肝臓移植後69分で死亡 大阪大学医学部付属病院
肝臓移植後3日目に死亡 名古屋大医学部付属病院
法的「脳死」臓器移植患者の死亡は累計54名
日本臓器移植ネットワークは、12月27日更新の移植に関するデータページhttp://www.jotnw.or.jp/datafile/offer_brain.htmlで、法的脳死判定手続
にもとづき臓器移植を受けた後に死亡した患者数が、累計54名に達したことを表示した。
肝臓移植後の死亡患者が2名増加した。
報道によると、2010年12月18日に名古屋大医学部付属病院で肝臓移植手術を受けた30代の男性患者が21日に死亡した。末期肝硬変患者で、手術後、病状が重く、提供された肝臓が十分に機能しなかった。
また、大阪大学医学部付属病院では12月26日、肝臓の移植を受けた10代女性患者が手術終了直後に死亡した。患者は以前に生体肝移植を受けた後、肝不全と腎不全を発症した。今回、脳死臓器提供下で国内初の肝臓・腎臓同時移植を受ける予定だった。手術は25日午後1時半ごろ開始。肝臓の移植手術の後に続けて腎臓を移植する手順で、26日正午ごろ終了予定だった。肝臓の移植は26日午前4時31分に終了したが、その後、容体が急変し、同5時40分に死亡した。
日本臓器移植ネットワークが表示した肝臓移植後の死亡2名と、今回の報道による肝臓移植患者の死亡2名が同一かは確認できない。これまでの臓器別の法的「脳死」移植レシピエントの死亡
情報は、臓器移植死ページに掲載。
国立保健医療科学院 電話調査で「日本人は脳死の理解低い」と即断
電話調査の限界に考慮を欠く、先行研究への知識ゼロ
国立保健医療科学院福祉サービス部の峯村 芳樹氏、国立保健医療科学院技術評価部の山岡 和枝氏、統計数理研究所データ科学研究系の吉野 諒三氏は、保健医療科学59巻3号p304〜p312に「<報告> 生命観の国際比較からみた臓器移植・脳死に関するわが国の課題の検討」を発表した。
峯村氏らは、日本、アメリカ、ドイツ、フランス、イギリス、韓国、台湾において社会意識調査を行なった。「その結果,日本では若い世代,高学歴の人々ほど臓器移植について肯定的な傾向が認められた.脳死については日本では「(どのようなものか)わからない」とする割合が欧米諸国に比べて高いことが特徴的であった.以上から,わが国における脳死・臓器移植に関する情報の発信の必要性が示唆された」としている。原文はhttp://www.niph.go.jp/toshokan/home/data/59-3/201059030017.pdfで公開されている。
上記報告に記載されている連絡先メールアドレスに、当サイトの開設者が2011年7月3日に問い合わせを送信したところ、返信は7月5日に帝京大学大学院公衆衛生学研究科に異動した山岡教授からあった。下記枠内の左側に問い合わせの文章、右側に返信文をともに一部分を掲載する。
当サイト開設者の問い合わせ(部分) |
山岡教授の返信(部分) |
保健医療科学 59巻3号掲載の“生命観の国際比較からみた臓器移植・脳死に関するわが国の課題の検討”をhttp://www.niph.go.jp/toshokan/home/data/59-3/201059030017.pdfにて読ませていただきました。この報告は昨年末、マスメディアで「脳死の理解低い日本」という見出しで報道されたため、どのような調査方法、質問文で調査されたのかについて関心を持ちました。疑問点が2つ生じましたので、お尋ねいたします。
1、アンケートおよび国際比較の適切性について
報告書によると調査方法は電話調査であり、質問文と回答の選択肢はp306記載のことと存じます。
「脳死は“ヒトの死”の妥当な診断基準という考え方がありますが,あなたはこれについてどう思いますか?」、この設問が、脳死についての理解度を調べた複数のアンケートからみると疑問が生じます。まず、そのアンケート要旨を示し、その後に疑問点を3つ記載します。
脳死と遷延性意識障害について一般人に尋ねたアンケートで、「違う」と回答した人は、1980年の筑波大学調査(2382名回答)で38・8%、2000年の大本本部調査(5194名回答)で26・4%でした。1996年の市立札幌病院調査(531名回答)では、(Q1.植物状態と同じ意味である)への正解率は28.8%、(Q2.強い脳の障害は残るが回復することがある)への正解率は45.4%、(Q3.自分の力で呼吸することができる)への正解率は55.0%です。(以上の出典はhttp://fps01.plala.or.jp/~brainx/news2001.htm#20010623)
2005年の北海道大学調査で、「脳死では自発呼吸はなく心臓は動いている」という知識を持つ医療短大部および保健学科の学生は、4〜5割でした。(上記の出典はhttp://www6.plala.or.jp/brainx/2005-7.htm#20050730)
岡山大学の日本人(371名)へのアンケートでは、6.3%が「心臓は止まっている」、18.6%が「自分で呼吸できる」と回答しています。米国人(41名)は、17%が「心臓は止まっている」、49%が「自分で呼吸できる」と回答しました。(上記の出典はhttp://www6.plala.or.jp/brainx/2007-9.htm#20070901)
これら筑波大、市立札幌病院、大本本部、北海道大学、岡山大学の先行調査からみると、
A、定義上の脳死を正確に認識していない日本人のほうが、高率と見込まれる
B、欧米人は、日本人よりも一層、定義上の脳死を正確に認識していない人が多いと予想される
という仮説が生じます。
多くの人々が脳死について理解していない現実があるならば、アンケート結果に影響をおよぼすでしょう。設問そのものを正確に理解しないで回答した人が、多数含まれるからです。
私は、貴院が電話で「脳死は“ヒトの死”の妥当な診断基準という考え方がありますが,あなたはこれについてどう思いますか?」と設問されたことは、不適切な設問ではないか?設問そのものを正確に理解できる人々の比率が、国際間で異なるならば、アンケート結果の国際比較も不適切ではないか?脳死についての理解度調査と同時に行なったほうが有益ではなかったか?と思いましたがいかがでしょうか?
2、「脳死がどのようなものか、わからない」回答の解釈について
今回の報告は「わが国における脳死・臓器移植に関する情報の発信の必要性が示唆された」を結論とされていますが、その情報には
脳死判定後に自発呼吸や脳波が復活したり、長期間心停止にいたらないケース
参照http://www6.plala.or.jp/brainx/recovery3_15.htm#lazarus
あるいは臓器摘出時に脳死ではないことが判ったケース
参照http://www6.plala.or.jp/brainx/wrong.htm
さらには臓器摘出時に麻酔管理を行なっていること
参照http://www6.plala.or.jp/brainx/anesthesia.htm
などの情報も含まれているのでしょうか?
これらの情報も知っているならば、「脳死がどのようなものか、わからない」と回答した人のほうが、本当は脳死をもっとも正確に理解している人になるのではないか?と思いました。 |
ご指摘のように、脳死についての理解度により、回答の特徴をより明らかにすることができ、深まった考察ができた可能性があると思います。残念ながら、私どもの調査は生命感の一環として臓器移植と脳死の項目を含めたもので、電話調査のため設問数も限られており、調査項目にそのような質問は入れられませんでした。ただ、この調査から臓器移植と脳死
といった問題に対する考え方も、社会・文化的影響により異なる可能性が示唆できたのではないかと考えます。一部の報道でも「欧米とは異な
る死生観を持つ日本人だからこそ、答えが簡単には出せない可能性もある」と明記してくれているものもございました。 |
当Web注:電話調査は本格的な調査の前の、プレ調査には役立つ場合が多い。生命観の国際比較においても、プレ調査の扱いならば、どこに調査すべき事柄があるのかを検討するために、この結果も役立つだろう。しかし、保健医療科学59巻3号掲載の報告についてマスメディアに出た記事、そして共同研究者の方のコメントは、いずれも調査方法の限界に考慮がない、プレ調査の扱いをすべき事柄を本調査と誤認した、しかも先行研究にも知識がないコメントであることが残念だ。
腎臓移植患者の半数は消息不明
1982年以前は生着率にバイアスあり
30年、40年の生存率・生着率グラフ廃止
腎移植臨床登録集計報告 2009年調査
日本臨床腎移植学会と日本移植学会は、日本移植学会雑誌「移植」45巻6号p608〜620に、2007年末までに実施された腎臓移植症例に関する「腎移植臨床登録集計報告(2010)−3 2009年経過追跡調査結果」を報告した。
患者生存率および腎臓の生着率は表のとおり。
全症例の生存率・生着率 |
|
解析症例数 |
1年 |
5年 |
10年 |
15年 |
20年 |
生存率 |
生体腎 |
13,338 |
95.9% |
91.5% |
85.7% |
80.2% |
73.7% |
献腎 |
4,021 |
91.1% |
84.1% |
77.0% |
69.5% |
62.0% |
|
生着率 |
生体腎 |
12,807 |
94.2% |
83.2% |
67.4% |
53.7% |
41.7% |
献腎 |
3,912 |
83.6% |
67.2% |
52.0% |
39.5% |
31.2% |
今回2009年の追跡調査対象は、2007年12月31日までに腎移植が実施された21,110症例のうち、2006年までに行なわれた過去の追跡調査において追跡不能(死亡を含む)と判明した6,148例を除外した14,962症例
となった。2009年3月に全国の移植施設および転院先透析施設などに、入力ソフトの搭載されたUSBメモリ(一部施設には調査用紙
)を送付し、2009年9月末現在で12,455症例についての回答を得た(回収率83.2%)。生体腎9,794症例、献腎(脳死移植を含む)2,651症例。
Kaplan-Meier法を用いて生存率および生着率の推定を行った。解析対象は、2007年12月31日までに腎移植実施症例21,110例のうち、初回移植の20,095症例とした。
p612に「1982以前の症例では、生存・死亡情報のみ得られたものの生着・廃絶情報が得られなかった症例が多く、廃絶情報を欠損扱いとしたため、特に生着率についてはバイアスがあることに注意する必要がある」と記載されている。
3月24日付のメディカルトリビューン11面記事によると、2009年レシピエント追跡調査結果について自治医科大学の八木澤教授は「現在は1万人以上の移植腎が生着していると推定できるが、同時に生死不明が4500例以上、返送なしが約1900例と、生息(原文のママ)が把握できない移植症例が存在する現実を指摘した」。
以下は当Web注
調査対象としながら未回収となった2,507例(14962−12455)と、回収した12,455例に含まれる生死不明・生着不明の1,245例を合計すると消息不明例は3,752例、消息判明例は11,210例。解析対象とした移植実施21,110症例に対しては消息判明率は53、1%になる(11210/21110=0.5310279)。前回の200
6年調査よりもわずかに改善した。
|
|
解析症例数 |
総移植数 |
比率 |
生体腎 |
1982年以前 |
1,442 |
1,931 |
74.7% |
|
1983〜1990年 |
3,495 |
4,275 |
81.8% |
|
1991〜2000年 |
3,646 |
4,125 |
88.4% |
|
2001〜2007年 |
4,754 |
5,457 |
87.1% |
|
献腎 |
1982年以前 |
311 |
514 |
60.5% |
|
1983〜1990年 |
1,395 |
1,743 |
80.0% |
|
1991〜2000年 |
1,370 |
1,565 |
87.5% |
|
2001〜2007年 |
945 |
1,077 |
82.1% |
左記の表に、左から生存率解析症例数、該当する期間の総移植数(日本移植学会の臓器移植ファクトブック2009より)、
総移植数に対する解析症例数の比率を示した。
解析対象とした初回移植数は、総移植数より約5%少ない(20095/21110)のは当然だが、特に1982以前の解析症例が献腎移植で60.5%、生体腎移植で74.7%と
少ない。
1982以前の生着率の解析症例数は、2006年調査は生体腎981例、献腎191例としていた。2009年調査では生体腎988例、献腎192例とわずかな増加に留まり、追跡調査の成果が少なかったと見込まれる。
2006年調査では生存率・生着率のグラフは40年まで表示していたが、今回の2009年調査では、ともに20年までしか示していない。
Kaplan-Meier法(データが得られなくなった時点で、以後の計算には反映させない方法)による生存率および生着率の推定は、単独施設で少数例の統計分析には有効だが、多施設で多数症例の統計分析に用いるには不適切とされている。施設による
治療成績に違いがあると、全施設からの報告がなされない場合には、実際と異なる生存率・生着率が算出されるからだ。
また、全がん協加盟施設におけるがん患者生存率公表にあたっての指針(案)2004/11/25
版http://www.gunma-cc.jp/sarukihan/zengankyo_surviva.pdfは、消息不明率10%超施設の生存率公表
は控えるべき、としている。
腎臓移植は延命よりもQOL向上に比重が大きいことから、患者背景別に消息不明例が極めて少ない状態で生存率・生着率とともにQOLの調査も求められるが、腎移植臨床登録集計報告はQOL調査は行なっていない。第三者を巻き込む臓器移植としては高度な医学的根拠が求められるが、実際の腎移植臨床登録集計報告は、消息不明率だけでも47%と莫大で、患者背景を揃えた生存率・生着率の解析もなく、公表に値する
統計なのか疑わしい。
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