の悲嘆の軽減と死後経過時間:ドナーの死後経過期間は平均3.3±2.0年。「提供した腎臓が移植されたことで、死別の悲しみが薄らいだ」と答えた人は6年未満では4割いたが、6年以上では23名中1名だけであった。なお、B群14例には「提供した腎臓が移植されたことで、死別の悲しみが薄らいだ」と答えた例はなかった。

 朝居氏らは「約8割が提供してよかったと思っている反面、ドナーの続柄や提供からから生じるさまざまな不安、移植者の経過報告の不十分さなどにより提供したことに迷いを感じている家族が居ることが明らかになった。Coはその(臓器提供)意思決定を支援する専門職として、ドナー家族が自ら決定した臓器提供を肯定的に捉えられるような支援を目指し、本研究結果を踏まえてドナー家族の属性にあわせたフォローのあり方を考える必要がある」として、具体的には下記を挙げている。

  1. Coと医療者が最後にせかされた等の印象を与えることなく、家族にとって良い最後の時間・環境を確保し、臓器提供を成立させるように共同することが重要と考える。
     
  2. 生前の提供の意思表示や家族間の話し合いは移植医療の発展において重要なポイントである。
     
  3. ドナーが子どもの場合、親が提供したことを肯定的に捉えられない傾向があることがわかった。本人にとって良かったかどうか」の判断根拠としては本人の意思が最たるものであるが、親は移植者の情報により強い興味を抱く傾向にあることから、Coによる移植者の経過報告を、他の続柄のドナー家族より密に行うことで否定的感情をカバーできる可能性がある。意思決定までの過程における対応にもいっそう留意する必要がある。

 


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